要旨:本研究の目的は,頚部痛患者における神経障害性疼痛(NF)の有無により疼痛強度および能力障害に関与する因子が異なるかどうかを明らかにすることであった。頸部痛を有する外来患者59名を対象として,神経障害性疼痛(NF)群と非神経障害性疼痛(nonNF)群における疼痛強度,能力障害に関与する因子の違いを検討した。その結果,NF 群はnon-NF 群と比較し,疼痛強度,能力障害,破局的思考,運動恐怖感,抑うつ状態,不公平感,頚椎可動域において臨床症状が重度であることが明らかになった。また,NF を有する場合,疼痛強度には抑うつ状態の程度が関連していること,および能力障害には破局的思考が強く関連していることが明らかになった。神経障害性疼痛の特徴を有する頚部痛患者においては,認知心理的因子を考慮した介入の必要性が示唆された。
【目的】本研究の目的は,砂地歩行の有用性を下肢への衝撃の点から検討することである。【対象と方法】健常大学生24名を対象とした。対象はフォースプレート直上・礫・砂の3 つの異なる床面をそれぞれ歩行し,軸足立脚期の床反力(垂直・前後・左右方向)を測定した。【結果】礫および砂ではフォースプレート直上を歩行するのに比べ,立脚期後半の垂直床反力ピーク値と前方床反力ピーク値が有意に減少した。一方,立脚期前半の内側方向床反力ピーク値と立脚中期の垂直床反力最小値は礫および砂上の歩行で有意に高値を示した。礫条件と砂条件の床反力には有意差が認められなかった。【結語】砂地歩行では,立脚期後半の下肢への衝撃が緩和されることが確認できた。また,砂地歩行は下肢への衝撃を軽減しつつ前方への推進力を確保するための筋力や,左右へのふらつきに対応するためのバランス能力により負荷をかけることのできる有用な課題であることが示唆された。
本研究は,1年後に軽度認知障害(MCI)を発症した地域在住高齢者における,身体機能・精神機能の特徴を明らかにすることを目的とした。ベースライン時点で認知機能障害のない地域在住高齢者91名を対象とした。1年後にMMSE24‐26点に低下した者をMCI 群,27点以上に保たれた者を非MCI 群に分類し,ベースライン時の身体機能および精神機能を比較した。その結果,MCI 群では,非MCI 群と比較して開眼片脚立位時間が有意に低値を示した(p<0.05)。以上から,開眼片脚立位時間は,地域在住高齢者の1 年後のMCI 発症を予測する評価として有用である可能性が示された。
[目的]高齢者のカート歩行と認知機能の関係を検討した。[方法]対象は地域在住高齢者28名(男12,女16,平均77.1歳)。3種の認知機能検査成績および歩行データを収集した。後者については,5m歩行とTimedUpandGoTest(TUG)を設定し,それぞれで通常歩行,カート歩行,カート歩行に連続減算課題を付したカート付加課題歩行を実施し,歩行時間とTUG での歩行阻害(コーンに接触する等)回数を計測した。[結果]5m歩行では,カート歩行と比べてカート付加課題歩行の時間は有意に延長した。TUG では,通常歩行と比べてカート歩行,カート歩行と比べてカート付加課題歩行の時間が有意に延長した。TUG 阻害回数とTrail Making Test-A の所要時間に有意な正の相関を認めた。[結語]カート歩行能力の評価としては,単純な直線歩行だけでなく,より複雑なTUG のような歩行の評価が必要と考える。注意機能が低下している高齢者が日常生活の中でカートを使用する際は,カート操作の練習を入念に行うことが必要と考える。
〔目的〕関節固定後早期における前十字靱帯の最大強度とコラーゲン線維の形態学的変化について検討した。〔対象と方法〕対象はWistar 系ラットとした.ラットの左膝関節を屈曲位に固定し,右は無処置とした。固定期間の違いにより固定1週,固定2週,固定4週の3群に対象ラットを分けた。各固定期間終了後,大腿骨-前十字靱帯-脛骨の形態にして引張試験に供し,最大強度を計測した。また,走査電子顕微鏡を用いて,コラーゲン線維の配列状態を観察した。〔結果〕関節固定後1週目から前十字靭帯の最大強度が有意に低下しており,コラーゲン線維の配列状態にも変化が見られた。〔結語〕関節固定後1週目には靱帯の強度低下,コラーゲン線維の配列変化が始まっており,両者に関連があることが示唆された。
本研究は,新たに考案した上肢機能評価法「ひも結びテスト」について,再現性のある測定結果を得るための試行回数および既存の上肢機能評価法との関連を検討した。対象は女性大学生20名(20.5±1.1歳)とし,ひも結びテスト(5回測定),ペグテスト,握力の測定を行った。その結果,ひも結びテストの測定値は2回目以降に安定し,2回目と3回目の測定値から算出した級内相関係数は0.78と良好な再現性を示した。また,ひも結びテストは上肢巧緻性の指標であるペグテストと有意な相関関係を認めた(r=0.45,p<0.05)。以上のことより,ひも結びテストは,2回の試行により良好な再現性を示す評価指標であり,特別な機器や場所を選ばず,簡便かつ短時間に上肢巧緻性を評価する指標となる可能性が示唆された。
〔目的〕本研究の目的は,高校生野球選手における上腕近位部周径と肩関節挙上筋力との関係性を検討することとした。〔方法〕硬式野球部に所属する高校生125名を対象とした。測定項目は,投球側の上腕近位部周径と肩関節挙上筋力,および投球肩障害の有無とした。統計解析には,ピアソンの相関係数を用いて,上腕近位位部周径と肩関節挙上筋力との関係性を,健常群と投球肩障害群のそれぞれで検討した。〔結果〕健常群では,上腕近位部周径と肩関節挙上筋力との間に有意な正の相関関係が認められた。一方,投球肩障害群では,上腕近位部周径と肩関節挙上筋力との間に有意な相関関係は認められなかった。〔結語〕上肢の筋力を積極的に強化している高校生野球選手においても,上腕近位部周径は肩関節挙上筋力を反映する指標となることが示された。また,肩関節に何等かの異常がある場合では,その関係が認められない可能性が示唆された。
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら