医学検査
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71 巻, 4 号
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原著
  • 春木 康伸, 村上 弘則, 大野 誠子, 櫻井 聖一郎, 堀田 大介, 野島 正寛, W. RUHNKE Gregory
    原稿種別: 原著
    2022 年 71 巻 4 号 p. 617-623
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    背景:長期持続性心房細動(LSAF)は,僧帽弁逆流(MR)の増悪因子である。高周波カテーテルアブレーション(RFCA)により洞調律に復帰することで,左心房(LA)と僧帽弁下組織の逆リモデリングを介したMR重症度の軽減が期待される。しかし,RFCAの1年後のMR重症度を予測することは難しい。今回,RFCAを施行後,洞調律が維持された基礎疾患のないLSAF患者で,1年後のMR重症度が予測可能か検討した。方法:RFCA成功1年後のMR重症度予測モデルを作成するため,孤立性LSAF患者50名のRFCAの前,1か月後,および1年後の心エコーデータを解析した。これらのデータを基礎に重回帰分析にて3つの予測モデルを作成して予測精度を検討した。結果: RFCA前のLA volume indexとMR重症度,RFCA後1か月の左室駆出率,MR重症度と僧帽弁輪縦横比を用いたモデルが,RFCA 1年後のMR重症度予測に最良であった(感度1.00,特異性0.795)。この予測モデルによるRFCA1年後のMR重症度の予測値と実測値の間(r = 0.732)とRFCA 1年後のMR重症度の予測値変化度と実測値変化度の間(r = 0.822)に非常に良好な相関関係を認めた。結論:RFCAによる洞調律達成1年後のMR重症度予測モデルを,心エコーデータを使用した重回帰分析により作成できた。

  • 李 相太, 野口 延由, 龍見 重信, 潮崎 裕也, 中村 彰宏
    原稿種別: 原著
    2022 年 71 巻 4 号 p. 624-632
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより,核酸増幅検査(NAAT)は多くの施設に普及した。NAATの結果は社会全体に大きな影響を与えるため,高い正確性および精確性が求められる。このため奈良県臨床検査技師会は,2021年7月にSARS-CoV-2 RNAのNAATの外部品質評価(EQA)を行った。EQA試料は,3つの陽性試料と1つの陰性試料で構成した。陽性試料は患者検体を用いて作成した低コピー試料(Sample 1)と高コピー試料(Sample 3)および市販の陽性コントロール(Sample 4)を,陰性試料は核酸分解酵素を含まない精製水(Sample 2)を用いた.評価は定性結果に基づいて行い,一部の試薬は,販売メーカーに依頼した測定結果を参考データとした。本EQAには,26施設が参加し,12種類の試薬,40テスト数が含まれた。各試料の正解率は,Sample 1が62.5%(25/40),Sample 2が100%(40/40),Sample 3が95.0%(38/40),Sample 4が67.5%(27/40)であった.不正解例は販売メーカーの参考データと一致していたため,試薬の検出感度や試料との相性などが要因と考えられた。参加施設の結果は試料や試薬の特性を反映しており,本事業の妥当性が示された。本EQAは,参加施設における継続的な検査品質の維持管理に貢献できるものと考える。

  • 赤峯 里望, 柴田 香菜子, 鳥塚 純子, 下條 文子, 星野 陽子, 阿部 正樹, 中田 浩二, 芝田 貴裕
    原稿種別: 原著
    2022 年 71 巻 4 号 p. 633-637
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    血管内皮細胞は生活習慣の乱れや喫煙などによる機能障害により血管に器質的変化をもたらし,動脈硬化へと進展させる。動脈硬化の進展は心筋梗塞などの原因となるため,動脈硬化の前駆段階である血管内皮機能の障害は心血管系のリスク因子といわれている。血管内皮機能を測定する方法として,reactive hyperemia peripheral arterial tonometry(RHPAT)検査がある。RHPAT検査より指尖脈波の変化を用いたreactive hyperemia index(RHI)は,1.67未満を血管内皮障害ありと判定している。当院循環器内科通院中の患者173名を対象にRHPAT検査を実施し,42 ± 11か月間の追跡調査を行ったところ,22症例に心血管イベントの発生がみられた。RHI 1.67をカットオフとした場合,心血管イベントの発生率は血管内皮機能障害群(94例),正常群(79例)の2群間に差はみられなかったが,ROC曲線より求めたRHI 1.98をカットオフとした場合には,血管内皮機能障害群(123例)に正常群(50例)と比べて有意に心血管イベントの発生が認められた(p < 0.05)。今回の結果から,通常使われている欧米のRHI < 1.67という基準は必ずしも日本人には適しておらず,日本人の心血管イベントを予測するには,従来より高めのカットオフ値の設定が適切である可能性が示唆された。

技術論文
  • 亀井 直樹, 田口 愛海, 石橋 万亀朗
    原稿種別: 技術論文
    2022 年 71 巻 4 号 p. 638-643
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    目的:SARS-CoV-2の新しい検査法は開発・普及が急速に進んでいる。当院では鼻咽頭ぬぐい液を検体とする検査は自動遺伝子解析装置のGeneXpertシステムを用いて実施していた。2020年7月以降より唾液検体が新型コロナウイルス核酸検出における正式な検体として認められたことから検体採取時における医療従事者への2次感染の防止などを考慮し,唾液検体での検査を要望された。これを受け新たにGENECUBEモデルC(東洋紡)を導入し,ジーンキューブ® HQ SARS-CoV-2(東洋紡)にて唾液検体での検査を実施することとなった。導入にあたり,唾液検体からの核酸抽出についても検討を進めることとなり,自動核酸抽出法であるmagLEAD(PSS,magLEAD法)とヒートブロックを使用する加熱抽出法について3つの検討を行った。方法:①擬似ウイルス管理試料で希釈系列を作成し,両核酸抽出法の検出能を検証した。②陰性確認済みの唾液検体に擬似ウイルス管理試料を加えた疑似検体を用いて両核酸抽出法への阻害物質の影響を検証した。③magLEAD法にて陽性であった臨床検体を加熱抽出法でも確認した。結果:magLEAD法の検出能は0.25コピー/μL,加熱抽出法で1コピー/μLであった。一方で加熱抽出法では検出ができなかった。結論:唾液検体を用いる場合は阻害物質の影響を考慮して検査をする必要があると思われた。

  • 森田 邦恵, 阿部 拓也, 藤井 豊, 塙 晴雄
    原稿種別: 技術論文
    2022 年 71 巻 4 号 p. 644-650
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    近年,体液中でタンパク質や核酸を内包する小胞であるエクソソームが注目され,エクソソーム中のタンパク質,RNAから疾患診断のバイオマーカーが見いだされる期待が高まっている。それに伴い,血液中のエクソソームを抽出する試薬が開発されているが,その抽出効率について統一された結論は出ておらず,超遠心法が依然として信頼性高いという現状である。超遠心法は,設備の準備と技術の習得に高いハードルがあり,効率的なエクソソーム研究と臨床応用には不向きであり,市販の試薬での安定したエクソソームの抽出が期待される。本研究では,血液中のエクソソームからタンパク,mi-RNAで良好な抽出報告のあるExoRNeasy(QIAGEN社)と,新たに開発されたPlasma/Serum Exosome Purification Kit(NORGEN社)2種類の試薬について,血漿からエクソソーム中のmRNAの抽出効率の評価を行った。方法は健常人血漿を対象に,RNA定量と,エクソソームマーカーCD9によるRT-qPCR法を実施した。RNA定量値,CD9のRT-qPCR共通して,ExoRNeasyによる抽出したmRNAで良好な結果が確認され,本研究で市販の試薬を用いてエクソソーム中のmRNAの安定した抽出の確認がされた。この成果を基に,新たなバイオマーカーの確立の研究および,臨床応用につなげていきたいと考えている。

  • 金剛 左京, 三上 麻里奈, 青木 理詠, 永谷(沼尻) 真貴, 西澤 大輔, 池田 和隆, 岩橋 和彦, 小野澤 裕也
    原稿種別: 技術論文
    2022 年 71 巻 4 号 p. 651-656
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    肥満は糖尿病を含め,多くの疾患を引き起こす危険因子である。1975年以降3倍近い増加の傾向を示しており,発症原因として食生活をはじめとする生活習慣病の他,遺伝的な要因の関与が知られてきた。本研究では,肥満脆弱性の個人差に及ぼす影響を明らかにするために,4つのSNP(ADRB3(rs4994),HTR2A(rs6311およびrs6313),およびNOS1(rs2682826)に着目し,日本人在住の9名の肥満被検者(BMI ≥ 25)と非肥満被検者51名(BMI < 25)の間で多型の頻度の違いを比較した。なお,遺伝子型の判定にはPCR-RFLP法を用いた。解析の結果,各SNPの多型頻度および対立遺伝子頻度は肥満群と対照群の間に有意な差は認められなかった。また,遺伝子多型の組み合わせによる解析においても関連性は認められなかった。したがってHTR2A(rs6311, rs6313),ADRB3(rs4994)およびNOS1(rs2682826)遺伝子多型は肥満を引き起こすリスクファクターである可能性は低いことが示された。

  • 鯉田 祐佳里, 岡崎 葉子, 菊間 知恵, 山下 智江, 湊 由理, 野原 圭一郎, 仲井 里枝, 三枝 淳
    原稿種別: 技術論文
    2022 年 71 巻 4 号 p. 657-666
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    近年,自動血球分析装置において,処理能力や性能,ユーザビリティの向上が図られた装置が開発されている。今回,我々はシスメックス社より新たに開発された多項目自動血球分析装置XRシリーズを評価する機会を得たため,基礎的性能評価に加え,XRシリーズより測定項目となった幼若顆粒球(IG),幼若血小板比率(IPF)の性能評価,ならびに異常細胞検出能の評価を行った。CBC(complete blood count)の併行精度(同時再現性),従来機であるXN-9000(シスメックス社)との相関性,およびDIFF項目における目視鏡検値との相関性はいずれも良好であった。IGについては,目視鏡検値ならびに血液像自動分析装置DI-60(シスメックス社)の幼若顆粒球比率との相関性,目視鏡検結果との一致率共に良好な結果を示した。IPFについても,併行精度,XN-9000との相関性はいずれも良好であり,溶血性尿毒症症候群症例においてはPLT増加に先んじたIPF上昇がみられ,IPFの血小板造血マーカーとしての有用性が示唆された。また,XRシリーズより出力される異常フラグと芽球,異常リンパ球,異型リンパ球の目視鏡検結果との一致率も良好であった。さらに,XRシリーズで新たに表示可能となった3次元スキャッタグラムにより細胞集団の出現位置の視認性の向上が確認できた。以上より,XRシリーズは臨床に有用な情報の迅速報告が可能であり,業務効率化においても有用性が高いと考えられた。

  • 木下 陽介, 新城 周子, 門脇 朱理, 高橋 すずか, 佐藤 まゆみ
    原稿種別: 技術論文
    2022 年 71 巻 4 号 p. 667-674
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    近年,尿沈渣検査においては尿中有形成分分析装置が普及し,尿検査の自動化・迅速化の一翼を担っている。現在,フローサイトメトリー法や画像法を原理とする装置が数種類販売されている。今回,日当直業務に尿中有形成分分析装置が活用できるかという観点に立ち,AUTION EYE AI-4510(以下,AI-4510),Atellica UAS800(以下,UAS800),UF-5000の3機種を用い性能評価を行ったので報告する。561検体を対象として,同時再現性試験・相関性試験・濁度別測定時間の比較について検討を行った。同時再現性は目視鏡検測定結果に対して ±1ランク内の結果が得られた。目視鏡検に対する相関は,±1ランク一致率という観点では3機種とも良好であったが,特に日当直帯で重要視される赤血球,白血球,細菌の一致率はUF-5000が若干良好であった。また,感度・特異度では機種により特徴が認められた。一方,濁度別検体の測定時間の比較において,UAS800はAI-4510,UF-5000に比べ,どの濃度レベルであっても測定時間が一定であった。尿沈渣検査は形態学検査であるため,日当直業務を行うスタッフ間でも経験値による違いや個人差が生じている。その不安材料を払拭するため,尿中有形成分分析装置は有用である。各分析装置の利点を生かし活用することで日当直担当者の不安解消につながると考えられる。

  • 喜多 晃子, 竹澤 理子, 鵜原 日登美, 寿賀 敏光, 福田 弥生, 土屋 智之, 竹端 菜々美, 小野 由可
    原稿種別: 技術論文
    2022 年 71 巻 4 号 p. 675-680
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー HTML

    当院では,血液培養陽性時の薬剤感受性検査直接法は,ボトル内容液からディスク拡散法で行っているが,最終的な結果報告には間接法で実施する必要があり,数日を要する。そこで今回,turn around time(TAT)の短縮を目的に内容液から直接自動機器による同定・感受性検査を行う方法を検討した。当院で期間中に血液培養陽性となった353件(グラム陽性球菌140件,グラム陰性桿菌213件)を対象とし,直接MicroScanWalkAway96plus(ベックマン・コールター社)で同定・薬剤感受性検査(以下迅速法)を実施した。並行して直接ディスク拡散法(以下ディスク法)を実施し,それぞれ間接法と比較した。間接法と迅速法の腸内細菌目細菌菌種名一致率は 98.0%,薬剤感受性検査結果解釈カテゴリー一致率はディスク法79.2%,迅速法94.5%で,迅速法が良好な結果を示した。薬剤別カテゴリー一致率はEscherichia coliで99%以上,Klebsiella pneumoniaeで91%以上を示した。菌種や抗菌薬により注意を要するが,単一菌検出の場合は間接法を省略し,現行より1日早く薬剤感受性検査結果報告をすることが可能であり,臨床的にも経済面でも非常に有益であるといえる。

資料
  • 山口 孝一, 長屋 聡美, 谷口 容, 關谷 暁子, 山口 良考, 片山 博徳, 長沢 光章, 森下 英理子
    原稿種別: 資料
    2022 年 71 巻 4 号 p. 681-689
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    日本臨床衛生検査技師会は多様化する医療のニーズに応えるべく,「チーム医療推進に向けた事業展開」を提案している。今回,将来の臨床検査技師像を見据えた教育を行うことで臨床検査技師の更なる発展に貢献するため,アンケート調査を行って教育現場が取り組むべき内容について模索した。アンケートは臨床検査技師および医療従事者を対象とし,グーグルフォームを用いた無記名回答形式で行った。1.満足度は,満足と回答した病院検査技師が全体の約1/3であり,不満の理由としては給与への不満や業務量の多さが挙げられた。2.認定資格は約7割の病院検査技師が取得しており,その取得数は病院規模に依存していなかった。3.チーム医療へは各病院が積極的に参画していた。4.Artificial intelligence(AI)導入に関しては半数以上の病院検査技師が関心を持ち,検査システムや細胞形態判別への活用が挙げられた。5.今後取り組みたいこと・取り組むべきこととしては,認定資格の取得や学術活動を強く希望している病院検査技師が多く存在した。本アンケート調査により,病院に勤務する臨床検査技師が感じていることや現状の問題点が整理された。また,将来の臨床検査技師像を見据えた教育機関の役割として,在学中から研究手法を習得させることや,検査データ処理のトレーニングなども必要であると考える。さらに,医療人としての人格形成やマネージメント能力,コミュニケーション能力の育成が重要である。

  • 樋口 昌哉, 左右田 昌彦, 山口 桂, 伊藤 直之, 宮田 栄三, 服部 晋也
    原稿種別: 資料
    2022 年 71 巻 4 号 p. 690-697
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    採血・注射処置室の受付は無人受付を導入していたが,無人受付のみで対応できないことや注射処置室の受付ができないなどの問題点があった。今回,電子カルテシステムの更新に伴い,これらの問題点の解消に加えて採血・注射処置室の受付方法の見直し,受診者サービスの向上や受付業務の効率化を目指して無人受付から有人受付へと変更した。主なシステムの改善点は,1.異なるオーダ種を同一画面で確認して受付できる統合受付システムを構築した。その中で採血室,注射処置室に受診者の情報を伝えるコメント送信機能や採血室と注射処置室の受付の連携の仕組みを作成した。2.外来検尿(検体,細菌,病理)の尿カップラベルの1枚化をした。3.各部門と診察室を含む場所で受診者の診療の進捗管理と所在確認ができる統合進捗確認システムの構築をした。その結果,受付の処理の単純化,業務の効率化,受診者サービスの向上に繋がった。また,採血室,注射処置室の連携した運用や受診者の診療の進捗と所在を確認するツールができ,受診者の動線の見える化ができるようになった。

  • 坂本 悠斗, 松浦 秀哲, 矢田 智規, 根岸 巧, 鈴木 良佳, 松野 貴洋, 杉浦 縁, 三浦 康生
    原稿種別: 資料
    2022 年 71 巻 4 号 p. 698-703
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    クリオプレシピテート(以下,クリオ)はフィブリノゲン(以下,Fib)等の凝固因子を高濃度に含むため,大量出血時に使用することで凝固能を早期に回復させ,出血量や輸血量の減少に繋がるとされている。当院でも心臓血管外科(以下,心外)からの要望でクリオの院内作製を開始したので導入経緯と使用実績及び課題について報告する。対象はクリオを使用した心外の手術51症例(以下,投与群)とクリオ未使用の心外の手術94症例として,術式を大血管手術とそれ以外(以下,非大血管手術)に分けて比較検討した。調査内容は出血量,赤血球液(RBC)・新鮮凍結血漿(FFP)の投与量,濃厚血小板(PC)投与量,RBCとFFPの投与比(R/F比),ICU在室日数とした。クリオ投与患者には投与前後のFib値を測定し,統計学的解析を行った。クリオ投与前後のFib値は有意な上昇を認めた。大血管・非大血管手術の両者ともに投与群の方が非投与群と比較して,出血量が多かった。RBCおよびFFPの投与量は大血管手術の投与群で低い傾向があるが,非大血管手術の投与群では有意に多かった。クリオ導入当初,クリオの投与により血液製剤の使用量が削減できると期待したが現状では明確な輸血量削減効果は得られていない。輸血量を削減するためには,クリオを使用できる環境を整えるだけではなく,クリオを効果的に投与するために使用者の意識を変える必要がある。

  • 中島 康仁, 谷口 真由美
    原稿種別: 資料
    2022 年 71 巻 4 号 p. 704-711
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    JICA(Japan International Cooperation Agency)海外協力隊(以下,海外協力隊)には多くの臨床検査技師が開発途上国の臨床検査の発展に寄与すべく派遣されている。派遣された臨床検査技師の多くは開発途上国の臨床検査の発展に尽力するだけでなく,日本では学ぶことのない様々な経験をすることになる。しかし,各方面からの評価が高いと思われる海外協力隊であるが,隊員は政治・宗教・文化などの違い,さらに開発途上国特有の事情もあり,派遣目的に沿った成果を上げることが難しいことも現実である。そこで派遣経験者を対象として開発途上国の臨床検査の状況,課題等について調査を行った。結果は開発途上国の臨床検査技師の検体検査を主とする職務領域のものであった。ほとんどの国で日本を含む他国から機材の提供を受けていたが,提供後の継続的な試薬の購入,メンテナンス体制の構築,故障時の対応等について課題が認められた。JICAや日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技)への要望としては「日本での研修の機会」,「海外で活動できる日本の臨床検査技師の育成」,「外国語対応の臨床検査に関するテキストの提供」等が挙げられ知識や技術を共有する必要性が示唆された。今回の調査から,日本は開発途上国に「モノ・カネ」だけを提供するのではなく,そこに「ヒト」が継続的に知識や技術を共有していくことが重要であることが示唆された。

  • 久末 直子, 坂本 愛子, 柳元 伸太郎, 八尾 厚史
    原稿種別: 資料
    2022 年 71 巻 4 号 p. 712-718
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    背景・目的:SARS-CoV-2感染症(COVID-19)は,症状による他のウイルス感染症との鑑別,診断が困難である。そこで,1回の検体採取で実施するSARS-CoV-2を含む多種ウイルス抗原同定定性検査の有用性を検討した。方法:2020年11月から2021年7月までの東京大学保健センター受診者で同意が得られた者を対象とした。1回の採取で得た鼻咽頭拭い液検体を用い,5種ウイルス(SARS-CoV-2,インフルエンザ,RS,アデノ,ヒトメタニューモ)抗原を4つの抗原同定定性キット(イムノエースシリーズ)で判定し,検査後14日間に関する問診票提出を依頼した。結果:111名の対象者のうち,問診票は94名(84.7%)から回収できた。診断結果は,COVID-19が5名(4.5%),他の感冒が83名(74.8%)で,残りは無/非特異的症状者であった。SARS-CoV-2抗原定性陽性は3名で偽陽性はなく,他の抗原陽性者もいなかった。COVID-19患者2名は偽陰性となるが,うち1名は判定14日後にCOVID-19と診断され,定性検査後感染も考えられた。COVID-19患者4名では,同日施行の唾液抗原定量検査にて定性結果との乖離が見られた。結論:本法でのSARS-CoV-2抗原鑑別同定は偽陽性もなく有益性が高いと考えられる。感度不足による偽陰性対策には,採取部位の検討も重要である可能性が窺えた。

  • 山本 茉里, 福井 直希, 後藤 直樹, 東 正浩, 藤本 一満
    原稿種別: 資料
    2022 年 71 巻 4 号 p. 719-724
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    国内におけるアルカリ性ホスファターゼ(ALP)の活性測定は,2020年4月より,2-エチルアミノエタノール(EAE)緩衝液を用いたJapan Society Clinical Chemistry(JSCC法)から,国際臨床化学連合(IFCC)の基準測定操作法であり,血液型や食事の影響を受けにくいとされる2-アミノ-2-メチルプロパノール(AMP)緩衝液を用いたInternational Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine(IFCC法)へ準備の整った施設から変更開始することとなった。当院もIFCC法への切り替え準備をしていたところ,日臨技近畿支部臨床化学のALP活性に関する実技研修会の開催を知り参加した。その目的は,JSCC法,IFCC法の試薬成分を知り自家調製できる,用手法で活性測定と活性値の計算ができる,ABO式血液型によって活性値が異なることを理解できる,であった。実技研修会でJSCC法およびIFCC法の試薬を自家調製後,食前後に採血したA型,B型,O型,AB型の検体にて,用手法で活性測定および活性値を求めた。その結果,JSCC法およびIFCC法の活性値においてA型が最も低値で,B型が最も食前に比べ食後の上昇率が大きかった。また,JSCC法/IFCC法の活性値比は概ね3.0であった。これらの結果は過去の報告と同様であった。実技研修会の約1年後の2021年4月にALP試薬をIFCC法に切り替えたが,実技研修会で得た知識・技術が役立ち,自信をもってALP活性測定ができ,診療側からの問合せにも対応できた。臨床化学検査を担当者として,試薬成分や特徴を知り,用手法で活性測定や計算ができることは必須と考える。

症例報告
  • 山下 貴哉, 山木 陽平, 水澤 広樹, 松本 早紀, 松本 克也
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 71 巻 4 号 p. 725-730
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    【はじめに】Lactococcus lactis(以下L. lactis)は通性嫌気性グラム陽性球菌でプロバイオティクスなど健康食品として用いられる。我々は意識低下を主訴とし循環不全,細菌性肺炎の疑いで緊急入院となった脾臓低形成患者からL. lactisによる敗血症を経験したので報告する。【症例】74歳男性,意識低下のため,救急搬送。臨床経過より細菌性肺炎,うっ血性心不全の疑いで入院となった。血液培養開始後16時間で陽性となり連鎖状のグラム陽性球菌を認めた。3病日目の分離菌は胆汁エスクリン培地(以下BE)陽性,カタラーゼ陰性のα-Streptococcus様のコロニーを認め,Enterococcus属を疑ったが,ストレプトコッカス群別キット「ユニブルー」(関東化学KK)で凝集を認めず,自動機器にて同定を実施した。4病日目,自動機器にてL. lactis subsp lactisと同定し質量分析の結果と一致した。患者はsulbactam/ampicillinおよびceftriaxone投与により軽快し退院となった。【まとめ】本菌はBE陽性でEnterococcus属と誤認しやすい菌種であり,自動分析装置や質量分析を実施する必要がある。本症例は患者の脾臓が低形成で易感染状態であったこと,日常的な乳製品の摂取があり侵入経路は不明だが,L. lactisの血液中へのトランスロケーションが要因であった。

  • 吉澤 友章, 早津 かおり, 土谷 こずえ, 筑後 史子, 日高 裕介
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 71 巻 4 号 p. 731-736
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    キサンチン結晶は腫瘍の化学療法中に出現する稀な結晶として報告されており,板状の結晶が特徴的である。今回我々は,キサンチン結晶の出現を疑ったが板状結晶を認めず,顆粒状物質の集塊のみを認め,その後,典型的なキサンチン結晶が出現した症例を経験した。患者は30代女性。原疾患のPh陰性B-ALL寛解後,非血縁者間末梢血幹細胞移植を行ったが,約2か月後に再発を確認。入院後,化学療法が開始された。腫瘍細胞の崩壊が著しく,腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome; TLS)を予防するためフェブキソスタットが投与された。入院7日目の尿沈渣で,顆粒状物質の集塊を認めたが同定には至らず,その後38日目にキサンチン結晶の出現を認め,形態的特徴は板状や顆粒状であった。どちらも溶解性試験では水酸化カリウムで溶解,加温,塩酸,生理食塩水には溶解しなかった。入院7日目は尿pH 7.0と中性であり,尿量も確保されていたことから,典型的な板状を形成する過程のキサンチン結晶が考えられた。尿沈渣像より結晶が腎障害に関与していた可能性が考えられるため,キサンチン結晶を検出する意義は高く,本症例の様に典型的な板状を示さない場合があることを理解しておく必要がある。

  • 森山 保則, 杉原 崇大, 森岡 薫乃, 多和 拓未, 土手内 靖, 高橋 志津, 高石 治彦, 坂本 愛子
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 71 巻 4 号 p. 737-742
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    患者は60歳代の男性。末梢血で汎血球減少とBlast出現があり,骨髄中にBlastを27.4%認めたためAMLと診断された。しかし左肺炎像およびCRP異常高値を認めたため,肺炎治療を優先し化学療法を延期した。約1ヶ月後,肺炎の改善および白血球と血小板の造血回復を認め,改めて行った骨髄検査の結果,Blastは2.4%と著減していた。この現象は白血病の自然寛解と呼ばれ,感染症や輸血,薬剤など様々な原因が推測されているが,詳細なメカニズムは不明である。また一過性のことが多く,再発時には病型が変化することもあるため,継続して詳細な観察が必要である。さらに,AMLに重症感染症が合併した場合は,本来のBlast割合よりも減少している可能性があるため,診断時には注意を要すると考えられた。

  • 猪股 百華, 志賀 麻衣子, 小林 美穂, 山下 亜妃子, 渡邊 千秋, 杉田 純一, 豊嶋 崇徳
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 71 巻 4 号 p. 743-747
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    ヘマトイジン結晶は,低酸素分圧下の閉塞した部位で出血が起きた際に形成されるヘモグロビン分解産物であり,近年認知度が増加している。ヘマトイジン結晶の形成には特殊な環境が必要なため,継続して尿沈渣中に出現することは稀である。今回,尿沈渣中にヘマトイジン結晶を継続的に認めた1症例を経験した。症例は70歳代男性。前立腺がんの化学療法中であった。繰り返す肉眼的血尿と尿閉により尿沈渣検査が施行され,様々な形態を呈したヘマトイジン結晶が継続的に認められた。尿閉で膀胱内が閉塞腔内となり,膀胱腫瘍からの出血が繰り返されたため,ヘマトイジン結晶が継続的に認められたと推定した。また,症状改善のために清潔間歇的自己導尿(clean intermittent self-catheterization; CIC)が導入され,その後の尿沈渣中にヘマトイジン結晶は認められなかった。CIC導入後,尿閉が改善され,膀胱内がヘマトイジン結晶を形成する環境ではなくなったと考えられる。そのため,新たなヘマトイジン結晶は形成されず,消失した可能性が高い。ヘマトイジン結晶は陳旧性の出血を反映する点で臨床的意義があると言われている。本症例の経過から,膀胱内で出血が持続している場合,ヘマトイジン結晶の有無はCICが正しく実施されているかを客観的に評価する上で有用な指標になり得る可能性があり,今後更なる症例の蓄積が必要である。

  • 畑中 公基, 山田 景子, 武田 明, 木戸 裕勝, 佐川 美恵, 吉川 誠一, 小野 伸高, 荒川 宜親
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 71 巻 4 号 p. 748-753
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    症例は60代女性。右下腿開放性骨折受傷後に脛骨慢性骨髄炎を発症した。各種抗菌薬の投与,病巣搔爬,抗菌薬含有人工骨やセメントビーズ留置が5回施行された。受傷4年6ヶ月後,慢性骨髄炎の根治目的に今回の入院となった。病巣搔爬術が施行され,嫌気性菌,ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌を検出。複数の抗菌薬投与の後,第45病日以降の骨周囲培養から,Staphylococcus capitis subspecies urealyticusが分離された。寒天平板希釈法および微量液体希釈法での薬剤感受性試験の結果,vancomycin(VCM),teicoplanin(TEIC),daptomycin(DAP)で高いMIC結果を得た(それぞれ4,64,2 μg/mL)。DAP投与歴は無いがDAP非感性を示した。第76病日よりlinezolidの投与を開始後,解熱,白血球数低下と創部の肉眼的所見の改善が見られ,第79病日に骨周囲培養の陰性化を確認,第133病日に退院となった。本症例は受傷2年2ヵ月後にVCM含有人工骨留置を行っており,その際,高濃度のVCMに曝露されたことで細胞壁が肥厚し感受性が低下した株が選択された可能性が考えられる。本症例のように過去にVCMやTEICの局所投与歴があり,同薬に感受性が低下した菌が分離された際は,DAP投与歴が無くとも薬剤感受性試験を実施し,微生物学的有効性を推定して投薬を判断することが重要であると考えられた。

  • 中尾 由佳, 井西 千晶, 錦 沙由理, 坂上 綾華, 植田 七海, 森 雅美
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 71 巻 4 号 p. 754-758
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    心臓浸潤を認めた後頸部悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する。症例は80代男性。後頸部に腫瘤を自覚し前医を受診,生検にてびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断され,化学療法目的で当院へ転院となった。心臓超音波検査では心嚢内に腫瘤と心嚢液貯留,左室の下壁基部から乳頭筋レベルで壁運動低下を認めた。化学療法が施行され,4コース終了後の心臓超音波検査では心嚢内の腫瘤は縮小し,左室壁運動も改善を認め,CT検査でも後頸部と左房背側の腫瘤は縮小が見られた。3ヶ月後の心臓超音波検査では腫瘤の増大と左室下壁の壁運動低下が見られ,PET-CTでも後頸部と心嚢内の腫瘤の増大が見られた。その後も腫瘤サイズの増減と左室下壁の壁運動低下と改善の繰り返しを認めた。化学療法により後頸部の腫瘤と同時に心嚢内の腫瘤のサイズが増減したことより悪性リンパ腫の心臓浸潤であると考えられた。造血器腫瘍の心臓浸潤における心臓超音波検査所見は心嚢液貯留,心室壁肥厚,心筋内腫瘤が報告されているが,本症例は心嚢液貯留に加えて,心嚢内に腫瘤形成し,左室下壁の壁運動低下を認めたことが特徴であった。したがって,前述の心臓超音波所見は悪性リンパ腫による心臓浸潤を鑑別する上で重要な所見であり,超音波検査は有用であると思われた。

  • 宮元 祥平, 久米 江里子, 平井 裕加, 上田 彩未, 清遠 由美
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 71 巻 4 号 p. 759-764
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
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    患者は30歳代,女性。嗜好歴としてアルコールを10年以上多量に摂取している。経胸壁心エコー図検査(TTE)では左房と左室が拡大し,左室のびまん性壁運動低下を認めた。また,高度の僧帽弁逆流,中等度の三尖弁逆流を認め,IVCは拡大し呼吸性変動は低下していた。多量の飲酒歴とTTE所見からアルコール性心筋症(ACM)が疑われ,禁酒を指示し,内科的治療を開始した。約2か月後の再診にて,アルコール摂取を減量したと申告があり,TTEでは左房や左室は縮小し,壁運動低下は改善した。僧帽弁逆流や三尖弁逆流も軽度となり,IVCの呼吸性変動は良好となった。ACMは二次性心筋症のひとつであり,アルコールの長期的な過剰摂取によって,拡張型心筋症様の心筋障害を呈する疾患である。欧米では拡張型心筋症様の病態を示す症例のうち,23~40%はアルコールが関与していると報告されており,禁酒またはアルコール摂取の減量により心機能および予後が改善するといわれている。本症例も長期的にアルコールを過剰摂取していたために,心筋障害を呈し,禁酒を行ったことによって心機能が改善したため,ACMと疑った。また,再度アルコール摂取量が増加したことで,左室の拡大を認めた。ACMはアルコール摂取量に依存して,心臓の大きさや左室収縮能などの心機能も変動すると思われ,ACMが疑われた際には,TTEでの経過観察が有用と考えられた。

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