あらまし近年,3DCGを活用したバーチャルプロダクションが映像業界のあらゆる場面で導入されている.これまでのLEDバーチャルプロダクションでは,表示面であるLEDディスプレイに1つのCG映像を表示し,1台のカメラの動きにLED内のCG映像を完全連動させて合成を行うことが基本であった.本稿では,同期技術(位相差)を活用することで,1枚のLEDディスプレイに複数の異なる映像を表示し,LEDバーチャルプロダクションでのマルチカメラ合成の取り組みについて報告する.国内の放送現場では実用例が報告されていないこの方式で,音楽番組の本番運用にも挑戦した.
最新の映像符号化方式であるH.266 | Versatile Video Coding (VVC) を用いたライブ映像伝送の高度化が期待されている.VVCはH.265 | High Efficiency Video Coding (HEVC) に対して2倍の符号化性能を有するため,たとえば国内ではVVCを用いた地上デジタル放送の4K/8K化が検討されている.しかし,ライブ伝送の実用化にはリアルタイムコーデックが不可欠であり,特にHEVCに対して符号化処理時間が8倍に増加したVVCに対応するリアルタイムエンコーダの実現は容易ではない.そこで,筆者らは世界で初めてVVC対応4K/8Kリアルタイムコーデックを開発し,実IP網上で同コーデックを用いて4K/8K映像をライブ伝送し,VVCによるライブ映像伝送の実現可能性を実証した.本稿では,同コーデックに適用したコア技術と各種評価実験を中心に紹介する.
広色域ディスプレイの実現を目指し,高色純度な発光が得られる量子ドットを用いた発光素子を開発した.硫化銀インジウムなどに代表される多元系半導体からなる量子ドット材料の高色純度化と発光波長制御に取り組み,バンド端遷移による高色純度の発光を示す量子ドット材料を得た.合成した各色の多元系半導体量子ドットを使った量子ドットEL(Electroluminescence)素子を試作し,その発光特性を評価・分析することで,色鮮やかなEL発光を実現するための素子構造など条件を見いだした.各色共通の素子構造で色純度の高いEL発光を実現できたことで,多元系半導体量子ドットによるEL発光素子が広色域ディスプレイに有望であることが示された.
映像に映る人物を特定する人物識別技術は,スマートフォンにおける認証や,イベント会場での入退場管理,映像データへの索引付けなどにおいて幅広く利用されている.人物識別における課題のひとつとして,顔の隠ぺいによる精度低下が挙げられる.近年,新型コロナウイルス感染症の影響などによってマスクを着用する機会が増えたこともあり,マスクによる隠ぺいに対応した手法が求められている.本稿では,人物識別における前段の処理である顔検出を対象とし,マスクを着用している人物についても,顔が映る位置を精度よく検出できる手法を提案する.具体的には,学習データを拡張するためのマスク合成手法を提案するとともに,マスク着用に有効な深層ニューラルネットワークの構造を限定的な条件下で実験的に探索する.評価実験では,マスク実画像データセットを用いて既存手法と性能を比較し,提案手法の有効性を検証する.