カイコガ嗅覚一次中枢である触角葉を構成する神経細胞は,形態学的な特徴や匂い刺激に対する活動電位の発火パターンにおいて,網羅的な解析が実施されている。しかしながら,電位依存性チャネルを含めた内因的膜特性や構成神経細胞間の機能的シナプス接続性については,よく分かっていない点が多かった。今回,カイコガに適用されて日が浅いホールセルパッチクランプ法を用いた電気生理学的解析によって,カイコガ触角葉の投射神経と2つの形態タイプの局所介在神経における内因的膜特性と神経細胞間の機能的シナプス接続性の同定に成功した。2つの形態タイプの局所介在神経は,電位依存性ナトリウムチャネルの遺伝子発現に基づくテトロドトキシン感受性の活動電位の有無という点で顕著に異なる内因的膜特性を有しており,それぞれスパイキング局所介在神経およびノンスパイキング局所介在神経として電気生理学的に同定された。さらに,これらの神経から膜電位の同時計測を行った結果,スパイキング局所介在神経に対する電流注入は投射神経の膜電位変化を誘発しなかったが,ノンスパイキング局所介在神経に対する電流注入は投射神経において過分極方向への膜電位変化をもたらすという結果を得ることができた。さらにスパイキング局所介在神経同士の間には,双方向的な化学シナプスと電気シナプスが存在していることが分かった。最後に,嗅受容神経からの入力強度に応じて変化する投射神経の時間積分特性の観点から,これらの2つのタイプの局所介在神経による投射神経のスパイク出力制御に関する機能的意義について考察した。
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