比較生理生化学
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38 巻, 2 号
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総説
  • 和田 清二
    原稿種別: 総説
    2021 年38 巻2 号 p. 70-78
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル フリー

    多くの動物は環境情報を得るために光を受容し視覚に利用する。ヒトの場合,眼で捉えることのできる光の波長の範囲はおよそ400-800 nmで,その波長を識別する,いわゆる色覚を有することが知られる。色覚は,複数の波長の光が別々の光受容細胞に発現する特定の波長に感度が高い光受容タンパク質(オプシン)によりキャッチされ,さらに光受容細胞が得た光情報を,それ以降の神経細胞が演算することによって達成される。したがって,これまで波長感受性の異なる複数のオプシンの存在が色情報の出力に必須と考えられてきた。一方で,脊椎動物の中には,眼外光受容器官である松果体で,視覚とは異なる非視覚の“色”情報を出力するものが知られている。著者らのグループは,この色情報出力に関わるオプシンとしてパラピノプシンと呼ばれる松果体のUV オプシンを同定した。さらに,パラピノプシンに双安定性という分子特性を見出し,それが単一の光受容細胞で,1種類のオプシンによる色情報検出を可能にしていることを明らかにした。本稿では,脊椎動物の眼とは大きく異なる松果体の色情報出力機構を,眼の色情報出力に関する知見を交えながら紹介する。

  • 平田 普三
    原稿種別: 総説
    2021 年38 巻2 号 p. 79-86
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル フリー

    ゼブラフィッシュは発生生物学や神経科学など,さまざまな分野の研究に使われるモデル脊椎動物である。ゼブラフィッシュは発生が速く,受精から1日もしないうちに自発的コイリングという運動をはじめ,触刺激に対する逃避も行うようになる。聴覚刺激に対する逃避は3日齢から見られ,その神経基盤としてマウスナー細胞とよばれる巨大ニューロンを中心とする後脳の神経回路がよく研究されている。聴覚刺激によりマウスナー細胞が発火すると,マウスナー細胞が運動ニューロンを活動させ,速い逃避を引き起こす。5日齢になると聴覚刺激に対する逃避が起こるだけでなく,事前に雨の音を聞かせることで聴覚刺激に対する逃避が低下するという逃避行動の可塑性も起こるようになる。筆者らはゼブラフィッシュ仔魚に雨の音を聞かせると,マウスナー細胞内でタンパク質リン酸化酵素CaMKII が活性化し,抑制性シナプスの足場タンパク質ゲフィリンのリン酸化を引き起こし,それによりグリシン受容体が抑制性シナプス領域に集合することを見出した。その結果,ゼブラフィッシュ仔魚が雨の音を聞いた後ではマウスナー細胞への抑制性入力が強化され,マウスナー細胞は発火しにくくなり,聴覚刺激による逃避が低下するのである。魚は鳥の襲撃を水音で察知して素早く逃げるようにしているが,雨が降ると鳥に襲われる襲撃頻度が減る。そこで魚は雨の音を聞くとグリシン受容体をシナプスに集合させてマウスナー細胞の発火を抑制して無駄な逃避行動をやめる環境適応を図っているのだろう。

技術ノート
  • 富原 壮真, 神田 真司
    原稿種別: 総説
    2021 年38 巻2 号 p. 87-94
    発行日: 2021/08/01
    公開日: 2021/08/12
    ジャーナル フリー

    動物の行動解析は生物学の実験において最も頻繁に行われる実験系の1つであり,様々な動物においてその行動が解析されている。現在,最もよく用いられている行動解析の手法は,市販のビデオカメラにより行動を撮影し,得られた動画を再生しながら目視でひとつひとつ行動を記録するというものである。しかし,この実験手法は撮影・解析に非常に多くの時間がかかり,煩雑な操作も多く実験誤差が生まれやすい。この問題を解決するために,シングルボードコンピューターの1種であるRaspberry Piを用いて動物行動の自動撮影システムを作製した。また,Microsoft Excelのマクロ機能を応用し,PCのキーを押さえるだけの単純な操作で行動を記録し,このデータを基に行動の変遷を表すラスタープロットをEPS 形式によって自動で作製できるプログラムを開発した。これらのシステムを用いることで,実験誤差が少ない高精度な行動解析を短時間かつ単純な操作で実現できるようになった。今回はこれらのシステムを用いて,実験室で継代され続け「家畜化した」メダカ系統と,野生のメダカの性行動パターンを詳細に解析し,オスの性行動モチベーションに対する家畜化の影響の可能性を見出した。

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