日本医療マネジメント学会雑誌
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最新号
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総説
  • 牛島 史陽, 阪口 博政
    原稿種別: 総説
    2020 年21 巻3 号 p. 130-134
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2025/11/13
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、診療所経営において、重視されるマネジメント項目を把握することである。研究は、2008から2018年の診療所経営に関する文献レビューとして実施され、医療管理学の枠組みを通して留意事項の整理を行った。構成内容として、「医療マーケティング」といったインターネットを利用した集患対策による地域医療への対策が最も重視されて、ついで「組織管理」「人材管理」といった診療所の風土や人材といった診療所内部の管理について多く記載されていた。さらに「オペレーション管理」といった顧客への直接的な対策が重要視されていることが明らかになった。対して重視されていない項目として、「医療経営概論」、「医療技術と医療経営」、「医療制度・政策」は、すべての文献で取り上げられていなかった。

原著
  • 原 健太朗, 山口 美知子, 藤岡 正樹
    原稿種別: 原著
    2020 年21 巻3 号 p. 135-140
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2025/11/13
    ジャーナル フリー

     近年、医療機関では、効率的かつ安定した経営と患者への医療・看護の質を維持するため、手術室の効率的なマネジメントを目指している。本研究では、手術・麻酔時間区分と手術・麻酔領域要因との相関関係を明らかにすることを目的とした。対象は、2018年1月1日から2018年12月31日までに国立病院機構長崎医療センターで実施された予定手術4614件とした。

     病棟看護師から手術室看護師に申し送りが行われる時間は平均(標準偏差):6.2(3.5)分であり、各診療科によって、手術室入室から手術開始などの時間区分にも違いがみられた。入室から手術開始までに実施される麻酔導入・手術準備時間は、麻酔法(局所麻酔、硬膜外麻酔、脊椎くも膜下麻酔、静脈麻酔、全身麻酔、伝達麻酔)、手術体位(仰臥位、側臥位)、硬膜外カテーテル挿入、末梢輸液ライン、動脈ライン、中心静脈カテーテル挿入、超音波診断装置、移動式X線透視撮影装置、手術用ナビゲーションユニット使用で有意な相関関係がみられた。さらに、手術・麻酔領域要因を分析し、回帰式を得ることで、麻酔導入・手術準備時間の推定が可能となった。手術室の時間区分は、手術領域要因と麻酔領域要因に相関関係があった。それを踏まえて日々の手術スケジューリング、システム構築を行うことで、効率的なマネジメントを図ることができる。

事例報告
  • 鶴﨑 泰史, 山形 真一, 中川 義浩
    原稿種別: 事例報告
    2020 年21 巻3 号 p. 141-145
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2025/11/13
    ジャーナル フリー

     近年、院外処方箋の疑義に対する変更調剤に関して事前に医師と薬剤師で作成・合意したプロトコルに基づく医師と協働した薬物治療管理(以下PBPM)運用を始める施設が増えてきた。このようなPBPMにより、電話を用いた薬剤師による照会事項の一部が解消され、薬局および診療施設での中断回数の減少、患者の待ち時間短縮等の効果が期待できる。

     今回、当院の院外処方箋の約6割を応需している薬局において、PBPM適用に際しての薬剤師による照会事項件数の変化とPBPM適用件数の評価を行った。併せてプロトコル内容についての評価アンケートを薬局に行った。合意前後を比較すると薬剤師による照会事項件数は減少していた。また、PBPM適用件数や薬剤師による照会事項件数は月毎に変動はあるものの、PBPM適用件数/処方変更合計件数の割合変化は60-80%の間で推移していた。アンケート結果については、PBPMに対して有用であるという意見が多かった。

     今後PBPMを活用することで医師や薬局薬剤師の形式的な業務負担を軽減し、患者への適切な薬物治療へつながるよう内容の精査も含めて実践していこうと考える。

  • 安心して暮せる町づくりを目指して
    廣井 三紀, 堀見 忠司, 宮地 耕一郎
    原稿種別: 事例報告
    2020 年21 巻3 号 p. 146-149
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2025/11/13
    ジャーナル フリー

     高知県の南海トラフ地震に対する地域防災の取り組みは年々進んでいる。しかし年齢的に多くの高齢者は防災に対していわゆる「あきらめ」 の境地であり、積極的な取り組みに参加しない。

     そこで高齢者の生活に密着したサービスを提供している介護事業所が、主に高齢者を対象に、あきらめない地道な防災活動や対策を働きかけることが重要であると考え、介護事業所だからこそできる高齢者への防災の取り組みを実施した。すなわち地域の高齢者住民を中心に共同訓練を実施し、地域の防災に関するセミナーにて互いに知識を深めた。一方、デイサービスとグループホームの職員も、地域のイベント事業に積極的に参加し、常に顔の見える関係を築いた。また、2015年から始めた地域交流スペースを使い、無料で具体的な「防災教室」を開き、直接的に防災を呼びかける活動の場所として、地域の集まりや高齢者宅や介護事業所の利用者宅に出向いて、防災に関する講義を行った。その結果として信頼関係が成立し、防災に対する認識に変化が見られるようになり、少しずつ災害への備えに取り組む高齢者が増えてきた。また介護事業所の職員の防災意識も確実に向上した。これらの防災対策は、結果として明らかに安心して暮らせる町づくりの地域包括ケアシステムの構築に繋がっていた。

  • 阪口 博政
    原稿種別: 事例報告
    2020 年21 巻3 号 p. 150-153
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2025/11/13
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、JCI受審を検討する医療機関における、受審対応部門の実態を明らかにすることである。JCI認証を取得済みあるいは取得準備をしていた5医療機関に対して、2015年7月から2016年3月にかけて実務担当者への半構造化された質問票によるインタビューを実施した。

     結果として、JCIの受審対応の組織的特徴として、JCIに焦点がある独立した部門が設けられていること、そして受審準備に向けた統括業務を担うスタッフ部門となっている傾向が確認された。これらの点は海外認証機関への対応であることや病院横断業務への重要性の認識からと考えられ、当該部門は既存の委員会との関係から多くの専門職との連携の下で院内全体での推進業務を担っていることも確認された。

  • 山崎 智里, 南 香奈
    原稿種別: 事例報告
    2020 年21 巻3 号 p. 154-158
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2025/11/13
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、助産過程を展開する上で電子パルトグラムシステムに関する課題を明らかにすることである。

     研究デザインは、質的記述的研究である。電子パルトグラムシステムを使用している4施設21名の助産師を対象とし、電子パルトグラムシステムの課題について半構造的インタビューを行った。その結果、【把握しづらい全体像】、【助産師の思考プロセスとの隔たり】、【困難な即時入力】、【困難なリアルタイムでの情報共有】、【ICTを活用したシステムの不足】の5つのカテゴリが抽出された。

     本研究で明らかとなった課題を改善・解決するためには、助産師の思考プロセスとの隔たりを最小限とし、対象者の全体像の把握を容易とするテンプレートを電子パルトグラムシステムに組み込む必要性が示唆された。また、ICTを最大限駆使して助産過程展開を支援し、ケアを行いながらもリアルタイムに情報を入力できるような入力支援機能が求められていた。

  • 城内 優子, 永井 友基, 成田 吉明, 星 哲哉
    原稿種別: 事例報告
    2020 年21 巻3 号 p. 159-163
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2025/11/13
    ジャーナル フリー

     初期研修医の労働時間の多さや日当直後からの日勤の連続労働に対する策の一つとして欧米諸国で導入されているナイトフロート(以下NF)システムが、2017年度手稲渓仁会病院(以下当院)において日本ではじめて導入された。NFシステム導入により、当院の総合内科(以下GIM)をローテーションしている初期研修医およびNFチームの労働時間が改善されたかどうかを検討することを目的とし、2016年度および2017年度の1、2年目初期研修医を対象として後方視的にカルテのアクセスログより労働時間を調べた。主要評価項目を1週間の平均労働時間(GIM研修医、NFチーム)、副次評価項目を32時間以上連続労働回数および60時間/週を超える割合とし、NFシステム導入前後で比較した。週労働時間の中央値は2016年度GIM研修医(以下2016年度GIM)で86時間56分、2017年度GIM研修医(以下2017年度 GIM)では86時間47分であった(p=0.2)。NFチームでは58時間10分と有意に減少していた(p<0.001)。32時間を超える連続労働回数の平均値は2016年度と比較して2017年度では有意に減少を認めた(p<0.001)。NFチームでは32時間を超える連続労働はなかった。60時間/週を超える割合は2016年度GIM、2017年度GIMと比較してNFチームで有意に減少していた。結果的にNFチームではGIM研修医と比較して労働時間の改善を認めた。また、NFシステムの導入により、研修医の32時間以上の連続労働の回数や週60時間以上労働の割合は減少し、全体的に研修医の労働環境の改善につながっていると考えられた。

  • 青山 恵美, 矢野 久子, 長谷川 達人, 大久保 憲
    原稿種別: 事例報告
    2020 年21 巻3 号 p. 164-169
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2025/11/13
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、全国の医療施設における結核健診の実態と課題を明らかにし、医療施設内結核健診受検職員の継続支援のための汎用性の高いソフトウエアを開発することである。

     全国の医療施設で結核接触者健診の経験がある感染管理認定看護師10名に対し結核健診に関する面接調査を実施した。調査期間は2016年11月25日〜2017年11月23日までである。当該大学の研究倫理委員会の承認を得た。面接結果に基づいて結核健診受検職員の継続支援のためのソフトウエアに搭載するデータ項目を決定し、ソフトウエアの設計を行った。

     面接調査の結果、結核発病者の発生に伴い実施された職員の結核健診データが、職員の健康管理に活用できるデータに変換できていなかった。そこで、Microsoft Access 2016を用いて発病者情報と接触者健診受検職員情報を紐づけて管理できるソフトウエアを設計した。職員が在職期間中に接触者健診を複数回受検する場合にも、履歴管理が可能とした。各医療施設の接触者健診リスト情報からソフトウエアの項目を決定し、最低限必要な項目を必須入力とし、それ以外は任意入力とし汎用性を持たせた。接触者健診受検職員の継続支援とその評価が可能となると考える。

     接触者健診受検職員の継続支援が可能となる汎用性の高いソフトウエアを開発した。医療施設で試用を繰り返し、改善を重ね、実用化を目指す。

  • 福江 宣子
    原稿種別: 事例報告
    2020 年21 巻3 号 p. 170-177
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2025/11/13
    ジャーナル フリー

     高齢化の進む日本において、医療現場ではアドバンスケアプランニング(ACP)の実践が求められている。救命・延命を第一と考えてきた従来の医療とは異なる側面があり、医療職側とくに医師によっては実践に拒否的であるケースが見受けられる。患者の意向を尊重した意思決定のための話し合いをいかに地域に拡大していくかを探索する目的で、徳山医師会所属の医師と看護師を対象に終末期医療への意識調査を実施した。全体でがん末期、慢性疾患の予後不良の状態、老衰期については終末期との認識が高い一方、経口摂取できない状態、セルフケアのできない状態については終末期の認識が低かった。医師群の7割、看護師群の8割で終末期において緩和的ケアを優先すべきと考えているものの、訴訟リスクから過剰な医療行為を行わざるを得ないとの回答が医師群で2割程度存在した。終末期の患者に過剰な医療が行われていると感じている割合は高く、特に男性より女性で高かった。こうした医療への従事は過半数で肉体的負担、7-8割で精神的負担となっていた。ACPの実践は、医師・看護師群ともに7-8割で経験しており、POLSTの患者への使用については多くの看取りありの医師群と看護師群で使用してみたいとの結果であった。こうしたことから患者のためのみならず、終末期医療にかかわる医療職自身のためにもACPを実践し、患者の意向に沿った医療を実践していくことが必要であると考えられる。

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