医学検査
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65 巻, 4 号
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原著
  • 吉田 佳代, 中島 みどり, 尾島 優子, 高野 正太, 西 勝英, 山田 一隆, 高野 正博
    原稿種別: 原著
    2016 年 65 巻 4 号 p. 373-380
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    当院では,便失禁患者に対し,直腸肛門機能検査で直腸肛門機能の評価を行っている。今回,2003年から2009年に検査を施行した約5,000人の結果から肛門内圧検査(機能的肛門管長(HPZ)・最大静止圧(MRP)・最大随意収縮圧(MSP)と肛門管感覚検査の正常参考値を検討し,便失禁の有無による比較検討を行った。便失禁患者は非失禁患者より肛門内圧が有意に低下し,中でもMRPは低くなるにつれて,便失禁症状が重症化する傾向を認め,50 cm H2O以下の症例は,半数が便失禁を来していた。肛門管感覚は,便失禁患者が非失禁患者より有意に鈍化していた。これらの検査は,肛門機能を客観的に評価し,便失禁治療を選択でき,治療効果の判定にも用いることができるので,患者の治療に対する意識付けとしても有用と考えた。

  • 村越 大輝, 久住 裕俊, 小杉山 晴香, 雨宮 直樹, 薗田 明広, 吉村 耕治, 西尾 恭規, 島田 俊夫
    原稿種別: 原著
    2016 年 65 巻 4 号 p. 381-386
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    前立腺癌の罹患率・死亡率は年々増加し,早期診断のためにもPSA測定によるスクリーニング検査の実施は不可欠である。しかし,偽陰性による前立腺癌の見逃し,偽陽性による過剰診断といった問題点があり,前立腺癌と前立腺肥大症の鑑別は困難である。本研究では下部尿路症状を主訴に外来を受診し,前立腺生検を行い,前立腺癌と非前立腺癌の鑑別を病理組織診断により確定し得た患者を対象にROC解析を行い,日常診療におけるPSA測定の有用性を,Bayesの定理を用いて検討した。ROC解析の結果,カットオフ値は15.0 ng/mL,AUCは0.73であった。検査前確率を50%と想定した場合,Bayesの定理に基づいた条件付きの検査後確率は85%まで改善することが判明した。しかし,カットオフ値が4.0 ng/mLの場合,効果的な検査後確率の上昇は認められなかった。すなわちPSAの応用に関しては予防医学と臨床現場との棲み分けを明確に区別し,若年者には予防医学的側面からのアプローチを重視し,高齢者には臨床を重視したアプローチを優先するといった使い分けを行うことでPSA測定の臨床的有用性を効率的に高めることが可能になると考える。したがって,Bayesの定理を用いることで,PSA測定の正当性が明確に評価されると考える。今後,様々な分野における評価法の一つとして広くこの解析法が応用されることを期待する。

  • 小川 将史, 奥田 和之, 笠井 香里, 阿部 瑛紀子, 東 良子, 香田 祐樹, 角坂 芳彦, 蔦 幸治
    原稿種別: 原著
    2016 年 65 巻 4 号 p. 387-391
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    市中におけるMRSAクローンの実態を把握するため,新規に外来患者より検出されたMRSA株についてPCR-based open reading frame typing(POT)法解析ならびにPCR法により毒素産生遺伝子(PVL・TSST-1・ETA・ETB)の保有の有無を調べた。その結果,外来患者より最も多く検出されたPOT型は106-137-80及び106-9-80であり,106-137-80は同時期の入院患者からも最も多く検出された。2010年にはPOTナンバー1が106の株は11.4%(30株)であったが,2014年には27.4%(55株)検出され,増加が認められた。毒素産生遺伝子を検索した結果,TSST-1産生株は19株,ETA産生株は1株検出されたが,PVL及びETB産生株は検出されなかった。今回の検討により,CA-MRSA株のクローン及び毒素遺伝子の状況を把握でき,今後,市中流行株が院内に持ち込まれることは大いに考えられ,院内感染対策を充実させるとともに継続して動向を把握することは重要である。

  • 土田 秀, 神山 晴美, 布瀬川 卓也, 富岡 千鶴子
    原稿種別: 原著
    2016 年 65 巻 4 号 p. 392-398
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    腹腔内腫瘤では原発性悪性腫瘍,転移性腫瘍,悪性リンパ腫や反応性病変などの鑑別のため,生検組織による組織診断が行われる。今回,腹腔内腫瘤の針生検時に迅速細胞診検査が併用された69例の細胞診と組織診の診断結果などについて比較を行い,迅速細胞診検査併用の有用性を検討した。組織診断に対する迅速細胞診断の正確度は91.3%と良好であった。また,迅速細胞診検査で悪性リンパ腫を鑑別にあげた31例のうち15例では,同日に採取された針生検検体の一部が免疫学的表現型検索のためのフローサイトメトリーに提出され,14例で解析可能な結果が得られていた。腹腔内腫瘤の針生検に迅速細胞診検査を併用して細胞を評価することにより,採取組織の評価だけでなく追加検査の提案が可能となり,精度の高い診断につながるものと思われた。

技術論文
  • 土居 愛祐美, 眞鍋 紀子, 山口 航, 今井 正, 宮川 朱美
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 4 号 p. 399-407
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    血小板活性化マーカーとして知られるP-セレクチンやPAC-1は,特殊な抗体が必要で,臨床応用されるには問題点が多い。一方,単球-血小板凝集解析は特殊な抗体が不要であり,かつ感度が高いことが報告されている。そこで今回我々は,単球-血小板凝集解析法に注目し,臨床応用に向けた検討を行った。対象者(19~32歳)のクエン酸Na血およびEDTA-2K血の単球-血小板凝集%(mono-PLT%)の経時変化について調べた。また,臨床検体(40~74歳,EDTA-2K血)は,LDL,TG,血糖値の3項目が正常範囲であった検体(正常値群)と異常値であった検体(異常値群)のmono-PLT%を検討した。クエン酸Na血を用いた解析では,継時的にmono-PLT%が高くなったのに対して,EDTA-2K血では,長時間安定していた。対象者のEDTA-2K血におけるmono-PLT%の平均値±SDは,34.0 ± 12.7%であった。また,臨床検体における検討では,正常値群は,29.5 ± 12.7%,異常値群では,42.1 ± 19.5%であり,両群に有意な差を認めた(p < 0.05)。抗凝固剤にEDTA-2Kを用いた単球-血小板凝集解析法は,特殊な抗体が不要,かつ安価であること,採血後長時間安定していること,さらに血液一般検査の残余検体の使用も可能なことから,臨床において有用な血小板活性化マーカーになりうると考えられた。

  • 吉川 康弘, 稲村 奈津美, 積田 智佳, 熊坂 肇, 石倉 はる美, 栗原 惣一, 大塚 喜人
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 4 号 p. 408-413
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    簡易血糖測定器である,血糖自己測定(self monitoring blood glucose; SMBG)機器や病棟用(point of care testing;POCT対応)血糖測定機器は,簡便かつ迅速な測定が可能である。そのため患者個人だけでなく,広く医療現場でも使用されている。しかし2011年,手指の残留果汁が原因とされる偽高血糖事例が報告された。今回,本事例を検証するためSMBG機器7種を対象に,グルコース以外の果汁に含まれるとされる糖類(4種)との反応性を検証するとともに,食品や輸液等に含まれるとされる糖類(7種)についても検証した。結果,検証に用いた果汁に含まれるとされる糖類は,全ての機器において影響を与えなかったため,偽高血糖事例は,果汁中に含まれるグルコースが原因である可能性が示唆された。一方,食品や輸液等に含まれるとされる糖類においてキシリトール以外の糖は,検証に使用した何れかの機器に影響を与えた。簡易血糖測定器は手技や機器の特徴により,予想外の結果が得られる場合がある。従って使用者は,それらを十分理解した上で使用することが重要である。

  • 土屋 幸子, 梅澤 敬, 堀口 絢奈, 梅森 宮加, 廣岡 信一, 清川 貴子, 池上 雅博, 鷹橋 浩幸
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 4 号 p. 414-418
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    粘液溶解剤とBDシュアパスTM法を用い,喀痰に対する液状化細胞診の標準化を試み,良好な結果がみられたので報告する。喀痰全量に粘液溶解剤であるスプタザイムを添加し,遠心分離により診断に必要な細胞成分を全て回収し,非婦人科による用手法に準じてBDシュアパスTM標本を作製した。標本の評価は,陰性,疑陽性,陽性,不適正の4つに分類し,塵埃細胞の有無を指標として,40倍で10視野カウントし平均値を算出した。対象103例中,塵埃細胞を欠く検体不適正は17例(16.5%)で,乾燥や過剰塗抹などのtechnical errorはみられなかった。検体適正86例の塵埃細胞数の平均は16.5個であった。検体適正であった86例は,陰性が82例(95.3%),疑陽性が4例(4.7%)であった。粘液溶解剤を用い全量を均一化することにより,遠心分離で細胞の回収率が向上し,粘液性検体であってもBDシュアパスTM標本が作製でき,標本作製の標準化に寄与する。

  • 愛甲 佐津紀, 西 律子, 川口 路実, 小橋 眞規子, 山田 祐也
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 4 号 p. 419-423
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    慢性腎臓病(CKD)や泌尿器系疾患の診療には,ファーストスクリーニングとして尿沈渣検査は不可欠であり,特に血尿を伴う疾患では,その出血部位が糸球体由来かそれ以外かを推定するために,尿中赤血球形態を詳細に鑑別報告することが求められるようになった。今回,フローサイトメトリー法を用いた全自動尿中有形成分分析装置UF-1000i(シスメックス社)による赤血球形態情報RBCinformation(以下,RBCinfo)のあった631件を対象に,RBCinfoの尿沈渣検査法(以下,目視鏡検)との整合性と,出血部位推定の精度を確認することを目的に,臨床診断とその背景を調査した。RBCinfoと目視鏡検の糸球体型赤血球(G-RBC)との一致率は,Dysmorphic?(Dys)が49.1%,Mixed?(Mix)39.3%,Isomorphic?(Iso)1.2%だった。また糸球体性疾患の臨床診断が付いた群は,Dys:29.3%,Mix:9.9%,Iso:3.9%に含まれ,Dys判定群でG-RBCの検出率および糸球体性疾患含有率はいずれも有意に高かった。RBCinfoは,目視鏡検にて赤血球を糸球体由来と判定するには有力な付加情報として有用である。

  • 上杉 里枝, 河口 勝憲, 小野 公美, 前田 ひとみ, 桑原 篤憲, 通山 薫
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 4 号 p. 424-430
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    whole PTH測定系は,生物活性を有する1-84PTHのみを特異的に測定し,腎機能の影響を受けないため副甲状腺機能を正確に反映するとされている。今回,CLEIAを用いたwhole PTHの測定性能評価と変動要因の解析を行った。測定性能評価では,併行精度と室内精度はともに良好な結果を示した。血清とEDTA-2Na血漿の相関は良好であったが,検体の保存安定性は,血漿の方が安定していた。高濃度のリウマトイド因子で測定値の低下傾向が確認された。whole PTHはintact PTHの約6割を示し,intact PTHとの相関関係は良好であった。個人差はあるものの運動後に値の上昇が確認された。採血時の体位では,臥位と比較して立位の方が高値傾向であった。25℃で4時間以上放置された全血より得た検体では測定値の低下が確認された。サンプルカップへの移し替え回数が増すごとに測定値の低下が確認された。当院では血清を用いた迅速測定を行うことで,他項目との同時測定による効率化や採血量の減量化を図った。whole PTHの迅速測定は,副甲状腺機能を正確に反映するものであり,今回の検討結果から見出された変動要因の影響を最小化することにより,有用性はより高まるものと思われる。

  • 財満 美希, 伊良皆 千秋, 伊佐 和貴, 山内 恵, 前田 士郎
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 4 号 p. 431-435
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N末端フラグメント(NT-proBNP)は心不全の診断および予後の把握に有用なバイオマーカ―である。今回,化学発光免疫測定装置HISCL-5000®を用い,「HISCL® NT-proBNP試薬」の基礎的性能評価を行った。同時再現性および日差再現性のCoefficient of Variability(CV)は0.9~2.4%であり,患者検体を用いた希釈直線性の評価ではNT-proBNP測定値について34,434 pg/mLまでの直線性を確認した。5種類の共存物質の影響を検討したところ,いずれの物質においても測定値に10%以上の影響を及ぼすものは認められなかった。患者検体112例を用いて,既存試薬(エクルーシス®NT-proBNP[ロシュ社])との相関を検討した結果,相関係数はγ = 0.994と良好であったが本法がやや低値となる傾向を認めた(y = 0.85x + 183.2)。本法で10,000 pg/mL未満であった104検体ではy = 0.988x − 0.588,γ = 0.998と2法の測定値はほぼ一致した。以上の結果から,HISCL-5000®を用いたNT-proBNP試薬は,日常検査において十分な性能を有していると考えられた。

資料
  • 角野 忠昭, 小林 雅子, 梅田 由佳, 石山 進, 中積 泰人, 高田 重男
    原稿種別: 資料
    2016 年 65 巻 4 号 p. 436-440
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    MRSAは,現在においても院内感染上問題となっている菌である。今回我々は,適切かつ効率的な感染対策を行うため,70歳以上の入院患者を対象にMRSAサーベイランスを実施し,MRSAの保菌リスク因子及びサーベイランス効果について検討した。サーベイランスの結果,高齢者施設からの転院患者でMRSAの陽性率が59.0%と有意に高値であり,MRSA保菌リスク因子であることが確認された。サーベイランス実施後,年間のMRSA検出率が減少したことから,サーベイランスはMRSA院内感染防止に有効であると考えられた。今後は,施設からの入院患者に対し,積極的にMRSAサーベイランスを行うか,あるいは接触予防策を実施することで,さらなる院内感染対策につながると考えられる。

  • 有村 泰晃, 齋藤 晴子, 佐子 肇
    原稿種別: 資料
    2016 年 65 巻 4 号 p. 441-446
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    結核治療において薬剤感受性検査はきわめて重要であるが,結果判明までに長期間を要することが欠点である。そこで,遺伝子診断による新たな迅速薬剤感受性検査法が次々と開発されている。今回我々は,材料から直接リファンピシン(RFP)耐性遺伝子を検出する「ジェノスカラー®・Rif TB」(ニプロ株式会社)を導入し,有用性を検討したので報告する。本キットによる結核菌群の検出率は,塗抹陽性検体では98%であった。また,喀痰または培養菌以外の材料でみると78.8%であった。RFP耐性遺伝子の有無と,薬剤感受性検査の一致率を調べたところ,感受性一致率100%,耐性一致率82.5%であった。今回の結果より,本検査はRFPの投与効果の有無,治療内容等の変更,さらには院内感染防止など幅広く活用でき結核医療にとって有用であると考えられる。

  • 棚町 千代子, 吉永 英子, 水島 靖子, 齊藤 祐樹, 天本 貴広, 井上 賢二, 中島 収, 山口 倫
    原稿種別: 資料
    2016 年 65 巻 4 号 p. 447-452
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    2012年9月より,当院の手術室の手洗い水は滅菌水から水道水へ変更となった。これに伴い,2箇所の手洗い場の7つの蛇口から採取した水道水の細菌汚染調査を行い,適切な管理方法について検討した。以前は一般細菌と大腸菌について検査されていたが,従属栄養細菌を追加し調査した。手洗い水から一般細菌と大腸菌については検出されなかった。しかし,従属栄養細菌は目標値とされる集落数2,000 CFU/mLを超えていた。優勢菌種はSphingomonas pausimobilisMethylobacterium sp.であった。対策として,まず蛇口の清掃,使用前の流水の確認,塩素濃度の測定を行った。これらの結果では塩素濃度は十分であったにもかかわらず,従属栄養細菌が多く検出された。すなわち塩素に対し耐性を示す細菌が存在することから,塩素以外の熱水殺菌が有用であると思われたため,次に65℃の熱水による処理を実施した。この対策後,現在まで従属栄養細菌は2,000 CFU/mL以下となっている。これまでの管理を見直し,徹底することで手洗い水の改善に至った。今後も手洗い水に含まれる従属栄養細菌を検査することにより,清浄度が保たれると思われる。

症例報告
  • 縄田 恵里香, 桝田 晋作, 磯野 奈々, 日高 大輔, 桑岡 勲
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 65 巻 4 号 p. 453-458
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    症例は70歳代,男性。甲状腺機能低下症,高血圧,慢性閉塞性肺疾患,高尿酸血症にて他院外来治療中に血小板減少を認め,当院血液内科紹介受診となった。骨髄検査において中~大型でN/C比大,細胞質は好塩基性であり,核クロマチンは網状,時に核異型があり,明瞭な核小体を有する異常細胞を33%認めた。免疫グロブリンH鎖JH再構成を認めたこと,病理診断よりびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の診断に至った。骨髄中の異常細胞は芽球様の形態をしていた。また,背景には血球貪食マクロファージを多数認めた。骨髄血のフローサイトメトリー解析の結果では,CD1a,CD2,CD3,CD7,CD8,CD10,CD11b,CD13,CD14,CD25,CD33,CD34,CD41,CD56は陰性,CD4,CD5,CD19,CD20,CD36,CD38,HLA-DRは陽性,表面免疫グロブリンマーカーでは,IgG,IgA,IgM,IgD,κ,λは全て陰性であった。現在,R-CHOP療法を行っており,寛解を維持している状態である。DLBCLにT細胞系の表面マーカーが発現することは稀であるが,中でもCD4陽性の報告例は少ない。今回,CD4陽性DLBCLの稀な症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

  • 木下 愛, 清水 馨, 有田 奈弥恵, 末廣 伸子, 森本 政憲, 浅井 徹, 宮平 良満, 九嶋 亮治
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 65 巻 4 号 p. 459-465
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    感染性大動脈瘤は,比較的稀な疾患であるが死亡率は高く,迅速な起炎菌の同定が求められる。症例は63歳女性,腹痛,下痢,嘔吐を主訴に来院し,造影CT検査で腹部感染性大動脈瘤の切迫破裂と診断された。緊急手術が施行され,術前に血液培養2セット,術中に摘出された大動脈瘤壁が細菌培養に提出された。術前および術後1日目はlatamoxefを,術後2日目からceftriaxoneとvancomycinを投与された。血液培養検査は陰性であったが,大動脈瘤壁からCampylobacter fetus subsp. fetusが検出されたため術後9日目からmeropenem単剤に変更し19日間の投与後退院。退院後14日間levofloxacinを内服された。感染性腹部大動脈瘤症例においては同菌による感染の可能性も考慮し,起炎菌検索を進める必要があると考えられる。

  • 尾方 真帆, 平塚 京子, 赤尾 智広, 越智 繁樹, 竹治 智, 恩地 森一
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 65 巻 4 号 p. 466-471
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    吸収不良症候群の診断は,脂肪吸収試験が必須である。今回,脂肪吸収試験(簡易便中脂肪定量法)が有用であった吸収不良症候群疑いの2症例を経験したので報告する。症例1は60歳代男性で,体重減少が生じていた。脂肪吸収試験の結果,脂肪吸収率0%(参考基準値:97–100%)で,吸収不良症候群と診断するために脂肪吸収試験が有用であった。治療としてリパクレオン®,タフマック®Eによる消化酵素補充療法が開始され,治療経過中に再度行った脂肪吸収試験の結果は脂肪吸収率63.9%と,治療前と比較すると大幅な改善が認められた。症例2は60歳代男性で,体重減少が生じていた。脂肪吸収試験の結果,脂肪吸収率97.8%で,吸収不良症候群を否定するために脂肪吸収試験が有用であった。脂肪吸収試験は脂肪負荷食の設定や試験中の間食の監視,蓄便の徹底,および採便前の混和など,手技を正確に行えば再現性は良好で,精度が高い検査であった。また簡易便中脂肪定量法を用いた脂肪吸収試験は界面活性剤と汎用自動分析装置を用いる簡便な検査であり,吸収不良症候群の鑑別のためのスクリーニング検査として,どの施設においても実施が可能であると思われる。さらに,簡易便中脂肪定量法を用いた脂肪吸収試験は吸収障害の程度を定量的に把握することが可能であるため,吸収不良症候群の診断や治療方針の決定,その効果判定に有用であった。

技術講座
  • 加藤 千秋, 渡邊 友美, 遠藤 比呂子, 前田 奈弥, 武村 和哉, 松本 祐之, 松下 正
    原稿種別: 技術講座
    2016 年 65 巻 4 号 p. 472-481
    発行日: 2016/07/25
    公開日: 2016/09/10
    ジャーナル フリー

    全自動輸血検査システムは,分注ミスや,凝集判定における個人差などの問題が解決可能である。今回,我々は全自動輸血検査システムORTHO VISIONTM Analyzer(以下,VISION)の基本的性能を評価したので報告する。血液型,不規則抗体スクリーニングの相関はVISIONとORTHO AutoVue® Innova System(以下,Innova)で行い,共存物質の影響,交差適合試験,赤血球試薬の安定性,室温の影響については,VISIONを使用し検討した。血液型は99%で一致し,1例のみウラ検査で不一致となった。不規則抗体検出率は,Innovaの64%(50/78)に比較しVISIONは72%(56/78)と優れていた。同時再現性はすべて1グレードの範囲内であった。ヘモグロビン3.7 mg/dL以上ではFicin法でコントラスト異常となった。総グロブリン量が3,600 mg/dL以上で,非特異反応を認める場合があった。LISS-IATにおける交差適合試験は,臨床的意義のある抗体に対し,対応抗原陰性血のみが適合した。赤血球試薬をVISIONで保存した場合,8日目まで使用可能であった(Dia抗原)。低い室温はインキュベーション時と遠心時に影響し,冷式抗体の検出率を高くした。VISIONは,基本的な輸血検査を安全・正確に感度よく実施可能であった。

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