医学検査
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67 巻, 3 号
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原著
  • 松浦 菜摘, 倉田 貴規, 宮島 悦子, 栁沼 莉絵, 牧 俊哉, 加藤 秀樹, 湯浅 典博
    原稿種別: 原著
    2018 年67 巻3 号 p. 281-288
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    慢性腎臓病(CKD)患者は末期腎不全へ進展するリスクが高いことに加え,心血管疾患の発症・死亡のリスクが高い。CKD患者の予後因子に関する研究はこれまで数多くなされてきたが,心電図所見との関連を検討した研究は少ない。この研究の目的はCKD患者の予後因子を心電図所見から明らかにすることである。2009年4月から2010年3月までの12ヶ月間に当院で12誘導心電図検査と血液検査を同時期に行った16,424患者のうち,心房細動および心室性不整脈を認めた3,509患者を除き,推定糸球体濾過量が60 mL/min/1.73 m2未満であった3,325患者を対象とした。年齢,性,CKDの重症度,心電図所見(心拍数,PR間隔,QRS間隔,QTc間隔,左室肥大)と,心血管疾患・非心血管疾患による死亡と関連する因子を単変量,多変量解析で検討した。心拍数,QTc間隔,PR間隔,QRS間隔は心血管疾患死亡・非心血管疾患死亡と有意に関連した。CKD患者において心電図での心拍数 > 100 bpm,QTc間隔 ≥ 440は心血管疾患/非心血管疾患を問わず,年齢,性,CKDの重症度とは独立した長期予後不良指標である。

  • 吉田 幸祐, 高野 和貴, 畑中 めぐみ, 樫林 哲雄, 柿木 達也, 加藤 順一
    原稿種別: 原著
    2018 年67 巻3 号 p. 289-293
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    高齢者の自律神経機能を評価する場合,短時間での脈拍変動解析(PRV)が心拍変動解析(HRV)の代替法となりうるか,光電式容積脈波記録法(PPG)と心電図記録法(ECG)の同時測定により評価した。被験者を70歳未満,70歳以上80歳未満,80歳以上の3群に分類した場合,すべての群においてPRV由来の周波数成分はHRV由来の周波数成分と強い相関を示したものの,その絶対値は高齢になるにつれて低値を示した。すなわち,PRVは高齢者の自律神経機能を評価するスクリーニング法としては有用であるが,その結果の解釈は,特に80歳以上の高齢者においてHRVで測定した場合よりも過小評価されていることを考慮する必要があるかもしれない。

  • 坂梨 大輔, 山岸 由佳, 川本 柚香, 宮﨑 成美, 大野 智子, 山田 敦子, 小板 功, 三鴨 廣繁
    原稿種別: 原著
    2018 年67 巻3 号 p. 294-298
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    2011年1月から2017年8月の期間に愛知医科大学病院を含む愛知県下14施設にて臨床分離された腸内細菌科細菌175株を対象とし,カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)の遺伝子型およびmeropenem(MEPM)の最小発育阻止濃度(MIC)を用いたCPEのスクリーニング基準を検討した。結果,国内流行型であるIMP-1(63株),IMP-6(22株)に加え,海外流行型であるKPC-2(1株),GES-5(1株),NDM-1(1株),NDM-5(2株),OXA-48-like(2株)を含む計92株のCPEが確認された。CPEにおけるMEPMのMIC値は0.25から> 32 μg/mLまで幅広い分布を示し,感性(< 2 μg/mL)を示した株が14株(15.2%)認められた。今回の検討では,CPEのスクリーニング基準は,MEPMのMIC値> 0.125 μg/mL(ヨーロッパ抗菌薬感受性試験法検討委員会設定値)を用いることが望ましいと考えられた。今後は,地域におけるCPEの蔓延を制御するため,MEPMのMIC値を考慮したサーベイランスおよび遺伝子解析など継続的な監視の実施が必要と考える。

  • 市川 りさ, 石垣 しのぶ, 松村 充, 浅原 美和, 厚川 喜子, 斧 康雄, 古川 泰司
    原稿種別: 原著
    2018 年67 巻3 号 p. 299-306
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    多くのCorynebacterium属菌は,グラム陽性の桿菌で棍棒状や松葉状の形態を示す。今回血液培養液を用いたグラム染色でブドウ球菌様の形態を呈するCorynebacterium属菌を検出した。そこで,Corynebacterium属菌がグラム陽性球菌様の形態変化を起こす可能性の有無,その菌種同定と原因の解析を行うため,培養条件を変えて検討した。また,誤同定した際のマイクロスキャンComboパネルを用いた同定検査に及ぼす影響を調査した。さらに,Corynebacterium属菌の薬剤感受性を測定し,MIC分布および薬剤感性率を集計した。球菌様の形態変化を示したのはCorynebacterium striatumおよびCorynebacterium simulansの2菌種であり,液体培地を使用し嫌気培養条件下で形態変化を示した。また,マイクロスキャンComboパネルにおいては,Micrococcus sp.と誤同定された。薬剤感性率はすべての菌種が,対象とした薬剤のうちバンコマイシン(VCM)に感性を示したが,VCMのみに感性を示す高度耐性株も存在した。血液培養から分離されるCorynebacterium属菌は一般的に血液培養検査にて汚染菌とみなされることが多いが,誤同定することで患者の不利益につながる恐れがあり,また,高度耐性を示す株も存在することから院内感染対策上重要であると考えられる。そのため,様々な情報を考慮し,慎重な検査を実施しなければならない。

技術論文
  • 山田 直輝, 原 祐樹, 川島 誠, 浅井 幸江, 井藤 聡美, 深見 晴江, 伊藤 守
    原稿種別: 技術論文
    2018 年67 巻3 号 p. 307-313
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    通常血液培養から細菌を同定する場合,最低3日必要であるが,質量分析器を用いれば最低2日で菌名の同定が可能になった。また,MALDIセプシタイパー血液培養抽出キット(ブルカー・ダルトニクス)(以下,セプシタイパー法)が開発され,血液培養検体から直接質量分析測定を行えるようになり,当日に菌名同定が可能になった。しかしセプシタイパー法を用いて測定を行った場合,1検体当たりのコストが高い。そこで,より安く測定できる方法(以下,直接法)を考案し,検討を行った。当院で血液培養陽性となった検体から無作為に抽出した100件を対象として検討を行った結果,全体の同定率は,直接法では菌種レベルまで可能であったのが67%(67/100)セプシタイパー法では66%(66/100)であった。グラム陽性球菌における直接法の同定率は,菌種レベルまで可能であったのが40%(17/42),セプシタイパー法では45%(19/42)であった。グラム陰性桿菌では直接法は92%(48/52),セプシタイパー法では87%(45/52)であった。作業時間もほぼ変わらないだけでなく,特殊な試薬を用いず,セプシタイパー法と同等の結果を得られることから有用な方法であると考えられた。しかし,グラム陽性球菌の同定成績が低く,改善の余地があると考えられたため,今後改良法についても検討を進めていきたい。

  • 岩田 英紘, 梅村 彩, 新田 憲司, 水嶋 祥栄, 長田 裕之, 柴田 一泰, 瀬古 周子, 前田 永子
    原稿種別: 技術論文
    2018 年67 巻3 号 p. 314-320
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    持続携帯式腹膜透析(continuous ambulatory peritoneal dialysis; CAPD)排液中の細胞分画検査は,腹膜透析患者における腹膜炎の早期診断の指標として重要である。XE-5000は血算以外の体腔液測定も可能な体液モードを搭載している。今回我々は,CAPD排液の細胞分画検査におけるXE-5000の有用性について検討した。2016年8月~2016年12月の間に,日勤時間帯に当検査室に提出されたCAPD排液検体87例に対し,単核球,多核球,中皮細胞についてXE-5000と目視法の結果を比較した。多核球(y = 0.8381x + 14.69, R2 = 0.5386)と単核球(y = 0.8672x + 1.26, R2 = 0.6169)には有意な相関が認められ(p < 0.05),XE5000による全測定細胞数が多いほど相関性は強くなる傾向が認められた。一方で,中皮細胞(y = 0.0549x + 3.52, R2 = 0.2978)の検出には相関は認められなかった(p = 0.2978)。全測定細胞数が少ない場合には,XE-5000と目視法で多核球の比率に乖離のみられる症例も少数認められた。今回の結果から,XE-5000と目視法の相関はほぼ良好な結果が得られた。必要に応じて目視法を併用する等の運用条件を設定することは重要であるが,スクリーニング検査としてXE-5000によるCAPD排液中の細胞分画検査を行うことにより,検査の省力化および迅速な結果報告に繋がると思われる。

  • 西岡 麻衣, 三好 雅士, 中尾 隆之, 土井 俊夫
    原稿種別: 技術論文
    2018 年67 巻3 号 p. 321-327
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    リパーゼは急性膵炎の診断に用いられる指標であり,カラーレート法と合成基質法の2法が普及しているが,未だ常用基準法は定められていない。今回我々は,合成基質1,2-o-ジラウリル-rac-グリセロ-3-グルタル酸-(6-メチル-レゾルフィン)エステル(DGGMR)を用いた新規試薬であるシグナスオート LIPの性能評価を行ったので報告する。市販精度管理用試料にて再現性を確認した結果,同時再現性はC.V.:1.0~1.4%,日差再現性はC.V.:0.8~2.1%と良好であった。常用参照標準物質にて正確さを確認した結果,参考値の中央値からのBias は,シグナスオート LIPでは+2.6%,ネスコートVNリパーゼでは−53.5%であり,標準物質の値付けに起因すると考えられる試薬間差を認めた。直線性上限は460 U/L,検出限界は4.0 U/Lであり,十分な測定範囲を有すると考えられた。共存物質の影響を確認した結果,検討したすべての物質で±3%を超える影響は認められなかった。試薬開封後30日間は安定していたが,アジ化ナトリウムの添加により,開封後20日間で20%以上の低下が認められた。一方,改良試薬では測定値の変動は認められなかった。対照試薬との相関を確認した結果,測定値は大きく異なるものの良好な相関が得られた。シグナスオート LIPは検討した全ての項目で良好な成績が得られ,日常検査において有用であると考えられた。

  • 安藤 潤子, 河口 勝憲, 海津 博子, 大倉 尚子, 通山 薫
    原稿種別: 技術論文
    2018 年67 巻3 号 p. 328-333
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    我が国の大腸がんの罹患数,死亡数は増加傾向にあり,死亡率を減らすには早期発見・早期治療が最も重要である。今回我々は,全自動便中ヒトヘモグロビン分析装置HM-JACKarc®の基礎的検討を行った。同時再現性では低濃度(平均値47.6 ng/mL)の変動係数(CV)0.6%,高濃度(平均値212.2 ng/mL)のCV 1.6%,日差再現性では低濃度(平均値48.9 ng/mL)のCV 3.6%,高濃度(平均値207.8 ng/mL)のCV 5.2%,最小検出感度は4.0 ng/mL,希釈直線性は400 ng/mLまで良好な直線性を示した。キャリーオーバーの検討において,ヘモグロビン濃度理論値360,000 ng/mLまで0濃度試料測定1回目でcut off値(30 ng/mL)を超えることはなかったが,異常高値の検体においてのキャリーオーバーの影響は完全に否定できない結果であった。しかし,これらについては運用や検査システム等の活用で十分回避できるものであると思‍われた。プロゾーン試験では測定上限の400 ng/mLを下回ることはなかった。従来機器との相関は,線形関係式y = 0.957x − 0.421,相関係数0.995,一致率は96.6%であった。操作法も簡便で,日常検査において迅速に,精確な検査結果を臨床へ提供することが可能であり,大腸がんのスクリーニング検査に有用な装置であると考えられた。

  • 小林 亮, 盛合 亮介, 遠藤 明美, 淺沼 康一, 柳原 希美, 髙橋 聡
    原稿種別: 技術論文
    2018 年67 巻3 号 p. 334-339
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    線溶抑制因子の一つであるPAI-1は,炎症性サイトカインにより発現が惹起されるため,PAI-1の増加は主に敗血症に起因する線溶抑制型DICを示唆する所見として重要である。従来,PAI-1測定には専用機器および試薬が必要であったが,汎用機に搭載可能な「ナノピア® PAI-1」が開発されたことから,その基礎的検討を行った。同時再現性のCVは1.29~3.85%と良好だった。オンボードでの試薬安定性を検討した結果,試薬架設後6日目に測定値の低下がみられたが,測定毎に試薬を架設した室内精度のCVは2.32~5.09と良好だった。また,共存物質の影響は認められなかった。希釈直線性は良好であり,実効検出感度は臨床上も十分な値であった。プロゾーン現象もみられなかった。対照試薬との比較においても,良好な相関性が得られた。さらに,試料中の残存血小板による測定値への影響を検討したが,調整直後の試料では残存血小板数増加による測定値の上昇は認められなかった。一方,凍結融解を行った試料では残存血小板数および凍結融解数に依存した測定値の上昇傾向を認めた。このことより,PAI-1を精度よく測定するためには,「凝固検査検体取り扱いに関するコンセンサス」に従った検体調整を行い,凍結融解は1回までとすることが必要と考えられた。本試薬の基本性能は良好であり,汎用機に搭載可能であることから,日常検査および緊急検査に有用であると考えられた。

資料
  • 福嶋 陽子, 小貫 明美, 大矢 幸子, 松田 裕美子
    原稿種別: 資料
    2018 年67 巻3 号 p. 340-346
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    血中特異的IgE抗体の測定は,I型アレルギー疾患の診断や治療方針に重要な検査の一つである。一般的に原因アレルゲンのスクリーニングでは問診や症状,年齢により関連が疑われる複数の項目について検査されることが多い。今回,測定項目を選択できるDiaPack3000と,多項目同時測定スクリーニングが可能なMAST IIIの特徴や性能について検討した。また,小児検体では検体量の確保が難しく重要な課題となっているため,DiaPack3000の検体量について標準量法と少量法を評価した。結果,MAST IIIとDiaPack3000のクラス相関性については,スギ・コナヒョウヒダニ・ネコ皮屑では良好な相関性が認められた。ランパクとオボムコイドで弱陽性の一部に乖離が認められたが,臨床的に影響を与える可能性は低いと思われる。よってMAST IIIによるスクリーニング検査からDiaPack3000によるシングルアレルゲン測定での経過観察への移行は可能と考えられる。また,DiaPack3000の標準量法と少量法の相関性は良好であった。少量法での運用は可能であり,さらなる臨床支援が期待できると思われる。

  • 前川 桐子
    原稿種別: 資料
    2018 年67 巻3 号 p. 347-352
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    2015年に筆者はオーストラリアの検査室を訪問した。オーストラリアの臨床検査の資格・制度,実際の検査室の現状について説明を受け,その後も関係者から詳しい情報を得たので,その内容を報告する。日本では臨床検査技師とひとまとめにされているが,オーストラリアでは臨床検査技師と生理検査業務を行う技師は区別され,資格も異なる。就労する為には定められた学部を卒業しトレーニングを積むなどの条件を満たさなくてはならない。日本の様に臨床検査技師国家試験は存在しない。また日本人の臨床検査技師の様にオーストラリア以外の国で臨床検査学を学んだ場合,オーストラリアで臨床検査に携わるには,専門の知識がある一定の基準を満たしていることを示さなければならない。その一つにAIMSの資格がある。今回,この資格の受験方法や試験内容についても紹介する。生理検査に携わるには,定められた学部の専攻課程を卒業すること,臨床検査技師国家試験がないことは共通しているが,生理検査ではさらに様々な資格や制度が分野別に存在する。他に,オーストラリアの臨床検査の現状の一例としてSEALSというニューサウスウェールズ州政府の運営する検査室の特徴をはじめ,検査の進め方や勤務の制度と現状についても紹介する。

  • 山本 環, 名古 亜未, 増田 健太, 橋本 誠司, 志賀 修一, 一山 智
    原稿種別: 資料
    2018 年67 巻3 号 p. 353-359
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    当院は2014年,臨床検査室の品質と能力に関する要求事項を定めた国際規格ISO 15189:2012を取得した。ISO 15189:2012においては,検査に関わる全てのプロセスにトレーサビリティーが求められる。検体検査における試薬などについても厳密な管理が要求され,細かな記録が必要となる。当初,当検査室においては,記録用紙による手書き方法で運用を開始したが,手間や時間を要し,また記入漏れの発生もあった。我々はこれらの問題を解決すべく,GS1-128バーコードを用いた試薬管理システムを構築した。プログラムの開発には標準的な表計算ソフトであるMicrosoft Excelに標準搭載されているプログラム言語Visual Basic for Applicationsを用いた。記録の記入をバーコードとプログラムで自動化させることで,記録作業の効率化が図られ,記入ミスなども防ぐことができるようになった。また,データが電子化されたことで,期限切れ試薬の使用などのミスの削減,また発注作業の効率化を実現した。正確で安全な臨床検査サービスの提供には,試薬の発注・在庫管理,ロット番号や使用期限の管理,使用開始日・使用終了日などの記録が欠かせない。これらの記録業務を効率よく実施できることで,検査業務が円滑に遂行できることが期待される。

症例報告
  • 田口 舜, 香月 万葉, 山口 健太, 佐野 由佳理, 多久島 新, 阿部 美智, 福岡 麻美, 加藤 匡平
    原稿種別: 症例報告
    2018 年67 巻3 号 p. 360-365
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    Neisseria animalorisは犬や猫の咬傷から検出されるショ糖分解性のグラム陰性桿菌であり,Pasteurella属に類似したグラム染色像やコロニー所見を呈する。我々は,猫による咬傷感染部位から分離頻度の高いPasteurella multocida,血液培養からは分離頻度の稀なNeisseria animalorisが同時期に検出された敗血症の1症例を経験した。症例は60歳代女性。数年前に乳癌の治療を受け,末期状態であった。全身倦怠感と左腋窩の疼痛により当院に救急搬送された。自宅にはネコを10匹飼育しており,患者の右手背部に猫咬傷,発赤・腫脹が認められた。猫による咬傷部位から分離された菌は,MALDI Biotyperを用いて,P. multocidaと同定した。血液培養から分離された菌は,16S rRNA遺伝子解析を用いて,N. animalorisと同定した。N. animalorisは症例報告が少なく,臨床的意義はあまりよく知られていない。本症例では咬傷感染部位と血液培養から検出された菌は乖離していたが,2菌種は共に犬や猫の口腔内常在菌であることから,猫咬傷感染にて敗血症を発症したと考えられる。

  • 森田 賢史, 宿谷 賢一, 田中 雅美, 水間 知世, 久末 崇司, 曽根 伸治, 蔵野 信, 矢冨 裕
    原稿種別: 症例報告
    2018 年67 巻3 号 p. 366-372
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    髄液一般検査においては,Samson染色を用いて細胞数算定および単核球と多形核球の分類を行うこととされている。多形核球を多数認める場合,好中球増加を伴う細菌性髄膜炎をきたしていることが多いが,稀に好酸球増多を認めることがある。髄液中に好酸球増多を認める病態を好酸球性髄膜炎(eosinophilic meningitis)と呼び,主な原因として寄生虫感染に対する免疫応答が挙げられる。しかし,非感染性の原因によっても好酸球性髄膜炎を呈することが報告されている。髄膜炎の原因鑑別は適切な治療にとって重要となる。髄液検査における多形核球の形態分類にはMay-Giemsa標本による鏡検を要するが,Samson染色でも形態から鑑別が可能な場合がある。Samson染色は手技が簡便であり,多形核球分類のスクリーニングに有用と考えられる。今回当院において髄液中に好酸球を多数認めた4症例はいずれもSamson染色で好酸球の鑑別が可能であったことから,Samson染色による多形核球の形態分類の重要性が示唆された。

  • 小池 智弥, 藤田 直紀, 沖田 順子, 服部 幸夫
    原稿種別: 症例報告
    2018 年67 巻3 号 p. 373-378
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    症例は47歳男性。肉眼的赤褐色尿を主訴に近医を受診し,その後精査目的で当院紹介となった。赤褐色尿で尿潜血(3+)にもかかわらず,鏡検では赤血球はほとんど認められなかった。尿中ミオグロビンの軽度高値よりミオグロビン尿症が疑われたが,臨床症状やクレアチニンキナーゼ(creatine kinase; CK)の上昇がないことより除外された。一方,血清中に遊離ヘモグロビンが増加しヘモグロビン尿症が示唆された。血清中の乳酸脱水素酵素(lactic acid dehydrogenase; LD)(特にLD1),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase; AST),総ビリルビンの高値,ハプトグロビンの低値,網赤血球の増加より溶血性貧血( hemolytic anemia; HA)が疑われた。しかし直接,間接クームス試験は陰性で自己免疫性HAとは確定できなかった。CD55およびCD59の分析では発作性夜間血色素尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria; PNH)細胞は陰性で,また寒冷凝集素価は正常であった。今迄,先天性HAを指摘されたことはなかった。患者は1年中で最も厳しい寒候期に間歇的な肉眼的血尿を主訴としていること,寒冷凝集素価低値,PNH細胞陰性などから,発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria; PCH)を疑われた。そこで血清中Donath-Landsteiner(DL)抗体の検出を初診の2週後に試みたが,検出できなかった。溶血発作は初診の1,2週間前が最高で,初診から2週後の再来までにはほぼ終息していた。このようにDL抗体陰性,直接クームス陰性であるが,寒候期の比較的短期間での間歇的ヘモグロビン尿症を来たす溶血発作より,急性の一過性PCHと考えられた。

  • 中田 良子, 櫛引 美穂子, 小笠原 脩, 高畑 武功, 斎藤 絢介, 佐藤 温, 嶋 緑倫, 萱場 広之
    原稿種別: 症例報告
    2018 年67 巻3 号 p. 379-383
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    食道胃接合部進行癌からの大量持続性出血による貧血増悪と全身状態悪化にて入院中に,後天性von Willebrand症候群(acquired von Willebrand syndrome; AvWS)と診断された症例を経験した。症例は40歳代男性,腫瘍からの出血が持続し,連日の人赤血球液(照射赤血球液-LR「日赤」;Ir-RBC-LR)輸血を必要としていた。入院時には正常であったAPTT(28.3 sec)が入院第28病日に著明延長を示した(> 180.0 sec)。凝固第VIII因子活性が9%と低下していたため後天性血友病Aを疑ったが,第VIII因子インヒビターは検出されなかった(0.00 Bethesda Unit; BU)。同時に施行したクロスミキシングテストが37℃,2時間インキュベーション後で上に凸のインヒビターパターンを示したためインヒビター型のAvWSを疑った。上記検査情報を速やかに主治医に提供したところ,確定診断を待たずにステロイドパルス療法が施行され,速やかに出血は激減し全身状態が改善した。その後の検査結果よりAvWSの確定診断を得た。自施設で施行可能な検査と臨床症状から早期に治療介入し得た症例であった。

  • 阿部 紀恵, 安永 泰彰, 鎌田 佳代子, 瀬川 光星, 長谷川 美月, 笹生 俊一, 筑紫 泰彦
    原稿種別: 症例報告
    2018 年67 巻3 号 p. 384-390
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    採血時に皮膚病変に気付き,血液検査で大型の顆粒リンパ球を確認し,骨髄浸潤を伴う悪性リンパ腫を推測し得た皮膚ENKTLの一例を経験したので報告した。症例は26才,女性。当院受診1か月前に右上腕内側皮膚に結節を自覚した。初期は紫斑様で,疼痛があり,次第に増大・肥厚して鶏卵大となり,潰瘍形成を示した。結節は腹部,腰部,下腿にも出現した。その後,当院受診時の採血の際,患者上腕に結節を認め,「全身に結節が生じている」という患者の訴えから,悪性リンパ腫を疑った。その末梢血液像でAzur顆粒を有する大型のリンパ球を多数認めたため,直ちに血液内科医に報告した。後日,皮膚生検の病理組織学的検索と骨髄の検索から骨髄浸潤を伴う皮膚ENKTLと診断された。採血中,注意深く患者を観察し,会話から情報を得ることで疾患をいち早く推測し得た症例であった。

  • 高嶋 浩一, 朝倉 伸司
    原稿種別: 症例報告
    2018 年67 巻3 号 p. 391-397
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    血液透析(hemodialysis; HD)患者の足の冷感と皮膚温,皮膚灌流圧(SPP)の関係を糖尿病合併の有無において検討した。対象はHD患者204例(男性144例,女性60名,うち糖尿病94名,非糖尿病110名),年齢25~91歳(平均:63.5歳),透析歴1ヶ月~34年1ヶ月である。方法は足の症状を問診して足部の皮膚温を皮膚赤外線体温計で計測し,足底SPPを測定した。検討の結果,(1)糖尿病では31例(33%),非糖尿病では31例(28.2%)に足の冷感があった。糖尿病では足の冷感に伴い足部温の有意な低下があったが,非糖尿病では足の冷感の有無による足部温の有意差はなかった。(2)糖尿病と非糖尿病の足部温と足底SPP値には正の相関が認められた。(3)糖尿病の左足底SPP値は75.3 ± 21 mmHg,右足底SPP値は76.5 ± 18.2 mmHgであり,非糖尿病の左足底SPP値80.2 ± 19.2 mmHg,右足底SPP値81.6 ± 15.7 mmHgに比して有意に低下していた。以上よりHD患者において足部温と足底SPP値に相関関係がみられたことは,HD患者の足部温低下は足の毛細血管における血流障害に起因すると考えられる。また,糖尿病HD患者は足の冷感があり,かつ足部温の低下と足底SPP値の低下も認められたことは,糖尿病の合併症である自律神経障害による血管運動異常,および細小血管障害が関与していることが示唆された。

  • 尾方 一仁, 川内 匡, 福田 勝行, 古本 朗嗣
    原稿種別: 症例報告
    2018 年67 巻3 号 p. 398-402
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    16歳男性。発熱と腹痛を主訴に入院となり,症状と画像検査の結果から腸間膜リンパ節炎と診断された。治療は欠食と輸液およびClarithromycin(CAM)内服にて開始した。しかし,腹痛と発熱が持続するため,翌日にLevofloxacin(LVFX)の内服に変更し軽快,7日後に退院となった。入院時の血液培養から2種類のグラム陰性桿菌が検出され,院内での同定検査によりSalmonella sp.およびYersinia enterocoliticaと同定された。Salmonella sp.は外部機関の解析によりSalmonella enterica subsp. enterica serovar Gabon O7: l, w: 1, 2と同定された。Y. enterocoliticaは至適発育温度が25℃前後であり,非選択分離培地35℃培養のみでは検出が困難なことがある。本症例では,臨床からの情報により本菌らを疑って選択培地および培養温度を追加することで分離検出を行うことが出来た。臨床との患者情報の共有および原因菌の一般性状を考慮して検査を進めていくことの重要性を再認識した一症例であった。

  • 高嶋 浩一, 清水 俊彦, 朝倉 伸司
    原稿種別: 症例報告
    2018 年67 巻3 号 p. 403-409
    発行日: 2018/05/25
    公開日: 2018/05/30
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    症例は78歳,男性。夕刻に西日の眩しさを気にしながら自家用車を運転していたところ,急に右手のけいれんが起きてパニックになりガードレールに衝突した。頭部MRIのFLAIR画像では両側に高信号域が散見された。また,頭部MRAでは右中大脳動脈の狭窄があった。脳波は3 Hzの光刺激で開始から約1秒後に前頭部優位の小棘・徐波複合が出現した。その後12 Hzの光刺激において開始直後に顔面と上半身がけいれんした状態になり,名前を呼んだが無反応であった。けいれんは約10秒で治り呼名にも応じるようになった。本症例は問診,画像所見,および脳波上のてんかん性放電の出現により症候性てんかんの臨床診断となった。今後,超高齢化社会の到来により,子どもの病気と考えられていたてんかんが高齢者にも増えることが予想される。てんかんであれば薬剤で治療できる疾患である。これは脳波担当の臨床検査技師,および多くの高齢者と日常的に接する老人介護施設のスタッフ,地域のケアマネージャーも認識する必要がある。

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