本研究目的は,健常高齢者を対象に床の側方移動に対してつり革の把持と外乱予告が下肢の筋活動に与える影響について明らかにすることとした。対象は,健常高齢男性11名(平均年齢75.9±7.0歳)であった。測定は,右側方に床面が移動する外乱に対して,つり革把持と予告の有無の条件を組み合わせた計4条件において下肢の安静時筋活動量と最大筋活動量を算出した。各条件における測定値の比較は,つり革条件と予告条件を2要因とする反復測定分散分析後,交互作用が認められた項目のみ多重比較を行った。その結果,つり革を把持することで多くの下肢筋の安静時筋活動量および最大筋活動量が減少し,外乱予告を行うことで外乱方向に依存した筋において最大筋活動量が減少することがわかった。以上のことから,つり革の把持と床の側方移動のタイミングの予告によって,少ない筋活動量で立位姿勢を保持できることを示した。
高齢者の生活機能は,厚生労働省が作成した基本チェックリストを用いて評価することができる。本研究では,基本チェックリストの社会・認知・精神的側面から捉えた生活機能における影響要因について明らかにすることを目的とした。225名の地域在住女性高齢者を対象に基本チェックリストによる評価を実施し,生活機能低下群(103名)と生活機能維持群(122名)に分類した。2群比較の結果,生活機能低下群において痛みを有する者が多く,抱えている痛みの数も多いことが示唆された。さらに,ロジスティック回帰分析の結果,痛みの部位数が生活機能の影響要因として選択された。以上より,地域在住女性高齢者において,社会・認知・精神的側面から捉えた生活機能低下には,痛みの部位数が影響を及ぼす可能性が示された。
[目的]本研究は,各歩行補助具やその有無まで様々な移動形態を有する介護老人保健施設利用者を対象に下肢荷重率(下肢WBR)が歩行補助具の有無・使用状況と関連があるか検証した。[方法]対象者は介護老人保健施設を利用する高齢者68名。移動形態別に,杖なし群・T字杖群・歩行車群の3群に分類した。測定項目は端坐位,立位肢位の下肢WBR,握力,片脚立位,最大10m 歩行,FRT,TUG を測定した。各群の比較検定と下肢WBR に影響を及ぼす因子を検討した。[結果]全ての計測項目は移動形態別各対象群に主効果を認めた。下肢WBR(端坐位)に有意な関連因子として下肢WBR(立位)(β=0.418,p<0.001),握力(β=0.386,p<0.001),下肢WBR(立位)の関連因子として片脚立位(β=0.214,p<0.039),下肢WBR(端坐位)(β=0.526,p<0.001)が抽出された。[結論]下肢荷重率は,歩行補助具を判断する臨床的意思決定の判断材料の有効的な指標の一助になり得る可能性を示唆した。
[目的]本研究では,体幹垂直位と体幹前傾位で測定した足趾把持力と下肢の筋活動量を比較し,体幹の肢位変化が足趾把持力に及ぼす影響を明らかにするため,測定値の再現性および最大筋力の発揮の観点から検討した。[対象・方法]健常成人男性18名を対象とした。足趾把持力の測定は,体幹垂直位と体幹前傾位の2条件で行った。測定項目は,足趾把持力および足趾把持力発揮時の大腿直筋と大腿二頭筋長頭,前脛骨筋,腓腹筋内側頭の筋活動量とした。[結果]分析の結果,級内相関係数(1,1)は,体幹垂直位がr =0.921,体幹前傾位がr=0.950であった。足趾把持力は2条件間には有意差を認めなかったものの,体幹垂直位における腓腹筋内側頭の%IEMG は体幹前傾位より有意に高値を示した。[結語]本研究結果から,体幹垂直位と体幹前傾位による体幹変化は,足趾把持力の再現性や最大筋力に影響を及ぼさないものの,腓腹筋内側頭の%IEMG に影響を及ぼすことが示された。
本研究は,若年健常成人を対象に,機能脚・非機能脚の間で足部形態や重心動揺に差があるのかを検討することを目的とした。対象は大学生52名とし,3項目の動作観察(物を蹴る脚,歩き始める脚,靴を履き始める脚)による機能脚の判定を行った。また足部形態と重心動揺を測定した。全対象者,および機能脚がすべて同側であった者(23名)において,機能脚・非機能脚の間で各指標を比較した。その結果,いずれの指標にも有意な群間差は認められなった(p≧0.05)。以上から,若年健常成人において,機能脚・非機能脚の間には,足部形態およびバランス機能に差がないことが示唆された。
本研究の目的は,開発した第一中足骨内反軽減シューズを紹介するとともに,その開発意義について母趾外反角と第一中足骨内反角の関連から検討した。本シューズは,歩行時に体重が前足部にかかると,押上式の中足骨パッドが機能して,第一中足骨内反を軽減する構造になっている。外反母趾を有する女性11名(平均67.8±13.9歳)を対象に,母趾外反角(hallux valgus;HV 角)と第一中足骨内反角(第一‐第二中足骨角;M1‐M2 角)をX線撮影した結果,HV 角とM1‐M2角は有意(p<0.01)な正の相関(r=0.861,R2=0.741)が認められた。このことから,開発した本シューズを一定期間着用することで,外反母趾の痛みの軽減や歩行能力の改善が認められるか否か,さらには外反母趾自体の予防や改善効果について,科学的に検証する意義が示された。
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