MACRO REVIEW
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35 巻, 1 号
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総説
  • 田中 靖人
    2023 年 35 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

     消費者が次世代に遺産を残し,その一部として貨幣を保有するという,消費者と企業に関するミクロ経済学的基礎を持つマクロ経済モデルを用いて成長経済下での財政赤字の役割を考察する。人々が自らの効用に子孫の効用を割り引いた値を含めるBarro型の効用関数によって分析を進める。主な結論は,成長する経済において一定の物価水準の下で完全雇用を維持するためには財政赤字が必要であるということである。したがって,均衡財政では物価一定のもとで完全雇用を実現・維持することはできない。また,実際の財政赤字が一定価格下での完全雇用に必要かつ十分な赤字よりも小さい場合は不況になり,大きいときはインフレーションが発生する。

     付録では貨幣が財と同様に資本と労働によって生産されるならば,一定価格の下での完全雇用実現に財政赤字が必要ではないことを示す。しかし,貨幣が生産コスト以上の価値で流通する場合には財政赤字が必要となる。貨幣の価値と生産コストの差は,いわゆる「シニョリッジ(通貨発行益)」である。インフレを伴わない経済成長には,貨幣の生産に相当なコストがかからない限り適度なシニョリッジが必要である。

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