医療と社会
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17 巻, 2 号
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委託研究論文
  • ―医薬品流通研究会報告―
    三村 優美子, 伊藤 匡美
    2007 年 17 巻 2 号 p. 151-166
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
     日本の医薬品流通においては,1990年代以降,医薬品卸の合併を通した再編成が展開され,激しい構造変化を生じさせてきた。ただし,4社体制への収斂,年商2兆円規模の大手卸の成立により,医薬品卸の経営基盤は強化されたようにみえているが,依然として卸間の競争圧力は大きく,収益面での改善はみられていない。それは,規制緩和や医療制度改革のもとで医薬品卸の経営環境が厳しさを増しており,新旧とり混ぜた複雑な問題が生じているためである。また,厚生労働省医政局「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」(座長嶋口充輝(財)医療科学研究所研究所長)の場で論議されているように,医薬品卸と医療機関との取引の実態はむしろ悪化している。
     医薬品流通研究会では,薬価制度,取引条件・取引慣行問題,卸経営戦略,営業活動(MS)のあり方,物流・情報システムなど医薬品卸の直面する問題や課題を幅広く取り上げてきた。また,病院や調剤薬局の経営の現状を踏まえ,医薬品卸が医療機関とどのような連携を行うべきかなども重要なテーマとなっている。さらに,近年,医薬品における安全・安心への関心の高まりとともに,新型感染症の発生,大地震,大規模テロなどの非常時における医薬品供給のあり方が問われるようになった。全国すべての医療機関に確実に医薬品を供給することが医薬品卸の社会的責務であることから,常に危機への備えを行っておく必要がある。そこで,2006年度の医薬品流通研究会では,「危機管理型医薬品流通」の観点から,大地震発生時における医薬品卸の対応を事例として取上げ,社会的システムとしての医薬品供給体制の要件は何かを検討している。
  • 池田 俊也, 小林 美亜
    2007 年 17 巻 2 号 p. 167-180
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
     2003年度より特定機能病院等82病院に,診断群分類 (DPC; Diagnosis-procedure combination) に基づく包括支払い方式が導入され,2007年度には360病院に達している。包括支払いの対象となる医療機関では,包括範囲に含まれる薬剤・検査等のコスト適正化が経営上の重要な課題である。本研究では,DPCによる包括支払い導入前後における診療内容の変化について検討を行った。
     対象は,2006年4月よりDPCによる包括支払いを導入し,DPCデータ分析ソフト「ヒラソル」を採用している施設で,人工関節再置換術実施患者,ステント術実施患者とした。分析は,包括支払い導入前の2005年度と導入後の2006年度における平均在院日数,術前・術後日数,注射・検査・画像に関する出来高ベースでの請求額,典型的な診療パターンについて行った。その結果,包括支払いの導入に伴い,在院日数の短縮や包括範囲に含まれる医療行為の資源消費量の減少が認められた。
     但し,本研究の対象施設は,DPCデータ分析ソフトを導入していることから経営に対する意識が高いものと推察され,他の包括支払い導入施設においても同様のことが観察されるかは不明である。また,本研究では外来部門に関するデータは分析対象となっていないため,入院中に減少した医療行為の資源量が外来に移行しているかは明らかではないことから,外来を含めた1エピソード単位での医療資源消費量の分析が今後の課題である。
研究論文
  • 北澤 健文, 坂巻 弘之
    2007 年 17 巻 2 号 p. 181-194
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    目的 政府管掌健康保険(以下「政管健保」とする)の被保険者本人を単位とし,生活習慣病予防健診結果と診療報酬明細書(レセプト)データを接合したデータセットを用いてリスク曝露状況が10年後の医療費に与える影響について検討した。
    方法 北海道,長野県,福岡県の政管健保被保険者本人うち,平成6年度から平成16年度のすべての健診を受けていたものを対象とし,その間のリスク曝露状況と平成16年度の医療費発生状況との関係を分析した。医療費は対数に変換し,リスクとの関係の検討においては性,年齢,検査項目,県で調整した共分散分析を実施した。
    結果 性,年齢,検査項目,県を調整したリスク曝露年数と医療費との関係では,リスク曝露年数区分別に平成16年度患者1人当たり医療費をみると,血圧,代謝系では,リスク曝露年数が多くなるにしたがって,医療費が高くなっていた。BMIでは血圧,代謝系ほど顕著ではないが,リスク曝露年数が多くなると医療費が高くなっていた。脂質でリスク曝露年数区分別に医療費の差がみられたのは「1-3年」と「7-9年」の群の間だけであった。
    結論 BMI,血圧,代謝系のリスク曝露蓄積年数と医療費に関係があることが示唆され,医療費予測の視点から検査結果を継続的に観察することに意義があると考えられる。
  • 張 欽長, 本庄 裕司
    2007 年 17 巻 2 号 p. 195-206
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
     本稿は,1992年から2003年までの日本医薬品企業37社の特許データを用いて,研究開発資本と企業規模が研究開発のアウトプットに与える影響を明らかにする。ここでは,パネルデータ向けのカウントデータモデルを用いて,研究開発効率性と企業規模との関係を検証している。結果として,研究開発効率性と企業規模との間の逆U字関係が示されており,企業規模とともに研究開発効率性が向上することが示された。
  • 島永 和幸, 佐々木 常和, 岡田 芳男, 島永 嵩子
    2007 年 17 巻 2 号 p. 207-222
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
    目   的:産業経済から知識創造経済への経済構造の変化のもとで,企業価値創造の推進力としての研究開発マネジメントが大きく注目されている。中国において研究開発の重要性に対する認識が高まりつつある中で,製薬企業は他業種に比べて積極的に自主開発を行っている。しかしながら,実証的な研究はほとんど行われておらず,その実態はブラックボックスになっている。そこで,中国の製薬企業を対象に研究開発マネジメントに関する実態調査を実施し,企業の属性ごとに研究開発戦略や研究開発従事者のマネジメントに差異がみられるかを明らかにすることを目的とする。
    対象と方法:2006年に中国において実施した質問票調査の分析を行った。中国の製薬企業2,393社を対象に,地域別,取扱い商品別,規模別に約1,500社をそれぞれ比例抽出し,計270票の有効回答を得た(回答率18.0%)。分析にあたって,主成分分析を用いて中国の製薬企業の属性を明らかにし,主成分得点の結果からクラスター分析を行う。クラスター分析によって得られた中国の製薬企業の類型ごとに,組織的なマネジメント,創造性を発揮する環境づくり,専門能力の向上,およびモチベーションの刺激についてどのような差異がみられるのかを分析した。
    結   果:中国の製薬企業の類型化を試みた結果,3つのパターンが見出された。研究開発の実績や志向性の高低によって,研究開発マネジメントに差異がみられる。
    考   察:現在の中国において,研究開発の実績が低く,かつ志向性が弱い企業が最も多く,全体の45.6%を占めている。製薬企業では,マネジメントの基盤づくりやチームワーク方式,成果主義などを重視している現状が明らかとなった。
研究ノート
  • 菅原 琢磨, 中村 卓弘
    2007 年 17 巻 2 号 p. 223-242
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
     本稿では近年大幅にその数が増加した介護付有料老人ホームに代表される介護特定施設について,事業収益への影響を中心にその評価を実施するにあたっての留意事項を概観,整理した。このような事業評価が必要とされる大きな背景として,特定施設事業への事業参入にあたり大きな資金需要が発生していることを挙げ,特定施設事業の性格と資金需要との関連を説明した。ここでは大規模かつ多施設を展開することが有利な事業特性,迅速に事業参入し展開することの必要性,事業者規模に対して相対的に大きな初期投資額が,旺盛な資金需要の背景にあることを述べた。
     次に事業収益に影響を及ぼすリスク要因を収入ダウンリスクとコストアップリスクに区分した後,さらに収入ダウンリスクを量的リスクと価格低下リスクに区分して,各々の項目とその性格について概説した。価格低下リスクはさらに,競争による価格低下と制度による価格低下に区分され,競争による価格低下リスクの評価には,同業者との価格の比較ならびに価格差を説明するモデル推定が有効であることを指摘した。
     さらに「価格」と「量」については,両者の関係と収入(益)を結ぶ相互関係の評価が必要であること,コストアップリスクについては,介護事業の特性に鑑み人件費の評価が中心となることを指摘した。
  • ―新有効成分含有医薬品334薬剤―
    辻 香織, 津谷 喜一郎
    2007 年 17 巻 2 号 p. 243-258
    発行日: 2007年
    公開日: 2009/06/17
    ジャーナル フリー
     米国,EU,日本において1999年から2005年の間に承認された新有効成分含有医薬品(以下,新医薬品)334薬剤を対象に,各地域での承認割合と承認までのタイムラグ平均月数(年数)を算出した。タイムラグは3地域のいずれかにおいて初承認となった年月日を基点とした当該地域での承認年月日までの期間と定義した。
     新医薬品334薬剤のうち,各地域における承認薬剤数は,米国274薬剤(82.6%),EU262薬剤(78.4%),日本181薬剤(54.2%)であった。各地域において承認を取得するまでのタイムラグ平均月数(年数)は,米国13.5ヶ月(1.1年),EU13.2ヶ月(1.1年),日本46.3ヶ月(3.9年)であった。いずれかの地域においてオーファンドラッグ指定を受けている60薬剤(HIV/AIDS治療薬を除く)のうち,各地域における承認薬剤数は,米国52薬剤(86.7%),EU49薬剤(81.7%),日本32薬剤(53.3%)であった。それらのタイムラグ平均月数(年数)は,米国10.1ヶ月(0.8年),EU23.8ヶ月(2.0年),日本52.6ヶ月(4.4年)であった。
     米国とEUにおける新医薬品の承認割合はいずれも約8割,承認までのタイムラグ平均期間はいずれも約1年と,米国とEUとの間に大きな差はみられない。日本においては約半数の新医薬品が未承認であり,米国,EUに比べ,平均して約3年の承認の遅れが生じていた。オーファンドラッグに限定すると,米国とEU間のギャップが明らかとなり,全体の分析と比較して日本におけるタイムラグは大きくなった。
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