医学検査
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原著
  • 津藤 有子, 若杉 志穂, 杉山 嘉史, 海老名 俊明, 廣瀬 春香
    原稿種別: 原著
    2024 年 73 巻 2 号 p. 205-214
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    臨床検査室は,患者の予後に影響を与える可能性が高い異常値・異常所見を早期に検査依頼医師に連絡することが求められている。しかしながら脳波検査における緊急報告は,各施設に委ねられているのが現状であり,検査室からの調査報告は少ない。我々はISO 15189(国際標準化機構 臨床検査室―品質と能力に関する特定要求事項)の認定取得を機に神経学的予後への影響を考慮した緊急報告値(波形)を定めた。2015年4月~2022年3月までの緊急報告事例を調査した結果,143件の緊急報告があった。緊急報告の割合は,外来患者が多く含まれる検査室実施に比して病棟実施が高かった。緊急報告値は非けいれん性てんかん重積とけいれん性てんかん重積が半数以上を占め,これらを報告した診療科は,重症患者を扱う高度救命救急センター,脳神経内科,心臓血管センターが大半であった。非けいれん性てんかん重積56症例のうち21例で意識障害の改善が確認されたが,死亡が12例であり,23例に改善はみられなかった。加えて,設定した緊急報告値以外にも医師が予測していなかった患者の状態や波形を報告したことで,患者のQOLが維持された事例があった。今回の調査により脳波検査の緊急報告は,患者への早期治療介入および神経学的予後改善に貢献できる可能性があると考えられた。

  • 日野出 勇次, 梅橋 功征, 中釜 美乃里, 岡村 優樹, 原田 美里, 大迫 亮子, 久保 祐子, 西方 菜穂子
    原稿種別: 原著
    2024 年 73 巻 2 号 p. 215-222
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    目的:トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)は心症状に先行して手根管症候群を発症するとされている。今回,我々はATTR-CMにおける神経エコー検査の有用性について検討した。対象と方法:当院にてATTR-CMが疑われた18例を対象に,確定診断された11例をATTR-CM群,除外された7例を非ATTR-CM群とし,神経エコー検査による正中神経の手首位(Wrist)と前腕位(Forearm)の断面積(CSA),手首前腕正中神経CSA比(WFR),心アミロイドーシス(CA)を疑う経胸壁心エコー図検査(TTE)所見の検出頻度を比較した。結果と考察: ATTR-CMと非ATTR-CM群の神経エコー検査のCSAはWrist(18.0 mm2(IQR: 16.0–20.8)vs 10.0 mm2(10.0–11.0); p < 0.05),WFRは(2.24(IQR: 2.00–2.42)vs 1.16(1.03–1.26); p < 0.05)と有意差を認めたが,ForearmのCSAには有意差を認めなかった(p = 0.457)。CAを疑うTTE所見の検出頻度はATTR-CM群で心膜液貯留27%,右室壁肥厚64%,心房中隔肥厚64%,E/A ≥ 2.0 36%,Apical sparing 73%であった。一方,WFR(≥ 1.5)はATTR-CM群全例で認めた。結語:神経エコー検査はATTR-CM診断の一助になり得る可能性が示唆された。

  • 村越 大輝, 久住 裕俊, 平松 直樹, 薗田 明広
    原稿種別: 原著
    2024 年 73 巻 2 号 p. 223-229
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    2017年6月14日に公布された医療法等の一部を改正する法律に伴い,臨床検査技師等に関する法律が改正され検体検査業務を行う医療機関や登録衛生検査所等における精度管理基準が明確化された。生化学検査を実施している施設の9割以上が内部精度管理(internal quality control; IQC)を実施しており,既知濃度の管理試料を測定し,自施設で設定した精度管理幅(以下,管理幅)で精度を確認している。管理試料が新ロットに変更になる際には,新たな管理幅を設けるために1か月程度,現状および新ロットの管理試料を併行測定して標準偏差を取得する必要があり,時間と費用を要する。本研究では,管理試料が新ロットに変更となる際に,極力,時間と費用をかけず管理幅用の標準偏差の取得方法を考案した。管理幅を取得するための検証結果は,①ロットの異なるQAPトロールの精密度に差はなかった。②1か月間ごとのIQC測定値をBonferroni法で比較した結果,多くの群間で有意差を認めた。③6か月以上のIQC測定値の平均値を集計することでCVのバラツキは軽減した。これらから,最低6か月間のIQC測定値から算出したCVを用いて目標値に対するSDを算出する。IQCを実施しデータを蓄積している施設においては簡易的かつ費用をかけずに自施設の精密度を反映した管理幅を算出できるため,多くの施設で活用できる管理幅設定法と考える。

技術論文
  • 藤田 裕太, 中村 博, 小関 ほの香, 片山 ひかり, 喜納 勝成, 橋爪 茜, 泉 浩, 冨田 茂樹
    原稿種別: 技術論文
    2024 年 73 巻 2 号 p. 230-236
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    過ヨウ素酸メセナミン銀染色は,腎臓の病理組織学的な観察をする上で重要な染色の一つである。しかし,切片厚や銀反応時間の曖昧さなどから,染色性にバラツキが生じやすい染色法とされる。今回我々は,本染色におけるメセナミン銀反応中の経時的変化および経時的変化を利用した反応終点と有用性について検討した。対象には腎パラフィンブロックを用い,2 μm厚で薄切した。銀液の加温は攪拌効果と反応時間短縮のためにマイクロウェーブ,マイクロウェーブを使わない方法としてパラフィン溶融器を使用した。反応温度は,銀反応過程を観察しやすい45℃と本染色に一般的である65℃を用いた。染色法にはチオセミカルバジドを用いた過ヨウ素酸メセナミン銀染色に従い,メセナミン銀染色における経時的染色性の変化と反応終点について,顕微鏡下での視覚的評価を行った。銀反応の経時的な変化はメサンギウム基質に次いで糸球体基底膜,尿細管刷子縁の順に黒色呈色反応が進んだ。反応終点は糸球体基底膜,メサンギウム基質が黒色を呈し,同時に尿細管刷子縁が一本の線状に茶褐色または茶色変化を示した時点を終点とすることで良好な染色性が得られ,染色の再現性が向上した。

  • 内野 素乃子, 前之園 隆一, 中島 篤人, 波野 史典, 政元 いずみ, 山口 宗一, 橋口 照人
    原稿種別: 技術論文
    2024 年 73 巻 2 号 p. 237-241
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    血液ガス分析装置は,患者の呼吸・循環状態を把握するために,医療現場や検査室において医療従事者が使用する検査機器である。今回,血液ガス分析装置(ABL 800 FLEX)は測定可能状態であったが,医師からpHが患者の病態に反して異常低値に測定されているという指摘を受けて,原因の追究・対策を行った。指摘された動脈血検体はpH 7.282と低値であったため,同機種の別の血液ガス分析装置で測定するとpH 7.410となり病態と一致した。原因を追究したところ,血液ガス分析装置のpH電極に血液凝固塊が付着していたことで,pH電極が正常に測定できないことが原因であった。そこで,血液ガス分析装置のpH電極に血液凝固塊認識機能を設定し,凝固塊を認識すると装置が異常メッセージを出し,pH電極が測定不可となる対策を行い,検証を行った。病棟,外来,救急部および集中治療室に設置した同機種5台について,血液凝固塊認識機能が作動した割合を集計したところ,外来に設置した血液ガス分析装置が最も高率に発生していた(p = 0.01)。外来では主に小児科が使用しており,小児からの採血は困難であったこと,測定手技や検体の取り扱いに問題があったことから,凝固した検体が多かったと考えた。今回,血液凝固塊認識機能を設定することにより,血液ガス分析装置のpH測定異常を測定中に検出し,迅速な対応が可能となった。血液ガス分析において,採血時の血液凝固を防ぐ手技と,pH電極への凝固塊付着を認識する有効な機能を紹介する。

  • 岡田 光貴, 天田 実玖, 柏原 紗季, 葛城 古都, 堂前 美晴, 森脇 柾, 山内 涼平, 吉田 純
    原稿種別: 技術論文
    2024 年 73 巻 2 号 p. 242-250
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    除タンパク処理法とは試料液からタンパク質成分を除去する方法であり,目的物質の測定に際してタンパク質の妨害が考えられる場合に実施する。方法は複数報告されているが,それぞれの除タンパク性能の比較検証はほとんど為されていない。本研究では,各手法の除タンパク性能と,その性能を評価するために有用な実験手法を比較検討した。飽和硫酸アンモニウム(AS),アセトン,アセトニトリル,10%トリクロロ酢酸(TCA),1N過塩素酸,10%スルホサリチル酸,10%タングステン酸ナトリウム・2/3N硫酸(TGA)から1種類を血清に等量添加することで,除タンパク処理を実施した。その後,血清の外観・色度,Lowry法,電気泳動,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析,生化学自動分析といった5手法の除タンパク性能を評価した。ASとTGAで処理した血清は,上記いずれの分析法でも,元々の血清タンパク質の1/2–1/3程度の量が残存している結果となった。TCAで処理した血清は残存するタンパク質が極めて微量で,優れた除タンパク性能が示された。尿酸,尿素窒素,クレアチニンに除タンパク処理が与える影響は小さかった。自動分析以外では電気泳動法やHPLC分析が,タンパク残量の評価に優れることが判った。臨床検査等で被検試料に除タンパク処理を実施する場合,目的物質に与える影響を十分に考慮して方法を選択する必要がある。

  • 三上 英子, 手代 森隆一, 北澤 淳一
    原稿種別: 技術論文
    2024 年 73 巻 2 号 p. 251-257
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    心筋トロポニンIは心筋の損傷に特異的なマーカーとして知られており,健常人の99パーセンタイル値(判断値)を用いて心筋損傷の有無を予測する。測定試薬には高感度の定義があり,急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂)でも高感度トロポニン測定が推奨されている。今回,化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)を測定原理としたビトロス 高感度トロポニンI(ビトロスcTnI)の基礎的性能を評価し,患者検体を用いて対照試薬との臨床的有用性を評価した。ビトロスcTnIの併行精度は変動係数0.86~2.44%,室内再現性は変動係数2.19~4.57%と良好であった。共存物質の影響はビリルビンFで濃度依存的に低下傾向が確認できたが他の共存物質の影響は軽微であった。比較対照法のAIAパックCLトロポニンIとの相関はr = 0.983,y = 0.738x − 3.39と良好で,エクルーシス試薬トロポニンT hsとはr = 0.789,y = 3.149x − 60.969であった。AIA試薬との判断値での判定一致率は92.1%,エクルーシス試薬とでは86.7%であった。各試薬で判断値付近での乖離例が多い傾向が見られ,心電図やその他の検査結果も含めて臨床判断をする必要がある一方で,ビトロスcTnIはトロポニンが上昇することがないと言われている症例群において判断値以下となる傾向にあり,疾患特異性が高く急性心筋梗塞の診断に有用と考えられた。

  • 岡田 光貴, 松尾 佳乃
    原稿種別: 技術論文
    2024 年 73 巻 2 号 p. 258-270
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    馬鈴薯が有する自然毒成分α-ソラニン(SO)およびα-チャコニン(CHA)はしばしば食中毒の原因となる。我々は以前,SOとCHAに結合するポリクローナル抗体(anti-Sold antibody)を作製し,それを使用した酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を構築した。このELISAはSOとCHAの検出感度が低いという弱点があるため,本研究ではその改善を図った。試料中のSOおよびCHAをELISAプレートにコーティングし,そこにビオチン標識したanti-Sold antibodyを添加,さらにペルオキシダーゼ標識したストレプトアビジンを添加するELISAを試みた。本法により,10 mMリン酸緩衝液で調製したSOとCHAを含む試料の吸光度は,従来のELISAの約5倍に増強した。さらに,ヒトの血清および尿で調製したSOとCHAを含む試料の吸光度は,従来のELISAのそれぞれ約2.5倍と約1.6倍に増強した。本ELISAを用いて,馬鈴薯の塊茎,皮,芽の成分抽出液からもSOとCHAの含有量を測定することが可能であった。一方で,本ELISAは,SOやCHAと化学構造が類似する物質であるソラニジンやソラソジンと交差反応を示し,血清中のコレステロールとも反応することがわかった。本ELISAはヒトの生体試料にも適応可能な検出性能を有するが,結果の判定には交差反応を充分に考慮すべきである。

  • 北川内 優佳, 竹村 侑紀, 福嶋 理香, 石原 綾子, 横山 俊朗, 中村 朋文, 松岡 雅雄, 田中 靖人
    原稿種別: 技術論文
    2024 年 73 巻 2 号 p. 271-277
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    (1→3)-β-D-グルカン測定は,深在性真菌症の診断補助に用いられる。当院では,これまで富士フイルム和光純薬株式会社のトキシノメーターMT-6500(比濁時間分析法)を用いて測定を行っていた。近年,同社より発色合成基質法による測定が可能なリムセイブMT-7500が発売された。そこで,我々は比濁時間分析法を測定原理とする「β-グルカンテストワコー」と,発色合成基質法を測定原理とする「β-グルカンシングルM30テストワコー」の臨床性能を比較するための基礎的検討を行った。発色合成基質法の併行精度,室内再現精度,直線性,定量限界,共存物質の影響に関する基礎的検討は,いずれも良好な結果を示した。さらに,比濁時間分析法に比べて測定時間は約70分短縮され,非特異的な反応も軽減された。比濁時間分析法と発色合成基質法のpassing-bablok法による測定範囲全域の回帰式はy = 0.917x − 0.054,r = 0.9562となり,それらの陽性一致率は84%,陰性一致率は100%,判定一致率は87%であった。判定不一致(比濁時間分析法:陽性,発色合成基質法:陰性)は7症例で認められ,症例の背景から,BDG混入の可能性,非特異的反応による比濁時間分析法の偽陽性,発色合成基質法の偽陰性の可能性などが推定された。本研究結果から,「β-グルカンシングルM30テストワコー」の基礎的性能は良好であると判定した。比濁時間分析法と比較して測定時間の大幅な短縮と非特異反応が軽減されたことから,迅速かつ正確な深在性真菌症の診断に貢献し得ると考えられた。

  • 加藤 憂朔, 帖佐 光洋, 神戸 歩, 上野 嘉彦, 安藤 穂乃実, 白上 洋平, 菊地 良介, 大倉 宏之
    原稿種別: 技術論文
    2024 年 73 巻 2 号 p. 278-284
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    全自動血液凝固測定装置CN-6500(シスメックス株式会社)(以下,CN-6500)は,凝固線溶系分子マーカー項目の測定機構を兼ね備えた機器である。今回,CN-6500を用いた凝固線溶系分子マーカーのトロンビン-アンチトロンビンIII複合体(TAT),プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)と組織型プラスミノゲンアクチベータ・プラスミノゲンアクチベータインヒビター1複合体(tPAI-C)の基礎的性能評価を行った。評価内容は,併行精度,室内再現精度,直線性,検出限界,干渉物質の影響,ビオチン添加試験,およびCN-6500とHISCL-5000(シスメックス株式会社)の相関とした。併行精度,室内再現精度,直線性評価と検出感度は3項目とも良好であった。溶血ヘモグロビン,ビリルビンCおよびF,乳びによる干渉物質の影響は認めなかった。しかし,3項目ともビオチンにより相対値 −10%以上の影響を認めた。対象機器間の相関性(HISCL-5000: x, CN-6500: y)は,TATがy = 1.013x − 0.269(r = 0.998),PICがy = 1.026x − 0.134(r = 0.998),tPAI-Cがy = 0.944x + 0.028(r = 0.999)と良好であった。ビオチンによる影響を一部認めたが,CN-6500は凝固線溶系分子マーカーの院内検査化に有用な装置であると考えられる。

資料
  • 猪田 猛久, 髙橋 秀一
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 285-293
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー HTML

    総コレステロール(TC)値,高比重リポタンパクコレステロール(HDL-C)値および中性脂肪(TG)値から低比重リポタンパクコレステロール(LDL-C)値の推定値が得られることは知られている。Friedewaldの式(F式)は,LDL-C値=TC値-HDL-C値-1/5 TG値である。このF式を利用して,TC値からHDL-C値とLDL-C値を差し引き,更にTG値に0.15を乗じた値を差し引くと(TC値差),多くの検体は「0 mg/dL」を中心に収束するが,中には「0 mg/dL」から大きく乖離する検体に遭遇する。今回その乖離した事例について,2019年12月から2021年11月の2年間に,当院で脂質4項目の依頼のあった中でTC値差が ±25 mg/dLを超えた症例から58例,±25 mg/dL以内であった症例から8例をそれぞれ無作為に抽出し,精査を行った。精査として,コレトリコンボ,リポフォーによるリポタンパク電気泳動の実施およびリン脂質,遊離コレステロールを測定した。その結果 +25 mg/dLを超えた48例のうち16例にLP-X,19例にLP-XまたはLP-Yの存在の可能性があり,1例にslow αを認め,12例は異常リポタンパクの存在を肯定できなかった。−25 mg/dLを下回った10例は全てTG値が300 mg/dL以上であった。また上記以外で±15 mg/dLを超えた事例で測定の不具合,HDL-Cの異常反応の検出にも寄与した。TC値差を管理することで異常リポタンパクの検出に役立つだけでなく脂質4項目のデータ保証にも繋がると考えられた。

  • 小島 光司, 井上 美奈, 左右田 昌彦, 奥村 諭, 髙田 康信
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 294-300
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    深部静脈血栓症(DVT)を含む静脈血栓症は外科的手術後や出産後に多く発症するため周術期管理が重要視されているが,経皮的カテーテル心筋焼灼術(CA)の周術期に関連した報告は少ない。CA施行後におけるDVT発生率および発生因子について超音波検査を用いた調査・解析を行い,CA周術期における下肢静脈超音波検査(下肢静脈US)の有用性について検討したので報告する。当院にて非心房細動に対するCAを施行し,術後翌日に下肢静脈USを施行した連続195例のうち,経口抗凝固薬を投与されていない104例を対象とした。下肢静脈USにてDVTの有無および部位を調査し,患者背景や術前血液検査値,CA手技について統計学的解析を行った。104例中8例(7.7%)にDVTを認めた。発生部位は右大腿静脈2例,左右ヒラメ静脈1例,左ヒラメ静脈4例,右ヒラメ静脈1例であった。6例が末梢型DVT,2例が中枢型DVTであった。中枢型DVTは全例が右大腿静脈血栓であり,穿刺部と同部位であった。DVT発生群は非発生群と比較し,70歳以上の症例が多く,DVTの既往を有する症例が多く,D-dimerが高値であり,術後臥床時間が長かった(p < 0.05)。CA周術期におけるDVT発生には年齢,DVTの既往,術前D-dimer値,術後臥床時間が関与しており,早期診断にはCA後の下肢静脈USが有用と考える。

  • 小山 郁子, 佐藤 真由美, 山口 真裕子, 菅原 拓也, 松尾 崇史, 笠井 隆之, 三好 菜摘, 住友 みどり
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 301-307
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    我々はSARS-CoV-2遺伝子検出機器2種類,および外部委託検査の性能評価を行った。機器は,TRCReady-80®(TRC),GeneXpert®(GX),外部委託検査はTaqPath reagents(TaqPath)である。検出限界の確認にはEDX SARS-CoV-2 Standard®を生食で希釈し,4.3,17,34,43,170,340,1,700 copies/mLの試料を作成した。各試料はTRCとGXで測定し,検出限界はそれぞれ430 copies/mLと170 copies/mLで,GXの検出限界の方がTRCより低濃度だった。SARS-CoV-2非感染者15名,感染者13名を対象として鼻咽頭ぬぐい液を採取し,方法間の一致率を確認した。被験者からスワブを2本採取し,1本はUTMブロスで懸濁後,GXとTaqPathの測定に使用し,1本はTRC専用の変性試薬で懸濁した。TRCとGXは当日に測定し,TaqPathは翌日に測定した。非感染者検体は全て陰性だった。感染者の結果はGXで全て陽性であったが,TRCとTaqPathはいずれも3件の陰性,10件の陽性であった。GXとの判定不一致例のCt値は35以上だった。この乖離は,機器の検出感度の差異や,サンプル中の遺伝子の断片化によって引き起こされたと考えられる。我々は機器の特性を知って分析機を選ぶ必要がある。

  • 伊藤 葉子, 藤野 達也, 荒武 良総, 松下 義照, 荒川 仁香, 國府島 庸之, 福泉 公仁隆, 中牟田 誠
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 308-315
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    直接作用型抗ウイルス治療が登場し,C型肝炎患者の多くでウイルス学的著効が可能となった現在,感染スクリーニングの一環としてHCV抗体検査を受けた患者から未診断のC型肝炎患者を拾い上げ,適切な治療に導くことは肝炎撲滅に向けて非常に重要である。当院では2018年2月からHCV抗体陽性者を対象とした電子カルテアラートシステムを導入したが,このシステムだけではC型肝炎患者の拾い上げが不十分であることが分かった。そこで,2022年9月から肝臓専門医と臨床検査技師による肝炎チームを立ち上げ,HCV抗体陽性の患者から未診断のC型肝炎患者を拾い上げるための新たなシステム「肝炎パトロール」を開始した。開始6ヵ月間で,肝臓専門医以外からオーダーされたHCV抗体陽性の患者124例のうち,電子カルテアラートシステムのみで対応が行われた患者は83例(67%),対応が行われなかった患者は41例(33%)であった。対応が行われなかった41例には肝炎チームが介入し,40例でHCV抗体陽性への対応が追加されたため,HCV抗体陽性患者への対応率は67%から99%に向上した。また,チームの介入により,6例が新たにC型肝炎患者と判明した。自動の電子カルテアラートシステムだけでなく,肝炎パトロールのような人の手が加わったシステムは,HCV抗体陽性の患者からC型肝炎患者を効果的に拾い上げるのに非常に有用であることが示された。

  • 三宅 雅之, 飯尾 耕治, 池田 亮, 東影 明人, 大塚 文男
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 316-322
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    当院の検査部門は2007年7月にISO 15189の認定を取得した。これまでISO 15189の認定を維持管理してきたなかで,内部監査での機材管理に関連する不適合数が減少しないことが問題となった。そこで,機材管理を簡便かつ適切に行える機材管理システムの開発を行った。当院の医療用端末にインストールされているMicrosoft Accessを用いてリレーショナルデータベース(RDB)を独自に構築し,それに付属するVisual Basic for Applications(VBA)を用いてアプリケーション開発を行った。RDB構築にあたってISO 15189の要求事項を過不足なく管理できることを意識し,なおかつ変更履歴を容易に確認できるようにするため一部のテーブルでは世代管理の仕組みを取り入れた。構築した機材管理システムは2019年6月から運用開始し,これまで複数回のバージョンアップを繰り返しながら稼動している。内部監査での機材管理に関連する不適合数では,機材管理システムを導入する以前の2013年度では13件あった不適合数が導入後の2022年度では7件まで減少した。機材管理システムを導入したことにより適切に機材管理できるようになったと考えられる。また,独自に開発したシステムであるためバグ修正や機能追加が容易であり,要求事項を満たし,かつ今の検査室にとって適切なシステムを維持しやすいと考えられた。

  • 土井 洋輝, 石田 秀和, 永沢 大樹, 坪井 良樹, 菊地 良介, 市野 直浩, 秋山 秀彦, 齋藤 邦明
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 323-331
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    近年,大規模言語モデル(large language models; LLM)が世界的に様々な分野で注目を集めている。LLMとは,非常に巨大なデータセットとディープラーニング技術を用いて構築された言語モデルである。LLMは,人間に近い流暢な会話が可能であり,自然言語を用いたさまざまな処理を高精度で行えることから,世界中で注目を集めている。本研究では,LLMであるOpenAI社が開発したChatGPTの異なる2つのモデル(GPT-3.5, GPT-4)にて,過去3年間の臨床検査技師国家試験におけるChatGPTの正答率について評価を行った。GPT-3.5による正答率の平均は51.4%であった。一方,GPT-4では79.8%の正答率結果が得られた。本結果より,ChatGPTはこの先医療現場における有効なアドバイザーとして進化する可能性をもつことが示唆された。しかし,今回不正解となった20%の中には,患者を診断する際に誤診につながりかねない回答が含まれており,今後のChatGPTの精度向上は必須と考えられる。今回の検証は,LLMにおけるChatGPTの臨床検査領域での多様な応用の進展に寄与すると考えられ,この先の発展に期待したい。

  • 長谷野 優作, 大貫 望, 井上 真理奈, 三輪 佑果, 鵜原 日登美, 平 資久, 石崎 一穂, 金子 誠
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 332-336
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    β2MGは尿pHが5.5以下の場合には酸性プロテアーゼにより偽低値となることが知られている。このため,外部受託検査検体の提出条件にも「pH 5.5~7.5で提出」と記載されているが,pH調整の推奨方法は特に示されていない。そこで,尿中β2MGと検体pHの関係を明確にし,適正な検査提出方法について改めて評価することを目的とした。対象は,尿検査の依頼のあった外来患者検体26件とした。pH調整の有無,保存方法の違い(室温,冷蔵,凍結)の条件設定を行い,測定までの経過時間の差異による尿中β2MG値の低下率を比較した。尿pH 6.0~7.5の検体においては,24 h後の尿中β2MG低下率は小さかった。尿pH 4.7~5.5の検体では,室温保存,冷蔵保存,凍結保存の順に24 h後の尿中β2MGの低下率が大きかった。これらのことから,pH 6.0以上の尿中β2MGは酸性プロテアーゼの影響を受けにくく,pH 5.5以下の尿中β2MGは影響を受けやすいと改めて示された。また,酸性尿検体において室温保存が最も尿中β2MGの分解が速く,凍結保存,冷蔵保存の順に酸性プロテアーゼの影響を受けにくくなると考えられた。したがって,尿検体採取後,迅速に測定をする,または直ちに尿pHを確認し,適正な検体処理・検査提出を行うべきであり,これにより本来の尿中β2MG値を臨床に報告することができると示唆された。

  • 成清 羊佳, 小林 隆樹, 相羽 拓矢, 国仲 伸男, 苅部 正宏, 秋元 成美, 山川 博史, 石井 源一郎
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 337-345
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    近年,わが国では臨床検査の精度保証がクローズアップされ,急速に第三者認定の取得が重要視されるようになり,ISO 15189認定を取得する施設も増えてきている。一方,米国においては,CLIA’88(臨床検査改善勧告法1988)の施行によって,人の検査材料を扱うすべての臨床検査室は政府機関によって承認された臨床検査室認定機関による認定を受けなければならない。その中で,最も大規模で歴史のある精度が,米国病理医協会(College of American Pathologists; CAP)が提供している臨床検査室認定プログラム(Laboratory Accreditation Program; LAP)である。国立がん研究センター東病院(当院)は,2013年からISO 15189認定を維持継続しているが,当院のビジョンでもある「世界レベルの新しいがん医療の創出」を達成するために2019年よりCAP認定取得を目指し,約3年間の準備期間を経て2022年8月にCAP認定を取得した。そこで,そのCAP認定から得られた経験をもとに,CAPの概要や技能試験の有用性,査察前の病理検査室での取り組み,本査察での対応,さらに査察後の是正やCAPを継続していく上でみえてきた課題について報告する。

  • 飴本 久子, 山本 慶和, 下村 大樹, 嶋田 昌司, 上岡 樹生, 畑中 徳子
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 346-353
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    はじめに:重度の高カリウム血症は心停止の危険性があり,早期の治療が必要である。天理よろづ相談所病院では血清カリウム値が6.0 mmol/Lを超えた場合を極異常値と設定し,直ちに主治医に報告している。本研究では,極異常値速報に対する医師の対応を調査し,現在の速報体制の改善点について検討した。方法:対象は1年間で高カリウムの極異常値を示した外来患者131名とした。外来での治療状況と高カリウム血症の誘因,速報後の主治医の対応,緊急処置の有無,心電図所見,血清カリウム値とその変化量について調査した。結果:高カリウムの誘因は,慢性腎臓病,過剰摂取,薬の副作用が80%を占めた。緊急処置を要した患者は20例で,14例が7.0 mmol/L以上,または1.5 mmol/L以上の上昇を示した。速報時,8人の患者は診療科に不在で,うち6人は主治医から自宅に連絡し,1人は急性腎不全で緊急入院となった。心電図検査を必要とした29人中6人は2.0 mmol/Lの血清カリウム値の上昇があった。また緊急処置の有無を判断するのに,血清尿素窒素の変化量と血清クレアチニンの変化量が有用であった。結論:現行の外来患者への高カリウム極異常値報告は,医師の対応から有用であると評価できたが,速報時に患者が不在である例も確認できた。外来診療科との連携を強化し,極異常値報告の体制を改善する必要性が明らかとなった。

  • 上原 俊貴, 金谷 直哉, 犬丸 絵美
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 354-359
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    【はじめに】ISO 15189認定を受けた検査室にとって,「質の高い」内部監査が非常に重要である。それを実現するためには,内部監査を行う人員の力量は重要な要因の1つである。長年ISO 15189を運用する中で力量低下が問題となり,その対策として現状把握,及び対策後の力量評価を実施したため報告する。【方法】現状把握として2018年度時点で,力量が認定されていた主任監査員21名の力量評価を行った。2019年度以降,監査の主体的役割を内部監査委員が担うこととし,前半・後半の2回の監査において同様に評価を行った。得られた結果に対して統計学的検討も行った。【成績・結果】主任監査員の力量評価の結果,平均41.4点,変動係数(CV%)は約26%で,高得点者は3名(約14.3%)であった。内部監査委員の前半では,平均49.1点,CV%も約13%と改善がみられた。高得点者は1名(約11.1%)であった。後半の力量評価では,平均55.7点で,高得点者は5名(約56.6%)であった。統計学的検討にて有意差も認めた。【結論】内部監査を行う者の力量について,独自の評価シートを用いて評価を行った。結果を分析して対策を講じることにより,力量の向上に繋がった。今後も運用を継続しながら評価項目等をアップデートし,より質の高い内部監査を安定的に実施できるよう取り組んでいきたい。

  • 成田 慎治, 青島 秀幸, 宮崎 未緒, 中野 佑香, 野崎 聡, 石垣 歩, 大関 健志, SATO BARAN Iri
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 360-365
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    健常者(協力社員)における新型コロナワクチンの血清IgG型SARS-CoV-2抗体価の経時的変化を検討した。対象は28歳~58歳の男性5名と女性2名の計7名で,2021年7月にモデルナ社の新型コロナワクチン(mRNA-1273)の第1回接種をうけた。2回目は1か月後,3回目は8か月後に接種された。ワクチン接種前の測定は未実施のため,2回目接種時の抗体価を各人の前値とした。接種後はピーク時まで1週毎に抗体価を測定し,以後4週毎に24週後まで抗体価及び半減期T1/2の経時変動を解析した。更に計画終了後,2名がオミクロン株に感染したため,4回目接種者1名と共に追加検討した。2回目,3回目接種後のピークはそれぞれ1~2週及び2~3週となったが,全例で3回目接種後の方が抗体価は高く,6か月後でも高力価を維持していた。各人の抗体価は一定の半減期で低下したが,その消失速度は3回目接種後の方が遅かった。感染者と4回目接種者では更に半減期は長くなったが,ワクチン接種やウイルス感染に関わらず頻回免疫により免疫動態の変化が生じると考えられる。また血中抗体価の対数変換によるグラフ化により抗体価推移の予測が容易に可能であった。抗体価推移の観察には複数回の経時測定値が必要となるが,年齢,合併疾患,体質等による抗体価(免疫力)獲得能の異常が疑われる場合には,その変化観察はワクチン効果確認及び追加接種の時期決定の重要な意義を有する。

  • 上野 嘉彦, 石田 秀和, 岡 有希, 石田 真理子, 米玉利 準, 加藤 一郎, 藤原 琢也, 菊地 良介
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 366-372
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    検体検査項目は多岐にわたりすべての項目を院内で対応することは不可能である。外部委託臨床検査会社による検査(外注検査)は,医療施設が任意に外部委託臨床検査会社と契約し,院外へ検体検査をはじめ臨床検査を外部委託する検査である。多岐にわたる臨床検査項目に対応できるメリットがある一方,検査結果報告までの日数や進捗確認方法にデメリットがある。2020年に株式会社エスアールエルは検査結果の自動取得,至急FAX報告のオンライン化および検査仕上がり日の見える化を目的としたSolution/Kシステムを構築した。しかし,医療機関はそれぞれの医療情報システム管理のポリシーがあり,ネットワーク回線の敷設に対応する必要がある上,煩雑化するネットワーク回線管理やセキュリティーの確保が課題となっていた。当院ではSolution/Kシステム導入による診療科支援サービス向上に向けて,医療情報部とネットワーク回線管理とセキュリティーの確保について度重なる協議を行い,2023年10月より院内でのSolution/Kシステムを介した外部委託検査結果の迅速化および見える化を開始した。そこで今回,Solution/Kシステムを院内導入する過程について紹介する。

  • 中島 あつ子, 内山 健二, 堀口 大介, 星 孝夫, 越後 薫, 藤代 政浩, 党 雅子, 春木 宏介
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 373-379
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    当院の採血業務は,8時から採血台全て15台を稼動し,1日平均約700人実施している。従来,採血待ち時間が午前中は常に60分以上となり,混雑緩和が病院の課題となっていた。改善として「診察・検査予約時間に合わせた採血システム」の導入と共に,採血室の環境に適応した工夫の取り組みをした。当システム導入後,待ち時間の平均は10分,約30分の短縮となった。

  • 赤羽 あゆみ, 市村 直也, 東田 修二
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 380-385
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
    ジャーナル フリー HTML

    採血から検査までの工程を適切に管理し,維持することが臨床検査の品質確保に不可欠である。今回,検査前工程での溶血の発生要因に焦点を当て,具体的な事例を通じて溶血をモニタリングすることの有用性を検証した。溶血は測定した血清情報から溶血指標を0,1+,2+,> 2+に分類しその件数と溶血率を算出した。遠心機の損傷による溶血率の増加事例では,2台の遠心機の溶血率比較と日々のモニタリングで早期に遠心機の不具合を発見できることを示した。採血翼状針のメーカー変更による溶血率の低下事例では,使用する採血器具の変更が溶血の発生に影響する場合があり,検査前工程に何らかの変更を加えた場合は溶血率によってその影響を観察できる可能性を示した。翼状針の製造工程で針へのシリコン塗布量が増加したことで溶血率が上昇した事例では,溶血が増加しているという客観的な指標によって異常の発生を早期に察知するためにモニタリングが有効であることを示した。真空採血管の容量に対する採血量の変更による溶血率の低下事例では,採血管容量に対して半量以上採血することで溶血率が半減した。さらに,採血管の容器容量を小さいものに変更することでさらに溶血率が減少した。これらの事例から検査試料の溶血率モニタリングが検査前工程の異常を早期発見することに役立つことを示した。

  • 横山 颯大, 加藤 洋平, 関根 綾子, 岡 有希, 石田 秀和, 深尾 亜由美, 大倉 宏之, 菊地 良介
    原稿種別: 資料
    2024 年 73 巻 2 号 p. 386-393
    発行日: 2024/04/25
    公開日: 2024/04/25
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    2024年4月から医師の働き方改革の新制度が施行される。それに伴い,当院においても医師をはじめ,医療従事者の働き方改革が本格化している。当院で診療科および看護部に対して,検査部に期待するタスク・シフト/シェアの要望調査を実施した結果,早朝病棟採血が高い要望として挙げられた。そこで,検査部は早朝病棟採血を実施した。全病棟を対象とすることは現実的ではないため,最も採血件数が多い病棟をトライアル病棟として半年間,臨床検査技師2名を派遣することとした。トライアル病棟での効果検証を行うために,病棟採血実施前後と運用中に看護師を対象としたアンケート調査を実施した。また,対象病棟の採血取り直し件数について運用前後で比較を行うことで,臨床検査技師による病棟採血業務の有効性を評価した。その結果,臨床検査技師による病棟採血は,看護師による早朝時の患者ケアの充実化をはじめ,有効性が高いことが明らかとなった。また,採血取り直し件数についても大幅な改善が認められた。さらに,担当した臨床検査技師2名は業務終了時間が2時間繰り上がることにより,それぞれのワークライフバランスに則した効果も認めることができた。以上より,臨床検査技師による病棟採血は看護師の採血業務軽減だけではなく,患者にとっても有用であり当院での医療水準の底上げとともに,より良質で安全な医療の提供に繋がると考える。

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