医学検査
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70 巻, 4 号
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原著
  • 下村 大樹, 高田 旬生, 河野 紋, 高田 章美, 嶋田 昌司, 松尾 収二, 上岡 樹生
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 4 号 p. 613-621
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    我々は,APTT延長検体のクロスミキシングテストにおける数値パラメータとして,混合直後を判定するALD50,加温後を判定するWaSの2つの新規パラメータとそれらを用いたWaS-ALD50法を確立した。ALD50は混合血漿(正常血漿50:患者血漿50)の実測値を,正常血漿と患者血漿を直線で結んだ値で除した%値,WaSは混合血漿と患者血漿の混合直後から加温後の変化率を求め,混合血漿の変化率から患者血漿の変化率を差し引いた値とした。対象は,LA 38,凝固因子低下(因子低下)14,第VIII因子インヒビター(VIIIインヒビター)48の計100検体であり,測定装置はコアプレスタ2000,APTT試薬はトロンボチェックAPTT-SLAを用いた。ALD50はLA群と因子低下群のROC曲線から求めたカットオフ値を87.8%としたとき,感度94.7%,特異度92.9%であった。WaSはVIIIインヒビター群とLA群・因子低下群のROC曲線から求めたカットオフ値を10.2%としたとき,感度95.8%,特異度96.2%であった。ALD50とWaSを組み合わせたマトリクス表を応用したWaS-ALD50法による判別率は,LA群94.7%,因子欠乏群85.7%,VIIIインヒビター群95.8%,全体で94.0%であった。これより,今回提唱するWaS-ALD50法はAPTT延長原因の的確な解析に寄与できる。

  • 長田 知美, 大村 一之, 吉野 宗明, 中村 美樹, 鈴木 瑞季, 高橋 空翔, 須賀 達夫, 青木 康弘
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 4 号 p. 622-630
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome; OSAS)の治療である持続的陽圧呼吸(continuous positive airway pressure; CPAP)療法は対症療法であるため,アドヒアランスの良好な維持が求められる。治療継続困難となる一因に鼻閉があり,鼻閉を客観的に評価できる鼻腔通気度検査はOSAS診断目的で用いられているが,治療アドヒアランスに有用であるとの報告は少ない。そこで,当院で加療を開始した105例を対象に,主観的鼻閉や鼻腔抵抗値とその左右比からアドヒアランスへの影響を調査した。両側鼻腔抵抗値はCPAPアドヒアランスに関連を認めなかったが,鼻腔通気度左右比は主観的鼻閉を訴えた群で有意に高値を示した(p < 0.01)。ROC曲線より主観的鼻閉または治療中止が出現する鼻腔通気度左右比最適カットオフ値は1.88と3.37であった。CPAPアドヒアランスは,鼻腔通気度左右比最適カットオフ値3.37以上で有意に低下し(p < 0.05),更に治療脱落までの経過も有意に脱落する傾向を認めた(p < 0.05)。CPAP療法を開始する際には,鼻閉感の聴取や鼻腔通気度左右比の結果が,その後の治療継続において有用となる可能性がある。

  • 安本 都和, 木村 武史, 大長 洋臣, 谷野 洋子, 京谷 憲子, 山田 幸司, 古屋 智子, 藤田 直久
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 4 号 p. 631-638
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus; MRSA)のクローンやPanton-Valentine leukocidin(PVL)産生株の動向を把握するため,2001,2009,2017年に当院で分離されたMRSAのPVL遺伝子(gene encoding Panton-Valentine leukocidin; lukF-PV)・毒素性ショック症候群毒素遺伝子(toxic shock syndrome toxin-1gene; tst)保有率,PCR-based open reading frame typing(POT)値及び薬剤感受性を調査した。各年においてlukF-PV保有株は0%,5.2%(3/58株),16.9%(12/71株)と増加し,tst保有株は70.3%(52/74株),36.2%(21/58株),16.9%(12/71株)と減少した。luk-F-PV保有15株中12株,106-77-113の全9株がUSA300と推定された。tst保有株の主なPOT1値は93から106に変遷した。各毒素遺伝子保有群は非保有群に比べ有意にクリンダマイシン,ミノサイクリンに感受性であった。クローンシフトに伴うと推定される毒素遺伝子保有率の変化が確認できた。POT法はUSA300の簡易な推定に有用である。

  • 吉岡 明治, 下村 大樹, 北川 孝道, 嶋田 昌司, 松尾 収二, 上岡 樹生
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 4 号 p. 639-646
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    深部静脈血栓症(DVT)診断のために,下肢静脈超音波検査およびD-dimer検査が同一期に施行された825症例を対象に,DVTの有無,血栓部位および血栓病期におけるD-dimer値の検討を行った。DVTは216例(26%)に認め,血栓部位は中枢型85例,末梢型131例,血栓病期は急性期56例,慢性期160例であった。DVT群と非DVT群のD-dimer中央値は,それぞれ8.8 μg/mLおよび2.1 μg/mLであり(p < 0.001),D-dimerが基準範囲を示した137例は全例DVTを認めなかった。血栓部位ならびに血栓病期におけるD-dimer中央値は,中枢型と末梢型がそれぞれ9.8 μg/mLと7.6 μg/mL,急性期と慢性期は10.0 μg/mLと7.9 μg/mLであり,いずれも有意差を認めなかった。外来および入院別にみると,外来は急性期例が慢性期例に比べてD-dimerの有意な高値を認めた(p = 0.003)。さらに,血栓変化とD-dimerの経時変化を調べたところ,血栓増大がなかった症例のD-dimerは経時的な減少を呈した。これらの結果により,D-dimerは血栓の除外に有用であり,外来症例において血栓病期推定の一助になると考えられた。一方,D-dimerはDVTに対する特異度が低いことから,定量値のみでなく経時的な変動を注視することが血栓の状態を判断する上で有効と考えられた。

  • 三島 健太郎, 金重 里沙, 本木 由香里, 野島 順三
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 4 号 p. 647-653
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    抗リン脂質抗体症候群(APS)の第一選択スクリーニング検査としてより多くの種類の抗リン脂質抗体を検出できるELISAの開発を目的とした。抗リン脂質抗体のエピトープ提供蛋白であるβ2グリコプロテインI(β2-glycoprotein I; β2GPI)とプロトロンビン(prothrombin; PT)を含有する成牛血漿(adult bovine plasma; ABP)と成牛血清(adult bovine serum; ABS)を固相化リン脂質(cardiolipin; CL)に結合させたaCL/ABP-ELISA,aCL/ABS-ELISAを開発し,その臨床的有用性を市販ELISAキットと比較した。2種のHome-made-ELISA間でAPS 63症例を対象に陽性率を比較した結果,aCL/ABS-ELISAに比較してaCL/ABP-ELISAが高い陽性率を示した。また,市販キット中で高い陽性率を示したIL-Japan aβ2GPI-IgG(61.9%)に比較して,aCL/ABP-ELISAの陽性率は85.7%と明らかに高かった。合併症別にみても動脈血栓症例(n = 41)で80.5%,静脈血栓症例(n = 12)で91.7%,血栓症合併例を含む妊娠合併症例(n = 8)で100%と明らかに高い陽性率を示した。これらの結果より,aCL/ABP-ELISAはAPSの第一選択スクリーニング検査として有用であると考えられる。

  • 中川 裕美, 稲葉 美穂, 後藤 祐充, 笹舘 夏来, 三宅 敏恵, 小林 敦子, 鈴木 貴博, 下澤 達雄
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 4 号 p. 654-660
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    血中カリウム(potassium; K)値は腎機能などによって変動するが,体内での変動とは別に,検体の溶血や採血時のクレンチングなどの条件によって偽高値を示すことがある。今回,これらに問題はなく一過性に高K血症をきたした症例を経験した。この症例ではカリウムを多く含む食事の影響が推測されたため,その検証を行ったので報告する。同意が得られたボランティア12名を対象に,患者から聞き取りを行った内容と同様の食事を摂取させ,食前,食後1時間,2時間で血清Kと尿K,尿クレアチニン(creatinine; CRE)を測定した。個人別の変動では,12名のうち2名において血清K値が食後1時間で0.7 mmol/L上昇,食後2時間の尿K/CREが60 mmol/g·CRE上昇した。また,血清K値は食前の値に対して食後1時間**,2時間*で有意に上昇し,尿K/CREは2時間**で有意に上昇した(*p < 0.05, **p < 0.01)。12名のうち5名で血清K値が0.3 mmol/L以上上昇しており,この群では食後1時間の尿Kの排泄量が少なく食後2時間で大きく増加していることより,K排泄が遷延していると考えられた。今回の検討で,健常者においても短時間で食後の血清K値の上昇を認めたことから,臨床像と乖離のある高K血症においては採血手技や検体の取り扱いの確認だけでなく,食事内容や食後の時間経過の聞き取りも重要であると考えられた。

  • 小笠原 綾子, 生戸 健一, 渡邊 優子, 大籔 智奈美, 佐藤 伊都子, 今西 孝充, 三枝 淳
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 4 号 p. 661-668
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    抗核抗体検査は膠原病や自己免疫性肝炎などの自己免疫疾患の診断に重要である。今回,我々は核抗原が限定された化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)を原理とした疾患特異的抗核抗体のスクリーニング検査について,間接蛍光抗体法(IF法)との比較解析により日常診療における臨床的有用性を評価した。抗核抗体検査が診断に重要である消化器内科,膠原病リウマチ内科,皮膚科を精査解析の対象とした。消化器内科におけるCLEIA法とIF法(40倍)の判定一致率は41.9%と低く,IF法でしか検出できない自己抗体が臨床的に重要であると考えられた。膠原病リウマチ内科や皮膚科におけるCLEIA法とIF法(160倍)との判定一致率は72.8%および77.5%と低かったが,乖離例の精査解析からCLEIA法は抗SS-A抗体を含む疾患特異的抗核抗体を効率よく検出できていた。さらに,CLEIA法陰性/IF法陽性の乖離例中には,Dense fine speckled(DFS型)を示す割合が膠原病リウマチ内科と比較して皮膚科で有意に高く,対応抗体である抗DFS70抗体がほぼ全例で陽性であった。以上より,日常診療において消化器内科など一部の診療科ではCLEIA法は不向きであったものの,膠原病疾患を対象とする膠原病リウマチ内科や皮膚科では,8項目の疾患特異的抗核抗体のみをスクリーニングする目的としてCLEIA法は臨床的に有用であると考えられた。

  • 海野 貴史, 若狭 伸尚, 伊勢澤 真里子, 池田 聡, 川上 直樹, 齋藤 和人
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 4 号 p. 669-675
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    肺機能検査の予測値は性別・身長・年齢によって求められるが,生活環境の変化などを考慮し定期的な見直しが必要であると考える。本研究は日本呼吸器学会が2001年に報告した予測値から2014年に報告した予測値(JRS2014)に変更した場合の肺活量(VC),努力肺活量(FVC),1秒量(FEV1)に対する信頼性の評価及び系統誤差を知ることを目的とする。またアメリカ胸部学会でも推奨されている正常下限値(LLN)も含め検討を行ったので報告する。相対信頼性の評価はLandisの基準でalmost perfectであった。予測値変更による影響は,男性でVC(−0.55%~7.59%),FVC(−2.45%~6.25%),FEV1(−8.48%~3.30%),女性でVC(−1.08%~10.33%),FVC(−0.44%~14.55%),FEV1(−2.28%~14.70%)に収まることが推定された。またVC低下患者検出にはJRS2014,LLNで評価することで検出数は有意に増加した。気流閉塞患者検出にはLLNを用いることで男性では検出数が増加したが,女性では差を認めなかった。予測値変更の際には変更後の影響を知ることが重要である。また呼吸器疾患早期発見には新しい指標を用いることも検討する必要があると考えられた。

  • 櫻井 慶造, 安本 龍馬, 笠井 杏子, 石川 均, 山上 明子, 若倉 雅登, 狩野 有作
    原稿種別: 原著
    2021 年 70 巻 4 号 p. 676-684
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    LEBER遺伝性視神経症(LHON)は,2015年にミトコンドリア病の一種として難病認定された。本疾患におけるミトコンドリアDNA(m.DNA)の変異は,3460G>A・11778G>A・14484T>C(三大変異)が約90%以上を占めている。MITOMAPのLHON mutationsに登録されているPrimary及びOther candidate LHON mutationsの変異(他変異)の検出を目的として,三大変異をMGB (minor groove binder)-probe法で測定し9領域36箇所の解析法を実施した結果,シーケンス解析は時間と試薬コストがかかりデータ量も膨大になることが明らかとなった。今回,検査の効率化を目的として,診断区分に合わせたm.DNA検査を実施してその効果を精査した。63例の三大変異の内訳は,医師により作成された臨床診断におけるLHONらしき水準(L1~L3)に基づいた診断レベルL1が1例,L2が9例,L3が10例であり,診断レベルが高いほど検出率が高かった。なお,9例の他変異の内訳は,診断レベルL1が3例,L2が3例,L3が4例であった。以上より,検査依頼医との連携に基づく診断レベルに合わせたm.DNA検査を導入することで,検査の省力化及び報告日数の短縮,ならびに他変異の解析も同時に行うことが可能であった。したがって,2015年難病認定基準改定に基づいたLHON診断を確実に実施するためにも,本解析法は臨床的に有用であると考えられた。

技術論文
  • 藤 洋美, 德重 智絵美, 惠良 文義, 樋口 尚子, 結城 万紀子, 梶原 希望, 大場 ちなみ, 嶋田 裕史
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 4 号 p. 685-690
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    選択培地のみでMethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)の判定を行う目的で,ブドウ球菌選択培地5種類についてStaphylococcus aureusの検出性能を検討し,MRSAスクリーニング培地7種類については,各培地のMRSA検出性能を薬剤感受性試験と比較した。検証にはMRSA 28株,Methicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)17株,S. aureus以外のブドウ球菌(non-S. aureus)15株の計60株を使用した。その結果,ブドウ球菌選択培地のS. aureusの検出感度は91%~100%,特異度は87%~100%であり,MRSAスクリーニング培地のMRSA陽性的中率は90%~100%,陰性的中率は94%~100%であった。培地によるS. aureusおよびMRSAの判定を行う場合は,その培地の特性を理解して検査を進めることが重要であると考えられた。

  • 木村 千紘, 大久保 学, 古川 聡子, 前田 ひとみ, 上杉 里枝, 河口 豊, 通山 薫
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 4 号 p. 691-696
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    HBs抗体はB型肝炎ウイルスhepatitis B virus(HBV)のHBs抗原に対する抗体であり,HBVの感染既往やHBワクチン接種後における抗体獲得の有無を鑑別するための指標として用いられている。今回我々は世界保健機構(World Health Organization; WHO)の第2次国際標準品(NIBSCcode: 07/164)を標準物質として値付けした試薬ルミパルスプレストHBsAb-IIIの性能評価を行った。併行精度の変動係数(CV)は1.6~3.0%(平均値:22.9,5.6,205.8 mIU/mL),日差再現性のCVは1.7~3.8%(平均値:20.7,5.8,205.6 mIU/mL)であり,希釈直線性は1,000.0 mIU/mLまで原点を通る直線性を認めた。また,定量限界は0.9 mIU/mLであり高感度かつ精度も良好であった。第1次国際標準品を標準物質として値付けした試薬ルミパルスプレストHBsAb-Nとの相関は,相関係数がr = 0.997,線形関係式がy = 1.07x − 9.24であった。カットオフ値である10.0 mIU/mLに対する判定は100%一致した。以上の結果より,本試薬は有用性が高く,日常検査に貢献できる試薬と考えられる。

  • 千葉 彩乃, 神田 俊, 石井 聡子, 湯本 春野, 小林 清, 池田 勇一, 海渡 健, 小笠原 洋治
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 4 号 p. 697-704
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    プロトロンビン凍結乾燥試薬コアグピア® PT-N(PT-N)を調整する際の個人差と,液状PT測定試薬であるコアグピア® PT-Liquid(PT-L)の基礎的検討を行った。ホールピペット,マイクロピペットのいずれにおいても,ピペットで試薬調整し測定した場合には技師毎の測定値に有意差が認められた。調整操作が不要なPT-Lの基礎的性能評価では,正確性,同時再現性,オンボード安定性,希釈直線性,検出限界については良好な結果が得られ,干渉物質の影響については,遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビン,ヘモグロビン,乳びは,いずれにも最終濃度まで影響を認めず,ヘパリンはPT正常域では0.8 U/mLまで,PT異常域では1.0 U/mLまで影響を認めなかった。PT-LとPT-Nとの相関性は,PT活性%で回帰式 y = 0.95x + 0.58,相関係数r = 0.99と良好であった。コアグピア® PT-Lは試薬調整に伴うエラーがないこと,調整に時間を要さずすぐに使えることなどからも利便性が高く臨床への貢献が期待される試薬であると考えられた。

  • 佐原 菜桜, 佐々木 一雅, 中里 恵梨香, 木村 由美子, 日高 裕介, 橋本 好一, 酒井 利育, 萩原 繁広
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 4 号 p. 705-712
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    Aeromonas属の中には,染色体上にAmbler分類クラスB2に属するカルバペネマーゼ産生をコードする遺伝子を保有する株が存在する。今回,我々はカルバペネム耐性のAeromonas属の薬剤感受性検査において,自動分析装置であるVITEK2とディスク拡散法(Eテスト)の結果に乖離が生じた例を経験した。そこでAeromonas属のカルバペネム耐性株について自動分析装置の機種間差,および各種カルバペネマーゼ確認試験の検討を行った。当院において検出されたカルバペネム耐性のAeromonas hydrophilaおよびAeromonas veroniiについて,VITEK2,MicroScan WalkAway,RAISUS ANYの3機種を用いて,薬剤感受性検査を実施したところ結果に乖離を認めた。使用した装置の中でVITEK2が最もよくカルバペネム耐性を検出できた。カルバペネマーゼ確認試験を併用することで,薬剤感受性試験でカルバペネム系薬が偽感性になってしまうAeromonas属の見逃しをなくすことが可能となり,治療および院内感染対策に繋がることが考えられた。

  • 西川 佳佑, 楠木 まり, 大沼 健一郎, 石田 奈美, 小林 沙織, 西田 全子, 今西 孝充, 三枝 淳
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 4 号 p. 713-717
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    尿培養検体輸送用容器であるUriSwab(コパンジャパン株式会社)の回収条件及び保存安定性に関する基礎的検討を行った。回収条件はEscherichia coli ATCC 25922株を104 CFU/mLを含有した擬似尿を使用し,遠心条件を1,000 rpmで3秒,30秒,60秒・振とう回数を1回,3回,5回とし,それぞれの条件においてスポンジより回収した尿中の生菌数を計測し,最適な回収条件を評価した。保存安定性は,E. coli ATCC 25922,Enterococcus faecalis ATCC 29212,Neisseria gonorrhoeae ATCC 49226を4℃,25℃でそれぞれ保存し,滅菌スピッツでの保存後の生菌数と比較した。回収条件はいずれの条件においても生菌数に大きな差異は認められず,生菌数のばらつきが最小であった遠心時間60秒を最適条件と設定した。保存安定性は,滅菌スピッツと比較しE. coli ATCC 25922株,E. faecalis ATCC 29212株では菌量増加を有意に抑制し(p < 0.01),N. gonorrhoeae ATCC 49226株では死滅を有意に抑制した(p < 0.01)。以上より,UriSwabは滅菌スピッツと比較し,菌量増加や死滅のリスクが少なく,尿培養検体輸送用容器として有用である可能性が示唆された。

  • 兼松 健也, 小堀 祐太朗, 上野 剛, 中村 文子, 佐藤 尚武
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 4 号 p. 718-723
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    亜鉛欠乏症は,味覚異常や免疫低下,諸疾患の悪化など多彩な病態を引き起こすが,適切な亜鉛補給によりこれらは改善する。そのため,血清亜鉛を正しく,迅速に測定し血清亜鉛値を管理することは重要である。当センターでは2019年7月より血清亜鉛を院内で測定し,結果を即時報告している。そこで,血清亜鉛検査を外部委託検査から院内検査に移行し,もたらされる効果を検証した。2019年1月から2020年2月の間に当センターにて血清亜鉛の測定が実施された4,722件を対象とした。院内検査に移行した日を境にして,院内導入前後の状況を比較した。院内導入によって,検査患者数は入院・外来とも増加した。入院患者群では血清亜鉛値や酢酸亜鉛水和物製剤ノベルジン錠(以下,ノベルジン)の処方量に院内導入前後の差は認められなかった。これに対し,外来患者群では血清亜鉛値が低値となり,ノベルジン処方量も有意に低下した。このことは,院内導入によって外来当日に血清亜鉛値を知ることができ,ノベルジン処方量を調整することが可能になった影響と考えられた。以上から,血清亜鉛測定の院内導入は,医師の診療を助け,患者の負担軽減に貢献することが示唆された。

  • 岩田 英紘, 恒川 佳未結, 新田 憲司, 水嶋 祥栄, 長田 裕之, 村瀬 陽太, 瀬古 周子
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 4 号 p. 724-732
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    〈目的〉「ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程」において推奨されているホルマリン固定時間を超過した検体は,核酸品質の低下が懸念されている。今回,臨床現場で固定時間が超過する検体を想定し,良好な核酸品質保持のための固定条件を検討した。また,病理組織診断に与える影響についても検討した。〈方法〉未固定の肺,甲状腺,卵巣を用い,「1,3,7日間室温固定」「3,7日間冷蔵固定」「1日間室温固定後にALへ置換し2,6日間保存」「1日間室温固定後にALへ完全置換し2,6日間保存」「1日間室温固定後に2,6日間冷蔵保存」の11の条件で固定を行った。ΔCT値による核酸断片化の評価およびHE染色,IHCの染色性を評価した。〈結果〉「3,7日間室温固定」検体では,推奨QC値を下回る検体が認められたが,それ以外の条件においては,「1日間室温固定」と同等のQC値であった。最もQC値が高い固定条件は,「3日間冷蔵固定」であった。HE染色およびIHCともに,すべての固定条件において,染色結果に問題はなかった。〈考察〉金曜日や長期休暇前に提出された生検検体は,冷蔵固定もしくは一晩室温固定後のAL置換により,良好な核酸品質が保持できることが示された。臨床現場での業務効率を考慮すると,検体提出直後から冷蔵固定することが,最善の固定条件であると考えられる。

  • 喜多 いずみ, 大瀧 博文
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 4 号 p. 733-739
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    微生物検査における同定検査は質量分析装置を用いた迅速な同定法が普及しつつあるが,導入に至らない施設も多く,同定の迅速化に関する課題は完全に解消されていない。今回,臨床検体から高頻度に検出されるEscherichia coliの同定に関して,Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)が発行するM35-A2に記載された方法(CLSI法)およびこの原法にあたるYorkらの方法(原法)に基づいて各種性状検査を実施し,結果を比較,検証した。本検証には,臨床検体から分離されたオキシダーゼ試験陰性かつスポットインドール試験陽性の腸内細菌目細菌,全543株(E. coli:478株,対照株:65株)を使用した。結果,E. coliはCLSI法および原法ともに全株で同定可能であり,全体の99%が30分以内に結果を判定できた。対照株はCLSI法で6株,原法で1株の誤同定を認めた。これらはβ溶血を示したMorganella morganii 5株によるCLSI法のみでの誤同定と,PYR試験陰性の Klebsiella oxytoca 1株による両方法での誤同定に起因しており,日常検査では原法の使用がより適切と示唆された。本手法は,日常検査の様々な場面で,施設毎の必要に応じた効果的な導入が望ましいと考えられた。

  • 小林 悠, 飯田 樹里, 坂田 秀勝, 松林 圭二, 佐藤 進一郎, 生田 克哉, 紀野 修一
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 4 号 p. 740-747
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    E型肝炎ウイルス(HEV)はE型肝炎の原因ウイルスであり,本邦では遺伝子型3型と4型が検出されている。北海道では高病原性である4型が他地域よりも高率に検出されるため,われわれは3型と4型を迅速に鑑別可能なマルチプレックスreal-time RT-PCR法(鑑別PCR)を開発した。今回,遺伝子型およびHEV RNA濃度既知の献血者由来検体を対象に,リアルタイムPCR試薬であるQuantiTect Probe RT-PCR Kit(従来試薬)およびReliance One-step Multiplex RT-qPCR Supermix(BIO-RAD,A試薬)を用いて,鑑別PCRにおいて感度などに変化があるかを検討した。各遺伝子型のリニアダイナミックレンジは,3型に対しては同等で,4型に対してはA試薬が従来試薬よりも線形区間が10倍広範囲であった。PCR効率は,3型で109.9% vs. 108.3%,4型で89.7% vs. 97.1%であり,血漿1,000 μL使用時の検出感度は,3型で20 IU/mL vs. 19 IU/mL,4型で66 IU/mL vs. 16 IU/mLであった(いずれも従来試薬vs. A試薬)。A試薬により4型に対するPCR効率および検出感度は向上し,高病原性である4型の感染者において遺伝子型情報をより早期に提供可能であり,その後の治療に有用と考えられた。

  • 西尾 美津留, 宮木 祐輝, 小川 有里子, 大杉 崇人, 古池 章
    原稿種別: 技術論文
    2021 年 70 巻 4 号 p. 748-753
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    今回我々は,チミジン依存性(small-colony variants MRSA;以下SCVs-M)検出可能培地であるクロモアガーMRSAスクリーン培地(関東化学)(A)とニッスイプレートX-MRSA寒天培地(日水製薬)(B)について,SCVs-Mの発育性能ならびに日常検査への有用性を評価した。方法:(1)臨床分離株:SCVs-M 3株,通常のMRSA 1株と,ATCC株:MRSA 1株,MSSA 1株を用い,発育性能確認試験,Miles & Misra法による発育支持能試験を行った。(2)2017年6~7月に提出された臨床検体50件を対象としMRSA検出能を比較検討した。結果:(1)2培地の結果は同等の発育性能であり,発育支持能もほぼ同等であった。SCVs-M 1株はA,Bともに発育に48時間要したが,2株は24時間で通常のMRSAと相違の無い発育を認めた。(2)臨床検体における感度/特異度/陽性的中率/陰性的中率は,24時間判定でA,Bともに100%/100%/100%/100%,48時間判定でA;100%/91.7%/33.3%/100%,B;100%/93.8%/40.0%/100%であった。まとめ:2培地のSCVs-M検出能,日常検査におけるMRSA検出能は,ほぼ同等であった。臨床検体の培養検査にこれらを用いることで,SCVs-Mが容易に検出されることが期待出来る。

資料
症例報告
  • 土田 幸生, 佐藤 康子, 森脇 貴美, 平尾 利恵子, 金井 良高
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 4 号 p. 760-765
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    赤血球輸血歴のない80歳代の日本人女性の血漿中から抗Kを検出した。9か月前の不規則抗体スクリーニングでは陰性であったため,抗K自然抗体と考えられた。この抗体はジチオスレイトール(Dithiothreitol; DTT)処理に感受性を示し,免疫グロブリンクラスはIgM型が想定されたが,37℃における反応性を有していた。また,反応増強剤無添加-間接抗グロブリン試験(saline-indirect antiglobulin test; Saline-IAT)でおよそ3週間検出可能であった。これまでのいくつかの報告例における,産生機序として微生物の関与が想定される抗K自然抗体の性状と本症例のそれとは異なる点があり,微生物の関与以外の機序の可能性が示唆された。

  • 木永 芙美, 黒田 みずき, 古野 浩, 武藤 敏孝
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 4 号 p. 766-772
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー HTML

    Mycobacterium fortuitum complexによるカテーテル関連血流感染症の症例を経験したので報告する。患者は61歳女性,発熱,倦怠感を主訴に来院した。4病日目に血液培養が陽性となり,グラム染色で難染性を示すグラム陽性桿菌を認めたため抗酸菌染色を行ったところ陽性であった。5%羊血液寒天培地にてコロニー形態の異なる2菌株の抗酸菌が発育し,中心静脈カテーテル表面の付着物(痂皮),皮下埋め込み型中心静脈アクセスポートからも同様の2菌株が発育した。発育の速さより迅速発育抗酸菌によるカテーテル関連血流感染症が疑われた。2菌株は両方ともDDH(DNA-DNA hybridization)法でM. fortuitum,質量分析法でM. fortuitum complexと同定され,ブロスミックNTMにて薬剤感受性試験を測定したところ同一のMICパターンを示した。Imipenem/Cilastatin(IPM/CS)とAmikacin(AMK)による治療が6週間行われ,全身状態が改善したため退院となった。非結核性抗酸菌の同定,薬剤感受性試験は重要であり,稀な菌が想定される場合や難治性の場合などは特に医師との情報交換が必要だと再認識した。

  • 村井 良精, 遠藤 輝夫, 盛合 美加子, 片山 雄貴, 遠藤 明美, 淺沼 康一, 田中 信悟, 髙橋 聡
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 4 号 p. 773-777
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    当院での輸血症例のうち,他施設から不規則抗体情報が得られた症例を抽出し,当院での輸血対応に有用であったかを後方視的に検証した。全7例の情報源は,前医からの診療情報提供書6例,不規則抗体情報カード保有1例であった。他施設から情報を得る利点として,結果報告あるいは対応決定までの時間短縮,市販試薬では同定困難であり,然るべき施設に検査依頼すべきかの判断に結びつくまでの時間短縮,抗体消失に起因する遅発性溶血性輸血反応(delayed hemolytic transfusion reaction; DHTR)の防止が考えられた。一方,情報伝達方法および受領後の活用法が統一されておらず,情報と検査結果が乖離した場合の判断に苦慮する場合などの課題も明らかになった。また今回の検討から,厚生労働省の指針にある「患者が携帯する不規則抗体カード」の普及が進んでいないことが推測された。今後,これらの課題が克服されることで,より安全な輸血医療に結びつくことが望まれる。

  • 溝口 義浩, 佐谷 純一, 岩見 真人, 渕野 亮太, 平山 賢司, 余門 誠, 緒方 昌倫, 伏見 文良
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 4 号 p. 778-784
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー HTML

    前立腺小細胞癌は形態学的および免疫組織学的に特徴的な所見を有する神経内分泌腫瘍である。症例は76歳男性で,前立腺がん診断時にはPSA値が高値を示したが,ホルモン療法後正常値となった。前立腺がん診断から約1年後に尿沈渣中に異型細胞を認めた。尿沈渣で検出した異型細胞は,N/C比大でクロマチンは増量しているが核異型をほとんど認めず鋳型状の細胞結合性を認める細胞であった。異型細胞は,Synaptophysin陽性で前立腺小細胞癌と診断された。前立腺小細胞癌は稀な症例であり特徴的な細胞学的所見を認識することが重要である。

  • 越崎 祐輔, 齋藤 峻平, 菅原 昌章, 中川 翔希, 小松 守, 高村 圭
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 4 号 p. 785-790
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    電撃性紫斑病の契機となったNeisseria meningitidis敗血症を経験したので報告する。患者は80歳代女性。主訴は発熱,意識障害,高度の炎症反応上昇,右下腿の疼痛を伴う皮下硬結・発赤・紫斑,CTでは左上葉に浸潤影を認めた。下腿軟部組織感染症もしくは肺炎に伴う敗血症とし,Meropenem(MEPM),Vancomycin(VCM)が投与開始となった。来院時の血液培養および喀痰培養よりグラム陰性の双球菌が認められ,分離培養を行ったところチョコレート寒天培地に灰白色コロニーが発育した。グラム染色にてN. meningitidisを疑ったが,当院細菌検査室に髄膜炎菌抗原検査試薬を持ち合わせていなかった。同定検査を実施した結果はN. meningitidisと同定された。右下腿の皮下硬結・発赤・紫斑はN. meningitidis敗血症に伴う電撃性紫斑病と診断された。抗生剤はCeftriaxone(CTRX)へ変更となり,炎症反応の改善が確認された。N. meningitidisは検出頻度が低い細菌ではあるが,病原性の強さや臨床報告の迅速性が求められることを考慮すると,検査体制整備は急務であると考える。

  • 小堺 智文, 高木 洋行, 原 美紀子, 岩本 拓朗, 下平 美智子, 吉田 真里南, 大月 利香, 太田 浩良
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 4 号 p. 791-795
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    顆粒細胞腫(granular cell tumor; GCT)は神経外胚葉組織への分化を示す稀な非上皮性腫瘍であり,舌や皮膚に発生頻度が高い。穿刺吸引細胞診が診断に有用であったGCTの1例を報告する。症例は50歳代の女性で,左乳癌にて左乳房切除,腹直筋皮弁再建術を施行された。術後約10年後に超音波検査にて左乳房再建部位創縁に直径12 mmの低エコー腫瘤を認め,乳癌の再発が疑われた。穿刺吸引細胞診では,背景に多量の好酸性顆粒状物質を認め,類円形~多辺形の異型細胞が孤立散在性ないし集塊を形成して出現していた。異型細胞のN/C比は低く,核は均一で小型の核小体を認め,細胞質には好酸性顆粒が充満しており,顆粒細胞腫と判定した。腫瘤の針生検組織診では,細胞診と同様の形態の異型細胞がシート状の細胞境界不明瞭な胞巣を形成していた。免疫染色では,異型細胞はS100とcalretininおよびinhibinが陽性であり,顆粒細胞腫と診断した。本例での顆粒細胞腫の診断には穿刺吸引細胞診が有用であった。

  • 西村 美里, 鈴木 貴弘, 加藤 愛美, 柳田 篤, 橋本 英樹, 赤津 義文, 大塚 喜人
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 4 号 p. 796-802
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー HTML

    本邦において,Haemophilus influenzae type b(Hib)による侵襲性感染症患者は減少が顕著であり,これはHibワクチンを定期接種するよう予防接種法で定められたことが背景にある。一方で,成人におけるHib侵襲性感染症の報告は少なく不明な点が多い。今回我々は,成人男性においてHaemophilus influenzaeH. influenzae)type bによる化膿性膝関節炎および敗血症性ショックの1症例を経験した。症例は30代男性,基礎疾患としてDubowitz症候群があった。膝関節痛を自覚し整形外科を受診,左膝化膿性関節炎による敗血症性ショックを疑われ当院に紹介入院となった。血液検査では炎症反応高値,造影CTでは左膝関節液貯留を認め,抗菌薬治療を開始した。関節炎は数日で改善,蜂窩織炎はデブリドーマンを施行後に改善傾向となり入院21日目に退院した。血液培養検査および関節穿刺液よりH. influenzaeが検出され,莢膜型はtype bと判定された。本症例よりDubowitz症候群を基礎疾患にもつ場合,液性免疫の低下により重症化する可能性を考慮する必要があることが示唆された。近年,Hib侵襲性感染症患者は減少しているが,小児だけでなく,摘脾後や,液性免疫不全を呈する基礎疾患をもつグループへの有効なワクチン接種戦略を確立することは,今後の課題のひとつであると考える。

  • 梶原 博司, 伊藤 浩司, 田中 隆一, 折口 秀樹
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 4 号 p. 803-809
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー HTML

    S字状心室中隔とは,心室中隔基部が左室内腔に突出し,S字状に変形したものであり,上行大動脈と心室中隔の成す角度(AS Angle)が正常例と比較し,狭小化している。通常,S字状心室中隔は加齢性変化で生じるとされ,左室流出路狭窄を来たすことは少ない。今回,労作時息切れの精査でS字状心室中隔により著明な左室流出路狭窄を認め,その減弱にシベンゾリンが著効した症例を経験し,血行動態および超音波検査で経時的に観察し得たので報告する。また,当院で心エコー検査を実施し,S字状心室中隔の基準を満たした370症例を後方視的に検討したところ,30 mmHg以上の左室流出路圧較差を認めた症例は6例(1.6%)であった。そして,左室流出路圧較差がある群では左室流出路径(心室中隔基部-subaortic curtain)の距離が有意に狭かった。労作時の息切れがあり,左室流出路径の狭小化を認めるS字状心室中隔の場合は,バルサルバ負荷等を含めて心エコー検査での詳細な評価が有用であると考えられた。

  • 服部 亮輔, 原 美津夫, 安藤 秀実, 三上 千映, 里吉 和也, 荒木 秀夫
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 4 号 p. 810-816
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー HTML

    急速進行性糸球体腎炎(rapidly progressive glomerulonephritis; RPGN)は,急性あるいは潜在性に肉眼的血尿,蛋白尿を呈し,急速に腎不全が進行する病態である。尿沈渣検査では,糸球体腎炎などによる糸球体性血尿の場合,糸球体型赤血球や赤血球円柱を含めた各種円柱が認められることが多い。我々は,尿沈渣検査において糸球体型赤血球の判定が困難であった4例のRPGNを経験した。共通した所見として,①赤血球は脱ヘモグロビン状態のものが混在し,全体の出現パターンが多彩性,大小不同に乏しい,②赤血球円柱,顆粒円柱,ろう様円柱を含めた多彩な円柱の出現,③推算糸球体濾過量(eGFR)低値を示すような著しい腎機能低下,④尿定性の蛋白,潜血強陽性が挙げられる。また,2例はUF-1000i(シスメックス社)の赤血球形態情報(RBC-Info.)がMixed?と判定された。これらの結果から病態を推測し,糸球体性血尿を疑うことが可能であった。著しく腎機能が低下した状態では,糸球体性血尿であるにもかかわらず,尿沈渣中の赤血球形態に変化を示さないことがあり,赤血球形態の判定に注意が必要である。また,糸球体性血尿と関連がある赤血球円柱は出現数がわずかな場合があるため,尿沈渣像のパターン(赤血球形態,多彩な円柱出現)と他の検査結果から糸球体性血尿が疑われた場合,赤血球円柱を検出するため詳細に鏡検することも重要である。

  • 小澤 優貴, 大塚 喜人
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 70 巻 4 号 p. 817-823
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
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    アナフィラキシーショックに伴うST上昇型の心電図変化を認め,Kounis症候群が疑われた2症例を経験した。症例1:70歳の女性,造影剤使用直後のアナフィラキシーショックにより,救命救急センターへ搬送された。接触時,意識レベルJCS I-3,血圧測定不可であり,心電図検査にて第II,第III誘導,aVF誘導のST上昇,V1からV5誘導でのST低下を認めた。ACSの合併が疑われたが,冠動脈の有意狭窄は認められず,ACSは否定的であったことより,造影剤によるアナフィラキシーショックによって,心電図検査のST上昇ならびに低下が顕性化されたと考えられた。症例2:59歳の男性,近医受診後に非ピリン系感冒剤顆粒とセフカペン ピボキシル塩酸塩水和物錠を内服したところ,アナフィラキシー反応が出現し,心電図検査において第II,第III誘導,aVfのST上昇を認めた。アナフィラキシーショックならびに 急性冠症候群が疑われたため,当院に紹介搬送となった。冠動脈造影では有意狭窄は認められず,アセチルコリン負荷試験は陰性であった。リンパ球幼若化反応において,それぞれ非ピリン系感冒剤顆粒とセフカペン ピボキシル塩酸塩水和物錠で陽性反応を示したことから,アナフィラキシーショックによる心電図変化と結論付けられた。Kounis症候群は,アレルギー反応に惹起されて急性冠症候群を発症する稀な疾患であることから,重篤な病態を呈する場合にはKounis症候群の可能性も念頭におき,検査・治療・観察を行う必要があると考えられる。

研究
  • 佐藤 雅子, 木下 博美, 大谷 真弓, 田中 沙知, 久保 嘉志, 田地 功忠, 小林 清子, 海老原 康博
    原稿種別: 研究
    2021 年 70 巻 4 号 p. 824-830
    発行日: 2021/10/25
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー HTML

    当センターのNSTは,医師,看護師,薬剤師,リハビリテーションスタッフや臨床検査技師などで構成され,定期的なNST介入と適切な栄養療法により,患者の栄養状態改善をサポートすることを目的としている。NST介入は慢性期の患者が対象であったが,急性期の患者についても介入が行われてきている。今回,2016年1月から6月に2回以上のNST介入を施行し,死亡退院した患者を除いた80名(男48名,女32名)の急性期患者を対象とした。NST介入により血液検査値(血清アルブミン,総リンパ球数,総コレステロール,C-reactive protein),controlling nutritional status(CONUT)スコア,SGA(主観的包括的評価)が有意に改善した(p < 0.01)。また,NST介入終了時の多面的な栄養評価であるCONUTスコアに関連する因子として,重回帰分析にてNST介入前のアルブミン値(p < 0.01)と年齢(p < 0.01)が挙げられた。次に,NST介入期間に関連する因子として,重回帰分析にて栄養関連パラメーターは残らず,手術の有無(p < 0.01)と感染の有無(p = 0.014)が残った。今回の検討から,NST介入前後で栄養指標の有意な改善が見られるが,高齢者とNST介入前アルブミン低値例では注意が必要と考えられ,NST介入期間に関しては,感染症合併症例や手術症例では延長すると考えられた。

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