日本クリニカルパス学会誌
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10 巻, 3 号
日本クリニカルパス学会誌 第10巻 第3号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 岡村 菊夫, 玉腰 暁子, 野尻 佳克, 副島 秀久
    原稿種別: 原著
    2008 年 10 巻 3 号 p. 151-158
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     全国1,213の泌尿器科教育施設に対して行った経尿道的前立腺切除術の周術期管理に関するアンケート調査(回収率59.5%)を基にして、施設背景因子とパス使用率、周術期管理の各種設定との関連を検討した。地域では東海北陸地方と中国四国地方で、経営母体では国立、公的病院で、年間TURP件数が31件以上の施設でパス使用率が高く、病院病床数では200床までの病院で、泌尿器科病床数では10床までの病院で、泌尿器科医数では1人の病院で、オーダーリングや電子カルテも導入していない病院で、ICU・麻酔科のない病院でパス使用率が低かった。ロジスティック回帰分析では、地域(東海北陸、中国四国)、経営母体(大学病院)、泌尿器科病床数1~10床、年間TURP件数1~20件、電子システムなし、ICUなしの6つがパス使用率と有意に関連があった。パス使用が有意に影響を与えていた周術期管理は点滴期間のみであったが、臨床的にはわずかな差であった。周術期管理の各種設定に影響を強く与えていた施設背景因子として、地域、泌尿器科医数、ICUの有無が挙げられ、特に地域は重回帰解析においても強い影響力を持っていた。各施設で独自に開発したパスを使用するだけでは、全国的なTURP周術期管理の標準化は得られないと考えられた。

実践報告
  • 岩本 幸子, 近藤 さち, 西井 幸信
    原稿種別: 実践報告
    2008 年 10 巻 3 号 p. 161-164
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     当院では平成15年6月より人工膝関節置換術のクリニカルパス(以下TKAパス)を使用している。平成18年10月にTKAパスの修正を行い、急性期と回復期の連携パスを作成し使用を開始した。

     今回、急性期のTKAパスを使用した14例についてバリアンス分析を行い、それに基づいてアウトカム等の修正の検討を行ったので報告する。

     平成18年10月~平成19年6月TKAパスを使用した症例は14例で、バリアンス分析の検討項目はSBチューブ®抜去日、車椅子乗車日、AVインパルス®除去日、採血日、抗菌薬投与期間、抜糸日、合併症の有無である。

     SBチューブ®抜去日の設定は1~3日とほぼ設定通りに抜去できている。車椅子乗車日は1~5日と離床にばらつきがみられた。AVインパルス®除去日は2~5日の結果がでた。採血日はセット化されているにも関わらず採血期間が異なっていた。抗菌薬投与期間は、腸炎を起こした症例を除いて平均2~3日であったが薬剤の統一はできていなかった。抜糸は、ほぼ10日前後で設定通りに施行できていた。合併症は、腸炎を起こした1例、創治癒不良の1例で、その他の合併症はみられなかった。

     今回のTKAパス症例のバリアンス分析を行ったことで、当初設定していた項目の妥当性や不足している項目など、次回改定時のポイントを抽出することができた。さらに、定期的なバリアンス分析を行うことにより、アウトカムの妥当性を高めパスの質・向上をはかりたいと考えている。

  • 川村 研二, 笹谷 忠志
    原稿種別: 実践報告
    2008 年 10 巻 3 号 p. 165-169
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     医療の質を高め、ベストプラクティスに近づけるためにはバリアンス分析が必要である。出来高払いから診療情報を分析しバリアンス収集可能かどうか検討したので報告する。【方法】前立腺生検術69例を対象としEファイル「診療明細情報」、Fファイル「行為明細情報」を用いて解析を行った。【結果】ソフトウエアを用いてEファイルとFファイルの情報を活用した詳細パス画面を作成し、診療行為の細かい情報まで時系列で把握することが可能であった。バリアンス症例では止血薬、鎮痛薬等の余分な医療費が費やされており、バリアンスを詳細パス画面から目視で認識できた。実際に発生したバリアンスは69例中18例に19回のバリアンスが発生していたが、Eファイル、Fファイルを用いたバリアンス収集では69例中17例に16回のバリアンス収集が可能であった。入院中に発生したバリアンスについては、ほぼ収集可能であった。再入院となった急性前立腺炎の2例を見逃したが、この分析法では再入院症例の把握が不可能であった。【結論】今回の検討によりEファイル、Fファイルを用いて余分に費やされた医療費を解析することにより、バリアンス収集可能であることが明らかとなった。Eファイル、Fファイルを用い、バリアンスが発生していない基準症例を定めて、診療行為をベンチマークすることが可能になれば、バリアンス収集が可能になると考えた。

  • 渡邊 裕之, 田村 留美子, 中村 充代, 真本 卓司, 中井 由佳, 楠本 茂雄, 畠中 章五
    原稿種別: 実践報告
    2008 年 10 巻 3 号 p. 171-181
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     我々は、進行非小細胞肺がんの治療で用いられるパクリタキセル・カルボプラチン併用療法のクリニカルパス(以下、パス)を、FMEA(Failure Mode and Effects Analysis)を用いて作成した。業務工程表の作成と影響度解析を行ったところ、投与日までは、確認項目が多岐に及ぶため重要度の高かった項目を時系列で並べたパスを、投与2日目以降は、副作用のモニタリングに重点を置いたオーバービューシートにてパスを作成した。また、患者用パス、レジメンスケジュールと副作用の説明書を作成し、患者への情報提供を行うこととした。FMEAを用いることで施行時のリスク予測と患者や医療従事者に対する重要度が確認され、それらに基づいたパスを作成することで、リスクの軽減と治療の標準化が可能となり、FMEAはがん化学療法パス作成に有用であると考えられた。

  • 高橋 正彦, 高橋 健司, 大塚 眞哉, 萩本 美雪, 李 志善, 前田 由紀子
    原稿種別: 実践報告
    2008 年 10 巻 3 号 p. 183-187
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

    【はじめに】当院では2002年9月呼吸器外科手術に対してクリニカルパス(Clinical Pathway:以下パス)を導入した。その後改訂を繰り返し現在のパスに至った。現在1つのパスを退院日のみを変えてほとんど全ての呼吸器外科手術に適応している。今回我々はパス改訂による術後在院日数の短縮効果について検討を行った。

    【対象と方法】当院にて2003年1月から2007年12月までに原発性肺癌に対して標準開胸にて肺葉切除を行った症例のうち評価可能な98症例を対象とした。症例を2003年と2004年の症例(A群26例)、2005年の症例(B群23例)、2006年の症例(C群21例)、2007年の症例(D群28例)の4群に分けて比較検討した。A群は胸腔ドレーンを3日以内に抜去、BCD群は手術翌日に抜去した。

    【結果】各群に平均年齢、性差、肺癌病理病期、組織型に有意差はなかった。術後在院日数はA群18.4日、B群14.6日、C群11.8日、D群10.9日であり有意に短縮された。

    【考察】一般的に開胸肺葉切除はバリアンス発生が多く、パス導入が困難と言われている。その1つの原因が胸腔ドレーン留置期間である。当院では2005年1月以降、出血とair leakがなければ排液量に関係なく胸腔ドレーンを抜去している。そのためパス導入が容易になったと考える。

    【結語】パス導入困難とされている開胸肺葉切除においても、パス導入にて術後在院日数の短縮が得られた。

  • ―副作用モニタリングの実際―
    河野 祐輔, 吉岡 大樹, 大久保 浩子, 碇 秀樹, 神村 英利
    原稿種別: 実践報告
    2008 年 10 巻 3 号 p. 189-194
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

    【目的】関節リウマチ患者へのインフリキシマブクリニカルパスに対応した薬剤師業務ワークシート(以下、ワークシート)を作成し、その有用性を評価した。【対象および方法】2004年7月~2005年7月のワークシート導入前19例と2005年8月~2006年8月のワークシート導入後15例を調査の対象とした。両群において患者背景、薬剤師業務の件数および内容を診療録、あるいは薬剤管理指導記録から調査した。【結果】ワークシート導入前後における患者一人あたりの薬学的介入件数は、導入前0.6±0.8回から導 入後1.4±1.0回へと有意に増加した。また、ワークシート導入後は導入前と比較して、副作用を早期に発見して、重症化するのを回避した件数が有意に増加した。【考察】インフリキシマブクリニカルパスに対応したワークシートを使用することにより、副作用モニタリングをより的確に実施できることが示唆された。

  • ―ヴァリアンス調査に基づく考察―
    山野 克明
    原稿種別: 実践報告
    2008 年 10 巻 3 号 p. 195-203
    発行日: 2008/09/30
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     脳出血ならびに脳梗塞患者に対し発症後早期から行うリハビリテーションの標準化を推進するため、ヴァリアンス調査を行った。クリニカルパスは早期理学療法ならびに早期作業療法のそれぞれ2週間(11回)コースを作成した。標準化にあたり、二木による早期自立度予測基準を取り入れた。早期理学療法コースではアウトカムを起き上がりの自立と設定した。早期作業療法コースでは患者や家族の要望も考慮し、アウトカムをトイレ動作の獲得と設定した。2002年4月より2003年7月までの間にクリニカルパスを実践した脳出血および脳梗塞患者37名において、正のヴァリアンスは37名中18名、負のヴァリアンスは37名中16名に見られた。ヴァリアンスの総計は30件であり、内容として合併症が多かった。11回以内にアウトカムに到達した群と11回の実施でアウトカム到達しなかった群を比較すると、年齢において有意差を認めた。合併症に対する適応基準と除外基準の明確化とアウトカム設定において重要な因子といえる年齢を基にしたクリニカルパスの区別により、標準化を推進できる可能性が示唆された。意識障害、Barthel Index、下肢運動障害では統計学的有意差は認めないものの、軽症になるにつれてアウトカムに到達する患者の割合が多くなった。二木の早期自立度予測基準はクリニカルパスを標準化するために、アウトカム設定上の指標として有用なエビデンスとなりうる。

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