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植田 浩一, 佐野 浩
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502
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
環境ストレスの中でも病害ストレスは、特に深刻な問題である。植物は病害に対し、細胞死を起こす積極的な抵抗性を示す。この反応の事を過敏感反応(Hypersensitive Response : HR)と呼ぶ。タバコのタバコモザイクウィルス(TMV)に対するHRによる抵抗性は、タバコのN因子に依存している。N因子がTMVのAvrである、RNA複製酵素中のヘリカーゼドメイン(p50)を認識する事でHRを起こす。本研究はN因子がp50を認識した後の情報伝達機構を明らかにする事を目的とした。
N因子の下流で応答する遺伝子はこれまでにいくつか報告されているが、感染実験ではTMVのp50以外の因子の影響を無視する事が出来なかった。そこで、p50を誘導的に発現する事でN因子から始まるHRを同調して起こす事の出来る実験系を構築した。この構築した実験系を用いて、マイクロアレイ解析を行った。その結果、発現が上昇、減少する遺伝子を多数同定した。この実験系において発現の上昇した遺伝子をN因子の下流特異的な遺伝子、発現の減少した遺伝子をN因子の下流で誘導されず一般的な抵抗性に関与する遺伝子に分類した。
また、遺伝子発現を伴わない情報伝達を解析するために、N因子と相互作用する因子をタバコのcDNAライブラリーから単離同定した。同定した因子の機能も併せて報告する。
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依田 寛, 中原 直子, 石橋 佳奈, 佐野 浩
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503
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
傷害初期(~30分)に一過的に発現誘導される
WIZZは、DNA結合能はあるが、転写活性化能がないWRKY型転写因子をコードしている。これまでの解析から、
WIZZのシス配列は-155~-97の領域にあることが分かっていた。この領域をbaitとし、yeast one-hybrid法を用いてトランス因子の同定を試みた結果、EREBP/AP2 DNA結合ドメインを持つ転写因子が単離された。単離された因子はDREB subfamilyに属し、DRE 配列(GCCGNC)に結合する。実際、-155~-97の領域にはDRE配列(GCCGAC)が存在していた。ゲルシフト解析からもこのDRE配列が
WIZZのシス配列であることが示された。また、野生型と過剰発現株のマイクロアレイ解析から、エチレン合成の最終段階を担うACC酸化酵素遺伝子が標的遺伝子の候補として同定されていた。ACC酸化酵素遺伝子は過剰発現株で発現が抑制されていた。今回、ACC酸化酵素遺伝子のプロモーターを単離したところ、プロモーター上にはWIZZが結合するW-box配列が複数存在していた。また、in vivoの一過的な転写活性の解析から、WIZZが ACC酸化酵素遺伝子の発現を抑制することが明らかになった。WIZZは転写抑制因子として作用していることが示された。現在、過剰発現株と発現抑制株での傷害後のエチレン含量を測定している。
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吉井 基泰, 山崎 宗郎, 清水 巧, 宮尾 安藝雄, Agrawal Genesh Kumar, Rakwal Randeep, 大村 敏 ...
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504
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
RIM1遺伝子の
Tos17挿入による部分機能欠失型変異体は、イネ萎縮病ウイルス(RDV)に対して抵抗性を示すことから、この遺伝子はRDVの増殖をサポートする機能を有することが推定されている。
RIM1遺伝子はNACドメインを持つ新規転写因子をコードすることが明らかにされているが、さらに機能解析を進めるため、
RIM1遺伝子の複数の機能欠失型変異体を単離した。これらの変異体では根の伸長が抑制されており、その表現型がジャスモン酸(JA)存在下で生育させた野生型(WT)が示す表現型と類似していた。マイクロアレイ解析により変異体の遺伝子発現プロファイルとJA存在下で生育させたWTのプロファイルを比較したところ高い相関が見られた。これらの結果より、
rim1変異体においては構成的にJAシグナルが活性化されていることが明らかになった。そこで、
rim1変異体がJA過剰蓄積変異体であるのか、あるいはその下流のシグナル伝達変異体であるかを区別するために、内在のJA量を測定した。その結果、
rim1変異体におけるJA量は野生型と同レベルであることが明らかになった。したがって、
rim1変異体はJAシグナル伝達変異体であり、野生型RIM1はJAシグナルを負に制御する転写調節因子として機能していることが明らかになった。いくつかの植物ホルモンのシグナル伝達には転写調節因子のプロテアソームによる分解が関与していることが知られているが、RIM1が同様な制御を受けているのかを検討中である。
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清水 崇史, 岡田 敦, 軸丸 裕介, 中条 哲也, 芳賀 健, 飯野 盛利, 長村 吉晃, 渋谷 直人, 瀬戸 秀春, 岡田 憲典, 野尻 ...
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505
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
イネ培養細胞においては、キチンエリシター(以下エリシターと略記)処理により、ファイトアレキシンの生産や抗菌性タンパク質の発現誘導等、様々な防御応答が誘導される。このようなエリシター誘導性の防御応答のある種のものについては、ジャスモン酸が二次シグナルとして関与していることが示唆されている。しかしながら、イネの防御応答におけるジャスモン酸の生理機能については、その多くが未解明である。そこで、本研究では、ジャスモン酸欠損変異株と考えられる、イネ光形態形成変異体
cpm2由来の培養細胞を用い、エリシター誘導性の防御応答について正常型イネと比較することで、ジャスモン酸とエリシター誘導性の防御応答の関係についてさらに詳細な知見を得ることを試みた。
cpm2と正常型イネにおけるエリシター応答性遺伝子をマイクロアレイ解析により比較検討した。その結果、正常型イネにおけるエリシター応答性遺伝子3384のうち720が
cpm2において発現抑制が認められた。それら発現抑制が認められた遺伝子の中には、ファイトアレキシン生合成酵素、ジャスモン酸応答性情報伝達に関わる転写制御因子、ジャスモン酸生合成酵素、リン脂質代謝酵素等をコードするものが含まれていた。また
cpm2においては、エリシター処理によるファイトアレキシン生産も抑制されることが示された。
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宮本 皓司, 岡田 憲典, 鈴村 孝史, 大谷 敬, 桐渕 協子, 長村 吉晃, 渋谷 直人, 野尻 秀昭, 山根 久和
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506
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
ジャスモン酸(JA)は植物の病害抵抗性発現において二次シグナル物質として働く植物ホルモンである。植物の病害抵抗性発現におけるJAを介したシグナル伝達経路の解明を目指し、イネ培養細胞を用いてJA応答性遺伝子の単離を行ってきた。その過程で、我々はbHLH型転写因子をコードすると考えられる
RERJ1をJA早期応答性遺伝子として単離するとともに、
RERJ1の過剰発現体を用いたマイクロアレイ解析も行い、RERJ1の標的候補遺伝子についても報告した。今回はRERJ1と標的候補遺伝子との関連を詳細に解析するため、estradiol添加によりRERJ1の発現を制御できる誘導型
RERJ1発現株(XS株)を作製した。XS株は1mM estradiol添加後1時間以内にJA処理と同等な
RERJ1の転写誘導を示した。現在XS株を用いた発現解析、レポーター・ジーンアッセイにより、RERJ1に直接発現制御を受ける標的遺伝子の解析を進めている。また、GAL4 DNA結合ドメインを保持させたRERJ1をエフェクターとし、GAL4シス配列下流にホタルルシフェラーゼをつないだコンストラクトを用いたレポーター・ジーンアッセイにより、RERJ1が転写活性化能を有することが示された。以上の結果から、RERJ1はJAシグナルによる発現誘導後、下流標的遺伝子の発現を正に制御することで病害抵抗性発現に寄与することが示唆された。
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岡田 敦, 長村 吉晃, 岡田 憲典, 渋谷 直人, 野尻 秀昭, 山根 久和
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507
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
我々は、イネの主要なジテルペン型ファイトアレキシンであるモミラクトンの生合成に関与するジテルペン環化酵素遺伝子
OsKS4のプロモーター解析を行い、そのエリシター誘導の発現にbZIP型転写因子が関与している可能性を示した。今回は、
OsKS4の発現を直接制御する転写因子を同定する目的で、キチンエリシター処理したイネ培養細胞を用いたマイクロアレイ解析及びqRT-PCRを行った。その結果、2種のbZIP遺伝子(
OsTGA1,
OsbZIP21)がエリシター応答性を有していることが確認された。また、これら2種のbZIP遺伝子の
Tos17挿入変異株の内、
Ostga1挿入変異株において
OsKS4のエリシター応答性、モミラクトン類の生産の顕著な低下が認められた。さらに、この変異体を用いてマイクロアレイ解析を行った結果、
OsKS4を含むテルペノイド生合成に関与する遺伝子の多くがその発現を減少させていた。また、GST融合タンパク質として大腸菌で発現させたOsTGA1を用い、ゲルシフトアッセイを行ったところ、
OsKS4上流域に存在するエリシター応答性転写制御領域への結合が認められた。さらに、OsTGA1が転写活性化能を有していることも示された。以上の結果は、OsTGA1が
OsKS4の発現を直接制御する転写因子として機能していることを強く示唆している。
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園田 裕, 加藤 航, 筒井 友和, 市川 尚斉, 中澤 美紀, 藤田 美紀, 関 原明, 篠崎 一雄, 松井 南, 池田 亮, 山口 淳二
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508
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
我々はFOX Hunting Systemを用いてシロイヌナズナのgain-of-function型細胞死形質変異体を単離した.本過剰発現体(35S::
DEAR1)はロゼット葉に病斑様の細胞死が恒常的に引き起こされ、セネッセンスが促進される特徴を持つ。35S::
DEAR1の導入遺伝子
DEAR1(
DREB and
EAR motif protein)は,DREBドメインとEARドメインを持つ転写抑制因子をコードしていることが示唆された.
DEAR1の遺伝子発現は病原体感染シグナルによって誘導された。35S::
DEAR1では、1)病原体抵抗性遺伝子の発現上昇, 2)SAの内生量の増大が観察された.これらの結果より35S::
DEAR1が示す細胞死は,病原体に対する抵抗性獲得を目的とした戦略的細胞死であると結論した.
DEAR1の遺伝子発現は低温処理によっても誘導された.35S::
DEAR1では、1)
DREB1Aおよび
rd29Aなどの低温誘導性遺伝子の多くが抑制され,2)耐凍性が低下していることが観察された.これらの結果からDEAR1は低温応答のホメオスタシスを保つ役割も担っていると考えられた。以上の結果から,DEAR1は病原体応答と低温応答の両方に関与することが明らかとなった。すなわち、DEAR1は生物的ストレスおよび非生物的ストレスのシグナル伝達経路のクロストークの鍵となる抑制型転写制御分子と考えられ、これについて議論したい.
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児玉 豊, 佐野 浩
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509
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
環境ストレスに対応するシステムの一つとして、進化による適応がある。形態変化や抵抗性獲得はその代表的な例である。分子レベルでは、その原動力になる因子としてタンパク質の多様化が考えられる。本研究では、タンパク質の多様化を生む現象のうち、細胞内局在性の変化をとりあげた。実験的には、核から葉緑体へ局在を変化させるタバコのNtWIN4蛋白質について検討した
1)。NtWIN4は、病傷害によって誘導され、クロロシスを介して過敏感細胞死に関わる
2)。NtWIN4は典型的なbHLH蛋白質である
2)。bHLHは核の転写因子モチーフとして知られているため、NtWIN4は核の転写因子が葉緑体蛋白質に転用されたもの、と推定した。事実、最初のAUGではなく二番目のインフレームAUGから翻訳されたタンパク質が葉緑体型となる事を示めしたが、その機構は不明であった。今回、最初のAUGが欠失した短いmRNAを同定した。このmRNAから葉緑体型NtWIN4が翻訳されたため、mRNAの長さの違いが細胞内局在性を変化させた原因の一つであることが示された。また、本講演では、タバコの複二倍体化が起こしたと考えられるNtWIN4の自然淘汰に関しても述べたい。
1) Kodama,
Plant Biotechnol (2007)
2) Kodama and Sano,
J Biol Chem (2006)
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岩元 明敏, 杉山 宗隆
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510
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
植物の先端成長は環境要因によって大きく変化し、その結果は細胞増殖と体積増大(体積成長)の違いとして現れる。私達は細胞増殖と成長とを関連づける独自の数理モデルを組み込んだ細胞動力学的手法を用いて、異なる温度条件で生育したシロイヌナズナ根端成長を解析し、細胞増殖と体積成長の複合的な関係を解体し定量的に分析してきた。これまで、28℃、22℃、16℃の3条件で予備的な解析を行い、22℃と28℃では成長の空間パターン、比コスト係数ともに顕著な違いがない一方(「比コスト係数」は数理モデル解析によって算出されるパラメータであり、細胞増殖、体積成長、器官維持の各側面の相対的効率を反映する)、16℃では22℃、28℃と比べて体積増大速度が著しく低下しており、細胞増殖率に関しても減少が認められることなどを明らかにした。今回は、この3条件でサンプル数を増やして十分なデータを得るとともに、25℃と19℃の条件でも根端成長の測定を行い、より詳細に温度条件の違いによる影響を解析した。また、解析にはG2/M期マーカー遺伝子の
CYCB1;1p::CYCB1;1:GUSを持つ形質転換体を用い、根端の分裂域におけるGUS発現細胞数を測定して、細胞動力学的解析の結果との比較も行った。本発表ではこれらの結果に基づき、温度が根端成長に与える影響の本質について報告する。
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木村 泰裕, 桐山 春奈, 吉森 晃, 久保 美雪, 和田 拓治, 西村 泰介, 石黒 澄衞, 槻木 竜二, 松本 任孝, 岡田 清孝
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発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
植物の根の表皮細胞には根毛が存在するが、土壌から水や養分を効率よく吸収するためには、根と根毛が土壌に接触していることが非常に重要である。寒天上で生育させた野生型シロイヌナズナでは、根が寒天から離れると根毛が長くなる現象が観察される。これは接触という刺激に応答して細胞がその形態を変化させたことを示していると考えられる。
timid (
tmd) 突然変異体は、根が寒天から離れた時に野生型とは異なり根毛が短くなる。
TMD 遺伝子はGPIアンカータンパク質をコードし、TMDタンパク質とGFPとの融合タンパク質を発現させその局在を調べたところ、GFPの蛍光は根の根毛細胞の細胞境界付近で強かった。この根を高張液中に浸して原形質分離させると、GFPの蛍光は細胞膜の内側の強いシグナルに加えて、根毛の先端で細胞膜の外側のアポプラスト空間でも見られた。このことから、TMDタンパク質は膜から分泌されていることが示唆された。さらに、TMDタンパク質のC末端領域を欠損させた分泌型TMDと、この領域を膜貫通ドメインに置換した膜結合型TMDを
tmd 突然変異体で発現させると、分泌型TMDを発現させた植物でのみ空中での根毛の伸長が見られた。以上の結果から、TMDタンパク質は根毛の先端において細胞外に分泌され、接触刺激に応答した根毛伸長を制御していることが示唆された。
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小林 啓恵, 高橋 あき子, 柿本 洋子, 宮沢 豊, 藤井 伸治, 東谷 篤志, 高橋 秀幸
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512
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
根は,さまざまな環境刺激に対して応答して成長し,根系を発達させている.なかでも,水分勾配を感受し,水分含量の多い方向へ屈曲する成長運動は水分屈性と呼ばれている.しかしながら,この水分屈性は重力屈性と分離することが困難なため研究があまり行われておらず,また多くは生理学的な解析が中心であったため,その分子機構は未解明である.そこで我々は,水分屈性発現の分子機構を明らかにするために,シロイヌナズナにおいて水分屈性能に異常を示す突然変異体(
mizu-kussei:
miz)の単離と解析を行ってきた.本研究では,単離した
mizの中でも,水分屈性を完全に欠損している
miz1に着目し,その変異原因遺伝子を同定するとともに,
MIZ1について解析を行った.その結果,
miz1は第2染色体上長腕に座乗する劣性の変異であり,その特性として,重力屈性は正常で,光屈性や波形成長がわずかに低下することを確認しており,
MIZ1はとくに水分屈性に重要であることが示唆された.同定した
MIZ1は,植物にのみ存在する機能未知ドメインを含む新規タンパク質をコードしており,植物が陸地環境へ適応することに寄与していると考えられる.また,
MIZ1は
pMIZ1: GUSを用いた解析より根冠で発現していたため,水分勾配の感受機能に関わる可能性が示唆された.尚,本研究課題は生研センター基礎研究推進事業により実施されたものである.
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中村 守貴, 齋藤 知恵子, 森田(寺尾) 美代, 田坂 昌生
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513
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
シロイヌナズナ花茎重力屈性異常変異体
shoot gravitropism 9(
sgr9)は花茎重力屈性反応が低下しているが弱い重力屈性能を示す。
SGR9遺伝子はRING fingerドメインを持つタンパク質をコードする。
sgr5の花茎もまた弱い重力屈性能を示す。SGR5は転写因子と考えられるタンパク質である。いずれの遺伝子も花茎重力屈性反応において重力感受細胞と考えられる内皮細胞内で機能する。
sgr5sgr9二重変異体は8時間重力刺激を与えても全く屈曲せず,重力屈性能を失っていた。これまでに解析された重力屈性能を失った
sgr変異体では,内皮細胞の形成,あるいは内皮細胞内の液胞形成に異常がみられた。ところが,
sgr5sgr9では,内皮細胞は形成され,液胞形成にも目立った異常は観察されなかった。花茎縦断切片の観察によると,野生型の内皮細胞内ではほぼ全てのアミロプラストが重力方向に沈降しているのに対し,
sgr9では約半数の内皮細胞で数個のアミロプラストが沈降せずに細胞の中央部に観察された。一方,
sgr5sgr9ではほぼ全ての内皮細胞で相当数のアミロプラストが重力方向に沈降せず細胞内に浮遊している様子が観察された。
以上のことから,
SGR9はアミロプラストの沈降を介して,
SGR5とは遺伝学的に独立に重力屈性反応に関与することが示唆された。現在,これらの変異体におけるアミロプラスト動態の解析を進めている。
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木下 勲
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発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
endoreduplicationは動植物にわたって広く見られる現象であり、核のploidyレベルと細胞の大きさが比例することは古くから知られている。しかし、核DNA量の増加がどのようにして細胞の体積増加を引き起こすかは明らかでない。
インゲンマメを約10日間弱い赤色光下で育てて第一葉の細胞分裂が終わった後、明るい白色光下に移すことによって、細胞を急速に大きくする方法(Van Volkenburgh and Cleland, 1979)の変法を用いて、細胞の体積増加を引き起こし、上面、下面表皮細胞と葉肉細胞の核DNA量の変化を調べたところ、下面表皮細胞と葉肉細胞は2Cのままであるが、上面表皮細胞では、明るい白色光下に移動後4日目までに同調的に4Cに増加する。このとき、下面表皮細胞は5日目までに面積が約60%増加するが、それ以後は増加しない。一方、上面表皮細胞の面積は、5日目までに約2倍になり、それ以後も増加し続ける。明るい白色光下に移動させるとすぐにプロトンの細胞外への排出が起こり、酸成長のメカニズムで、細胞壁のゆるみが生じて細胞の体積が増加することは既に知られている。このメカニズムによる細胞成長は5日目までに終わると考えられる。ここで得られた結果は酸成長後の細胞成長がendoreduplicationによって支えられていることを示唆している。
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原田 太郎, 横山 隆亮, 西谷 和彦, 石澤 公明
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発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
単子葉水生植物ヒルムシロ(
Potamogeton distinctus A. Benn.)は、地下に殖芽とよばれる越冬繁殖器官を形成する。この殖芽は、陸上植物には見られない非常に強い嫌気耐性を示す。その無酸素条件下でのエネルギー生産の持続は、細胞内に蓄えられたデンプンの分解と、活発なスクロース代謝が関連して生じる糖の供給により支えられていると考えられる。スクロース合成酵素(SuSy)は、低酸素や無酸素ストレスにより発現が高まることが、ヒルムシロだけでなく他の多くの植物でも知られている。そのことから、嫌気耐性におけるSuSyの役割が注目されている。
我々は、ヒルムシロ殖芽から無酸素条件下で発現上昇するSuSy遺伝子(
PdSUS1)を単離し、これをタバコBY-2懸濁培養細胞に導入した過剰発現株を作製し、無酸素条件においた細胞の生存率をエバンスブルー染色により評価した。形質転換細胞では、SuSyの活性上昇に応じて、細胞内の糖含量の高まりと、インベルターゼ活性の上昇が見られた。また、SuSyを過剰発現した2つの株では、無酸素条件下での生存率の改善が認められた。このことは、SuSyが植物細胞の嫌気耐性を左右する重要な要因であることを強く示唆するものである。
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加賀谷 安章, 堤田 久美子, 山本 章子, 鈴木 将史, 谷口 桂太, 堺 和彦, 加賀谷 道子, 服部 束穂
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発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
シロイヌナズナでは、受粉後8日目頃に胚の細胞分裂が停止し、14日目頃にABA含量がピークに達して休眠性を獲得すると考えられている。
fus3変異体では、胚の細胞分裂停止の遅延とABA生合成量の低下が生じる。それゆえ、FUS3は、胚成長停止と休眠性の獲得を正に制御すると考えられるが、特に胚成長停止のメカニズムの詳細は不明である。そこで、今回、主に、FUS3人為的発現系形質転換植物を用いて解析した。実生でFUS3を異所発現させると、細胞分裂活性の著しい抑制が観察された。この形質転換植物に
aba2変異を導入したところ表現型の部分的な消失しか観察されなかった。さらに、FUS3を異所発現させた実生は、オーキシン非感受性であることが観察された。以上の結果は、FUS3がオーキシンシグナル伝達の抑制を制御することで胚の細胞分裂の停止を制御していること示唆する。そこで、FUS3の下流経路を明らかにするため、新規変異体の分離を試みた。FUS3人為的発現系植物を変異原処理し、FUS3の異所発現による成長停止が回避された変異体をスクリーニングした結果、胚の成長停止が遅延したと考えられる変異体を分離した。これら変異体のオーキシンシグナル伝達の変化について現在解析中であり、あわせて報告したい。
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Thangavelu Arumugam, Shunnosuke Abe
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発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
Makorin RING finger protein gene (MKRN) family encodes proteins with a characteristic array of zinc-finger motifs. We characterized the structure and expression of MKRN gene from pea and rice. Pea and rice MKRN cDNAs encoded putative *makorin* consisting of four C3H motifs, one Cys-His motif, and one RING motif. This feature clearly established that this gene in pea and rice as true MKRN orthologs. RT-PCR studies in pea and rice revealed that MKRN transcripts were present at very low levels even in dry seeds. Its expression was induced during imbibition and germination periods. A tissue-dependent expression pattern of MKRN was observed in root and shoot tissues in the later stages.
In situ hybridization study, in rice, revealed that MKRN was expressed in young plumule, lateral root primordia, leaf primordia, leaves and roots. These findings suggest that MKRN plays an important role in germination and development in both pea and rice.
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米田 基人, Thangavelu Arumugam, Davies Eric, 阿部 俊之助
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発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
apyraseはNTPとNDPを加水分解する基質特異性が低い酵素で、エンドウでは
Apy1と
Apy2が報告されている。アラスカエンドウ黄化芽生え第一節間の細胞骨格画分にはAPY1が多量に存在しており、細胞内で多局在性を示す。そこで、芽生えの成長と分化におけるapyraseの役割を明らかにするため、発芽初期でのAPY1の発現をウェスタンブロッティング、RT-PCRおよび免疫組織化学により解析した。APY1は播種後10時間から発現量が組織全体で急激に増大し、根茎葉の器官形成が終わる62時間で最大量に達した。また、RT-PCRによって
Apy2の発現は10時間以降でわずかながら検出された。吸水時から発現が高まる細胞骨格タンパク質遺伝子(
ACT、
TUB)とは異なり、
Apy1は発芽直後から転写が始まったのち器官形成初期に転写が最も活発となる発芽後誘導遺伝子であることがわかった。また、器官によっては組織部位特異性も観察され、芽生えの器官形成初期に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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杉本 和彦, 竹内 善信, 廣近 洋彦, 矢野 昌裕
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発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
穂発芽は高温・多湿により穀類の種子が収穫前におこる現象であり、穂発芽した種子はその品質が低下することから、穂発芽耐性は穀類における重要な農業形質の一つとなっている。我々は、これまでに日本晴/カサラースの戻し交雑系統を利用して5種類の穂発芽関連QTLを見出している。今回は、第7染色体に存在する穂発芽耐性遺伝子
Seed
Do
rmancy 4 (
Sdr4)を単離・同定した。高精度連鎖解析により
Sdr4の候補領域を8.7 kbpに絞り込むことに成功した。この領域には3つの遺伝子が予測され、このうち2つの予測遺伝子が穂で発現していた。候補領域を含むカサラース由来のゲノム断片11.6 kbpを穂発芽が易である日本晴に導入し、固定系統に実った種子の発芽率を調べた結果、形質転換体の穂発芽は抑制された。さらに、候補遺伝子の一つのみを持つ3.3 kbpの断片を導入した結果、穂発芽の抑制が観察されたことから、この候補遺伝子が
Sdr4であること判明した。ミュータントパネルから見いだされた日本晴由来の候補遺伝子の欠失変異体では発芽率が上昇しており、日本晴型
Sdr4にも穂発芽抑制機能が保持されていた。さらに、シロイヌナズナのホモローグのT-DNAタグラインでは発芽率の低下が観察されたことから、シロイヌナズナの
Sdr4ホモローグは、発芽を促進する因子であることが示唆された。これにより
Sdr4による発芽の調節機構は植物全般に存在することが示唆された。
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近藤 洋, 岡崎 桂一, 竹能 清俊
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520
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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我々はすでにDNA脱メチル化剤である5-アザシチジン(azaC)で短日植物であるシソの花成を長日条件下で誘導できることを明らかにしている。このとき、メチル化頻度の高いrDNA間のスペーサ領域が脱メチル化されることも示した。これらのことから、光周的花成にエピジェネティクスが関与する可能性が示唆された。光周的花成に関与する遺伝子の発現が脱メチル化によって誘導されるのであれば、次の世代ではその遺伝子は再メチル化され、不活性化されるはずである。そこで、azaC処理で開花したシソから得た種子を発芽させ、非誘導条件で育てたところ、その個体は花成に至らず、rDNAスペーサ領域は再メチル化されていた。これらの結果は、シソにはDNA脱メチル化をリセットする機構が存在し、花成関連遺伝子はこのような脱メチル化/再メチル化の制御下にあることを示唆する。つまり、シソの花成関連遺伝子は通常メチル化されており、短日条件で脱メチル化される可能性が考えられる。そこで、メチル化感受性の制限酵素を用いたAFLP法によって、DNAメチル化レベルの変化を調べた。シソのクローンを作成し、一方を長日条件、他方を短日条件で培養したところ、短日処理植物のDNAに特異的なバンドが検出された。このことは短日条件下でDNAのメチル化レベルが変化したことを示す。この短日特異的なバンドに基づいて花成関連遺伝子のクローニングを試みている。
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岩崎(葉田野) 郁, 内山 和子, 小野 清美, 渡辺 一郎, 八坂 通泰, 来田 和人, 原 登志彦, 小川 健一
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521
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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我々は低温・乾燥が著しい寒冷圏では光ストレスによって北方林樹木のライフサイクルが制御されるという仮説のもとにその制御機構の解明を行っている。本研究では、北方林樹木の花成の制御機構を明らかにするため、北方林主要構成樹種カラマツ属グイマツ(
Larix gmelinii var.
japonica)を用いて花芽形成遺伝子の相同遺伝子を単離し、その機能の解析を行った。北海道立林業試験場(美唄)に生育するグイマツからシロイヌナズナの花成決定遺伝子
LEAFYの相同遺伝子
LGY1と
LGY2を単離した。
LGY1と
LGY2は開花した雄花や雌花よりも、翌年に花となる芽で高い発現が認められた。芽において、
LGY1の発現は花芽形成が開始すると考えられる5月から増加し9月に減少したのに対して、
LGY2の発現は恒常的に認められた。シロイヌナズナ花器官形成遺伝子
AGAMOUSのグイマツにおける相同遺伝子は、芽において7月から発現が認められたことから、
LGY1は花器官形成が開始される以前に発現が始まると考えられ、グイマツの花芽形成の決定に関与すると考えられた。本発表では
LGY1および
LGY2をcauliflower mosaic virusの35Sプロモーターを用いて過剰発現させたシロイヌナズナ形質転換植物の解析結果と合わせて、
LGY1および
LGY2の機能について報告する。
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槻木 竜二, 鷲見 芳紀, 岡田 清孝
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522
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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高等植物の器官組織形成において、オーキシンの分布・濃度勾配のパターンが重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある。葉脈パターン形成の場合、葉原基において表皮下の特定の未分化細胞群でオーキシンの局所的蓄積が起こり、それら特定の細胞が後に維管束細胞に分化すると考えられている。一方、オーキシンの正常な分布にはオーキシンの極性輸送が必要なこと、その極性輸送にはPINタンパク質の発現調節と極性的膜局在が重要であることも示されている。しかしながら、これらを制御する分子機構についてはあまり明らかにされていない。私たちは葉脈形成に必要な遺伝子として
NO VEIN (
NOV)遺伝子を同定し、同遺伝子が葉と胚それぞれにおいて発生に伴ってダイナミックに変化するオーキシンの分布パターン形成に必要であることを明らかにしている。
NOV遺伝子は、高等植物にしか見出せない分子量約300,000の機能未知タンパク質をコードする。本発表では、NOVの発現パターンと細胞内局在性、PINタンパク質の極性的局在に必要な
GNOM遺伝子と
NOVの遺伝学的相互作用、
nov変異体におけるPINタンパク質の発現パターンと局在性などを報告し、
NOVのオーキシン分布パターン形成における役割について考察したい。
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為重 才覚, 豊倉 浩一, 渡辺 恵郎, 松本 任孝, 岡田 清孝
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523
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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多くの植物の葉において、向軸側(表側)に柵状組織が、背軸側(裏側)に海綿状組織が発達するなど、向背軸に依存した細胞分化が見られる。これは葉原基の向軸側・背軸側それぞれで異なる遺伝子群が発現し、適切な細胞分化を起こすためと理解されている。それぞれの遺伝子が特異的に発現するには、予め何らかの極性が向背方向に形成されなければならないと考えられるが、その向背の極性を形成する分子機構は未だよくわかっていない。
シロイヌナズナ
FILAMENTOUS FLOWER (FIL) は背軸側特異的に発現して、背軸側の細胞分化を促す遺伝子の一つである。葉原基形成のごく初期からこの特異的発現が見られることから、我々は
FIL 発現パターンを向背の極性の指標と捉え、そのパターンに変化の見られる突然変異体を向背の極性が異常な突然変異体として単離した。
突然変異体
#2.0-07-4では
FIL プロモータ制御下での
GFP 発現が野生型に比べて向軸側にまで拡大していた。そこで葉の向軸側の葉肉細胞を観察すると、複雑な凹凸を持つ細胞や広い細胞間隙など、海綿状組織のような特徴が見られた。このことから
#2.0-07-4は向軸側の組織が背軸側化した突然変異体であると考えられた。
現在
#2.0-07-4の原因遺伝子のクローニング、詳細な表現型解析、fil突然変異体との二重突然変異体の解析を進めている。
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豊倉 浩一, 渡辺 恵郎, 松本 任孝, 岡田 清孝
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524
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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シロイヌナズナの葉では向軸側(表側)と背軸側(裏側)とで細胞の形態や、気孔やトライコームの数が異なっていることが知られている。向軸側では
FILAMENTOUS FLOWER (
FIL)などが、背軸側では
PHABULOSA (
PHB)などが特異的に発現しており、それぞれの発現領域で細胞分化を促していると考えられている。向軸側・背軸側の領域の境界は常にそれぞれの表皮からほぼ等距離の位置に形成される。しかし、向背の境界の位置がどのような機構で決定されるかは分かっていない。
我々は背軸側特異的にGFP を発現する
FILp::
GFP 形質転換植物を変異原処理することによって向背の極性が異常になる突然変異体を複数選抜してきた。それらの突然変異体のうち、
#1-63 突然変異体は背軸側マーカーの発現領域が向軸側にまで広がっている葉と、逆に狭くなっている葉の両方を形成するという表現型を示し、極端な場合には全体で背軸側マーカーを発現する針状の葉を形成した。また、
#1-63 突然変異体において向軸側マーカーは、野生型と同様に背軸側のマーカーが発現していない領域で相補的に発現していた。このことから、
#1-63突然変異体は向軸側と背軸側の境界位置の決定が異常になった突然変異体であると考えられた。
#1-63突然変異体の葉の形態の解析、及び、原因遺伝子のクローニングの途中経過についても合わせて報告したい
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中田 未友希, 舟木 俊治, 松本 任孝, 槻木 竜二, 岡田 清孝
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525
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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葉や花器官、花などの側生器官では茎頂分裂組織を基準とした向軸側と背軸側、横側(側部)のそれぞれに特徴的な組織が形成される。側生器官の向背性の分化に関してはその分子機構の解明が進んでいる一方で、側部特異的な分化の分子機構はほとんど明らかにされておらず、側部の分化に関わる因子についての知見も非常に少ない。
私たちは側部の分化に関わる遺伝子として
PRS 遺伝子を同定し、同遺伝子が横側のがく片と托葉の形成に必須であること、側生器官原基の側部で特異的に発現していることを明らかにしている (Matsumoto and Okada, 2001) 。さらに、
PRS の5'側上流2.3 kb の領域が側生器官原基側部での発現に十分であることも明らかにしている。
側生器官側部の分化機構を明らかにする第一歩として、
PRS の発現を制御するシス因子の探索を進めており、これまでに、葉と花器官、花芽における側部特異的な発現に必要な140 bp の領域Aを5' 側上流2.3 kb 内に同定した。また、領域A は側生器官原基形成初期に見られる強い発現に十分であった。これらの結果は領域Aに原基形成初期からの側部特異的な発現に関わるシス因子が含まれることを強く示唆している。現在酵母1ハイブリッド法を用いて領域Aに結合するトランス因子をスクリーニングする準備を進めており、その結果もあわせて報告する予定である。
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八木 慎宜, 檜垣 マリコ, 岡田 清孝
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526
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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植物細胞は細胞壁に覆われているため、動物細胞のように移動することはできない。そのため、細胞の形は植物の形をきめる重要な要素である。細胞の形は細胞が極性をもち方向依存的に伸長することによって決まるが、その遺伝的制御システムについては十分に理解されていない。我々は細胞伸長に異常が見られる突然変異体
itosugi(
itg)について解析を行っている。
itg突然変異体では、胚軸と根の伸長抑制と肥大化が観察され、右巻きにねじれる表現型を示す。細胞レベルでは、胚軸と根の伸長方向における細胞伸長抑制と、胚軸と根の伸長方向と垂直な方向への細胞の肥大化が観察された。これらの表現型は、方向依存的な細胞伸長に重要な表層微小管の配向パターン制御に関わる
SPIRAL1遺伝子および
SPIRAL2遺伝子の突然変異体と類似している。これらの突然変異体と
itg突然変異体との二重突然変異体を作製し遺伝学的解析を行っている。
ITG遺伝子はC2ドメインとArmadillo(Arm)リピートをもつタンパク質をコードしており、そのドメインの性質から、ITGタンパク質は他のタンパク質や脂質と相互作用し機能することが考えられた。GFP融合タンパク質を用いた細胞内局在解析から、ITGタンパク質は細胞膜付近と細胞質に局在することが明らかになった。ITGタンパク質の機能を明らかにするため、過剰発現体の作製を行っている。
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岩崎 まゆみ, 岩川 秀和, 上野 宜久, 高橋 広夫, 小島 晶子, 小林 猛, 町田 泰則, 町田 千代子
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527
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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高等植物において葉や花の側生器官は、向背軸、基部先端部軸、中央側方軸という三つの軸に沿って発生分化する。シロイヌナズナの
asymmetric leaves2 (
as2)変異体は、この三つの軸形成すべてに異常を示し、葉身の左右非対称な切れ込みや上偏成長、基部先端部軸での成長抑制、葉脈パターンの単純化など、多面的な表現型が現れる。これまでの解析により、
AS2遺伝子は
AS1遺伝子と共に、メリステムの維持に関わるclass 1
KNOX遺伝子(
BP,
KANT2,
KNAT6)の発現を葉において抑制する機能を持つことがわかっている。class 1
KNOX遺伝子と同様に、
AS2によって制御される新たな遺伝子を同定するために、マイクロアレイ解析を行った。野生型、
as1変異体、
as2変異体、
AS2の過剰発現体の15日目の茎頂における発現を比較し、
as1変異体、
as2変異体において発現が増加し、
AS2過剰発現体において発現が減少する遺伝子を調べたところ、複数の遺伝子が得られた。これらの遺伝子の中には、オーキシン応答性の転写因子であり、器官の背軸化に関わると考えられる
ETTIN(
ETT)/
ARF3が含まれており、
AS2は
ETTを介して向背軸決定に関与している可能性が示唆された。今回我々は、
AS2がどのようにして
ETTの発現制御を行っているのかということについて報告したい。
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黒木 理恵, 仁田坂 英二
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528
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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アサガオでは、花の色や模様のみならず、花や葉の形態においても、さまざまな変異体が江戸時代から現在まで保存されている。アサガオの笹
(delicate, dl) 突然変異体の葉は、笹の葉のように裂片が細くなり、花では、花弁が5裂し、花筒が長いという特徴がある。これまでに単離されたアサガオの突然変異体の多くは、原因遺伝子に共通の末端配列を持つ
Tpn1ファミリーに属するトランスポゾンが挿入していた。
dl変異体を持つ系統には、体細胞復帰変異体がしばしば観察される易変性の系統があることから、笹の原因遺伝子も
Tpnの挿入によって引き起こされていることが予想された。STD法を用いて、体細胞復帰変異体から由来する野生型と
dl変異体の
Tpn挿入部位の比較を行った結果、笹変異体にのみ
Tpnが挿入されているゲノム領域を見いだし、笹変異体の原因遺伝子を単離したところ、シロイヌナズナの
FILAMENTOUS FLOWER (FIL)、キンギョソウの
GLAMINIFOLIA (GRAM) のオーソログをコードしていた。
FILや
GRAMは植物の向背軸形成に関与するYABBY familyに属する転写因子で、葉の背軸側で主に発現する。葉の扁平な構造を形成するには、向背軸を決定する因子が、向軸側、背軸側それぞれでバランス良く発現することが重要であり、そのバランスが崩れることによって、葉身が細くなっていると考えられた。
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徐 相規, 小林 勝一郎, 藤原 伸介
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529
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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高等植物ではエチレンとポリアミンはそれらの生合成において,メチオニンから合成されるS-アデノシルメチオニン(SAM)を共通の中間基質としている.本研究では,短命花として知られるムクゲの開花および老化に伴うエチレンの生成ならびに花弁中のACC,結合体ACC,ポリアミン含有量の変化あるいはポリアミンやポリアミンの合成阻害剤による処理が花弁の老化に及ぼす影響を調べ,ムクゲの花の老化におけるエチレンとポリアミンの作用ならびにそれら代謝の相互関係について検討を行った.ムクゲは開花前から花弁中に微量のACCを含有し持続的に少量のエチレンを発生したが,花弁の老化開始前後から結合体ACCの増加と共にエチレン発生量の急激な上昇が認められた.花弁中のポリアミンについては,プトレシンやスペルミジンが大きな変動を示さなかったのに対し,スペルミン含有量はエチレン発生量が上昇するのと対照的に老化の進行に伴って減少した.SAMからのACC合成を阻害するAVGは,エチレン生成を抑制し,花の老化を著しく遅延すると同時に花弁中のスペルミン濃度を高く維持した.一方,SAMの脱炭酸酵素の阻害剤MGBGは,スペルミン合成を抑制するとともにエチレンの生成を促進し花の老化時期を早めることから,エチレンとポリアミンの生合成における共通基質SAMの流れがムクゲの花の寿命に大きく係わっていることが示唆された.
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小林 勇気, 兼崎 友, 黒岩 晴子, 黒岩 常祥, 田中 寛
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530
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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Cyanidioschyzon merolae(シゾン)は、核、葉緑体、ミトコンドリアが1つずつしか存在しない極めて単純な細胞構造をもっている。シゾンでは、核、葉緑体ミトコンドリアの分裂が協調的におこることから、核とオルガネラが共調したDNA複製周期を持つと考えられる。しかし、その同調機構は明らかになっていない。本研究では核、葉緑体、ミトコンドリアそれぞれのDNA複製のタイミングと細胞周期との関係を調べた。
同調培養したシゾンの核、葉緑体、ミトコンドリア遺伝子の特異的配列を用いたReal-time PCRを行い、核、葉緑体、ミトコンドリアのDNA複製期を同定した。これと並行してBrdU取り込み活性の測定、顕微鏡観察によるBrdU取り込みの局在解析もおこなった。その結果、細胞内のDNA複製は、まず葉緑体、ミトコンドリアから始まり、その後核の複製が行われる事が明らかになった。次に種々の阻害剤の添加実験を行った結果、核のDNA複製には葉緑体、ミトコンドリアのDNA複製が必要であり、葉緑体とミトコンドリアの複製はcyclin-CDKに制御されていない事が明らかになった。この事から核のDNA複製は葉緑体もしくはミトコンドリアからの何らかのシグナルにより制御されている事が強く示唆された。現在、葉緑体もしくはミトコンドリアから核へのシグナル伝達物質の同定を行っている。これらを踏まえたシゾンにおける核・オルガネラDNA複製の同調機構のモデルを提示する予定である。
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兼崎 友, 黒岩 常祥, 田中 寛
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531
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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植物細胞には核ゲノムの他に葉緑体、ミトコンドリアのゲノムが存在するが、細胞内の物質代謝や光合成を制御するためには、オルガネラゲノムにコードされた遺伝子の発現を協調的かつ時期特異的に調節することが必要である。原始紅藻
Cyanidioschyzon merolae(以下、シゾン)は、核、葉緑体、ミトコンドリアの全ゲノム配列が解読されたモデル生物であり、同調培養が可能な上、高等植物に比べ重複遺伝子が少ないことからも網羅的手法を用いた核-オルガネラ間の協調的遺伝子発現解析に適した実験材料である。そこで我々はゲノム情報からオルガネラ遺伝子発現解析用のマイクロアレイを設計し、遺伝子発現プロファイルによる遺伝子機能分類と転写調節領域の推定をおこなった。その結果、特定の細胞内機能に関わる遺伝子群ごとに特異的な発現調節機構が存在する可能性が示唆された。また、オルガネラゲノム上の転写ユニット、及び高等植物の葉緑体にも保存される機能未知遺伝子(
ycf)の一部の機能推定をおこなうことができた。シゾンにおける葉緑体遺伝子の発現制御には、核コードの4つのシグマ因子と葉緑体コードの4つの転写因子の関与が予想されているが、これらの因子の発現プロファイルから、核による葉緑体の機能制御ついて考察する。
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華岡 光正, 川上 隆之, 田中 寛
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532
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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葉緑体は、原始シアノバクテリアの細胞内共生によって生じたと考えられているが、その後の長い進化の過程で共生に由来する遺伝子の大部分が失われたとともに、多くの環境応答系は細胞核による支配を強く受けるようになった。原始紅藻
Cyanidioschyzon merolaeは、その葉緑体ゲノムや遺伝子の転写制御系の解析から、葉緑体の成立直後により近い状態を反映していると考えられ、核によるものとは別に葉緑体独自の制御系を有していると予想される。そこで本研究では、
C. merolaeに特徴的な葉緑体転写制御メカニズムを解析することで、共生当初の「より自律的な」環境応答システムを明らかにすることを目的とした。
葉緑体に特異的な制御系を調べるため、本研究では単離葉緑体を用いたrun-on転写系によって光に応答した転写制御の解析を行った。暗順応させた
C. merolae細胞全体に光照射を行った場合、調べた全ての遺伝子の転写活性化が観察され、光によるグローバルな転写制御の存在が示された。これに対し、核による制御を分離するため、暗条件下で培養した細胞から単離した葉緑体に対し光照射を行った結果、
ycf27と
psbDの転写活性のみが特異的に上昇することを見出した。この結果は、葉緑体が自律的な光応答系を介して特定の遺伝子群の転写を制御していることを示唆しており、光合成電子伝達系による制御の可能性についても併せて報告する。
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飯田 聡子, 小檜山 篤志, 内田 博子, 緒方 武比古, 村上 明男
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533
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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光化学系II反応中心D1タンパク質は、前駆体タンパク質として翻訳された後にC末の延長配列(9~16a.a.)が切断除去されることにより成熟する。成熟タンパク質のC末端領域は、水分解反応に関わる4Mn-1Caクラスターや酸素発生複合体(OEC)の配位に関与することから、この延長配列の切断過程は水分解反応の機能発現に必須である。またこの過程はD1タンパク質の速い代謝回転にも関与すると推定されているが、その詳細は明らかになっていない。D1タンパク質は、シアノバクテリアから陸上植物まで保存性が高く、その延長配列も普遍的に存在する。しかし、一部の葉緑体二次共生生物の中に、例外的に延長配列をもたないものがいることが報告されている。D1タンパク質の延長配列の機能解明の手がかりを得るため、私たちは葉緑体を紅藻(ハプト藻)から受け継いだ渦鞭毛藻に着目した。渦鞭毛藻の一種について、D1タンパク質をコードする
psbAを解析したところ、構造の異なる複数の
psbAが存在することが明らかになった。渦鞭毛藻では
psbAを含むいくつかの葉緑体遺伝子は遺伝子が一つずつコードされた環状ゲノム構造(ミニサークル)をもつことが知られている。本発表では、得られた複数の
psbAの遺伝子構造、およびD1タンパク質の機能発現に重要なC末アミノ酸配列などの特徴について報告する。
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寺内 一姫, 北山 陽子, 西脇 妙子, 近藤 孝男
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発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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シアノバクテリアの概日時計は真核生物と同様の概日時計特有の基本性質を保持している。最近、我々はシアノバクテリアの3つの時計タンパク質KaiA、KaiB、KaiCとATPにより、in vitroでKaiCのリン酸化レベルが概日振動することを発見した。この概日時計再構成系を用いて、概日時計がもつ基本性質の分子メカニズムの解明を目指している。KaiCは2つのATP結合モチーフをもち、自己リン酸化活性があることが知られているが、これまでATPase活性は検出されていなかった。今回、概日時計再構成系におけるADP生成量を経時的に測定したところ、KaiCは24時間周期で振動する非常に低いATPase活性をもつことが明らかになった。また、KaiCのATPase活性は概日時計の基本性質のひとつである温度補償性を保持していた。さらにKaiC周期変異タンパク質のATPase活性を測定し周期との関係を解析したところ、概日時計の振動数とKaiCのATPase活性は正比例していた。これらの結果より、KaiCのATPase活性が概日時計の周期を決定づける基本的な化学反応であることが明らかになった。
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芹川 雅之, 三輪 久美子, 鈴木 咲弥香, 近藤 孝男, 小山 時隆
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発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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ウキクサ科
Lemna属の
L. gibba(長日性)と
L. paucicostata(短日性)は光周性・概日時計機構の生理学的アプローチの好材料として半世紀以上前から利用されてきた。私たちはこれらの材料を用いた分子生物学的なアプローチを試みている。概日時計機構に関して、概日リズム発現プロモーター下にルシフェラーゼ遺伝子を持つコンストラクトをパーティクルボンバードメント法で一過的に導入することで生物発光リズムを観測できるレポーター系を確立した。さらに、アラビドプシスで知られている概日時計関連遺伝子(
LHY/CCA1, PRRs, GI, ELF3)のウキクサホモログの機能解析のために過剰発現及びRNAi用のエフェクターコンストラクトをレポーターとともに同時に導入する、共発現系を開発した。この共発現系は植物の概日リズムの分子生物学的解析手法として非常に簡便なものであり、複数の導入遺伝子(コンストラクト)の組合せを自由に変えることが可能である。たとえば、異なる位相のリズム発現をするプロモーターに対するエフェクターの効果の違いや複数のエフェクターを導入することによる擬似多重変異の効果を容易に観測することができる。この共発現系を用いた解析からホモログとして単離したウキクサ時計関連遺伝子と対応するアラビドプシス遺伝子との間の機能の詳細な比較を試みており、その結果について報告する。
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小木曽 映里, 井澤 毅, 高橋 裕治, 佐々木 卓治, 矢野 昌裕
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536
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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短日植物イネの
Hd6遺伝子は、長日条件での開花抑制能を持ち、カゼインキナーゼII(
CKII)のαサブユニットをコードしている。CKIIは他のモデル生物においては概日時計の重要な構成因子であり、長日植物シロイヌナズナにおいては概日時計を介した開花制御が示唆されている。そこで、イネに
CAB1R::lucレポーター遺伝子を導入し、自由継続リズムをモニターしたところ、機能欠損型もしくは機能型
Hd6アリルをもつ系統および
Hd6を過剰発現する系統ともに有意な差がみられなかった。長日条件下での
OsLHY、OsGIおよび光周性花成制御遺伝子
Hd1の定量RT-PCRによる解析でも、開花遅延を説明できるような大きな差は見られなかった。一方、
Hd1の下流にある
Hd3a,RFTの発現は播種後60日目に明確な差が見られた。また、
Hd6による開花遅延に機能型
Hd1が必要であることから、
Hd6による開花遅延はHd1周辺のタンパク質のリン酸化が関わっていることが予想された。イネプロトプラストに一過的に発現させたタグ付きHd1を、タグの抗体で免疫沈降し、沈殿タンパク質のrHd6によるリン酸化を調べた所、Hd1ではなく、約30kDaの共沈タンパク質がリン酸化された。このことは、Hd6がHd1複合体をリン酸化することで開花を制御していることを示唆している。上記の結果をふまえ、
Hd6の開花抑制機構に関して考察する。
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伊藤 照悟, 中道 範人, 木羽 隆敏, 松鹿 昭則, 藤森 徹, 山篠 貴史, 水野 猛
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発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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最近、シロイヌナズナの時計分子機構に関して多くの知見が蓄積しつつある。特に、我々が見いだした時計関連ファミリー因子(TOC1を含む5種類のPRR)はそれぞれが協調的に時計機構に重要な役割を果たしていることが示唆されてきた。中でもPRR9は概日時計機構からの転写制御を受けるだけでなく、フィトクロムシグナル情報伝達を介した迅速な光誘導も受けることが特徴的である。今回我々は、はじめに
PRR9の特徴的な転写レベルでの制御機構を解析するため、
PRR9の5'上流領域を
LUC(luciferase)レポーターを用いて詳細に解析した。これらの解析から、
PRR9プロモーター上流に少なくとも二つの別々の調節シス領域、(1)光シグナル応答配列と(2)概日リズム形成に必要な配列を同定した。しかしながらこれらの解析から得られた転写レベルの調節が本当にタンパク質量に実際に反映されているかどうかは疑問である。これらの問題にアプローチするため、次に、エピトープタグを付けたPRR9タンパク質を発現する形質転換植物体を確立しタンパク質量を検出した。実際にPRR9のタンパク質量は、mRNA量を反映して概日変動していた。さらにPRR9タンパク質は明条件で蓄積し、暗条件で減少していた。この変動にはユビキン-プロテアソーム系による分解機構が関与していることが示唆された。
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村上 正也, 多湖 泰裕, 山篠 貴史, 水野 猛
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538
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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高等植物における概日時計分子機構の研究は主にモデル双子葉植物シロイヌナズナを用いて精力的に行われている。その結果、シロイヌナズナ時計関連因子群の機能に関して多くの知見が蓄積しつつある。特に概日リズムを発振する機構はMyb型転写因子CCA1/LHY、およびTOC1が転写フィードバックループを形成することで中心振動体を形成していると考えられている。我々は、TOC1が擬似レスポンスレギュレーターファミリー(PRR)の一員でありPRR1と同一であること、他のPRRメンバー(PRR3, PRR5, PRR7, PRR9)もTOC1(PRR1)と同様に中心振動体の構成因子として重要な働きをしていることを報告してきた(Mizuno & Nakamichi, Plant Cell Physiol. 46:667, 2005)。この他にZTL、ELF3/4、GI、LUXといった時計関連因子が報告・解析されている。しかし、高等植物の概日時計分子機構を理解するためには、他の植物を用いて普遍性を見いだすことが必須である。このような観点から、本研究ではシロイヌナズナについで全ゲノム配列が公開されているモデル単子葉植物イネを解析の対象とした。(1)シロイヌナズナとイネにおける時計関連遺伝子群の比較解析、(2)イネ相同因子群の発現リズムの解析、(3)イネのPRR1(TOC1)、CCA1/LHY、ZTLと思われる各ホモログ遺伝子の取得とシロイヌナズナを用いた機能解析結果などを示す。これらの解析の結果から、高等植物における概日時計分子機構の普遍性に関して考察する。
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中村 祐子, 加藤 貴比古, 山篠 貴史, 村上 正也, 水野 猛
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539
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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光情報伝達系において、赤色光受容体phyA/phyBの下流では多くの転写因子が働いており、重要な役割を担っている。しかし、その情報伝達・転写制御ネットワークに関しては、不明な点が多く残されている。シロイヌナズナにおいては、phyBと直接相互作用する因子として、PIF3やPIL1に代表されるbHLH型転写因子のサブファミリーが最もよく解析されている。これらシロイヌナズナにおけるPIF/PILファミリーは10種類近くのメンバーからなり、発芽、緑化、胚軸伸長、避陰反応など様々な赤色・遠赤色光応答に関わっていることが明らかになりつつある。これらのフィトクロムに関与した光応答は植物に普遍的であり、PIF/PILファミリーbHLH因子群も広く保存されていると予想される。今回、我々はイネを対象としてPIF/PILファミリー因子の比較機能解析を行った。イネにおいて最低6種類のPIF/PIL型bHLH遺伝子(
OsPIL11-
OsPIL16)を見いだして比較分類し、また、その発現様式等の性質を解析した。さらに、それらの遺伝子をシロイヌナズナに導入することにより
OsPIL因子の機能解析したところ、いずれも光応答関連の働きを連想させるような表現型を示した。これらの結果をまとめて、イネにおけるフィトクロム結合型bHLH転写因子ファミリーに関して考察する。
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Michinori Mutsuda, Hakuto Kageyama, Yoriko Murayama, Yoko Kitayama, Hi ...
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540
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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Central clock genes,
kaiABC, are encoded on a genome of cyanobacterium
Synechococcus elongatus PCC 7942. These function as central autonomous oscillatory proteins. Additionally, it was proposed that the transcriptional feedback loop involving
kaiABC provides a global circadian expression. As a fact, we have never found non-oscillatory genes from cyanobacteria using
luxAB reporter system. In this study, we approach the mechanism for global circadian gene expressions in cyanobacteria. A microarray analysis exhibited that only 30% genes had a possible oscillation in the mRNA accumulation level. These genes showed negative feedback regulation against excess KaiC condition, but the others did not. Thus, the global oscillation was not generated in transcriptional level, suggesting it is conferred in post-transcriptional level. In further molecular analysis, an interaction between translation elongation factor and Kai complex was observed in subjective night. According to these facts, we will propose new model for circadian output cascade in cyanobacteria.
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遠藤 誠, 土屋 亨, 大島 正弘, 東谷 篤志, 渡辺 正夫, 川岸 万紀子
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541
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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植物の生活環の中で生殖期は環境条件に最も敏感であり、不良環境下では不稔となる。我々は、外界の温度の感知から最終的に不稔となるまでの過程に働く分子制御機構の解明を目指して研究を進めている。小胞子期の初め頃にあたる時期のイネに、2から4日間の39℃の高温処理を施すと、その後28℃の常温に戻しても不稔となることがわかった。高温処理開始2、3、4日後の葯よりRNAを調製し、マイクロアレイ解析を行った。高温処理2日後の葯で、同時期の無処理サンプルと比べ発現量が著しく低下する15遺伝子を見いだした。個々の遺伝子の発現パターンを調べたところ、これらは小胞子を含む葯に特異的に発現する遺伝子であり、少なくとも半数はタペート細胞特異的な発現様式を示すことがわかった。また、高温処理4日後の葯において、通常の条件では成熟葯特異的に発現するべき約150の遺伝子の発現が上昇していた。しかし、高温処理後に常温に戻して育成した成熟葯では、これらの遺伝子の発現量は通常より低下していた。以上のことから、高温によって、タペート細胞の機能が一部損なわれて、一連の成熟葯特異的遺伝子群の発現時期のずれが誘導されているのではないかと推察された。現在、高温処理後の葯の詳細な観察を行うとともに、高温処理後に発現が低下する葯特異的遺伝子に着目し、ノックダウン解析により個々の遺伝子の発現の低下が不稔に結びつくかどうかを調べている。
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島谷 善平, 前川 雅彦, 高木 恭子, 寺田 理枝, 栂根 一夫, 飯田 滋
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542
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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イネのDNA型トランスポゾン
nDart (
non-autonomous DNA-based active rice transposon)は、黄色地の葉に緑色のセクターが入る易変性変異系統から見いだされた
Ac/Ds系の非自律性因子で、活性な自律性因子
aDart (
autonomous Dart)の転移酵素により転移すると考えられている。交配試験により、易変性変異系統には1コピーの
aDartが存在する一方、‘日本晴’には構造上は約50コピーの
aDart候補因子が存在するものの、いずれも不活性な因子
iDart (
inactive Dart) であることが示唆されている。
我々は、
aDartの同定を目指し、先ずマッピングにより
aDartが易変性変異系統の第6染色体に座乗することを明らかにし、さらにクローニングにより
aDartは ‘日本晴’の
iDart1-27と同一因子であることを明らかにした。即ち、易変性変異系統では自律性因子として機能する
aDartは、‘日本晴’のゲノム中においてはエピジェネティックに制御を受けて不活性化されていると思われた。そこで、‘日本晴’の不活性な
iDart1-27をクローニングし大腸菌内で増殖させて、植物内でのメチル化状態を解除し、
nDartと共に再び植物体へ導入したところ、活性な自律性因子として機能することが確認できた。
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Eun Chang-Ho, 高木 恭子, 朴 慶一, 島谷 善平, 栂根 一夫, 前川 雅彦, 飯田 滋
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543
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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トランスポゾンタギングは、機能ゲノム学的解析の有力な手法の1つであり、我々がイネで最近同定した内在性の
nDart系DNAトランスポゾンのタギングへの有用性を検証すべく、イネでの
nDart関連因子の動態を解析している。非自律性の
nDart1系因子の幾つかは自然栽培条件下で活性な自律性因子
aDartを有する
pyl-v系統で転移する。一方、活性な
aDartを持たない
pyl-stbや日本晴では、
nDart1は転移しないが、DNAのメチル化阻害剤である5-アザシチジン(5-azaC)処理すると、
nDart1及び自律性因子様の構造ではあるが転移活性を持たない
iDart1系因子の幾つかは転移脱離し、
iDart の転移酵素遺伝子の発現もRT-PCRで確認できた。さらに
pyl-stbや日本晴ではサイレンシングを受けていると考えられる自律性因子
iDart1-27の5`末端領域のDNAメチル化は、5-azaC処理すると低下することも明らかになった。また5-azaC処理した
pyl-stbの次世代では、
nDart1が新たに3ケ所に転移挿入されていたので、
nDart1系因子が挿入後に安定化した新たな変異体を5-azaC処理して復帰変異や再挿入変異を得ることもできると考えられ、タグされた遺伝子の同定にも有益であると思われる。
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星野 敦, 崔 丁斗, 朴 慶一, 朴 仁淑, 飯田 滋
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544
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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2001年にはじめて報告されたヘリトロンは、真核生物のローリングサークル型トランスポゾンである。他のDNA型トランスポゾンと異なり末端逆反復配列を持たず、自律性因子は複製開始タンパク質のnuclease/ligaseドメインとDNAヘリケース・ドメインを持つRep/Hel転移酵素をコードすると予測されている。さらに植物のヘリトロンは、複製タンパク質AのサブユニットであるRPA70に類似したRPA転移酵素もコードする。多くの植物ゲノム中に大量に存在するが、活性のある自律性ヘリトロンや転移機構は未解明である。
ソライロアサガオの栽培品種である”Pearly Gates”は、1940年頃に分離された白花変異「
pearly-s」を持つ。この
pearly-sは、アントシアニン色素生合成系の
DFR遺伝子に
Hel-It1と命名したヘリトロンが挿入した変異であった。さらに一部の
pearly-s変異体では、ミトコンドリア・リン酸輸送体遺伝子にも
Hel-It1が挿入していた。また
Hel-It1とその類縁因子はゲノム中に30コピーほど散在し、挿入位置が品種間で異なることも示唆された。
Hel-It1は、Rep/Hel転移酵素とRPA転移酵素の遺伝子領域に、それぞれナンセンス変異とフレームシフト変異を持つ非自律性因子であったが、野生型のPRA転移酵素をコードすると思われるフレームシフト変異のないmRNAも
pearly-s変異体には蓄積していた。以上の結果をもとに
Hel-It1の転移活性と、その自律性因子について議論する。
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溝井 順哉, 西田 生郎
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545
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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ホスファチジルエタノールアミンは植物の葉緑体以外の生体膜に含まれる主要なリン脂質である.CTP:ホスホリルエタノールアミンシチジリルトランスフェラーゼ(PECT)は,その主要な合成経路の鍵酵素で,シロイヌナズナでは唯一の遺伝子PECT1によってコードされている.われわれは,ヌルアリルの,
pect1-6と弱い変異アリルの
pect1-4を用いて
PECTの生殖に関する機能を調べた.
pect1-6ホモ接合体が胚発生のごく初期に発生を停止したので,PECT活性は胚発生に必須である.一方,
pect1-6ヘテロ接合体と野生型による相反交雑において
pect1-6の配偶体は野生型と同様の稔性を保持していたので,配偶体世代において
PECT1の発現は必須でない.
PECT活性が野生型の19%まで低下する
pect1-4/
pect1-6ヘテロ植物は,著しい矮性と稔性の低下を示した.
pect1-4/
pect1-6植物の自家受粉によってできた長角果の内部には未受精の胚珠が多数存在したが,これは,葯が正常に花粉を生産できないことと,胚珠が正常に胚嚢を形成できないことの両方に原因があることがわかった.したがって,生殖器官における配偶体の形成には十分なPECT活性が必要であるといえる.さらに,自家受粉によってできる
pect1-4/
pect1-6胚の多くが致死となっていたことも種子数減少の一因であった.
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丸山 大輔, 遠藤 斗志也, 西川 周一
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546
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
フリー
BiPは小胞体のHsp70である.シロイヌナズナには
AtBiP1,
AtBiP2,
AtBiP3の3つの
BiP遺伝子が存在する.
AtBiP1遺伝子と
AtBiP2遺伝子は通常の生育条件において植物全体で発現し,
AtBiP3遺伝子は小胞体ストレス条件下でのみ発現する.
3つの
AtBiP遺伝子の単独のT-DNA挿入変異株は生育や形態に異常が見られなかった.そこでこれらの遺伝子の二重破壊株の作製を試みたところ,
AtBiP1と
AtBiP2両遺伝子の二重破壊株は得られなかった.従って,
AtBiP1と
AtBiP2両遺伝子の機能が重複しており,生育に必須であることが示唆された.
AtBiP1と
AtBiP2両遺伝子の配偶子における機能を調べるために,
AtBiP1変異遺伝子をヘテロに,
AtBiP2変異遺伝子をホモに持つ変異体と野生株との掛け合わせ実験を行った.その結果,
AtBiP1と
AtBiP2両遺伝子の欠損により,雄性配偶子である花粉は機能欠損が見られないのに対し,雌性配偶子である胚嚢の機能欠損が引き起こされることが示された.
AtBiP1,
AtBiP2両遺伝子両遺伝子を欠損する胚嚢に由来する胚は発生初期に発達が停止していた.興味深いことに,胚嚢の機能欠損は雄側から供給された
AtBiP遺伝子によって相補されなかった.
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蒲池 浩之, 岩沢 おりえ, Hickok Leslie G., 中山 雅章, 井上 弘
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547
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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多くのシダの配偶体は,雄性化を誘導するフェロモンであるアンセリジオーゲンによって,その性比が調節されている。本研究では,リチャードミズワラビの配偶体を用いて,アンセリジオーゲンによる配偶体の雄性化が光形態形成に作用する光によって影響されるかどうかについて検討した。
最初に,リチャードミズワラビのアンセリジオーゲン(A
Ce)に非感受性の突然変異体である
her1の配偶体が,A
Ce存在下での青色光処理によって,高い割合で雄性化することを見出した。しかしながら,野生型の配偶体では,青色光処理がその雄性化を促進するという結果は観察されなかった。この理由として,野生型の配偶体では,A
Ceに対する感受性が暗黒下ですでに飽和していることが考えられた。実際,暗黒下においてアンセリジオーゲンに対する感受性が低かった別種のミズワラビの配偶体では,青色光による雄性化の促進効果が観察された。これらのことから,我々は,青色光によって活性化されるもう一つのA
Ce情報伝達経路がリチャードミズワラビの配偶体に潜在的に存在するものと考えている。一方,赤色光は,逆に雄性化を抑制した。白色光もまた雄性化を抑制したことから,赤色光は,青色光よりも優位に作用するものと思われる。また,光形態形成に関する突然変異体を用いた実験から,クリプトクロムおよびフィトクロムがこれらの青色光と赤色光の作用にそれぞれ関与することが示唆された。
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小泉 綾子, 天内 康人, 石井 公太郎, 西原 潔, 風間 裕介, 阿部 知子, 河野 重行
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548
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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雌雄異株植物ヒロハノマンテマ無性花変異体K034には、無性花と雌様花が9:1の割合でつく。無性花は雌蕊も雄蕊も発達しないが、雌様花は不完全ながら雌蕊が発達し結実する。K034の第4whorlは野生型雌より狭く、雄株由来と推察されるのにもかかわらず、雌様花を付けることは興味深い。雄蕊と雌蕊におけるBクラス遺伝子
SLM2とCクラス遺伝子
SLM1の発現を調べると、ステージ8において雄花の雄蕊では両者の発現が続いたが、無性花と雌様花の雄蕊では両者とも消失し、発育不全を起こした。無性花と雌様花の雌蕊では
SLM1は完全には消失しなかった。両性花変異体R025は、理研の加速器で、重イオンビームを乾燥種子に照射して当代で単離した。R025はモザイクで、ほとんどの枝には両性花をつけたが、一部の枝には正常雄花のみがついた。両性花を自家受粉させるとともに、両性花の枝を挿し木することで遺伝的安定性を調べている。両性花の雄蕊はステージ8でも伸長し続け、雌蕊は広い第4whorlをもっていた。その結果、成熟雄蕊は野生型雄と同じで、心皮数5本の成熟雌蕊をあわせもつ、自家受粉可能な両性花となる。核型解析とSTS解析から、無性花変異体K034のY染色体は雌蕊抑制領域の一部と雄蕊促進領域の一部を欠損することがわかっている。両性花変異体R025もY染色体をもつ。STSマーカーでY染色体の欠損部位を調べている。
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赤間 一仁, ダーク・ ベッカー, ヒルトブルグ・ バイアー
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549
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
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真核生物と古細菌の中には核tRNA遺伝子がイントロンにより分断されているものがある。これらのスプライシングの様式は前駆体mRNA、グループI・グループIIイントロンのものとは異なり、酵素的な反応により行われる。すなわち、tRNAスプライシング反応は、tRNAエンドヌクレアーゼ (Sen) によるイントロンの切断、tRNAリガーゼ (tRL)によるエキソンの結合、2'-フォスフォトランスフェラーゼ (Pt) による2’リン酸基の除去からなる。植物でこれら3種の酵素群の細胞内局在を調べるために、Sen、 tRL、PtをコードするcDNAとGFP遺伝子とのキメラ遺伝子を構築し、パーティクルガンを用いてこれら遺伝子をタマネギ表皮細胞とソラマメの孔辺細胞に導入して、融合タンパク質の細胞内局在を調べた。その結果、Senは主に核とミトコンドリアに、tRLとPtは主に葉緑体(プラスチド)に局在することが判明した。このことから、植物における前駆体tRNAのスプライシングは核以外でも行われる可能性があること、これら酵素はオルガネラにおける未知機能の発現に関与する可能性が考えられた。
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山本 雅也, 丸山 大輔, 遠藤 斗志也, 西川 周一
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550
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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DnaJファミリーのタンパク質(Jタンパク質)は,Hsp70の機能を制御するパートナータンパク質の一つである.出芽酵母小胞体には,Scj1p,Jem1p,Sec63pというJタンパク質が存在し,小胞体Hsp70(BiP)のパートナーとして機能している.変異株を用いた解析より,小胞体膜透過ではSec63p,小胞体品質管理機構ではScj1pとJem1pというように異なるJタンパク質が異なる過程でBiPの機能を制御することが明らかとなっている.
われわれは,シロイヌナズナゲノム上に存在する出芽酵母小胞体Jタンパク質と相同性の高い遺伝子(
AtSCJ1A,
AtSCJ1B,
AtJEM1,
AtSEC63A,
AtSEC63B)を見いだした.細胞分画法により,これらJタンパク質が小胞体に局在することを確認した.これら小胞体Jタンパク質の解析を行なうことで,シロイヌナズナの生育におけるBiPの様々な役割を分けて明らかにできると考え,T-DNA挿入変異株を用いた解析を行なった.
AtSEC63A遺伝子の破壊は致死となり,生育に必須であることが示された.一方,
AtSEC63A以外の遺伝子の破壊株は,致死とはならなかったが,
AtSCJ1B遺伝子破壊株では
AtSCJ1A遺伝子と
AtJEM1遺伝子の発現が上昇していること,
AtJEM1遺伝子破壊株では
AtSCJ1A遺伝子の発現が上昇していることが示された.おそらく,これら小胞体Jタンパク質の機能は互いに一部重複するものと考えられる.また,
AtSCJ1B遺伝子の破壊株は高温で生育させると不稔性を示すことを見いだした.
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白矢 武士, 戸沢 真穂, 郭 長虹, 伴 浩志, 山本 直樹, 岩崎 俊介
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551
発行日: 2007年
公開日: 2007/12/13
会議録・要旨集
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私たちは2002年度本学会において、核タンパク質輸送体成分であるイネインポーティンα(IMPα)のうち、光照射で発現が下方制御されるIMPα1aと特異的に結合する新奇タンパク質(IABP4と仮称)について報告した。IABP4はタンパク質間相互作用に働くとされるTPRドメインと推定核局在化配列(NLS)を含むため、他のタンパク質と複合体を形成して核内で機能することが予想された。IABP4はIMPα1aによる特異的な認識によって暗黒条件で核に蓄積する可能性があるが、IABP4が実際に核局在性を示すのか、さらに推定NLS配列が実際に機能するのかは明らかにされていなかった。そこで今回、IABP4の全長または様々な部分断片と緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質をタマネギ表皮細胞で発現させ、それぞれの細胞内局在性を調べたところ、3ヶ所の推定NLS配列を含むC末端断片との融合タンパク質のみが核局在性を示した。さらに、推定NLS配列を1個のみ含む断片とGFPの融合タンパク質の細胞内局在性を調べた結果、1ヶ所の推定NLS配列を含む融合タンパク質のみが核局在性を示し、NLS配列が特定された。しかし、全長IABP4との融合タンパク質が核局在性を示さなかったことから、N末側領域に存在する推定核外輸送配列(NES)の役割を含め、細胞内局在性が光環境による調節を受ける可能性を現在検討中である。
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