日本クリニカルパス学会誌
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16 巻, 2 号
日本クリニカルパス学会誌 第16巻 第2号
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総説(第14回学術集会) 教育講演4
  • 黒田 仁
    2014 年16 巻2 号 p. 111-118
    発行日: 2014/06/10
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     岩手県宮古市田老地区(旧下閉伊郡田老町、人口約4,500人)は明治29年と昭和8年の大津波被害の歴史から巨大防浪堤の建設、避難訓練や伝承教育など町ぐるみで津波防災に尽力してきた。一方、医科医療機関は国保田老診療所(旧田老病院)のみで平成19年より医師は私1人。平成20年4月国保田老病院は一般病床19床の在宅療養支援診療所・国保田老診療所に改組され、医師1名、看護師13名、検査・放射線技師各1名で外来・入院・在宅・一次救急、保健・福祉活動を行い、職員皆で地域の健康保持・医療提供を担っていた。特に私が赴任した平成13年からは家庭血圧測定や在宅医療を推進し、医療の民主化に取り組んできた。そこへ平成23年3月11日、大地震に続く大津波が田老地区にも襲来。診療所を含む中心地は壊滅。約1,600棟が全壊。死者・行方不明者は180余名を数えた。

     今回の大災害に際して、①地震から津波襲来まで、②被災直後の医療活動・非被災地域の関わり、③避難所・仮設住宅での健康管理、④診療機能の維持、⑤心のケア、⑥支援の受け入れ、⑦検案に対し臨機応変の対応を行った。支援については国境なき医師団の協力が大きかった。田老地区は震災以前から医療資源が乏しく、皮肉なことにそれが大災害に際して功を奏したようでもある。まさに医療者だけでは医療ができないことを実感し、住民との協働の重要性を体感した。未曾有の大災害と我々の医療・保健活動について概説する。

総説
  • 朴 珍相, 池田 俊也, 南 商尭, 武藤 正樹
    2014 年16 巻2 号 p. 119-127
    発行日: 2014/06/10
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     韓国におけるこれまでのClinical Pathway(CP)の導入効果に関する現状や課題を明らかにし、韓国におけるCP導入効果および今後の方向性を提示することを目的とした。方法としては、韓国医学論文データベースおよびPubMedからCP論文を抽出し、導入効果が評価された74文献を対象に検討した。その結果、在院日数の短縮、医療費の削減、患者や医療者の満足度向上が報告されており、多くの研究で、CPの導入によるケアの効率化と質の向上が認められた。また、バリアンスの発生要因として患者・家族による要因が多いことが明らかになった。一方、地域連携パスの活用に関する研究は見あたらなかった。今後、バリアンス分析などの定期的なCPの評価を通じて、継続的にCPを改善していくことで、臨床現場での医療の質の向上につながると考えられた。また、今後は韓国においても地域連携パスの導入が必要であると考えられた。

原著
  • 下村 裕見子, 大石 智, 廣岡 孝陽, 高橋 恵, 宮岡 等
    2014 年16 巻2 号 p. 131-139
    発行日: 2014/06/10
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     今後増大する認知症患者の医療需要に応えるには、医療支援体制を整える必要がある。生活機能維持を重視した治療・介護アプローチを実践する地域医療の要となるのは、かかりつけ医機能であり、その実践者はかかりつけ医である。そこで、かかりつけ医が認知症診療に際して困難と感じている項目を抽出し、その背景要因を明らかにする探索的研究を行うことを目的に、相模原市内の医師362名を対象に質問紙調査を行った。アンケートの回収数は129通、回収率35.63%であった。

     かかりつけ医の多くが、相模原市内の認知症に関する医療・介護資源の充足度を十分ではないと感じていた。

    逆紹介を肯定的に受け入れるためには、かかりつけ医に「認知症に関する相談、そのフォローの経験があること」、「認知症の在宅医療の経験があること」や「自分の患者であること」が要因となっていた。逆紹介を否定的に捉えるかかりつけ医は、「認知症診療に関すること」、「患者への療養指導」や「介護情報の聴取」に困難感を抱いていた。その背景要因をかかりつけ医は自らの知識不足と感じていた。一方、かかりつけ医認知症対応力向上研修の受講の有無で、「病状説明ができる「」中等度以上の認知症患者の診察ができる「」専門医への相談ができる」の3 項目に統計学的な有意差がみられた。また他疾患の地域連携クリニカルパスの経験値は、逆紹介の肯定的な受け入れを増やすことにつながっていなかった。

     専門医に相談しやすい、かかりつけ医に対するサポート体制と地域スタッフを巻き込んだネットワークの構築が求められると考えられた。

実践報告
  • 勝尾 信一, 片岡 亜季子, 恩地 英年, 吹矢 三恵子, 中川 美絵, 角 奈央子, 清水 秀美, 坂下 香苗
    2014 年16 巻2 号 p. 143-148
    発行日: 2014/06/10
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     バリアンス分析を効率的に行うために、多くの施設でバリアンス発生要因分類(バリアンスコード)を用いているが、各施設でバラバラなバリアンスコードが用いられている。全国100施設にアンケート調査を行い、57施設からバリアンスコード表の提供を受けた。これを標準化し、3階層で大分類4項目、中分類14項目、小分類15項目からなるバリアンスコード表を完成させた。多くの施設が電子カルテにBasic Outcome Master(BOM)とセットで搭載することにより、それぞれの施設のマスタ作成の時間と労力はかなり削減でき、さらにはアウトカムデータだけではなく、バリアンスデータの施設間比較も可能になり、質の向上に大きく寄与できるものと思われる。そして、10種類のクリニカルパス各30症例から収集した11,011件のバリアンスデータを基に、新たに作成したバリアンスコードに対応した、バリアンス分析方針表を作成した。バリアンス分析方針表は、それぞれのバリアンスコードとそのバリアンスの発生頻度に合わせた対応を一覧表にしたものである。クリニカルパスの種類やバリアンス収集方法の枠を超えて使用できる、汎用性のある分析方法を示した道しるべと捉えることができる。多くの施設が継続的にバリアンス分析をするための一助となることを期待する。

  • 石郷 真敬, 懸田 可奈子, 及川 淑子, 佐藤 光太朗
    2014 年16 巻2 号 p. 149-152
    発行日: 2014/06/10
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

    はじめに:当院は平成21年に岩手県中部地区急性期病院として開設した。平成22年度よりDPC対象病院となり、整形外科病棟では医療の質向上や入院在院日数の短縮につながる取り組みを進めてきた。患者に対しては、入院時に入院診療計画書に基づき入院生活の流れを説明していた。退院指導は退院が決まってから別途パンフレットを渡して説明していたことから、在院日数の短縮に伴い退院指導が不十分となってきた。そのため、退院指導を入院診療計画書へ盛り込み、入院時から説明することで患者が退院後も含めて不安なく生活できるよう見直したのでここに報告する。

    目的:3年間のパス運用状況を検討し、入院診療計画書の作成・修正を行う。

    結果・考察:パス適用実件数(パス適用率)は、3年間で572件(90.1%)から851件(93.7%)へ増加した。在院日数は、11.5日から9.8日へ1.7日短縮した。退院指導を盛り込んだ入院診療計画書の運用後、入院時から退院後の疑問・不安に対して適切な説明・指導を行うことができるようになった。患者の反応からも退院指導を盛り込んだ入院診療計画書に満足しているという意見が多く聞かれるようになり効果的に活用できていると考えられる。

    結論:パス適用実件数・適用率を年々高めた。入院診療計画書に退院指導を盛り込み、入院時より退院指導を行うことで患者の不安を軽減させる取り組みを行うことができた。

  • 相澤 淳一, 宮城 佑輔, 田中 伸二, 越智 伸一, 中山 亜里美, 高橋 直子, 竹田 治彦, 安藤 キクエ
    2014 年16 巻2 号 p. 153-159
    発行日: 2014/06/10
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     大腿骨頚部/転子部骨折に対し、院内完結型で、入院期間と退院アウトカムが対象患者によって変動するクリニカルパスを作成した。標準入院期間は年齢、介護認定の有無、骨折型により21 ~77日で設定した。受傷前歩行能力と認知症の程度により最終目標歩行能力を予測するツールも作成した。その予測結果は入院時に患者および家族へ渡して説明し、退院に向けての準備を促している。リハビリの進行程度を他職種のスタッフが共有しやすいように、これまで文章での記録であった歩行能力をグラフ化して視覚的に理解できるツールも合わせて作成し、クリニカルパスへ組み込んで使用している。

     当院に電子カルテが導入された平成25年4月から運用を開始し、半年間使用した結果では退院時ADL予測的中率は63%、歩行能力再獲得率は67%であった。亜急性期病床へ転棟する際の入院期間設定や、家族説明の場面で利用できている。在院期間などの効果については今後の検討次第である。

  • 時永 耕太郎, 山崎 健也, 田代 淳, 今崎 巳陽, 牛方 孝子, 井上 悠季, 布施 望, 吉岡 利男, 太枝 徹
    2014 年16 巻2 号 p. 160-163
    発行日: 2014/06/10
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     我々は、糖尿病患者管理の質を高めるため糖尿病教育入院クリニカルパス(以下、パス)を運用しているが、パス終了退院後外来での血糖コントロール改善は不十分で、退院3月後を過ぎると不良化していた。そこで、教育入院中栄養指導(集団、個人)に加え、退院1月後の栄養指導を予約する改変を行った。パス改変前後にて退院後1年間のHbA1cの推移(1、3、6、9月、1年後)を調査した。入院時の平均HbA1c(JDS値)は改変前群に比べ改変後群において不良であった(9.8±1.9% vs 10.5±2.3%)。退院3月後、改変前群に比べ改変後群においてHbA1(c JDS値)は有意に低値となった(7.1±1.2% vs 6.6±0.9%)。その後の平均HbA1(c JDS値)は退院6月後(7.5±1.9% vs 6.8±1.2%)、9月後(7.5±1.6% vs 6.8±1.0%)、1年後(7.7±1.9% vs 7.0±1.1%)まで改変前群に比べ改変後群において低値で持続していた。HbA1cをNGSP値に変換し、血糖管理目標値達成者の割合を検討した。改変前群に比べ改変後群において血糖目標達成者の割合が大きかった。パス入院時の栄養指導に退院1月後に栄養指導を追加することで食事療法が尊守され、外来での血糖コントロールが改善されたものと考えられた。

  • 杉野 安輝, 渡邊 大祐, 滝 俊一, 奥村 隼也, 三田 亮, 大田 亜希子, 髙木 康之, 岡 美穂, 武田 梓, 小林 英見
    2014 年16 巻2 号 p. 164-170
    発行日: 2014/06/10
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     人口の高齢化に伴い肺炎の入院患者数や死亡数が増加し、高齢者における肺炎予防対策の重要性が高まっている。今回は肺炎予防の観点から、23価肺炎球菌ワクチン接種に関する新たなプロセスを肺炎電子化クリニカルパス(肺炎パス)に組み込む改訂を行った。改訂肺炎パスでは入院当日に患者・家族から肺炎球菌ワクチンの接種歴を聴取し、ワクチン未接種者には肺炎球菌ワクチンを退院前に接種できる運用とした。2013年4月から8 月の間に改訂肺炎パスを適用した肺炎入院患者68例(市中肺炎初期パス35例、誤嚥性肺炎初期パス33例)を対象に、肺炎球菌ワクチンの接種状況やパスの課題について検討した。肺炎球菌ワクチンの接種歴が確認できた症例はそれぞれ62%と45%であった。両パス群ともに10例で退院前のワクチン接種が実施され、ワクチン未接種が確認できた接種対象患者におけるパスでのワクチン接種実施率はそれぞれ77%と100%であった。ワクチン接種による副反応は認められなかった。改訂肺炎パス導入後は入院における肺炎球菌ワクチン接種患者数の増加を認めた。肺炎で入院した患者・家族における肺炎球菌ワクチンの受け入れは良好であり、改訂肺炎パスによるワクチン接種の推進には、医師・看護師間でのパス運用ルールの徹底が課題であった。肺炎入院診療におけるワクチン接種プロセスのパス化は、ワクチン接種率向上の一助となり得ると考えられた。

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