日本クリニカルパス学会誌
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15 巻, 3 号
日本クリニカルパス学会誌 第15巻 第3号
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総説
  • 濃沼 信夫
    2013 年 15 巻 3 号 p. 153-156
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     今日、クリニカルパスは、医療の質、効率、安全の確保・向上に極めて有用なツールと認識されるようになったが、これが開発された背景、紆余曲折を経て進化してきた歴史を鳥瞰した。パスの起点は、狭義では1980年代 Karen Zander、Kathy Bowerによる看護のcase managementであるが、広義では20世紀初頭、Ernest Amory Codmanの、医療の質向上を目指す病院改革に遡る。1990年代後半以降、パスはわが国をはじめ世界的に普及しつつある。特に、21世紀に入り、European Pathway Associationが設立され、International Journal of Care Pathwaysが創刊されて以降、パスの実践と研究は大きく進展している。

  • ~現在の活動状況から考える今後の課題~
    村木 泰子
    2013 年 15 巻 3 号 p. 157-162
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     日本クリニカルパス学会が発足して10年を超え、現在、診療報酬や病院機能評価の要件にもクリニカルパス(以下、パス)の作成・運用が記載されるようになった。病院組織においてパスが重要なツールとなってきており、全体としてパスを運用・管理し、PDCAサイクルをまわすことが必要となった。今後はパスをどのように運用・管理するかということを経営戦略のひとつとして真剣に考える必要がある。

     このような背景を踏まえて2002年頃よりクリニカルパス担当の専従者または兼任者(以下、パス担当専従・兼任者)を配置する病院組織が増えたが、その業務内容や活動時間は明確に規定されたものはない。特にパス担当専従・兼任者に看護師を配置することが多く、担当看護師は「パスナース」と呼ばれている。彼らは看護業務とは別に「パス活動専従の時間を得たい」と考えているが、パス活動専従の時間を看護師が得るためには役割と評価基準を明確にする必要がある。また、パス担当専従・兼任者を配置するのか、もしくは配置せずに委員会としてパスを運用・管理していくかは、病院組織の規模や方向性に合わせて検討する必要がある。

     今回、病院組織内で役割と成果が明示され、それに準じて活動内容を評価されている専門・認定看護師を基準に、パス担当者であり専従・兼任で活動している看護師の学会報告より、パス担当専従・兼任者の役割と必要な知識・技術について考察を行った。パスにおいて患者への配慮がなされることが患者中心の医療を行ううえで重要であり、パスは全職種が関与するため、パス担当専従・兼任者は患者への倫理的配慮と全体の調整も重要な役割となる。

     パス担当専従・兼任者として活動する場合には、パスの運用・管理の担当者として活動時間を有効に活用し、組織が進化・成長し質の高い医療を実現できることを目標とし努力していってもらいたいと考える。

実践報告
  • 成田 淳
    2013 年 15 巻 3 号 p. 165-171
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     アウトカムを同じくする医療業務のまとまりを《ステップ》と定義し、各《ステップ》をつないでいく電子パスを開発した。従来は○日目に□□を行うという考え方でパスを設計してきたが、今回はアウトカム△△を達成したら□□を行うという考え方を採用した。特徴は、時間軸で事象を決めないアウトカム達成型のパスであることと、状況に合わせてステップを連結させるステップアップ型・分岐型のパスであることである。オーダリングと電子カルテシステムの工夫を行い、患者の状態を把握しながらチーム医療を進めることのできるツールの開発を目指した。患者の状態にパス自体を合わせるため、バリアンスの登録は行わず、登録された電子コードを自動集計してパスの分析に活用しようと考えている。本電子パスは、パスに患者を合わせることなく、患者にパスを柔軟に合わせていくシステムである。2011年2月から実診療への使用を開始し、随時パスを作成し適応を広げている。

  • 水堂 祐広
    2013 年 15 巻 3 号 p. 172-176
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     医療・介護関連肺炎(nursing-healthcare associated pneumonia;NHCAP)は呼吸器内科医、感染症内科医以外の医師が治療に携わる機会の多い疾患であるが、抗菌薬の選択や治療効果判定の手法などは医師ごとに異なる。そこでNHCAP入院患者の治療内容および予後を後ろ向きに解析した上でクリニカルパスを導入し治療効果を向上させたことを報告する。

     2011年4月から9月に入院したNHCAPの患者156名に関して投薬状況や在院日数などを調査し、その結果を踏まえパスを作成運用し、運用以前(2011年4月から9月まで、パス適合患者124名)と運用以後(2011年9月から2012年8月まで、152名)の死亡退院率や在院日数などを比較した。

     パス導入前の調査では約半数の症例で推奨量に満たない抗菌薬投与が行われており、推奨量投与群と比較して低用量投与群の死亡率が10%程度高値であったため、パスでは腎機能を考慮しつつも可能な限り高用量の抗菌薬投与を指定した。パス導入前のNHCAP入院患者の死亡退院率は26.6%に対し導入後は19.7%(p=0.18)と減少し、軽快退院患者の平均在院日数は30.7日から25.5日(p=0.01)と有意に短縮した。

     パス導入によりNHCAP入院患者の治療に関して良好な結果が得られた。呼吸器内科医や感染症内科医が不在の病院でも高用量の抗菌薬治療を行い、治療を標準化することでより良好なアウトカムが得られると考える。

  • 笹原 啓子, 朝倉 健, 大竹 弘哲, 田中 真理子, 中井 正江, 須賀 一夫
    2013 年 15 巻 3 号 p. 177-181
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     群馬県では、2010年から県内で統一した脳卒中地域連携パスの使用を開始した。参加している計画管理病院は11、連携先病院は33、かかりつけ医が221である。2010年度のパス適応患者のデータから、群馬県の脳卒中患者の動向および特性について分析した。連携パスを使用し、転院する候補となったパス適応者の総数は、1,059名であった。うちパスを使用して転院となった患者は750名であった。適応疾患別では、脳梗塞55%、脳出血39%、くも膜下出血6%であった。在宅復帰率は64.7%であった。各計画管理病院別に保健医療圏ごとの転帰先をみてみると、自施設がある医療圏内だけで連携している施設はなく、すべての計画管理病院が複数の医療圏にまたがり連携していた。このような状況の中で、群馬県内で統一したパスを運用することは、患者・家族だけでなく医療者の混乱も防ぎ、さらに同じ基準でデータを収集し、分析することで群馬県の動向をより詳細に把握することができ、群馬県全体で脳卒中患者のケアの質向上を考えるチャンスにもつながっている。しかし共通化されて初めてデータ分析を行ったが、パス適応基準が微妙にぶれていたことが判明した。統一の際、かなり詳細に話し合ったつもりであったが、もともと地域で考えられていた適応基準をそのまま使用しているケースがあった。より詳細なデータを収集し、分析するためには、適応基準の統一に加え、他地域とのベンチマーキングにも使用できるよう収集するデータ項目の見直しが必要である。

  • 中山 貴博, 坂本 太朗, 坂本 久乃, 中野 望美, 片山 絹代
    2013 年 15 巻 3 号 p. 182-186
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    緒言:脳梗塞パスは、重症度別、病型別、退院先別などのパスが知られているが、それらと無関係で簡単に適応できる汎用型の急性期と慢性期脳梗塞クリニカルパスを作成した。

    方法:入院日数の頻度がラクナ梗塞では最多の15日に余裕を持たせた16日間の脳梗塞急性期パス、急性期から回復期転院までの期限2 ヵ月を診療するための、50日間の慢性期脳梗塞パスを作成した。急性期パスには最大限の治療を載せ、取捨選択することで処方漏れがないようにし、リハビリテーション(リハ)開始を3日目とした。両パスとも入院診療計画書の要件を満たした患者用パスを作成し、2011年4月から使用開始した。

    検討:発症3日以内の急性期脳梗塞患者で、入院から端座位になるまでの期間が16日以下の患者について、パス使用開始前2010年度と開始後2011年度で、発症年齢、入院日数、入院からリハ開始までの日数、NIHSS、Barthel Index(BI)を検討した。医師・看護師からパス使用に際する感想を聴取した。

    結果:発症年齢、入院日数、入院時NIHSSの有意差はなかったが、入院からリハ開始までの日数の短縮、BI改善度の上昇に有意差を認めた。医師からは迷わずパスを適応しやすい、看護師からは看護計画を立てやすく患者に説明しやすいという感想が得られた。

    考察:対象患者のBI改善度が増加し有用なパスと考えた。汎用型パスでリハの規定が本パスの重要点と考えた。

  • 牧口 美江, 安東 立正, 笹原 啓子, 六本木 京子, 小澤 初美, 林 昌子, 上吉原 光宏, 永島 宗晃, 井貝 仁
    2013 年 15 巻 3 号 p. 187-192
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     呼吸器外科外来術前パス(以下、術前パス)を2009年10月から電子化し、バリアンス分析を行った。対象は2009年10月から2010年8月まで術前パスを適応した患者50例で、平均年齢69.5歳であった。主な対象疾患は原発性肺がんが66%を占めた。アウトカムは患者状態を13項目、生活動作を1項目、知識教育を14項目設定した。患者状態のアウトカムは、50例中45例90%にバリアンスが発生した。生活動作は、50例中28例56%にバリアンスが発生し、そのうち3例が手術中止や、延期となった。知識教育についてのバリアンスの発生はなかった。

     当院では外来術前パスを初めて電子化したため、アウトカムの設定は従来の紙パスをベースに構成や運営を手探りで行った。そのためアウトカムの設定が細かく、外来業務中のバリアンス入力作業に時間を要し、作業の効率化につながらず有効な活用に至らなかった。そこで患者状態を13項目から7項目に簡素化し条件設定を改訂した結果、多忙な外来業務中でもバリアンスに対する記載や処理が可能になり、術前患者のリスクも明確化されたうえ業務の効率化も図られた。

     それは、バリアンス発生後のバリアンス編集を正確に記載することで、記載内容が裏付けされた情報に変化し、それをPDCAサイクルに反映させることで、時代に則した適正なパスに成長し、患者予後をよりよくしていく目的意識に沿った医療と看護の質保証、質向上につながると考える。

  • 吉田 さおり, 中川 俊信, 堅田 知子
    2013 年 15 巻 3 号 p. 193-197
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    はじめに:当院は2004 年9 月に電子カルテを導入し、ほぼ同時期より電子クリニカルパス(以下、電子パス)の使用を開始した。さらに2010年11月の電子カルテ更新に伴いData Ware House(以下、DWH)によるデータ抽出が可能となった。しかし、電子カルテ更新時点ではアウトカムおよびパス終了時の評価がほとんど入力されていなかった。そこでアウトカム評価とパス終了時評価の入力状況について調査し改善にむけての取り組みを行った。

    活動内容:DWHにてアウトカムやパス評価を抽出し、アウトカム未評価率やパス終了時の未評価率を毎月集計した。アウトカムおよびパス終了時の評価が正しく入力され未評価が減少するためには、看護師や医師に改めて評価入力の意義や方法を知ってもらう必要があり、改善にむけての取り組みを行った。

    結果:入院電子パスのアウトカム未評価率は2010年11月に37%であったが2012年6月には25%へ減少し、パス終了時の未評価率は入院の電子パスでは50%から22%、外来の電子パスでは100%から6%へそれぞれ減少した。

    結論:アウトカムやパス終了時評価の未入力を減らす取り組みを行い、改善がみられた。今回の取り組みで評価を入力することは定着したが、評価精度など問題もあるため、評価入力が正しく行われるよう今後も取り組みを継続し、バリアンス分析や電子パスの評価、改善を推進していきたい。

セミナー報告(2013年教育セミナー:東京)クリニカルパスを役立てよう!広めよう!〜実践ノウハウ
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