医療と社会
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20 巻, 2 号
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委託研究論文
  • その実態と課題
    西村 由美子
    2010 年 20 巻 2 号 p. 123-138
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/11
    ジャーナル フリー
    米国では1990年代後半以降急速に普及したマネージド・ケア型医療供給体制が21世紀の最初の10年間の市場の主流であった。しかし,マネージド・ケアによる医療費および医療保険料の高騰抑制効果に陰りがみえたことから,CDHC(Consumer Driven/Directed Healthcare)型保険を中心とした「消費者主導のヘルスケア」型医療供給体制が注目されてきている。CDHC型医療保険は,免責額が高く月額保険料の安い医療保険(High Deductible Health Plan : HDHP)と非課税の預金口座(Health Savings Account : HSA)を組み合わせた医療保険で,消費者にとっての自己負担が大きく,それゆえ,自己負担を通じて医療費が明確に自覚されやすい設計の医療保険で,消費者/被保険者を医療サービスの利用に際してコスト・コンシャスな行動へと誘導するものと期待されている。すでにメディケアへの試験的導入がはじまっており,またワーキング・プア層の無保険解消策となるかについても検討が行われている。懸念は低所得層には依然として保険料が高く,預金の非課税効果もないこと。慢性疾患等がある場合には自己負担が高額となり,そのため必要な受診行動まで抑制して健康を悪化させる危険があることであり,課題は消費者がコスト意識の高い消費行動を選択するインセンティブとなるに十分なコストと質に関する情報が提供されること,低所得者が加入可能な保険料が設定できるかである。
研究論文
  • 医薬品の基礎研究者の分析
    中本 龍市
    2010 年 20 巻 2 号 p. 139-153
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/11
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,研究者間で張り巡らされたネットワーク構造の特性が,各研究者の研究成果にどのような影響を持つのかを検証することである。最適な関係性の構築については,大きな関心があるものの,個々人の間にある関係性のデータは入手しにくいため,これまで十分に研究が蓄積されていない。そこで本稿では,新薬候補物質を見つけるという重要なプロセスである医薬品産業の基礎研究に焦点を当て,研究者の持つ関係構造と研究者の業績の関係を分析する。
    1980年代以降,日本を代表する医薬品企業であった武田と三共を分析対象にした。1980年から1999年までの特許データを用い,研究者の関係性を抽出した。それらを元に,ネットワーク構造とネットワークの強弱に関する変数が研究者の業績にどのように影響しているのかを検証した。さらに,因果関係を特定したいため,1980~1989年,1990~1999年までの2期間にデータを分けて分析した。分析の結果,以下のことが分かった。(1)1980年代のネットワークにおける媒介中心性は研究者の業績に正の効果がある,(2)1990年代のネットワークにおける構造拘束度は研究者の業績に負の効果がある,(3)強い紐帯の効果は,1980年代と1990年代では逆の効果を持っていた。これらの結果から,ネットワーク構造とネットワークの強弱の効果は時間差で異なることが示唆される。
  • 早乙女 周子, 田中 秀穂
    2010 年 20 巻 2 号 p. 155-167
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/11
    ジャーナル フリー
    本研究では大学発特許出願の改善に関する知見を得ることを目的とし,大学発医薬関連特許文献及びその対応論文を対象に,特許請求の範囲に該当する化合物数(以下「実施例化合物数」又は「対応化合物数」という)を中心に分析を行った。
    特許文献中の実施例化合物数の平均は物質特許が10.8,用途特許は4.0であった。また実施例化合物数の分析結果は,(1)単独出願より共同出願の方が実施例化合物数が多い,(2)特許法30条適用の特許文献の方が実施例化合物数が少ない,(3)物質特許において,優先権主張している特許文献の方が,実施例化合物数が多いという結果であった。
    対応論文の分析より,(1)物質特許の対応論文の2/3に特許請求の範囲に該当する化合物が追加されていたこと,(2)対応化合物数とインパクトファクター及び被引用数に強い相関はなく,学術的意義と特許の排他性が必ずしもリンクしないことが明らかとなった。
    本研究の結果から,第一に実施例化合物数には共同研究の内容が影響することが示唆され,研究者間又は企業と大学の間で学術的意義への配慮をした研究分担の調整等,円滑なコミュニケーションを行うことで信頼関係を構築し,共同研究の内容を充実化させることが重要であると考える。第二に大学における特許出願と公表のマネジメントの改善し,30条適用の回避,優先権主張の活用した実施例の追加により大学における特許出願の質は向上できると考える。
  • 大久保 豪, 甲斐 一郎
    2010 年 20 巻 2 号 p. 169-183
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/11
    ジャーナル フリー
    目的 先天性両側性聴力障害を早期に発見するため,新生児聴覚スクリーニングが行われている。現時点での新生児聴覚スクリーニングシステムの課題を明らかにすることを目的として,文献レビューを行った。
    方法 日本で行われている新生児聴覚スクリーニングを(1)捕捉の効率性,(2)スクリーニングの正確性,(3)早期発見によるアウトカム改善効果という3つの観点から検証した。論文検索には医学中央雑誌,CiNii,PubMedを用いた。
    結果 (1)捕捉の効率性:カバー率は48%~100%,精査受検率は75%~100%,追跡率は33%~100%であった。新生児聴覚スクリーニングを受けた群では,そうでない群に比べて初回相談月齢,補聴器使用開始月齢,聴覚学習開始月齢が早くなっていた。(2)スクリーニングの正確性:偽陰性を十分に把握できていない可能性があったため,偽陰性の影響を受けない陽性的中率を算出した。Automated auditory brainstem response(AABR)を2回用いたプログラムで13.0%~29.0%,AABRを3回以上行うプログラムで37.5%~66.7%であった。(3)早期発見によるアウトカム改善効果:早期発見によるアウトカム改善効果を質の高い方法で検証した文献はみつけられなかった。
    結論 カバー率,フォローアップ率は高いことが示唆されており,教育にも効率よくつながっていることが示されたが,(1)偽陰性児の把握,(2)他指標,他地域での教育開始時期の検証,(3)コホート研究等を用いた早期発見によるアウトカム改善効果の検証といった課題が明らかになった。
研究ノート
  • 瀋 俊毅, 青木 恵子, 赤井 研樹, 福井 温, 橋本 洋之, 斧城 健大, 中島 孝子, 木村 正, 森重 健一郎, 西條 辰義
    2010 年 20 巻 2 号 p. 185-197
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/11
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,大阪府泉南地域における二つの公立病院の産婦人科を,それぞれ産科を拠点とする病院(市立泉佐野病院)と婦人科を拠点とする病院(市立貝塚病院)とに役割を分担するという集約化により,分娩ができなくなる市立貝塚病院で過去に分娩を行った女性を対象に,妊婦の施設選択の傾向を探ることである。この集約化実施後にこの地域の妊婦がどの病院を選択するのかを質問し,また仮想的な選択型実験を用いて妊婦が病院を選択する要因を分析した。
    主要結果は,全体の43%の人が市立泉佐野病院を選択することがわかった。また核家族や現在専業主婦である人ほど,この病院を選択する傾向があり,彼女らは,医療の充実度や費用の安さを重視した。一方,全体の13%の人が集約化にはかかわらない貝塚市内の私立診療所を選択することがわかった。大家族や現在働いている人ほどこの診療所を選択する傾向があり,彼女らは,移動・待ち時間などの利便性を重視した。
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