高齢者の通常歩行時の歩幅は「身長-100 cm」の簡易算出式に適合するとされる。本研究の目的は歩幅の簡易算出式の臨床的意義を検証することである。女性高齢者133名を対象に,簡易算出式から算出された歩幅を基準歩幅として,通常歩行時の実測歩幅が基準歩幅未満の歩幅低下群(19名),基準歩幅+10 cm 未満の歩幅微増群(53名),基準歩幅+10 cm 以上の歩幅増加群(61名)の3 群に分類し, 3 群間の身体機能を比較した。その結果,下肢筋力(膝伸展筋力,30秒椅子立ち上がりテスト)は,歩幅増加群に比べ歩幅低下群・微増群で有意に低値であった。また,動的バランス(Timed Up & Go test)は,歩幅微増群と歩幅増加群に比べ歩幅低下群で有意に所要時間が長かった。これらの知見より,実測歩幅が「基準歩幅+10 cm 未満」であることは下肢筋力の低下を,「基準歩幅未満」であることは下肢筋力の低下に加えて動的バランスの低下を判別するスクリーニング指標となることが示唆された。
Advanced Trail Making Test(ATMT)は,全般的認知機能低下の判別の有用性が報告されているTrail Making Test の改良版で,信頼性と妥当性は不明である。本研究の目的は第一に,ATMT の信頼性と妥当性の検討,第二に,全般的認知機能低下の判別におけるATMT の有用性の検討とした。再検査信頼性は不十分であったが,妥当性の検討では,脳年齢がすばやさ,脳の元気度,及び有効活用度を総合的に反映する指標で,すばやさが処理速度,脳の元気度が選択的及び持続的注意,有効活用度が視空間ワーキングメモリの指標であることが確認できた。全般的認知機能低下の有無による2 群比較の結果,全般的認知機能低下群が正常群に対して,年齢及び脳年齢は有意に高齢で,すばやさ及び脳の元気度,処理速度では有意な低下が認められた。有意差を認めた項目においてROC曲線を算出した結果,AUC が最も高い値を認めたのは脳年齢であった。脳年齢のカットオフ値は77.5歳で,AUC は89.8%,感度は88.9%,特異度は83.6%であった。ATMTによって測定された脳年齢のカットオフ値が,全般的認知機能低下のスクリーニングとして有用である可能性が示唆された。