日本クリニカルパス学会誌
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9 巻, 4 号
日本クリニカルパス学会誌 第9巻 第4号
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総説
  • 中島 直樹
    原稿種別: 総説
    2007 年 9 巻 4 号 p. 629-636
    発行日: 2007/10/20
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     慢性疾患の地域連携クリニカルパスは、「循環型パス」であり、従来の「一方向型」パスと違って第三者的管理機関による監視運営が望ましい。米国ではこれをDisease Management事業者が担い自立的経営を行っている。Disease Managementを日本へ適正に導入する目的で糖尿病Disease Management事業「カルナ」を開始した。米国と異なり日本は保険者権限が弱いため、各参加者(かかりつけ医、患者、保険者)のインセンティブを重視した。アウトバウンド型コールセンタ事務局を設置し、ICT化やクリニカルパスによる業務アルゴリズム化による質保証、クリニカルパスの個別性対応や性格別アプローチマニュアル開発による成果増強、医療制度や個人情報保護法への準拠を行った。開発プログラムは生活習慣改善プログラム(1次予防)および糖尿病合併症予防プログラム(2、3次予防)の2つであり、糖尿病1-3次予防をシームレスにサービスすることが可能となった。各プログラムのコア技術は、特定健康診査制度のタスクとアウトカムを展開したコールセンタ事務局用パス、および標準的糖尿病診療ガイドラインを展開したかかりつけ医用の地域連携パスであり、アウトカム志向型に構築した。2008年に特定健康診査制度が施行されるタイミングで本格運用をするべく、2007年4月現在400人規模の登録者で実証実験を行っている。

原著
  • 高山 慎司, 内山 伸, 石丸 博雅, 西村 直樹, 蝶名林 直彦, 井上 忠夫
    原稿種別: 原著
    2007 年 9 巻 4 号 p. 639-645
    発行日: 2007/10/20
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     聖路加国際病院では、2006年7月からDiagnosis Procedure Combination(以下DPC)が導入された。DPC制度では、医療の標準化と医療収益とのバランスが病院経営にとって非常に重要な項目となる。そこで今回、聖路加国際病院呼吸器内科にて使用している肺癌治療薬ゲフィチニブのクリニカルパスを対象として、DPC方式と出来高方式での各々の診療報酬点数から、それらの比率(以下DPC/出来高比)を算出し、医療収支状況の把握を行った。その結果、DPCの診療報酬点数は70,638点、出来高では42,560点となり、DPC/出来高比は1.66となった。すなわち、出来高制度の時に比べDPC導入後は、同一の治療をした場合に1.66倍の増収となることが判明した。この調査から、今後の医療は、医療の標準化と共に、経営面にも着目し、クリニカルパスとDPCを融合した医療を行うことが重要であると考える。

実践報告
  • 加藤 宏之
    原稿種別: 実践報告
    2007 年 9 巻 4 号 p. 649-654
    発行日: 2007/10/20
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     目的:当科では2005年2月より腹腔鏡下虫垂切除を開始し、同時期に軽症の急性虫垂炎に対しては手術翌日退院を目標とした手術翌日退院パスを導入した。今回、我々は、平均在院日数や、発生したバリアンスや合併症、患者アンケート等を用いて腹腔鏡下虫垂切除手術翌日退院パスの有用性と患者満足度について調査したので報告する。

     結果:クリニカルパス適応例35例中74%(26/35)が術翌日退院し、手術翌日に退院した患者のアンケート調査では88%(23/26)の患者が翌日退院できてよかったという返答が得られた。急性虫垂炎手術翌日退院クリニカルパスは入院日数削減に有効であり十分な満足度を得られていると考えられた。

  • 一診療情報管理士の取り組みを中心に一
    北村 臣, 北口 宏, 西村 泰典, 馬庭 知弘, 里井 壯平, 宮崎 浩彰, 湯浅 文雄
    原稿種別: 実践報告
    2007 年 9 巻 4 号 p. 655-660
    発行日: 2007/10/20
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     関西医科大学附属枚方病院は本学附属病院再編計画の一環として平成18年1月に本学で初めて電子カルテシステムを導入した特定機能病院として開院した。

     円滑な入院診療業務の遂行にはクリニカルパスの運用が必要不可欠という病院長の考えに基づき、枚方病院開院まで本院機能を有しており、枚方病院への異動者が最も多い附属病院(現 滝井病院)のクリニカルパスを基本に電子化することとなった。附属病院のクリニカルパスは紙ベースで使用されることが多かったため、これらも併せて電子化した。枚方病院の電子クリニカルパス導入に際しては、クリニカルパス運用を積極的に行っていた4人の医師とクリニカルパス推進委員会事務局の診療情報管理士が中心となり、各診療科医師や病棟看護師に改訂を含めた電子クリニカルパス作成を働きかけた。診療情報管理士は、入院時診療情報提供書として使用する患者クリニカルパス表のフォーマット作成や移行、周術期の抗菌剤投与に関するコスト面での資料作成、ホームページ作成管理を行うことで、電子化へ貢献した。これらは開院後に行った職員へのアンケート調査で好意的に評価された。枚方病院開院時のパスは20診療科122種類で、その登録数は附属病院と遜色なく、クリニカルパス稼働率は附属病院の平成17年12月の31.6%から60%前後に上昇した。診療情報管理士の積極的な活動は電子パスの導入に有用であった。

  • ~地域連携パスを見据えて~
    尾崎 弘巳, 白樫 加代子, 嶺尾 郁夫, 藤崎 公達, 佃 暁子, 小門 明美, 中島 七子, 神谷 裕喜, 砥上 久美子, 飯田 さよみ
    原稿種別: 実践報告
    2007 年 9 巻 4 号 p. 661-665
    発行日: 2007/10/20
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     泉大津市立病院では平成11年にクリニカルパス推進委員会が設置され、委員会を中心にパスの作成・利用・改定が繰り返し行われた。当初より、糖尿病パスは医療スタッフである医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、理学療法士が作成に参画しチーム医療強化に努めてきた。今回平成18年1月に多職種間での連携をより深める目的でパス改定を行った。スタッフパスに沿った患者パスはオーバービュー方式に続いて日めくり式になっており、毎日のスケジュールが分かり易くしてあり、かつ充分なスペースがあるので血糖値等の検査値を記録できる。病気の説明、栄養指導、運動療法、薬物療法の説明を加えて「療養の手引き」という1つの冊子にした。今までは重複したパンフレットが複数冊あり、他職種の活動把握が困難であったのが、解消された。この改定版スタッフおよび患者パス使用にて、職種間の連携が強くなったかどうかアンケート調査を施行した。パスに関わるスタッフの62%が連携しやすくなったと回答した。改定版パスは指導内容がより専門的になり、業務内容をスリム化でき、チーム医療の活性化に繋がるとの評価を得た。患者からも糖尿病療養に役立つとの好評価を得ている。糖尿病地域連携パス運用に向けて、より充実した内容の糖尿病パスにしていきたい。

  • 里井 壯平, 豊川 秀吉, 柳本 泰明, 道浦 拓, 宮崎 浩彰, 松井 陽一, 山本 智久, 山尾 順, 上山 泰男
    原稿種別: 実践報告
    2007 年 9 巻 4 号 p. 667-672
    発行日: 2007/10/20
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

    【目的】膵頭十二指腸切除術(PD)は侵襲が大きく術後合併症率が高い手術である。今回われわれは、合併症を低減するために種々の介入を行うと同時に、その管理のためにクリニカルパスを導入した。クリニカルパス導入前後で、その影響を比較検討したので報告する。

    【方法】膵疾患65例、胆疾患26例、十二指腸疾患27例の118例を対象とした。2000年1月から2004年5月までのクリニカルパス導入前77例と導入後41例を比較検討した。クリニカルパス導入時に、吻合法を膵管空腸密着吻合に変更し、ドレーン管理や経腸栄養管理を統一し、退院日を術後21日目に設定した。データは中央値(範囲)で表記した。

    【結果】両群間の対象患者属性に関して差はなかった。導入後群のドレーン抜去日や経口摂取開始日はともに導入前群と比較して有意に早期に行われた(P<0.0001)。導入後群の膵液漏発生率(9.8%)、胃内容排泄遅延(2%)は導入前群(27%,22%)と比較して有意に低率であった(p<0.05)。全合併症発生率も同様であった(37% vs 64%,p=0.0066)。導入後群の在院日数(24日,11~73)は導入前群(41日,18~132)と比較して有意に短縮していた(p<0.05)。導入後群に退院1ヶ月以内の再入院例はなかった。

    【結語】膵頭十二指腸切除術へのクリニカルパスの導入により、周術期管理が徹底され、結果的に在院日数の低下につながった。

  • 成田 淳
    原稿種別: 実践報告
    2007 年 9 巻 4 号 p. 673-676
    発行日: 2007/10/20
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     2003年2月からSS社オーダーリングシステムを、2004年10月からはSS社電子カルテシステムの稼動を開始した当院は、紙パスの素地が少なかったためパスを作成・運用するにあたり当初から電子カルテ版クリニカルパスに取り組むことになった。SS社の電子カルテ版パスシステムは適応能力にあふれた素晴らしいシステムではあるが、電子カルテパスは当然一日単位の日程表が基本であり、企画したことと異なる事象が発生するとパスの修正がシステムとしてなかなか思うようにできない。

     パスを患者の状態にさらに適応させるための方策は、パス適応後のパスの個別変更と、類似の複数のパスの設置・患者の状態に合わせた適切なるパスの選択と考えられる。適応後のパスの個別変更にはシステムのより使いやすい改良が必要であり、このシステムの改良は《患者状態適応型パス》の開発にもつながる考え方と思われる。

     電子カルテ版クリニカルパスの使用においては、適切なるパスの設定と、より患者の状態の変化に適応可能なシステムの改良が必要である。一般病院においても目指すは《患者状態適応型パス》の理念に沿う優れたシステムの開発とパス運用の工夫である。

  • 佐々木 康二, 岩下 史絵, 瀧澤 優子, 北野 敬造, 五十嵐 歩, 伊勢田 暁子
    原稿種別: 実践報告
    2007 年 9 巻 4 号 p. 677-684
    発行日: 2007/10/20
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     【目的】透析現場では患者の高齢化や種々の合併症の増加などにより、より確実で安全な医療が求められている。そこで一回ごとの透析ケアを標準化し、安全に予定通りに実施していくための「透析一回パス」を開発し、その効果を検討した。

     【対象と方法】04年12月から06年9月に、北野病院で維持透析を行っていた患者のうち、パス試験導入した患者13名のパス導入初期:05年5月と本格導入後:06年9月の維持透析管理状況をバリアンス発生件数で比較した。さらにパスに携わった看護師に対し、パスに対する認識や導入の効果について、パス本格導入後にアンケート調査を行った。

     【結果】バリアンスの発生については、透析前の体重管理に関するバリアンスおよび透析中の機器操作に関するバリアンスが導入初期に対して本格導入後では有意に低下していた(p<0.01)。その他のバリアンスとして、導入初期に見られていたチャンパーコアグラなどのインシデントが減少していた。看護師のアンケート結果では、「患者の健康状態の把握がしやすくなった」、「他の看護師のケア状況が把握しやすくなった」の2項目で8割以上のスタッフから「大変そう思う・そう思う」との回答が得られた。

     【結論】「透析一回パス」の導入により、透析中の機器操作などのスタッフのケア内容が標準化することが示唆された。同様に、透析中のインシデントが減少することが確認された。看護師には、患者健康状態の把握や、他の看護師との情報共有などの効果が考えられた。

  • 伊勢田 暁子, 藤丸 紀子, 小笠原 香, 小池 和子, 木村 靖夫, 佐々木 康二, 山田 ゆかり
    原稿種別: 実践報告
    2007 年 9 巻 4 号 p. 685-691
    発行日: 2007/10/20
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー

     【目的】平成18年診療報酬改定において、透析患者の主要な合併症のひとつである「腎性貧血」の治療目的で用いられるエリスロポエチン製剤が包括評価の対象となり、医療機関での投与量の減少から患者への悪影響が懸念された。そこで、腎性貧血の管理を目的とする維持透析「疾患管理パス」(以下、パス)を活用し、患者の貧血悪化の防止や医療従事者に与える影響について検討を行った。

     【対象と方法】平成17年3月から平成18年10月までに、単一の透析施設で維持透析を行っていた患者のうち、パス導入前後の2時点の血液データ(Hb、Ht、TSAT)および、エリスロポエチン製剤、静注鉄剤の投与量が把握できた209名を対象とした。さらに、パスに携わった看護獅に対し、パスに対する認識や導入の効果について導入前後でアンケート調査を行った。

     【結果】静注鉄剤の投与量およびTSATは上昇し、エリスロポエチン製剤の投与量は有意に減少した(p<0.001)。Htの平均値は適正値の目標レンジ中央値である31.0%に近付くよい傾向がみられた。看護師に対する調査では、医師の治療状況や指示内容を把握しやすくなったほか、医師への確認事項が減少した(p<0.01)。

     【結論】パスの活用により静注鉄剤が適正に投与され、腎性貧血の状態を安定させたままエリスロポエチン製剤の投与量を適正化することが可能であった。看護師に対しても教育的効果がみられた。

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