近年,集中豪雨による都市部での水害が深刻な社会問題になっている.しかし,ひとたび道路が冠水してしまうと,以降の避難は危険かつ極めて困難になるという事実が住民に浸透しておらず,事前避難率が低いことが課題となっている.本研究では,実写映像から再現された街並みの中を,道路冠水時に避難することの困難さをバーチャルリアリティ(VR)技術により体験できるシステムを開発する.避難訓練参加者は,自身が住んでいる街並みから再現されたVR空間で,実際の想定浸水深のもとで避難体験をすることができる.開発したシステムによる避難体験を通じて,道路冠水時の避難における障害を“我が事”として認識してもらうことで,住民の防災意識の向上を図る.
本論文では,われわれが提案したAugmented Reality(AR)技術に基づく気管吸引技術習得支援システムと,それを使った評価実験結果について述べる.これまで,気管吸引技術の学習用のマネキンがいくつか開発され実用されている.気管内で行われる気管吸引処置を,マネキン外部から観察し,評価するのは難しい.われわれが考案したシステムは,AR技術と,3Dプリンタで作成されたコンパクトなセンサ付き気管模型を使用して,マネキンを用いた学習上の問題を解決する.また,マネキンは購入費用が高額であったり,維持管理や保管,使用後の洗浄,乾燥,滅菌といった運用に時間と手間がかかる.実験結果をシステム工学的な観点で評価し,本システムの有効性および問題点を明らかにする.
映像を投影するプロジェクタは,スクリーンに留まらず,様々な場所や物に対しての投影に応用されている.近年では,人が着ている衣服等への投影も試みられている.衣服のような投影対象は色や模様を有していることが多いため,それらを打ち消す技術である光学的補正が広く研究されている.しかし,物体が動いたり変形したりする際に,デバイス遅延の影響による補正精度低下が課題となっている.本論文では,人が着ている衣服に対して,デバイスの遅延による影響を補償すると共に連続的な変形に対応した実時間光学的補正を提案する.衣服の変形に伴って変化する画素間対応を反射率の尤もらしさに基づいて更新し,デバイス遅延の影響を物体の運動予測に基づいて補償する.また,実際に衣服に対して補正投影を行い提案手法の有効性を評価する.
サッカーのペナルティキック(PK)は,試合の勝敗を決める上で重要なプレイである.PKを蹴るキッカーの軸足の角度とシュート方向に関する統計的な分析が報告されているが,キッカー個人ごとの分析はなされてない.本研究では,キッカーの軸足の角度とシュート方向をキッカー別に分析した.12名のキッカーがゴールの四隅を狙って5本ずつひとり20本シュートを蹴る実験を行い,計240本のPK映像を分析した.GKがキッカーの軸足の角度からシュート方向を予測することを念頭に「予測が容易なキッカー」「予測がやや可能なキッカー」「予測が困難なキッカー」の3つに分類した.分類結果を用いて,全キッカーではなくキッカー別の軸足の角度のデータを使用したほうがシュート方向予測の正答率が向上するか検証した結果,正答率が全体で14ポイント向上した.