近年, レーザーを用いた手術が数多く行われるようになってきたが, 中耳手術の分野でも, 種々のレーザーが使用されるようになってきた. しかしながら, どのようなレーザーを用いるかは, 各術者の臨床経験より選択されており, 基礎的な裏付けが, ほとんどなされていないのが現状である. そこで, 我々は中耳手術における側頭骨や耳小骨の切削に対し, どのようなレーザーが最も適しているかを明らかにするため, 耳小骨の光吸収スペクトルの解析を試みた. 更に, その結果から耳小骨切削に適当と思われるレーザーを選択し, その効果を確認した. 耳小骨の光吸収スペクトルには, 3.03 μm, 6.10 μm及び9.83 μmの3つのピークを認めた. 3.03 μmは水の吸収帯を, 6.10 μmはアミド基, 9.83 μmはリン酸基の吸収帯を示していると考えられた. これらの結果より, 3.03 μmに対してはEr:YAGレーザー (発振波長2.94 μm), 9.83 μmに対してはCO
2レーザー (発振波長10.6 μm) を選択し, 耳小骨 (キヌタ骨) への照射実験を行った. CO
2レーザーの照射では, 耳小骨の照射中央が陥凹し, 周囲は炭化を伴っており, 切削深度は比較的浅く, 切削辺縁はなだらかであった. また, 切削面は粗く, 小さな亀裂が多数観察された. 一方, Er:YAGレーザー照射では, CO
2レーザーと比べ, 切削深度は深く, 周囲の骨には炭化を伴っていなかった. 切削面は非常にスムースで, 凹凸が少なく, 亀裂も認められなかった. 以上の結果より, 中耳手術における骨の処理には, Er:YAGレーザーが適していると考えられた.
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