財にかかわる所有の形態とその権利問題については,従来からかなりの議論が展開されてきている。しかしながら,多くの財のうち,本来的には最も私的であると思われる臓器の所有権については殆ど考察の外に置かれてきた。非血縁で行われる臓器移動には,財としての臓器を流通させる仲介機関が介入する。そのため所有権移転に関わる問題が鮮明なかたちでクローズアップされてくるのである。すなわち,自己の所有物を処分するのに際して,必ずしも所有者の意思が認められるとはいえない状況が生じることとなる。
本稿は,このような移植のために所有者から切り離されて移動する臓器の所有権にかかわる意思決定問題を検討する。生体から非血縁で提供される骨髄を客体としてまずドナーが自己の骨髄を非血縁者に提供する際に踏まなければならない手続を述べ,次いでそれが客体として移動する段階で生じる所有権の変化を考察する。そこでは, 所有権の下位概念としての処分権, 配分権などの変容の問題を論ずる。そして最後に,今後の「骨髄」配布の機能を担う仲介機関の課題を検討する。
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