ここ50年間には原子炉の熱中性子線,サイクロトロンあるいはシンクロトロン放射光技術は目覚ましく進展し,国内の至る所で建設され癌の照射治療に活用さていることは広く知られている.これまでのところ癌特異性や癌再発の課題が十分には解決されていないため,現状はまだ新しい放射光照射の癌治療法として全面的には採用されていない.この癌特異性と癌再発の課題解決のため,我々はポルフィリン環が持つ癌選択性を活用し解決する手段として適用し,これら線源照射の増感性を評価した.
熱中性子線に対する補足剤10Bデカーボネートとポルフィリン(Chlorine-E6)の誘導体(Compound-B: CB)をこれら放射光とレーザー光の増感剤として使用した.
まずCBの光線力学治療(Photodynamic Therapy: PDT)における光増感効率を標準メチレンブルー(MB)や臨床用レザフィリン(Talaporfin Sodium)の一重項酸素生成能と比較検討した.その結果,MBや従来の臨床光増感剤に比べ約12~35%の光増感性が期待できることがわかった.
次にその熱中生子線,陽子線と炭素線照射に対するCBの増感性検証のため,CBを投与したC6脳腫瘍培養細胞を使用し,熱中性子線は京都大学原子炉実験所及び炭素線マイクロビームは原子力研究開発機構高崎量子応用研究所でin vitro実験をおこなった.同細胞を移植の腫瘍モデルマウスを使用したin vivo実験では,シンクロトロン陽子線は(公財)若狭湾研究センターで,同じく炭素線は旧放射線医学総合研究所及び比較的高エネルギーのX線(>75 keV)は福井大学医学部RIセンターの3施設で行った.尚,各々の共同利用のマシンタイム申請後,照射効果をその都度検討した.
その結果,それぞれ異なる照射線源や照射条件下においても共通して,CBの増感効果を確認できた.更に従来から研究継続の光線力学治療(Photodynamic Therapy: PDT)との併用照射の追加治療により抗腫瘍の相乗的効果を得た.腫瘍の再発を効率良く防止でき,腫瘍は縮退し消失のケースも見られた.
したがって両用増感剤分子CBは癌特異性と,熱中性子線だけでなく陽子線や炭素線のシンクロトロンやサイクロトロン放射光に対する増感作用及びPDT併用治療の相乗効果により,癌再発の課題を解決する手段として有効であることがわかった.これによりCBの適用は新しい放射光の対処法(もしくは治療法)として全面的に採用が可能である.実現の方法としては,BNCT,陽子線や炭素線などの治療施設にコンパクトな半導体レーザーを運び込み,照射後にPDTを併用して実施することが考えられる.
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