日本クリニカルパス学会誌
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14 巻, 3 号
日本クリニカルパス学会誌 第14巻 第3号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
総説
  • 若宮 俊司
    2012 年14 巻3 号 p. 185-192
    発行日: 2012/10/05
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

     2005年1月、CPTプロジェクトは本学会のワーキンググループとして設置された。この組織は、当時、ファイルメーカーを用いて紙パスを作成するなど、end user computingが医療現場で広く活用されていたことから、その領域的確立を目的に設置されたものである。その後の7年に及ぶ活動の成果として、end user computingの領域的確立の基礎を形成したこと、経営情報や教育など医療に限らない議論の場を開拓したこと、活動の基盤となる組織作りを行ったこと、わが国の医療におけるend user computingおよびクリニカルパスの電子化に対する学問的アプローチを世界に向けて情報発信したことなどはCPTプロジェクトが残した成果の中でも特筆すべき業績といえる。このように当初の目的はほぼ達成したといえるが、電子パスの機能標準化など、活動の中で明らかになったパスの電子化に関する諸問題は学会の枠を超えた活動が必要であり、CPTプロジェクトで扱うことは決して適切とはいえない状況となった。こうした経緯からCPTプロジェクトは2012年3月に理事会で設置が承認された電子化委員会に発展的解消することとなった。End user computingに関する報告を見る限り、世界でも稀な活動であり、大きな成果を残したCPT プロジェクトの活動を終焉するにあたり、これまでの活動を総括し、ここに報告を行う。

原著
  • −検査科側からのアウトカム−
    工藤 奈美, 前川 歩, 八子 多賀志, 北村 道彦
    2012 年14 巻3 号 p. 195-202
    発行日: 2012/10/05
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    はじめに:急性心筋梗塞(以下、AMI)は、9割以上が自宅退院と通院による疾患管理が可能である。当院では医療機関の機能分化と連携を推進する目的で平成22年4月に岩手県内で初めて急性心筋梗塞症地域連携パス(以下、パス)を岩手中部医療圏で導入した。パス導入後1年半が経過したので、退院後6ヵ月後のフォローアップ入院時の検査データを解析し、パスの効果について検証した。

    目的:地域連携パスを用いたAMI後の退院後管理が患者に有用か否かを問診や検査データを用いて評価する。

    方法:本パス登録症例の初回入院時および6ヵ月後フォローアップ入院時のデータを用いて冠危険因子および服薬が良好に管理されているか検証した。

    対象:パス導入後1年経過までに適用した27症例中、6ヵ月後フォローアップ入院および検査対象例の12症例。

    結果:全例6ヵ月後フォローアップ検査が行われ、AMI再発例はなく、再狭窄、他病変の進行例も少なく、また退院後の冠危険因子、服薬はほぼ良好に管理されていた。

    結語:本パスはAMI後の退院後管理に有用であると考えられる。

実践報告
  • 盛田 早苗
    2012 年14 巻3 号 p. 205-208
    発行日: 2012/10/05
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

     大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)のクリニカルパス(以下、パス)を使用した入院患者の在院日数、治療から退院までの入院日数、日々のアウトカムの達成率、バリアンスの発生要因を調査し、パス改定後の妥当性を評価した。現行の大腸ESDパスは、治療前日に入院し、治療後3日目に退院を設定している。前回のパス改定時に腸管洗浄の方法、食事開始日、入院期間を変更したことがポイントである。腸管洗浄の下剤を変更したことで、「腸管洗浄の追加がない」のアウトカムの達成率は改定前より7.1ポイントと上昇した。しかし、治療後の「食事が開始できる」のアウトカムの達成率は3.4ポイント下降した。食事の開始時期は、治療に関連する穿孔、後出血、発熱、腹痛などの合併症の発生に影響するため、今後の検討すべき課題である。

  • 〜インターネット環境クラウド方式でのクリニカルパス運用について〜
    田中 章慈
    2012 年14 巻3 号 p. 209-214
    発行日: 2012/10/05
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    目的:良質な地域医療の確保を目的として和歌山市医師会は積極的に地域連携クリニカルパス(以下、連携パス)を推奨してきた。しかし現行の連携パスや診療情報提供書など紙ベースの情報伝達手段は即時性に乏しく不確実とされ、利用は低迷している。そこで連携パスのさらなる普及と、より多くの疾患への対応を期して、インターネット環境クラウド方式での連携パス運用システムを構築した。

    方法:運用概念を込めて地域連携サイバーパス(以下、サイバーパス)と呼称される連携パスは、エクセルファイルとしてクラウドサーバーに収納され、SSL通信方式で暗号化された情報伝達経路を通じてMicrosoft Sharepoint Server 2010というアプリケーションにより専門医、かかりつけ医双方からのアクセスが可能である。単純なファイル交換システムではあるが、アクセス履歴管理や窃視、改ざん予防など厚生労働省ガイドラインに沿ったセキュリティ確保対策が諸所に施されている。

    結語:①院内安全管理対策の観点から電子カルテシステムとは切り離された情報機器によるサイバーパスへの医療情報入力時の手間に課題があるが、医療情報の共有化と伝達の即時性からバリアンス等への対応は有用である。②システムは極めて安価で構築され、維持・継続性、互換性に優れた方法といえる。③サイバーパスの普及は患者の信頼感を醸成し、軽症患者の地域への還元や病院機能改善など地域医療レベルの向上が期待される。

  • 川村 研二
    2012 年14 巻3 号 p. 215-217
    発行日: 2012/10/05
    公開日: 2022/01/31
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     欧米では10年以上前に前立腺全摘除術で翌日退院の報告があるが、本邦の2007年度4,030例の解析では前立腺全摘後の入院期間が約2週間であったと報告されている。

     当院で前立腺全摘除術を行った前立腺癌患者43例を対象とし早期退院可能であるかどうかを検討した

     術翌日に食事、ドレーン抜去、2日目にシャワー浴ができなかったのは、直腸損傷の1例のみであり、残りの42例(97.6%)は可能であった。術後7日目退院可能であった患者は43例中40例(93.0%)であり、退院延期した例は、直腸損傷1例、尿道膀胱吻合不全2例であった。食事、ドレーン抜去、シャワー浴が可能となれば退院可能と思われた。術後24時間目以降に尿道カテーテル管理以外の処置が必要なく日常生活が可能であった43例中40例(93.0%)は尿道カテーテル留置のままであれば術翌日には退院可能と思われた。

     今回の検討から、合併症が生じた症例ではドレーン抜去、尿道カテーテル抜去が遅れ、その結果退院が延びている。したがって、合併症のない手術を施行すれば、すなわち、バリアンスなく経過すれば、入院期間が短縮されることが実証された。

  • 杉野 安輝, 滝 俊一, 奥村 隼也, 三田 亮, 大田 亜希子, 髙木 康之, 佐野 マスミ, 宇野 昌利, 中林 敏
    2012 年14 巻3 号 p. 218-223
    発行日: 2012/10/05
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

     人口の高齢化に伴い肺炎の入院患者数は増加しており、呼吸器科のみでは肺炎入院診療が困難な状況にある。当院では2005年9月から肺炎入院診療において、ユニット型の肺炎電子化クリニカルパス(肺炎パス)を順次導入し運用してきた。今回、呼吸器科以外の内科診療科における肺炎パスの活用状況を分析し、成果と課題につき検討した。対象は2010年4月から2011年3月の1年間に、各種肺炎パスを適用したのべ350例。呼吸器科以外の適用率は全体の22%で、市中肺炎初期パス(109例)と誤嚥性肺炎軽・中等症初期パス(105例)の適用症例が多かった。市中肺炎初期パスは呼吸器科以外が19%で、内訳は各科ほぼ均等な適用率であったのに対して、誤嚥性肺炎軽・中等症初期パスは呼吸器科以外が42%で、神経内科の適用率が26%と高かった。DPCデータを利用し、誤嚥性肺炎軽・中等症初期パス適用症例で診療アウトカムを比較したところ、平均在院日数、院内死亡率、診療コストともに呼吸器科以外のほうが呼吸器科よりも良好な成績であった。患者背景として呼吸器科は重症例が多かった。呼吸器科以外の診療科でも肺炎パスの活用にて、一定の質を維持した肺炎診療が実践できていた。再入院率は呼吸器科以外で高く、初期パス終了後の継続パス導入による診療プロセスの標準化が必要と考えられた。肺炎パスは呼吸器科以外の内科診療科においても有用な肺炎診療支援ツールである。

  • ~理学療法士の立場から~
    河野 稔典, 松本 雄, 大島 富雄, 根本 律子, 片山 絹代, 中山 貴博
    2012 年14 巻3 号 p. 224-228
    発行日: 2012/10/05
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

    はじめに:多職種が協働して人工膝関節全置換術後のリハビリテーションにおける問題点を評価したうえで、クリニカルパスを作成した。パス導入による効果・課題について検討した。

    対象:人工膝関節全置換術を施行した患者で、パス導入前の患者43例49膝とパス導入後の患者32例43膝。

    方法:調査項目は、1)入院日数、2)手術翌日から杖歩行訓練を開始するまでの日数、3)杖歩行訓練を開始してから退院日までの日数、4)退院時の移動形態、5)パス中止の理由とし、2群間で比較検討を行った。

    結果:1)は、パス使用群で日数の短縮傾向が認められた。2)は、パス使用群で日数の有意な短縮が認められた。3)4)は、2群間で有意な差はなかった。5)は、術創部の離開・治癒不全がもっとも多い6膝であった。

    結語:人工膝関節全置換術の治療において、多職種が協働して作成したパス導入により、手術翌日から杖歩行訓練開始までの日数が短縮し、結果入院日数の短縮にもつながった。今後は、アウトカムの見直しや歩行訓練のステップアップの基準の設定などの今回の検討で判明した課題について、関係職種とともに検討を行い、より効率的で標準化された患者満足度の高い内容に改訂していきたい。

  • 濃沼 政美, 平田 美寿貴, 田口 雄基, 宮崎 美子, 佐藤 博, 中村 均
    2012 年14 巻3 号 p. 229-233
    発行日: 2012/10/05
    公開日: 2022/01/31
    ジャーナル フリー

     本研究では、院内パス委員会の組織構成とパス使用率との関連性について考察した。

     対象は2010年9月、日本クリニカルパス学会が1,432施設に実施したアンケート調査(回収率39.5%)の個票データから、パス委員会の構成メンバーが把握可能な517施設とした。院内パス委員会の組織構成ならびにパス使用率に影響を及ぼす可能性のある項目について多変量解析を行い、パス使用率に関連する因子を探索した。さらに得られた因子とパス導入による効果との関係を明らかにした。

     単変量解析の結果、施設のパス使用率へ有意に影響を及ぼす項目は、パス委員会への薬剤師、事務職の参画、および許可病床数の3因子であった。しかし、多変量解析により交絡因子を除外した結果、薬剤師の参画のみが関係していた。また薬剤師が参画している施設ではインフォームドコンセント、チーム医療、医療の質の向上、リスクマネジメントの達成率が未参画の施設に比べ有意に高かった。

     パス使用率が高い施設ほど薬剤師がパス委員会に参画していることが明らかとなった。薬剤師が組織活動のなかで専門知識を発揮することでインフォームドコンセントや医療の質の向上などの目標が達成され、結果的に施設のパス使用率が高まった可能性があると考えられた。

学会報告(第12回学術集会)シンポジウム2 院内パスのバリアンス分析
セミナー報告(2012年度教育セミナー)
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