日常臨床のなかで咬合再構成を必要とする症例は少なくない.欠損状態や補綴方法にかかわらず, 咬合再構成時に必要とされるのは安定した下顎位である.言葉のうえでは至極あたりまえのことであり, またその重要性も認識されてはいるものの, 日常臨床のなかでの下顎位の評価は, まだ「別枠のもの」としてとらえられているように思われる.
下顎位は歯牙位, 下顎頭位からではなく, 左右の咀嚼関連筋群の生理的緊張のバランスが保たれた状態が, 生体にとって安定した下顎位であると考えることができ, 下顎位は筋肉位から求めていくことが望ましい.
下顎位を評価する際, あるいはテンポラリークラウン, 症例によってはスプリントの適正な調整がなされた後に, 最終補綴装置を製作・装着する際, もっとも重要なことは, どのようにその下顎位を変化させることなく再現 (咬合採得) するかである.ほんのわずかな歯牙接触でさえ下顎位を変化させることになり, 安定した下顎位に影響を与える.
Luciaのアンテリアー・ジグ, リーフ・ゲージ, ゴシックアーチ・トレーサーを用いると, 力を加えることなく咬合採得できるといわれているが, 実際には咬合力が生じており, 下顎位に影響を与えてしまっている.大きな機器の装着を余儀なくされる下顎運動計測装置も明らかに下顎位に影響を与えていると考えられる.また, 下顎運動を計測することが下顎位を評価することには至らない.
これらの点をふまえて, 咬合再構成を必要とした3症例 (Cr-Br, Cr-Brwith TMD, F.D.) を通してどのように下顎位を考え評価するべきかを述べている.咬合採得法にはチンポイント変法を, 下顎位の評価にはディナーのセントリック・リレーターおよびベリーチェック・インストゥルメントをスプリット・キャスト・テクニックとともに用いた.
日常臨床のなかで下顎位を評価することは長期の咬合の安定へとつながっていくと考える.
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