日本クリニカルパス学会誌
Online ISSN : 2436-1046
Print ISSN : 2187-6592
8 巻, 1 号
日本クリニカルパス学会誌 第8巻 第1号 (Feb.15.2006)
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原著
  • 橋根 勝義, 沼田 幸作, 東 浩司, 住吉 義光, 佐伯 光子, 青木 清美, 宮内 一恵
    原稿種別: 原著
    2006 年 8 巻 1 号 p. 5-10
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     【目的】前立腺全摘除術に対するクリニカルパス(以下パス)として日めくり形式のオールインワンパスを作成し、そのアウトカム評価を行った。【対象および方法】2003年2月から2004年11月までに87例にパスを適応し、恥骨後式前立腺全摘除術を施行した。これらを対象にすべてのバリアンスを収集し、アウトカムを評価した。【結果】パスからの脱落は4例に認められた。残り83例で、変動はすべての症例で認められ、多かったのはドレーン抜去に関するもの、排便機能(便秘)、シャワー浴遅れであった。ドレーン抜去は平均4.6日で、尿道留置カテーテル抜去は平均7.3日であった。逸脱は83例中24例(28.9%)に認めた。逸脱症例と非逸脱症例を比較すると、尿道留置カテーテルの抜去と尿失禁量に有意差を認めた。逸脱症例でのカテーテル抜去は平均9.6日であるのに対して非逸脱症例では6.3日であった(P=0.004)。また、尿失禁量も逸脱症例の方が多かった(P=0.003)。術後在院日数に影響する因子は、尿失禁量、尿道カテーテル抜去までの日数、発熱の有無、創部感染であった。日々のアウトカムの達成度から見ると、シャワー浴以外第5病日までのアウトカムに関しては、ほぼ100%の達成度であり、第6病日の尿道留置カテーテルの抜去も85.5%の達成度であった。しかし、カテーテル抜去後は尿失禁の回復の遅れからアウトカムが達成できない逸脱症例を認めた。【結論】今回のアウトカム評価より、尿道留置カテーテルの抜去と尿失禁量が術後在院日数に関して最も重要な因子であることが確認できた。

  • 松田 眞佐男
    原稿種別: 原著
    2006 年 8 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     Diagnosis Procedure Combination(DPC)の導入に際し、当院での診療報酬の変化とその対応を検討することが必要となった。そこで、クリニカルパス36種とその適応症例334例につき、DPC方式と出来高方式における診療報酬額を診療行為ごとに比較し、診療収益の予測とその影響要因を検討した。

     診療報酬総額はDPC方式において4~6%増加することが予測され、DPC導入後9ヶ月間の実稼動額の分析から、このシミュレーション結果の正当性が実証された。DPC方式において診療報酬の相対的低下を来たす要因は、注射薬剤料、検査料、画像料の多さにあった。入院日数の長短は診療報酬の変化とは相関せず、むしろ入院日数を短縮することによる診療報酬の相対減少が数件のパスで認められた。手術的治療の有無も診療報酬の変化とは明らかな相関を示さなかった。

     クリニカルパスは医療の質改善のみでなく、診療報酬のシミュレーション・ツールとして有用である。より多くの疾患にクリニカルパスを作成し、診療の標準化を推進することで、診療報酬制度の変化への速やかな対応が可能となる。

実践報告
  • 飯田 好美, 長谷川 直美, 主代 信子, 保田 尚邦, 神坂 幸次
    原稿種別: 実践報告
    2006 年 8 巻 1 号 p. 21-24
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     胃手術のクリニカルパスにおいて患者の食事摂取状況や食事指導についての記載が十分になされているか調査を行った結果、食事摂取量についても食事指導施行についても記載不備が多く、また指導前後の摂取状況の記載も十分にはされていなかった。

     この調査結果から得られた問題点を解決するために、食事アセスメントスコア(以下スコアと略す)を考案した。スコアは食事摂取量・食べ方・腹部症状・満足度の4項目で点数化した。各項目の得点から合計点を算出し、その合計点によって設定されている評価基準に応じて看護を行うこととした。

     胃手術のクリニカルパスに考案したスコアを付加することで食事摂取状況や食事指導状況が明瞭化するものと考えられた。

  • 長岡 香代子
    原稿種別: 実践報告
    2006 年 8 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     精神科の閉鎖病棟において開放処遇クリニカルパス(以下CP)を、平成16年4月から導入した。CPは3期から構成され、第1・2期は準備期、第3期は実施・経過観察期とした。全体の期間は15日間である。CP用紙の形式は、院内フローシートと一体化させ、観察・援助項目とアウトカムを記載した。各期においてのアウトカムは、金銭管理、約束事項、手続き上の事柄を設定した。実施した患者4名は全て、バリアンスの発生なく開放処遇へと移行できた。

  • 玉川 靖則, 水戸 かなえ, 平船 浩人, 廣田 幸男, 蒲沢 一行, 下沖 収, 宗像 秀樹
    原稿種別: その他
    専門分野: 実践報告
    2006 年 8 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     当院では、医療の適正化と標準化を目的として多職種から構成されるパス委員会を設置し、クリニカルパスの策定に取り組んでいる。パスの作成に薬剤師が参画することにより実現した薬剤の適正使用について報告する。

    ①抗菌薬の予防的投与を検討するため米国疾病管理センター(CDC)における手術部位感染防止ガイドラインを参考にした。現在消化器外科領域にて手術部位感染サーベイランスが行われており、平成15年1月から12月までで、9.2%の発症率であった。

    ②抗血小板剤の術前休薬について、文献やインタビューフォームを参考にした。休薬の記載がないものは半減期や作用機序をもとに指標を設定し、一覧表を作成した。パス開始時の抗血小板剤を含めた中止薬チェックの徹底が強化され、出血リスクの回避、休薬リスクの減少につながった。

    ③止血剤(carbazochrome sodium sulfonate Inj, tranexamic acid Inj)を予防的に術日から数日間投与するパスが多かった。出血の危険度や有効性を検討した結果、止血剤の使用を設定するパスを制限した。

     薬剤師がエビデンスに基づき適正かつ安全安価な薬剤の使用法を提示していくことで、各科で薬剤の使用法にばらつきの見られていた事例が改善されつつある。医療スタッフの意識の統一化も図られ、効率的で質の良い医療の提供に貢献できた。

  • 杉山 好美, 小林 恭, 光森 健二, 若宮 俊司
    原稿種別: 実践報告
    2006 年 8 巻 1 号 p. 35-38
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     【目的】当院では2003年5月より恥骨後式前立腺全摘除術(以下RRP)のクリニカルパス(以下CP)を使用している。本研究の目的はCP導入による在院日数短縮効果を検討することである。【対象・方法】CP導入以後にRRPを施行した患者33名(平均67.6歳)を対象とし、ドレーン抜去、創傷治癒(全抜鈎)、尿道カテーテル抜去、術後在院日数に関するアウトカム分析を行った。また、各項目に関して2001年1月から2003年4月のCP導入以前にRRPを施行した患者20例(平均66.4歳)との比較を行った。当院使用のRRP用CPは術後2日目にドレーン抜去、7日目に抜鈎、8日目に尿道カテーテル抜去、9日目に退院するというものである。原則として術前貯血式自己血輸血(1200ml)を用いている。【結果】術後平均在院日数14.4日で、CP導入前が15.0日、導入後が14.0日と統計学的有意差を認めなかった。アウトカム分析ではドレーン抜去、全抜鈎、尿道カテーテル抜去の達成率が各々67%、76%、73%であったのに対して退院の達成率は27%と低かった。術後経過が順調であったのにもかかわらず退院が達成できなかった患者の33%が退院予定日に創痛を訴えており、38%で総尿量の70%以上の失禁が認められた。【考案】術後経過が順調でドレーン抜去・抜鈎・尿道カテーテル抜去がCPの規定どおりに達成されているにもかかわらず、退院が達成できない原因として創痛・尿失禁が示唆された。術後の創痛や尿失禁に関するインフォームド・コンセントや術後早期の尿禁制改善のための工夫を強化することで、今後さらに在院日数を短縮できる可能性がある。

  • 筒井 由佳, 沖本 朝子, 北川 尚史, 高橋 潔
    原稿種別: 実践報告
    2006 年 8 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     近森病院(以下当院)では平成12年4月にクリニカルパス委員会を立ち上げ、クリニカルパス(以下パス)の導入推進にあたり、現在34種類のパスを作成・運用している。また平成14年より定期的にパス大会を開催し、パスの啓発と職員教育に効果を得ることができた。薬剤師もこれまで、抗菌薬や消毒剤、鎮痛剤などについてパス使用患者を対象にした調査・分析を行い、問題を提起するなど積極的にパス大会に関わっている。腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下LC)のパス大会では、術後感染予防抗菌薬について標準化されていない状況を報告し、パスに基づいた薬剤使用を推奨する発表を行った。今回、パス大会後の薬剤使用状況について調査した結果、95%の症例でパス通りの抗菌薬が選択され、投与日数もパスに則した投与が行われていた。さらに医師による薬剤選択の偏りも見られなかった。パス大会での討議により、広く医師の同意を得ることができ、抗菌薬のバリアンス減少、パスによる医療の標準化につながったと思われる。パス大会での発表は薬剤師にとってもチーム医療の一員としての立場を明確にアピールできると同時に、専門性を磨く必要性を実感する機会となっている。

  • 柴田 元博, 長野 美子, 山田 晃郎, 臼井 清隆, 都築 一夫, 上井 まゆみ, 山田 悦子
    原稿種別: 実践報告
    2006 年 8 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     小児の急性疾患は種類が多く、それぞれにクリニカルパスを用意することは実際的ではない。我々は同様な症状を呈する疾患に対して共通して使用できる一つのパスを作成すれば効率的であると考え、嘔吐・下痢を主症状として入院した小児を対象とするパス(小児科嘔吐・下痢パス)を作成した。本パスの対象患者は、腸重積や髄膜炎が除外され①ウイルス性胃腸炎②細菌性腸炎③感冒性嘔吐・下痢症または④アセトン血性嘔吐症と診断された生後6ヶ月以上7歳未満の小児とした。パスは3ステップから構成され、ステップ毎に設定されたアウトカムの達成を確認した後、次のステップに移行する形式を取った。ステップ1は急速輸液により脱水の改善をはかるステップである。ステップ2は維持輸液を施行中のステップであり嘔吐・下痢の改善を確認した後、点滴を終了する。ステップ3では、点滴終了後に症状の悪化がないこと、食事・水分の摂取が良好なことを確認し退院となる。本パスのように一つのパスでいくつかの疾患を扱う場合には、ステップ毎にバリアンスの有無とアウトカム達成を評価することが特に重要である。これまでにパスを使用した31例のバリアンス分析を行ったところ重大なバリアンスは認められなかった。今後も症例を積み重ねてパス内容の評価と改善を行っていく必要があるが、本パスのような症状名を冠したパスは小児の急性疾患に対して有用であると思われる。

学会報告
  • ~患者安全が守られるために~
    阿部 俊子
    原稿種別: その他
    2006 年 8 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     医療者の労働環境は、医療の質・安全に大きく影響する。例えば、Aikenら(2002)は、看護師の不足によって患者の死亡率が増加することを明らかにしている。安全で適切なケア提供のためには、患者のケアレベルを考慮した適切な人員配置が必須であり、ここにクリニカルパスの活用が可能であろう。つまりパスを適応する患者に対する労働負荷を、パスを参照することで予測することができ、さらに個々の患者に対する業務量を合計することで病棟全体の労働負荷を算出することができる。これにより、フロートナースの活用など組織全体の適切な労働資源の配分も可能になる。

     医療者の労働環境の改善に際しては、様々な規制がネックになることが多く、この部分に対する政策レベルでの改革が不可欠であり、現場の声を適切に政策立案に反映できるような仕組みづくりを進めていく必要がある。

  • 井川 澄人
    原稿種別: その他
    2006 年 8 巻 1 号 p. 57-60
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     個人情報保護法全面施行に際して各医療機関は取得目的、利用目的、共同利用者の提示を行い、取得した情報の安全管理と廃棄などの規定を明確化してきた。しかしその後も、医療現場において様々な課題が判明してきた。漏洩事例をみると利用目的内に限られているはずが医師の転勤や開業時の患者情報の不正な外部への持ち出し行為も発生した。入職時に限らず、退職に際しても個人情報保護の誓約が必要なことが感じられる。安全管理については「うっかりミス」を含め不正アクセスを含めた情報漏洩対策が必要であるが、これらは持ち出しを前提にした管理対策が必要である。第三者提供についても、個人情報のコントロール権が患者側に移行したことによる混乱も一部発生した。大災害時の情報提供や警察の捜査照会に対する回答拒否事例を受けて、厚生労働省などの問答集なども改定を要した。

     時代とともに個人情報保護対策は常に変化するので、教育が重要である。また保持する個人情報の開示という点で開示請求に対する速やかな対応が必要とされるが、その際には診断・治療・ケアなどの根拠は記録内容でしか理解できないので、記録のあり方についても十分な教育と実践が必要とされることが現実味を帯びてくると考えられる。

     個人情報の取得と利用に関して定められたルールを守り、医療内容に関して患者本人や家族との良好な関係構築のために個人情報保護法を有効に活用することが期待される。

  • 伏見 清秀
    原稿種別: その他
    2006 年 8 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     DPC(Diagnosis Procedure Combination)を用いた入院医療診療報酬の包括評価が特定機能病院等に導入されている。診断群分類は医療の情報化ツールであるので、DPCを単に診療報酬支払いの道具として捉えるのではなく、様々な医療評価ツールとして活用していくことが重要である。DPCを用いた医療評価方法として、医療機関ベンチマーキングの基本となる医療の効率性、複雑性の評価や医療の多様性の評価があるが、パスに関連した評価方法としては診療プロセスの評価が重要であり、医療機関の診療プロセスを直接比較評価するProcess-Based Benchmarkingの手法が有用である。これはDPCの調査において収集する従来の診療報酬請求明細書を越える日別の診療明細情報を活用し、OLAP法により疾患、年齢、性、主要な手術別に、様々な診療行為の実施プロセスを医療機関毎に直接対照比較し、評価する方法である。これにより、手術前後の診療パス、化学療法の実施プロトコール、画像診断の実施状況等の医療機関差異が明らかとなり、より効率的で質の高い医療のためのベスト・プラクティスを探る情報インフラを提供すると考えられる。また、地域における占有度の評価や医療計画の設計と評価への応用では地域連携パスが関連してくると考えられる。

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