MACRO REVIEW
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33 巻, 2 号
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総説
  • 松谷 泰樹
    2021 年 33 巻 2 号 p. 71-101
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

     カレツキが,Kalecki (1933) において,ケインズに先がけて,初めて,マクロ経済学の「基本前提」を提示することができたのは,それが「方法論的集団主義」を分析方法として用いていたことよるものである。その意味で,カレツキが分析方法として用いている「方法論的集団主義」こそが,マクロ経済学に,「存在意義 (raison d'être)」を与えるうえで,きわめて重要な役割を果たしているものとして捉えることができる。その場合,「古典派」経済学が,「方法論的個人主義」にもとづいて,個別経済主体の行動を分析する際に用いている「効用」概念の使用から免れて,それに代わって「所得」概念を用いることにより,まさに,有効需要の論理にもとづいて国民所得が決定されることを示す,マクロ経済学の形成を可能にしている。カレツキのマクロ経済モデルでは,不完全競争市場が想定されており,経済を構成する主体は,資本家と労働者の2階級であるとされ,それぞれの基本的性格が「能動的経済主体」と「受動的経済主体」であることが明らかにされている。その場合,労働者の所得である賃金は,有効需要の論理にもとづいて,資本家の意思決定によって決まるものであるとされている。ただし,Kalecki (1939a) において指摘されているように,労働分配率に影響を与える1要因としての,労働組合の行動が,労働者に「能動的経済主体」としての可能性を与えるものとして取り上げられている。それはまた,労働供給の側面を,有効需要理論の中に組み込む役割を果たすものとして捉えられる。2階級それぞれを「集団」として捉えて,それらの所得をめぐる,観察可能な一般的な行動を考察しているカレツキは,いわば,行動経済学の先がけの1人であると見なすことができるかもしれない。

  • 田中 靖人
    2021 年 33 巻 2 号 p. 102-113
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

    近年MMT(Modern Monetary Theory,現代貨幣理論)と呼ばれる学派の主張が注目を集めているが,これまであまり理論的,あるいは数学的な分析がなされることはなかった。本稿は効用関数と予算制約式による消費者の効用最大化,独占的競争における企業の利潤最大化,財の需要・供給の均衡,などの新古典派的なミクロ経済学の枠組みの基本を維持しながら,MMTの主張の骨格をなすものを理論的に基礎づけることを目的とし,技術進歩による経済成長を含む単純な静学モデルを用いて以下の事柄を論証する。1) 経済が成長しているときに完全雇用を維持して行くためには継続的な財政赤字が必要であり,その財政赤字を将来の黒字によって埋め合わせる必要はない。2) 実際の財政赤字が完全雇用維持に必要・十分な水準を上回ることによってインフレーションが引き起こされる。さらなるインフレーションを起こさないためには安定的に一定の財政赤字を続ける必要がある。3) 財政赤字の不足は不況を招き非自発的失業を発生させる。そこから回復させるためには完全雇用を維持して行くのに必要な水準を超える財政赤字が求められるが,完全雇用回復後は継続的な財政赤字が必要なので,不況克服のために生じた赤字を将来の財政黒字によって埋め合わす必要はないし,そうしてはならない。

研究ノート
  • 迯目 英正, 八木田 浩史, 角田 晋也, 伊藤 拓哉, 鈴木 誠一, 小島 紀徳
    2021 年 33 巻 2 号 p. 114-126
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/10
    ジャーナル フリー

     低温側熱源温度を5℃~20℃、高温側熱源温度を95℃、温度差を75℃~90℃とする低温スターリングエンジンの開発は例がなく、前報*1では変数全てを対象に感度分析・最適化を進めたため、計算量は膨大になり一部は概数で対応し、また「仮定した諸定数・計算過程の精度から評価の厳密さは求められない、実験で確認する」とした。更に実験機は製作コストを抑えるため、普及機への段階性を保ちながらもサイズは小さくしたが、摩擦およびクランク室圧力では感度分析・最適化が不十分なことが危惧された。

     本報では、摩擦ロスや作動気体熱容量への影響が大きい連棹比、クランク室/作動気体圧力比、シリンダとPTFEの重なり厚、および位相差について精査し、感度分析不十分の危惧を解消することを目的とした。結果、連棹比は6.4(前設計3.84)、クランク室/作動気体圧力比は1.0(前設計では実験で最適化するとした)、シリンダとPTFEの重なり厚は高温側0.02mm・低温側0.10mm(前設計では共に0.05mm)、位相差は実験環境で6.0°、実用環境で8.7°(前設計では2°~3°、実験で感度を確認、最適化するとした)とし、摩擦ロスや1サイクルの仕事量を低減、回転数や作動気体熱容量を最大化することで、出力は283W(前設計237W,実験環境)、発電効率は8.9%W(前設計8%)、実用環境では出力3kWの発電効率は11.8%、10kWで12.1%とし、目標*212%を達成した。

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