比較生理生化学
Online ISSN : 1881-9346
Print ISSN : 0916-3786
ISSN-L : 0916-3786
29 巻, 4 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
総説
  • 田桑 弘之, 松浦 哲也
    2012 年 29 巻 4 号 p. 226-234
    発行日: 2012/12/20
    公開日: 2013/01/22
    ジャーナル フリー
     脳血管機能障害や脳精神疾患の診断とその治療評価には,ポジトロン断層画像法(PET)や機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)など生体イメージング技術による脳血流測定が用いられる。これらイメージング技術から得られる情報を治療に正しく活かすには,脳血流の動態調節機序を正確に理解する必要がある。げっ歯類などモデル動物を対象とした脳血流動態の基礎研究は,マイクロレベルの微小血管で生じる脳血流の調節機序を明らかにする上で極めて重要な意味をもつ。げっ歯類を用いたこれまでの脳血流測定の多くは麻酔条件下で行われてきた。麻酔は実験動物福祉(苦痛やストレスの軽減)や計測技術(自発運動による振動ノイズの抑制)の観点から必要であるが,薬剤による生理機能への影響が測定結果に反映されるなどの問題も存在した。著者らは覚醒状態のげっ歯類を用いた脳血流実験システムを開発し,本来の生理状態を維持した条件下での脳血流動態の測定を可能とした。本稿では,脳血流の調節機序に関する最近の知見を概説するとともに,覚醒マウスから得られた脳血流調節機序の一端について紹介する。
  • 國松 淳, 田中 真樹
    2012 年 29 巻 4 号 p. 235-241
    発行日: 2012/12/20
    公開日: 2013/01/22
    ジャーナル フリー
     私たちは思いのままに運動をすることができる。これまで多くの動物実験や臨床研究から,基底核から視床を経て大脳皮質に到る経路が随意運動の発現に関与することが示唆されてきたが,具体的な神経メカニズムはわかっていない。ニホンザルはヒトと同様に大脳皮質が発達しており,複雑な行動課題も訓練できるため,高次脳機能を研究するのに適したモデルである。特に,測定が容易な眼球運動を行動指標とすることにより,行動と神経活動の関係を詳細に検討することができる。近年,我々は眼球運動を指標として自発運動のタイミングの調節や,反射的な行動の抑制を伴った運動を制御する神経機構について研究を行った。これらの行動を行っているときの視床や基底核,前頭葉の神経活動を調べたところ,運動に先立った活動が記録された。また,前頭葉の一部を電気刺激することによって自発的な運動のタイミングを操作することができ,薬理学的に視床を不活化すると運動のタイミングや随意的な運動のパラメーターに変化が生じた。これらの結果から,基底核–視床–大脳皮質経路でみられる運動準備期間中の神経活動が随意運動の制御に重要であることが明らかとなった。この成果は,不随意運動や無動といった運動の異常とともに,感情的な衝動性といった発達障害や精神神経疾患でみられる様々な症状の病態解明につながる可能性がある。
講義実況中継
  • 酒井 正樹
    2012 年 29 巻 4 号 p. 243-261
    発行日: 2012/12/20
    公開日: 2013/01/22
    ジャーナル フリー
     今回はシナプス伝達をとりあげる。シナプスとは,簡単に言うとニューロンとニューロン,あるいはニューロンと筋細胞や腺細胞とのつなぎ目のことであり,シナプス伝達とは,つなぎ目を越える信号の受け渡しである。これまで,本シリーズ3回の講義を受けた学生にとって,シナプス伝達はとくにむずかしいとは思われない。事象の説明には,活動電位伝導のときのようなモデルや比喩は必要なさそうである。それに高校で生物を学んでおれば,細胞や蛋白質の一般知識が役に立つ。たとえば,シナプス小胞からの伝達物質の放出は,ホルモン分泌で見られる小胞や膜状嚢の開口放出として,また伝達物質が受容体に結合してイオンチャネルが開く機構は,低分子物質と酵素の結合で生じるアロステリックな反応として理解できる。
     とはいえ,シナプス伝達のしくみを,個々の実験事実にもとづいて理解しようとするとそれほど容易ではない。まず,第1に実験材料がある。材料にはそれぞれに特徴があり,結果も異なってくる。第2に実験条件がある。シナプスの研究においては,しばしば伝達を減弱させたり,増強させたりする処置がとられる。そのことをよく知っておかねばならない。第3に伝達にかかる時間がある。シナプスでは,きめて短時間に一連の事象が進行するが,それぞれの反応には開始とピークと終了がある。第4に記録部位の問題がある。シナプスで発生した電位は,ニューロンのどこで記録するかによって,その大きさや時間的変化の様子が大きく異なってくる。このことも知っておく必要がある。第5には伝達物質と受容体である。これらは複雑かつ多様であり,正しく覚えておくことはむずかしい。いきおい学ぶ側も教える側も材料や条件は脇へ置いて,結果だけを単純な模式図ですましてしまう。そうすると,シナプスは,たんなるニューロンとニューロンの接続部分で,シナプス伝達は信号の中継にすぎなくなってしまう。しかし,シナプスは,信号の連絡と同時に統合の場であり,学習・記憶の要であり,毒物・薬物の作用部位であり,精神疾患や遺伝病とも深く関わっている。だから,シナプスは正しく理解しておかねばならない。では,講義をはじめよう。
feedback
Top