医学検査
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65 巻, 2 号
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総説
  • 坂場 幸治
    原稿種別: 総説
    2016 年 65 巻 2 号 p. 125-140
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    急性白血病は白血球などの自律性増殖を特徴とする造血器の腫瘍性疾患で,多能性幹細胞からの成熟・分化が特定の段階で停止し前駆細胞レベルでがん化した病態と考えられている。白血病発症には複雑な遺伝子が関与するが,近年多くの研究により,特徴的な染色体転座あるいは遺伝子変異が急性白血病発症の病因として判明してきた。2001年に発表されたWHO分類第3版は血液学的悪性腫瘍の新しい分類基準として世界中に広く普及した。その後,細胞遺伝学的研究などの更なる進歩により,血液学的悪性腫瘍の病態解明に新たな知見が加えられ,2008年にWHO分類第4版として発表された。このうち急性白血病については急性骨髄性白血病および関連前駆細胞腫瘍(acute myeloid leukemia and related precursor neoplasms),分化系統不明瞭な急性白血病(acute leukemias of ambiguous lineage),前駆型リンパ球系腫瘍(precursor lymphoid neoplasms)に大別されている。本稿では造血器腫瘍のうち主として急性白血病についてWHO分類第4版を中心に,それらの形態学的所見,免疫表現型,細胞遺伝学所見,臨床所見について記載する。
原著
  • 田所 猛, 三井 由紀子, 石倉 宗浩, 蟹谷 智勝, 福田 弘幸, 金森 李佳
    原稿種別: 原著
    2016 年 65 巻 2 号 p. 141-145
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    目的:カラーパラフィンを使用した病理組織検体着色を考案し基礎的検討を行ったので報告する。対象と方法:パラフィンに着色するため,透明ジェル用液体色素,クレヨン等を使用し,腎臓,肝臓,胃,結腸,針生検,内視鏡生検材料,乳腺・脂肪・子宮筋腫の大型組織における肉眼所見,薄切面の確認等の有用性について検討した。成績:クレヨン等は,攪拌しないと溶解せず時間がたつと分離するため問題があった。透明ジェル用液体色素は薄切面の確認については問題ないが,包埋では肉眼所見の認識がやや困難な色調が認められた。結論:現在,消化器内視鏡生検材料,各種針生検等の微小検体が多く扱われ,中には組織がほぼ無色で肉眼では全面を適切に薄切することが非常に困難である場合がある。これまでも着色についていろいろ考案されてきたが,標準化された事例は無いのが事実である。現在は自動薄切装置が開発され,微小検体の確認,薄切のためにはパラフィンにカラー色素,放射性物質,蛍光色素等が扱われる可能性があり,今後の自動化に期待したい有用な方法であると考える。
  • 田中 伸久, 関口 萌美, 長井 綾子
    原稿種別: 原著
    2016 年 65 巻 2 号 p. 146-150
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    当院に入院した新生児のうち,出生後1日以内に検尿が実施された552例の結果を集計し,解析を試みた。尿定性試験の陽性率は尿潜血反応が61.8%と最も高く,次いで尿蛋白が33.3%,尿糖が8.9%であった.全例の70.3%はいずれかの項目が陽性であった。また,尿潜血反応陽性例の90.9%は尿沈渣赤血球が陰性であった。全3項目とも陽性率が有意に高かったのは,「仮死のあった群」と「出生体重が1,000 g未満の群」であった。新生児の検尿結果には,出生に伴う何らかの腎組織へのダメージや,腎機能の未熟性が反映されていることが推測された。
  • 丸橋 隆行, 須佐 梢, 西本 奈津美, 石川 怜依奈, 横濱 章彦
    原稿種別: 原著
    2016 年 65 巻 2 号 p. 151-158
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    自己免疫性溶血性貧血患者への輸血検査において,自己抗体に隠れている同種抗体を見出すことは極めて重要である。そのためには自己抗体を除去する必要があり,その方法としてZZAP法やPEG(polyethylene glycol)を使った吸着法(PEG法)が日常的に用いられている。中でもPEG法はガイドラインでも簡便で吸着効率に優れた方法として推奨されているが,PEGのもつ作用により低力価の同種抗体が自己抗体とともに除去され,検出されない可能性が指摘されている。本研究ではZZAP法とPEG法に加え,新たな試みとしてZZAP処理した赤血球とLISS(low ionic strength solution)を組み合わせた吸着法(Z-LISS法)を実施し,各吸着効果を比較した。PEG法は簡便で自己抗体の吸着効果は高いものの,対応抗原陰性赤血球を使った吸着法において同種抗体価がわずかに減弱したことから,低力価の同種抗体が除去される可能性が示唆された。一方,ZZAP法とZ-LISS法ではPEG法と同等以上の吸着効果を有し,しかも対応抗原陰性赤血球を使った試験において同種抗体価が減弱することはなかった。これらのことから,Z-LISS法はZZAP法での自己抗体吸着効果と同等の結果を短時間で得ることができる優れた方法であり,ZZAP法,PEG法と共に自己抗体吸着法として用いることが出来ると考えられた。
  • 櫻井 慶造, 二本柳 伸, 中崎 信彦, 久松 知子, 棟方 伸一, 和山 行正, 狩野 有作
    原稿種別: 原著
    2016 年 65 巻 2 号 p. 159-165
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    中枢神経系感染症は大きく髄膜炎と脳炎に大別され,初期治療が患者の転帰に大きく影響するため,迅速かつ正確な診断が重要である。我々は同時スクリーニング検査のMultiplex PCR法(M-PCR法)とPCRラテラルフロー(PCR-LF法)法を用いて,髄液から8種類の細菌のS. pneumoniaeH. influenzaeN. meningitidesL. Monocytogenes,Group B Streptococcus,S. aureus(SA),Coagulase-negative staphylococci species(CoagNS),methicillin-resistant Staphylococcus aureusと7種類のウイルスのVZV,HSV-1,HSV-2,EBV,CMV,HHV-6,Enterovirusについて臨床的評価を検討した。その結果,M-PCR法とPCR-LF法を用いた123例の髄液から原因細菌が14例(11.4%),ウイルスが23例(18.7%)検出された。しかし,細菌培養が陰性のSAとCoagNSが5例認められ,偽陽性が起こる可能性があるために検査結果の解釈には注意を要する。M-PCR法とPCR-LF法は,専用のPCR装置を必要とせず,従来法と比べて検出率が高く,短時間で報告が可能なため,中枢神経系感染症の迅速診断に有用と考えられた。
  • 吉田 愛美, 高橋 一人, 齋藤 泰智, 中河 知里, 佐藤 多嘉之, 新田 亜衣, 佐藤 正幸
    原稿種別: 原著
    2016 年 65 巻 2 号 p. 166-171
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    Mycoplasma pneumoniaeM. pneumoniae)によるマイコプラズマ肺炎は,代表的な市中肺炎の一つである。治療の第一選択薬にマクロライド系抗菌薬が推奨されるが,近年マクロライド耐性化が進んでおり,治療の遷延化や重篤化が問題となっている。今回我々は,QP法によるマクロライド耐性マイコプラズマ検出法を構築し,LAMP法,ダイレクトシーケンス法および抗原迅速診断キットとの比較を行った。本検討は,マイコプラズマ肺炎が疑われた71例の咽頭拭い液を検体とし,LAMP法およびQP法のサンプルには抗原迅速診断キットの抽出液の残りを用いた。LAMP法とQP法の比較では,両者の感度・特異度はほぼ同等であった。ダイレクトシーケンス法とQP法の比較では,両法で19件中13件に変異が認められ,両者の一致率は100.0%であった。また,変異を認めた13症例すべてがA2063Gであった。QP法と抗原迅速診断キットの比較では,感度47.4%,特異度76.9%であった。また,抗原迅速診断キットでは,マイコプラズマ肺炎の非流行期で偽陽性が増加する傾向が見られた。QP法は,M. pneumoniaeの感染とマクロライド耐性変異を同時に検出することが可能であり,抗菌薬の適正使用や早期診断に寄与し,診療全体に対する効果は大きいと考えられた。
  • 小川 綾乃, 五嶋 玲子, 小柳 紀子, 高橋 明子, 髙梨 昇, 浅井 さとみ, 宮地 勇人
    原稿種別: 原著
    2016 年 65 巻 2 号 p. 172-180
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    ヒトが被検者となる生理機能検査の検査実施では,交差感染(間接接触感染)のリスクがあり,その効果的な防止対策は患者診療の安全確保においてきわめて重要である。本研究は,超音波検査実施における交差感染の効果的な防止策を明らかとするため,超音波診断装置と付属品・消耗品(以下,超音波診断装置)の清掃・消毒の状況について調査し,結果に基づく改善策を検討した。超音波診断装置の検査実施後の清掃・消毒の状況は,11名の検査者を対象として,手指衛生調査用蛍光塗料の塗布後,ブラックライトを用いて調査した。その結果,日常的に触れるトラックボール,操作パネルなどに拭き残しが多くみられた。検査者によっては,ゲル容器,タッチパネル右側,バーコードリーダー,患者側の装置側面などの拭き取りが行われていなかった。これらより,拭き残しの主な原因は,装置側の要因として装置側面の凹凸,検査者側の要因として教育の浸透不足が示唆された。超音波検査実施における交差感染のリスク低減には,超音波診断装置の清掃・消毒に関するコンプライアンス調査結果のフィードバックによる教育と啓発とともに,リスク評価を踏まえた標準的な作業手順書作成やチェックリストに基づくコンプライアンス向上が必要である。
  • 杢保 成一, 鈴木 育宏, 河原 栄
    原稿種別: 原著
    2016 年 65 巻 2 号 p. 181-187
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    ヒト上皮成長因子受容体タイプ2(Human epidermal growth factor receptor Type2; HER2)は乳癌患者の約20–30%で過剰に発現し,HER2過剰発現乳癌は,トラスツズマブ,ラパチニブ,ペルツズマブ,トラスツズマブ エムタンシンなどの抗HER2療法の対象となる。HER2過剰発現の有無は,乳癌の診断・治療において重要であり,病理組織学的にHER2の評価が行われているが,血清HER2濃度の臨床的有用性は明確ではない。我々は組織HER2陰性乳癌患者における血清HER2濃度測定の重要性を検討した。通常診療時に,血清HER2濃度を測定した乳癌患者210名を対象にした。乳癌患者における血清HER2濃度と臨床病期,治療効果の評価を行った。組織HER2陰性乳癌患者における血清HER2濃度と腫瘍径,遠隔転移,CA15-3濃度の評価を行った。血清HER2濃度が低いほど治療効果を認めた。腫瘍径と血清HER2濃度に正の相関性を認めた(r = 0.485, p < 0.001)。遠隔転移症例の血清HER2濃度は非遠隔転移症例の血清HER2濃度よりも高かった(p = 0.007)。血清HER2濃度とCA15-3濃度に正の相関性を認めた(r = 0.933, p < 0.001)。組織HER2陰性乳癌患者においても血清HER2濃度は検出され,診療の補助検査として血清HER2濃度を測定する有用性が示唆された。
症例報告
  • 原田 崇浩, 村田 正太, 橋本 幸平, 大塚 喜人
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 65 巻 2 号 p. 188-192
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    洞不全症候群治療でのペースメーカー挿入を契機に発症したPaenibacillus pasadenensisP. pasadenensis)による菌血症の1例を経験したので報告する。症例は30年前から高血圧治療中の78歳女性.労作時違和感から洞不全症候群を疑い,精査加療目的にて入院となった。後日,根本的治療のため,体内式ペースメーカー挿入術施行後38℃台の発熱を認めた。血液培養2セットの採取が実施され,48時間後グラム陰性桿菌を認めたが,同定検査は判定不能であった。サブカルチャーで発育したコロニーから,再度グラム染色を実施したところグラム陰性に染色された有芽胞桿菌を認めた。また劉の方法(3%KOH法)の結果と併せて総合的にグラム陽性有芽胞桿菌と判定した。しかし,自施設の有する自動同定機器および簡易同定キットでは判定不能であったため,質量分析装置と16S rRNA塩基配列解析装置を有する外部機関に同定依頼を行ったところP. pasadenensisと同定された。生化学的性状から菌名を決定する既存の同定検査ではプロファイルのない本菌は判定不能であった。本症例のように同定不能時における質量分析と遺伝子学的検査の重要性を認識した一方で,グラム染色や劉の方法といった日常的に実施する検査の重要性についても再認識した症例であった。
技術論文
  • 宮尾 恵示, 土居 忠文, 島﨑 睦, 宮﨑 詩織, 小倉 克巳, 松村 敬久, 杉浦 哲朗
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 2 号 p. 193-197
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    糖尿病の3大合併症である,腎症・網膜症・神経障害は,細小血管障害により引き起こされる。細小血管に障害が生じると,腎葉間動脈では抵抗係数(resistive index; RI)が上昇する。今回われわれは,糖尿病患者における空腸動脈の血管障害の有無を知るため,空腸動脈の収縮期最大血流速度(peak systolic velocity; PSV)・拡張末期血流速度(enddiastolic velocity; EDV)・RIを計測し,腎葉間動脈のPSV・EDV・RIとの比較検討を行った。腎葉間動脈と空腸動脈のRIは共に高値を示し,糖尿病群の葉間動脈RIと空腸動脈RIに良好な正の相関を認めた。糖尿病患者では空腸動脈にも障害が及んでいると考えられる。
  • 田邊 紀子, 阪口 恵美, 辺 泰樹, 山本 享子, 波多野 由美, 松田 ひろみ, 金谷 美佐子, 住吉 徹哉
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 2 号 p. 198-203
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    【背景】ホルター心電図電極の皮膚前処理としてヤスリの使用は記録波形のノイズ低減において有用であるが皮膚障害の原因となり得る。今回我々はシールド構造のついた新電極(シールドセンサーNL4605H,日本ビニールコード株式会社製)について,従来電極との波形の比較を行った。【方法】9名において胸部に4つの異なる条件(新電極皮膚処理なし,従来電極皮膚処理なし,従来電極アルコール処理,従来電極アルコール + ヤスリ処理)でホルター心電図を同時に装着し,30秒間衣服を揺らすことでノイズを発生させ波形を記録した。波形の評価は,新電極波形を基準として従来電極の各波形を5段階(1:かなり良好,2:やや良好,3:ほぼ変わりない,4:やや不良,5:かなり不良)でスコアー化した。【結果】従来電極皮膚処理なしやアルコール処理のみではスコアーは高値であり新電極波形の優位性を認めた。アルコール + ヤスリ処理では未処理の新電極とほぼ同程度の評価であった。【結語】シールド構造を持つ新電極はアルコールやヤスリの前処理なしでもノイズに対して良好な波形が保持でき皮膚障害の予防につながることが期待できる。
  • 鈴木 孝夫, 小島 朋子, 磯崎 勝, 楯 玄秀
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 2 号 p. 204-208
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    特殊染色の中には反応液を用時調製しなければならないものがあり,その代表的なものはアゾ色素法によるナフトールASDクロロエステラーゼ染色である。それはナフトールASDクロロエステラーゼ染色の反応液が,調製後早々に不活性化されるからである。そこで我々は,用時調製した反応液を長期保存し,ナフトールASDクロロエステラーゼ染色を簡便で安定な染色とすべく,以下のような検討を行った。調製したての反応液を速やかに1.5 mLのマイクロチューブに1 mLずつ分注し,超低温冷凍装置を使用して急速凍結し,ディープフリーザー(−75℃)に保存した(急速凍結保存液)。3か月および1年間経過後,急速凍結保存液を急速解凍し,載せガラス法にて骨髄標本を染色し,用時調製の反応液を用いる従来法と染色性を比較した。その結果,急速凍結保存した反応液は,1年経過したものでも従来法と比べ遜色なく良好な染色性を示した。しかし,調製後暫くたってから急速凍結した反応液および緩やかに凍結した反応液は,染色性がかなり落ちていた。なお,濾過した反応液よりも濾過しない反応液の方が染色性は強かった。用時調製が必要であったナフトールASDクロロエステラーゼ染色は,急速凍結保存液を用いることにより,簡便で安定な染色に改良できた。この方法は,用時調製が必要である鍍銀染色やアセチルコリンエステラーゼ染色にも応用可能であった。
  • 山本 肇, 佐竹 奏一, 二本栁 洋志, 石幡 哲也, 折笠 ひろみ, 小熊 悠子, 高田 直樹, 齋藤 市弘
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 2 号 p. 209-215
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    中性脂肪測定系は,本邦では遊離グリセロール(FG)消去法であるのに対し,国際的には総グリセライド定量(FG未消去法)が日常検査に採用されている。国際標準化の観点から総グリセライド定量への将来的な移行が議論されつつある。消去法は投与ヘパリンが血管内皮細胞由来のリポ蛋白リパーゼ(LPL)活性を惹起し,中性脂肪測定に影響を及ぼすことが明らかとなっている。我々は,FG消去法およびFG未消去法による中性脂肪測定とヘパリン投与の影響の検討を行った。健診受診者111例を対象とした2法の差より求められるFG推定量はトリオレイン換算で4.56 ± 3.48 mg/dLであった。次に2法における保存の影響を検討した。健診受診者15例を対象とした検討では,保存条件によらず2法とも経時変化を認めなかった。一方でヘパリン治療患者12例(のべ17検体)を対象とした検討では,FG消去法において24時間後に冷蔵(4℃)保存93.3 ± 7.1%,室温(25℃)保存69.4 ± 16.1%と経時的な減少を認めた。維持透析患者33例(低分子ヘパリン使用18例,ヘパリンNa使用15例)を対象とした検討では,透析前採血であってもFG消去法で室温保存では24時間後に有意な低下を認めた。同様の傾向は透析後採血でも認められた。一方で,FG未消去法では保存による経時的影響を認めなかった。FG未消去法はヘパリン惹起性LPL活性の影響を認めず,ヘパリン治療患者や維持透析患者の中性脂肪評価において有用であると考えられる。
  • 岩田 英紘, 梅村 彩, 水野 良昭, 新田 憲司, 水嶋 祥栄, 長田 裕之, 瀬古 周子, 都築 豊徳
    原稿種別: 技術論文
    2016 年 65 巻 2 号 p. 216-221
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    目視で行われるHER2-FISH検査のシグナルカウントは,観察者によって結果に差が出る可能性がある。当院では自動カウント装置を採用しており,このシステムによる判定結果は,客観性や同一検体における再現性の面では,目視よりも優れていると考えられる。当院にて2014年4月から2015年3月においてHER2-FISH検査が行われた乳癌198例を対象とし,検体の採取法別(生検材料,手術材料),ホルマリン固定時間別(16~27時間,64~75時間,88~99時間),乳癌の組織型別(Papillotubular carcinoma, Solid-tubular carcinoma, Scirrhous carcinoma)の自動カウントの能否について検討した。全症例中,71.7%(142/198)で自動カウント可能であった。検体の採取法別では,手術材料(63.6%, 56/88)に比べて生検材料(78.2%, 86/110)の方が自動カウント率が有意に高かった。一方で,生検材料と手術材料ともに,ホルマリン固定時間別および乳癌の組織型別による自動カウント率に有意な差は認められなかった。自動カウント困難であった症例は,目視による判定は可能であった。今回の結果から,ホルマリン固定時間や乳癌の組織型の条件が異なる検体においても,画像解析装置により自動カウント可能であることが示唆された。
資料
  • 稲垣 泰良, 内山 真由美, 山本 均, 高柳 尹立
    原稿種別: 資料
    2016 年 65 巻 2 号 p. 222-228
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    免疫学的便潜血検査は大腸がん一次検診として広く普及している。近年,便潜血自動分析装置は検診時の大量検体の測定および精度の高い検査を求められる観点からも,その重要性は増している。そこで,我々は富山市医師会健康管理センターで現在使用している免疫学的便潜血自動分析装置「ヘモテクトNS-PlusC」(アルフレッサ ファーマ株式会社)の後継機として開発された免疫学的便潜血自動分析装置「ヘモテクトNS-Prime」(アルフレッサ ファーマ株式会社)を用いた便中ヘモグロビン・トランスフェリン測定の有用性検討を行う機会を得たので報告する。NS-Primeにおける同時再現性は変動係数(C.V.)が2%以内,日差再現性は3%以内,希釈機能を用いた同時再現性は1%以内と良好な結果が得られた。希釈直線性,プロゾーン現象の確認,キャリーオーバー試験,検出限界などの基礎的性能においても良好な結果が得られた。また,新型機(NS-Prime)と従来機(ヘモテクトNS-PlusC)との相関性も良好であった[Hb: y = 0.867x + 1.440, r = 0.987, n = 400, Tf: y = 1.030x + 2.572, r = 0.997, n = 400]。本装置は基礎的性能が優れ,処理能力等の向上も図られており,高い精度と業務の迅速性が求められる検診業務等に特に有用である。
  • 舟橋 恵二, 大岩 加奈, 河内 誠, 岩田 泰, 野田 由美子, 中根 一匡, 西村 直子, 尾崎 隆男
    原稿種別: 資料
    2016 年 65 巻 2 号 p. 229-234
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    2013年4月~2014年3月に,当院小児科を受診した気道感染症患者215例(6か月~14歳0か月,中央値5歳2か月)からA群溶血性レンサ球菌を215株分離した。全分離株についてT血清型と15種抗菌薬(PCG,AMPC,CTX,CTRX,CDTR,CFPN,PAPM,IPM,EM,CAM,CLDM,MINO,TFLX,LVFX,VCM)のMIC値を測定し,過去にわれわれが行った4回の調査成績と比較した。2013年の血清型別分離率は,12型34%,B3264型30%,1型11%,28型9%の順であった。各血清型の分離率は調査時期により異なったが,12型は過去4回を含むすべての調査において中心を占めていた。EM,CAM,CLDM,MINO,TFLX,LVFXにはそれぞれ58%,58%,49%,5%,8%,2%が耐性を示し,CLDM耐性株は全てEMおよびCAMにも耐性であった。過去4回を含む計1,696株において,βラクタム系抗菌薬およびVCMの耐性株はなかった。EMおよびCAM耐性率は,それぞれ1996年9%,未検討,2001年14%,13%,2003年20%,20%,2006年20%,20%と漸増し,2013年には共に58%まで上昇した。これまでに最も多く分離された12型では,血清型別のEMおよびCAM耐性率が2006年の共に20%から,2013年には共に85%と著しく上昇した。
  • 森田 賢史, 金子 誠, 盛田 和治, 曽根 伸治, 大久保 滋夫, 矢冨 裕
    原稿種別: 資料
    2016 年 65 巻 2 号 p. 235-239
    発行日: 2016/03/25
    公開日: 2016/05/10
    ジャーナル フリー
    正しい病態診断のためには,言うまでもなく的確に実施された臨床検査によるデータが必要不可欠となっている。臨床検査は検体検査と生理検査に大別されるが,前者においては適切な検体採取が重要であり,なかでも特に血液のサンプリングである採血手技については検体検査の基礎知識と言っても過言ではない。したがって,検体検査に関わるすべての医療従事者は,正しい知識を有していなければならない。このため,当院検査部では,2010年から「正しい採血と検体の取扱いおよび提出法―正確な検査結果を得るために―」と称して,日常臨床で臨床検査に深く関わりをもつ医師および看護師などの医療従事者を対象にして講習会を実施してきた。我々は講習会開催後に,次回の講義に向けてその内容を改善する目的で講習会に関するアンケートを実施してきたが,本稿ではその数回にわたる当院でのアンケート調査を基に,採血および検体の取扱いに関する医療従事者の認識すべき点を考察した。
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