日本レーザー医学会誌
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44 巻, 1 号
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会告
光感受性物質の新展開
総説
  • 三好 憲雄, 岡崎 茂俊, 近藤 夏子, 田中 浩基, 櫻井 良憲
    原稿種別: 総説
    2023 年 44 巻 1 号 p. 2-15
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    [早期公開] 公開日: 2023/04/01
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    ここ50年間には原子炉の熱中性子線,サイクロトロンあるいはシンクロトロン放射光技術は目覚ましく進展し,国内の至る所で建設され癌の照射治療に活用さていることは広く知られている.これまでのところ癌特異性や癌再発の課題が十分には解決されていないため,現状はまだ新しい放射光照射の癌治療法として全面的には採用されていない.この癌特異性と癌再発の課題解決のため,我々はポルフィリン環が持つ癌選択性を活用し解決する手段として適用し,これら線源照射の増感性を評価した.

    熱中性子線に対する補足剤10Bデカーボネートとポルフィリン(Chlorine-E6)の誘導体(Compound-B: CB)をこれら放射光とレーザー光の増感剤として使用した.

    まずCBの光線力学治療(Photodynamic Therapy: PDT)における光増感効率を標準メチレンブルー(MB)や臨床用レザフィリン(Talaporfin Sodium)の一重項酸素生成能と比較検討した.その結果,MBや従来の臨床光増感剤に比べ約12~35%の光増感性が期待できることがわかった.

    次にその熱中生子線,陽子線と炭素線照射に対するCBの増感性検証のため,CBを投与したC6脳腫瘍培養細胞を使用し,熱中性子線は京都大学原子炉実験所及び炭素線マイクロビームは原子力研究開発機構高崎量子応用研究所でin vitro実験をおこなった.同細胞を移植の腫瘍モデルマウスを使用したin vivo実験では,シンクロトロン陽子線は(公財)若狭湾研究センターで,同じく炭素線は旧放射線医学総合研究所及び比較的高エネルギーのX線(>75 keV)は福井大学医学部RIセンターの3施設で行った.尚,各々の共同利用のマシンタイム申請後,照射効果をその都度検討した.

    その結果,それぞれ異なる照射線源や照射条件下においても共通して,CBの増感効果を確認できた.更に従来から研究継続の光線力学治療(Photodynamic Therapy: PDT)との併用照射の追加治療により抗腫瘍の相乗的効果を得た.腫瘍の再発を効率良く防止でき,腫瘍は縮退し消失のケースも見られた.

    したがって両用増感剤分子CBは癌特異性と,熱中性子線だけでなく陽子線や炭素線のシンクロトロンやサイクロトロン放射光に対する増感作用及びPDT併用治療の相乗効果により,癌再発の課題を解決する手段として有効であることがわかった.これによりCBの適用は新しい放射光の対処法(もしくは治療法)として全面的に採用が可能である.実現の方法としては,BNCT,陽子線や炭素線などの治療施設にコンパクトな半導体レーザーを運び込み,照射後にPDTを併用して実施することが考えられる.

  • 三浦 一輝, Wen Yijin, 對馬 理彦, 中村 浩之
    原稿種別: 総説
    2023 年 44 巻 1 号 p. 16-23
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    [早期公開] 公開日: 2023/04/04
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    本総説では,これまでの光線力学的療法(Photodynamic therapy: PDT)医薬品開発および光増感剤を用いたタンパク質不活性研究を紹介するとともに,最近我々が進めているがん細胞内特異的タンパク質の光不活性化を作用機序とする『細胞内分子標的型光線力学的療法(Intracellular molecular-targeted photodynamic therapy: IMT-PDT)』について紹介する.IMT-PDT研究の一環として我々は,細胞膜透過性有機光増感剤であるジヨウ素化BODIPYとがん細胞内で高発現するタンパク質であるグルコーストランスポーター1(Glucose transporter 1: GLUT1)のリガンドを連結したリガンド連結型光増感剤(Ligand-directed photosensitizer: LDPS)を開発し,GLUT1選択的光不活性化を作用機序とする抗腫瘍効果を引き起こすことに成功した.本研究は,新しい分子標的PDTの可能性を示すとともに,光により時空間的にがん特異的タンパク質の選択的不活性化を制御可能な技術を提唱するものである.

  • 堀内 宏明
    原稿種別: 総説
    2023 年 44 巻 1 号 p. 24-29
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    [早期公開] 公開日: 2023/04/01
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    光増感剤はガンの光線力学療法(photodynamic therapy: PDT)や光線力学診断(PDD)への応用が期待されている.PDTやPDDを発展させるためにガン選択性の向上は重要な課題であり,その解決手法の一つとして活性制御型の光増感剤が数多く研究されている.多くの活性制御型の光増感剤では励起状態の消光機能を制御することにより量子収率を制御できるものであったが,近年では光吸収効率を制御できる光増感剤の研究例も注目されている.本総説ではこれらの報告例を紹介する.

  • 廣原 志保, 小幡 誠
    原稿種別: 総説
    2023 年 44 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    [早期公開] 公開日: 2023/04/04
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    非観血的ながん治療法として光線力学療法(photodynamic therapy: PDT)が知られている.より効果的なPDTのために光増感剤の腫瘍集積性を高める研究が進められている.その方法の一つとして,高い水溶性と腫瘍集積性を有する糖鎖を付与した糖連結光増感剤が開発されている.本総説では,近年発展したクリックケミストリーの主要反応であるヒュスゲン1,3-双極子環化付加反応とチオール-パラフルオロクリック反応を用いた糖連結光増感剤の合成研究について簡単に紹介する.

  • 矢野 重信, 片岡 洋望, 田中 守, 鳴海 敦, 野元 昭宏, 大﨑 智弘, 岡本 芳晴
    原稿種別: 総説
    2023 年 44 巻 1 号 p. 36-46
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    [早期公開] 公開日: 2023/04/08
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    がん治療における長年の夢は,腫瘍を非侵襲的に治療することにある.近年光線力学療法(Photodynamic therapy: PDT)が,低侵襲性の治療法として注目されている.我々はPDT用の光増感剤の生体適合性と腫瘍選択性の向上を目指して,光増感剤(クロリン,C60等)への糖質(グルコース,マンノース,マルトトリオース等)の導入を立案した.なかでもグルコース連結クロリンe6(G-Ce6)は,in vitroおよびin vivoで優れたPDT効果を示した.さらに,がん発症犬に対して極めて良好なPDT効果を示した.

  • 山本 新九郎, 福原 秀雄, Lai Hung Wei, 小倉 俊一郎, 井上 啓史
    原稿種別: 総説
    2023 年 44 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    [早期公開] 公開日: 2023/04/04
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    泌尿器科領域における代表的な光感受性物質には,5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinicacid: 5-ALA)により誘導されるプロトポルフィリンIX(protoporphyrin IX: PpIX)があり,筋層非浸潤性膀胱癌(non-muscle invasive bladder cancer: NMIBC)に対する光線力学診断(Photodynamic diagnosis: PDD)の際に使用される.近年は特に,PDD補助下での経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection of bladder tumor: TURBT)による治療効果におけるエビデンスも報告されている.また,近赤外光による蛍光イメージングシステムを搭載したロボット支援機器の普及・適応拡大に伴い,血管やリンパ管の術中蛍光イメージングに用いられるインドシアニングリーン(indocyanine green: ICG)を含む近赤外蛍光を発する光感受性物質の適応拡大・開発が期待される.最後に,腎癌に対するチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor: TKI)として長年使用されてきたスニチニブに光感受性物質としての特性があることも明らかとなってきた.本稿においては,5-ALAやICGの現状と,in vitroでのスニチニブのヒト腎癌細胞株に対する有効性について概説する.

原著
  • 平川 和貴, 伊東 樹穂, 岡崎 茂俊
    原稿種別: 原著
    2023 年 44 巻 1 号 p. 53-61
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    [早期公開] 公開日: 2023/04/13
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    親水性と疎水性をあわせもつリンポルフィリン(ジエトキシP(V)テトラキス(4-オクチルオキシフェニル)ポルフィリン:EtP(V)TOPPとジエトキシP(V)テトラキス(4-ブトキシフェニル)ポルフィリン:EtP(V)TBPP)を合成した.いずれのリンポルフィリンも会合していない状態における光照射下で一重項酸素(1O2)生成活性をもち,熱力学的に電子移動機構でタンパク質を酸化損傷できる.水溶液中では,いずれもJ会合体を形成し,無輻射失活による励起状態の速やかな失活が確認された.ヒト血清アルブミン(HSA)を添加するとこれらリンポルフィリンの会合状態が解離してHSAに結合することで,励起状態の寿命が回復した.リンポルフィリンは,水溶液中における会合とタンパク質の認識による解離で活性制御が可能と考えられる.EtP(V)TBPPでは,HSAのトリプトファン残基の光損傷が確認された.メカニズムには,1O2生成の他,電子移動機構が確認された.一方,EtP(V)TOPPは,立体障害のためHSAの表面にしか結合できず,HSAの光損傷は痕跡程度しか認められなかった.リンポルフィリンの1O2生成と電子移動機構を介するタンパク質酸化損傷活性は,置換基に依存したが,自己会合とターゲット認識による脱会合で制御できた.以上から,リンポルフィリンにおける置換基の疎水性や立体障害により,光増感剤としての活性をコントロール可能であることが示された.

  • 坂東 晃成, 渡邉 和則, 大槻 高史
    原稿種別: 原著
    2023 年 44 巻 1 号 p. 62-68
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    [早期公開] 公開日: 2023/04/01
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    キャリアを用いた生体分子や薬物の細胞質内送達法において,積み荷物質(生体分子や薬物)がエンドソームに捉われてしまう問題がよく起こる.その解決法の一つとしてphotochemical internalization(PCI)と呼ばれる方法が知られている.この手法では,積み荷と共に光増感剤をエンドソーム内に局在させ,光照射することで,積み荷のエンドソーム脱出と細胞質内送達を引き起こすことができる.この手法では,必要最小限の光照射を行うことでほぼ細胞にダメージを与えずに積み荷を細胞質内輸送することができるが,光の強さに応じて細胞毒性や細胞死などの副作用が見られる.その原因が,PCI作用に不要な「細胞表面に吸着している光増感剤」であることが,我々の最近の研究結果から示唆された.そこで本研究では,光照射前の細胞に対する洗浄や,血清による処理,トリパンブルーによる消光,などにより,細胞表面の光増感剤の除去または不活性化を試み,PCI法の副作用を減らす効果を調べた.ここでは,PCI法に基づく光依存的細胞質内RNA導入を,副作用低減を検証するための題材として扱った.

  • 小幡 誠, 鹿島 颯人, 廣原 志保
    原稿種別: 原著
    2023 年 44 巻 1 号 p. 69-76
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    [早期公開] 公開日: 2023/04/01
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    光線力学療法のための光増感剤は体透過性の良い長波長の光を吸収する必要がある.このため光増感剤の分子構造は平面性が高く,水溶性の低下と凝集による光化学的特性の低下が問題になることが多い.このような光増感剤の水溶化と腫瘍集積性の付与にはドラッグデリバリーシステム(DDS)の利用が有効である.本論文ではアクリル酸ベンジル(BnA),アクリル酸2-ジメチルアミノエチル(DMAEA),アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(PEGA)からpH応答性を有するブロックコポリマーP(BnA-co-DMAEA)-b-PPEGAを合成した.合成したブロックコポリマーから透析法により高分子ミセルを調製した.調製した高分子ミセルのpH応答性はDLS測定により確認した.またこの高分子ミセルは光増感剤である亜鉛フタロシアニン(ZnPc)を内包し,安定な水溶液を与えた.このZnPc内包高分子ミセルはRGK-1細胞に対して有効な光細胞毒性効果を示した.特にpH応答性をもたない高分子ミセルよりも高い光細胞毒性を示すことを明らかにした.

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