日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
19 巻, 1 号
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研究報告
  • 中村 瑛一, 有本 梓, 田髙 悦子, 田口(袴田) 理恵, 臺 有桂, 今松 友紀
    2016 年 19 巻 1 号 p. 4-13
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:父親と母親における親役割達成感の関連要因を明らかにし,今後の育児支援を行ううえでの示唆を得る.

    方法:2012年9~11月にA市B区福祉保健センターが行った,3歳児健康診査対象児の父親と母親各222人を対象に,無記名自記式質問紙調査を行った.調査内容は,基本属性,親役割達成感,父親の育児支援行動(情緒的支援行動・育児家事行動),育児ソーシャル・サポート,過去の子どもとのかかわり等とした.父親と母親おのおので,親役割達成感を従属変数とした重回帰分析を実施した.

    結果:父親113人,母親144人の有効回答を得た.父親は,健診対象児の出生順位が低いほど,母親への情緒的支援行動が多いと認識しているほど,親役割達成感が高かった.また,「育児が思うようにいかない」と感じているほど,親役割達成感が低いことが示された.母親は,子どもをもつ前に子どもとふれあう機会があった場合や,父親からの情緒的支援行動が多いと認識しているほど,親役割達成感が高かった.また,健康状態が悪いほど,親役割達成感が低いことが示された.

    結論:父親と母親における親役割達成感の関連要因はおのおのに異なっていたが,父親から母親への情緒的支援行動の多さは共通の要因であった.父親の育児参加を促し,特に夫婦間の会話を多くもち,父親が母親の気持ちに寄り添う等の情緒的支援行動を促進させていくことは,父親と母親おのおのの親役割達成感を高めることが示唆された.

  • 仲野 宏子, 長弘 千惠, 猪狩 明日香, 道面 千恵子, 斉藤 ひさ子, 小笹 美子
    2016 年 19 巻 1 号 p. 14-23
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:60歳代祖母による就学前の孫の日常的な世話の状況の把握と疲労との関連を明らかにすることである.

    方法:60歳代女性2,553人を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した.調査項目は,対象者の属性,孫の世話の状況,蓄積的疲労徴候調査(以下,CFSIの8特性)であった.対象者を,「日常的な世話なし群」と「孫の日常的な世話あり群(祖母)」の世話の状況別に,属性とCFSIの8特性の比較分析を行った.次に,孫の日常的な世話あり群(祖母)のCFSIの8特性に関連する要因の検討を単変量解析で検討した.

    結果:回収率は36.5%(932人)であり,孫が誕生している者は46.2%(431/932人),就学前の孫の日常的な世話をする者24.8%(231/932人)であった.孫の世話の状況別による対象者の属性,CFSIの8特性に有意な差はなかった.孫の日常的な世話あり群(祖母)のCFSIの8特性は,就労,腰痛,定期的外出,健康意識,世話の動機,育児方針の違い,世話による負担,世話をしている年数などと有意な差がみられた.

    結論:祖母が孫の世話を継続していくためには,世話による負担への具体的支援の検討と,腰痛等の持病の改善と健康意識の向上に向けた支援の必要性が示唆された.

  • 永井 眞由美, 東 清己, 宗正 みゆき
    2016 年 19 巻 1 号 p. 24-30
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,在宅で高齢者を介護している高齢介護者の孤独感の実態とその関連要因を明らかにすることである.

    方法:高齢者を在宅で介護している65歳以上の介護者313人に無記名自記式質問紙調査を行った.調査項目は,介護者および被介護者の基本属性,改訂版UCLA孤独感尺度,LSNS-6尺度,介護者の個人および社会生活に関する項目とした.

    結果:回収数は116(回収率37.1%),有効回答数は104(有効回答率89.7%)であった.対象者の平均年齢は,74.2±6.3歳,男性26.9%,女性73.1%であった.UCLA孤独感尺度得点の平均値は,38.8±10.1であり,得点と主観的健康観,外出能力,地域活動への参加,家族の支援,近隣の支援,相談できる専門職,経済的自由との間に有意な関連が認められた.重回帰分析の結果,UCLA孤独感尺度得点と有意な関連がみられたのは,相談できる専門職,経済的自由,地域活動への参加であった.

    考察:高齢介護者の孤独感の予防においては,介護者が相談できる専門職の存在や経済状況の把握とともに,介護者の地域活動への参加を促す支援が重要である.

  • 千葉 敦子, 山本 春江, 森永 八江, 川内 規会
    2016 年 19 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:生活習慣病予防の保健指導波及プログラムを2社で実施しその効果を明らかにする.

    方法:健康教室参加者からの教育波及効果による集団全体の健康増進を目指したプログラムを開発し2社で実施した.全社員を対象に,自記式質問紙により健康に関する意欲や関心等の変化,生活習慣行動の変容,行動変容ステージの変化,教室内容に関する学びの受け取り状況を測定した.

    結果:教室参加者は2社とも「健康に関する新たな知識が増えた」「健康に興味・関心をもつようになった」と回答した人が7割を超え,意欲や関心は良好に変化した.しかし,生活習慣行動および行動変容ステージについては,有意な変化は認められなかった.健康教室非参加者は,健康教室が開催されたことで意欲や関心等に変化が生じた人がA社で2割程度,B社で1割程度であった.2社間で有意差があったのは,健康教室での学習内容をみせてもらったり聞いたりしたことがあるかの受信の有無であり,A社の方が多かった.

    考察:参加者の知識の増大や興味・関心・意欲の向上には一定の効果があったが行動変容までには及ばなかった.非参加者への教育波及効果の可能性が少数ではあるが確認された.今後はより効果的に波及効果を促進できるプログラムを確立させることが課題である.

地域看護活動報告
  • 田中 美延里, 奥田 美惠, 窪田 志穂, 入野 了士, 野村 美千江
    2016 年 19 巻 1 号 p. 40-47
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:臨地実習指導者による保健師ポートフォリオを活用した学習支援とその効果を,実習生・指導者双方の観点で記述することである.

    方法:研究対象は,キャリア開発を目指すアクションリサーチでポートフォリオ作成支援を受けた指導者が,看護系大学総合実習においてそれらを活用して学習支援に取り組んだ事例である.1町の指導者2人の学習支援記録と実習前後の面接逐語録,学生4人の実習記録と実習後面接逐語録を用いて,指導者の働きかけ・振り返り,実習生の反応に関するデータを抽出し,質的帰納的に分析した.

    結果:指導者の保健師ポートフォリオはキャリアや担当地区に焦点を当てたもので,活用場面は3場面であった.指導者はタイミングを計って場を設定し,事前にストーリーを構成し,語り始める前に場を温め,エピソードを再現するように語り,語りながら反応をみて調整する働きかけをしていた.また,指導者の振り返りは,働きかけと相互作用について,さらに保健師としての成長に向けて行われていた.実習生は保健師活動を具体的にイメージして保健師の専門性を言語化し,指導者の保健師としての成長をとらえていた.

    考察:指導者による保健師ポートフォリオを活用した学習支援は,アクションリサーチで生じた変化の継続・発展による取り組みであり,実習生と指導者の心理的距離を縮め,相互作用を促進させる機会になっていた.視覚に訴える資料と生の語りの組み合わせにより,指導者から保健師の活動理念を伝えるアプローチとして有用と考える.

資料
  • 田中 博子, 森實 詩乃
    2016 年 19 巻 1 号 p. 48-54
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:団地自治会による高齢者の孤独死予防の取り組みを明らかにし,看護への示唆を得る.

    方法:研究対象者は団地で生活を送る高齢者に対して孤立予防・孤独死予防も含め高齢者支援の取り組みに中心的に携わっている3団地の自治会長ら3人である.研究デザインは質的記述的研究であり,半構成的面接によりデータ収集し分析を行った.

    結果・考察:本研究は,【個人の状況を踏まえた介入のむずかしさ】【手さぐりしながらの高齢者の見守り】【つくられていく住民同士の互助関係】【自治会の組織力】の4カテゴリーから構成された.団地では【個人の状況を踏まえた介入のむずかしさ】はあるが民生委員や有償ボランティアによる《見守り活動の体制》で【手さぐりしながらの高齢者の見守り】,自治会独自の孤独死予防の取り組みを行っていた.自治会のあいさつ運動は《住民と高齢者(の)がつながり》《暮らしぶりを察した隣人による手助け》ができる関係まで発展し【つくられていく住民同士の互助関係】がみられるようになった.高齢者の孤独死予防の取り組みは《高齢者見守りに協調してくれる住民》や《自治会独自の体制》など【自治会の組織力】を支えていた.このような団地自治会の活動は孤独死予防の取り組みだけでなく首都圏におけるコミュニティ再構築と地域の活性化につながるものであり,高齢者の社会参加の場への看護職介入は要支援・要介護者の早期発見の機会となりうる可能性が示唆された.

  • ―精神保健福祉業務の経験年数による比較―
    新村 順子, 宮﨑 美砂子, 石丸 美奈
    2016 年 19 巻 1 号 p. 55-62
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:精神障害者への個別支援における保健師が感じる困難とその対処の内容が,精神保健福祉業務経験年数によりどのように異なっているのかを明らかにし,保健師の現任教育への示唆を得て,精神保健福祉活動の質の向上に資することを目的とした.

    方法:自治体での精神保健福祉業務経験が“6年以下群”保健師4人,“10年以上群”保健師5人を対象とし,困難を感じた精神障害者事例への支援について半構成面接を実施し,内容について質的記述的に分析した.

    結果:困難については“6年以下群”“10年以上群”両群から,支援を望まない本人や家族に介入するむずかしさ,≪近隣からの入院要請の圧力との対峙≫≪本人と近隣の両者の生活を守るむずかしさ≫などが抽出された.一方,≪家族から協力の得られないむずかしさ≫や,かかわりが拒否できない≪公的機関の責任への負担≫,面接や訪問を≪ひとりで対応することのむずかしさ≫≪保健師自身へのサポートの不足≫などは,“6年以下群”から抽出されていた.対処については,“6年以下群”では≪自分の対応できる範囲を自覚し周囲に援助を求める≫,“10年以上群”では,本人・家族・近隣の立場から状況の文脈を解釈し,関係機関に柔軟に働きかける対処方法が抽出された.

    考察:“6年以下群”の保健師の現任教育では,精神障害の知識や技術だけでなく,多様な視点で支援を展開する力の獲得に向けて,自分の支援を振り返り,検討する機会の担保が重要である.

  • 梅原 雅代, 有本 梓, 田髙 悦子, 白谷 佳恵, 伊藤 絵梨子, 大河内 彩子, 臺 有桂
    2016 年 19 巻 1 号 p. 63-71
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:都市部の壮年期住民の行動変容ステージ別に健康関連要因と食生活の関連を明らかにすることで,生活習慣病予防へ向けた保健指導を検討する.

    方法:首都圏A市B区C地区の住民40~64歳を対象に無記名自記式質問紙調査(郵送法)を行った.調査内容は,基本属性,行動変容ステージ,健康関連要因,食生活であった.

    結果:569人(回収率19.0%,有効回答率97.1%)を分析対象とした.平均年齢は56.6±7.0歳,女性が60.6%であった.行動変容ステージの分布は,関心期31.1%,次いで無関心期26.5%,維持期17.6%,実行期9.8%であった.行動変容ステージと有意な関連が認められたのは,平均年齢(p< 0.01),腹囲(p< 0.01),BMI(p<0.001),主観的健康感(p<0.01),健康生活習慣(p<0.001),食生活サポート状況(p<0.001),食生態スコア(p< 0.001)であり,関心期,準備期は,他期に比してBMIが高く,維持期は無関心期,関心期,準備期よりも食生態スコアが有意に高かった(p< 0.001).

    考察:行動変容ステージを維持・前進させるためには,各ステージの健康関連要因と食生活を踏まえた支援の必要性が示唆された.特に,関心期,準備期では健康関連要因や食生活への介入の必要性が高く,健康生活習慣,食生活サポート状況,食生態スコアを改善することが重要である.

  • 錦織 梨紗, 永田 智子, 水井 翠, 戸村 ひかり
    2016 年 19 巻 1 号 p. 72-79
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー

    背景・目的:病院への退院支援部署の設置が普及しているが,それに加え,病棟に「退院支援係」をおき,病棟看護師の積極的な退院支援への関与を図る取り組みもみられる.そこで,退院支援部署と退院支援看護師の両方を有する病院を対象として,病棟看護師のなかに「退院支援係」を設けている病院の特徴と,係の配置による退院支援への取り組みの違いを把握することを目的とした.

    方法:全国の100床以上の一般病院を対象とした質問紙調査のデータを利用した二次分析である.退院支援部署と退院支援看護師の両方を有する病院を対象とし,退院支援係を配置している病院とそうでない病院について,病院の属性と退院支援の実施状況を比較した.

    結果:退院支援係を配置していたのは,468病院中213病院(45.5%)であった.がん診療拠点病院など高度な医療を行う病院で退院支援係の配置が多かった.退院支援係を配置している病院の方が,配置していない病院より,病棟看護師が「退院支援計画書の作成」「患者・家族が利用可能な社会資源・制度の探索と交渉」を実施している割合や,「入院後早期に,退院に向けた計画を検討するためのカンファレンスを行っている」「退院支援の手順を記したガイドラインやフローチャート等がある」などのシステムが整っている割合が有意に高かった.

    考察:病棟への退院支援係の配置により,病棟看護師が退院支援へ積極的に関与している可能性が示唆された.

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