理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ポスター発表
  • 泰地 章公, 岡田 祐子, 竹崎  聡, 泰地 貴美, 山田 実
    セッションID: A-P-45
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】整形外科術後における疼痛や患肢の免荷状態は、脳の可塑的変化を引き起こし、皮質レベルでの感覚運動野の領域が減少すると言われている。臨床において『自分の足ではない感じがする』、『足に力が入りにくい』と訴える例もあり、ボディイメージ、運動イメージの低下が考えられる。運動イメージ想起方法に手足の写真を利用したメンタルローテーション(以下、MR)では、脳の運動関連領域に活動が見られることがわかっており、先行研究において、慢性期疾患への介入効果も報告されている。しかし、整形外科術後疾患に対する急性期における効果を報告したものは少ない。今回、膝前十字靱帯(以下、ACL)再建術後例においてMRを自主練習として行うことにより、どのような影響を与えるか検証することを目的とした。【方法】対象は、平成23年7月から平成24年11月までに当院において自家半腱様筋腱を用いたACL再建術後患者12名(46.4±8.5歳)とし、膝以外に障害がある場合や神経系に問題がある場合は除外した。対象者はリハビリテーション開始日より、無作為にMR群6 名(男性4 名、女性2 名、年齢47.7 ± 5.5 歳)と対象群6 名(男性5 名、女性1 名、年齢45.1 ± 11.1 歳)の2 群に分けた。両群ともに毎日標準的なリハビリテーションを実施し、MR群にはそれに加え、簡易型MRを自主練習として毎日約20 分実施するように指導した。簡易型MRとして0 度、90 度、180 度、270 度と回転させた足の写真を60 枚入れたクリアファイルを使用し、回転した足の写真を見ることで運動イメージの想起を促し、その写真が右足か、左足かを回答してもらう事とした。調査項目は、膝屈曲ROM・位置覚の測定とした。膝屈曲ROMは、ゴニオメーターを用いて、術後1 週と術後2 週に測定した。位置覚の測定は、術後2 週と術後4 週に測定し、方法は、腹臥位にて健側膝関節を他動的に30°、50°、70°屈曲させ、設定角度に達した時点で5 秒間停止させた。この停止中に膝関節の位置を記憶させ、膝関節を開始角度に戻した。その後患側膝にて設定角度まで自動運動にて再現してもらい、ゴニオメーターにて1°刻みで測定した。各角度3 回ずつ測定し、設定角度に対する再現角度から誤差角度の平均を算出した。また、当院における術後の外固定は1 週間であり、術後3 週より部分荷重、術後5 週より全荷重開始となる。統計学的解析には二元配置分散分析、多重比較にはHolmの検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】すべての対象者に本研究の主旨を説明し同意を得た。【結果】術後1 週における膝屈曲ROMは、MR群と対照群ではそれぞれ87.5 ± 8.2°、82.5 ± 9.9°(P>0.05)であった。術後2 週では129.2 ± 4.9°、115.8 ± 10.2°(P<0.01)であった。術後2 週における位置覚を従属変数とした二元配置分散分析の結果、有意な交互作用を認め、Holm検定の結果、設定角度30°での誤差は11.3 ± 7.4°、9.8 ± 7.5°(P>0.05)、50°での誤差は6.9 ± 5.5°、8.8 ± 9.2°(P>0.05)、70°での誤差は5.9 ± 4.1°、7.4 ± 6.8°(P>0.05)であった。また、術後4 週における設定角度30°での誤差はそれぞれ5.1 ± 4.1°、12.8 ± 6.7°(P<0.01)、50°での誤差は4.7 ± 3.2°、12.6 ± 5.7°(P<0.01)、70°での誤差は5.1 ± 4.0°、6.9 ± 4.8°(P>0.05)であった。本研究の結果、MR介入群では術後2 週での膝屈曲ROMが対照群に比べ有意に増加した。膝屈曲30°・50°の位置覚においても術後4 週では、対照群に比べ有意に誤差が少ない結果となった。【考察】今回、ROM、位置覚ともにMR群で効果が認められたのは、術後早期にMRを実施することで感覚運動野領域の減少を抑制し、ボディイメージの形成や防御性収縮が低下したためと考える。また、ACL損傷のある患者では、メカノレセプターの損傷により位置覚が低下するとの報告が多くみられるが、膝関節全体としてみれば、ACLからの求心性の信号はわずかな部分しか占めていないという報告もあり、位置覚には半月板、関節包、筋紡錘などによる関与も考えられる。MRを用いた運動イメージの導入により、筋紡錘の情報を積極的に中枢神経系で処理しようとすることを促し、自身の身体を理解しやすくなったものと考える。膝位置覚は患者満足度やスポーツ復帰と相関があると言われており、今回位置覚に効果が認められたことは興味深い。【理学療法学研究としての意義】術後早期にMRを介入することで、ROM・位置覚に効果が認められた。位置覚の低下は再受傷のリスクを高めることから、術後早期からのMR介入は有用であると考える。
  • 遠藤 直人, 杉本 諭, 加藤 星也
    セッションID: A-P-45
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】自己効力感はBanduraによって提唱された社会的学習理論であり,行動を自分自身が適切に遂行できるかどうかの見積もり・予期のことをいい,行動変容に影響を及ぼすと考えられている.近年では,運動選手のパフォーマンスの違いや高齢者の転倒に関する自己効力感の研究が行われている.これらの研究では,自己効力感の高い者では運動のパフォーマンス能力が高く,転倒発生率が少ないと述べられているが,対象が有する運動能力が異なるため,自己効力感の違いによってパフォーマンスが変化するのかどうかは明らかではない.今回我々は,積み木を用いた積み上げテストを行い,自己効力感が運動パフォーマンスに与える影響について検討した.【方法】本学の学生48 名を本研究の対象とした.性別は男性24 名,女性24 名,平均年齢は21.5 ± 0.8 歳で,全例右利きであった.積み上げテストには,コース立方体組み合わせテストの積み木(一辺3cm)を使用した.測定は着席した状態で,正面の机に置かれた積み木を利き手のみで10 秒間にできるだけ多く積むように指示した.実施に先立ち,実際に積み木を5 つ積んでもらい,「10 秒間にいくつ積めると思うか」を聴取した.次に目標設定の違いが実施数に関連するのかを明らかにするために,1 回目より出来るだけ多く積む(目標無し),1 回目より2 個以上多く積む(小目標),1 回目より4 個以上多く積む(過大目標),の3 通りの目標をランダムに与えて施行した.本研究の動作課題は上肢の巧緻性が必要であると考え,上肢機能の評価には簡易上肢機能検査動作のうち,ピンと小球の課題を行った.分析は対象の1 回目の成績をもとに見積り誤差数の違いにより,見積り数よりも実際数が2 個以上少ない場合を過大評価群,2 個以上多い場合を過少評価群,1 個以下の場合を適切評価群の3 群に分類し,上肢機能の成績,見積り数,実際数を群間比較した.次に目標の違いにより目標無群,小目標群,過大目標群に分類し,1 回目と2 回目の実際数の差を3 群間で比較した.統計学的分析には一元配置の分散分析およびテューキーの多重比較検定を行い,5%を有意水準とし,統計解析ソフトはSPSSver20.0 を用いた.【説明と同意】対象者には本研究の趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得た.【結果】過大評価群は12 名,過少評価群は18 名,適切評価群は18 名であった.上肢機能の全対象の平均値は,ピン課題8.3 ± 1.5 秒,小球課題10.4 ± 1.7 秒であり,いずれの課題においても群間差を認めなかった.予測数の比較では過大評価群12.4 ± 2.4 個,過小評価群6.4 ± 0.9 個,適切評価群9.1 ± 1.2 個と過大評価群が最も多く,3 群間のいずれにおいても有意差を認めた.実際数では同様の順に8.5 ± 1.2 個,9.6 ± 0.7 個,9.1 ± 1.3 個であり,過大評価群が過小評価群に比べて有意に少なかった.目標設定の違いによる分析では,1 回目と2 回目の実際数の差は,目標無群1.0 ± 1.6 個,小目標群0.8 ± 1.6個,過大目標群0.9 ± 1.7 個と,3 群間に有意差を認めなかった.【考察】上肢機能の成績は見積り誤差数の差異に関連しなかった.また過大評価群は予測数が3 群間で最も有意に多かったのにも関わらず,実際数は過少評価群よりも有意に少なかった.このことから実施数を高く予期しても(すなわち自己効力感が高くても)運動パフォーマンスが高まらないと考えられた.先行研究では,自己効力感が高いほど運動パフォーマンスが高いと報告されているが,体操競技やテニスなどのダイナミックな運動課題についての研究である.Banduraは自己効力感における予期機能は,結果予期と効力予期の2 つのタイプから構成されると述べている.すなわち本研究で行った課題は非日常的な上肢の巧緻動作であり,対象者の趣味やQOLなどに直接関わるような課題ではないため,結果予期が行われても,効力予期への影響が少なかったと推察された.一方,目標設定の違いにより実施数に差が見られず,適切な目標を与えても結果には反映しなかった.すなわち目標設定の有効性は,与えられた目標を前向きに受け止め,更に積上げ数を増加させようとする動機づけにつながるかが重要であり,これには他の個人的な要因の関与が強いと考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,自己効力感の予期機能である結果予期だけが高くても,運動パフォーマンスは高まりにくいことがわかった.したがって行動変容には,結果予期だけではなく効力予期を高めたり,動機づけにつながるような適切な目標を提示することが重要であることが示唆された点において臨床研究として意義があると思われる.
  • 元島 俊幸, 稲増 真利, 藤岡 知子, 渡辺 慎太郎
    セッションID: A-P-45
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)は、運動時に生じる生体電位信号をもとに、自発的な四肢の運動を補助してくれるものである。今回我々は、HALを動作練習に用いることで、動作学習を効率的に進め、基本的動作の獲得とADL能力の向上に繋げられるのではないかと考え、HAL導入による効果を検証することを本研究の目的とした。さらにロボットリハビリテーションの活用の可能性について検討することも目的とした。【方法】対象者は頚髄損傷患者(不全麻痺)2 名で、いずれも70 歳代男性である。対象者は約2 ヶ月間、下肢用HALを装着した立ち上がり動作の反復練習を実施し、HAL導入前後での立ち上がり動作を比較・分析した。HALを装着した立ち上がり動作練習の頻度は、週1 回程度である。分析方法は、HAL導入前とHAL導入から2 ヶ月後の立ち上がり動作をビデオにより矢状面から撮影し、肩峰・大腿骨大転子・膝関節前部・足関節外果を指標として、平面座標上に変換。立ち上がり動作は連続して2〜3回行って頂き、その平均値をとり、それぞれの指標の位置関係や指標の移動速度および移動距離を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究を実施するにあたり、当院設置の倫理委員会での承認を得た。また対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、本研究の主旨とHALに関する効果および副作用の説明を口頭ならびに書面にて十分説明し、書面にて同意を得た上でご協力頂いた。【結果】HAL導入前と導入2 ヶ月後の比較では、立ち上がり動作を完了するまでの時間、運動開始から離殿時までの肩峰の移動距離と移動速度に変化がみられ、いずれも導入2 ヶ月後の方が向上している結果となった。毎回のHAL実施前後での比較でも同様に、立ち上がり動作を完了するまでの時間、運動開始から離殿時までの肩峰の移動距離と移動速度に変化がみられ、いずれも導入2 ヶ月後の方が向上している結果となった。しかし、肩峰・膝関節前部・足関節外果のアライメントの変化はみられなかった。また、被検者からは「立ちやすくなった」「力の入れ具合が分かるようになった」など、HAL導入による良い効果を示す発言が得られた。【考察】今回の対象者は頚髄損傷患者で、その特徴として筋緊張が高くなりやすく、随意運動時に四肢・体幹の協調性が低下するという特徴を持っている。そのため、動作時にもスムースな運動やバランスの保持が困難となりやすいと言える。そこで、HALを装着することで過度な努力を抑え、最小限の筋収縮で動作を行うことを繰り返すことが、筋収縮レベルでの動作学習に繋がったのではないかと考える。また、筋収縮の程度や重心の位置をモニターで対象者自身が確認出来るため、視覚的フィードバックが可能であり、対象者は自分でどこに力が入っているのか、重心がどこにあるのかを確認しながら動作練習が行える点も、良い結果を生んだ要因と思われる。今回の研究では、動作時のアライメントにおいてHAL使用による変化はみられなかった。これは、対象者がHAL導入前から立ち上がり動作練習を日常の理学療法場面において行っており、HAL導入時点で既に立ち上がり動作が「できる」状態であったため、アライメントの変化は得られにくかったのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】HALを導入している病院や施設は増えているものの、客観的データを用いた検証は少なく、効果の有無については各施設内での評価に留まっているように思われる。今後、HAL導入による効果判定や評価基準の検討を行っていく中で、各施設の使用状況や評価方法などを表に出していくことで、ロボットリハビリテーションの可能性を広げることになり、障害者の機能改善や自立支援に役立つのではないかと考える。HALの使用についてはこれまで、装着に手間や人手が掛かるという問題点や費用の問題などが指摘されているが、今回の結果からは、それらのマイナス面を大きく上回る効果を得ることができたと考える。さらに、今回は立ち上がり動作のみを研究課題としたが、同対象者において、歩行動作でも体幹動揺の減少やストライドの拡大、歩行速度の向上など、良い効果が得られており、今後さらに理学療法場面での活用の機会を増やしていきたいと思う。
  • 堀 真里南, 杉浦 友香里, 上村 一貴, 春田 みどり, 高橋 秀平, 東口 大樹, 長谷川 隆史, 内山 靖
    セッションID: A-P-45
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】つまずきは高齢者の転倒要因の50%にも達するとされており、つまずきの大部分は障害物回避の失敗によって生じている。安全な障害物回避のためには、跨ぐ前の段階から合理的な歩行戦略を適用する必要がある。Chenら(1994)は、健常成人では障害物を跨ぐ2 歩前以降、高齢者では3 歩前以降で歩幅の調節を行うとしており、跨ぎ動作そのものよりも跨ぐ前の歩行を分析することが重要であると考えられる。また、照度変化は転倒リスクに関連する環境要因であり、高齢者では、暗い照度下で歩幅の減少とそれに伴う歩行速度の減少が生じる。さらに照度の低下は段差や障害物の視認性を大きく低下させるとされていることから、照度が変化した場合には、障害物回避前の歩行戦略が異なる可能性がある。そこで本研究の目的は、照度変化が障害物回避時の歩行戦略に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】対象者は健常成人18 名(年齢22.5 ± 3.15 歳)とした。課題は、10mの自由歩行とし、障害物の有無及び照度条件を明るい・薄暗い・暗いの3 条件に変化させた計6 条件を設けた。測定順はランダムとし、各条件につき4 試行、計24 試行を行った。条件を変更する際に、前試行の暗順応の影響を除去するため、明順応に必要とされる5 分間の休憩時間を明るい照度下で各試行間に設けた。障害物(高さ15cm)は、毎試行7.5m〜8.5mの間でランダムに設置した。裸足で足底にラインパウダーを塗布して黒いゴムマット上を歩行することで、測定区間内の歩幅に加え、歩行時間、歩数を計測した。統計処理は、歩幅については照度と障害物までの歩数を、測定区間の平均歩幅と歩行率については照度と障害物の有無を2 要因とした二元配置分散分析及び事後検定を用いた。さらに、障害物あり条件における歩行調節の開始時点を同定するため、歩幅の変化率を連続する各歩数毎に算出し、通常歩行(明るい・障害物なし)時と比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】所属施設の生命倫理審査委員会の承認を得た上で行った。被験者には、個別に研究内容の説明を行い文書で同意を得た。【結果】照度は、明るい条件で582lux、薄暗い条件で0.0125lux、暗い条件で0luxであった。明るい条件(歩幅:68.4 ± 7.51cm、歩行率:112.4 ± 7.06 歩/分)に対して、薄暗い条件では歩幅の大きさ(65.3 ± 7.37cm)に有意差はなく、歩行率が有意に小さかった(109.0 ± 8.34 歩/分)。暗い条件では歩幅(52.4 ± 10.8cm)、歩行率(82.8 ± 21.4 歩/分)ともに有意に小さかった。また、明るい及び薄暗い条件の障害物あり条件(明るい:15.7%、薄暗い:21.0%)では明るい条件の障害物なし条件(-1.90%)に比べて、跨ぎ動作時の歩幅の変化率が有意に大きく、跨ぎ動作時に歩幅が増大することを示した。暗い条件では、明るい条件の障害物なし条件に対して跨ぎ動作時の歩幅の変化率が有意に大きいことに加え、3 歩前、2 歩前で有意に小さく(明るい・障害物なし:3 歩前 -0.57%、2 歩前 -0.77%、跨ぎ動作 -1.90%)(暗い・障害物あり:3 歩前 -8.45%、2 歩前 -10.9%、跨ぎ動作61.2%)、障害物の3 歩前、2 歩前で歩幅が減少し、跨ぎ動作時に増大することを示した。【考察】明るい条件では障害物の跨ぎ動作時に歩幅を拡大して調節していた。薄暗い条件では、歩幅の大きさ及び調節の開始は明るい条件と同様であったが、歩行率は明るい条件に対して有意に減少した。先行研究では、障害物の高さは接近する過程で視覚認知され、この情報によって跨ぐ時の足の運動軌跡が前もって計画されるとしている。本研究では、照度が低下して薄暗くなったことで視覚情報入力が少ないため、歩行率を減少させて視覚認知に必要な接近時間を増加させていると考えられる。暗い条件では、歩幅は、明るい及び薄暗い条件に対して有意に小さく、障害物の少なくとも3 歩前から2 歩前まで減少させ、1 歩前から拡大することにより調節することが示された。また、歩行率は、明るい及び薄暗い条件に対して有意に小さかった。歩行率が100 歩/分を下回ると歩幅と歩行率の比が一定でなくなり、そのとき重心の側方変位が急増するといわれている。これらのことから、暗い条件下では自由歩行から逸脱した不安定な歩行となっている可能性がある。また、歩幅と歩行率の双方を減少させることで、障害物の視覚認知に必要な接近時間を確保していると考えられる。以上より、3 つの異なる照度条件で歩幅と歩行率の調節が異なることが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】本研究は、照度を変化させた際の標準的な障害物回避戦略を明らかにすることで、有疾患者や転倒リスクの高い高齢者における逸脱した戦略を解明し、安全な移動能力獲得に向けた理学療法プログラムを開発するための基準となる情報を提供する点で重要な意義を有すると考える。
  • 柴田 恵理子, 金子 文成
    セッションID: A-P-45
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】筋腱に対して適切な周波数で振動刺激を行うと,刺激された筋のIa群線維が発火し,実際には関節運動が生じていないにも関わらず,あたかも刺激された筋が伸張する方向への運動錯覚を生じる。振動刺激の周波数とIa群線維の発火頻度は正の比例関係にあり,Ia群線維の発火頻度の増加に伴い,運動錯覚の自覚的強度が増大する。また,振動刺激による運動錯覚中に運動イメージを行わせることによって,振動刺激に伴う筋紡錘からの求心性入力と運動イメージが統合され,それぞれ単独で行った場合とは異なる運動を知覚することが明らかとなった。しかし,筋紡錘からの求心性入力に対する運動知覚強度の利得が,運動イメージによって変化するのかは明らかでない。筋紡錘からの求心性入力に対する運動知覚強度の利得が運動イメージによって変化しないのであれば,運動イメージを行った際に知覚する運動速度の変化が全ての周波数で一定になると考える。そこで,本研究ではその点を明らかにした。【方法】対象は健康な成人とし,対象側は左とした。測定肢位は安楽な椅子座位とし,自作の台に前腕中間位で前腕近位部と第5 中手骨を置いた。実験課題として,様々な周波数で振動刺激を行い,同時に運動イメージを行わせた。そして,振動刺激終了後,刺激中に知覚した関節運動を同側で再現させた。振動刺激部位は,手関節の背屈筋あるいは掌屈筋とした。振動刺激の周波数は,40Hz,60Hz,80Hz,100Hzとした。刺激時間は3 秒間とした。イメージさせる運動は,手関節が3 秒間で中間位から最大掌屈位まで掌屈する運動とし,一人称的に行わせた。運動イメージは3 秒間実施した。なお,筋収縮を伴わずに運動イメージができるようになるまで,短橈側手根伸筋と尺側手根屈筋を筋電図でモニタしながら事前に練習を行なった。実験条件として,4 段階の周波数での振動刺激中に運動イメージを行う条件と行わない条件の合計16 条件を設定し,3 試技ずつ実施した。振動刺激中に知覚した関節運動を刺激終了後に同側で再現させ,磁気センサで再現中の手関節角度を記録した。得られたデータから角速度を算出し,各条件で3 試技の平均値を個人データとした。統計学的解析として,振動刺激部位ごとに運動イメージと周波数を要因とした二元配置分散分析を実施した。有意な交互作用があった場合,多重比較として単純主効果の検定を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,事前に研究目的や測定内容等を明記した書面を用いて十分な説明を行った。その上で被験者より同意を得られた場合のみ測定を開始した。【結果】背屈筋に振動刺激を行うと,全ての被験者は掌屈運動を知覚した。そして,運動イメージを行うことにより,知覚した運動の角速度が増大した。統計学的解析の結果,運動イメージと周波数の要因ともに有意な主効果があったが,交互作用はなかった。掌屈筋に振動刺激を行うと,全ての被験者は背屈運動を知覚した。そして,運動イメージを行うことにより,知覚した運動の角速度の平均値が減少した。統計学的解析の結果,運動イメージと周波数の要因ともに有意な主効果があり,2 要因には有意な交互作用があった。多重比較の結果,全ての周波数において,運動イメージを行う条件で知覚した角速度が有意に減少した。さらに運動イメージの有無に関わらず,40Hzで刺激した条件と比較して80Hzと100Hzで刺激した条件において,知覚した運動の角速度が有意に増大した。【考察】本研究では,背屈筋への振動刺激によって掌屈の運動錯覚が生じている際に,掌屈運動のイメージを行うことにより,知覚した運動の角速度がイメージした方向へ増大した。しかし,運動イメージと周波数の要因に交互作用がなかった。その一方で,掌屈筋への振動刺激によって背屈の運動錯覚が生じている際に,掌屈運動のイメージを行うことにより,知覚した運動の角速度が減少することが示された。さらに,運動イメージと周波数の要因に交互作用があったことから,振動刺激の周波数によって,運動イメージによる角速度の変化が異なる,つまり,筋紡錘からの求心性入力に対する運動知覚強度の利得が変化することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,筋紡錘からの求心性入力と運動イメージの統合が運動知覚に及ぼす影響を解明するための一助となる基礎的研究である。本研究の結果は,理学療法において感覚フィードバックや運動イメージを効果的に用いるための基礎的な知見になると考える。
  • 須永 康代, 国分 貴徳, 木戸 聡史, 阿南 雅也, 新小田 幸一
    セッションID: A-P-48
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】身体体節の質量比や質量中心比といった身体部分係数は、バイオメカニクス研究を行う上で必須の情報であり、これまでに欧米人男性のものや、日本人高齢者およびアスリートなどのものが公表されている。しかし日本人の妊婦の身体部分係数は報告がない。妊娠経過により形態の変化する妊婦に特化した慣性特性値の推定は、バイオメカニクス研究を行う上で重要な情報である。本研究は妊婦の実用的バイオメカニクス研究を指向した基礎データを得ることを目的として、妊婦の下部体幹部分の体重に対する質量比と質量中心比の推定を行った。【方法】被験者は、単胎妊娠で妊娠経過に問題のない妊娠16 週、20 週、24 週、30 週の妊婦それぞれ1 人ずつの計4 人(平均年齢28.5 ± 2.7 歳)、未経産女性1 人(年齢29 歳)であった。被験者の下部体幹部分に計24 個の赤外線反射マーカーを貼付後、8 台の赤外線カメラにて静止立位姿勢の撮影を行い、三次元動作解析システムのソフトウェアVICON Nexus1.7.1(Vicon Motion Systems社製)を用いてマーカーの座標位置を同定した。下部体幹を、マーカーの座標位置情報より六面体で構成される6 つの部分に分け、さらにそれぞれを4 個のマーカーを結んだ四面体6 個に分けて、Microsoft Excelのワークシート上で体積を算出した。得られた体積より、下部体幹部分の質量、質量中心位置を求め、体重に対するそれぞれの質量比、下部体幹部分長に対する質量中心比(第12 肋骨から大転子の高さまでの距離に対する近位端からの比)を算出した。なお、質量算出には先行研究を基に妊娠16 週、20 週の被験者と未経産女性は1,037kg/m 3 、妊娠24 週、30 週の被験者は1,030kg/m 3 の身体密度を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、所属機関倫理委員会の承認(承認番号 第24007 号)を得て、ヘルシンキ宣言に則り、被験者に研究の目的や内容について説明し、同意を得た上で行った。【結果】下部体幹部分の質量比、質量中心比はそれぞれ、妊娠16 週では17.7%、54.1%、20 週では19.7%、54.5%、24 週では16.5%、53.9%、30 週では20.8%、50.0%、未経産女性では13.0%、55.7%で、妊婦は未経産女性と比較して下部体幹部分の質量比は増大し、下部体幹の質量中心比は小さくなっていた。【考察】妊婦では子宮の成長にともない、腹部の前方への突出に加えて子宮底長が増大して胎児の鉛直方向への成長が進むため、下部体幹部分では、質量のより大きい部分が上方へと変位することによって質量中心位置が高くなり、質量中心比が小さくなったと考える。このことから、妊婦では未経産女性とは形態的に異なり、また妊娠経過により変化が生じるため、妊婦を対象としたバイオメカニクス研究を行う際には妊娠週数に適応した慣性特性値を用いるべきである。【理学療法学研究としての意義】これまで、妊婦を対象としたバイオメカニクス研究では欧米人や日本人の妊婦以外の慣性特性値を代用していたため、信頼性に欠ける結果を招く可能性も示唆されてきた。本研究で妊婦に特化した値を提示したことは、妊婦に関する理学療法領域での今後のバイオメカニクス研究に、より高い信頼性と妥当性をもたらす可能性をもつ点で有意義である。
  • 来間 弘展, 新田 收, 古川 順光, 信太 奈美, 神尾 博代, 宇佐 英幸, 柳澤 健
    セッションID: A-P-48
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】ハイヒールは女性の間で非常に多く履かれている靴である。しかし、ハイヒールは重心を前方へ移動させることから不良姿勢となり、腰痛や足部の変形を引き起こす要因となることが知られている。我々は、この不良姿勢や足部への問題を改善するために前足部の形状を変化させ、足部への負担を軽減するハイヒールを考案した。今回、考案した形状の異なるハイヒールと従来型のハイヒールを着用した場合を比較し、立位時の足圧と歩行時の酸素摂取量の相違を検証することを本実験の目的とした。【方法】対象は健常成人女性7 名(平均年齢:21.6 歳(20 〜23 歳)、平均身長(標準偏差):161.0(4.1)cm、平均体重(標準偏差):52.8(2.5)kg)とした。被験者に従来型のハイヒール(以下、従来型)と前足部をわずかに持ち上げた改良型ハイヒール(以下、改良型)(ヒール高はいずれも3cm)を履かせ、静止立位およびトレッドミル上歩行を行わせた。なお、ハイヒールの着用順はランダムとし、一方のハイヒールでの実験後、2 時間以上の間隔をあけ、他方のハイヒールでの実験を行った。まず、被験者の目の高さかつ1m前方に設置した点を注視させ、30 秒間の静止立位を行わせた。この時の足圧を、ハイヒールのインソール部に足圧センサシートをいれ、足圧分布測定システム(F-スキャンⅡ、ニッタ株式会社)にて計測した。次に、椅子座位にて3 分間の安静を取った後、速度3.2km/hで10 分間のトレッドミル歩行を行わせた。椅子座位安静時から歩行終了まで、呼気ガス分析装置(AE-300S、ミナト医科学株式会社)を用いて、breath-by-breath法にて酸素摂取量の測定を行った。足圧分布は左右とも足部を前足部・中足部・後足部と三分割し、各領域での接触最大圧力[kg/cm 2 ]を計測し、それぞれ3 部位間の差をKruskal-Wallis検定にて確認し、多重比較にMann-Whitney検定、Bonferroniの不等式による修正を行った。酸素摂取量[ml/kg/min]は1 分ごとの平均を求め、靴による経時的変化の違いを二元配置分散分析にて検定した。統計処理にはIBM SPSS 19 を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮】すべての対象者に実験の目的・手順・予想される危険性について説明し、実験に協力することに対する了解を得た。なお、本研究は本学本キャンパス研究安全倫理委員会の承認(承認番号12043)を得て実施した。【結果】従来型の最大足圧平均値(標準偏差)は、右前足部:1.8(0.6)・右中足部:2.2(1.8)・右後足部:1.1(0.3) kg/cm 2 、左前足部:1.5(0.4)・左中足部:2.3(1.1)・左後足部:0.8(0.2) kg/cm 2 となり、改良型は右前部:1.1(0.4)・右中足部:1.91.7)・右後足部:1.2(0.5)kg/cm 2 、左前足部:1.0(0.4)・左中足部:1.1(0.5)・左後足部:1.1(0.4) kg/cm 2 であった。従来型は左前・中足部が後足部に比べ、足圧が有意に高かった。また改良型は左右とも前足部・中足部・後足部の足圧に有意差はなかった。安静時の酸素摂取量の平均値(標準偏差)と歩行6 〜10 分間の平均値(標準偏差)は、従来型:4.6(0.7)・12.8(1.2) ml・kg -1 ・min -1 、改良型:4.4(0.6)・10.7(0.9) kg -1 ・min -1 であった。二元配置分散分析の結果、交互作用に有意差がみられ、歩行中の酸素摂取量は両者に変化の違いが認められた。【考察】ハイヒールではヒール高が増す事に前足部の荷重が増すことが知られている。今回はヒール高3cmであるため、それほど著明な差ではなかったが、従来型の左足では前・中足部への荷重割合が増大していた。しかし、改良型では左右とも前・中・足部の差が生じなかった。前足部を持ち上げたことにより、重心が後方へシフトし、足圧が分散することが可能となった。これはハイヒールによる前足部への過度な荷重により起こる外反母趾などを防止できる可能性を示した。また、改良型の靴での歩行は足底圧が足底全体に分散されたことにより安定した歩行が行えるようになった結果として、歩行時の酸素摂取量の減少すなわち効率的な歩行が可能となったと考えた。効率的な歩行が可能であるため、長距離の歩行にも従来型より改良型のハイヒールは適していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】前足部を持ち上げたハイヒールを使用することにより、ハイヒールによって生じる外反母趾をはじめとする足部の変形や腰痛等も問題を防げる可能性があり、予防理学療法に活用できる。またこのハイヒールを用いることにより、効率の良い歩行を指導できる可能性がある。
  • 松崎 秀隆, 吉村 美香, 漆川 沙弥香
    セッションID: A-P-48
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】加齢と関係し,不可逆的な進行をたどる変形性膝関節症(以下,膝OA)の特徴の一つに内反変形が挙げられる。この疾患の発症危険因子としては,年齢,筋力,関節動揺性,性,肥満など多数報告されている。筆者はこれまでに,内反膝を呈する若年女性の歩行時の特異的な下肢回旋性や足趾屈曲筋力低下,全身関節弛緩性などを報告してきた。そこで今回は,股関節周囲筋力に着目し,下肢機能の特徴を明らかにし,今後の理学療法治療に寄与できる結果を導き出すことを目的に研究を実施した。【対象】下肢に骨・関節疾患や運動器障害がなく,手術既往のない若年女性で,両足関節内果を付けた立位姿勢において両膝関節内顆間が4横指以上の内反膝を呈する者5名(以下V群,19.8±0.4歳),同姿勢で正常の下肢アライメントを呈する者5名(以下N群,19.6 ± 0.5 歳)の10 名を対象とした。両群の属性に有意差は認めなかった。【方法】身長および体重を,それぞれNAVIS社製手動式金属身長計,SECA社製アナログ体重計を用いて測定。同一検査者が股関節の各運動方向に対する筋力を,HOGGAN社製MICRO FET2 を用いて3 秒間の等尺性収縮を3 回計測し最大値を算出,その値を体重で除して正規化を行い,測定値とし両群間の比較検討を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は高邦会倫理審査委員会の承認を受け(承認番号FS-33),対象者への研究説明と同意を得て実施した。【結果、考察】群間比較において,股関節伸展および外転筋力に違いを認めた。平均値(単位:N)にて,N群の伸展筋力は3.8,外転筋力は4.5となった。一方,V群の筋力は伸展が3.5,外転が3.8 と低値であることを認めた。その他の運動方向において,著明な違いを認めることは出来なかった。そもそも膝OA患者のアライメントは内反変形を呈することが多い。この骨性アライメントの変化が,股関節外転筋を短縮させ,伸展筋群を延長させるなど,有効的な筋力発揮能に影響を及ぼしたと推察することができる。また,先行研究において,内反膝を呈する若年女性が歩行立脚期に特異的な下肢回旋運動を認め,膝関節外転,外旋傾向を示したこと,足趾屈曲筋力が低下していたなどの報告がある.つまり,運動連鎖の視点から推察すると,この下肢回旋運動と足趾屈曲筋力が立脚期の股関節伸展筋力に影響を及ぼし,外転筋力発揮能を減弱させた原因にも繋がったのではないかと考えることもできる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,内反膝を呈する若年女性を対象としており,膝OAに対する横断的研究となるが看過できない問題として提起させて頂きたい。学会では,より多角的視点から考察を加え報告させて頂く。
  • 山﨑 敦, 中俣 修, 上田 泰久, 牧川 方昭
    セッションID: A-P-48
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】我々は,体表から空間座標を計測することが可能な超音波による測定機器を用いて,肩甲胸郭関節における運動の計測を行っている。昨年の本大会においては,肩関節に機能障害を有する患者に多く存在する結帯動作に着目し,肩甲胸郭関節の運動学的分析を行い報告した。この結果より,肩関節の伸展−内旋運動に肩甲骨の下方回旋−前傾運動が連動するものの,個人による差異が大きいことが明らかとなった。しかし,この研究の計測が肩甲胸郭関節における肩甲骨の運動に留まっていたため,肩甲上腕関節における詳細な運動を把握できなかった。そこで今回は,異なる高さでの結帯動作を行った際の肩甲胸郭関節および肩甲上腕関節の運動計測を行ったので,考察を加えて報告する。【方法】対象は,肩関節疾患の既往のない健常成人女性9 名18 肩で,平均年齢は19.1 ± 0.9 歳,身長164.2 ± 7.9cm,体重55.3 ± 9.1kgであった。肩甲骨および上腕骨の運動計測には,超音波動作解析システム(zebris社製CMS-20S)を用いた。足底が十分に接地した端座位として,ポインターにて肩甲骨および上腕骨のランドマークを触診してマーキングを行った。ランドマークは,肩甲骨では肩峰および肩甲棘三角,肩甲骨下角,上腕骨では前額面背側での上腕骨長軸の近位・遠位部および内・外側上顆とした。まず,肩・肘・手関節が中間位となる上肢下垂位(開始肢位)として計測を行った。次に,測定肢の第3 中手指節関節が第4 腰椎棘突起に接する肢位(以下,L4 肢位),第1 腰椎棘突起に接する肢位(以下,L1 肢位),さらには第10 胸椎棘突起に接する肢位(以下,T10 肢位)をとらせて,その肢位を保持した状態で計測を行った。ソフトウェアにはZebrisWinspineを使用して各ランドマークの空間座標を計測した。その後,開始肢位に対する肩甲骨の変位,肩甲骨に対する上腕骨の運動をそれぞれ,肩甲胸郭関節,肩甲上腕関節の運動として角度を算出した。統計学的分析にはPASW Statistics 18 を用い,有意水準は5%未満とした。肢位別にみた肩甲胸郭関節および肩甲上腕関節の運動の差異について,反復測定による一元配置分散分析を行った。【説明と同意】本研究は本学倫理審査委員会の承認を事前に得た上で,対象者に本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た上で計測を行った。【結果】肩甲胸郭関節および肩甲上腕関節における角度の平均値を,L4 肢位→L1 肢位→T10 肢位として記す。肩甲胸郭関節の下方回旋角は8.5 ± 5.5°→7.7 ± 6.6°→8.7 ± 7.0°,前傾角は16.9 ± 5.7°→19.2 ± 5.9°→20.7 ± 5.4°であり,統計学的な差異は認められなかった。一方で肩甲上腕関節の運動をみると,外転は24.6 ± 28.5°→31.4 ± 27.8°→31.9 ± 30.1°,伸展は13.5 ± 11.4°→13.3 ± 12.5°→11.1 ± 14.7°,内旋は52.0 ± 21.5°→56.3 ± 20.2°→60.6 ± 15.4°であり,有意差は認められなかった。【考察】開始肢位と比較した今回の結果から,結帯動作では肩甲骨の下方回旋・前傾,肩関節の外転・伸展・内旋運動が生じることが確認できた。今回の研究における課題は,高位の異なる結帯動作を想定した運動を行わせ,その分析を行うことが研究目的であった。手背部の位置が高位にある程,肩甲骨および上腕骨の運動の漸増することを仮説とした。しかし平均値でみた角度変化は非常に少なく,肩関節伸展ではわずかながら漸減傾向にあった。つまり,手背部の位置が高くなると動作としての難易度は高くなるものの,今回の対象であった肩甲胸郭関節,肩甲上腕関節における運動は大きな差異がないことが伺える。3 名6 肩を対象とした我々の先行研究では,肩関節の外転・内旋,さらには肘関節の屈曲角度が漸増傾向にあった。今回の研究では症例数を増やし,運動の変化を追う目的から開始肢位からL4 肢位,L1 肢位,T10 肢位の順に連続して計測を行った。しかし,標準偏差が示すように個人でのばらつきも大きく,平均値が漸増していてもその変化量は少なく有意差は認められなかった。各個人での運動戦略が大きく異なることが示唆されるため,より症例数を増やして運動のタイプを分けた検討が必要と思われる。【理学療法学研究としての意義】結帯動作における肩甲胸郭関節,肩甲上腕関節肩関節の運動分析を行うことは,肩関節疾患患者の評価・治療における基礎的情報を提供することになる。
  • 長谷川 由理, 石井 慎一郎
    セッションID: A-P-49
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】本研究の目的は、歩行中のつまずきに対し人がどのように転倒を回避しているのかを明らかにし、転倒予防に重要となる動的バランス能力について検討することである。本研究では、歩行の力学制御をモデル化し、歩行の安定状態を「1 歩行周期内で重心の前方加速度と後方加速度が一定の範囲内に収束している状態」及び「1 歩行周期内で重心回りに生じる前方回転力と後方回転力が打ち消し合っている状態」ととらえた。つまずきによってこれらがどのように変化し、床反力がどのようにして制御しているのかに焦点を当てて検討した。【方法】対象は健常成人11 名(女性6 名、男性5 名、平均年齢24.2 歳)とした。運動課題は定常歩行とし、5 施行の定常歩行を行った後に、ランダムでつまずき刺激を与えた(4 施行)。つまずき刺激は歩行中の遊脚肢に対し、一時的に遊脚速度を遅延させる外力を与えた。外力を与えるタイミングは、右下肢遊脚中期とした。計測は、三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)と床反力計(AMTI社製)6 枚を使用した。被験者の体表面上に、赤外線反射マーカーを計11 か所に貼付し、課題動作中の赤外線反射標点位置を計測した。データの算出は、解析ソフトDIFFgait、WaveEyesを用いて、課題動作中の身体重心位置、身体重心加速度(以下、加速度)、床反力作用点、床反力3 成分(前後、左右、鉛直方向)を算出した。身体重心回りのモーメント(以下、回転力)は、矢状面上での回転力を、身体重心位置と床反力から算出した。得られたデータの解析区間は、左右各肢の踵接地〜つま先離地に設定し、解析区間を100%として時間軸を規格化した。解析パラメータの抽出は、加速度と床反力前後成分の立脚期における積分値を算出し、回転力は立脚初期の変曲点におけるピーク値2 か所(以下、第1ピーク値、第2ピーク値)を算出した。被験者毎に各パラメータの平均値を算出し、全被験者の平均値を求めた。得られたデータから、つまずき刺激時の立脚肢を「1歩目」、つまずき刺激時の遊脚肢を「2歩目」と定義した。なお2歩目とは、つまずき後に一歩前に踏み出す肢と同義である。統計処理は、定常歩行と1 歩目、2 歩目の3 群を一元配置分散分析にて比較した。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に本研究の目的や方法について、ヘルシンキ宣言に基づく説明を行い、同意が得られた者を対象とした。また本研究は、神奈川県立保健福祉大学大学院倫理審査委員会にて承認済みである。【結果】定常歩行では、1 歩行周期内における加速度の積分値は3.39m/s 2 であり、床反力前方成分は1.58N/kg、回転力の第1・2 ピーク値は、-54.74Nm、10.55Nmであった。外乱を与えた際の「1 歩目」では、加速度は5.77 m/s 2 であり、床反力前方成分は3.4N/kg、回転力は-68.89Nm、9.87Nmであった。「2 歩目」では、加速度は53.89 m/s 2 であり、床反力前方成分は16.39N/kg、回転力は14.24Nm、-25.78Nmであった。なお、加速度と床反力では正の値が前方を示し、回転力では正の値が前方回転を示す。一元配置分散分析では、加速度、床反力前方成分、回転力の第1・2 ピーク値すべてにおいて、定常歩行、「1 歩目」それぞれと「2 歩目」の間に有意差が認められた。(p<0.05)【考察】つまずきにより転倒状態に陥ると、身体の前方回転力が増加する。転倒状態とは、この前方への回転力が復元されない状態を指す。つまずいた際の支持肢である「1 歩目」では、加速度の変化や床反力、回転力の状態から定常歩行と変わらない通常の制御をしており、身体の回転力の復元を行っていない事が分かった。一方、つまずいた後に接地した「2 歩目」の下肢では、前方への加速度と床反力が増加し、立脚期全体にわたり重心の減速よりも加速が優位となることがわかった。また回転力では、踵接地時に生じた前方への回転力に対し、その直後に後方への回転力を増加させることが分かった。このことから「2 歩目」の下肢は、外乱によって生じた前方への加速度や前方への回転力にブレーキをかけてバランスを取るのではなく、むしろ積極的に身体を前方へ加速させ、その際に生じる重心の慣性力を使って、身体を後方へ回転させて姿勢の制御を行っていると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究結果から、歩行中のつまずきに対する動的バランス能力として、つまずいた後に接地する下肢で重心を大きく前方へ加速させて、身体の回転力を復元させる能力が重要であることが分かった。これらの知見は転倒予防のためのアプローチに活用できると考えられた。
  • 工藤 直美, 南澤 忠儀, 花野 太郎, 神先 秀人
    セッションID: A-P-49
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】急速な高齢化が進む現在,転倒は要介護者を増加させる要因として,注目されている.転倒に関連した歩行能力の研究では,主に歩行開始時や歩行中,方向転換時を対象としたものが取り上げられてきた.しかし,実際には,段差につまずいた,床で滑った,などの外的要因に対する反応が原因で転倒が発生する場合が多い.このような場合には,刺激に対する歩行停止能力が問題になると考えられる.歩行急停止に関する報告では快適歩行速度時に関するものが多く,歩行速度を変えた研究は散見される程度である.特に,下肢関節運動に注目し停止に至るメカニズムについて検討した報告は殆ど見当たらない.本研究では歩行急停止動作時の下肢の運動学・力学的特徴を明らかにすることならびに歩行速度が停止時の下肢の運動学・力学的因子に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は健常成人男性10 名(年齢21.4 ± 0.5 歳)である.各被験者に三次元動作解析装置(VICON MX)および床反力計(Kistler社)が設置された歩行路上を3 条件の歩行速度で歩かせ,歩行路前方のスクリーンに映し出された停止刺激により,できるだけ速い停止動作を行わせた.歩行速度は,本実験前に測定した快適歩行時の歩行率を基準とし,メトロノームに合わせて 100%(Stop100),120%(Stop120),150%(Stop150)の歩行率で歩行した時の速度とした.試行の順序はランダムに行い,比較のために快適歩行のデータも採取した.停止刺激には被験者の右踵に貼付したフットスイッチの波形を使用した.フットスイッチを手動にて任意にON/OFFできる装置を作製し,配線に組み込んだ.この装置がONかつ右踵接地時にスクリーン上に停止刺激が出現するように設定した.急停止試行は各速度10 試行ずつ行い,4 試行では刺激なし,6 試行にて停止刺激を出した.そのうち3 試行は測定する床反力計以外の接地時に刺激を出すことで,被験者による刺激出現に対する予測回避を図った.試行前に十分に練習を行い,被験者には停止刺激出現後できるだけ速く停止し,その姿勢を3 秒間保持するよう指示した.三次元動作解析のマーカーセットにはPlug in gait 全身モデルを使用した.サンプリング周波数は三次元計測では50Hz,床反力計では1000Hzで取り込んだ.解析は,停止刺激出現後の右立脚期における下肢関節角度,モーメント,床反力について,速度を変えた3 条件で比較するとともに,快適歩行時とその速度における急停止時の2 条件間での比較を行った.統計処理は,歩行速度による比較を,3 条件間における各パラメータの2 回の平均値を用いて,反復測定分散分析及び多重比較を行った.快適歩行時と急停止動作の比較では,対応のある t 検定またはWilcoxon符号付順位検定を行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の目的,内容と実験方法,個人情報の保護について十分に説明を行い,書面にて同意を得た.【結果】床反力について快適歩行時とStop100 を比較すると,Stop100 において後方分力は有意に増加し,前方分力は有意に減少した.垂直分力に関しては立脚期後半のみStop100 において有意に減少した.各項目について速度増加に伴う有意差はみられなかった.急停止試行において停止刺激出現後,股関節が伸展してくるときに,速度の増加に伴いより早期から股関節屈曲モーメントが出現した.その最大値は速度とともに増加する傾向が見られ,Stop150 で有意に増加した(Stop100: 0.68 ± 0.14,Stop120: 0.82 ± 0.30,Stop150 : 0.97 ± 0.28Nm/kg).膝関節については立脚期の中で2 度の屈曲が生じ,そのときの最大伸展モーメントは快適歩行時に0.50 ± 0.29,Stop100 時に0.65 ± 0.34 Nm/kgであり,Stop100 において有意に増加した.また,速度増加に伴い最大屈曲角度・伸展モーメントが増大する傾向がみられた.【考察】急停止時の床反力の特徴として制動力増加と推進力の減少が生じた.これらの結果は先行研究の報告と一致しており,停止動作の力学的特徴と考えられた.本研究では速度による変化はみられなかったが,その原因として,停止パターンに個人差があったためと考えられた.急停止時において刺激入力後,股関節伸展時に生じた股屈曲モーメントは股関節屈筋の遠心性収縮により,身体の前方移動を抑制するために作用すると考えられた.また,膝関節では大きな伸展モーメントを伴う2 度の屈曲運動が生じた.これは膝伸筋群が遠心性収縮することで衝撃吸収,あるいは膝折れ防止に働いていると考えられた.【理学療法学研究としての意義】歩行急停止には股関節屈筋と膝関節伸筋の遠心性収縮による制動が作用していることが示唆された.これらの知見はより効果的な転倒予防トレーニングを開発する上で有用と考えられる.
  • 井上 裕次, 森島 健, 鈴木 正則, 遠藤 正樹, 川間 健之介
    セッションID: A-P-49
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】脳卒中片麻痺や下肢の整形外科疾患などにより歩行能力が低下した患者にとって、屋外を自由に歩行出来るまでに回復するか否かは生活の質に大きく関わる。実用的な屋外での歩行を獲得するためには不整地など固定された環境の他にも様々な外部環境に適応して歩行する能力が求められる。特に自分の意思とは関係なく動いている歩行者などに接触しないように歩行するためには、歩行しながら的確に方向転換する能力が歩行自立の重要な要因となる。歩行時方向転換動作については、その転換様式を支持側と反対方向へ転換するサイドステップと支持側と同側へ転換するクロスオーバーの2 通りに分類されている。サイドステップは身体重心が支持基底面内に位置することから安定性は高く、クロスオーバーはサイドステップに比べ安定性は低いと報告されている。しかしながら、方向転換動作に関してそのメカニズムを示唆する文献は少なく、障害者の転換動作を解明するには至っていない。本研究は、サイドステップでの方向転換動作について、メカニズムを明らかにすることとし、特に方向転換方向の推進力として必要と思われる振り出し1 歩前の支持側下肢の長腓骨筋活動に着目しその筋活動の特性を明らかにすることを目的とする。【方法】1.被験者 対象は整形外科疾患などのない健常成人男性4 名(年齢36.8 歳± 5.12)とした。2.手続き 筋電位の測定には筋電計(キッセイコムテック社製MARQ)を用いた。測定した筋電位の解析を行うために床反力計(KISTLER社製)を用いた。方向転換動作はサイドステップを用い、振り出し1 歩前の下肢を支持側、振り出す下肢を転換側とした。歩行速度は任意の速度で「普通」「速く」「遅く」の3 条件で歩行した。筋電計測定側は支持側とし、電極の貼付位置はSENIAMを参考に長腓骨筋に貼付した。方向転換する角度は0°(直進)、30°、60°、90°とし、それぞれの角度で3回測定を行った。3.解析方法 解析には解析用ソフト(キッセイコムテック社製キネアナライザー)を用いた。筋活動については床反力計の左右成分から、踵接地後内側(方向転換方向)方向へ反力の向きが変換した時点から、床離地前反力が外向きに変換する時点までの電位を抽出した。抽出した電位を正規化し単位時間あたりの積分値を算出、平均値を求め代表値とした。代表値をそれぞれの速度0°に対する割合として算出した。解析には2 要因分散分析を用い、各速度と各角度間で比較した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき、すべての被験者に研究の目的、方法、リスクを口頭にて説明し同意を得た。【結果】長腓骨筋の筋活動を比較したとき、「速い」速度と「普通」の速度では速度および角度による筋活動の差はみられなかった。「遅い」速度では30°の転換動作に比べ90°での転換動作で有意に長腓骨筋の筋活動に増加が認められた(F(2,6)=7.4, p<.05)。【考察】健常者であれば、通常歩行時にはサイドステップとクロスオーバーの転換動作を的確に用い歩行している。しかし片麻痺患者などにとって、クロスオーバーによる方向転換は身体重心が支持基底面のさらに外側へ向かうため困難な動作となる。そのため通常はサイドステップによる転換動作を用い方向を転換させる。サイドステップで方向を転換するには、支持側の筋活動による転換方向への推進力が必要となることが予測される。支持側で転換方向への推進力を得るためには転換方向へ向く床反力が必要となる。その反力を発生するためには足関節の外返し筋群の筋活動が必要となると考えた。足関節外返しに関与する筋群は主に長・短腓骨筋となるが、表面筋電計の限界から長腓骨筋の筋電位を測定した。結果から歩行速度がある程度保たれた状態では、方向転換には支持側の筋活動のみではなく、振り出す側の下肢の慣性力などの要因が影響することが予測された。一方速度が遅くなった場合、この慣性力を生み出すことができない。そのため方向を転換するためには支持側の足関節外返し筋群のより強い収縮に依存することが示唆された。これらから歩行速度が低下せざる得ない障害者にとって、方向転換には支持側の足関節外返し筋群の筋活動が重要であることが予測される結果となった。【理学療法学研究としての意義】本研究は方向転換動作についてのメカニズムを筋活動から明らかにすることを目的とした。結果より、歩行速度が遅い場合のサイドステップでは、支持側足関節外がえし筋群の筋活動が転換方向への推進力を生み出すために重要であることが示唆された。これにより、発症後の歩行能力獲得に向けたプログラム立案の一助となると考えられる。
  • 小久保 充, 松山 太士, 斎藤 良太, 山本 裕紀, 田岡 葵, 牛山 秀太郎, 矢崎 進
    セッションID: A-P-49
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】近年歩行の変動係数に着目した研究がいくつか報告されている。MakiらやHausdroffらの報告によると転倒した高齢者の1 歩行周期時間の変動係数が転倒していない高齢者に比べ有意に大きかったと報告している。しかし、歩行周期の中でもどの時期に変動が大きいかは明らかになっておらず、さらに障害高齢者の研究は皆無である。今回、大腿骨近位部骨折患者(以下、骨折群)と地域在住健常高齢者(以下、健常群)を対象に歩行周期ごとに計測可能な床型足圧センサーを使用して比較・分析することで、歩行周期の中でもどの時期に変動係数が大きくなるのかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象は当院入院中で歩行自立となった骨折群17 名(平均年齢82 ± 11 歳:男性4 名、女性13 名)平均年齢。65 歳以上の健常群17 名(平均年齢77 ± 5.9 歳:男性6 名、女性11 名)とした。健常群の除外基準は10m歩行が不可能なもの、歩行時に疼痛のあるもの、6 ケ月以内に骨関節疾患、神経系疾患の既往歴があるもの、過去1 年以内に転倒歴があるものとした。測定方法は床型足圧センサー(Zebris社FDM system)を使用し、1 歩行周期時間と変動係数を求めた。FDM とは歩行分析を行うための足圧測定システムで、計測はプレート上を歩行するのみで正確な歩行周期時間などが歩行周期ごとに求められる。歩行の変動係数は抽出されたデータの標準偏差/平均値× 100 で求めた。測定時には十分な助走路を確保し、片道3 回分のデータを抽出した。歩行形態は骨折群、健常群ともに自由歩行とした。骨折群の測定時期は退院時とした。健常群の測定は右側とした。測定項目は歩行周期、骨折群の両脚支持期、健常群の両脚支持期、骨折群患側の単脚支持期(以下、患側SS)、骨折群の健側単脚支持期(以下、健側SS)、健常群の単脚支持期(以下、健常SS)とし、骨折群と健常群を比較検討した。統計学的解析は2 群間の比較を対応のないt検定を使用した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮・説明と同意】対象者およびその家族に対しあらかじめ本研究の趣旨、および測定時のリスクを十分に説明した上で同意を得た。本研究は、八千代病院倫理委員会の承認を得て行った。【結果】骨折群は健常群に比べ、歩行周期時間・変動係数はともに有意に増加した(p<0.05)。両脚支持期時間は骨折群が有意に増加(p<0.05)したが、変動係数は有意な差は見られなかった。単脚支持期時間は健常SS に比べ、患側SSと健側SSは有意に減少し(p<0.05)、変動係数は健常SSに比べ健側SSは有意に増加し(p<0.05)、患側SSは有意な差は見られなかった。【考察】骨折群は健常群と比較し、歩行周期時間の変動係数は大きくなり、先行研究と同様の結果となった。歩行周期のどの時期に変動係数が大きくなるかを分析すると、両脚支持期の変動係数においては有意な差は見られず、単脚支持期において健常SSに比べ、健側SSの変動係数が有意に大きく、患側SSは有意な差がない結果となった。1 歩行周期の変動係数は健側の単脚支持期に大きくなる傾向が示唆された。これは患側の支持性は低下し不安定になるものの、両脚支持期を増加させ、単脚支持期ではリズムは一定を保ち、安定性を確保することで変動係数に有意な差が出なかったと考えられる。患側に比べ健側は立脚時間が延長することからも代償を引き起こしやすく、変動が大きくなる傾向があると考えられる。今回の結果に関しては退院時の比較となるため、入院経過の中での変動係数の変化を見ることができていない。今後経過を見ていく中で、能力の改善に伴って単脚支持期の変動係数の減少が見られるかを検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】大腿骨近位部骨折者の歩行周期のどの時期に変動が大きいのかを明らかにすることで、再転倒予防の観点の歩行分析が可能となり、入院中のリハビリの治療プログラムや歩行の指導、歩行自立の判断、退院後の生活の指導を的確に行えるようになり、再転倒予防につながると考える。
  • 村澤 実香, 金井 章, 今泉 史生, 木下 由紀子, 蒲原 元, 四ノ宮 祐介, 河合 理江子, 上原 卓也, 江﨑 雅彰
    セッションID: A-P-50
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】スポーツ場面における外傷は、接触型と非接触型に分けられる。そのうち、非接触型は選手の持つ筋力や柔軟性、アライメントなど内的要因に影響されると言われている。非接触型の外傷予防においてはスポーツ動作の観察から危険動作を予測し、力学的ストレスを軽減させるための運動指導が大切である。現在、世界的にも予防に注目がおかれ、スポーツ外傷予防プログラムが立案・実施され、効果が得られたとの報告が多くみられる。危険動作を予測する上で臨床場面では片脚スクワットや、ジャンプ動作などのダイナミックアライメント評価が行われている。これは個人の課題遂行時の動作特徴から、重心位置をもとに各関節にかかる力学的ストレスを予測することができるものである。スポーツ動作における力学的ストレスを把握する研究において下肢アライメントや、筋力との関係性に関する研究はあるが、足圧中心(COP)位置に着目した研究は少ない。そこで本研究は、ドロップジャンプ着地時のCOP位置が身体に及ぼす生体力学的影響について検討した。【方法】対象は下肢運動機能に問題が無く、週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者40名(男性16 名、女性24 名、平均年齢17.6 ± 3.1 歳、平均身長162.9 ± 8.4cm、平均体重57.3 ± 8.7kg)とした。ドロップジャンプの方法は、高さ30cmの台から前方に飛び降り、着地後に両手を振り上げ真上にジャンプし、再び着地し立位姿勢となる動作とした。着地は両足で行うよう指示したが、その他は特別な指示はしなかった。真上にジャンプできなかったもの、着地後にバランスを崩したものは再度計測を行った。計測は充分練習した後3 回施行し、台から飛び降りた際の着地時における右膝関節最大屈曲時の足関節中心からCOPまでの前後方向距離をCOP位置として求めた。動作の計測には、三次元動作解析装置VICON-MX(VICON MOTION SYSTEMS社製)および床反力計OR6-7(AMTI社製)を用い、膝関節最大屈曲時の下肢関節角度、下腿傾斜角度(前額面における垂線に対する傾斜角度)、下肢関節モーメント、床反力を算出し、COP位置との関係についてPearsonの相関係数を用いて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の実施にあたり被検者へは十分な説明をし、同意を得た上で行った。尚、本研究は、豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されている。【結果】ジャンプ着地時の膝関節最大屈曲時において、COP位置と骨盤前傾角度(r=−0.32、p<0.03)、股関節屈曲角度(r= −0.37、p<0.01)で有意な負の相関を認め、足尖の外側への向き(r=0.32、p<0.04)に有意な正の相関を認めた。【考察】矢状面上において、足圧中心を前方に移動させた場合、股関節屈曲と脊柱全体の前方傾斜を要することが予想される。しかし本研究の結果、ジャンプ着地時において足圧中心が前方に位置しているものほど、足尖が外側を向いており、骨盤前傾・股関節屈曲角度が減少する傾向が認められた。これは、COPが前方に位置する場合、次のジャンプにおいて真上に飛び上がるため、股関節屈曲および骨盤前傾角度を減少させることで身体の運動をコントロールしているためと考えられた。それに伴い運動連鎖によって足部が外側へ向いたのではないかと考えられた。また、股関節屈曲角度・骨盤前傾角度を減少することで大腿直筋の張力を増加させて対応していることが考えられた。このことから、ジャンプ着地時にこのような動作を繰り返すことにより、大腿直筋の起始停止部へのストレス増加の危険性が高まる可能性もあると考えられた。【理学療法学研究としての意義】ドロップジャンプ動作において、COPの足関節に対する前方への距離が大きくなると足尖が外側に向き、骨盤前傾角度・股関節屈曲角度が減少する傾向が認められ、スポーツ障害につながることが推察された。そのため、ドロップジャンプ着地時において、骨盤後傾に注意する必要性が示唆された。
  • 今泉 史生, 金井 章, 木下 由紀子, 村澤 実香, 蒲原 元, 四ノ宮 祐介, 河合 理江子, 上原 卓也, 江﨑 雅彰
    セッションID: A-P-50
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】足関節背屈可動性は、スポーツ場面において基本的な動作である踏み込み動作に欠かせない運動機能である。スポーツ外傷・障害における発生部位として、足関節の頻度が高いことが知られており、発症後には足関節背屈可動性の低下が生じることが多く認められる。足関節背屈可動性の低下は下腿の前方傾斜が妨げられるため、踏み込み時に何らかの代償動作が生じることが考えられ、方法によってはパフォーマンスの低下やスポーツ外傷・障害につながることが予想される。そのため、臨床場面ではスポーツ復帰後の症状再発を防止するために、ダイナミックアライメントの評価が行われている。代償動作の評価方法の1 つとして、Noyesらが提唱したドロップジャンプを用いられることがあり、ダイナミックアライメントの評価として有用であることが報告されている。そこで本研究は、足関節背屈可動性がドロップジャンプ着地時の身体に及ぼす生体力学的影響を検討することを目的とした。【方法】対象は下肢運動機能に問題が無く、週1 回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者40 名(男性16 名、女性24 名、平均年齢17.6 ± 3.1 歳、平均身長162.9 ± 8.4cm、平均体重57.3 ± 8.7kg)とした。足関節背屈可動性は、Bennellらの方法に準じてリーチ計測器CK-101(酒井医療株式会社製)を用いて母趾‐壁距離を各3 回計測し最大値を採用した。ドロップジャンプの方法は、高さ30cmの台から前方に飛び降り、着地後に両手を振り上げ真上にジャンプし、再び着地し立位姿勢となる動作とした。着地は両足で行うよう指示したが、その他は特別な指示はしなかった。真上にジャンプできなかったもの、着地後にバランスを崩したものは再度計測を行った。計測は、充分練習した後3 回施行し、台から飛び降りた際の着地時における右下肢の足関節最大背屈時を解析対象とした。動作の計測には、三次元動作解析装置VICON-MX(VICON MOTION SYSTEMS社製)および床反力計OR6-7(AMTI社製)を用い、足関節最大背屈時の下肢関節角度、下腿傾斜角度(前額面における垂線に対する傾斜角度)、下肢関節モーメント、足圧中心位置(足圧中心から股関節中心・足関節中心までの前後方向距離)、体重比床反力、床反力矢状面角度(矢状面での垂線に対する角度)を算出した。統計学的手法はPearsonの相関係数を用いて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の実施にあたり被検者へは十分な説明をし、同意を得た上で行った。尚、本研究は、豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されている。【結果】母趾壁距離と膝関節屈曲角度(r=0.31、p<0.05)および足関節背屈角度(r=0.42、p<0.01)に有意な正の相関を認めた。母趾壁距離と股関節内転モーメント(r=-0.45、p<0.01)・股関節屈曲モーメント(r=-0.40、p<0.01)・足関節背屈モーメント(r=-0.39、p<0.05)に有意な負の相関を認めた。また、足圧中心位置と股関節屈曲モーメント(r=0.53、p<0.001)および足関節背屈モーメント(r=0.42、p<0.01)に有意な正の相関、股関節内転モーメント(r=-0.40、p<0.01)に有意な負の相関を認めた。【考察】ドロップジャンプを用いた評価は、膝関節内外反角度に着目した報告が多く見られる。松村らは、ドロップジャンプを用いて着地時の両膝間距離と下腿前傾角度との関連性を検討した結果、下腿前傾角度は影響を及ぼす因子とならなかったと報告している。本研究においても、足関節背屈角度と膝関節内外反角度との間に関連性は認められなかったが、足関節背屈可動性の大きいものほど膝関節屈曲角度・足関節背屈角度が大きく、股関節屈曲モーメント・股関節内転モーメント、足関節背屈モーメントの低い傾向が確認された。また、足圧中心と股関節・足関節中心の前後方向距離と関節モーメントの関連性を検討した結果、股関節屈曲モーメント・股関節内転モーメント、足関節背屈モーメントに有意な相関を認めたことから、足関節背屈可動性が大きいものは足圧中心を関節中心の近くにコントロールしていることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】ドロップジャンプ動作において、足関節背屈可動性が股関節屈曲・内転、足関節背屈モーメントに影響することが確認されたことで、スポーツ外傷・障害予防における足関節背屈可動性の重要性が示唆された。
  • 藤野 努, 村田 健児, 国分 貴徳, 金村 尚彦, 高柳 清美
    セッションID: A-P-50
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】着地課題における三次元動作解析装置を用いた膝関節運動の定量的な評価は、これまで数多くの先行研究において行われている。その中でも、特に膝関節前十字靭帯(ACL)損傷予防の観点から、関節角度や床反力、外的関節モーメントなどのパラメータを用いた報告がされている。これらにおいて、着地課題における関節角度や外的関節モーメントを評価することは、ACL損傷に対する一定のリスクを同定するために有効である事が報告されている。一方で、角度変化や外的関節モーメントを計測することのみでは、その動作のパフォーマンスそのものを評価することは困難である。先行研究において、動作の円滑さを客観的に評価するパラメータとして、加速度の時系列的変化である躍度(Jerk)が挙げられている。躍度は加速度を時間で一階微分することで求められ、躍度が大きな動作は生体に不快感を与え、躍度が小さくなる動作は円滑であるとされる。この躍度を定量的に評価するパラメータとして、その二乗の総和(Jerk Cost)を用いる方法が提案されている。この方法では、躍度が大きい動作が円滑さに欠ける動作として定義される。本研究の目的はJerk Costを用い、方向を変えた複数の着地課題において、その着地課題間、個人間の差と関係性を調査する事である。Jerk Costが着地課題の円滑性によって変化し、個人間で円滑性に差が認められる事を仮説とした。【方法】下肢に整形外科的な既往がない健常女性10名10脚(年齢22.3±3歳、身長159.6±5.8cm、体重53.7±7.0kg)を対象とした。着地課題は30cm台からの片脚着地とした。着地肢は利き脚とし、全例右であった。利き脚は、ボールを遠くに蹴ることができる方の脚とした。着地地点は前方30cm地点と前方着地地点から左右に30cm離れた地点の計3 課題(前方、前右方、前左方)にそれぞれ設定した。着地方法に関しては着地地点の指定と、上肢位置を両側の腸骨稜に指定した以外は指示を与えなかった。着地課題の順序は、同じ着地条件が連続しない条件下で無作為に実施した。着地後バランスを崩さなかった課題を成功試行とし、各課題3 回の成功試行を解析対象とした。計測には8 台の赤外線カメラによる三次元動作解析装置(VICON社製、100Hz)を用いて、35 個の反射マーカの三次元座標を記録した。マーカの三次元座標情報から関節角度を算出し、関節角度を時間で三階微分することで、加速度の時系列的変化である躍度を算出した。床反力計(KISTLER社製,1000Hz)を用いて床反力が計測され、床反力の垂直成分が10N以上を記録した瞬間を初期接地とした。初期接地後300ms 間を解析対象とし、この区間での躍度の二乗の総和をJerk Costとして算出した。Jerk Costの3回成功試行における平均値、標準偏差、相対標準偏差を算出し、比較を行った。統計処理はJerk Cost平均値の差に対しては対応のあるt検定、課題間の関係性に対してはpearsonの積率相関係数を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の目的と内容について書面と口頭にて十分に説明を行い、書面にて同意を得た。本研究は埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科倫理委員会の承認を得て実施した。(受付番号24712)【結果】各課題のJerk Cost平均値は前方3.51 × 10 11 ± 2.16 × 10 11 (degree 2 /s 6 )、前右方3.43 × 10 11 ± 2.12 × 10 11 (degree 2 /s 6 )、前左方4.59 × 10 11 ± 3.04 × 10 11 (degree 2 /s 6 )であったが、有意差を認めなかった。Jerk Costの相対標準偏差は前方61.2%、前右方61.9%、前左方66.1%であり個人間でばらつきを認めた。課題間の関係性においては、各課題間のJerk Costにおいて有意な正の相関を認めた。相関係数はそれぞれ、前方−前右方(R=0.87,P<0.01)、前方−前左方(R=0.80,P<0.01)、前右方−前左方(R=0.82,P<0.01)であった。【考察】Jerk Costにより、着地課題間の動作円滑性に差は認められなかったが、個人間の動作円滑性に差が認められた。Jerk Costは各課題間で有意に正の相関を示した。これは着地方向が変化した際も、その個人の膝関節角加速度変化といった運動特性が維持される事を示唆した。先行研究により関節躍度は動作の習熟と共に減少する傾向が示されている。このことから今回の実験結果におけるJerk Costの差は着地課題に対する動作の習熟度の違いを示した可能性がある。【理学療法学研究としての意義】着地課題における円滑性の指標として関節躍度を用いる事で、個定量的な評価によって個人差を明らかにすることが可能であった。着地課題において従来の評価指標に加え、評価指標としてJerk Costを用いることは着地課題のパフォーマンスの個人差を評価する有用な情報となりえる。
  • 三宅 博之, 米 和徳
    セッションID: A-P-50
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】片脚での着地動作は、下肢外傷リスクの1 つとされている。障害の種類と発生原因との関係性について、着地した時を発生原因とする障害は、下肢靱帯損傷や足関節捻挫において高い割合を占める。そこで、様々な観点から片足着地動作についての力学的検討や下肢靭帯損傷との関係性について研究されている。近年では、下肢靱帯損傷の外的要因として靴とサーフェスとの関係についても注目されており、従来裸足で行われてきた着地動作の研究も、履物を使用するものが増加している。下肢靱帯損傷や足関節捻挫の受傷機転としてスポーツ活動中であることが多いため、履物を使用した着地動作に関する研究のそのほとんどがスポーツ活動を想定したものである。しかし、ACL損傷や足関節捻挫の受傷機転について、スポーツ活動中だけでなく、「転倒・転落」や「日常動作」の中で複数例発生したとの報告がされている。したがって、日常生活においても下肢靱帯損傷は十分に起こり得る外傷であり、日常生活を想定した下肢靱帯損傷リスクについても明らかにするべきであると考える。そこで本研究では、日常生活環境を想定した片脚着地動作における履物の形状が下肢関節へ及ぼす影響とその要因を明らかにすることを目的に、日常生活での使用頻度が高いと考えられる履物を着用し、履物の違いによる片脚着地動作時の下肢関節への力学的影響について比較検討し、分析を行った。【方法】対象は、整形外科的既往のない健常成人男性17 名とした。年齢は22.8 ± 3.2 歳、身長は172.8 ± 5.6cm、体重は68.2 ± 13.1kgであった(平均±標準偏差)。測定には、赤外線カメラ7 台、三次元動作解析システム、床反力計1 枚を使用し、Plug in-Gaitに両側の大腿骨内側上顆及び内果を加えたモデルを用い、反射マーカーを対象者の全身21 箇所に貼付した。20cm台上より、機能的利き足を支持脚として片脚着地動作を行った。履物の条件として、裸足、靴、サンダル、スリッパの4 条件とした。得られた各身体部位の座標、床反力から関節中心、関節角度、内的関節モーメント、関節仕事量を算出した。関節仕事量は、足部接地時から0.5 秒間の下肢関節パワーを時間積分して求めた。履物の各条件が片脚着地動作時の下肢関節へ与える影響を検討した。統計学的分析には反復測定による1 元配置分散分析及び多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の趣旨と内容について文章と口頭にて、研究の目的他、参加が強制ではないことなどを説明し、書面にて同意を得た。本研究は、鹿児島大学医学部疫学・臨床研究等に関する倫理委員会の審査を受けた研究である。(第201 号)【結果】床反力垂直成分最大値は、靴にて各他3 条件間と比較して有意な増加が認められた(p<0.05)。膝関節屈曲角度は、靴にて裸足と比較して有意な増大が認められた(p<0.05)。足関節底屈角度では有意差は認められなかったが、裸足が最も大きい傾向を示した。膝関節伸展モーメントでは、裸足にて各他3 条件間と比較して有意な減少が認められ(p<0.05)、足関節底屈モーメントでは、裸足にてサンダル及びスリッパと比較して有意な増加が認められた(p<0.05)。関節仕事量は負のピーク値を比較した。膝関節では、裸足にて各他3 条件間と比較して有意な減少が得られ、靴が最も大きい値を示した(p<0.05)。足関節では、裸足にて各他3 条件間と比較して有意な増加が認められた(p<0.05)。【考察】膝関節伸展モーメントが裸足にて減少した。これは、裸足にて床反力の減少及び屈曲角度の減少に伴うモーメントアームの減少によるものと考えられる。また、足関節底屈モーメントは裸足にて増加した。これは、裸足にて足関節底屈角度の増大傾向が示されたことより、尖足接地から背屈方向への可動範囲が増大するために増加したと考えられる。関節仕事量の負のピーク値は、膝関節では靴、足関節では裸足にて最も大きい値を示した。これは、有意差が得られた関節モーメントの結果と同様の傾向を示していること、また片脚着地動作時の矢状面上の下肢関節運動に注目すると、膝関節は屈曲、足関節は背屈方向に動いていることより、膝関節伸筋群及び足関節底屈筋群が作用することによる関節モーメントの結果が反映され、関節仕事量が増加したと考えられる。負の仕事とは、筋の遠心性収縮中になされる仕事のことで、筋によるエネルギー吸収を意味するため、以上より、片脚着地動作において膝関節への負荷は靴の着用により最も軽減され、足関節への負荷は裸足により最も軽減されると考えられる。【理学療法学研究としての意義】日常生活において、履物により片脚着地動作時の下肢関節への負荷軽減量が異なることが考えられる。膝関節への負荷軽減のためには靴の着用、足関節への負荷軽減のためには裸足が勧められる。
  • 吉村 淳子, 大場 潤一郎, 林 健志, 吉田 直樹
    セッションID: A-P-52
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】人工股関節全置換術(THA)後の脱臼は、股関節屈曲・内転・内旋や、伸展・外旋の組み合わせにより起こることが多いとされている。これは、THA後の脱臼が1 つの基本平面内運動で起こるのではなく、関節が3 次元的に動く中で起こりやすいということ意味している。そのため、股関節運動は基本平面に分けた計測だけでは不十分であり、3 次元の正確な計測が必要である。3 次元動作計測では光学式装置が多く使用されているが、マーカーがカメラから隠れると計測ができなくなる。一方、磁気式計測装置はソースコイル(ソース)が発生させる磁場の中での、センサーコイル(センサ)の位置と姿勢を計測するため、衣服等でセンサが隠れても計測が可能である。しかし、磁気を利用するため、金属が近くにあると計測精度に影響がでるという欠点がある。人工関節の素材は、強度の問題等でコバルトクロム(Co-Cr)合金などの金属が使用されることが多い。Co-Cr合金の材料の1 つであるコバルトは磁性体であり、磁気式計測装置での計測精度に影響を与える可能性がある。そこで本研究では、THA後の股関節運動計測に向け、人工関節自体が磁気式計測装置の計測精度に与える影響を計測する事を目的とした。また、人工関節が磁気式計測装置に影響を与える場合、センサ貼付位置を人工関節から離すことで影響が小さくなるのかどうかも検証した。【方法】人工股関節(カッコ内はサイズ:mm)の素材は、カップとステムはチタン合金、骨頭(直径36)はCo-Cr合金、ライナーはポリエチレン、人工膝関節の大腿骨コンポーネント(65 × 62 × 60)と脛骨コンポーネント(71 × 41 × 40)はCo-Cr合金、膝蓋骨コンポーネントとサーフェイスはポリエチレンであった。磁気式計測装置(PATRIOT,Polhemus社)の両コイルは、床下金属の影響を避けるため床から十分離した位置(約1m)に設置し、コイル間距離は15cm、30cmとした。コイル間に人工関節を置き、センサの位置と角度を計測した。コイル間15cmでは人工関節をコイル間の中央に置いた。30cmでは、15cmの設定から、1)ソースと人工関節は固定しセンサを移動、2)センサと人工関節は固定しソースを移動、3)人工関節は中央に固定し両コイルを移動の3 方法でコイルを移動させた。計測手順は何も置いていない状態(ベース条件)5 秒、人工関節を置いた状態(人工関節条件)10 秒、ベース条件5 秒の順で、サンプリング周波数60Hzで計測した。解析方法は、位置と角度の計測精度を人工関節条件とベース条件とで比較した。位置と角度の計測精度は、それぞれ系統誤差と確立誤差比に分けて評価した。系統誤差は各条件の計測値平均の差、確立誤差比は各条件の計測値の標準偏差の比として求めた。 位置、角度は3 自由度のうち、それぞれの最大誤差を評価対象とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は関西リハビリテーション病院倫理審査委員会の承認を得て行った。【結果】各人工関節の計測結果をカッコ内に位置系統誤差(mm)、角度系統誤差(度)、位置確立誤差比、角度確立誤差比の順に示す。人工股関節は(5.5、3.8、1.6、1.2)であった。人工股関節はコイル間距離による差はほとんど無く、15cm、30cmの中での最大誤差を示した。人工膝関節はコイル間距離15cmで(0.0、7.1、4.3、1.2)、30cmでは(0.2、1.9、1.2、1.1)であった。【考察】今回の人工股関節計測時の誤差は、数ミリ、数度の精度を要求される計測では問題となるだろう。しかし、大きな範囲の動きを計測する場合等では、センサ貼付時に生じる位置や角度の許容誤差と同程度の誤差と考えられる。また、人工膝関節では、センサとの距離が近い時には人工股関節に比べ大きな角度誤差となった。しかし、センサを人工膝関節から離すことで人工股関節と同程度の誤差となった。THAと人工膝関節全置換術の両方を施行された者では、センサ貼付位置を膝関節から離す等の工夫により精度を損なわない計測が可能になると思われる。しかし、磁気式計測装置や人工関節はメーカーにより多様である。今回は磁気式計測装置、人工関節とも1 種類しか使用しておらず、全ての磁気式計測装置や人工関節に当てはまる結果とは言えない。だが、今回使用した骨頭や大腿・脛骨コンポーネントは比較的大きく、人工関節が磁気式計測装置に与える影響を判断する上での一つの目安になると思われる。【理学療法学研究としての意義】人工関節が磁気式計測装置の計測精度に与える影響および、センサ貼付位置の工夫により精度を損なわない計測が可能になることがわかった。今後、磁気式計測装置を使用しTHA後の股関節の様々な運動を計測することで、股関節の正確な動きがわかり、脱臼予防の動作指導等に利用できると思われる。
  • 折田 直哉, 雁瀬 明, 平田 和彦, 島田 昇, 日當 泰彦, 河江 敏広, 對東 俊介, 松木 良介, 西川 裕一, 福原 幸樹, 植田 ...
    セッションID: A-P-52
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】膝前十字靭帯(ACL)損傷はスポーツ中に頻繁に生じる外傷の一つである.ACL損傷によって膝関節には前後および回旋方向の不安定性を生じる.ACL損傷後の膝関節機能評価において,前後不安定性に関しては,定量化する方法がすでに確立されているが,回旋不安定性について定量化できる機器および客観的評価方法は確立されていない.今回我々が用いた新型三次元角度計は,3 軸の角速度センサーと3 軸の加速度センサーより得られた角度,角速度,加速度の時系列データを取得・表示する測定器である.本研究では,新型三次元角度計を用いて,膝関節の回旋運動中における回旋角度測定の定量化が可能であるかを検討することを目的とした.【方法】対象対象は下肢に既往のない健常男性3 名(年齢:21.3 ± 0.6(平均±標準偏差)歳,身長165.7 ± 1.2cm,体重61.3 ± 5.1kg)および女性3 名(年齢:21.7 ± 0.6 歳,身長161.0 ± 3.0cm,体重49.7 ± 0.6kg)の左膝関節とした.使用機器測定にはBIODEX System 3(BIODEX社製),三次元角度計 (ジースポート社製,Pocket-IMU2)を用いた.測定プロトコル対象をBIODEX上座位にて,左膝関節30deg屈曲位となるように大腿および足部を固定し,膝関節を他動的に最大内旋および外旋運動を行った.先行研究に従い,測定時の角速度は5deg/s,回転にかかるトルクは7 から15Nmとした.その際,大腿部前面(膝蓋骨上10cm),下腿部前面(脛骨前面)には1 個ずつ三次元角度計センサーを設置した.また,足関節による代償運動を減少させるために全ての対象にはシューホーンブレース(中村ブレイス社製)を装着した.データ解析BIODEXにより測定される回旋角度および,三次元角度計各センサーの相対的位置偏位による回旋角度を測定した.得られた最大内旋角度と最大外旋角度の和を膝関節総回旋角度とした.測定は,各被験者において3 回ずつ行い,解析には3 回の平均値を用いた.また,検者内信頼性を確認するために,男性3 名において1 週間後に同じ検者が同様の測定を行い,ICC(1,2)により級内相関係数を検討した.統計処理にはPASW statistics 18 を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則った広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得て行った.対象は自らの意思に基づき本研究に参加し,測定前に研究代表者が説明文書に基づいて研究内容を説明し,同意文書への署名にて同意を得た.【結果】新型三次元角度計による測定結果について,ICC(1,2)による級内相関係数rは,総回旋角度においてr=0.94 であり,桑原(1993)の基準では優秀であることが示された.BIODEXによる総回旋角度の平均値(deg)は,男性87.7 ± 9.9,女性102.7 ± 25.7 であった.三次元角度計による測定結果は,男性A:42.6 ± 0.3,B:49.8 ± 0.7,C:30.6 ± 0.0,女性D:53.1 ± 3.4,E:39.5 ± 0.1,F:43.2 ± 0.4 であった.全対象において,膝関節総回旋角度はBIODEXより三次元角度計によって測定されるものの方が明らかに小さかった.【考察】近年,ACL再建術後の長期成績においては関節症変化が起こることが報告されている.それに対して,回旋安定性を含めた正常な膝関節運動の回復が必要とされており,適切な再建術の術式については依然として議論が続いている.ACL損傷後の競技復帰の指標や再建靭帯の機能評価として,回旋安定性に関して定量化する方法を早急に確立することが求められる.回旋角度を測定した先行研究は少なく,また回旋トルクの大きさや膝関節屈曲角度などの統一がされておらず,比較は困難であった.それらは,足部または脛骨に貼付した電磁気センサーにより回旋角度を測定しており.電磁気センサーは磁場環境の影響を受けるため,計測環境に設定が難しいことが知られている.本研究で用いた新型三次元角度計は,携帯性・操作性に優れ,場所による制限もない.さらに身体の各部に取り付けることによって簡単に測定可能である.今回BIODEXと三次元角度計を用いたことで,BIODEXにより測定される場合と比べ,足関節による運動代償を補正した状態にて,大腿部に対する脛骨の回旋角度をより正確に計測することが可能であったと考える.また本研究の測定方法は,ICCにおける結果より検者内信頼性および再現性の高い方法であることが示された.今回は静的な環境において測定を行ったが,センサーを確実に固定し,大腿部や下腿部の軟部組織による誤差を軽減する方法を見いだすことができれば,歩行などの動作時の測定も可能となると考えられる.【理学療法学研究としての意義】本研究では,膝関節の機能評価の一つとして,新たな膝関節回旋角度の測定方法を示した.ACL再建術後などのリハビリテーションを実施する際に,再建靭帯機能の評価において大きな一助となることが期待できる.
  • 田中 真希, 平野 和宏, 鈴木 壽彦, 五十嵐 祐介, 石川 明菜, 姉崎 由佳, 樋口 謙次, 中山  恭秀, 安保 雅博
    セッションID: A-P-52
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】当院では2010 年4 月より人工膝関節全置換術(以下TKA)施行患者に対して、本学附属4 病院(以下4 病院)で共通の身体機能評価表および患者の主観的な評価で構成された問診表を作成し、TKA前後の評価を統一する試みを開始した。この問診表の評価指標としての信頼性は、第47 回日本理学療法学術大会において、高い内的整合性が認められたことを報告している。先行研究では、WOMACは術後4 週では変化しにくく、長期的な予後の検討に有効な評価と報告されている。また、1 施設あるいは特定の施設のみでは結果を一般化するには限界があると報告されているが、多施設間で統一した評価を用いた報告は散見されるのみである。4 病院は急性期病院であるが、病院としての機能や立地環境も異なる。また、術後翌日に離床、歩行開始となる病院から術後2 日目に離床、5 から7 日目で歩行開始となる病院があり、退院時期も3 週間から4 週間と各病院でプロトコールが異なる。そこで本研究の目的は、4 病院で使用している共通の問診表による主観的評価の経時的変化と外的妥当性を検証することとする。【方法】2010年4月から2012年8月までに4病院で変形性膝関節症と診断され、初回片側TKAを施行した症例を対象とした。問診表は、自己記入式質問紙法であり、「生活動作」、「疼痛」、「満足度」の3下位尺度を5段階スケール(楽にできる、痛くない、満足:5 点〜できない・やっていない、激しく痛む、不満足:1 点)で回答する形式とし、「生活動作16 項目」、「疼痛8 項目」、「満足度7 項目」の全31 項目を設定した。調査内容は、4 病院の術前、術後3 週、術後8 週、術後12 週の各評価時期における「生活動作」1)寝起き、2)着替える、3)洗面動作、4)トイレ動作、5)座り仕事または家事、6)立ち仕事または家事、7)階段を昇る、8)階段を降りる、9)靴下をはく、10)足の爪を切る、11)荷物を持つ(買い物)、12)歩く、13)お風呂に入る、14)床の物を拾う、15)転ばずに生活する、16)歩き以外の移動動作、の16 項目の合計点とした。問診表の全項目に回答可能であった症例は、術前157 例(平均年齢74 ± 7 歳、A病院78 例、B病院18 例、C病院37 例、D病院24 例:以下同順)、術後3 週169 例(平均年齢74 ± 8 歳、78 例、40 例、29 例、22 例)、術後8 週134 例(平均年齢74 ± 7 歳、62 例、43 例、12 例、17 例)、術後12 週117 例(平均年齢74 ± 7 歳、53 例、41 例、8 例、15 例)であった。各病院の各評価時期の平均値を算出し、統計解析には各病院および各評価時期を要因とした二元配置分散分析を行い、主効果を認めた場合にはBonferroniの多重比較検定を用いて検定した。【倫理的配慮】本研究は本学倫理委員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言に則り実施した。【結果】「生活動作」の平均値は、A病院:術前54.4、術後3 週52.9、術後8 週53.9、術後12 週49.2(以下同順)、B病院55.2、56.0、58.4、58.1、C病院52.8、53.9、57.0、60.9、D病院50.7、49.2、56.6、60.5、となり、各病院間で有意差を認めなかった。また、各評価時期で有意差を認めた(p<0.01)ことから、評価時期のみ主効果を認める結果となった。各評価時期においてBonferroniの多重比較検定の結果、生活動作では術前と術後8 週、術後3 週と術後8 週でp<0.05、術前と術後12 週、術後3 週と術後12 週でp<0.01 の有意差を認めた。【考察】各病院間で有意差を認めなかったことから、「生活動作」における主観的評価は4 病院でのプロトコールの違いによる影響を受けないことが示唆され、外的妥当性が認められたと考える。一方で、各評価時期で有意差を認めたことから、「生活動作」における主観的評価は回復過程に応じて変化することが示された。まず、術前と術後3 週で有意差を認めなかったことから、先行研究と同様の結果となり、術後8 週以降から変化を認める結果となった。術後3 週は入院中か退院直後であり、立ち仕事や荷物を持つなどの立位動作を行っていない場合が多いことから、主観的評価の点数が低かったと考えられる。一方、術後8 週と術後12 週以降になると院内から自宅への生活に移行することから、立ち仕事や荷物を持つ、階段昇降などの立位動作の機会が増えることや外出などで活動範囲が拡大するため、主観的評価の点数が高くなったと考えられる。今後は、他の下位尺度についても同様の検討を行い、問診表全体の外的妥当性を確認することが課題である。【理学療法学研究としての意義】当問診表の「生活動作」においては4 病院間でのプロトコールの違いによる影響を受けないことが示された。今後は、問診表全体の外的妥当性を確認し、理学療法介入効果を評価するうえで有用な評価指標とすることが課題であり、このことは、理学療法評価および治療の標準化において意義があることと考える。
  • 曽田 直樹, 植木 努
    セッションID: A-P-52
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】後ろ歩き(以下,後方歩行)はバランストレーニングや転倒予防またその評価など様々な場面で用いられる動作である.後方歩行の動作分析では,関節運動において前方歩行の逆の運動パターンを示し運動軌跡は類似しているという報告や歩幅や速度の違いからその運動パターンは異なるという報告など関節の動きを見た報告は散見されるものの運動力学的解析を行った報告はほとんどない.運動力学的要素の一つに足関節パワーがある.足関節パワーは前方への推進力を評価するための一つの指標である.足関節パワーは,関節モーメントの値に角速度を乗じた値により算出され,正のパワーはエネルギー生成を示し,求心性収縮と一般的に関係している.一方,負のパワーはエネルギー吸収を示し,遠心性収縮と関係する.従って前方歩行で起きる足関節底屈(蹴り出し)は,足関節の正のパワーとしてその大きさが示される.そしてその役割は歩行中の前方への推進力と安定性,遊脚期に入る前の下肢の前方への振出しに貢献している.このように足関節パワーの解析はその動作を理解する上で重要な指標であると考えられる.そこで本研究の目的は,三次元動作解析装置を用い後方歩行の足関節における運動学的及び運動力学的特徴を明らかにすることとした.【方法】対象は健常成人11 名(女性4 名,男性7 名,年齢23.8 ± 4.6 歳,身長167.5 ± 8.5cm,体重59.9 ± 12.6kg)とした.測定には,三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製,カメラ6 台、サンプリング周波数100Hz)および3 台の床反力計(サンプリング周波数1000Hz)を使用し,前方と後方の歩行動作を計測した.直径14mmの赤外線反射マーカーをPlug-in-gait full body model (VICON社製) に準じて所定の位置に計35 個貼付した.測定課題は,前方と後方への自然歩行(速度,歩幅は任意)とし,それぞれ数回ずつ行い安定した歩行が行われた各3 施行分のデータを解析に用いた.解析区間は左下肢の立脚期とし,解析項目は歩行時間,足関節最大背屈・底屈角度,矢状面における足関節パワー(角速度*関節モーメント:W/kg)のピーク値,足関節における力学的な仕事(足関節パワーの積分値),仕事率(仕事量/時間)とした.なお仕事量に関しては足関節のパワー曲線に基づいて足関節底屈が行われている(足関節パワーが正のピーク値を含んだ)区間の解析を行った.統計学的分析は,前方歩行と後方歩行のそれぞれの項目を対応のあるt検定を用い比較した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮】対象者には,本研究の主旨および方法,研究参加の有無によって不利益にならないことを十分に説明し,書面にて同意を得た.なお本大学の倫理委員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言を遵守しながら実施した.【結果】歩行時間および底屈角度に関しては前方歩行と後方歩行で有意な差は認められなかった.背屈角度において前方歩行13.7 ± 4.4 度,後方歩行20.8 ± 5.5 度と後方歩行が有意に高い値を示した.足関節パワーでは前方歩行3.3 ± 0.7W/kg,後方歩行1.7 ± 0.5W/kg,仕事量では前方歩行29.7 ± 7.5W/kg,後方歩行20.8 ± 7.1W/kg,仕事率では前方歩行1.7 ± 0.3W/kg/ms,後方歩行0.6 ± 0.1W/kg/msと足関節パワー、仕事量、仕事率において後方歩行が有意に低い値を示した.【考察】後方歩行は前方歩行と比較し足関節パワーと仕事量で有意に低い値を示した.今回の歩行では歩行時間に有意な差がなかったことから後方歩行では足関節パワーによる推進力への貢献度が低いことが考えられる.前方歩行における足関節パワーは,筋による底屈運動に加えて非収縮要素であるアキレス腱の伸張性をばねにした(弾性エネルギーを用いた)底屈運動により発揮される.しかし後方歩行において,足関節底屈パワーが発揮される直前の背屈角度が大きかったにもかかわらず足関節パワーが低値だったのは、後方歩行は非収縮要素による弾性エネルギーの影響をあまり受けないことが推測される.また仕事率においても後方歩行で有意に低い値を示した.前方歩行は歩行が進むにつれて足関節底屈のモーメントアームが大きくなるが,後方歩行は歩行が進むにつれて足関節底屈のモーメントアームが小さくなっていく.つまり後方歩行は足関節のパワー発揮に不利な動作であり,これらのことが仕事率の低下につながった要因のひとつであると考えられる.【理学療法学研究としての意義】後ろ歩きをベースとしたトレーニングや評価においてより効果的な運動療法を提供できると考える.また動作を理解で足関節パワー値は重要な指標であると考えられる.
  • 藤原 賢吾, 松岡 健, 岩本 博行, 江口 淳子, 中山 彰一
    セッションID: A-P-52
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】絶対的運動機能評価法として用いられる体重支持指数(Weight Bearing Index:以下WBI)は、体重と大腿四頭筋(以下Quad)筋力の絶対関係から導き出され、筋力/体重比に処理することで人種・年齢・性別に左右されない物理学的客観性をもつ。今回、Quadの拮抗筋であるハムストリングス(以下Ham)の筋力に注目し、WBIとの関係性があると仮説を立てた。また、Hamの中でも半膜様筋は停止部が半月や斜膝窩靭帯、内側側副靭帯、脛骨、膝窩筋と幅広く付着し、内側の動的安定装置の役割を担う。そこで、WBIが低値であればHamは筋力低下を生じ、半膜様筋の機能不全を起こし、膝関節位置覚や筋の伸張性に影響が出ると仮説を立てた。よって、本研究の目的は、WBIとHam筋力の関係性、さらにWBIと膝関節位置覚、Hamの伸張性の関係性を検証することである。【方法】対象は下肢機能に問題のない健常人男性30 名、平均年齢は26.7 ± 4.4 歳、平均身長は170.7 ± 5.8cm、平均体重は63.7 ± 9.4kgであった。筋力測定にはBIODEX社製system3 を用い、坐位で膝関節屈曲70 度位にてQuad、膝関節屈曲30度位にてHamの等尺性随意最大筋力を5 秒間測定した。得られたデータより、ピークトルク値の体重比を求めた。 WBI はQuadの等尺性収縮ピークトルク値を体重比にて算出した。膝関節位置覚の測定は、BIODEX社製system3 を用い、被験者が端座位、閉眼の状態で他動的にゆっくりと伸展させ、目標角度で5 秒間静止し、膝関節の角度を記憶するように指示した。再び開始の状態から記憶した角度を再現してもらい、その角度を記録した。開始角度は、膝関節屈曲90 度、目標角度は45 度とし、測定は3 回行い、目標角度と再現角度の差を算出し平均誤差角度を求めた。Hamの伸張性の測定には、下肢伸展拳上(Straight Leg Raising:以下SLR)を用いた。測定には東大式ゴニオメーターを用い、3 回測定し、平均値を求めた。各測定はすべて右側のみ行った。得られたデータから、WBIと各測定値の関係性の検討を行った。また、「競技スポーツ参加可能レベル」であるWBI100 以上(以下WBI高値群)とWBI100 未満(以下WBI低値群)の2 群で位置覚誤差角度とSLR角度の比較を行った。統計学的解析はWBIとHam筋力体重比、位置覚誤差角度、SLR角度との関係にはSpearmanの順位相関係数を用いた。位置覚誤差角度とSLR角度の比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】全ての被験者に動作を口頭で説明するとともに実演し、同意を得たのちに実験を行った。【結果】WBI(平均108.47±18.13)とHam筋力体重比(平均1.26±0.27 Nm/kg)において正の相関(r=0.435、p<0.05)を認めた。WBIと位置覚誤差角度(平均5.00 ± 4.14 度)、SLR角度(平均71.57 ± 7.63 度)には相関を認めなかった。Quad筋力体重比(平均2.70 ± 0.46 Nm/kg)とHam筋力体重比において正の相関(r=0.568、p<0.05)を認めた。位置覚誤差角度は、WBI高値群(N=19、平均4.44 ± 3.22 度)とWBI低値群(N=11、平均5.97 ± 5.23 度)の間に有意差は認めなかった(p=0.815)。SLR角度は、WBI高値群(N=19、平均72.70±8.49度)とWBI低値群(N=11、平均69.61±5.30度)の間に有意差は認めなかった(p=0.338)。【考察】WBIとHam筋力体重比において正の相関が認められ、Hamの筋力が体力の指標になり得ることが示唆された。また、WBI算出に使用されるQuad筋力とHam筋力に相関があったことからも関係性が示された。よって、WBIが低値であればHamの筋力低下、機能不全が予測される仮説の第1 段階は立証された。次に、WBIと膝関節位置覚、Hamの伸張性には相関がなく、WBI高値群と低値群の間に有意差も認められなかったため、仮説とは異なる結果となった。その理由として、関節位置覚や伸張性の低下は、他の因子の影響が強いことが考えられる。例えば、Hamの伸張性では骨盤後傾位などのアライメントや疼痛の有無の影響が考えられる。膝関節位置覚では、受容器は筋や腱、皮膚、関節包、靭帯など関節および関節周囲に多く分布しており、仮に半膜様筋の機能不全により関節包内運動の異常や後方関節包周囲の受容器の感受性が低下しても、他で十分代償できることが考えられる。よって、体力や筋力の低下と、膝関節位置覚やHamの伸張性の直接的な影響を見出すまでには至らなかった。【理学療法学研究としての意義】Quad筋力とともに拮抗筋であるHam筋力も体力の指標になり得ることが明確になった。Hamの筋力低下や機能不全によって、膝関節位置覚や伸張性に直接的な影響はないことがわかった。
  • 升 佑二郎, 芦川 聡宏, 粕山 達也, 河戸 誠司, 村松 憲, 金 承革, 前田 宜包, 石黒 友康
    セッションID: A-P-51
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】マラソンは心身ともに疲労困憊に至る過酷なレースであるが、多くの参加者は走りきることで達成感を味わい、大きな喜びを得ることができる人気のあるスポーツである。また、マラソンに関係する研究は多くみられ、生理学的な内容からバイオメカニクス的な内容まで多くの知見が得られている。一方、マラソンのように長時間の持久的走動作が繰り返される走競技の一つに、登山競争がある。この競争は、勾配のある走路を走り続けることから、下肢においては短縮性筋収縮が持続的に行われるという特徴がある。しかしながら、登山競争に関する研究は、高度の変化に適応するための生理学的な反応に関する報告がみられるものの、登山競争前後に関わる筋力及び筋活動の変化について検討された報告はみあたらない。登山競争前後における筋力及び筋活動の変化について検討し、筋疲労に伴う筋の特徴を明らかにすることにより、レース後の選手の疲労蓄積を防ぐためのコンディショニングサポートに関わる資料が得られると考えられた。そこで本研究では、富士登山競争前後における膝関節周囲筋の筋力及び筋活動の変化について検討し、筋疲労に伴う筋力及び筋活動の特性を明らかにすることを目的とした。【方法】本研究の被検者は、定期的なトレーニングを行い、富士登山競争に参加した消防団員の選手7 名とした。各被検者は、富士登山競走前(Pre)に実験施設内において測定を行ない、また、富士登山競走直後(Post)に実験施設に移動し、再度測定を行なった。筋力測定には、総合筋力測定装置(Byodex)を用いて、角速度60、180、300deg/sによる膝関節屈曲−伸展トルクを測定した。また、大腿直筋、半腱様筋及び大腿二頭筋にAg/AgCI電極を添付し、筋力測定時における筋活動を同時に測定した。測定により得られたEMG信号は増幅器(PowerLab;日本光電)を介して増幅したのち、A/D変換器(Powerlab;日本光電)を介し、サンプリング周波数1kHzにてコンピュータに取り込んだ。EMG信号の解析にはLabchartを使用し、伸展動作時の大腿直筋及び屈曲動作時の半腱様筋及び大腿二頭筋のRMS値を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】全被検者には、測定に関する目的及び安全性について説明し、任意による測定参加の同意を得た。さらに、各選手が所属する消防長の同意も得た。本研究は、健康科学大学研究倫理評価委員会の承認を受けて実施した。【結果】膝関節屈曲−伸展トルクは、体重当たりの最大トルクの比率として算出し、伸展動作時における値は、60、180 及び300deg/sともにPre とPost間に有意差は認められなかった。また、屈曲動作においては、60、180deg/sのPreとPost間に有意差は認められなかったものの、300deg/s(Pre;85.1 ± 12.1%、Post;93.7 ± 14.6%)では、Preに対してPostの方が有意に高い値を示した(p<0.05)。筋活動における大腿直筋のRMS値は、60、180deg/sのPreとPost間に有意差は認められなかったものの、300deg/s(Pre;0.006 ± 0.001、Post;0.003 ± 0.001 )では、Preに対してPostの方が有意に低い値を示した(p<0.05)。半腱様筋におけるRMS値においても、60、180deg/s のPreとPost間に有意差は認められなかったものの、300deg/s(Pre;0.006 ± 0.001、Post;0.003 ± 0.001 )では、Preに対してPostの方が有意に低い値を示した(p<0.05)。また、大腿二頭筋におけるRMS値は、60、180 及び300deg/sともにPreとPost間に有意差は認められなかった。【考察】本研究では、富士登山競争前後における膝関節周囲筋の筋力及び筋活動の変化について検討し、300deg/sにおける屈曲筋力は有意に増加するものの、筋活動におけるRMS値は、大腿直筋及び半腱様筋において有意に減少する傾向が示された。これらのことについて、先行研究において、血中アドレナリン濃度の増加により、筋の強制収縮が生じ、筋力が増すことが報告されている。また、ある特定の筋が疲労し、力を発揮することができなくなった場合、他の筋が大きな力を発揮する代償作用が生じ、筋力が増加するという可能性も推察される。従って、筋力値といったアウトプットのパフォーマンスは、疲労に伴い必ずしも減少するとは限らないが、大腿二頭筋よりも大腿直筋及び半腱様筋の筋機能が低下していることから、これらの低下した筋機能の改善を目的としたコンディショニングサポートが重要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究では、大腿直筋、半腱様筋及び大腿二頭筋の筋活動について検討し、大腿二頭筋に変化はみられなかったものに、大腿直筋及び半腱様筋の筋機能が低下していることがみられた。このように、登山競走に伴う筋の活動様相の変化を把握していくことにより、効果的に疲労蓄積を改善するためのコンディショニングサポートに関わる手法の確立に貢献できると考えられた。
  • 有賀 一朗, 神先 秀人, 大沼 寧, 引地 雄一, 百瀬 公人
    セッションID: A-P-51
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】足部回内は足関節背屈,外反,外転の構成要素からなる複合運動であり,ランニング中では立脚初期にピークを迎える.ランニング中における足部回内は,衝撃の緩和や地面との適合性を高める働きがある.その一方で,過度な足部回内は足部や下腿部などに過剰なストレスを与えて痛みや疲労などの症状を引き起こし,スポーツ障害をもたらすと考えられている.スポーツ障害を抱えた患者を評価するには,可動域検査および足部アーチ高などの静的な状態で行う検査や,症状を引き起こしている動作を観察する方法がある.実際には,痛みなどの症状を引き起こす動作の評価が望ましいと考えられるが,足部や下腿部などの動きは比較的少なく,正確に捉えるのは難しい.また,機器を使用した測定は,測定機器が高価であり,準備や測定に長時間を要するなどの欠点がある.その一方で,静的な状態で行う検査は,角度計や定規を用いて簡便に計測でき,臨床でも頻繁に使用されている.さらに,これらの計測値とスポーツ障害との関連性を報告している先行研究は複数あり,ランニング動作時に起こる足部回内に影響を与えている可能性がある.そこで本研究では,可動域検査や足部アーチ高などの静的な状態での計測値とランニング動作時に起こる足部回内(背屈,外反,外転)との関連性を検討した.【方法】対象は運動部に所属し,過去に下肢の痛みなどの症状で医師にスポーツ障害と診断された学生,または同様の症状を呈した学生で,現在は日常的にランニング動作を行っている18 名とした(年齢17.5 ± 2.4 歳).各対象者に対して静的な状態での計測と走行時の動作分析を実施した.静的な状態での計測には,以下に示すスポーツ障害と関連性が高いと報告されている6 項目を計測した.すなわち可動域検査として,足関節背屈,母趾中足趾節間関節背屈,下腿-踵骨角の3 項目を,足部アーチ高測定として,非荷重時と荷重時における床面から舟状骨結節までの高さ,およびその差であるアーチ高変化量の3 項目を対象とした.走行動作の分析は三次元動作解析装置(VICON370)と床反力計(Kistler社製)を備えた約12mの走行路で実施した.採択条件は測定足が床反力計内に接地し,かつ走行速度が3.8 −4.2 m/sになるようなデータとし,5 試行計測した.マーカ貼付位置は三次元動作解析の下肢モデル(Plug-In Gait)に従い,骨盤及び両下肢の15 点に貼付し,三平面上での下肢の運動を測定した.サンプリング周波数は三次元座標データでは本実験機器でサンプリング可能な60 Hzに,床反力データでは1920 Hzに設定し,データを収集した.従属変数には足部回内の構成要素である足関節背屈,外反,外転角度を解析対象とし,それらのピーク値および踵接地から最大値に達するまでの運動範囲の計6 項目とした.独立変数には可動域検査や足部アーチ高などの静的な状態での計測値に,年齢や体重を加えた計8 項目とした.取り込み基準をF値確率 ≦ 0.05,除外基準をF値確率 ≧ 0.10 と設定して,Stepwise法による重回帰分析を行った.統計処理は各試行において任意の3 試行の平均値を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】事前に研究の趣旨や研究に伴うリスクなどを対象者に説明し,書面にて同意を得た.対象者が未成年者である場合はその保護者からも同様な手順で同意を得た.なお,本研究は山形県立保健医療大学及び山形徳洲会病院の倫理委員会の承認を得て行った.【結果】足関節外反角度(運動範囲)を従属変数としたときに選択された独立変数は,非荷重時で測定したアーチ高(B= -2.78, β= -0.90),足関節背屈(B= -0.89, β= -0.64),年齢(B= -0.27, β= -0.45),体重(B= 0.96, β= 0.70)の4 変数であり,y= -2.78x1 -0.89x2 -0.27x3 +0.96x4 +19.2 の回帰式が得られた.Bは非標準化回帰係数,βは標準回帰係数を示している.回帰式の決定係数は0.811 であった.なお,ほかの5 つの変数に関しては,設定した基準を満たす独立変数は得られなかった.【考察】本研究では,可動域検査や足部アーチ高などの静的な状態での計測値とランニング動作時に起こる足部回内(背屈,外反,外転)との関連性を検討した.今回の結果より,アーチ高の低値や足関節背屈の制限,若年齢,体重の増加はランニング中の足関節外反角度の増加をもたらし,スポーツ障害を引き起こす要因であることが推察された.【理学療法学研究としての意義】ランニング中の足部回内を引き起こす身体的特徴を特定できれば,より効果の高い理学療法を提供できる可能性がある.
  • 大久保 雄, 金岡 恒治, 田中 康久, 長谷部 清貴
    セッションID: A-P-51
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】倒立は体操や飛込競技の演技で頻繁に行われる動作であり,高い点数を得るためには身体を一直線に保つ能力が必要とされる.倒立は上肢で体重を支持しながら重心をコントロールするため,立位姿勢とは異なった筋活動様式を示すと考えられる.そこで本研究では,体操選手の倒立姿勢と立位姿勢保持時の筋活動量を比較し,倒立姿勢時の筋活動様式を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は体操競技経験10 年以上の大学男子体操選手7 名とした.マット上で直立立位および倒立姿勢を3 秒間保持させた際の筋電図を測定した.倒立姿勢は実際の演技を想定し,できる限り身体を一直線にして静止させた.被験筋は右側の腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,胸部脊柱起立筋(第9 胸椎レベル),腰部脊柱起立筋(第3 腰椎レベル),大腿直筋,上腕三頭筋,広背筋であり,表面電極を貼付した.立位,倒立ともに姿勢が安定した1 秒間の筋活動量を,等尺性最大随意収縮時の活動量で正期化した%MVCを算出した.各筋において,立位と倒立時の筋活動量をWilcoxonの符号付順位検定を用いて比較した.なお,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいた倫理的配慮の下行った。被験者には口頭にて,実験の概要,方法,研究による危険性とその対処法,自由意志による同意であること,同意を示された方でもいかなる場合においても理由を問われることなく実験への同意を撤回することができること,個人の人権を擁護することを説明し,実験参加の同意を得られた後,実験を行った.【結果】腹直筋(立位:0.3 ± 0.1%MVC,倒立:6.5 ± 4.2”%MVC),外腹斜筋(立位:1.0 ± 0.4%MVC,倒立:6.4 ± 5.1”%MVC),大腿直筋(立位:0.6 ± 0.2%MVC,倒立:3.5 ± 2.2”%MVC),上腕三頭筋(立位:0.6 ± 1.0%MVC,倒立:13.5 ± 7.0”%MVC),広背筋(立位:0.5 ± 0.4%MVC,倒立:1.9 ± 1.3”%MVC)は倒立時の活動量が立位時よりも有意に大きかった.腰部脊柱起立筋(立位:4.7 ± 3.6%MVC,倒立:1.6 ± 1.2”%MVC)は立位時の活動量が倒立時よりも有意に大きかった.内腹斜筋,胸部脊柱起立筋に有意差は認めなかった.【考察】本結果より,倒立時には腹直筋,外腹斜筋,大腿直筋,上腕三頭筋,広背筋の活動量が大きかった.倒立時には上肢で体重を支持するため手関節および肩関節のトルクが大きくなることが報告されており(Kerwin DG and Trewartha G,2001),上腕三頭筋や広背筋など上肢筋の活動量が大きくなったと考える.また,倒立姿勢の重心をコントロールするために体幹・股関節の運動制御が必要とされ,腹直筋,外腹斜筋,大腿直筋の活動量が大きくなったと考える.上級者の倒立は初心者よりも股関節伸展方向への角度変位量が少ないことが示されていることから(Gautier G et al., 2009),体幹・股関節屈筋群を活動させて,安定した倒立姿勢を維持している可能性が示唆された.一方,腰部脊柱起立筋は有意に立位で活動量が大きく,胸部脊柱起立筋も有意差は認めなかったが,立位で活動量が大きかった(立位:2.6 ± 0.8%MVC,倒立:1.7 ± 1.1”%MVC).脊柱起立筋群は立位姿勢においては抗重力筋として活動するが,倒立姿勢では抗重力作用を必要としないため活動量が減少する可能性が示唆された.以上から,体幹筋群において立位では体幹背面筋群が活動し,倒立では体幹前面筋群の活動量が大きくなる傾向を示した.今後は,重心位置やアライメントを計測し,抗重力作用と筋活動との関連を明らかにしながら,身体を一直線に維持するための倒立技術を解明する必要がある.【理学療法学研究としての意義】倒立は体操競技だけでなく様々な競技のトレーニング現場で用いられている.本研究では一流体操選手の倒立筋活動を明らかにしたことから,スポーツ現場において倒立パフォーマンスを向上させるための有用な情報になると考える.
  • 青沼 友香, 堤 有加音, 城下 貴司
    セッションID: A-P-51
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】村田(2004)は足趾把持力と片脚立位の関連性を調査し足趾把持力の向上により片脚時間が安定したことを報告している。加賀谷ら(2007)はウインドラス機能の低下には、タオルギャザリングエクササイズ(以下、TGE)やビー玉掴みが有効であると述べている。竹井ら(2011)は足把持力トレーニングとしてTGEを行いTGE開始3 週間後に足把持力増強を認めたと報告している。城下(2008)は有痛性外脛骨を対象にTGEを行い疼痛の改善率が少なかった、前田(2011)はTGEと内側縦アーチ(以下、MLA)との関連性を調査しTGEとMLAは形態的に関連性が低いことを報告している。しかしながら、以上にあげた先行研究は足趾個々の把持力を調査したものではない。そこで、本研究では各々の足趾把持力に着目しタオルギャザリングエクササイズを用いて各々の足趾把持パターンを調査した。我々は、母趾の把持力が最大となると仮説立てた。【方法】対象は健常成人24 名の右足のみ24 足とし、年齢は21.16 ± 0.63 歳で過去6 ヶ月以内に下肢疾患により医療機関にかかっていない者とした。機材はバイオログDL−2000(4Assist社製)、Flexiforceボタンセンサシリーズ(幅14mm、長さ205mm、厚さ0.208mm)、校正用はかり(デジタルクッキングスケール KD-313 最小表示1g、最大表示3000g)、貼付用テープ、計測用パッド(ポロンソフト3mm 直径9.5mm)、昇降ベッド(KC-237-PARAMONT BED)とした。実験手順は股関節・膝関節・足関節を約90 度の端坐位とした、足趾の母趾から環趾まで趾頭部分にボタンセンサを貼付した、城下による先行研究に従って足趾完全伸展から完全屈曲までを1 周期としてTGEを行った、TGEの際には声掛けにより被験者間で周期を統一させた。解析はサンプリング周波数100Hzで計測し、1 被験者約1 分間の計測を行った。記録したデータのうち3 周期を選出し足趾把持後の0.1 秒の積分値を足趾把持力とした。データ解析は、m-BioLog ,m-Scopeを使用した。統計処理にはR(R i386 2.15.1)、RG(RCodeGenerator)を使用し、分散分析による多重比較検定にて各足趾の比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】被験者に対し研究の内容・趣旨・方法等を記載した説明書に同意書と同意撤回書を添付したものを配付し、同意書提出のあった対象者のみに協力をしていただいた。また、個人が特定されないよう番号で管理し、番号と名前を照合するため、対応表を作成しセキュリティー付きUSBで被験者情報を管理した。【結果】各足趾把持力は、母趾137.5 ± 133.1g、2 趾139.4 ± 96.0g、3 趾248.0 ± 199.0g、4 趾146.5 ± 87.3gであった、標準偏差が著大となりいずれも統計的有意差は得られなかった、多重比較検定では母趾‐2 趾0.2121、母趾‐3 趾0.9113、母趾‐4趾0.1755(p<0.05)であった。男女ともに3 趾の把持力が最大となる傾向が得られた。【考察】本研究ではTGEによる足趾把持力パターンの検証を行ったが統計処理による有意差が認められなかった。母趾は他趾と比較して面積が大きい(約3 倍)ため有意差が検出しづらいと考え母趾面積を補正したうえで比較したが足趾面積を補正しても有意差が認められなかった。我々は母趾の把持力が最大であると仮説立てていたが異なる結果が得られた。以上から各足趾把持力に差がないと考えられる。また標準偏差が著大となったが要因として、1 つ目に研究デザインとして使用したボタンセンサが剪断力に対して弱かったためテープ貼付方法やパッドによる圧への配慮など様々な工夫を凝らしたが剪断力を取り除くことができなかった点があげられる、2 つ目に足部形状としてギリシャ型・エジプト型の被験者が混在していたことにより各々の足趾把持パターンに差が生じてしまったことがあげられる。足趾把持パターンでは3 趾から行う被験者が多くおり、足趾把持力平均値は3 趾が最大となった。3 趾の足趾把持力が最大となった要因として3 趾の可動性が大きいことにより足趾把持力は3 趾が最大となったのではないかと我々は考える。【理学療法学研究としての意義】本研究から、TGEの各足趾把持力に差はないが足趾把持パターンには差が示唆された。臨床上のTGEの解釈に注意すべきであると我々は考えた。
  • 木野田 典保, 角谷 一徳
    セッションID: A-P-55
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】運動器や中枢神経疾患の患者に対して平衡機能の客観的な評価のため重心動揺計を用いることは有用である。しかし,専用の重心動揺計は高額であり,測定できる施設や環境を限定せざるを得ない。そこでスマートフォンやポータブルメディアプレーヤー(以下スマホ)などに搭載されている加速度センサーを利用した身体バランス計測器を開発したので,その妥当性を経緯も含めて報告する。【方法】以下に開発の経緯を示す。ステップ1 でスマホの加速度センサーから取得したデータから軌跡長を算出するプロトタイプアプリを作成し,被験者3 名に対して初期実験を実施した。仮説計算式を2 つ用意し,重心動揺計の軌跡長値と比較しながら選定した。ステップ2 で計測位置や固定方法などで,よりデータが安定して取得できる方法を確定した。ステップ3 で被験者を増員して様々な体格や年齢での補正などを検討した。ステップ4 でスマホの静止状態での微細に算出される加速度値をノイズとして除去した。最終ステップとして,対象を健常な男性11 名,女性10 名。年齢は22 〜52 歳,平均年齢は29.5 ± 8.23 歳とし、スマホの加速度センサーから取得される計算上の軌跡長と重心動揺計から取得できる軌跡長との関係性を調査した。計測には重心動揺計はアニマ社製TWIN GRAVICORDER GP-6000 を,スマホはipod touch(第4 世代)を使用した。ともに開眼と閉眼における閉足での直立立位姿勢の状態で,サンプリング周期50msにて30 秒間計測し軌跡長を取得した。スマホは臍下に被験者自身の手でしっっかりと固定し、スマホのプロトタイプアプリの計測が開始されると同時に、験者が重心動揺計の計測ボタンを押した。統計処理はSPSSを用い、両者から得られたデータの関係性を求めるため、pearsonの相関係数を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、被験者全員に対して研究の主旨を十分に説明して同意を得た。【結果】重心動揺計の軌跡長の平均値は37.6 ± 1.52cm,スマホの加速度センサーからの計算上の軌跡長の平均値は37.6 ± 9.8cmであり,Pearsonの相関係数は0.643(1%水準,両側で有意)であった。【考察】結果より重心動揺計の軌跡長の値とスマホから得られる軌跡長値とは正の相関が認められため,既存の重心動揺計に代わる身体の平衡機能を現す重要な計測手段に成りうると考える。【理学療法学研究としての意義】スマホなどの加速度センサーを用いて身体のバランス能力を客観的なデータとしてどこでも簡単に取得できることは臨床上非常に意義があると考える。
  • 吉井 亜希, 加藤 仁志, 岡田 佳織
    セッションID: A-P-55
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】現在,欧米を中心に動物に対する理学療法(以下,動物理学療法)が行われており,欧米ではそれに関する文献も数多く見られる.本邦でも2007 年に日本動物リハビリテーション研究会(現在は日本動物リハビリテーション学会として活動している)が設立され,2010 年には日本動物理学療法研究会が立ち上げられ,動物理学療法が注目され始めている.しかし,本邦では動物理学療法を行う施設は限られており,それに関する文献も少ないのが現状である.本邦における動物理学療法に関する検討としては,全国の理学療法士と獣医師を対象とした動物理学療法への関心度の調査(浅利,2011)や動物理学療法への理学療法士のニーズの調査(石川ら,2012)があり,理学療法士や獣医師が関心を持っていることや,獣医師,動物看護師から動物理学療法への理学療法士の参入のニーズがあることは明らかになっている.しかし,クライアントである飼い主が動物理学療法を認知し必要としているか調査した研究は見当たらない.そこで本研究の目的は,本邦において代表的なペットである「犬」の飼い主を対象とした動物理学療法の認知度と必要性を調査し,現在動物理学療法がどの程度普及しているのかを明らかにすることとした.【方法】対象は平成24 年9 月〜10 月に群馬県内のドッグランに訪れた51 名の飼い主とした.アンケートの実施方法は2 肢選択と自由記載での回答形式のアンケートの実施用紙を作成しインタビュー形式にて実施した.質問内容は1)動物理学療法という言葉の認知度,2)動物理学療法の利用希望の有無とその理由,3)動物理学療法の利用経験とその内容,の計3 項目とした.アンケート結果の回答を集計し,飼い主の動物理学療法の認知度に注目して統計的に分析,検討した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者に対して,研究の目的,方法,参加による利益と不利益,自らの意思で参加し,またいつでも参加を中止できること,個人情報の取り扱いと得られたデータの処理方法,結果公表方法等を記した書面と口頭による説明を十分に行い,研究参加に同意していただいた場合は署名にて同意書への同意を得た.また,すべてのデータの公表に当たっては対象者が特定されない形で行った.【結果】1)動物理学療法という言葉を知っているという回答は37.2%であった.2)動物理学療法を利用したいという回答は94.1%であり,利用したい理由は「人間(家族)と同様だと思うから」が16.7%と最も多かった.また,利用したくないと答えた理由は「動物理学療法というものを知らないから」,「金額次第」であった.3)動物理学療法を利用したことがあるという回答は17.6%であり,利用した内容はレーザー療法,運動療法,水治療法(プール)であった.【考察】動物理学療法という言葉を知っているとの回答は37.2%であったのに対し動物理学療法を利用したいとの回答は94.1%であった.つまり認知度は低いが,利用希望は多いことが示唆された.利用したいと回答した理由として「人間(家族)と同様だと思う」が最も多く,飼い犬を人間や家族同様に考える人が多いと考えられた.一方,利用したくないと回答した理由として「動物理学療法というものを知らない」,「金額次第」との意見もあった.動物理学療法を知らない,内容まではわからないことで不安があり,否定的な回答内容に繋がっていると考えられた.また,実際に利用したことがあるのは17.6%であり,利用経験率が低いことも認知度の低さと関係していると考えられた.今後,飼い主の動物理学療法に対する認知度を上げるためには,飼い主が動物理学療法の実施内容及び費用について知る機会を設ける必要があると考えた.現在,一部のペットショップでは犬を購入すると犬の医療保険についての説明がある.このようにペットショップや動物病院で動物理学療法という言葉に触れる機会が増えることで,動物理学療法やその内容の認知度の向上に繋がるのではないだろうか.【理学療法学研究としての意義】本研究において,飼い主の動物理学療法に対する認知度は低いことが示唆された.しかし,利用したいという希望は多かった.動物理学療法に携わる獣医師・動物看護師・理学療法士が実績を残すことで,動物理学療法を実施する施設が増加し,それにより飼い主が動物理学療法を知る機会が増加し,動物理学療法実践の機会が増加すると考えた.このことが飼い主の動物理学療法に対する認知度の向上に繋がると考えた.本研究は動物理学療法という理学療法士の新しい領域としての可能性を考える上で有意義であると考えられた.
  • 秦 一貴, 福留 清博, 上嶋 明, 西 智洋, 川井田 豊, 平田 敦志, 前田 誠
    セッションID: A-P-55
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】理学療法士による患者の機能評価について,客観的で精度の高い評価を行うには,3 次元動作解析装置の利用が理想的である.しかし,非常に高価で,大がかりでかつ複雑な操作を要する機器である為,臨床の場で使用することは困難である.そこで,本研究では,家庭用ビデオゲーム機器を活用し,1)臨床での使用に適した安価でマーカー不要な3 次元動作解析システム(マーカレスシステム)を開発し,2)gold standardとしてのマーカー使用の3 次元動作解析装置(マーカベースシステム)と,トレッドミル歩行中の膝関節屈曲角度,大腿長,および下腿長について比較することで,そのマーカレスシステムの妥当性について調べ,3)実際に,デイサービスでの機能訓練評価に本システムを試用した例を紹介する.【方法】家庭用ビデオゲーム機器のインタフェースXbox 360 KinectTM センサー(Microsoft Corp, USA)(以下Kinect)について,開発環境Kinect for Windows SDK betaを利用し,関節中心座標データを取得できるVisual C#プログラムを作成した.健常成人20 名(平均年齢25.8 ± 5.0 歳)を被験者とし,トレッドミル歩行動作(トレッドミル速度1, 2, 3, 4 km/h)における膝関節屈曲角度,大腿長,および下腿長を,マーカレスシステムおよびマーカベースシステム(Vicon MX, Oxford Metrics 社, UK)の両システムで測定し,膝関節屈曲角度についてPearsonの相関係数を求め,その関係について回帰分析を行った.統計処理にはSPSS statistics 17.0 を用い,危険率5 %未満で検定を行った.さらに,デイサービス利用者3 名(平均年齢83.0 ± 11.8 歳)の機能訓練評価について,片脚立位および立ち上がり動作をマーカレスシステムで測定した.【説明と同意】予め,説明や同意に関する方法を含む本研究計画について鹿児島大学医学部疫学・臨床研究等倫理委員会の審議を受け承認(第171 号)を得た.その上で,被験者に説明文書を用いて書面および口頭で,研究の目的他,参加が強制ではないこと等を説明した.被験者に同意が得られた場合のみ,同意書に署名を得て研究に参加していただいた.【結果】1)膝関節屈曲角度.マーカレスシステムの測定値(θmls ),マーカベースシステムの測定値(θmbs )において,すべての速度域でのPearsonの相関係数は0.9 以上と高い相関を示したため,トレッドミル速度1 km/hから4 km/hまでのすべてのデータについて回帰分析を行い,θmbs = 1.53 θmls - 1.44 という関係式を得た.2)大腿長および下腿長.マーカレスシステムで測定した下腿長はマーカベースシステムで測定した値と同程度であったが,大腿長において平均125mmマーカレスシステムの測定値の方が大きくなる結果となった.3)片脚立位および立ち上がり動作.両動作ともに,モーショントラッキングによるリアルタイムでの関節中心座標測定が可能であった.【考察】本研究で開発したモーショントラッキングシステムは,マーカレス方式であるため,マーカーを貼付する手間もなく,デイサービス利用の高齢者に負担を与えることがない.しかも,客観的評価が可能で臨床の場での使用に最適であった.膝関節屈曲角度について本システムは,gold standardと高い相関係数を持つことから動作は正しく認識されているが,回帰分析した結果,本システムの測定値はマーカベースシステムの測定値の3 分の2 程度の大きさしかなく,さらに両システムでの大腿長が異なることから,Kinectの関節中心の推定には問題が残されている.しかし,この関節中心の推定はブラックボックスでもあり,本マーカレスシステムを活用するには,得られた結果を較正して利用することが現実的である.【理学療法学研究としての意義】リハビリテーション行為に客観性が求められ,数値化できる科学的データが必要とされる現在に至り,セラピストには患者を正しく評価することが求められている.家庭用ビデオゲーム機器を動作解析装置として利用できるならば,臨床における安価で簡便な評価システムとして活用できる可能性を秘めている.
  • 井上 拓保
    セッションID: A-P-55
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】2010 年度の診療報酬改定により回復期リハビリテーションを要する状態の患者に対し1 人1 日あたり6 単位以上のリハビリテーションの実施で40 点/1 日、重症の患者の3 割以上が退院時に日常生活機能評価で3 点以上改善していることで50 点/1 日が加えられた。また、2012 年度の診療報酬改定により回復期リハビリテーション病棟入院料1 の施設基準に在宅復帰率が6 割以上から7 割以上、新規入院患者のうち重症患者(日常生活機能評価において10 点以上)の割合が2 割以上から3 割以上に引き上げられた。こうした診療報酬改定の流れの中でリハビリテーションの質が求められおり、河北リハビリテーション病院(以下当院)の充実加算導入前後のリハビリテーション効果を機能自立度評価表:Functional Independence Measure(以下FIM)を用いて検討する機会を得たので報告する。【方法】カルテを後方視的に調査し2008 年4 月1 日から2012 年3 月31 日の期間に当院に入退院した脳血管疾患患者の内、病状の悪化による急変者やFIMデータの欠損者を除外した868 名(男性464 名、女性404 名、平均年齢73.40 ± 13.30 歳)を対象とした。対象者868 名の内2010 年4 月1 日から2012 年3 月31 日の期間に当院に入退院となった432 名(男性242 名、女性190 名、平均年齢73.56 ± 13.24 歳)を加算群、2008 年4 月1 日から2010 年3 月31 日の期間に当院に入退院となった436 名(男性222 名、女性214 名、平均年齢73.24 ± 13.40 歳)を非加算群とした。可算群と非可算群の内、A:理学療法、作業療法、言語聴覚療法のいずれかの組み合わせで実施された場合(以下A)、B:理学療法と作業療法が実施された場合(以下B)、C:理学療法、作業療法、言語聴覚療法のすべてが実施された場合(以下C)で比較検討した。年齢、入院期間、入院時FIM点数、退院時FIM点数、獲得FIM点数(退院時FIMと入院持FIM点数の減算)、FIM利得(獲得FIM点数から入院期間の除算)を抽出し統計処理をした。統計処理は、統計ソフトSPSS(11.5J for Windows)を使用して危険率5%未満に設定し、対応のないt検定、Mann-WhitenyのU検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は後方視的観察研究であり、ヘルシンキ宣言に基づき、個人情報には十分留意しカルテより情報を収集し調査した。【結果】Aでは年齢(73.2 ± 13.4 歳vs73.6 ± 13.2 歳)、入院期間(95.6 ± 43.7 日vs91.9 ± 42.3 日)、獲得FIM点数(17.3 ± 14.9 点vs17.6 ± 14.6 点)に有意な差を認めず、入院時FIM点数(63.4 ± 29.6 点vs71.6 ± 30.4 点)、退院時FIM点数(80.7 ± 32.6点vs89.2 ± 31.9 点)、FIM利得(18.2 ± 17.3 点/日vs20.5 ± 20.8 点/日)に有意な差を認めた。Bでは年齢(74.0 ± 12.3 歳vs75.1 ± 12.3 歳)、入院期間(88.0 ± 41.3 日vs89.0 ± 40.9 日)、入院時FIM点数(74.7 ± 25.4 点vs74.3 ± 29.5 点)、退院時FIM点数(92.5 ± 26.8 点vs91.5 ± 30.7 点)、獲得FIM点数(17.8 ± 14.6 点vs17.2 ± 14.4 点)、FIM利得(21.6 ± 20.4 点/日vs21.1 ± 22.8 点/日)すべてにおいて有意な差を認めなかった。Cでは年齢(72.4 ± 14.1 歳vs70.2 ± 14.1 歳)、入院期間(101.0 ± 44.0 日vs98.2 ± 45.1 日)に有意な差を認めず、入院時FIM点数(56.2 ± 29.8 点vs65.2 ± 31.9 点)、退院時FIM点数(72.8 ± 33.6 点vs83.7 ± 34.4 点)、獲得FIM点数(16.6 ± 14.9 点vs18.5 ± 15.1 点)、FIM利得(15.6 ± 14.1 点/日vs18.8 ± 14.9 点/日)に有意な差を認めた。【考察】当院は2010 年度の診療報酬改定時より充実加算を導入した。本研究にて当院の充実加算導入によるリハビリテーションの効果として、FIMに着目し脳血管疾患患者の効果を検証した。Aでは入院時・退院時FIM点数、FIM利得で有意差を認めたが、入院期間や獲得FIMには有意差を認めなかった。Bではすべての項目で有意差を認めず、Cでは入院時・退院時FIM点数、獲得FIM点数、FIM利得に有意差を認めたため、脳血管疾患患者に対するリハビリテーションの効果として3 職種が同時に介入する場合により高い効果を示すことが示唆された。今後は在宅復帰率や重症患者に着目した検証を進め、その効果を検証していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】診療報酬は医療従事者として従事する際に必要不可欠なものであり、少子高齢社会を迎えた本国の医療費の抑制は急務な課題である。本研究の意義は社会背景の中で理学療法士の介入効果を示し、理学療法の発展に寄与することである。
  • 成田 爽子, 牧野 美里
    セッションID: A-P-54
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】厚生労働省の平成22 年の国民生活基礎調査によると、12 歳以上の者(入院者は除く)について、日常生活での悩みやストレスの有無別構成割合をみると「ある」46.5%となっている。運動とストレスの関係について論文検索をしたところ、運動によりストレス軽減効果が得られるとしている文献が多数みられた。その評価指標として、主観的指標を用いているものが多く、客観的指標を用いているものは比較的少なかった。そこで、今回の研究では運動によりストレスの改善ができるかどうかを客観的に評価することを目的とした。【方法】健常男子学生16 名(年齢:21.5 ± 2.27 歳、身長:175.13 ± 3.93cm、体重:68.69 ± 9.41kg) を対象とした。主観的指標として日本語版Profile of Mood States短縮版(以下POMS短縮版)、客観的指標として心拍変動周波数成分(LF/HF:交感神経活動指標、HF:副交感神経活動指標)の2 分間の平均と唾液アミラーゼ活性を用いた。対象者はPOLAR社製スポーツ心拍計RS800CX(以下:心拍計)を装着し、安静閉眼座位にて10 分間の休憩を取った。自転車エルゴメーターにて20 分間の運動と1 分間のクールダウンを行い、運動前後で、上記の評価を行った。尚、運動強度は、50%HRmax、50 回/分を目安として快適に運動を続けることができる負荷量を事前に決定した(52.5 ± 14.76W)。周波数解析は付属のソフトを用いて行い、統計処理にはStatcel3 を用い、対応のあるt検定(抑うつ−落ち込み、怒り−敵意、唾液アミラーゼ活性、LF/HF)及びWillcoxon符号付順位和検定(緊張−不安、活気、疲労、混乱、HF)により行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】全ての被験者には事前に本研究の目的や方法、参加への同意・撤回の自由、プライバシー保護の徹底について説明を行い、書面にて同意を得た。【結果】POMS短縮版の各項目において運動前後で有意差は見られなかったが、緊張−不安(前43.44±9.68点、後40.69±7.28点)、抑うつ−落ち込み(前45.44 ± 8.55 点、後44.19 ± 7.84 点)、怒り−敵意(前41.88 ± 7.85 点、後40.5 ± 5.92 点)、混乱(前46.19 ± 5.39 点、後44.31 ± 4.67 点)の項目のT得点の減少が見られ、活気(前42.06 ± 14.27 点、後44.50 ± 14.42 点)の項目でT得点の上昇が見られた。唾液アミラーゼ活性(前40.88 ± 41.97KU/L、後20.25 ± 24.06 KU/L)においても、運動前後で有意差は見られなかったが、数値の減少が見られた。つまり、これらの項目ではストレスを改善する傾向がみられた。また、有意差は見られなかったが、POMS短縮版の疲労(前44.88 ± 10.36 点、後47.56 ± 9.99 点)の項目のT得点が増加した。副交感神経の指標であるHF成分(前447.99 ± 429.42ms 2 、後195.53 ± 184.97ms 2 )において有意に減少し、交感神経の指標であるLF/HF(前570.14 ± 1248.07、後499.84 ± 317.05)は、ほぼ変化はなかった。【考察】本研究では、運動によりストレスの改善ができるかどうかを客観的に評価することを目的として実験を行った。「リラクセーション状態=ストレスのない状態」と解釈され、心身のリラクセーションの評価法については未だに十分に整理されているとは言い難いとされており、ストレスの評価法についても同様であると考えられる。本研究においても、主観的評価や唾液アミラーゼ活性ではストレス改善傾向を示しているが、有意差は見られていない。また、副交感神経の指標であるHFの減少に関しても、運動によって副交感神経活動が減少することは既に示されている。今回は運動直後のHFを解析したためにHFが有意に低下したと考えられ、それ以降のHFの推移を追っていくことが重要だったのではないかと思われる。また、50 〜80%HRの運動によってストレス軽減効果が得られるとされているが、乳酸性作業閾値以上の運動によりストレスホルモンである副腎皮質刺激ホルモンが亢進し、交感神経系が亢進すると言われているため、低負荷の運動でもストレス軽減効果が見られるか等、運動強度についても再検討する必要があると考えられる。これらのことから、客観的にストレスを評価できたとは言い難いが、運動強度や評価指標、評価を行うタイミング等の実験方法を再検討することで、ストレスを客観的に評価することができる可能性があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】現代ではストレスを抱える人が多く、運動療法を行うことによって身体的な障害のみでなく精神的なストレスを改善することができるならば、QOLの向上につながると考える。そのためには、運動とストレスの関連を把握し、ストレスを評価する指標が必要であり、本研究はその一助となると思われる。更に、運動強度や評価指標など、実験方法を再検討することで、患者への臨床応用も可能となると考えるため、理学療法学研究として意義があると思われる。
  • 由留木 裕子, 鈴木 俊明, 岩月 宏泰
    セッションID: A-P-54
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】アロマテラピー(以下、アロマ)はリラクゼーションや認知機能への効果、自律神経への影響から脈拍や血圧の変化、そして脳の活動部位の変化が示されてきている。しかし、アロマが筋緊張に及ぼす影響についての検討はほとんどみられない。昨年の全国学会において、アロマ経験のない方にラベンダー3 滴の刺激を行うと上肢脊髄神経の興奮性が吸入中は増加し、吸入終了後に低下すると報告した。そこで、今回はラベンダー3 滴の刺激がアロマの経験がある場合とない場合にどのような上肢脊髄神経機能の興奮性に影響を与えるのかについてF波を用いて検討した。【方法】対象は、嗅覚に障害がない健常者26 名(男性16 名、女性10 名)、平均年齢27.4 ± 8.3 歳とした。この内、アロマの経験あり群15 名(男性9 名、女性6 名)、平均年齢28.8 ± 9.7 歳、アロマの経験なし群11 名(男性7 名、女性4 名)、平均年齢25.5 ± 5.9 歳 であった。気温(24.3 ± 0.8℃)と相対湿度(60.3 ± 10.4%RH)の室内で、被験者を背臥位とし酸素マスク(中村医科工業株式会社の中濃度酸素マスク)を装着し安静をとらせた。次にビニール袋内のティッシュペーパーにラベンダーの精油を3 滴滴下し、ハンディーにおいモニター(OMX-SR)で香りの強度を測定した。ビニール袋をマスクに装着し2 分間自然呼吸をおこなわせた。F波測定は安静時、吸入開始時、吸入1 分後、吸入終了直後、吸入終了後5 分、吸入終了後10 分、吸入終了後15 分で行った。F波分析項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とし、安静時試行と各条件下の比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は関西医療大学倫理委員会の承認を得て実施し、被験者に本研究の意義、目的を十分に説明し、同意を得た上で行った。【結果】対象者全員のF波出現頻度において安静時と比較して吸入終了後5分、10分、15分において有意に低下した(p<0.01)。振幅F/M比と立ち上がり潜時においては安静時と比較して有意差を認めなかった。しかし、出現頻度と振幅F/M比において吸入中は増加傾向を吸入終了後は低下傾向を示している。アロマの経験あり群では結果にばらつきがみられた。アロマの経験のない群においてF波の変化がみられた。F波出現頻度において、ラベンダー吸入1 分後は安静時と比較して増加傾向を示し、吸入終了後5 分、10 分では安静時と比較して有意な低下を示した(p<0.01)。振幅F/M比はラベンダー吸入開始時、吸入1 分後は安静時と比較して有意に増加を示し(p<0.05)、吸入終了後5 分より低下傾向を示した。【考察】今回の結果から、ラベンダーの刺激は特にアロマ未経験者において上肢脊髄神経機能の変化をきたしやすいということが推測された。アロマの経験あり群の結果においてばらつきがみられたことについては、匂いを繰り返し経験することで匂いに対する快の感情または不快な感情が強まるということが報告されている。このことから、アロマ経験あり群では結果にばらつきが出たのではないかと考える 。アロマ経験なし群でラベンダー吸入開始時、吸入1 分後に上肢脊髄神経機能の興奮性が増大したことについてはアロマの経験がないために、匂いに対して不安な感情を増強した結果、この匂いが精神的ストレスとなり、交感神経の働きが活発になったのではないかと考える。その結果として心拍数が増加し、副腎髄質に働きかけてアドレナリンが分泌され、脳幹網様体賦活系を興奮させ、上肢脊髄神経機能の興奮性を増大させたのではないかと考える。脊髄神経の興奮性が低下したことについては、ラベンダーの主要成分であるリナロールが呼吸により体内に吸収され、血液脳関門を通り脳に作用したものと考えられる。梅津(2009)によるとリナロールは抗不安様作用、筋弛緩作用などの行動薬理作用を発揮するとされている。まだ作用機序は解明されていないが、リナロールが脳に抑制的に働く可能性が高いと考えられる。また、渡邊ら(2003)による脳波解析では、ラベンダーの香りによって運動前野近傍や運動野近傍でδ波とθ波の振幅増加 、前頭連合野 や体性感覚野近傍 でもδ波とθ波の上昇傾向がみられたと報告している。δ波はぐっすり寝ている時に現れ、θ波は眠くなってきた時に現れる脳波であることから、運動機能系の活性レベルの低下傾向があり、かつ傾眠傾向があると考えられることから上肢脊髄神経の興奮性が抑制されたと考えた。【理学療法学研究としての意義】ラベンダーを用いたアプローチは特にアロマの未経験者において筋緊張の変化が期待できると考える。上肢脊髄神経機能の興奮性を高めて筋緊張の促通を目的とする場合はラベンダー刺激中に、抑制したい場合はラベンダー刺激終了後に運動療法を行えば、治療効果を高める一助となる可能性があると考える。
  • 田邊 素子, 佐藤 洋介, 庭野 賀津子
    セッションID: A-P-54
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】近年、乳幼児が親からの虐待を受けるケースが増加し社会的な問題となっている。背景には、核家族化などによる環境の変化により育児に対し負担感を抱えながら子育てを行っている現状があると考える。子どもの非言語的発声、特に叫喚発声(泣き声)は親にストレスを与えることがあり、虐待の誘因にもなりうることが報告されている。しかし、言語獲得以前の乳児が表出する非言語的感性情報を、母親を含む成人がどのように認知しているかについて解明した研究は少ない。また、育児経験のない成人ついて、乳児の非言語的表出への反応に関する研究も殆どみられない。そこで、今回我々は乳児の非言語表出における成人のストレス反応について近赤外線分光法(Near-infrared spectroscopy: NIRS)を用いて計測し本実験方法の可能性を検討した。【方法】被験者は大学生6 名(男女各3 名,平均年齢21.8 歳)で、全員育児経験は無かった。乳児の非言語的表出は刺激内容を統制するためビデオカメラで録画した動画を用いた。実験デザインはブロックデザインとし、安静20 秒-刺激課題20 秒を3 回繰り返し安静20 秒で終わるようにした。刺激課題は乳児が泣いている場面(cry条件)、泣いておらず比較的機嫌の良い状態(non-cry条件)とし、乳児が何を伝えようとしているかを考えるように教示した。安静課題は画面上に点滅するクロスの固視点を示し、何も考えずに注視するよう教示した。計測は光トポグラフィ装置(日立メディコ社製、ETG-4000)を使用し、計測プローブは、3 × 11 ホルダーを使用し52chを計測した。計測部位は国際10-20 法に基づきFp1-Fp2 ラインに最下端のプローブを配置した。計測指標は酸化ヘモグロビン(OxyHb/mM・mm)とした。解析領域は先行研究を参考に左右の前頭前皮質(pre frontal cortex PFC),上側頭溝(superior temporal sulcus STS)の4 箇所に関心領域(ROI)を設定した。OxyHbは、移動平均を5 秒に設定し、各刺激について3 回分を加算平均した。解析区間はOxyHbの反応が刺激提示時より遅延することから、安静、刺激課題とも開始後5 秒経過時点からの15 秒間とし、OxyHb平均値を算出した。統計解析は、被験者内解析としてcry、non-cry条件による比較を各4 領域にて対応のあるt検定を行った。次にグループ解析として、計測部位(PFC、STS)の左右差、刺激条件について2 元配置の分散分析を実施した。有意水準は5%とし、使用ソフトはSPSS Statistics17.0(SPSS. Japan. Inc.)を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は東北福祉大学倫理審査委員会により承認された。対象者には研究内容について十分な説明を行い研究参加の同意を得た。【結果】被験者内解析では、6 名中4 名で4 領域全てにおいて刺激条件により有意な差がみられた。残り2 名も各々1 領域(右PFC 、左STS)を除き3 領域で有意な差がみられた。グループ解析では、刺激条件と左右半球間の同領域に有意な差は認められなかった。【考察】被験者内における解析では、殆どの被験者および領域でcry、non-cry条件によりにOxyHbに有意な差がみられた。OxyHbの計測は、運動課題と脳機能活動の関係を検討する指標として多くの研究で報告されている。今回の2 種類の乳児の非言語表出の刺激課題に対し脳機能活動の差がみられたことから、本実験での計測がストレス指標として使用できる可能性が高いことが示唆される。グループ解析では有意な差がみられなかった。これは被験者が大学生で育児経験がないことが影響したと推察された。違う属性(性別、年代)の被験者を追加し検討する必要が考えられる。また、NIRS計測では光路長の個人差およびチャンネル部位での差が指摘されており、脳の各部位間の比較やグループ解析について適切な解析手法の検討が必要と考える。今回、乳児の非言語的表出について脳機能活動を中心にストレス計測の可能性を検討した。今後他のストレス評価指標との外的妥当性を含めた検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】本実験によるストレス計測方法を確立することは、他分野への応用が期待できる。また乳児の非言語的表出に対する成人のストレスについて明らかにすることは、より大きなストレスを抱えているとされる障害児をもつ母親への指導や支援をするする上で重要な基礎資料となる。謝辞:本研究は、日本学術振興会科学研究費(課題番号24530831 研究代表者 庭野賀津子)の助成を受け実施した。
  • 浅海 靖恵, 石部 久美子, 桑野 智未, 古多部 佑, 内匠 ひかる, 永田 小百合, 三嶋 佳奈, 三角 侑希
    セッションID: A-P-54
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】近年、ストレスを評価する手法として、簡便・迅速に交感神経の興奮・沈静を検査できる唾液アミラーゼモニタが注目され、これを用いた報告例が増加しつつある。しかしながら、精神的ストレスについての研究報告は少ないため、本研究では唾液アミラーゼが精神的ストレスのストレスマーカーとして有用か否かを、急性・慢性ストレスに分けて検討した。【方法】研究1(慢性ストレスの評価):対象は本学に在籍する4 年生14 名。体調不良者、過度な運動を行った者、測定期間中に過度な精神的・肉体的ストレスを受ける出来事があった者は除外した。唾液アミラーゼの測定には、唾液アミラーゼモニタ(株ニプロ)を使用した。1)ストレス負荷に先立ち、平常時のアミラーゼを3 回(9:30,12:30,15:30)/日、5 日間測定し、その平均値を用いた。エラー表示・除外基準に該当する測定分(欠損数)が全体の2 割以内のものをデータとして使用した。(測定方法の再現性:r>0.9)2)一つ目のストレスとして、人前での3 分間スピーチを設定した。告知日の翌日より5 日間測定した。測定方法は平常時と同様である。二つ目のストレスとして、臨床実習を設定し、臨床実習前5 日間を測定した。測定方法は平常時と同様である。3)被験者の主観的感情変化を測定するために、STAIを1 日1 回実施した。4)平常時とストレス時のアミラーゼ平均の差の検定には一元配置分散分析を用いた。研究2(急性ストレスの評価):対象は本学に在籍する3,4 年生25 名。除外基準は研究1 に同じ。急性ストレスとして3 分間スピーチを設定した。スピーチの課題カードを引く前に、STAIを記入し、アミラーゼと脈拍を測定した。3 分間のスピーチ終了後は、直後、15 分後、30 分後、45 分後 (30 分後に値が下がり安定した者は除く)のアミラーゼと脈拍を測定した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容を書面を用いて説明し協力の同意を得た。【結果と考察】研究1:STAIにおける状態不安は、平常時に比べスピーチ前、実習前では段階IIの者が減り、段階IVの者が増え、その割合はスピーチ前より実習前の方が大きかった。アミラーゼの平均値は、平常時に比べ実習前に有意な上昇(P=0.026)が認められた。個別でみても、ストレスありの目安とされる46 KU/L以上を示した者は2 名から10 名に増加した。以上より実習前のアミラーゼ活性の上昇は実習を目前に控えた学生の不安や緊張状態が反映された結果と推察できる。一方、スピーチ前1 週間も平常時に比べ状態不安レベルが上昇した者はいたが、その割合は実習前に比べると小さく、スピーチは被験者にとって、実習ほどの強いストレス負荷とならず、アミラーゼ活性に影響を及ぼさなかったと考える。研究2:スピーチ当日は、全員がSTAIの状態不安段階IV・Vであった。スピーチ後のアミラーゼ活性値の推移では、変動パターンの個人差が大きく、1)変動が少ないもの (9 名)、2)直前から上昇したもの (5 名)、3)直後から上昇したもの(4 名)、4)直後のみ上昇したもの (3 名)、5)30 分後から上昇したもの (1 名)、6)高値高変動のもの(3 名) の6 つに分類した。25名中9 名は、スピーチ直前・直後に脈拍の増加はみられたものの、アミラーゼの変動は小さく、そのうち6 名は値そのものも平常時とほとんど差がなかった。16名については平常時よりも高いアミラーゼを示し比較的早い応答が観察されたが、最大値を示す時間も初期値に戻る時間も様々で、全員の値が低下し安定したのは45 分後の時点であった。今回の結果を踏まえると急性ストレスのアミラーゼ変動パターンには個人差があるため、ストレスを負荷した後、少なくとも30 分以上は個別に経過を観察しながら測定する必要がある。【理学療法学研究としての意義】唾液アミラーゼは急性・慢性ストレスのストレスマーカーとして有用であることが示唆された。ただし、慢性ストレス評価時には、ストレス時と比較する個人の基礎水準を正確に設定することが重要であり、急性ストレスの評価時には、唾液アミラーゼの絶対値だけでなく、その時間勾配のように、個人の変化パターンにも着目し、個人内変動の検討をすることが重要である。アミラーゼの上昇は、交感神経活動の亢進を意味するが、交感神経はnegativeな感情で高まる場合もあれば、精神的興奮で高まる場合もある。交感神経活動との対応を論ずる上では、快・不快の主観的感情変化を同時に測定し、アミラーゼとの整合性を検討する必要がある。今後、臨床場面において痛みや疲労の評価・治療効果の判定などさらなる検討をしていきたい。
  • 河合 恒, 大渕 修一, 光武 誠吾, 吉田 英世, 平野 浩彦, 小島 基永, 藤原 佳典, 井原 一成
    セッションID: A-P-53
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】高齢者の生活機能の維持のためには、運動器の機能低下を適切に評価し、早期に対処していくことが重要である。超音波画像計測装置による筋の形態的特徴の測定は、虚弱高齢者に対しても安全に機能評価を行えることが期待できる。近年では持ち運び可能な小型の製品が開発されており、在宅や診察室などにおいて広く利用できる可能性もある。しかし、超音波画像計測によって得られた筋厚や筋の繊維化の状態と、運動器の機能低下リスク(運動器リスク)の発生との関係を調べた研究は行われていない。そこで、本研究では、運動器リスクを安全に評価するための指標として、小型の超音波画像計測装置を用いて大腿前面の筋厚(大腿筋厚)及び筋エコー強度(大腿EI)を測定し、地域在住高齢者における運動器リスクの発生との関係を検討した。【方法】被験者は、東京都健康長寿医療センターにおいて実施した、包括的な生活機能検査「お達者健診2011」の受診者であった。健診受診者913名のうち研究へのデータ使用に同意した898名を本研究の分析対象とした。超音波画像の測定には、超音波計測装置(みるキューブ、グローバルヘルス社製)を用いた。被験者が椅子に座って膝関節を90 度屈曲させた姿勢で、足を床につけて筋を弛緩させたときの膝蓋骨上縁から大腿骨の長軸に沿って15cm近位の大腿四頭筋部に、筋線維走行に垂直にプローブを当て、超音波画像を記録し、大腿筋厚を測定した。また、画像解析ソフトウェア(Adobe Photoshop Element 7.0)を用い、大腿四頭筋部の平均輝度を大腿EIとして測定した 。運動器リスクの評価には、基本チェックリスト(CL)を用い、厚生労働省の基準に従って運動器リスクの該当・非該当を判定した。CL該当数も算出した。また、運動器疾患関連アウトカム指標として、膝、腰の痛みをそれぞれJKOM(日本版変形性膝関節症 患者機能評価表)、JLEQ(疾患特定・患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度)、転倒リスクを転倒リスク評価表にて評価した。そして、大腿筋厚、EIと、CL該当数、運動器疾患関連アウトカム指標との関係についてSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。また、大腿筋厚、EI の4分位値をもとに被験者を4区分に分け、各区分における運動器リスクの発生率との関係をχ2 検定にて検討したうえで、運動器リスクの発生を従属変数、大腿EIを独立変数として性年齢を調整したロジスティック回帰分析を行った。統計解析にはIBM SPSS Statistics Version 19 を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の参加者に対しては、「疫学研究に関する倫理指針」に基づき、研究の目的などについて明確に説明し、本人から書面による同意を得た。本研究は、所属機関の倫理委員会において審査され、承認を受けた。【結果】大腿筋厚は、男性ではCL該当数、転倒リスク、女性ではJLEQと有意な負の相関が認められた。大腿EIは男性ではCL該当数、JLEQ、転倒リスクと有意な正の相関を認めた。女性では相関の認められた指標はなかった。筋厚と運動器リスクの発生率との関連は有意ではなかったが、大腿EIでは、EIが高いほど運動器リスクの発生率が有意に高かった(χ2 =15.443, p<0.01)。ロジスティック回帰分析の結果、大腿EIが最も高い区分の者では、最も低い区分の者に比べて2.5倍(95%信頼区間:1.4-4.6)、運動器リスク発生の確率が高かった。【考察】大腿筋厚、EIは筋の形態的な特徴の評価であり、運動機能や、膝や腰の痛みなどの運動器疾患が影響するリスクの正確な予測は困難と考えられるが、これらの指標は、CL該当数、転倒リスク、腰の痛みなどの指標とも一部関連が認められ、運動器リスクの発生に関係していることが示唆された。特に、EIは筋厚よりも運動器リスクとの関連が強く、運動器リスクの予測に有用である可能性が示唆された。今後、縦断研究によって将来的な運動器リスク出現の予測にどのくらい活用できるか検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】運動器リスクの評価指標には膝伸展筋力や歩行速度があるが、これらの指標の測定には、虚弱高齢者に対しては関節組織に損傷を与える危険性があることや、十分なスペースが確保できない場所では測定が困難であるなどの課題がある。虚弱高齢者に対して従来よりも安全に運動器リスクを評価できる方法を検討した本研究は、理学療法学研究として意義がある。
  • 加藤 喜晃, 中 徹
    セッションID: A-P-53
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】臨床では様々な運動効率を評価する必要がある。運動効率の簡易な指標として心拍数を用いるPhysiological cost index(PCI)がある。PCIは歩行時心拍数と安静時心拍数の差を歩行速度で除したもので、値が小さいほど運動効率は良いとされる。成人の歩行では0.1 〜0.5beat/meterが標準値で、3 〜5 分の値を採用可能であるとしている。簡易に心肺機能の一端を示すことができ、難しい技術の習得も必要としない。しかし、PCIは歩行以外の運動では報告がされていないため、本研究の目的はPCIを用いて歩行以外の運動効率を評価するために測定条件を明らかにすることである。【方法】PCIの検討を行う上で、最適速度・頻度を定義した。本研究では、最適速度・頻度は各個人の自覚強度で楽に行える速度・頻度とし、実験前に一定の速度・頻度で行えるよう練習を行った。最適速度・頻度はカルボーネンの式より最高心拍数を計算し、60%以下で行っているものとし、それ以上のものは除外した。運動課題は臨床でよく用いられる歩行・四つ這い・寝返り・起き上がり・ずり這い・立ちしゃがみ運動を選択した。第一段階として、PCIにおける各動作の強度依存性を検討した。対象者は健常成人21 名(男性9 名女性12 名)、年齢は20.47 ± 0.51 歳であった。速度・頻度は各被験者の最適速度・頻度(以下、最適)・30%増のもの(以下、30%増)・30%減のもの(以下、30%減)の3 種類を設定した。速度・頻度はメトロノームで動作頻度を管理し、一定に保つよう指示した。動作ごとに各速度・頻度のPCIを比較した。第二段階として強度依存性の検討を行った。測定対象の運動は第一段階で強度依存性の少なかった歩行・立ちしゃがみを選択した。対象者は健常成人19 名(男性10 名女性9 名)、年齢は21.55 ± 4.52 歳であった。測定時間は5 分とし、最適速度・頻度で行った。また時間依存性をより把握するためTotal heart beat index(THBI)を検討に追加した。THBIは歩行時心拍数の合計を歩行距離の合計で除するものである。PCIは1 分ごとに比較し、THBIは各分間をそれぞれ比較した。統計処理はFriedman検定とScheffeの多重比較を用い、有意水準5%で検討した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容の十分な説明を行い、同意を得た。この研究は鈴鹿医療科学大学の臨床倫理審査委員会で承認を得た。【結果】第一段階の実験ではPCI(beat/meter,beat/回) を最適・30%増・30%減の順に示すと、歩行では0.35 ± 0.12・0.38 ± 0.13・0.37 ± 0.20、四つ這いでは0.71 ± 0.30・0.67 ± 0.25・0.90 ± 0.38、ずり這いでは1.39 ± 0.49・1.60 ± 0.56・1.86 ± 0.77、寝返りでは1.05 ± 0.48・0.84 ± 0.46・1.50 ± 0.68、起き上がりでは1.56 ± 0.52・1.34 ± 0.67・2.48 ± 1.24、立ちしゃがみでは1.51 ± 0.50・1.43 ± 0.48・1.85 ± 0.76 であった。寝返りでは30%増が最適よりも有意に低値であった(p=0.02)。最適が30%減よりも有意に低値であった(p=0.00)。起き上がりでは30%増が最適よりも有意に低値であった(p=0.00)。最適が30%減よりも有意に低値であった(p=0.00)。四つ這いでは最適が30%減より有意に低値であった(p=0.00)。ずり這いは最適が30% 減より有意に低値であった(p=0.02)。立ちしゃがみ・歩行では最適と30%増減による差はみられなかった。第二段階の実験では、PCI(beat/meter,beat/回)の値は、歩行では5 分は1 分よりも有意に高値であった(p=0.03)。立ちしゃがみでは3 分、4 分、5 分が1 分よりも有意に高値であった(p=0.00)。5 分は2 分よりも有意に高値であった(p=0.04)。THBI(beat/meter,beat/回)では歩行、立ちしゃがみでは時間による差がみられなかった。【考察】第一段階の実験より歩行・立ちしゃがみ以外では強度依存性がみられ、最適速度・頻度を用いて行うPCIには不向きであると思われた。最適速度で行うよりも運動効率が良いという結果は、寝返り、起き上がりは主に体幹を用いて行う運動で、四つ這い、ずり這いは上肢を用いるために心拍−呼吸リズムや心拍−動作リズムのカップリングの影響が否定できず、また強度の変化に敏感に反応したものと思われた。第二段階の実験では強度依存性がみられなかった歩行と立ちしゃがみを選択し、時間依存性を検討した。歩行ではPCIは2 分、もしくは5 分以上、立ちしゃがみでは3 分、もしくは5 分以上から採用可能と思われた。THBIは、歩行では心拍数の増加の割合に対して歩行距離の増加の割合が近似していた。立ち上がりは時間ごとに回数の変化はなく、心拍数は緩やかに増加するものの差は見られなかった。THBIでは歩行、立ちしゃがみはともに1 分から採用可能と思われた。【理学療法学研究としての意義】心肺機能の一端を評価できる心拍数を用いた指標は高価な道具を必要とせず、臨床で簡易に計測することができ、意義があると考える。
  • 中元 唯, 岡 真一郎, 高橋 精一郎, 黒澤 和生
    セッションID: A-P-53
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】疼痛は,組織破壊よる自発痛と,潜在的な組織障害および不快な感覚が絡み合った慢性疼痛がある.慢性疼痛は,自律神経反応との関連が深いことから交感神経の抑制を目的とした星状神経節や胸部交感神経節ブロック,星状神経節に対する直線偏光近赤外線照射などが用いられている.一方,理学療法においては,胸椎のマニピュレーションが指先の皮膚温を上昇させ,軽微な圧迫刺激が遅く鈍い痛みを特異的に抑えることから,胸背部への体性感覚入力が自律神経系に影響を及ぼす可能性がある.本研究の目的は,胸背部に対する持続的圧迫刺激が自律神経活動,末梢循環動態におよぼす影響について調査することとした.【方法】対象は,健常成人男性10 名(22.2 ± 1.2 歳)とした.測定条件は,室温25°前後で対象者を背臥位とし,メトロノームを用いて呼吸数を12 回/分で行うよう指示した.測定項目は,胸背部硬度,体表温度,心拍変動解析とした.胸背部への徒手的圧迫刺激は,簡易式体圧・ズレ力同時測定器プレディアMEA(molten)を用い,右第2 −4 胸椎棘突起の1 横指下外側に圧力センサーを接着して50mmHgに調整した.胸背部硬度は,生体組織硬度計PEK-1(井元製作所)を用いて右第2 −4 胸椎棘突起の1 横指下外側をそれぞれ3 回測定した.体表温度は,防水型デジタル温度計SK-250WP(佐藤計量器製作所)を用い,右中指指尖を1 分ごとに測定した.心拍変動解析は,心拍ゆらぎ測定機器Mem-calc(Tawara)を用いて心電図R-R 間隔をTotal Power(TP),0.04 〜0.15Hz(低周波数帯域,LF),0.15 〜0.40Hz(高周波数帯域,HF)として行った.自律神経活動の指標は,自律神経全体の活動をTP,副交感神経活動をHFn(HF/(LF+HF)),交感神経の活動をLF/HFとした.測定プロトコールは,圧迫前の安静10 分(以下,圧迫前),胸背部圧迫10 分,圧迫後の安静10 分(以下,圧迫後)とした.統計学的分析はSPSS19.0Jを用いて,圧迫前後の比較を対応のあるt検定およびWilcoxon符号順位和検定を行い,有意水準を5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究内容を十分に説明し書面にて同意を得た後に測定を実施した.【結果】TPは圧迫前後で有意差がなかった.胸背部硬度は,圧迫前57.0 ± 4.3 から圧迫後55.8 ± 3.7 と有意に低下した(p<0.01).体表温度は,圧迫前33.8 ± 0.6℃から34.4 ± 0.6℃と有意に上昇した(P<0.05).心拍数は,圧迫前70.1 ± 12.9bpmから圧迫後67.6 ± 11.5bpmと有意に低下した(p<0.05).HFnは,圧迫前10.0 ± 4.7 から圧迫後13.0 ± 4.3 と有意に増加した(p<0.05).LF/HFは,13.5 ± 7.1 から圧迫後10.1 ± 5.4 と有意に低下した(P<0.05).【考察】胸背部硬度は圧迫後に有意に低下した.皮膚の静的刺激を感知する受容器は順応が遅く,持続的な圧迫刺激により皮神経支配領域のC線維を抑制すると報告されている.また,皮神経支配領域における求心性線維の興奮は,軸索反射により求心性神経終末から血管拡張物質を放出させる.胸背部硬度の低下は,圧迫刺激による皮膚受容器の順応,C線維の抑制と血管拡張に起因すると推察された.胸背部圧迫後のHFnは有意に上昇し,LF/HFは有意に低下した.ラットによる先行研究では,後根求心性線維への刺激は逆行性に交感神経節前ニューロンにIPSPを引き起こすとともに,脊髄を上行し上脊髄組織で統合されて交感神経節前ニューロンに投射し,副交感神経の興奮と交感神経の長期抑制を起こす.HFnの上昇とLF/HFの低下は,胸背部への圧迫刺激が副交感神経の興奮と交感神経の抑制を引き起こしたと考えられる.さらに,皮膚血管は交感神経性血管収縮神経によって支配されており,交感神経の抑制が皮膚血管を拡張させたため右中指体表温度が上昇したと考えられる.胸背部圧迫後の心拍数は有意に低下した.Miezeres(1958)は,犬の胸部交感神経節機能は左右差があり,右側が心拍数,左側が伸筋収縮力を増加させると報告している.本研究における圧迫後の心拍数の減少は,右胸部交感神経節の活動が抑制されたためと考えられる.胸背部への持続的圧迫刺激は,交感神経を抑制し,副交感神経を興奮させることが示された.上脊髄組織は,交感神経の長期抑制させることから胸背部圧迫刺激の持続性について検討する必要がある.【理学療法学研究としての意義】胸背部への軽度な持続的圧迫刺激は,慢性疼痛を有する患者の治療法のとして有用な可能性がある.
  • 和田 朋美, 曽田 武史, 松田 理咲, 宮木 真里, 萩野 浩
    セッションID: A-P-53
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】横隔膜は呼吸機能に影響を及ぼす、主要な吸気筋である。近年、心不全患者における吸気筋力の低下が予後を悪化させることを示唆されており、その一つに横隔膜におけるtype1 線維の萎縮が関与している可能性を示唆されている。先行研究では、心不全患者において、超音波画像により測定した吸気筋トレーニング前後の筋厚の変化が吸気筋力の変化と相関することが報告されており、横隔膜の機能を把握することは心不全患者の呼吸能力や運動耐容能、予後を把握する上で有用な指標になると考える。これまでの横隔膜筋厚に関する基礎研究では、横隔膜筋厚は肺活量や吸気筋力との関連が示唆されているが、これらの研究は男性を対象とした検討であり、実際に女性における横隔膜筋厚と呼吸機能との関係を検討した報告は見当たらない。そこで、本研究では、女性における横隔膜筋厚と呼吸機能との関係について検討することを目的とした。【方法】対象は若年女性27 名(年齢 22.2 ± 3.1 歳、身長 157.8 ± 5.4 cm、体重 50.0 ± 6.4 kg、BMI 20.1 ± 2.1 kg/m 2 )とし、呼吸器疾患および循環器疾患の既往がある者、喫煙者は除外した。測定項目は、横隔膜筋厚、呼吸機能、腹部隆起力、第10肋骨部拡張差および腹部拡張差とした。横隔膜筋厚は、超音波診断装置Aprio MIX(TOSIBA)を用いて右中腋窩腺上の第10 肋間にプローブを垂直にあて、zone of appositionの筋厚を測定した。測定は端坐位で最大呼気位(RV)と最大吸気位(TLC)の横隔膜筋厚をそれぞれ3 回行い、その平均値を求めた。さらにTLCの横隔膜筋厚からRVの横隔膜筋厚を引いた変化量を算出した。呼吸機能の指標として、努力性肺活量(FVC)、一秒量(FEV1.0)、一秒率(FEV1.0%)、および最大呼気流量(PEF)、最大吸気口腔内圧(PImax)、最大呼気口腔内圧(PEmax)をスパイロシフトSP370-MRP(フクダ電子)を用いて測定した。腹部隆起力は、股関節および膝関節90 度屈曲位で、RVから最大吸気努力した際の上腹部の隆起力を徒手筋力計ミュータスF-1(アニマ)を用いて測定した。第10 肋骨部拡張差および腹部拡張差は、テープメジャーを用いて最大吸気および最大呼気時の周径を測定し算出した。横隔膜筋厚と呼吸機能の指標との相関はPearsonの積率相関係数を用いて解析し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を得てから開始し、被験者には事前に研究内容の説明および同意確認を書面にて行った。【結果】RVとTLCの横隔膜筋厚は、腹部隆起力と有意な正相関を認めた(それぞれr=0.51,p<0.01;r=0.43,p<0.05).横隔膜筋厚とその他の呼吸機能の指標、第10 肋骨拡張差および腹部拡張差との相関を認めなかった。【考察】横隔膜筋厚は横隔膜筋力の指標とされる腹部隆起力と正相関を認めた。先行研究では機能的残気量とRVの横隔膜筋厚に有意差がなかったことが示されており、このことから、TLCの筋厚は横隔膜活動量を、RVの横隔膜筋厚は横隔膜筋量を反映している可能性がある。また本研究ではPImaxおよびFVCとの相関を認めなかった。FVCやPImaxは胸鎖乳突筋などの横隔膜以外の吸気筋の作用、胸郭や肺の弾性などの他の因子も影響している。また一般的に女性は胸式呼吸が多いことが言われており、呼吸様式の違いが影響している可能性もある。今後は性別および年代による違いについて検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】横隔膜機能は肺機能や呼吸器疾患の重症度などに影響しており、超音波画像を用いた横隔膜機能評価が、呼吸筋トレーニングの効果判定や予後評価としての有用性が期待できる。
  • 谷山 昂, 若竹 雄治, 新原 正之, 林 健志, 松本 憲二, 吉田 直樹
    セッションID: A-P-56
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】病的共同運動(以下、共同運動)は、筋間の協調異常により、関節間の特異な運動パタンとして現れる。共同運動には典型的なパタンがあり、それに基づく評価法も確立している。しかし、典型例以外のパタンも観察され、まだ研究の余地は多い。上肢の多関節間の運動の協調性やその異常の定量的な研究では、各関節の運動計測が基本となる。この際、肩関節に代表される多自由度関節の肢位や運動の扱いが問題となる。各自由度の運動を個別に見るだけでは運動の全体像の正確な把握ができない。我々は球面座標解析を使用した肩の3 次元的な運動解析の研究を進めてきた。その方法を共同運動の研究に応用することを目指し、まずは肩関節のみの3 次元的計測から共同運動の評価やパタン分類につながる結果が得られるかどうかを確かめることを目的に、運動タスクを考案し、患者の実測データを解析した。【方法】対象は、運動麻痺の程度が異なる脳卒中片麻痺者男性4 名。回復度順に、BRS-3 のA氏(73 歳,右中大脳動脈領域の梗塞)、BRS-4 のB氏(38 歳,右被殻出血)、BRS-5 のC氏(61 歳,左被殻出血)、BRS-5 のD氏(64 歳,左放線冠梗塞+五十肩)。共同運動の影響が肩関節の運動として表れるように以下の2 課題を実施した。共に端座位で、上腕長軸方向下垂位で肩関節の肢位を保持するように努力しながら他の関節の運動を行う(運動に伴い下垂位の保持ができなくても運動を続けるよう指示した)。肘屈伸課題(以下、肘課題)では、5 秒以上かけ肘を伸展位から最大まで屈曲し、伸展位まで戻す。前腕の回内外課題(以下、前腕課題)では、肘屈曲90 度で、前腕回内位から回外して回内位に戻し、これを3 回繰り返す。肘課題は運動速度の参考のため、1Hzのテンポのクリック音を聞かせた。前腕課題は、運動速度を規定せずゆっくり行うよう指示した。非麻痺側、麻痺側の順で、左右別々に実施した。運動計測には磁気式3 次元位置角度計測装置Patriot(Polhemus社)を用いた。上腕部と胸骨部にセンサを装着し、上腕と胸骨の傾き(3 次元の角度)の変化を60Hzで計測し、体幹に対する上腕長軸方向を算出した。肩の運動は上腕長軸方向の変化として、球面座標上に軌跡として表現される。左側の運動軌跡は左右反転して右側の結果と同一グラフ上に示し、両側の運動軌跡を比較した。計測、解析、可視化には、MATLAB(MathWorks社)で本研究用に開発したソフトウェアを用いた。【倫理的配慮、説明と同意】研究にあたっては、関西リハビリテーション病院倫理審査委員会の承認を得て行った。対象者には事前に書面で説明を行い同意を得た。【結果】図を用いず結果を示すのは難しく、文章化のため次の角度を定義する。(単位は度)、「仰角」は上腕長軸方向が垂直線となす角度で、基本肢位が0、「方位角」は水平面に投影した上腕方向で、右方が0、正面方向が90。例えば、肩90 度屈曲肢位は「仰角90,方位角90」と表現される。非麻痺側は、全対象者において両課題で15 度程度の動きであった。麻痺側は、比較的重度のA氏とB氏で肩の動きが大きかった。A氏は、肘課題で開始位置(真下付近)から前方方向(仰角50,方位角80)へ移動し開始位置へ戻る軌跡、前腕課題で(仰角15 から45,方位角60 から90)の間で前後左右へブレながら動いた軌跡であった。B氏は、肘課題で開始位置(仰角20,方位角5)から外側方向(仰角50,方位角-15)へ移動し内側方向(仰角20,方位角-45)に戻る軌跡、前腕課題で開始肢位(仰角45,方位角15)から後方方向(仰角40,方位角-20) へ移動し開始位置へ戻る(前腕の3 回の回内外に応じた)軌跡であった。被験者の回復度順に、麻痺側の肩の動きが小さくなった。【考察】共同運動の影響があると、肘や前腕の動きに連動して肩も動いてしまい一定肢位に保持できないことになる。A氏とB氏の麻痺側が、肩を保持できず大きく動いているのは共同運動の影響と考えられる。典型的な共同運動パタンでは、肘屈曲または前腕回外に伴い肩の外転、肘伸展または前腕回内に伴い肩の内転が表れることになる。B氏の肘課題の結果はこの典型的なパタンに相当するが、A氏の両課題とB氏の前腕課題の結果は典型例以外と考えられる。回復段階が進むと共同運動の影響による肩の運動が小さくなり、一定肢位に保持できることになる。得られたデータは、被験者間の回復段階の違いを反映したものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】この研究で、肩関節に表れる共同運動を3 次元的に計測することができた。このことは多関節間の運動計測で問題になる多自由度関節(肩関節)の計測方法の確立に向けて有意義である。
  • 福榮 竜也, 貴嶋 芳文, 早瀬 昇吾, 緒方 匡, 湯地 忠彦, 東 祐二, 藤元 登四郎, 関根 正樹, 田村 俊世
    セッションID: A-P-56
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】脳卒中片麻痺患者における運動療法の効果判定として様々な評価項目が存在している。理学療法士による歩行評価は観察などによる主観的評価が多く、客観的・定量的評価に乏しく再現性の低いものとなっている。近年では加速度計など使用して、定量的に歩行を評価した研究報告も増えている。一方、歩行能力については、年齢、筋力、関節可動域、運動制御、固有感覚など様々な影響因子があり、姿勢反射や制御などのバランス能力の関与も大きいとされている。近年バランス能力と歩行機能に関する研究は多いが、加速度計など用いた歩行評価とバランス能力の評価については具体的な関連性は示唆されていない。そこで今回は、ウェアラブル姿勢計測・解析システムを用いバランス能力と歩行能力の関連性について計測を行ったので報告する。【方法】対象は歩行監視群(男性4 名、女性2 名、平均年齢64.8 歳± 12.2 歳、下肢Br.stageIII:1 名、IV:3 名、V:2 名)、歩行自立群(男性6 名、平均年齢66 歳± 10 歳、下肢Br.stageIV:1 名、V:2 名、VI:3 名)である。加速度計は、体幹ユニット一つで構成されている。ユニットに含まれるセンサは容量型3 軸加速度センサ(MMA7260Q、Freescale)を使用しており、センサはベルクロで固定している。外形寸法は、40 × 55 × 20mm、システムの総重量は230gと軽量で、センサから得られたデータはBluetoothを用いてサンプリング周波数100HzでPCに転送される。課題は加速度計を腰背部(第2 腰椎近傍)装着し,16m平常歩行を二回計測し歩行スピードを計測した。前後3mを加速期・減速期とし、10mを定常歩行として採用し解析対象区間とした。10m定常歩行から、腰部加速度運動成分・姿勢成分をcut off周波数0.2hzで抽出し、運動成分(前後・左右・垂直方向)のRoot Mean Square(以下、RMS)[g]と、姿勢成分から前後・左右方向の姿勢角度振幅[deg]を算出した。またバランス評価としてFunctional Balance Scale(以下FBS)を計測した。統計学的分析は歩行監視群と歩行自立群の腰部加速度運動成分RMS、腰部姿勢成分、歩行速度、FBSを比較においてMann-Whitney検定を行い、FBSと姿勢成分の相関係数をスピアマンの順位相関係数にて検定した。【説明と同意】本計測の際には当該施設の倫理委員会の承認と対象者自身からインフォームドコンセントを得た後実施した。【結果】腰部加速度運動成分において、前後RMSは歩行監視群で0.10 ± 0.05g、歩行自立群で0.15 ± 0.07g(P<0.05)と有意に増加していた。左右RMSは歩行監視群で0.01 ± 0.04g、歩行自立群で0.13 ± 0.04g(P<0.05)と有意に増加していた。腰部前後姿勢成分振幅値は歩行監視群で5.5 ± 2.1deg,歩行自立群で1.7 ± 0.9deg(P<0.001)と極めて有意に減少していた。腰部左右姿勢成分振幅値は歩行監視群で2.1 ± 1.3deg、歩行自立群で1.0 ± 1.2deg(P<0.05)と有意に減少していた。歩行速度は歩行監視群で0.39 ± 0.1m/s、歩行自立群で0.86 ± 0.46 m/s (P<0.05)と自立群が有意に歩行速度の向上を認めた。また、FBSにおいては監視群で41.19 ± 10.19 点、自立群で52.33 ± 5.33 点(P<0.01)と有意に自立群の点数が高く、特に一回転、台への足のせ、タンデム立位、片脚立位にて自立群が監視群より点数が高かった。また、FBSと腰部加速度の相関係数は、自立群で左右姿勢成分がr= ‐0.826 (P=0.05)、監視群で前後姿勢成分がr= ‐0.815(P=0.05)と負の相関を認めた。【考察】自立群が監視群より左右前後の振幅値が減少し、左右前後の運動成分が大きいという結果であった。この結果により、監視群はバランス能力が低いため歩行中の左右前後の姿勢変位が大きく、小さい運動となる。自立群はバランス能力が高いことにより自由度が大きく、左右前後の小さい姿勢変化の中で大きな運動が可能であると考えられた。この結果により歩行速度においても自立群が監視群に比べて有意に速くなったと考える。今回のFBSの結果では監視群と比較し自立群の点数高く、特に一回転、台の足のせ、タンデム立位、片脚立位などより高いバランス能力を要する項目に差が多く見られた。また、左右姿勢成分とFBSの相関係数において負の相関を認めたことにより、バランス能力が高ければ小さい左右姿勢変化の中で歩行が可能であり、支持基底面内における身体重心を崩さずに、より安定性が高い歩行が可能であることが示唆される。【理学療法学研究としての意義】本システムは腰部に加速度計を装着する事で,腰部加速度運動成分RMSと姿勢変化振幅を算出できる。今回の研究により、歩行評価とバランス評価を比較することで定量的に歩行能力とバランス能力の関連が示唆された。本システムを臨床で活用し一般的な理学療法評価を合わせることにより定量的な歩行評価が可能であると思われる。
  • 堀 拓朗, 勝又 泰貴
    セッションID: A-P-56
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】急性期病院における脳卒中患者のリハビリテーション(以下リハ)は、発症後早期からの介入により廃用症候群を予防し、日常生活活動の向上と社会復帰を図るために、十分なリスク管理のもと積極的に行うことが勧められている。しかし、急性期病院での長期入院は困難な現状であり、早期に退院転帰を予測する必要がある。急性期脳卒中リハ患者の転帰予測に関しては、自宅退院に関連する因子の報告は多くみられるが、転院先に関連する因子を検討した報告は少ない。澤田らは、急性期病院より回復期病院に転院した群と、療養型病床を含む一般病院に転院した群では、リハ開始時のFunctional Independence Measure(以下FIM)には差はなく、転院時のFIMは回復期に転院した群が有意に高いと報告しているが、さらに関連する因子を分析することが必要であるとしている。そこで本研究では、急性期脳卒中リハ患者の転院先に関連する因子を、介入開始時評価と社会的因子から検討することを目的とした。【方法】2011 年4 月から2012 年3 月までに、当院脳神経外科に脳卒中の治療を目的に入院した患者の中で、転帰が転院・転所となった者を対象とした。対象の中で、入院前に施設等の自宅外に入居していた者、入院中に再発・状態悪化があった者は除外した。研究デザインは、診療録から得られるデータを用いた後ろ向きコホート研究とした。調査項目は、(1)基本属性として年齢、性別、(2)疾患に関する項目として診断名、障害半球、既往歴、(3)入院経過としてリハ開始までの日数、転帰先、(4)初回介入時の評価として意識障害の程度(Japan coma scale)、上肢・下肢・手指のBrunnstrom stage(以下Br. Stage)、知覚障害・高次脳機能障害・嚥下機能障害・呼吸循環機能障害・経口摂取の有無、Barthel Index(以下BI)、(5)社会的背景因子として職業の有無、介護度(要支援・要介護)、同居人の有無・人数とした。対象を転帰により、回復期病棟を持つ病院への転院群(以下回復期群)、療養型病床を含む一般病院や施設への転院群(以下維持期群)の2 群に分類した。統計学的分析にはSPSS12.0J for Windowsを用い、有意水準は5%とした。まず、2 群間での比較はMann-WhitneyのU 検定及びχ2 検定を行った。次に、多重共線性に留意し、ロジスティック回帰分析にて回復期病院へ転院する可能性に関与する因子の抽出を行った。【倫理的配慮、説明と同意】診療録より得られたデータは匿名化し、個人情報の取り扱いには十分に留意した。【結果】転帰別の属性は、回復期群は272 名で平均年齢66.1(25-99)歳、男性154 名、女性118 名、脳梗塞159 名、脳出血97 名、くも膜下出血16 名であり、維持期群は58 名で平均年齢79.6(52-96)歳、男性26 名、女性32 名、脳梗塞31 名、脳出血25 名、くも膜下出血2 名であった。2 群間の比較において、回復期群では、年齢・意識障害・Br.Stage ・介護度は有意に低く、BI は有意に高く、感覚障害・高次脳機能障害・嚥下機能障害・呼吸循環機能障害は無し、経口摂取・職業は有りで有意差を認めた。ロジスティック回帰分析においては、年齢(オッズ比0.883、95%信頼区間:0.843-0.923)、意識障害(オッズ比0.988、95%信頼区間:0.980-0.996)、Br. Stage の上肢(オッズ比0.361、95%信頼区間:0.132-0.984)、高次脳機能障害(オッズ比0.400、95%信頼区間:0.175-0.916)、経口摂取(オッズ比8.018、95%信頼区間:2.779-23.133)で有意差を認めた。【考察】回復期リハ病棟は、急性期に引き続き、より専門的かつ集中的にリハを実施し、自宅復帰を目標とする。脳卒中早期リハ患者では、年齢は低いほどBIが改善するとされているため、転帰に影響したと考える。意識障害が重度であれば積極的な介入が困難となる。経口摂取に関しては、全身状態が安定している指標の一つと考える。したがって、転院先に関する転帰予測においては身体機能や認知機能面等に着目するだけではなく、年齢は低く、意識障害は軽度で、経口摂取が可能なほど回復期病院へ転院し、リハを継続する可能性が高いことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】急性期脳卒中リハ患者の転院先に関する転帰を早期から予測することで、より早期から患者や家族あるいは他部署への情報提供と、転帰に向けた準備が行えると考える。
  • 高橋 由依, 隈元 庸夫, 世古 俊明, 杉浦 美樹, 金子 諒介, 吉川 文博
    セッションID: A-P-56
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】ブリッジは股関節や体幹伸展筋の筋活動が認められることから筋力トレーニングの一手段,そして片麻痺に対しては分離促通目的としても用いられる。股関節伸展筋や体幹伸展筋の筋力検査が円背や関節可動域制限などにて実施不可能な時はブリッジ可否の程度で大まかに筋力を把握することも少なくない。そのため,ブリッジでの筋活動を検討した報告は多数みられる。本来,筋力検査は筋力を判定することだけではなく,動作阻害因子や獲得しうる動作,つまり動作との関連性を評価することも大切な目的である。よってブリッジの能力として,ブリッジ時の足底への荷重量と動作能力に関連性があれば,その荷重量は動作を保証する伸展筋活動能力を反映する有益な一指標となるのではないかと我々は考え,高齢有疾患者69 名を対象に検討した。その結果,ブリッジ時の足底への荷重量並びに股伸展角度が起立,歩行能力と関連性があることを先行研究として報告した。しかし対象者の疾患が内部疾患など多岐に渡っていることが課題となった。本報告の目的は対象疾患を大腿骨頚部骨折患者(頸部骨折者)と脳血管障害患者(CVA者)として,ブリッジ時の足底への荷重および股伸展角度が動作能力を反映する定量的評価となりえるかを検討することである。【方法】対象は頸部骨折者47 名とCVA者36 名とした。起立動作が上肢支持なしで可能な群(フリー群)と上肢支持や介助を要する群(非フリー群)に,している移動能力が歩行補助具の有無を問わず歩行している群(歩行群)と車いすを使用して移動している群(車いす群)に,できる移動能力が独歩可能な群(独歩群)と補助具を使用して歩行可能な群(補助具群)に各々群分けした。方法は再現性を確認した先行研究に則り,両膝関節110 度屈曲位crock lyingから殿部を挙上する両脚でのブリッジ(両脚ブリッジ)と,殿部非挙上側下肢伸展位で殿部挙上側の膝関節を110 度屈曲位としたcrock lyingからの片脚ブリッジ(片脚ブリッジ)を行わせた。片脚ブリッジについては患側下肢での片脚ブリッジを患側ブリッジ,非患側下肢での片脚ブリッジを非患側ブリッジとした。両脚ブリッジでの両足底部,片脚ブリッジでの殿部挙上側足底部に体重計を設置し,各ブリッジ時の荷重最大値を体重で除し荷重率を求めた。ブリッジ時の股伸展角度を5 度刻みで計測した。検討項目は,両脚・患側・非患側ブリッジ時における荷重率と股伸展角度の結果について,起立,している移動,できる移動の能力の違いによる比較を疾患別で行った。頚部骨折者では骨折内訳,CVA者ではBr.stageによる比較も行った。統計処理は多重比較検定,χ自乗検定を用い,有意水準を5%未満とした。【説明と同意】全ての対象に研究の趣旨と内容がヘルシンキ宣言に沿ったものであることを説明し,同意を得て実施した。【結果】頚部骨折者では両脚・患側・非患側ブリッジの荷重率,股伸展角度が起立と移動の能力の違いで有意差を認めた。骨折内訳では有意差を認めなかった。CVA者では両脚・患側ブリッジの荷重率,股伸展角度が起立能力の違い,移動能力の違いで各々有意差を認めた。非患側ブリッジでの荷重率と股伸展角度は起立,移動のどちらも有意差を認めなかった。またBr.stage別では両脚・患側・非患側ブリッジの荷重率,股伸展角度,いずれも有意差を認めなかった。しかしBr.stageが高いほど患側ブリッジ時の荷重率が大きく,動作能力としてもχ自乗検定の結果,stageⅥでフリー群,歩行群が多かった。【考察】ブリッジでは大殿筋,脊柱起立筋,ハムストリングスの筋活動が報告されている。片脚ブリッジでは中殿筋,大腿筋膜張筋の筋活動が報告されている。起立動作はブリッジと同様に両下肢で伸展していく動作であり,大殿筋,脊柱起立筋,大腿二頭筋の筋活動が認められ,いずれの筋も歩行時も筋活動が認められるとされる。今回の結果から,ブリッジでの荷重率および股伸展角度は動作能力を反映する一指標になりえるが,CVA者での非患側ブリッジ荷重率と股伸展角度については動作能力が反映仕切れていない可能性が示唆された。よって両疾患ともに両脚,患側ブリッジ時の荷重率と股伸展角度は起立と移動能力に関連することから,起立・移動能力の獲得を反映する体幹と股関節の伸展筋活動の一指標となり得るがCVA者においては他の因子が絡んでいることが考えられ,解釈には留意が必要となることが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】ブリッジ時の荷重率と股伸展角度が頚部骨折者では起立と移動能力に必要な体幹・下肢伸展能力を反映する一指標となりうるが,CVAでは留意する必要性が示された。
運動器理学療法
セレクション口述発表
  • 白谷 智子, 新井 光男, 新田 收, 松田 雅弘, 多田 裕一, 妹尾 淳史, 柳澤 健
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 固有受容性神経筋促通法 (PNF) の骨盤後方下制パターンの中間域での抵抗運動による静止性収縮促通手技 (SCPD手技) により遠隔関節の整形外科疾患の肩関節 (Arai et al, 2012) と手関節(新井ら, 2004) の関節可動域 (ROM) が改善することが報告されている。機能的磁気共鳴画像 (fMRI) を用い脳活動を検証した報告 (Shiratani et al, 2012) では、SCPD手技とボールを握る運動において、ボールを握る運動で賦活が認められた感覚運動野 (SMC) とSCPD手技で賦活が認められたSMCにおいてオーバーラップする部位が認められ、手関節のROMの改善に脳活動が寄与している可能性が示唆された。また、PNFの骨盤パターンでは骨盤前方挙上パターンの中間域での抵抗運動による静止性収縮促通手技 (SCAE手技) が遠隔の肩・肘関節の他動ROM (上広ら, 2004) を改善させることは報告されているが手関節のROMへの効果の報告はなく、SCAE手技による手への脳領域への影響は明らかではない。SCAE手技が手関節に及ぼす効果の可能性を明らかにすることを目的に脳への賦活を検証した。【方法】 対象は神経学的な疾患の既往のない右利き健常成人12名 (男性6名、女性6名、平均年齢 (SD) 22.7 (2.3) 歳) であった。課題はボールを持続的に握る運動 (Grip) とSCAE手技を行った。各課題は右側を上にした側臥位で右側に対し行った。実験はブロックデザインを用い行い、課題を30秒、安静を30秒とし、1課題を3回繰り返すことを1セットとし、各課題1セットずつ行った。課題はランダムに配置した。測定装置はPhilips社製3.0T臨床用MR装置を使用した。測定データはMatlab上の統計処理ソフトウェアSPM8を用いて、動きの補正、標準化、平滑化を実施し、個人解析を行ったあと集団解析にて被験者全員の脳画像をタライラッハ標準脳の上に重ね合わせて、MR 信号強度がuncorrected で有意水準p<0.001にて解析を行った。また、課題間での脳賦活の違いとSMCでのオーバーラップ部位を検証するために、WFU PickAtlas (http://www.fmri.wfubmc.edu/cms/software) を用いて関心領域 (ROI) 解析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は首都大学東京安全倫理審査委員会において承認を得て行い、研究同意書に署名を得た人を対象とした。また、対象者には研究同意の撤回がいつでも可能なことを説明した。【結果】 SCAE手技では、両側SMC・左大脳基底核・左視床・右縁上回などで賦活が認められた。Gripでは左SMCで賦活が認められた。今回、SCAE手技とGripともに左SMCに賦活が認められたが、オーバーラップする部位は認められなかった。【考察】 SCPD手技での研究ではShirataniら (2012) はGripとSCPD手技では左SMCでオーバーラップ領域が存在することを報告しているが、今回SCAE手技とGripでは左SMCにオーバーラップする部位は認められなかった。先行研究では脊髄レベルの反応において、SCPD手技とSCAE手技が橈側手根屈筋のH波の振幅値に及ぼす効果を比較した結果、SCPD手技はSCAE手技より橈側手根屈筋への抑制作用が強く、そのあと促通効果が大きいことを示唆し、運動パターンにより遠隔反応の効果に差があったとしている (Arai et al, 2012)。今回、脳賦活においてSCAE手技が手の領域に及ぼす影響は明らかとされなかったが、SCAE手技の影響は、総指伸筋の誘発電位による潜時により大脳を経由する長経路反射に影響を及ぼすことが示唆されている (新井ら, 2004)。今回のSCAE手技による脳の賦活は歩行に関与する感覚運動野・視床・大脳基底核には賦活が認められたことより、手の領域の関与に直接関与するのではなく、歩行ループ (Nachev et al, 2008) による上肢と下肢との連関による遠隔効果により影響を及ぼす可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究により、SCAE手技は手の活動領域に影響を及ぼさなかったが、歩行に関連した領域の賦活が認められ、歩行ループによる上肢と下肢との連関により、上肢の活動に関与する可能性が示唆された。
  • 三浦 雅文, 斎藤 昭彦, 村上 幸士
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】神経組織は身体運動時に伸張したり、周囲の組織に対して滑走したりといった機械的機能を有している。運動器の理学療法において、疾病や外傷に伴い神経組織の機械的機能が障害され、疼痛やしびれなどの症状の原因となることがある。このような問題に対して神経モビライゼーションが用いられる。 神経の機械的機能は緊張、長軸方向の滑走、横断方向の滑走、圧迫による変形などに区別される。しかしこれらに関する基礎的な研究は屍体での実験が多く、生体が必ずしもこれらの実験と同様であるとは限らない。近年超音波画像診断装置は画像精度の向上や動画の取り扱いが可能となるなど機能が向上しており、これを用いた生体における神経組織の機械的機能の根拠となるような基礎研究が見直されている。すでに手根管部の正中神経の横断的滑走や、スランプテストにおける坐骨神経の横断的滑走の研究が報告されている。本研究では、自動運動を行った時の筋の膨隆に対して何らかの神経系の機械的適応が為されていると考えられるが、そのような研究はまだ行われていない点に着目した。そこで本研究は手指の自動運動時に、手根管部の正中神経がどのように影響を受けるかを明らかにすることを目的とした。【方法】上肢に既往の無い健常成人7名14肢(平均年齢28.42±8.75歳、男性1名、女性6名)を対象とした。背臥位にて手関節手根管部を超音波画像診断装置HI VISION Preirus(日立メディコ社製)で撮影した。撮影時には一指ずつ個別に自動屈曲運動および他動屈曲運動を行い、手根管内の正中神経滑走を観察し、動画にて記録した。記録した動画から安静時、自動屈曲運動時、他動屈曲運動時の静止画を抽出し、画像解析ソフトImageJを用いて分析した。安静時の正中神経の位置を基準とし、手指を屈曲運動した際の、正中神経の滑走距離を計測した。手指の屈曲運動は各3回行い平均値を採用した。比較は母指から小指の5群間で比較した。統計はSPSSを用いて一元配置分散分析で有意差を確認したのち、Tukyの多重比較を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は杏林大学倫理審査委員会にて認証を受け、被験者には目的や方法、危険性、個人情報の保護などについて十分な説明のあと同意を得て計測を行った。【結果】手指自動屈曲運動時の正中神経の横断的滑走距離は母指0.63±0.18mm、示指0.62±0.29mm、中指1.35±0.66mm、薬指0.55±0.25mm、小指0.43±0.19mmであった。運動時はⅢ指が他の指に比較して有意に滑走距離が大きいことが分かった。他動運動時は母指0.39±0.11mm、示Ⅱ指0.42±0.12mm、中指0.62±0.35mm、薬指、0.43±0.10mm、小指0.40±0.17mmであり、5群間で有意な差は見られなかった。同様の比較を左右に分けて行ったところ同様の結果であった。【考察】手根管内の正中神経の横断的滑走は、中指の運動が他の手指よりも大きな機械的影響を与えていた。これは手根管内の浅指屈筋及び深指屈筋の筋収縮に伴う筋の膨隆によって正中神経が押し出されるように滑走しているためである。このとき同時に神経は圧迫を受け形状が歪むことも確認できた。中指に関連する屈筋腱は正中神経に隣接している事によって、より大きな機械的影響を及ぼしていると考えられる。このような神経と隣接する組織をメカニカルインターフェースと呼び、臨床では神経モビライゼーションを行う際の重要な点と考えられている。本研究ではそれを生体で客観的に確認できた。本研究の結果から手根管症候群では安静確保のために手指の固定、特に中指の固定は十分に行う必要があると言える。一方日常生活で必要となる母指、示指は固定を緩める余地があると考えられる。また横断的滑走を改善させる神経モビライゼーション手技を行う際には中指の自動運動が最も効果的と考えられ、逆に易刺激性が高く愛護的な治療が必要であれば中指以外の操作から開始し、徐々に中指へ進めていくと良いであろう。今後は手根管部以外の部位や正中神経以外の神経で分析を行っていきたい。また、今回の結果では他動運動は横断的滑走への影響は少なかった。他動運動は長軸方向への影響が大きいと考えられ、今後は長軸方向への神経の運動をどのように評価するかが検討課題となる。【理学療法学研究としての意義】超音波を用いて生体における神経の運動が観察できた。そこから神経原性疼痛を症状とするケースへのクリニカルリーズニングや治療プログラムの作成にあたって、特に横断的滑走の改善を図る場合の考慮すべき点が明らかになった。
  • - 静的ストレッチとホールドリラックスによる比較 -
    林 直樹, 瓜谷 大輔
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】膝のスポーツ外傷の一因として関節位置覚機能(Joint Position Sense:以下JPS)低下が挙げられている。JPSに関与する器官として、関節包、関節包内器官、皮膚受容器の影響は少ないとされており、近年、筋紡錘の役割が注目されている。ストレッチのJPSへの影響に関する先行研究は静的ストレッチ(以下SS)でしか検討されておらず、見解も一致していない。一方、筋紡錘の活動性は等尺性収縮により高まるとされており、等尺性収縮を用いるホールドリラックス(以下HR)では筋紡錘の活動性が高まりJPSが維持、改善するのではないかと考えられる。そこで、ハムストリングスに対するSSとHRでの膝JPS変化の違いを明らかにすることを本研究の目的とした。【方法】健常大学生28名(男性13名、女性15名、平均年齢21.3±0.9歳)を対象とし、取り込み基準は非利き足膝関節に重大な疾患の既往がなく、股・膝関節90度屈曲位からの膝伸展角度が75度未満の者とした。ストレッチは、背臥位にて股・膝関節90度屈曲位から膝関節を伸展させた。SSは痛みのない範囲で30秒間最大伸張させた後、開始肢位にて30秒間休息を与える操作を3回行った。HRでは膝伸展可動域の中間域にて膝屈曲最大等尺性収縮を7秒間行った後、強い伸張は与えないよう膝伸展最終域を23秒間保持した。その後開始肢位にて30秒間休息を与え、この操作を3回行った。各被験者1日以上間を空けて両ストレッチを実施した。施行順序はランダムに決定した。柔軟性測定は、被検者は背臥位で非検査側大腿部をベルトにてベッドに固定し、検査側股・膝関節90度屈曲位からの膝伸展角度(以下膝伸展角度)を電子角度計で測定した。電子角度計は、大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線上、腓骨頭と外果を結ぶ線上にキネシオテープにて固定した。ストレッチ前後での膝伸展角度、ストレッチ前後の膝伸展角度変化量を算出した。膝JPS測定は、test-retest間の再現性が高いとされるReproduction of a set angleを用いた。腹臥位で膝関節軽度屈曲位をStart-Position(以下SP)とし、目標角度(屈曲45度)まで他動的に屈曲させ、その位置を被検者に自動的に5秒間保持させ記憶させた。そして他動的にSPまで戻した後、自動運動で目標角度を再現させ、3秒間保持させた再現角度を電子角度計にて連続で3回測定し、その平均値を求めた。JPS評価は目標角度(屈曲45度)から再現角度を引いた誤差角度の絶対値(絶対的誤差角度:Absolute Angular Error 以下AAE)を算出した。統計処理はWindows Microsoft Excel 2010を使用し、SS、HR前後での膝伸展角度とAAEはPaired-t検定を用いて比較し、SS前後とHR前後における膝伸展角度変化量とAAE変化量の群間比較はStudent-t検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に研究内容について十分に説明を行い、同意を得たうえで実施した。なお本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認を得たうえで実施した。【結果】膝関節伸展角度はストレッチ前後でSS群では65.7度から70.0度へ、HR群では64.8度から68.2度へと増加しており、両群において有意な増加が認められた。両群の膝伸展角度変化量間、両群におけるストレッチ前後でのAAEの変化、両群におけるAAE変化量間に有意差は認められなかった。【考察】SS、HR両群でストレッチ後に膝伸展角度は有意に増加し、ストレッチの効果は認められた。しかしSS、HR両群でJPS変化は認められなかった。HRで膝JPSが変化しなかった理由として、等尺性収縮を行うことで筋紡錘の活動性は高まると考えられるが、活動性の高まりは筋収縮時のみという一時的なものであり、筋収縮後に効果が持続しないためではないかと考えた。SSで膝JPSが変化しなかった理由としては、SSにより膝JPS低下を報告している先行研究とは異なり、本研究では自動運動を用いて膝JPSを測定したことが考えられる。SSにより筋紡錘感度が低下すると考えられるが、自動運動でのJPS測定時に生じる筋収縮により筋紡錘感度が回復したためJPSに変化がなかったのではないかと考えた。また、等尺性収縮による筋紡錘活動性の高まりに必要な収縮レベルは最大随意収縮の5%以下とされ、SS時の伸張が強すぎたことで最大随意収縮の5%程度の防御収縮が生じたことで筋紡錘感度が保たれ、膝JPSに変化が認められなかったのではないかと考えた。【理学療法学研究としての意義】ストレッチの効果について柔軟性改善に関しては見解が一致しているが、ストレッチ実施後のパフォーマンスに与える影響については手技による効果がそれぞれ異なる。そのため、ストレッチ手技による柔軟性以外の側面へ与える影響の違いを明らかにすることは、目的に応じて実施すべきストレッチを選択する際の参考になると考えられ、理学療法のみならずウォーミングアップやクールダウンに適用する際の根拠として重要であると考える。
  • 浅田 啓嗣, 川村 和之, 前原 由貴, 尾崎 圭吾, 鈴木 正人, 松田 実友貴
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】膝前部痛の原因のひとつとして膝蓋骨の軌道異常が挙げられる。我々は、昨年度の理学療法学術大会においてサージカルテープを用いた膝蓋骨位置の評価の信頼性と無症候者のデータの傾向について検討した。本研究の目的は膝関節屈曲位における膝蓋骨位置と膝前部痛との関連性を調査し、膝蓋骨位置評価の有用性を検証することである。【方法】本研究の主旨を理解し同意が得られた54名106膝を対象とした。アンケートにより膝関節痛の有無と場所・既往歴を確認し、靭帯・半月板損傷や手術などの経験のある膝、感覚障害などの神経症状を有する膝を除外対象とした。背臥位にて以下の肢位で大腿骨両顆部間における膝蓋骨の位置を測定した。①股関節中間位・膝0度伸展位(KE)、②股関節45度屈曲・膝関節90度屈曲(FF)、③股関節中間位・膝関節90度屈曲位(KF)の3肢位でとした。測定はHerrington の方法を改変し行った。大腿骨内側上顆・膝蓋骨・大腿骨外側上顆が一直線上に通るようにサージカルテープを貼り、テープ上に各ランドマークに印をつけ両顆部最大隆起部と膝蓋骨までの距離を測定した。膝蓋骨内側縁から内側上顆の距離および外側縁から外側上顆の距離を計測し、二つの距離の差から両顆部間中央に対する膝蓋骨の位置を算出した。値は外側方向を(+)、内側方向を(-)と定義した。また膝蓋骨の位置に影響を与えると言われる大腿筋膜張筋-腸脛靭帯(TFL-ITB)の柔軟性をPivaらの方法に準じて測定した。オーバーテスト時の大腿の内転角度をレベルゴニオメーターで測定し、大腿が水平よりも内転位であれば(-)、外転位であれば(+)とした。疼痛の有無による統計的有意性を対応のないt-検定を用い検討した。さらにReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線、Youden Indexを用いて膝関節痛リスク指標としての膝蓋骨位置評価の判別精度を分析した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当大学倫理委員会の承認を受けて施行した。対象者全員に対し研究の趣旨を説明し、書面による同意を得た。【結果】疼痛群は23膝(平均年齢46.4±19.9歳)、無症候群は79膝(平均年齢40.0±18.5歳)であった。疼痛群、無症候群いずれにおいてもFFにおける膝蓋骨位置がKE、KFにおける値よりも有意に外側に偏位していた (疼痛群;KE:7.1±8.4mm、FF:21.6±6.1 mm、KF:6.6±8.8、無症候群;KE:2.7±7.1mm、FF:14.8±7.6 mm、KF:4.2±6.0 )。疼痛群と無症候群の比較ではKE、FFにおいて疼痛群の膝蓋骨位置は無症候群よりも有意に外側に位置していた(KE:P<0.05、FF:P<0.01)。オーバーテストでは疼痛群で有意に外転位を示した(疼痛群:1.8±4.2度、無症候群:-0.4±3.6度、P<0.05)。次にROC曲線を用いて膝関節痛リスク指標としてのFFでの膝蓋骨位置評価の判別精度を分析した結果、曲線下面積0.752となり指標が有用であると示された。さらに膝蓋骨偏位距離のカットオフポイントをYouden Indexで算出すると19.5 mmとなった。【考察】本研究の結果、膝屈曲位における膝蓋骨の外側偏位と膝関節痛に有意な関連性が示唆された。さらに評価の有用性は確認されFFにおいて膝蓋骨外側偏位距離が19.5mm以上の場合に予防的なアプローチが必要と考えられた。本研究においてTFL-ITBの膝蓋骨位置への影響について検討するために、TFL-ITBがより伸長されるKFでの検討を行ったが、KFではむしろ膝蓋骨は外側に偏位せず疼痛との関連性は見られなかった。オーバーテストの結果は疼痛群において陽性を示しTFL-ITBの柔軟性が疼痛と関連していることを示唆しているが、これは膝蓋骨周囲組織の相対的な柔軟性が関与していると考えられる。すなわち膝屈曲位においてITB・外側膝蓋支帯・外側広筋は緊張が高まり、拮抗する内側膝蓋支帯・内側広筋の柔軟性がより高いため膝蓋骨は外側へ偏位する。さらにFFにおいて股関節屈筋であるTFLの緊張も膝蓋骨の外側偏位を強めていると考えられる。しかしKFでは大腿直筋が緊張することにより膝蓋骨が顆間溝にはまりこみ外側偏位が制限されたと考えられる。本評価法は検査者の触診技術に依存するため、さらに評価方法に検討を加えるとともに荷重時の評価を加えていく予定である。【理学療法学研究としての意義】本研究により膝屈曲位における膝蓋骨位置評価の有用性が示された。臨床的に簡便な検査で膝関節痛のリスクを早期から軽減させることは、今日大きな問題となっているロコモーティブシンドロームのひとつである膝関節痛の予防に大きく貢献できる可能性を有している。今後さらに簡便で汎用性のある測定方法を確立することによって高齢者の関節痛予防のみならずスポーツ障害予防に発展させることが期待できる。
  • 佐伯 武士, 浜岡 隆文, 栗原 俊之
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】 脳内への血液を供給している椎骨動脈の走行は頚椎の横突起にある穴(椎間孔)を貫く様に上行していることから個々の頚椎骨の動きに伴って機械的刺激を受けて血流が変化し、その結果、血流量の著しい低下が起こると脳底動脈系の一過性の血流不全を生じ、目眩やふらつき、意識消失感、霧視などの非特異的な症状を誘発する恐れがある。さらに重篤な場合は脳梗塞の原因になると考えられている(Sorensen,1978)。しかしながら、これまでの頸部回旋運動に伴う椎骨動脈血流変化に関する報告は、症状を有する患者のものが多く、健常者では見解が一致していない(Mitchellら,2004;Zainaら,2003)。 さらに、これまでの研究では超音波診断装置を使用した頸部回旋運動による対側椎骨動脈血流量の変化に着目した研究は多いが、両側椎骨動脈血流量を同時に計測し検討されたものは稀である。 本研究は、頸部の中間位と左右最大回旋位における椎骨動脈の血流状態について、超音波診断装置による片側測定と磁気共鳴血管画像(MRA-TOF法)による両側同時測定を用いて比較検討した。【方法】 健常人男性16名女性7名、年齢20.1±3.9歳、BMI22.2±1.8を対象に、超音波測定検査にて、収縮期最大血流速度(peak systolic velicity:PSV)、拡張期血流速度(endodiastolic velocity:EDV),時間平均血流速度(time average flow velocity:TAV)、血管直径を計測し磁気共鳴血管画像(MRA-TOF法)を用いて椎骨動脈形状変化について測定し検討した。 統計学的検討はBland-Altman plotによる左右誤差の検討、対応のあるt検定を用いて回旋前後の血行動態について検討した。有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 被験者には本研究の趣旨を事前に書面にて説明し,同意を得た.本研究は立命館大学びわこ・くさつキャンパス生命倫理審査委員会の承認を得ている。【結果】 頸部中間位における椎骨動脈血管直径および血流量に左側有意な左右差を認めた(左側直径平均:3.84±0.4mm 右側直径平均3.55±0.4 mm) 超音波診断装置による回旋側反対側椎骨動脈血流測定において、頸部中間位と最大回旋位の比較にて、PSV・EDV・TAVにおいて最大左右回旋位に有意な減少を認めた(p<0.05)。 MRA-TOF画像における椎骨動脈血流変化において、最大右回旋位において右椎骨動脈の有意な増加(p<0.05),左椎骨動脈の有意な減少(p<0.05)を認めた。【考察】 本研究において、健常者椎骨動脈は直径・血流量に左右差を生じ、結果頸部回旋運動において、直径が劣位な椎骨動脈は回旋運動による影響を受けにくく直径が有意な椎骨動脈側は回旋運動による影響を受けやすい事が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 頸動脈病変と冠動脈疾患の危険率が相関することは Salonen(1991)によって報告され、頸動脈病変は優れた予知因子であると考えられている(Salonenら1991)。したがって、頚部回旋による椎骨動脈テストが臨床の現場や健康増進分野において簡便なスクリーニングテストとして用いられることで、動脈疾患の早期発見に有用であると考える。そのためには、頸部回旋運動における椎骨動脈血流変化についての科学的な理解が重要である。
  • 赤澤 直紀, 原田 和宏, 大川 直美, 岡 泰星, 中谷 聖史, 山中 理恵子, 西川 勝矢, 田村 公之, 北裏 真己, 松井 有史
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】マッサージは筋機能回復の促進,遅発性筋痛の軽減には効果があると報告されているが関節可動域に与える効果については十分に検証されていない.Hopper(2005)は健常者のハムストリングス筋腹に5分間の揉捏法を施行したマッサージ群とコントロール群のHip Flexion Angle(膝関節伸展位股関節屈曲角度:HFA)変化量に有意差は認めなかったと報告している.一方,Huang(2010)は,健常者のハムストリングス筋腱移行部に対する30秒強擦期のHFA変化量はコントロール期より有意に高値であったと報告している.これら先行研究の結果の違いについては筋腹,筋腱移行部といったマッサージ部位の違いが影響していると推察されるが,関節可動域にマッサージ部位の違いが与える効果を検証した報告は見当たらない.本研究の目的は,健常成人のHFAにハムストリングス筋腹,筋腱移行部といったマッサージ部位の違いが及ぼす効果を検証することである. 【方法】対象は両側他動HFA60°以上の健常成人男性32名(32肢)とし,この対象者を筋腱移行部マッサージ(筋腱移行部)群,筋腹マッサージ(筋腹)群,コントロール群へ無作為に割り付けた.介入マッサージ手技はGoldberg(1992)によって脊髄運動神経興奮抑制の効果が確認されている圧迫を採用した. Goldberg(1992)の報告を参考に圧迫内容はgrasping・lifting・releasing,圧迫周期は0.5Hz,施行時間は3分,圧迫圧は18.7mmHgと設定した.筋腱移行部群のマッサージ部位は大腿骨内・外側上顆から4横指近位の範囲とし,筋腹群のマッサージ部位はさらに4横指近位の範囲とした.コントロール群のマッサージ部位はアウトカム測定下肢の対側ハムストリングス筋腹とした.介入時の対象者肢位は有孔ベッド上腹臥位とした.アウトカムは盲検化された評価者によって測定された介入前後のHFA,HFA60°受動的トルクとした.HFAはデジタルカメラで撮影した画像を基に画像解析ソフトImage Jを用いて0.01°単位で解析した.なお,介入後HFA測定時受動圧は介入前HFA最終域受動圧に一致させた.HFA受動圧測定には徒手保持型筋力測定器を使用し,対象者の踵骨隆起部で測定した.統計解析は各群の介入前後のHFA変化量の比較に介入前HFAを共変量とした共分散分析,事後検定として多重比較法を実施した.またHFA,HFA60°受動的トルクについて各群内の介入前後比較に対応のあるt検定を実施した.本研究における統計学的有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の趣旨と手順を書面と口頭により説明し,研究の目的,危険性等について理解を得た上で,文書で同意を得た.本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認を得て実施した.【結果】無作為割り付けの結果,筋腹群11名,筋腱移行部群11名,コントロール群10名となり各測定項目ベースラインで3群間に有意差は認められなかった.共分散分析の結果,主効果を認め多重比較法により筋腱移行部群HFA変化量(4.1±1.4°)はコントロール群(-1.5±1.4°)より有意に高値を示した.筋腹群HFA変化量(0.89±1.4°)と筋腱移行部群,コントロール群HFA変化量には有意差は認めなかった.HFAは筋腱移行部群で介入前と比較し介入後に有意に高値を示した(69.9±3.0°→74.7±4.6°).HFA60°受動的トルクは筋腱移行部群で介入前と比較し介入後に有意に低値を示した(42.5±12.8Nm→36.3±15.4Nm).HFA,HFA60°受動的トルクについて他2群では有意差は認められなかった.【考察】筋腱移行部へのマッサージはHFAを拡大させ得る可能性がある一方,筋腹へのマッサージはHFA拡大に効果が少ない可能性が示唆された.また,筋腱複合体の柔軟性を反映する受動的トルクに関しては筋腱移行部群で介入直後に低下する傾向を示した.近年,関節可動域の拡大においては筋腱複合体の柔軟性向上とstretch toleranceの増大が大きく影響すると報告されている.本研究においては,介入前後のHFA測定時の受動圧を対象者内で統一したためstretch toleranceがHFAに影響を与えたとは考えにくい.従って筋腱移行部群の介入後でのHFA拡大にはハムストリングス筋腱複合体の柔軟性向上が寄与したのではと推察された.【理学療法学研究としての意義】ハムストリングス筋腹,筋腱移行部といったマッサージ部位の違いがHFAに与える効果の差異を明らかにした点で理学療法研究としての意義があると考える.
  • 永井 宏達, 生友 尚志, 山田 実, 増原 建作, 菅 佐和子, 坪山 直生
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】 転倒恐怖感は日常生活活動の制限や行動範囲の縮小、さらにはQOLの低下につながるとされており、高齢者においては社会的な問題として広く取り上げられている。しかしながら、人工股関節全置換術(THA)を施行した症例の日常生活における転倒恐怖については明らかになっていない。また、THA後は脱臼のリスクが伴うため、日常生活において脱臼に対する不安感も有していることが考えられる。これらの実態を明らかにすることは、THA後の適切な日常生活動作指導を確立する上で重要である。本研究では、THA後症例の日常生活における転倒恐怖感と脱臼不安感の実態と、それらに影響する因子を明らかにすることを目的とした。【方法】 本研究のデザインは横断研究である。クリニックが開催した「股関節教室」に参加した381名のうち、THA後の女性を対象とした。関節リウマチ、心疾患、視覚障害、脳卒中、めまいなどを有する症例は対象から除外した。転倒恐怖感の評価には、Buchnerらが作成した転倒恐怖スケールを股関節用に一部修正したものを用いた。質問項目は、入浴、戸棚やタンスの開閉、食事の用意・配膳、家の周りの歩行、布団・ベッドでの起居動作、階段、椅子の立ち座り、更衣(靴下含む)、掃除、買い物、床での立ち座り、下に落ちたものを拾う動作の12項目とし、それぞれの項目に関して、動作時の転倒恐怖の有無を聴取し点数化した(恐怖感ありで12点満点)。また、脱臼不安感の評価については、転倒恐怖スケールと同様の項目を用い、動作時の脱臼不安感の有無を聴取し点数化した(不安感ありで12点満点)。その他の評価として、股関節機能評価(OHS: Oxford hip score)、過去一年間の転倒歴、連続歩行可能時間、心理特性としての不安尺度評価(PSWQ: Penn State Worry Questionnaire)を用いた。 統計学的分析としては、転倒恐怖感、および脱臼不安感に影響を及ぼす因子を検討するため、従属変数を転倒恐怖スケールもしくは脱臼不安スケール、独立変数を年齢、術後期間、両側置換の有無、股関節機能、転倒歴、連続歩行可能時間、不安尺度、としたステップワイズ法による重回帰分析を行った。なお、調整変数として、BMIを強制投入した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上、同意書に署名を得た。なお本研究は京都大学医学研究科・医学部医の倫理委員会の承認を得ている。【結果】 除外基準に該当せず、データの欠損のない214名 (年齢: 64.2 ± 8.5歳)を解析対象とした。対象者の術後経過期間は中央値4.1 (四分位範囲: 1.2 - 7.1) 年、両側置換率は30%であった。股関節機能OHSは、15 (四分位範囲: 13-18) 点、不安尺度PSWQは41 (四分位範囲: 36-47)点、転倒発生率は36%であった。連続歩行可能時間は1時間以上: 54%、30分-1時間: 30%、30-15分: 13%、15分以内: 2%であった。 対象者の転倒恐怖スケールは1 (四分位範囲: 0 - 3)点、脱臼不安スケールは2 (四分位範囲: 0 - 4)点であった。転倒恐怖を感じる割合が高かった項目は、階段(転倒恐怖あり: 45%)、入浴(26%)、拾う動作(26%)、床での立ち座り(25%)、家の周りの歩行(19%)であった。脱臼不安を感じる割合が高かった項目は、拾う動作(脱臼不安感あり: 60%)、床での立ち座り(42%)、更衣(34%)、入浴(31%)、階段(22%)であった。 重回帰分析の結果、転倒恐怖感に影響を及ぼす因子としては、股関節機能(β = 0.18)、転倒歴(β = 0.17)、連続歩行可能時間(標準化偏回帰係数β = 0.14)、不安尺度(β = 0.15)、年齢(β = 0.14)が抽出された。また、脱臼不安感に影響を及ぼす因子としては、不安尺度(β = 0.24)、股関節機能(β = 0.17)、連続歩行可能時間(β = 0.16)が抽出された。【考察】 本研究の結果より、THA後症例では日常生活活動における特定の項目で転倒恐怖感や脱臼不安感を高頻度で有していることが明らかになった。特に、階段、拾う動作、床での立ち座り、入浴動作では転倒恐怖感、脱臼不安感とも有しやすい傾向にあった。これらの項目に関しては、自信を持って動作遂行できるよう、入院中からの集中的な動作指導が必要であると思われる。 また重回帰分析の結果より、股関節機能、歩行能力、心理特性は転倒恐怖感、脱臼不安感の両方に影響を及ぼしており、このことはTHA後症例の日常生活動作指導を行う上では、下肢機能に加えて、もともとの心理特性も考慮する必要があることを示唆していると思われる。 【理学療法学研究としての意義】 本研究はTHA後症例の転倒恐怖、脱臼不安に着目した初めての研究である。日常生活におけるこれらの実態と、影響する因子が明らかになったことは、臨床現場において、より患者に即した理学療法を施行していく上での貴重な知見となると思われる。
  • 永渕 輝佳, 中田 活也, 永井 宏達, 木村 恵理子, 永冨 孝幸, 玉木 彰
    専門分野: 運動器理学療法
    セッションID: C-S-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】低侵襲人工股関節全置換術(MIS-THA)は早期機能回復と在院日数短縮を期待して広く施行されるようになっている。その進入法には様々な手技があり、どの進入法が有用であるかは現在のところ明確ではない。当院では、筋温存型MIS-THAであるanterolateral  -supine(AL-S)approachと筋切離型MIS-THAであるposterolateral approach(PA)を行っており、これらの進入法の違いによる股関節・膝関節周囲筋の筋力回復の差異を明らかにするためにprospective studyを施行した。【方法】2011年8月から2012年7月までの間に当院で変形性股関節症(股OA)を原因疾患として初回片側THAの施行症例で脱臼度Crowe分類Ⅲ度以上の股OA、神経学的疾患を有する者、膝関節に明らかな関節疾患を有する者、非手術側が有痛性の股関節疾患を罹患している者を除外した68例を対象とした(男性2例、女性66例・平均年齢63.2±7.8歳)。これらの対象者を整形外科医が無作為に進入法の違いによりAL-S群とPA群の2群に分けた。AL-S群35例(男性1例、女性34例・平均年齢63.5±7.8歳)、PL群33例(男性1例、女性32例・平均年齢63.1±8.0)であった。性別、身長、体重、BMI、手術時年齢において2群間に統計学的有意差は認めなかった。 手術はすべて同一の術者が行い、術後は両群ともに同一のクリニカルパスの使用を原則とし、術翌日より理学療法士による関節可動域練習、筋力増強練習、歩行練習、ADL練習を実施した。 検討項目には股関節外転、屈曲、伸展、外旋、内旋、膝関節伸展、屈曲筋力を術前、術後10日、21日、2カ月目に測定した。筋力測定にはHand-Held Dynamometerを使用し、測定は同一の検者によって行った。センサー部の力(N)とそれぞれのアーム長(m)の積であるトルク(Nm)を算出し、その値を対象者の体重(Kg)で除してトルク体重比(Nm/Kg)を求めた。統計学的検討には術前においてはAL-SとPAの2群間の比較を行った。Shapiro-Wilkのの正規性の検定を行い、正規分布をしていればLevene検定により等分散性の検定を行った。分散が等しければstudentのt検定を行い、分散が等しくなければ、Welchのt検定を行った。正規分布していなければMann-WhitneyのU検定を行い2群間の比較検討を行った。それぞれの筋力推移の比較には分割プロット分散分析2×4、進入法(AL-SとPA)×時期(手術前、術後10日、21日、2ヶ月)を行った。術前の比較において有意差を認めた項目においては共分散分析を行い、交互作用の認めた項目は多重比較検定を行った。全ての検定の統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院倫理委員会による承認を受けた上で実施した。全対象者に対し、事前に本研究の目的、方法、研究への参加の任意性と同意撤回の自由、プライバシー保護について十分な説明を行い、研究参加への同意と同意書への署名を得た。【結果】術前の比較において、股関節外転、屈曲、内旋、膝関節屈曲筋力に関しては群間差が認められたため共分散分析を適応した。筋力推移の比較では股関節外転、外旋、伸展筋力において進入法と時期の要因間に有意な交互作用が認められた。トルク体重比(術前/術後10日目/21日目/2カ月目)は、外転(AL-S:0.75/0.63/0.85/0.93、PA:0.62/0.49/0.68/0.80)、外旋(AL-S:0.40/0.22/0.33/0.40、PA:0.33/0.05/0.14/0.20)、伸展(AL-S:0.56/0.51/0.68/0.74、PA:0.48/0.33/0.50/0.61)であった。各時期の2群間の比較では股関節外旋、外転、伸展ともに術後のすべての時期においてAL-S群が有意に高く、術後の筋力回復が早かった。その他の項目に関して交互作用は認めなかった。【考察】今回、股関節外旋、外転、伸展筋力において、AL-S群の方が術後の筋力回復が早かった。OldenrijkらはMISの手技による筋損傷の程度を調査しており、PAでは外旋筋の損傷が他のアプローチに比べ大きく、さらに大殿筋の損傷があったと報告している。今回の結果も同様にPA群の外旋、伸展筋力の回復は遅延していた。またOldenrijkらAL-S、PAともに外転の主動作筋である中殿筋、小殿筋に筋損傷があり、補助筋である梨状筋はPA群のみに損傷があったと報告しており、今回の外転筋力の回復の差がでた要因かもしれない。本研究の結果より、進入法が異なり、同一のリハプログラムを行うと術後の筋力回復に差異が出現することが示された。【理学療法学研究としての意義】MIS-THAの進入法の違いが筋力の回復に与える影響を明らかにすることで、術後早期のリハビリテーションにおけるTHA進入法の違いによる個別プログラム立案の一助になると考えられる。
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