日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
33 巻, 4 号
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会告
巻頭言
目次
編集委員会
特集1
  • 寺地 敏郎
    2016 年 33 巻 4 号 p. 199
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    本特集は2016年5月26日(木),27日(金)の2日間に渡りロイヤルホールヨコハマで開催した第28回日本内分泌外科学会総会の,シンポジウム1で行われた講演内容を論文化していただいたものである。座長の労は鳥取大学の北野博也先生ならびに日本医科大学の清水一雄先生にお取りいただいたが,大会長として第33巻第4号の特集1を企画せよとのことで,2016年4月にようやく保険収載された内視鏡下甲状腺手術の話題は実にタイムリーであり,門外漢ではあるが本シンポジウムを推薦させていただいた。今回の保険収載では悪性腫瘍に対する内視鏡手術は認められず,先進医療Aとして継続されるとのことである。ジンポジウムでは,悪性腫瘍に対する内視鏡下甲状腺手術の保険収載に向けての学会としての取り組みも含めて議論していただいた。諸兄の議論と取り組みのひとつの指針となれば幸いである。

  • 五十嵐 健人, 清水 一雄, 岡村 律子, 赤須 東樹, 長岡 竜太, 眞田 麻理恵, 杉谷 巌
    2016 年 33 巻 4 号 p. 200-204
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    甲状腺・副甲状腺疾患に対する内視鏡手術が開発され,他の領域で内視鏡手術が次々と保険収載されるなか,医療行政変遷のため保険収載には至らなかった。2016年の診療報酬改定においてようやく甲状腺良性疾患や副甲状腺機能亢進症やバセドウ病に対して内視鏡下手術が保険収載された。内視鏡下甲状腺手術ワーキンググループ(WG)は2014年に内分泌外科領域における内視鏡下手術の先進医療Aを開始する時に設立された。2015年WGで臨床成績を検討し,通常手術と比較し安全性や有効性に遜色ない結果を示した。また,整容性に対する高い患者満足度や在院日数の短縮などの医療経済面への貢献も示す結果であった。それらの結果が評価され保険収載されたものと思われる。一方,甲状腺癌に対しては同様のデータであったが先進医療Aの継続となった。今後は保険収載に伴う問題や甲状腺悪性腫瘍に対する保険収載の課題など検討すべき問題が存在する。

  • 原 尚人, 松尾 知平, 高木 理央, 星 葵, 佐々木 啓太, 橋本 幸枝, 澤 文, 周山 理紗, 岡崎 舞, 島 正太郎, 田地 佳那 ...
    2016 年 33 巻 4 号 p. 205-209
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    2016年4月内視鏡甲状腺手術が良性疾患に対して念願の保険収載が認められた。しかし,質の担保などの課題は残る。今後の最大目標は今回見送られた悪性腫瘍に対する内視鏡甲状腺手術の保険適応である。しかし,難解な問題点と課題が山積みである。そして将来は日本独自のロボット支援手術機器の開発が望まれると考える。これら今後の展望における問題点と課題についての考えを述べる。

  • 中条 哲浩, 有馬 豪男, 平田 宗嗣, 田上 聖徳, 新田 吉陽, 喜島 祐子, 夏越 祥次
    2016 年 33 巻 4 号 p. 210-214
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    2016年,甲状腺良性疾患に対する内視鏡手術が保険収載された。これを機に,甲状腺内視鏡手術は急速に普及していくことが予想される。一方,甲状腺悪性腫瘍に対する内視鏡手術は,施行施設が限定的であるために今回の保険収載は見送られ,先進医療Aのまま継続となっている。すでに先駆的施設では内視鏡下の外側区域郭清が行われ,術式の改良や手術器機開発も進んでおり,内視鏡下のリンパ節郭清の質は開創手術に勝るとも劣らないレベルに達している。しかしながら現時点での甲状腺悪性腫瘍手術(先進医療A)の認定実施施設は全国で6施設のみであり,今後の普及のためにも安全性と根治性を高度に両立した術式の確立および定型化が必要である。また,関連学会を中心とした手術手技の議論や啓蒙活動も重要であり,悪性腫瘍手術に限らず,甲状腺内視鏡手術を効率よく若手外科医に継承していくための教育システムの構築も急務である。

  • 野村 研一郎, 高原 幹, 片山 昭公, 長門 利純, 岸部 幹, 上田 征吾, 片田 彰博, 林 達哉, 原渕 保明
    2016 年 33 巻 4 号 p. 215-218
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    内視鏡補助下甲状腺手術(Video-assisted neck surgery, VANS法)は,創部が鎖骨下外側の着衣で隠れる位置となるため美容面に優れた術式である。平成28年度より良性病変,バセドウ病に対しての内視鏡下甲状腺手術が保険収載されることとなり今後の普及が期待されている。当科では2009年5月より導入し,独自に開発したリトラクタを使用するなど手術手技の工夫を行ってきた。VANS法の適応,手術結果は外切開手術と同様であることが重要と考えており,良性結節性甲状腺腫では濾胞病変のみならず,大きな腺腫様甲状腺腫にも可能な限り対応するようにしている。また,バセドウ病では内視鏡下甲状腺全摘術を,悪性ではcT1N0を対象とし予防的D1郭清を行っている。当科での治療成績を踏まえて,VANS法での各疾患の適応と課題について検討した。

  • 佐々木 章, 大塚 幸喜, 新田 浩幸, 肥田 圭介, 水野 大, 栗原 英夫
    2016 年 33 巻 4 号 p. 219-222
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    臨床確認試験,高度医療,先進医療Aで長期間行われてきた甲状腺良性疾患に対する内視鏡下甲状腺部分切除,腫瘍摘出術と内視鏡下バセドウ甲状腺全摘(亜全摘)術が,2016年4月にようやく保険収載された。本術式を先進医療で実施してきた施設が中心となって,関連学会などから「安全な手術導入のための内視鏡下甲状腺手術の見解」などを示し,本術式を安全に普及する体制を構築することが今後の課題である。また,手術費料では,内視鏡補助下甲状腺切除術よりも手術器具代が高価である完全内視鏡下甲状腺切除術を考慮した診療報酬点数の改定も,本術式の普及には必須と考える。今後の展望としては,完全内視鏡下および内視鏡補助下甲状腺切除術のそれぞれの利点を,患者,医療従事者と社会に周知していくことが本術式の発展に重要と考える。

特集2
  • 猪原 秀典
    2016 年 33 巻 4 号 p. 223
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    甲状腺手術後に生じる反回神経麻痺は嗄声や誤嚥,呼吸困難などの原因となり著しいQOLの低下をきたす。こうした症状を低減することは,予後良好な甲状腺疾患においては極めて重要であり,その対応策をわれわれ甲状腺外科医は熟知しておかなくてはならない。呼吸困難の原因となる両側性麻痺については,迅速な対応が求められるため放置されることはない。一方,嗄声や誤嚥の原因となる一側性麻痺については,重篤な誤嚥性肺炎をきたさなければ生命の危機に直結しないため,患者のQOLを大きく損ねるにもかかわらず放置されていることを臨床の現場でしばしば経験する。そこで本特集は,こうした不幸な患者を一人でも減らすために,一側性麻痺に特化しその症状を低減する手術手技を紹介し,甲状腺外科医への啓蒙を図ることを目的として企画した。

    先ず大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の小川 真先生に,反回神経麻痺による嗄声の機序を含め,甲状腺術後合併症としての反回神経麻痺について総論的に概説して頂いた。次いで各論として,種々の音声改善手術をそれぞれエキスパートの先生に解説して頂いた。甲状軟骨形成術Ⅰ型については久留米大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の梅野博仁先生に,披裂軟骨内転術と外来声帯内注入術については新宿ボイスクリニックの渡嘉敷亮二先生に,声帯内自家脂肪注入術についてはJCHO大阪病院耳鼻咽喉科・大阪ボイスセンターの望月隆一先生に,神経筋弁移植術については熊本大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の讃岐徹治先生に,そして即時反回神経再建術については隈病院頭頸部外科の笹井久徳先生にお願いした。

    甲状腺手術の術中に反回神経を犠牲にした際に行う即時反回神経再建術は,外科をルーツとする甲状腺外科医には既に一定の浸透があると思われる。一方,反回神経を犠牲にした場合のみならず,反回神経を温存しても不幸にして麻痺が生じた場合に二期的に行う音声改善手術である甲状軟骨形成術Ⅰ型,披裂軟骨内転術,声帯内注入術については,耳鼻咽喉科・頭頸部外科をルーツとする甲状腺外科医には馴染深い手技であるが,外科をルーツとする甲状腺外科医には喉頭を直接扱う手技であることから未だ十分に認識されていないと思われる。また,神経筋弁移植術は耳鼻咽喉科・頭頸部外科をルーツとする甲状腺外科医へも広く浸透するのはこれからであるが,今後の発展が大いに期待される手技である。

    神経モニタリングを活用するなどして,何よりも反回神経麻痺自体を生じないように努めることが最も重要であることは論を待たない。しかし,反回神経麻痺が生じた際には,徒に放置せず適切な対応を図るよう努めることも甲状腺外科医としての責務である。そのためにも,甲状腺外科医は二期的な音声改善手術に対する理解を深め,その手術を担当する耳鼻咽喉科・頭頸部外科医とのネットワークを構築し,甲状腺術後のQOLの低下を最小に止めることが重要である。本特集がその一助となれば幸いである。

  • 小川 真
    2016 年 33 巻 4 号 p. 224-227
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    反回神経麻痺による嗄声は,副甲状腺機能障害と並び,甲状腺摘出後に生じる主要な合併症の1つとなっている。片側反回神経麻痺により声帯の内外転運動が障害されると,発声時の声門のスリット形成が妨げられ,ベルヌーイ力と声門下圧の交互作用による声帯振動が生じにくくなる。甲状腺摘出後の反回神経麻痺の頻度は,一過性および永続的なものを含めて1~13.3%と報告されており,再手術,悪性腫瘍,頸部郭清の併施,反回神経麻痺を同定しない手術などがリスク因子とされている。反回神経麻痺による嗄声の治療に関して,麻痺が一過性である可能性があるために,発症後6カ月以内の姑息的治療とそれ以降の永久的な治療がある。姑息的治療として,音声治療および局所麻酔下声帯内注入術の有効性が報告されている。しかしながら,局所麻酔下声帯内注入術については,本邦の医療保険の事情からあまり行われていないのが現状である。永久的な治療法として,甲状腺手術後の頸部の瘢痕形成のために通常の喉頭形成手術の施行に難渋するため,甲状軟骨翼状板外側下方を開窓して行う披裂軟骨内転術,神経吻合術,神経筋移植術などの術式が選択されることがある。

  • 梅野 博仁
    2016 年 33 巻 4 号 p. 228-232
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    甲状腺手術後の一側反回神経麻痺に対する音声改善手術として,声帯内注入術と同様に甲状軟骨形成術Ⅰ型は世界で広く行われている。甲状軟骨形成術Ⅰ型は喉頭枠組み手術の中の一つで,患側声帯の部位に一致した甲状軟骨部を開窓し,同部に外からインプラント材料をフランジとして充填し声帯を内方に移動させる術式である。使用するフランジは施設で異なるが,シリコンブロック,ポリテトラフルオロエチレン(ゴアテックス®),ハイドロキシアパタイト,チタンプレートなどが使用されている。患者の喉頭形状は個人差が大きく,われわれは患者の単純喉頭CT検査から得たDICOMデータを利用し,個人の喉頭に合致した適切なフランジの形状作製に取り組んでいる。この取り組みがⅠ型の治療成績の向上に繫がることを期待している。

  • 望月 隆一
    2016 年 33 巻 4 号 p. 233-238
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    一側性声帯麻痺に対する音声改善外科手術には様々な術式があり,それぞれ一長一短を有するが,症例毎にその特徴を生かした術式を選択することが必要である。声帯内自家脂肪注入術はその中でも最も有用な術式のひとつであり,当センターにおける甲状腺手術後の音声改善手術は,本術式が全体の69.0%と他の術式に比べて多く,良好な音声改善効果を得られている。

    本術式は声帯の体積を増大させる(augmentation)だけでなく,披裂軟骨を内転,内方移動(mediofixation)させることで,より良い効果を得ることができ,いわばinjection thyroplastyと考えられる手術である。

    欠点として,注入した脂肪が吸収されることが挙げられるが,細胞増殖因子などを応用する報告もあり,将来的にさらなる良好な手術効果が期待できる。

    これら声帯内自家脂肪注入術について,その適応,手術の実際,今後の展望について解説する。

  • 渡嘉敷 亮二
    2016 年 33 巻 4 号 p. 239-243
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    反回神経麻痺に対する手術治療にはいくつかの方法があるが,最も確実に良い声が得られるのは披裂軟骨内転術であり当院での術後音声改善率は100%である。本手術は1週間程度の入院を必要とし,頸部外切により喉頭内腔にアプローチする。一方で,末期がんや高齢による体力低下など様々な理由で入院手術や頸部外切開の侵襲に耐えられない患者がいる。これらの患者に対して当院では日帰りでの声帯内注入術を行っている。術後の音声改善度は披裂軟骨内転術に及ばないが,短時間で低侵襲に行える治療であり,患者のQOL向上に寄与できる。

  • 笹井 久徳, 宮内 昭
    2016 年 33 巻 4 号 p. 244-248
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    甲状腺癌の手術において癌の浸潤のために反回神経を犠牲にせざるをえない症例に遭遇することは避けることができない。また意図せずに反回神経が切断されてしまうことも少なからず起こりえることであるが,その結果もたらされる声帯麻痺による嗄声は患者のQOLを大きく損なう。しかしながら反回神経を再建することにより声帯の動きは回復しないものの,音声はほぼ正常にまで改善する。神経再建することで声帯の萎縮を防ぎ,声帯の緊張を保つことが可能となるからである。再建方法には主に反回神経端々吻合,遊離神経移植,頸神経ワナ-反回神経吻合術があり,各々の状況により選択されるがどの術式を選択しても神経再建した群の音声は再建しなかった群と比較すると有意に改善されることが分かった。

  • 讃岐 徹治, 湯本 英二
    2016 年 33 巻 4 号 p. 249-253
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    甲状腺癌に対する手術操作や腫瘍浸潤により,一側反回神経麻痺をきたした場合,高度の気息性嗄声のためQOLが著しく低下する。正常音声までの改善には麻痺側声帯の位置を正中位に固定し,声帯筋の収縮により声帯の自然な形態と緊張を回復させることが重要であり,声帯筋の神経支配再建が必要となる。

    甲状腺癌術後症例では通常反回神経末梢側の利用が困難なことが多く,神経筋弁移植術と披裂軟骨内転術を併用する。

    本術式では術直後より空気力学的検査の改善が得られ,その後経時的に聴覚印象が改善し正常音声までの回復が期待できる。

原著
  • 齋藤 亙, 田中 克浩, 小倉 一恵, 岸野 瑛美, 菅原 汐織, 山本 正利, 小池 良和, 太田 裕介, 山下 哲正, 野村 長久, 山 ...
    2016 年 33 巻 4 号 p. 254-258
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    甲状腺分化癌は予後良好な癌であるが,被膜外へ浸潤するような局所進行例も存在する。今回われわれは,当科で初回治療した甲状腺乳頭癌(低分化癌を含める)で,局所に顕微鏡的残存腫瘍があると考えられる症例を検討した。

    2000年1月~2008年12月までに当科で初回治療した甲状腺分化癌250症例のうち,遠隔転移がなく局所に顕微鏡的残存腫瘍が疑われる15症例を検討した。

    年齢の中央値は66歳(32~82歳),男性6例,女性9例であり,観察期間の中央値は100カ月であった。また15例中4例が低分化癌であった。被膜外浸潤部位としては反回神経が11例,気管が10例,食道が5例(重複あり)であった。術式は全例に甲状腺全摘+頸部リンパ節郭清を施行し,反回神経浸潤に対してはshavingが7例,神経切除+再建術が4例,気管浸潤に対してはshavingが8例,環状切除が2例であった。また,食道浸潤5例に対しては全例食道筋層切除を施行した。術後の再発は2例(13.3%)認めたが,いずれも頸部リンパ節再発であり,顕微鏡的残存部位からの再発は認めていない。死亡例も2例認めるが,いずれも他病死であった。

    甲状腺乳頭癌では,手術による肉眼的残存をなくすことにより顕微鏡的残存部位への再発は認めておらず,その後の長期の生存が見込まれる。また,shavingはQOLを損なわずに治療できる有効な方法であると考えられる。

  • 大野 希, 西塚 永美乃, 宇留野 隆, 藤原 智恵, 彌永 美記, 渋谷 洋, 北川 亘, 長濵 充二, 杉野 公則, 伊藤 公一
    2016 年 33 巻 4 号 p. 259-263
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    甲状腺手術後鎮痛薬としてペンタゾシン+ヒドロキシジン塩酸塩を使用し,術後3~4時間での安静解除を目指してきたが,覚醒不良,気分不快,ふらつきにより離床が遅延することがあった。至適鎮痛薬を探求すべく前向き比較試験を行った。ペンタゾシン+ヒドロキシジン塩酸塩(n=49)とペンタゾシン単剤(n=53)の間に,鎮痛効果,ふらつき,離床時間の差はなかった。ヒドロキシジン塩酸塩の併用は,悪心嘔吐を減少させた。アセトアミノフェン静注液(n=65)は,ペンタゾシン・ヒドロキシジン塩酸塩と同等の鎮痛効果を有し,悪心・嘔吐,ふらつきに差はなかったものの,離床時間は有意に早かった。2回目の鎮痛剤の使用は,アセトアミノフェン静注液で有意に少なかった。特筆すべき有害事象もなかった。早期離床を目指した甲状腺手術後の鎮痛薬として,アセトアミノフェン静注液は,第一選択となりえる。

症例報告
  • 三木 仁司, 開野 友佳理, 沖津 奈都, 森本 忠興, 内田 尚之, 木村 早那, 岡本 浩, 泉 啓介
    2016 年 33 巻 4 号 p. 264-268
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    28歳,女性。平成27年4月右乳房の硬結と痛みを自覚し当科を受診。初診時,右乳房AC領域に5cm大の硬い腫瘤を触知し発赤も認めた。肉芽腫性乳腺炎を疑いテトラサイクリン系抗生剤投与を開始した。乳房硬結部の針生検を施行し病理学的に炎症所見を認め,同材料の培養検査でCorynebacterium kroppenstedtiiを検出した。初診から約4週間後,両下腿に散在性の紅斑が出現し皮膚生検にて結節性紅斑と診断した。そこでプレドニゾロンを投与開始し2週間後に結節性紅斑は軽快した。しかし肉芽腫性乳腺炎はドレナージが必要で治癒するのに約4カ月を要した。肉芽腫性乳腺炎は,最近Corynebacterium kroppenstedtiiの感染が原因ではないかといわれており,本症例も針生検材料からCorynebacterium kroppenstedtiiを検出しえた。よって,肉芽腫性乳腺炎の早期診断に針生検は有用な診断手段と考えられた。また,稀に結節性紅斑を合併することがあり,乳房に感染したCorynebacterium kroppenstedtiiに対する免疫反応の結果,結節性紅斑が惹起されたのではないかと考えられた。

臨床経験
  • 林原 紀明, 小川 利久, 辻 英一, 大矢 真里子, 藤井 晶子
    2016 年 33 巻 4 号 p. 269-274
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/26
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    症例は47歳女性。右乳房腫大,血性乳頭分泌を主訴に当院受診。視触診上,右乳房外側皮膚の肥厚,発赤を認めた。超音波検査では右CD領域全体に皮膚肥厚と浮腫を認めたが,明らかな腫瘤は認められず,また右腋窩には複数のリンパ節腫大が認められた。原発巣,腋窩リンパ節巣に対し針生検を施行し,浸潤性乳管癌,腋窩リンパ節転移の診断を得たが,原発巣がHER2遺伝子増幅陰性であるのに対し,腋窩リンパ節巣はHER2遺伝子増幅陽性でありHER2評価の不一致を認めた。術前化学療法として抗HER2療法を開始した所,画像診断上,右乳房原発巣の縮小に加え,右腋窩リンパ節転移巣の消失を認め,根治手術を施行することが可能となった。乳癌原発巣と腋窩リンパ節転移巣におけるHER2の評価は,時に不一致を認めるため,原発巣とともに,腋窩リンパ節転移巣に対する生検を施行し,HER2の評価を行う必要がある。

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