動物にとって, 体の表面を清潔に保つことは感覚機能を正常に働かせ, 体調を維持していくうえで欠かせない。そのため動物は様々な方法でクリーニングを行う。昆虫も例にもれず, 肢や口で常時体の手入れを行っている。しかし, 異物が付着しやすいにもかかわらず, 除去が困難な部位もある。フタホシコオロギでは, 生殖器を収納する生殖室は, 腹部末端の肛門直下にあって糞で汚れやすいが, この内部を清掃するのは困難である。一方, 生殖室は, 外部生殖器を鋳型として精子の入ったカプセルすなわち精包をつくる場所であるため, ゴミの侵入は許されない。最近, 著者らは, 生殖室内に特殊な膜構造が存在し, これが生殖室と精包鋳型の内部を自動的にクリーニングしていることを発見した。本稿では, この正中嚢の構造と運動を紹介し, 実際にゴミがどのように処理されているのかを述べる。また, モデルを用いてゴミ移動のしくみを説明する。さらに, この自動ゴミ処理システムが実際に果たしている機能を検証する。最後に, 他種のコオロギについて, 生殖室の形態と表面構造を比較考察する。
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