歯科医学の分野において, 長年に渡り咬合器を使い口腔外でヒトの下顎運動を再現する研究がなされてきたが, 咬合器上にヒトの生理機能を再現するのは難しく, 臨床上トラブルが多いという指摘もある.
筆者の経験でも, 顎関節症患者において生理的下顎運動を咬合器上に再現するのはきわめて難しい.顎関節症患者の多くは, 顔面および頸・背部の筋肉の緊張と圧痛を認め, 筋肉間のバランスが崩れ, 下顎の運動障害を抱えている.そのような患者に対して, スプリントや咬合調整などの治療のほかにカイロプラクティックなどの理学療法を併用すると, 下顎運動が変化してくる。このように下顎位が定まらない患者において, 咬合器上に生理的下顎運動を再現することは無理である.まず, 筋肉の緊張を取り除き, 筋肉問のバランスを回復させることから始め, 下顎運動の安定化を確認してから下顎の位置を決めたうえで咬合器に下顎の歯型模型を付着しないと, 咬合器上に生理的下顎運動を再現することはできない.
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