日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
最新号
選択された号の論文の1051件中551~600を表示しています
  • 櫻井 哲也, 黒谷 篤之, 篠崎 一雄, 鈴木 穣, 菅野 純夫, 小保方 潤一, 時澤 睦朋, 小山 博之, 山本 義治
    p. 0553
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    これまでの私達の解析ではCT-MPSS法を用いてシロイヌナズナの転写開始点タグの配列決定を行い、選別された160,000のタグ情報を収集・整理してきた。これはシロイヌナズナの全遺伝子28,000のうち10,000遺伝子をカバーするものであった(山本らPlant J, 60: 350, 2009)。遺伝子のカバー率を上げること、また環境や組織により制御されるオルターナティブプロモーターのゲノムワイドな同定を目的として、今回いわゆる次世代シークエンサー(Illumina社)を用いて同様の解析をスケールアップして行っている。組織別、またストレス処理の有無などのサンプルよりRNAを抽出し、oligo-Cap法を用いて転写開始点タグを調製し、大規模配列決定を行った。得られたタグ配列を選別し、ゲノム配列へのマッピング、さらに選別を行い、確度の高い転写開始点情報を調製した。得られた30,000,000のTSSタグ情報は25,000の遺伝子をカバーしており、遺伝子の転写開始点の位置を決める上ではまず十分な分量であった。現在タグ情報を整理し、オルターナティブプロモーターの検索を行っており、得られた結果について報告したい。
  • 田中 剛, 松本 隆, 坂井 寛章, 天野 直己, 金森 裕之, 栗田 加奈子, 菊田 有里, 神谷 梢, 山本 麻裕, 伊川 浩司, 藤井 ...
    p. 0554
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    完全長cDNA(FLcDNA)配列はゲノム上の発現遺伝子の構造を表しており、遺伝子のORF予測や機能推定するために重要である。またFLcDNAクローンは遺伝子機能を実験的に解明するには欠くことのできない資源となっている。今回我々は日本のオオムギ品種である「はるな二条」から17万2千以上のクローンを含む12のライブラリーを作成し、最終的に24,783のオオムギFLcDNAの配列決定を行った。現在利用可能なオオムギFLcDNAとの比較から22,651のオオムギ代表FLcDNAセットを作成し、そのうち17,773は新規オオムギFLcDNAだった。配列の完全長性はFLcDNA長やORFの予測結果などイネやトウモロコシのFLcDNAセットと同様の質であることを確認した。GOによる遺伝子機能分類などの特徴はイネのFLcDNAと似ており、今回のFLcDNAセットはイネ遺伝子セットと同様の多岐にわたる遺伝子を含むことがわかった。4種の単子葉ゲノムとの配列比較から1,699はオオムギ特異的な配列であったが、263しか機能ドメインを持たず、配列長も保存されたFLcDNAに比べて短かった。現在公開用データベースを開発しており、オオムギFLcDNAを利用した配列解析が可能となる予定である。
  • 古川 純, 金澤 昌史, 水野 宏亮, 阿部 雄太, 佐藤 忍
    p. 0555
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    落葉性の木本植物は生長と休眠のサイクルを有し、休眠の誘導や解除には日長や温度、アブシジン酸(ABA)やジベレリンの関与が知られている。Populus nigraの導管液に含まれるKやCa、グルコースやタンパク質の濃度に年周期性が示されたことから、本研究ではドロノキ(Populus maximowiczii)を用いて輸送体や導管液有機物質に関わる遺伝子の発現解析を行った。
    既知K輸送体と相同であるPmGORK-like1は地上部において短日処理後期から低温期まで発現が誘導され、根では短日処理開始以降恒常的に発現していた。一方、Ca輸送体の相同遺伝子であるPmACA-like1は地上部、根共に短日処理により誘導され、低温によりさらに強く発現した。またP. nigraで同定された導管液タンパク質の相同遺伝子(PmXSP24, PmXSP25)の発現も短日と低温により誘導されていた。長日環境にある植物へのABA添加や低温処理によりこれらの遺伝子の発現制御機構の解析を行ったところ、それぞれの処理により地上部においてはPmACA-like1が、根においてはPmGORK-like1が顕著に誘導されており、地上部と根では応答が異なることが示された。以上から地上部と根の協調的な環境適応にはABAや低温処理のみでは不十分であり、短日環境によって誘導される全身的な制御機構が関与していると考えられる。
  • 段 中瑞
    p. 0556
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    シンク葉は、光合成機能を獲得してソース化するのに伴い、小脈篩部の伴細胞 (companion cell, CC) -篩要素 (sieve element, SE) 間の細胞壁に二次原形質連絡(2o-PD)を発達させることが知られている。(2o-PD)の形成は、CC-SE間のショ糖輸送を促進すると考えられている。我々は、シロイヌナズナのrestricted sucrose export 1 (rsx1)変異株では成熟葉のCC-SE間の(2o-PD)形成異常、及びシュートへの糖転流の阻害が起こることを明らかにしている。本研究では糖転流におけるRSX1の働きを明らかにするため、シロイヌナズナ及びPro35S-RSX1/-過剰発現株を用いて、14CO2同化物の転流を調べた。その結果、抽台前の野生株(WT)でソース葉の14CO2固定産物は主にすぐ上にあるシンク葉へ転流していた。rsx1-2変異株では、転流量がWTに対し5%まで低下していたが、rsx1-2 transRSX1:sGFP相補株では、糖転流がWTと同程度まで回復していた。以上の結果は、RSX1がソース葉からシンク葉への糖転流に関与することを示唆している。さらにPro35S-RSX1/-過剰発現株では、根への糖転流が顕著に増加することを明らかにした。
  • 山地 直樹, 夏 継星, 佐々木 明正, 馬 建鋒
    p. 0557
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    イネ科植物の節はミネラルの選択的分配に重要な役割を果たしており、我々はイネのケイ酸輸送体Lsi6の解析を通じて節におけるケイ酸の維管束間輸送が特に穂へのケイ素の高蓄積に重要であることを明らかにしてきた(Yamaji and Ma, 2009)。節で発現している他のミネラルトランスポーターを同定するために、我々は節のマイクロアレイ解析を行った。ここではそのうち、OsNramp3の機能解析について報告する。
    Nramp型の輸送体は細菌から動植物まで広く存在し、主に二価金属イオンを輸送することが知られている。OsNramp3は主に節において高い発現を示し、免疫組織染色ではケイ酸輸送体Lsi6と同様に肥大維管束周縁部の木部転送細胞に局在していた。GFP融合遺伝子を一過的に導入したタマネギ表皮細胞では主に細胞膜への局在が観察された。OsNramp3を酵母に発現させたところ、酵母変異体smf1のマンガン欠乏を相補し、カドミウムおよびアルミニウムの吸収には影響しなかった。T-DNA挿入による遺伝子破壊イネを用いた予備実験の結果、破壊株ではMn欠乏条件において葉身の黄化と根の生育不良が観察された。またポット土耕栽培においてもMn含量が葉身で低下、籾殻で上昇し、さらに稔実歩合が著しく低下した。今後RNAiによる発現抑制株を作成し、より詳細な生理学的解析を行う予定である。
  • 森 泉, アリアスバレイロ カルロス, ソバハン ムハンマド, 平井 儀彦, 村田 芳行
    p. 0558
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    アポプラスチックバイパスフロー(以下バイパスフロー)は根において、もっぱらアポプラストを経由する水輸送の経路のことである。イネのバイパスフロー速度は塩ストレスによって、促進されることが知られている。本研究では、重金属のひとつであるカドミウムがバイパスフローに及ぼす影響を解析した。
    100 μMカドミウム処理により蒸散速度は低下したが、アポプラストを経由した水輸送速度は上昇した。無ストレス条件下では、水耕栽培したイネのバイパスフローは蒸散流全体の5%以下であるが、100 μMカドミウム処理によって、これが約20%まで上昇することが示された。また、バーベリンブルーによりカスパリー線を組織化学的に観察したところ、カドミウム処理により、外皮におけるカスパリー線の構造が部分的に崩壊していることが示唆された。
    以上の結果より、カドミウムはカスパリー線の水に対する不透性を低下させることで、バイパスフローを促進すると考えられた。
  • 柳澤 俊輔, 橋田 慎之介, 庄子 和博, 後藤 文之, 島田 浩章, 吉原 利一
    p. 0559
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    我々はCd超耐性/超蓄積シダ植物「ヘビノネゴザ」のCdの吸収・蓄積メカニズムを明らかにするため、様々な培地におけるCdの吸収・蓄積を数種の植物と比較している。ここでは、1/4MSと0.5mM CaCl2の2種類の異なる液体培地をベースに、0.1μMとなるようCdを混合し、ヘビノネゴザとタバコの幼植物体を24時間培養した場合のCd蓄積量をICP-AESを用いて定量した結果について報告する。まず、ヘビノネゴザでは、1/4MSベースにした場合、CaCl2ベースよりも植物体全体としてのCd蓄積量が多く、そのうち根における蓄積量が全体の9割程度を占めていた。しかし、CaCl2ベースにした場合、逆に植物体全体でのCd蓄積量が大きく減少したにも関わらず地上部への移行量は変わらなかったため、根への蓄積割合は5割程度に減少した。一方、タバコでは植物体全体での蓄積量は1/4MSベースとCaCl2ベースのいずれにおいてもほぼ同程度であったが、1/4MSベースでは相当量が地上部に蓄積され、地上部に移行される割合が相対的に大きな割合を占めていたのに対して、CaCl2ベースでは地上部へ移行するCdの絶対量、全体に占める割合共に減少した。また、これらに伴い、種々の必須元素の蓄積量にも特徴的な変化が認められた。この結果は、ヘビノネゴザとタバコにおけるCd吸収に関わるメカニズムの違いを示していると考えられる。
  • 吉原 利一, 鈴井 伸郎, 石井 里美, 橋田 慎之介, 河地 有木, 山崎 治明, 島田 浩章, 藤巻 秀
    p. 0560
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    Positron-emitting Tracer Imaging System(PETIS)を用いて、Cd超耐性/超蓄積シダ植物「ヘビノネゴザ」のCdの吸収動態を解析した。まず、1/4MSと0.5mMCaCl2の2種類の異なる培地をベースに、トレーサーとキャリアーを合わせて0.1μMとなるようCdを混合し、ヘビノネゴザとタバコでCdの吸収・移行を比較した。その結果、ヘビノネゴザでは、CaCl2をベースにした場合、1/4MSに比べて根への取り込み量が少なく、取り込まれたCdが地上部に移行する割合も小さかった。一方、タバコでも同様にCaCl2をベースにした場合、1/4MSに比べて根への取り込み量が少なかったが、取り込まれたCdのかなりの割合が地上部に移行した。次にこれらの培地条件において、根を4℃に冷やした場合の変化を観察した。その結果、ヘビノネゴザでは、CaCl2をベースにした場合、1/4MSに比べて根への取り込み量がある程度増加したが、取り込まれたCdはほとんど地上部に移行しなかった。一方、タバコでは同様にCaCl2をベースにした場合、1/4MSとほぼ同程度の根への取り込み量であったが、取り込まれたCdが地上部に移行する割合は若干多かった。これらの結果は、ヘビノネゴザとタバコにおけるCd吸収に関わるトランスポーターの特性を明確に示している。
  • 金子 智志
    p. 0561
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    寒冷地に生息する植物は低温や凍結に対する耐性を備えている。凍結耐性のある植物では凍結温度下において氷晶は細胞外に形成されるが、その時、細胞は脱水ストレスや物理的な圧迫による機械ストレスを受ける。近年、シロイヌナズナにおいて凍結耐性の約半分ほどが機械ストレスに対する耐性機構であり、この耐性は細胞外カルシウムに依存的であることが示された(カルシウム依存的機械ストレス耐性)。この機構には、低温馴化で誘導される細胞膜局在型の植物シナプトタグミンSYT1が関与し、さらに、SYT1は部分的に壊れた細胞膜をカルシウム依存的に修復する現象に関与することが示されている。しかし、この機構に関する知見はシロイヌナズナにおいてしか得られていない。本研究では、特に、単子葉類に注目し、凍結機械ストレスに対する耐性としてカルシウム依存的機械ストレス耐性とそのメカニズムについて検証を行った。コムギ、オートムギ、ライムギについて、低温馴化前後の葉切片を用いて凍結耐性試験を行い、三つ全てにカルシウム依存的凍結耐性が存在することを確認した。次に、それぞれの植物種において、抗シロイヌナズナSYT1抗体に対し特異的に反応する細胞膜タンパク質があることを確認した。本発表では、抗シロイヌナズナSYT1抗体を用いて、単子葉植物におけるシナプトタグミンのカルシウム依存的凍結耐性への関与を解析した結果を交えて報告する予定である。
  • 角浜 憲明, 鈴木 祥弘, 郷 達明, 大西 美輪, 深城 英弘, 三村 徹郎
    p. 0562
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    イワタバコ科の数種の植物では、冷水の灌水などにより葉温が急激に低下すると、葉が温度傷害を受けることがある。傷害を受けて変色した部分では、柵状組織の細胞が死ぬが、海綿状組織や表皮組織の細胞は変化しない。これまで我々は、イワタバコ科の一種セントポーリア(アフリカスミレ)を用いた研究から、温度傷害の初期に柵状組織の細胞内pHが変化することを明らかにしてきた。本研究では、セントポーリア以外のイワタバコ科植物(Columnea sp.の園芸種など数種)の葉においても、温度傷害に伴って柵状組織の細胞内pHが変化するかどうかを調べた。その結果、調査した全ての種において、柵状組織に特異的な細胞質基質pHの低下と液胞内pHの上昇が観察された。この結果から、液胞内容物の漏出や液胞膜の変化が示唆された。そこで、液胞に生じた変化をさらに検討するため、液胞膜を蛍光色素で可視化し、温度傷害に伴う液胞の動態を観察した。温度低下後、柵状組織の細胞では液胞の形態が大きく変化した。一方、海綿状組織と表皮組織の細胞では、液胞の構造変化は観察されなかった。これらの結果は、温度低下によって液胞膜が変化すると液胞内容物が漏出し、細胞内pHが変化することを示唆している。さらに、この傷害メカニズムが、イワタバコ科の系統分類群によらず共通していることも見出したので、それについても報告する。
  • 庄野 真理子, 山田 菜美
    p. 0563
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、ササゲの耐暑性に生殖器官へのプロリンの蓄積が重要な役割を果たす事を明らかにし、その蓄積にはプロリン合成関連遺伝子及びプロリン輸送関連遺伝子の発現が関与する事を示してきた。そこで、ササゲのプロリントランスポーターVuProT1及びVuProT2の機能を明らかにする事で、輸送遺伝子の発現とプロリンの蓄積との関連を解明しようと試みている。
    VuProT1遺伝子の発現は花で多く、生殖器官へのプロリンの蓄積への関与が期待されたが、全長cDNAのクローニングでは開始コドンATGが見つからなかった。ダイズの遺伝子を参考に、5’末端のシークエンスを解析した所、ATG(M)がGTC(V)に置き換わっていた。イーストのプロリントランスポーター欠損変異株22574dを用いて相補実験を行った所、GTCをATGに置き換えたVuProT1-long、VuProT2、アラビドプシスAtProT1を導入したイーストはプロリン及び4-aminobutyrate (GABA) を輸送できたが、最初のATGを欠損したVuProT1-shortでは輸送出来なかった。培地のpHを4.4から6.6へ上げるとVuProT2導入イーストのみ成長できたことから、VuProT2が他のトランスポーターとは異なる機能を持つ事が推察された。
    現在VuProT2遺伝子を導入した形質転換タバコの解析を行っている。
  • 中井 勇介, 中平 洋一, 安居 佑季子, 河内 孝之, 椎名 隆, 高木 優, 光田 展隆, 佐藤 雅彦
    p. 0564
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物特異的DNA結合因子VOZは、陸上植物に広く保存された転写制御遺伝子ファミリーであり、NAC転写因子に弱い相同性を示す。シロイヌナズナにはAtVOZ1,AtVOZ2が存在する。voz1voz2は長日条件において遅咲きや顕著な耐凍性の向上を示すことから、花成制御(安居ら、第49回年会)及び、低温応答(中井ら、第50回年会)への関与が示唆されている。本研究では、花成及び低温ストレス応答以外のVOZの機能の解明を目的に、シロイヌナズナvoz1voz2二重変異体のDNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、voz1voz2では非生物学的ストレス応答(低温、浸透圧、乾燥、塩)に関わる遺伝子群の発現に有意な上昇が認められた。さらに、耐凍性の向上に加えて、voz1voz2は野生型と比較して顕著に乾燥に対する耐性の向上が観察された。現在、浸透圧及び、塩ストレス耐性試験や既知の非生物学的ストレス応答制御因子の発現解析を進めている。本発表では非生物学的ストレス応答におけるVOZの役割を議論したい。
  • 山川 博幹, 羽方 誠, 寺尾 富夫
    p. 0565
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    イネは登熟期に高温に曝されると、胚乳デンプンの蓄積が阻害され、乳白粒の発生や粒重の低下を引き起こす。登熟途中穎花についてキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)を用いたメタボローム解析を行い、各代謝物質データを関連代謝酵素遺伝子のトランスクリプトーム解析結果と関連づけることによって、高温登熟代謝アトラスを作成した。登熟期の高温によって、登熟途中穎花および完熟玄米においてスクロース、アミノ酸が増加し、登熟途中穎花に含まれる糖リン酸、有機酸が減少した。各代謝反応を触媒する酵素をコードする遺伝子群の発現の変動および発現強度を考慮すると、デンプン蓄積阻害は、穎花へ流入するスクロースの胚乳細胞内への取り込みおよび代謝の阻害、デンプン合成の阻害、デンプン分解の促進、チトクローム呼吸鎖阻害によるATP合成の低下によって生じている可能性が示唆された。また、アミノ酸の蓄積は、穎花へのアミノ酸の取り込みが高温の影響を受けにくいこと、アミノ酸tRNAチャージ反応などのタンパク質合成の高温による低下に起因すると考えられる。高温による遺伝子発現の変化と、乳白粒関連QTLや乳白粒変異遺伝子などの遺伝学的知見を比較考慮し、米品質を制御する候補遺伝子について考察する。
  • 山口 武志, 黒田 昌治, 山川 博幹, 羽方 誠
    p. 0566
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    稲の登熟期の高温により発生する米の品質障害は極めて深刻な問題となっている。そこで植物の様々な環境応答への関与が知られている脂質代謝やシグナル伝達に関わる様々な遺伝子の抑制系統を用いて、高温処理による栽培試験を実施し、高温による品質障害を抑制する系統の選抜を行ない以下の知見を得た。
    1、高温試験栽培による大規模スクリーニングの結果、高温処理による品質障害(白未熟粒の形成)が大幅に低減する3つの遺伝子の抑制系統を選抜した。
    2、Wild type(WT)とこれら3つの抑制系統の米澱粉の鎖長解析を行なった結果、高温処理のWTの鎖長は平温処理のWTより、DP=9-14の鎖長の減少が顕著であるのに対して、障害が低減する3つの抑制系統では、DP=13-18の鎖長の減少が顕著であった。
    3、稲登熟過程の高温処理による発現遺伝子の変化を、DNA microarrayで平温処理のWTと比較解析した結果、3つの抑制系統ではSOD、Catalase等の活性酸素消去系遺伝子の発現が顕著であったことから、これらの遺伝子が障害抑制に機能していることが予想された。
    4、品質障害米の生化学的な解析を行なった結果、正常な米に比べてカルシウムの含量が大幅に上昇していることが明らかになり、カルシウムと登熟過程における高温障害との関わりが示唆された。
  • 佐々木 忠将, シャク 高志, 草野 博彰, 佐藤 光, 島田 浩章
    p. 0567
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    登熟期に高温に曝されたイネは、デンプン顆粒が充分に発達せず白濁した種子を生じる。一方、高温登熟に類似した白濁種子を生じるflo2変異体では、デンプン生合成系遺伝子群や貯蔵タンパク質遺伝子など多くの遺伝子の発現が大きく低下すること、ATP含量が低下するなど、高温登熟種子との共通点が多い。そこで、我々はflo2変異体を高温登熟のモデルとして、高温障害と未熟種子に含まれるATP含量との関係を調べた。
    出穂期の日本晴、台中65号、金南風について、高温登熟による障害の頻度を比較した。日本晴では70%以上で種子が白濁し、台中65号ではさらにその割合が高くなった。一方、flo2変異体の野生型である金南風は高温登熟による障害をほとんど受けなかった。次に、高温によってATP含量が登熟過程でどのように変化するかを調べた結果、高温障害が現れた日本晴、台中65号ではATP含量の低下が認められた。一方、金南風は充分なATP含量を維持していた。flo2変異体では常温で登熟した場合でも金南風に比べてATP含量が低く、さらに、flo2変異体に高温ストレスを与えると、顕著なATP含量の低下がみられた。これらのことから、flo2原因遺伝子の機能が欠損すると高温による障害の程度が悪化すること、高温障害によって生じる種子の白濁化には、未熟種子に含まれるATP含量の減少が連鎖していることが示唆された。
  • 白矢 武士, 森 太紀, 大久保 英奈, 丸山 達也, 金古 堅太郎, 古賀(北嶋) 彩, 濱田 侑紀, 水谷 理絵, 甲州 努, 中山 勇 ...
    p. 0568
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    近年、地球温暖化に伴いイネ登熟期の異常高温による白未熟粒の発生が問題となっている。これは機能タンパク質発現の異常や光合成産物の転流量低下など様々な要因の関与が想定されるが、詳細は明らかではない。我々は高温登熟障害米の発生機構を明らかにするため、高温登熟性の異なるイネ品種について登熟種子で発現する遺伝子およびタンパク質をマイクロアレイとプロテオミクスにより網羅的に調べ、高温に対する影響の品種間差異を調べた。調査品種として高温登熟性の優れた「ゆきん子舞」と高温登熟性の悪い「トドロキワセ」を用い、温水かけ流し処理を行った高温区と一般圃場の対照区で比較した。その結果、Superoxide dismutase(SOD)タンパク質発現がゆきん子舞では高温処理の有無に関わらず安定的であったのに対し、トドロキワセでは高温処理で強く誘導されることが分かった。また、SOD強発現組換えイネにおいて高温登熟性の向上が見られたのに対し、RNAiによる発現抑制体では高温登熟性が低下した。以上の結果は、SOD遺伝子がイネの高温登熟耐性に関わることを示唆する。
    さらに、複数のコシヒカリ培養変異系統において高温下でも良好な種子の玄米形質を示す系統が見つかった。これらはTos17挿入変異による遺伝子破壊により高温登熟耐性を獲得した可能性がある。現在、これら変異系統の高温登熟耐性機構の解明にむけ解析を進めている。
  • 川岸 万紀子, 遠藤 誠, 井手 玲子, 渡辺 正夫, 東谷 篤志
    p. 0569
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    私たちは,高温ストレスにより引き起こされるイネの不稔に関して、外界の温度の感知から受精までの過程に働く分子制御機構の解明を目指して研究を進めている。小胞子期初期にあたる時期のイネに、2日から4日間の昼39℃/夜30℃の高温処理を施すことにより、再現よく不稔を誘発することができる。高温条件下での遺伝子発現の動態を明らかにするため、葯由来のRNAを用いてマイクロアレイ解析を行った結果、高温処理2日後に、同時期の無処理サンプルと比べて発現量が著しく低下する一群の遺伝子を見いだした。これらの遺伝子は、小胞子期の葯に特異的に発現する特性を共有していた。高温に反応して一群の遺伝子の転写を制御する因子の同定を目的として、各遺伝子の上流領域のゲノムDNAを単離し、GUSをレポーターとしてプロモーター解析を行った。これまでに4つの遺伝子の組織特異性と高温応答性の両方を再現するプロモーター断片が得られたので、欠失や変位を導入することにより、遺伝子発現の特性に必要な領域の特定を目指している。
    一方、高温によって、葯や花粉の構造や機能がどのようにして損なわれるのかを知るために、高温処理後の葯の詳細な観察を行い,葯や花粉の構造に変化が現れるかどうかを解析するとともに、上述の高温応答性の葯特異的遺伝子に着目し,ノックダウン解析により個々の遺伝子の発現動態と花粉稔性の低下との関連を調べている。
  • 東 由佳理, 石川 智子, 坂田 洋一, 林 隆久, 篠崎 一雄, 太治 輝昭
    p. 0570
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    塩生植物 Tellungiella halophila はArabidopsisと核酸レベルで90%の相同性を持つ近縁種で、高い耐塩性を示すほか、高温ストレスにも高い耐性を示すことが認められている。様々なストレス処理を施した Tellungiella から、約1万個の独立した遺伝子を含む完全長cDNAライブラリーを作製した。本研究では、網羅的な遺伝子探索法であるFull-length cDNA overexpressor gene hunting ( FOX hunting ) により、Arabidopsisに高温耐性を付与する遺伝子の探索を行っている。cDNAライブラリーより1) 既知の高温誘導性遺伝子群2) Tellungiella のマイクロアレイ解析により明らかとなった高温ストレスにより遺伝子発現が大きく増減する遺伝子群の合計264個の遺伝子を抽出し、1遺伝子ずつArabidopsisに形質転換するMini-scale FOX huntingを用いて研究を進めている。現在までに約60遺伝子のスクリーニングが終了し、1遺伝子の高温耐性付与遺伝子を獲得した。
  • 城所 聡, 圓山 恭之進, 光田 展隆, 高木 優, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
    p. 0571
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの転写因子DREB1/CBFは、DRE/CRT/LTREと呼ばれるシス配列に特異的に結合し、環境ストレスに対する耐性獲得に関わる多くのストレス誘導性遺伝子の発現を制御する。3つのDREB1遺伝子群の発現はストレスのない条件下では低く抑えられており、低温ストレス条件下で一過的に強く誘導される。これら3つの遺伝子のプロモーター領域の配列は相同性が高いことから共通の転写制御機構を持つと考えられた。そこで本研究では、DREB1遺伝子群の転写制御について解析を行なった。
    DREB1Cのプロモーター配列をつないだGUSレポーター遺伝子を導入した形質転換植物の解析により、概日リズムと低温ストレスによる発現誘導に関わる配列の両方をそれぞれ含む領域を同定した。酵母のワンハイブリッド法を用いてこの領域に結合するタンパク質としてCG-1型のDNA結合領域を含む転写因子CAMTA2をコードするcDNAを単離した。シロイヌナズナには全部で6種類のCAMTAが存在しており、系統解析および遺伝子発現解析の結果、複数のCAMTAファミリーが協調的に機能すると考えられた。プロトプラストを用いたトランジェント発現系による解析から、CAMTAファミリーはDREB1Cプロモーターを介した転写活性化能を有していることが示された。現在、T-DNA挿入変異植物体を用いてDREB1遺伝子群の発現を解析している。
  • 中南 健太郎, 千葉 由佳子, 松井 章浩, 中神 弘史, 野村 有子, 田中 真帆, 諸澤 妙子, 石田 順子, 関 原明
    p. 0572
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    越冬性植物は低温馴化と呼ばれる機構により耐凍性を獲得し越冬することができる.この低温馴化過程における応答機構を理解するためには,低温誘導性遺伝子やタンパク質の発現制御の解明が重要である.これらの遺伝子やタンパク質は転写や翻訳だけでなく,mRNAの分解や安定化といった転写後調節や翻訳調節によっても制御されていることが示されている.しかしながら,低温ストレス応答におけるmRNA分解や安定化を介した調節機構は不明な点が多い.そこで本研究では植物の低温ストレス応答を解明するため,このようなRNA制御に着目し,耐凍性試験を用いた関与遺伝子の探索を行った.その結果,RNA分解酵素であるXRN4の変異体がWTに比べ高い耐凍性を示した.XRN4は5'-3'エキソリボヌクレアーゼ活性を持ち,poly(A)及びキャップ除去後の主要なmRNA分解に関与することが知られている.さらに詳しい耐凍性試験の結果,xrn4変異体はWTに比べ,低温馴化前では高い耐凍性を示したものの,低温馴化後は同程度,脱馴化後は再び高い耐性を示した.電解質漏出テストにおける評価においても同様の結果が得られた.これらの結果から,RNA分解機構が植物の低温ストレス応答において重要であることが示唆された.XRN4のターゲットを同定するために,トランスクリプトーム及びプロテオーム解析を行っており,その結果についてもあわせて報告する.
  • 阪田 忠, 津長 雄太, 八木橋 奈央, 押野 健, 三浦 慎也, 苫米地 真理, 藤岡 智明, 佐藤 修正, 川岸 万紀子, 松岡 信, ...
    p. 0573
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    オオムギやシロイヌナズナなど比較的低温期に開花を向かえる植物では高温に対して、逆にイネなど高温期に開花を向かえる植物では低温に対して、それぞれ感受性が高く、いずれも雄性の花粉形成の過程で強い障害(雄性不稔)を来し、穀物の収量に大きな影響を及ぼすことが知られている。これまでの多くの研究から、雄性不稔が生じる際の条件や細胞レベルでの形態学的な影響など詳細な解析が行われてきたが、その要因となる分子メカニズムについての全体像は理解されていない。そこで、我々はマイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現の解析を行い、なかでも植物ホルモンに関わる遺伝子群の発現変動について着目した。その結果、オオムギやシロイヌナズナの高温障害においてはオーキシンが、イネの低温障害においてはジベレリンがそれぞれ鍵となる可能性が示唆された。抗体やレポーター遺伝子の発現解析により、高温や低温のストレスは葯の初期細胞分裂の活性に影響を及ぼすとともに、高温により内生オーキシンならびにその生合成遺伝子の発現が抑制されること、そこで、オーキシンの散布によって高温障害が回復できることを見出した。また、イネの低温障害では、ジベレリンの生合成や応答に関わる変異系統を用いた解析により、ジベレリンが低温耐性の付与に重要な役割を担うことが明らかになり、温度ストレスによる雄性不稔を克服するための糸口を見出すことができた。
  • 青野 光子, 脇山 成二, 永津 雅人, 金子 幸雄, 松尾 和人, 西澤 徹, 中嶋 信美, 玉置 雅紀, 久保 明弘, 佐治 光
    p. 0574
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
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    近年、遺伝子組換え生物の利用が拡大し、遺伝子組換え生物が環境に与える影響についての市民や科学者の関心も世界的に高まっている。我々は除草剤(グリホサート、グルホシネート)耐性をもつ遺伝子組換えセイヨウナタネ(除草剤耐性ナタネ、2n=38)の生育と近縁種(在来ナタネ、2n=20;カラシナ、2n=36)への遺伝子流動について、2003年以来継続的に調査している。その結果、主要なナタネ輸入港である国内の12の港湾(鹿島、千葉、横浜、清水、名古屋、四日市、堺泉北、神戸、宇野、水島、北九州および博多)の周辺地域のうち、横浜、堺泉北、宇野、北九州を除く8港湾の周辺地域で除草剤耐性ナタネの生育が確認された。そのうち四日市港周辺地域では、2005年以来4年連続して2種類の除草剤耐性を同時に持つナタネが確認された。このことから、2種類の除草剤耐性ナタネ間で交雑が起こっている可能性が考えられた。また、四日市港周辺地域の河川敷では、2008年に除草剤耐性セイヨウナタネと在来ナタネの雑種の可能性がある種子(2n=29)も見つかった。今後の調査にあたり、近縁種への遺伝子流動の可能性、およびこぼれ落ちた除草剤耐性ナタネの定着の可能性に留意すべきと考えられた。
  • 小林 正智, 佐々木 一誠, 山本 亜紀, 阿相 幸恵, 安部 洋
    p. 0575
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    理化学研究所バイオリソースセンター(理研BRC)実験植物開発室ではナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)に参画し、シロイヌナズナ/植物培養細胞・遺伝子の課題を実施している。本発表では、保存・提供するリソースの内容に加え、NBRPの支援で開発したcDNAリソースのバックアップ保存技術について紹介する。
    一般的にcDNAリソースの保存はグリセロールストックを作成して超低温槽内で保存しているが、長期の停電や機器の故障、更には大規模な災害があった場合にはリソースが全滅する可能性がある。しかし、大規模なcDNAライブラリーにおいてはコストとスペースの制約から、超低温槽でのバックアップ保存は困難である。そこで超低温槽を用いずに長期間cDNAリソースを保存する技術の開発に取り組み、冷蔵庫または-30℃の冷凍庫でDNAの長期保存が期待できるプロトコルを確立したので紹介する。今後開発したプロトコルを用い、理研BRCが保存・提供するシロイヌナズナ、ヒメツリガネゴケ、ポプラ、キャッサバ、タバコ、ハクサイ、T. halophila由来のcDNAについて、理研播磨研究所でのバックアップ保存を検討する予定である。
  • 井内 聖, 川村 節子, 小林 正智
    p. 0576
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    理化学研究所バイオリソースセンター実験植物開発室では、世界各地で単離され仙台アラビドプシス種子保存センター(SASSC)に保存されていたシロイヌナズナアクセッションの寄託を受けて提供を行っている。(http://sassc.epd.brc.riken.jp/sassc/create_search_panel2.php?mode=general)。これらシロイヌナズナアクセッションは、それぞれの生育地の環境に適応し生存していることから、環境適応と自然変異との関係を調べることができる重要な材料であると考えている。
    我々は、これらシロイヌナズナアクセッションの表現型情報を取得する試みを続けている。今回は、通常生育条件下での生育状況の画像データを経時的に撮影、記録した。具体的には、350系統のシロイヌナズナアクセッションを対象に、寒天培地上で2週間生育させた植物を1ポットに1個体移植し、16時間日長22℃の条件下での生育を毎週写真撮影した。これらのデータは、シロイヌナズナアクセッションの生育を比較する上において重要であると考えており、現在インターネットから公開できるようにデーターベースの構築を行っている。
  • 増田 晃秀, 石崎 公庸, 齊田 有桂, 水谷 未耶, 大和 勝幸, 河内 孝之
    p. 0577
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    苔類ゼニゴケは、陸上植物の進化の基部に位置し、頂端成長や植物ホルモン応答といった植物としての基本的な発生様式を持つ。ゼニゴケのゲノムサイズは280Mbと比較的小さく遺伝子重複が少ないことに加え、生活環の大半が半数体であることから変異体の表現型を当代で確認できるなど、順遺伝学研究に用いる上で数々の利点を備えている。さらに近年アグロバクテリウムを用いた高効率な形質転換法に加え、ESTやゲノム解析が急速に進展し、分子レベルの解析基盤が整ってきた。本研究では、ゼニゴケにおける順遺伝学的解析手法の確立を目指し、T-DNAタギング法による変異体の取得と解析を行った。バイナリーベクターpCAMBIA1300を用いて得られた1万株の形質転換体について連続白色光照射条件における形態形成を観察し、同化組織である気室の形態異常株や無性芽を形成する杯状体の形態異常株などを含む、計25株の形態形成変異株を選抜した。サザンブロット解析により、T-DNA挿入数は平均2.4コピーで、10株については1コピーであった。 TAIL-PCRによりT-DNAタグ隣接配列を取得しゲノムデータベースを用いて解析したところ、10株について遺伝子または遺伝子上流へのT-DNA挿入を確認した。現在、F1世代における連鎖解析と原因遺伝子候補の相補検定を進めており、ゼニゴケにおけるT-DNAタギングの有効性について議論する。
  • 光田 展隆, 高木 優
    p. 0578
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    個々の遺伝子の発現を制御している転写制御因子を同定するには、酵母ワンハイブリッド法がよく用いられる。われわれはシロイヌナズナの転写制御因子でのみ構成される均一化人工ライブラリーを作成し、線虫などでの先例と同様に、それを用いることで通常のcDNAライブラリーを用いるよりもはるかに高効率に目的転写制御因子を同定できることを示した。本研究ではこのライブラリーを用いて、木質形成過程に関与すると推定される約100遺伝子を対象に、そのプロモーター領域に結合する転写制御因子を網羅的に探索した途中経過を報告する。はじめにベイト側は推定転写開始点から上流1,000塩基を用いることにし、プレイ側は、木質形成過程に関与すると推定される32転写制御因子に絞り込み、1対1で個別に結合可能性を検討した。現在までに約2,000通り以上の組合せを検証し、多くの結合を検出した。検出された転写制御因子の多くはVND7やNST1などのいわゆるマスター転写制御因子であった。このことは他の研究でも示唆されているように、これらのマスター転写制御因子が、転写制御ネットワークの末端に位置する酵素遺伝子などの多くの遺伝子発現を直接制御していることを示している。現在プレイ側を全転写制御因子に拡張したり、ベイト側をずらしたりすることでより網羅的な同定ができないかを検証している。
  • 山口 勝司, 重信 秀治, 山田 昌史, 田畑 亮, 豊倉 浩一, 為重 才覚, 岩崎 昇, 立松 圭, 西村 泰介, 岡田 清孝, 長谷部 ...
    p. 0579
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナを用いて様々な植物生理に関わる遺伝子の機能を明らかにするためには、突然変異体をスクリーニングし、その原因変異を遺伝学的手法により明らかにするのが一般的である。しかし、従来の多型マーカーを利用したマッピングベースによる原因遺伝子の同定は、膨大な時間と手間のかかる作業であった。私たちは次世代DNAシーケンサーを用いて、変異体の原因遺伝子を迅速、低コスト、かつ高精度で同定する手法の確立を目指している。次世代DNAシーケンサーは超並列にシーケンス反応を行うことで、ひとつひとつの可読断片長は数十塩基と短いものの数億断片を一度に読むことができる。この特性から、次世代DNAシーケンサーはリシーケンス(リファレンスとなる塩基配列が既知のゲノムを再シークエンスすること)を得意とし、シロイヌナズナ研究で頻用されるEMSのような変異原により誘発される点突然変異の検出に特に相性が良い。私たちはラフマッピングと次世代DNAシーケンサーによるゲノムリシークエンスを組み合わせることによって、効率良く原因の変異を同定することにいくつかの例で成功している。一方、変異の同定が難しい実験系も多数経験している。これらの成功例と失敗例に基づいて、スクリーニング戦略からインフォマティクスに至るまで、次世代DNAシーケンサーを用いた変異検出の適切な実験デザインについて議論したい。
  • 刑部 敬史, 廣田 耕志, 島田 浩章, 武田 俊一, 土岐 精一
    p. 0580
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    遺伝子ターゲッティング(GT)は、標的遺伝子の欠損のみならず、タンパク質モチーフやアミノ酸の改変を可能にする精密度の高い遺伝子組換え技術である。しかし高等植物ではGT頻度は極めて低く、遺伝子導入効率あたりで0.01~0.1%である。近年、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を用いた標的特異的切断によるGTが開発され、GT頻度を1-3% まで上昇させることが報告されたが、GTをより汎用的な技術とする為には、特に遺伝子導入効率が低い植物種に応用する為には、GT頻度を更に上昇させることが必要であると考えられる。
    エキソヌクレアーゼ 1(EXO1)は、DNA二重鎖切断(DSB)末端を5’から3’へと削込み、相同組換えの初期反応に必要な3’突出一本鎖DNA(ssDNA)末端を生成させる酵素である。このEXO1過剰発現により、3’突出ssDNA末端生成を効率化すれば、DSBがより相同組換え反応へと進み、GT頻度も更に上昇すると考えた。そこで、ZFNによる標的特異的切断とEXO1過剰発現を組み合わせたイネGT系を開発し、その効率を検証した。その結果、ZFN/EXO1なしのコントロール実験では、1000形質転換カルス塊あたり数個のGT個体が得られるという効率に対して、ZFN/EXO1を過剰発現させると10形質転換カルス塊あたり数個のGT個体が得られ、約100倍の効率上昇に成功した。
  • 島田 裕士, 大林 武, 高橋 直紀, 松井 南, 坂本 敦
    p. 0581
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    mRNA・タンパク質・代謝産物の同定を行う場合、多くの場合は相対定量で行っている。ノーザンハイブリダイゼーションではトータルRNAやトータルmRNA当たりの特定遺伝子のmRNA量を測定しており、リアルタイムRT-PCRでは基準となる遺伝子の発現量に対する特定遺伝子の発現量を相対的に同定している。タンパク質や代謝産物の同定では多くの場合、総タンパク質量・組織の湿重量・乾燥重量や培養液当たりの量を相対的に同定している。比べるサンプル間でこれら基準となる値が変化していない場合は問題無いが、新規の変異体の解析や新しい処理区での解析の場合にはどの基準がサンプル間で変化していないかを事前に知ることは事実上不可能であり、用いた基準によっては間違った解釈をしてしまう恐れがある。今回我々は、ゲノムDNAとフローサイトメトリーで決定した組織細胞1個当たりの平均倍数性を用いたmRNA・タンパク質・代謝産物の分子数の絶対定量法の開発を行ったので報告する。
  • 鳴坂 義弘, 鳴坂 真理, 白石 友紀, 岩渕 雅樹
    p. 0582
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの形質転換実験は遺伝子機能や発現調節機構の解析に必須な研究手法である。アグロバクテリウムを用いた形質転換法として、vacuum infiltration法やfloral dipping法が主に用いられている。私たちはfloral dipping法を改変し、さらに簡易に形質転換が可能なfloral inoculation法によるシロイヌナズナの形質転換法を開発した(Plant Biotech. 27, 349-351)。本法は花芽に5 μlのアグロバクテリウム懸濁液を接種(点滴)するだけで形質転換が可能である。本法により、3個体のシロイヌナズナ(エコタイプ:Columbia、Wassilewskija)への形質転換で、15~50の形質転換植物を得ることができた。また、本法により薬剤マーカーを含む10kb以上の遺伝子を導入することに成功した。これにより、形質転換に要する大量の菌の培養、作業時間および栽培スペースを必要とせず、コストの低減および作業効率が高まった。本会において、floral inoculation法によるシロイヌナズナの簡易形質転換法の詳細を報告する。
  • 栗田 学, 谷口 亨, 小長谷 賢一, 渡辺 敦史, 田部井 豊, 石井 克明
    p. 0583
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    スギ(Cryptomeria japonica D. Don)は、わが国の主要な林業樹種である。目的形質のみ付与できる遺伝子組換え技術は、育種年月の短縮等、林木育種に大きく貢献する可能性がある。しかし、組換え体を野外に出すにあたり導入遺伝子の同種野生植物への拡散が懸念されている。そこで現在、花粉による導入遺伝子の拡散防止技術の開発として、遺伝子組換えによるスギの雄性不稔化を試みている。
    ポプラ等において、花器官特異的なプロモーターにBarnase等の遺伝子をつないだ構築物を導入する手法によって雄性不稔個体が作出されているが、多く場合に成長阻害が観察される。成長への影響を抑制するための手法としてBarnaseの阻害因子であるBarstarを栄養組織で共発現させるBarnase-Barstarシステムが効果を示している。現在我々はブロッコリーの葯特異的プロモーターBoA3-p, BoA9-p, スギ雄花特異的プロモーター1009-C47-p, 1009-C96-pを用いたBarnase-Barstarコンストラクトをスギに導入し、遺伝子組換え雄性不稔スギの作出を試みており、その進歩状況を報告する。
    本研究の一部は、農林水産省「遺伝子組換え生物の産業利用における安全性確保総合研究」の一環としておこなった。
  • 戸松 創, 尾形 善之, 柴田 大輔
    p. 0584
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    DNA断片の連結によるプラスミドの構築は分子生物学実験の根幹をなす技術のひとつである。我々はこれまでに多数のDNA断片を連結してプラスミドを構築する手法としてDNA断片固相連結法を提案した。これは一端を固相に連結したDNA断片に対して液相のDNA断片を入れ替えつつライゲーションと洗浄を繰り返す手法である。今回我々はDNA断片固相連結法とMultiRound Gateway systemとの融合により、多数のDNA断片をさらに効率よく連結する手法を提案する。
    DNA断片固相連結法ではライゲーション反応の回数と最終産物の収率は反比例するため、20断片を超えるDNAの連結は困難であった。本手法ではDNA断片固相連結法により作製した連結DNAをLR反応によりさらに連結する。複数のプラスミドがDNA断片の連結を分担することで、プラスミドあたりのライゲーション反応回数は大幅に抑えられる。また、プロモーター, 遺伝子, ターミネーターの連結手順の見直しにより、ひとつの遺伝子の発現に必要なDNA断片数は従来のDNA断片固相連結法の2/3に抑えられた。これらの特徴により、本手法によれば多数の遺伝子をクローニングしたバイナリーベクターの構築が可能である。
    現在我々は本手法を用いて、共発現すると予測されたシロイヌナズナの9つの転写因子を任意の組織と時期において同時に発現する系の構築を試みている。
  • 古川原 聡, 毛利 武, 中嶋 信美, 篠原 健司
    p. 0585
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    近年、地球規模での環境破壊が進んでおり、植物の生育が困難な荒廃地の拡大が問題となっている。このため、様々な環境ストレスに対して高い耐性を持つ樹木が荒廃地の再生に貢献することが期待される。植物の環境ストレス応答において、エチレンは傷害の発生や老化の促進に働く因子として知られている。本研究では、遺伝子組換えによるエチレン合成の抑制がポプラ(セイヨウハコヤナギ;Populus nigra var. italica)の環境ストレス応答に与える影響を調べた。
    ポプラにエチレン合成のキー酵素であるアミノシクロプロパンカルボン酸合成酵素(ACS)遺伝子をアンチセンス方向に導入し、35Sプロモーターで過剰発現させたところ、内生ACS遺伝子のストレスによる発現誘導が抑制された。組換えポプラの葉では、野生型ポプラと比較して、オゾンストレス、乾燥ストレス、塩ストレスによるエチレン合成の促進が抑制された。また、組換えポプラでは、各ストレス処理による葉の褐変化が緩和された。以上のことから、ACS遺伝子の発現抑制によってストレス誘導性のエチレン合成を抑制することは、複数の環境ストレスに対する耐性をポプラで同時に高める手法として有効であると考えられる。
  • 柴田 あゆみ, 景山 伯春, 深谷 実, 高倍 鉄子, 高倍 昭洋
    p. 0586
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    緑藻アオサは高濃度でDMSPを蓄積していることが知られている。そこで塩ストレス条件下における緑藻アオサ(Ulva pertusa)のDMSP生合成の制御機構について検討をおこなった。NaCl濃度が高くなると、アオサの成長速度が著しく低下した。また、顕微鏡観察の結果、不規則な細胞の配列や形態の変化が観察された。細胞内のDMSP蓄積量は培地のNaCl濃度の増加と共に増加した。DMSPはメチオニンから4段階の反応により合成されると考えられている。4-methylthio-2-hydroxybutyrate (MTHB)から 4-dimethylsulfonio-2-hydroxy-butyrate (DMSHB)を合成する反応が律速段階と考えられている。培地の硫黄が欠乏する条件ではO-acetyl serine sulfhydrylaseの活性は増加したが MTHB S-methyltransferaseの活性は減少した。硫黄が欠乏する条件ではDMSPとDMSHBの取り込み活性が増加した。高い塩濃度にするとMTHB S-methyltransferase活性とともにDMSHBの取り込み活性も増加した。DMSHB合成酵素の性質をはじめ、これらの結果について報告する。
  • 山田 晃世, 宮 舞子, 小関 良宏
    p. 0587
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    シチメンソウ (Suaeda japonica) は、アカザ科マツナ属の塩生植物である。有明海沿岸域に生育し、強力な耐塩性を有している。本研究では、「大腸菌を用いた機能スクリーニング法」により、シチメンソウから耐塩性強化因子を探索を進めた。その結果、ホウレンソウの葉緑体型 RNA 結合タンパク質とアミノ酸レベルで 80% の相同性をもつ、284 アミノ酸残基からなるタンパク質をコードする cDNA (以下 SjRBP) を単離した。SjRBP を導入した形質転換大腸菌には顕著な耐塩性の向上が認められた。また、35S CaMV プロモーターを用いて、SjRBP 過剰発現シロイヌナズナを作出し、その塩ストレス耐性を検討した。その結果、形質転換シロイヌナズナにおいても大腸菌における効果と同様に顕著な耐塩性の向上が認められた。また、SjRBP GFP 融合タンパク質を用いてSjRBPの細胞内局在性を観察したところ、SjRBP は葉緑体に移行していることが確認された。さらに本研究では、SELEX 法を用いて SjRBP が標的とする配列を検討した。これらの結果は、シチメンソウの耐塩性機構の解明や、耐塩性作物の作出のための重要な知見になると期待できる。
  • 高橋 明大, 岩崎 良輔, 森安 裕二
    p. 0588
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    細胞は栄養飢餓に陥った際、オートファジーによって自らの構成成分の分解を行い、分解産物を再利用する。シロイヌナズナを用いた先行研究で、栄養飢餓のみならず高塩・高浸透圧ストレスによってもオートファジーが亢進すること、栄養飢餓や高塩ストレスで亢進するオートファジー誘導のシグナル伝達には活性酸素が関与していることが報告された。本研究では細胞内をより明瞭に観察することのできるタバコ培養細胞BY-2を用いて、それらの結果の追試験を行った。
    オートファジーの過程で形成されるオートファゴソームというオルガネラをGFP-Atg8融合タンパク質で可視化した。これまで生細胞を用いてオートファゴソームを観察してきたが、本研究では細胞を化学固定し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて細胞内で形成されたオートファゴソームの総数を測定してオートファジーを定量化することを試みた。
    シロイヌナズナと同じ濃度のNaCl・mannitolをタバコ細胞に与えたところ、24時間以内に細胞のほとんどが死んでしまった。そこでまず、タバコ細胞が生存できるぎりぎりのNaClとmannitolの濃度を決定した。現在、各ストレスによるオートファジーの活性化の度合を調べており、得られた結果からストレス間のオートファジー誘導の相違、オートファジー誘導のシグナル伝達系における活性酸素発生の関与について議論する。
  • 溝口 昌秀, 梅澤 泰史, 軸丸 裕介, 吉本 光希, 中島 一雄, 高崎 寛則, 藤田 泰成, 白須 賢, 神谷 勇治, 篠崎 和子, 篠 ...
    p. 0589
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    SNF1-related protein kinase 2(SnRK2)と呼ばれる一連のプロテインキナーゼファミリーが植物の環境ストレス応答やABAシグナル応答に重要な役割を果たしていることが明らかになった。シロイヌナズナに10個あるSnRK2はIからIIIまで3つのサブクラスに分類される。サブクラスIIやIIIについては、ABAシグナル伝達および浸透圧応答における機能が報告されたが、サブクラスIは情報がきわめて限定的であった。このサブクラスIのメンバー(SRK2A/SnRK2.4, SRK2B/SnRK2.1, SRK2G/SnRK2.1, SRK2H/SnRK2.5)はABAを含む植物ホルモンでは活性化せず、浸透圧ストレス特異的に活性化する。メンバー間の機能的冗長性を考慮して、4つの遺伝子すべてをノックアウトしたsrk2abgh四重変異体を作成して解析したところ、生長阻害が観察された。マイクロアレイ解析により乾燥ストレス下で多くの病害・サリチル酸応答性遺伝子の発現が野生型植物に比べて増加していることが示された。しかし、この四重変異体ではサリチル酸量に変化はなく、ジャスモン酸-イソロイシン結合体の蓄積量は野生型植物の半分程度に減少していた。以上より、サブクラスIに属するSnRK2は、乾燥ストレス時におけるジャスモン酸とサリチル酸の拮抗作用に関与する可能性が考えられた。
  • 刑部 祐里子, 桂 彰吾, 有永 直子, 長町 啓太, 田中 秀典, 山田 晃嗣, 徐 劭旭, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
    p. 0590
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    乾燥・塩ストレスとアブシジン酸(ABA)で発現誘導されるカリウムイオントランスポーターKUP6は、植物の浸透圧調節に重要な役割を持っていると考えられる。KUP6プロモーターは維管束組織および孔辺細胞で発現し、KUP6-GFPは細胞膜局在性を示した。KUP6および相同性遺伝子KUP8の二重変異体kup6kup8は通常の生育条件下で側根数が増大しており、さらに、その側根形成は天然オーキシンIAAに高感受性を示し、ABAおよびオーキシン輸送阻害剤NPAに対し非感受性を示した。カリウムイオンチャネルGORKはABA誘導性K+排出に機能し気孔閉鎖を行うが、根の表皮においても発現する。GORK とKUP6/8の側根形成における機能を明らかにするために、kup6kup8gork三重変異体を作出しその表現型を解析した結果、kup6kup8gorkではIAA高感受性、ABA/ NPA非感受性がさらに増強されることが明らかになった。KUP6の高発現形質転換体の成熟葉では水分損失が低下し、土植えした形質転換体は長期の乾燥ストレスに対し耐性が向上した。一方、kup6kup8の気孔閉鎖におけるABA応答性は低下しており、成熟葉の水分損失は増大していた。さらに、浸透圧ストレス条件下におけるkup6kup8gork三重変異体の表現型、およびGORKとKUP6/8の共調的な機能について解析した結果を報告する。
  • 藤田 泰成, 吉田 拓也, Tory Chhun, 中島 一雄, 藤田 美紀, 城所 聡, 溝井 順哉, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
    p. 0591
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    植物では、乾燥や塩害などの水ストレスによって細胞内のアブシシン酸(ABA)濃度が上昇し、水ストレス応答に関わるABA誘導性遺伝子群の発現が誘導される。ABA存在下では、ABA受容体であるPYR/PYL/RCARファミリータンパク質がグループA プロテインホスファターゼ2C(PP2C)と複合体を形成し、これによってPP2Cによる負の制御が解除されSnRK2プロテインキナーゼが活性化される。サブグループIIIのSnRK2プロテインキナーゼはAREB/ABFなどの多くの転写因子を正に制御し、また、AREB/ABF転写因子(AREB1/ABF2、AREB2/ABF4およびABF3)はABA応答(ABRE)配列を介して多数のABA/乾燥ストレス応答性遺伝子の発現を制御していることを示してきた。本研究では、シロイヌナズナとイネを用いてAREB-SnRK2経路が乾燥ストレス応答において果たしている役割を解析した。プロトプラストを用いた一過的発現解析や各種変異体および過剰発現体を用いた遺伝子発現や表現型の解析などを通して、AREB-SnRK2経路が水ストレス時のABAシグナル伝達系において中心的な役割を果たしていることを示した。また、AREB-SnRK2経路はシロイヌナズナにおいてもイネにおいてもたいへんよく保存されており、陸上植物の水ストレス応答において重要な役割を果たしていることを示した。
  • Nang Myint Phyu Sin Htwe, Fujita Yasunari, Yoshida Takuya, Sekita Sach ...
    p. 0592
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    The study of gene expression in eukaryotes has been greatly advanced using techniques of DNA transfection. Transient expression assay system by using freshly prepared protoplasts is one of the most powerful tools in plant research to understand the basic biochemical and molecular mechanisms for environmental stress perception, signal transduction, and tolerance gene expression. In our group, though we have utilized transient expression systems by using leaf mesophyll protoplasts in Arabidopsis and rice, we had not obtained protoplasts from leaves of soybean, which is one of the major crop plant, by using similar widely used methods developed by Dr. Sheen. Based on the previous literature, compared with the other legumes such as cowpea and pea plants, it appeared to be more difficult to obtain protoplasts from leaves of soybean. However, here we report that we have established a rapid and sensitive transient expression system for soybean by using leaf mesophyll protoplasts derived from leaflets of trifoliate leaves of 3-week-old plants. By using this system, we have demonstrated that soybean AREB homologs, GmAREBs can function as transcriptional activators in soybean cells.
  • 関田 佐知子, 藤田 泰成, Myint Phyu Sin Htwe Nang, 吉田 拓也, 城所 聡, 山田 晃嗣, 戸高 大輔, Mi ...
    p. 0593
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    乾燥や塩害などの水ストレスによって細胞内のアブシシン酸(ABA)濃度が上昇し、これが引き金になって多数のABA誘導性遺伝子の発現が活性化される。このABAによる遺伝子発現には、シス因子としてABA応答(ABRE)配列が必要である。我々のグループでは、このABRE配列に結合して転写を活性化するシロイヌナズナのbZIP型転写因子としてAREB遺伝子群を単離した。また、ABAを介した水ストレス応答においてAREB1、AREB2およびABF3が正の制御因子として中心的な役割を果たしていることを示した。本研究では、世界のダイズ生産をになうブラジルにおける深刻な干ばつ問題の克服を目指して、ダイズのAREB相同性遺伝子(GmAREB)クローニングして機能解析を行なった。クローニングしたダイズの4種類のAREB相同性遺伝子GmAREB1GmAREB2GmAREB3およびGmAREB4について、さまざまなストレス処理における遺伝子発現応答解析を行った。また、プロトプラストの一過的発現系を用いて転写活性化能の解析を行い、これら4種類のGmAREB遺伝子が植物細胞中で転写因子として機能していることを示した。本発表では、さらにGmAREB過剰発現シロイヌナズナを用いた表現型解析の結果を報告し、ABAを介した水ストレス応答におけるGmAREB遺伝子の機能と役割について考察する。
  • 村井(羽田野) 麻理, 桑形 恒男, 桜井(石川) 淳子, 森山 真久, 林 秀洋, アハメード アリファ
    p. 0594
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    アクアポリンは水チャネルとしての機能をもつタンパク質であり、生物界に普遍的に存在する。イネのアクアポリン33種の内、根では約15種類が発現しており、中でもOsPIP2;3, PIP2;4, PIP2;5, TIP2;1の4種は根に高い発現特異性を示す。根でのこれらのアクアポリンの発現量は、夜間に低く日中上昇する日周変動を示すが、日中でも地上部を加湿処理すると発現上昇は著しく抑えられることが分かった。このことは、葉からの蒸散要求が根でのアクアポリン発現を誘導する強い促進因子である可能性を示唆している。今回は、蒸散要求量の指標として気象学などの分野で用いられるポテンシャル蒸発量が、アクアポリンの発現量と密接な関係にあることを報告する。野外の気象条件がアクアポリンの発現に及ぼす影響を調査するために、グロースチャンバーで2週間生育させたイネ幼苗を、夕方5時に屋外に出し、翌朝8時に根を採取してアクアポリンの発現量(mRNA)を定量した。その結果、上記のアクアポリンの発現量は雨天日に低く晴天日に高い特徴を示した。ポテンシャル蒸発量は、下向きの短波、長波放射量、飽差、気温、風速の関数で表され、時別気象データから計算できる。サンプリング当日朝のポテンシャル蒸発量(4時間平均)は上記アクアポリンと高い相関を示すことが明らかになった。
  • 清水(稲継) 理恵, 寺田 愛花, 瀬々 潤, 清水 健太郎
    p. 0595
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    生物はその歴史の中でゲノム倍数化を繰り返してきた.被子植物では,70%以上の種が過去に倍数化を経験していると見積もられている.倍数化による遺伝子の重複は,生物を多様化・複雑化するのに貢献したと考えられている.この研究では,植物の環境応答の進化に倍数化がどのように貢献したか,シロイヌナズナ近縁種を用いて検証する.
    モデルとしてアブラナ科タネツケバナ属の3種を用いた.親の一種,Cardamine amaraは小川の岸辺などの水没した環境が主な生息地である.もう一種の親,C. hirsutaは,それとは対照的に開けた乾燥地に生息する.この二種からできた四倍体C. flexuosaは,雨が降ると水没するが晴天が続けば乾燥するというような中間的で変動する環境に生息する.この属では,同様の生息地の両親から倍数体種が生まれるというパターンが少なくとも10種以上,分子系統樹から見つかっており,倍数体種は二倍体親種と異なる環境への適応放散に貢献したと考えられる.
    生息地の特徴から考えて,異質倍数体は2つの親種のゲノム発現パターンを環境に応じて使い分けているという仮説が考えられる.その検証のために,これら2種の二倍体種と異質倍数体種の,水没・乾燥それぞれの環境における遺伝子発現を,シロイヌナズナのマイクロアレイによって解析した.
  • 山崎 誠和, 小林 啓恵, 宮沢 豊, 高橋 秀幸
    p. 0596
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    水分屈性は植物の根が湿度勾配を感知して高い湿度の方向へ屈曲伸長する現象である。我々は、シロイヌナズナにおいて水分屈性を欠損する変異体miz1を以前に単離しており、変異体ではmiz1遺伝子のコード領域に変異があることがわかっている。MIZ1タンパク質の分子機能を理解するために、シロイヌナズナの根におけるMIZ1タンパク質の細胞内局在について解析を行った。細胞内局在を推測する複数のアルゴリズムを用いると、MIZ1は色素体に移行するものと推測された。また、ハイドロパシー解析を行ったところ、MIZ1タンパク質は可溶性タンパク質と予想された。MIZ1に緑色蛍光タンパク質(GFP)を付加したMIZ1-GFPを発現するシロイヌナズナの形質転換体の根を観察したところ、予測に反して色素体内にGFPの蛍光は認められなかった。そこで、免疫ブロット解析を行ったところ、MIZ1-GFPは可溶性タンパク質の画分に分画されるだけでなく、膜タンパク質画分にも分画されることが示された。さらに、ショ糖密度勾配遠心法とプロテアーゼプロテクションアッセイを用いて膜タンパク質画分のMIZ1-GFPについて詳しく調べたところ、MIZ1-GFPが細胞質側の小胞体膜上に存在することが示された。これらの結果は、MIZ1が小胞体機能に関係する可能性を示唆している。今後は、小胞体の水分屈性への関与について調査する必要がある。
  • 楠見 健介, 廣塚 祥子, 射場 厚
    p. 0597
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    大気中のCO2濃度上昇と温暖化は一般的には植物の生産性を増やすが、一方で、高濃度のCO2は気孔閉鎖とそれに伴う蒸散量の減少と葉温の上昇を引き起こし、高温障害を助長する可能性がある。本研究ではイネを材料として、気孔が常時開口した変異株を単離し葉温上昇の抑制効果と成長への影響を調べた。SLAC1は、シロイヌナズナから単離されたジカルボン酸輸送タンパク質で、孔辺細胞に局在し気孔閉口因子として機能する。相同性検索によりイネSLAC1オルソログ遺伝子(OsSLAC1)を推定し、NMUにより誘発した突然変異株集団からTILLING法によりOsSLAC1の読み枠に変異を持つ個体を選抜した。自殖し得た変異ホモ個体をサーモグラフィーカメラで撮影したところ、複数の変異株で野生株と比較し葉温が低下する事を確認した。これらの結果は、イネにおいてもSLAC1が気孔閉鎖因子として機能すること、葉温を抑制するツールとして使用できることを示している。これらの変異株を用いて、CO2濃度や湿度などを変化させたときの葉温や光合成速度に対する影響を調べた結果を報告する。
  • 松下 茜, 井上 晴彦, 後藤 新悟, 中山 明, 高辻 博志
    p. 0598
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    イネのWRKY45は、BTHやプロベナゾールによる誘導抵抗性に必須の転写因子であり、WRKY45過剰発現イネは、いもち病および白葉枯病に高い抵抗性を示す。抵抗性反応に通常ともなう生育阻害が軽度であることなどから、その実用化が期待される。WRKY45はSAやBTHに応答して、短時間で顕著な転写活性化を受けることが分かっている。本研究では、WRKY45の転写後または翻訳後制御について検討した。
    mycタグWRKY45恒常的発現イネを作製し、抗myc抗体を用いてタンパク質レベルでWRKY45の挙動を調べた結果、WRKY45がポリユビキチン化され、プロテアソーム系を介して分解されることを見出した。同様の結果は、抗WRKY45抗体を用いて野生型イネの内在WRKY45の挙動を調べても観察された。WRKY45はリン酸化されており、プロテアソーム阻害剤処理の結果から、リン酸化と分解の関連が示唆された。そこで、ペプチド質量分析等によりリン酸化部位を特定し、推定リン酸化部位に変異を導入することでWRKY45の安定性への関与を調べた。また、WRKY45の分解と転写活性化能の関係について、部分欠損型WRKY45を用いて解析した。これらの結果から、プロテアソームを介したタンパク分解によるWRKY45の機能制御について考察する。
  • 加星 光子, 高橋 章, 廣近 洋彦
    p. 0599
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    MAPKカスケードはPAMPsの認識から、防御応答反応の発動に至るシグナル伝達において、中心的な役割を担うと考えられている。我々はこれまで、イネにおいてMAPキナーゼOsMPK3/OsMPK6を上流キナーゼであるOsMKK4によって活性化することにより、防御物質(ファイトアレキシンやフェニルプロパノイド類)の蓄積、細胞死の誘導など一連の防御応答反応を誘導することを明らかにしている。OsMKK4-OsMPK6の下流でこれらの防御応答反応を制御する転写因子の解明を目指し、フェニルプロパノイド合成系への関与が予想される転写因子の解析を行った。タバコにおいては、防御応答反応時のフェニルプロパノイド合成酵素遺伝子の発現上昇にNtMYB2が機能すること、NtMYB2の発現がGATA転写因子AGP1により制御されることが知られているが、イネにおいては不明である。そこで、これらの転写因子のイネオルソログについて解析した。NtMYB2のオルソログOsMYB55の発現はOsMKK4-OsMPK6により上昇し、AGP1のオルソログOsGATA3はOsMKK4-OsMPK6によりin vitroにおいてリン酸化されることが明らかになった。これらのことから、OsMKK4-OsMPK6によるOsGATA3のリン酸化を介した翻訳後調節と、OsGATA3-OsMYB55-PALによる転写制御が想定された。
  • 高橋 章, 松井 英譲, 野村 有子, 中神 弘史, 廣近 洋彦
    p. 0600
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    これまでの遺伝学的解析から、OsPti1aはイネにおいて真性抵抗性および基礎的抵抗性の発動を負に制御する因子であることを見いだしている。昨年度の年会で、OsPti1aの生理機能にはそのN末端が必須であり、この領域への脂質修飾により細胞膜上に局在していること、ならびに細胞膜上では複合体を形成していることを報告した。そこで、ゲル濾過法によりOsPti1aを含む複合体について詳細に解析したところ、OsPti1aは200~300kDa前後の複合体を形成しているのに対し、N末側を欠損することにより、複合体のサイズが小さく変化することが確認された。すなわち、OsPti1aが機能するためには、そのN末端を介して細胞膜上に局在し、適切な複合体を形成する必要があると考えられた。そこで、OsPti1aを含む膜複合体について明らかにするため、抗-OsPti1a抗体を用いてOsPti1aと相互作用する膜複合体構成因子を精製し、質量分析法によりペプチド配列を決定した。これらの同定された候補因子について、OsPti1aとの相互作用を確認し絞り込みを進めている。
  • 前田 哲, 菅野 正治, 高辻 博志, 森 昌樹
    p. 0601
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    我々は既にイネ完全長cDNAを高発現するシロイヌナズナ(イネFOXナズナ)2.1万系統について病原細菌Pseudomonas syringae pv. tomato DC3000及び病原糸状菌Colletotrichum higginsianumに対する感染抵抗性スクリーニングを実施し、両病原体に複合抵抗性を示す系統を選抜している。そのうち6つの遺伝子については再導入等により原因遺伝子を確定している。
    これらの複合抵抗性遺伝子を過剰発現したシロイヌナズナのC. higginsianumに対する抵抗性機構の解析を行った。C. higginsianum感染後、SAのマーカー遺伝子であるPR1の発現がWTと同レベルなのに対して、ET/JAのマーカー遺伝子であるPDF1.2の発現が著しく増大したことから、ET/JA系の増強により抵抗性になっていることが示唆された。同定した複合抵抗性遺伝子の1つBROAD-SPECTRUM RESISTANCE1 (BSR1)はシロイヌナズナのBIK1に類似したreceptor-like cytoplasmic kinaseをコードしており、BSR1:OXイネはイネでも細菌病の白葉枯病及び糸状菌病のいもち病に対する複合抵抗性を示した。BSR1:OXイネのいもち病に対する抵抗性機構を明らかにするためマイクロアレイ解析を行っておりその結果を報告する予定である。
  • 田部 茂, 藤澤 由紀子, 木村 麻美子, 西澤 洋子, 南 栄一
    p. 0602
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/12/02
    会議録・要旨集 フリー
    イネが様々な病原菌に対して示す抵抗性は複数の遺伝子が関与する複雑な過程である.この過程にどのような遺伝子群が関与しているのか,そしてどのような制御メカニズムが働いているのかを明らかにするため,病原糸状菌であるイネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)をイネ葉身に接種し,レーザーマイクロダイセクション(LMD)法およびイネ44kオリゴDNAマイクロアレイ実験によって,感染部位における局所的なイネの遺伝子発現を解析した.解析においては,抵抗性遺伝子Piaの有無による抵抗性と罹病性それぞれの無傷イネ葉身にいもち病菌胞子をスプレー接種したものを用い,接種後12h,24h,36h,48hの遺伝子発現パターンについてクラスター解析を行った.その結果,抵抗性イネと罹病性イネの間に最も大きな差異が認められるのは接種12-24h後の感染初期であることが示唆された.すでに我々は,同様の方法で接種したイネ葉身の全葉を用いた解析において,抵抗性イネと罹病性イネの間に最も大きな差が認められるのが接種3日目であることを報告している.これらの結果は,イネいもち病菌感染後のイネ組織における遺伝子発現変化が空間的,時間的にダイナミックに制御されていることを示している.現在,発現パターンの異なる遺伝子群について解析を進めているので,その結果についても報告する.
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