日本クリニカルパス学会誌
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7 巻, 2 号
日本クリニカルパス学会誌 第7巻 第2号 (Sep.30.2005)
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
総説
  • 勝尾 信一
    原稿種別: 総説
    2005 年 7 巻 2 号 p. 59-65
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     アウトカム評価とはクリニカルパスの妥当性の評価であり、設定したアウトカムと実際がどれほど合致しているかを判断するものである。そして個々のアウトカムを評価するばかりでなく、アウトカム同士の関連を評価することにより、クリニカルインディケーターが把握できる。クリニカルインディケーターの評価は医療の質の評価として重要である。またその結果をベンチマークすることにより医療の質の向上が図れる。一方バリアンス分析は、発生要因を検討することにより、アウトカム達成率の改善およびアウトカム改善の提案を行うものである。その結果、医療の質が向上することになる。このようにアウトカム評価とバリアンス分析を正しく理解して推進していくことが重要であり、その実際を、TUR-Pを例に提示した。

  • 前島 和俊, 池谷 俊郎
    原稿種別: 総説
    2005 年 7 巻 2 号 p. 67-72
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     抗菌薬の予防投与に関しては、ガイドラインや多くの成書・論文で、適正使用の考え方や抗菌薬の選択と投与方法のエビデンスが紹介されている。しかし未だにエビデンスから乖離した、経験的な投与が多く存在することも事実であり、適正使用に向け薬剤師の果たす役割は大きい。当薬剤部では各種の取り組みを行ってきたが、最も重要なことは医師が予防投与の意義を正しく理解することであるとの考えから、関係委員会等を通じエビデンスの啓蒙に勤めてきた。2001年9月のクリニカルパス大会で抗菌薬の予防投与の調査報告と適正使用に向けた提言を行った結果、19(44.2%)のクリニカルパス(以下パス)で提言に沿った変更が得られた。このうちヘルニア根治術と人工関節置換術では、パス変更前後でのSurgical Site Infection(SSI)に変化がないことが検証された。2004年3月に手術部位感染管理チーム(Surgical Site lnfection Control Team, SSICT)が発足し、薬剤師が中心となり改めて予防的抗菌薬投与の基準と推奨抗菌薬を提示した。予防的投与を含む91のパスを検証した結果、49のパスが院内基準と相反していた。文書により変更を勧告した結果、43のパス(87.7%)で提示に沿った改善が行われた。これら変更したパスの薬剤費を算出すると年間約1000万円の経費が削減されることが分かった。またスペクトルの狭い抗菌薬の使用量が増加する傾向が現れはじめた。クリニカルパス委員会、SSICT、感染対策委員会で薬剤師が主導的な立場で活動することにより、パスの質的向上と予防的抗菌薬投与の適正化が推進された。

実践報告
  • ~クリニカルパスを用いた慣例的医療の評価~
    高橋 周史, 坂井 宏実, 平田 育大, 中村 智恵, 朴 義男, 河田 英里, 吉川 敏一
    原稿種別: 実践報告
    2005 年 7 巻 2 号 p. 75-80
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     出血性胃十二指腸潰瘍に対する各種内視鏡的止血術や薬物療法の有用性に関してはコンセンサスが得られているが、食事療法は明確なエビデンスがないまま慣例的な方法が行なわれているのが現状である。そこで、個々の症例の臨床経過に応じた治療経路を選択できるように設計されたアルゴリズムを取り入れた出血性潰瘍クリニカルパス(以下パス)を用いて、慣例的な食事療法の是非を検証することにした。絶食期間については、パスを用いた64症例中、絶食が慣例的な3日間であった標準絶食群は27例(42.2%)であったのに対して、2日以内の短期絶食群は36例(56.3%)あり、両群の臨床成績には差がなかった。食事内容については、慣例的に流動食から順次常食に戻された順次群は35例(54.7%)、絶食後五分粥食から始められた非順次群は29例(45.3%)であった。再出血、手術、死亡例などの臨床成績では両群に有意差はなかったが、入院期間は非順次群で有意に短縮していた。これらの結果より、慣例的な3日間の絶食や、流動食から順次常食に戻す食事療法の必要のない症例が多いことがわかるとともに、現行のパスの有用性が示された。今後、症例を重ねて絶食期間を短縮できる症例、慣例的な食事療法を行なわなくてもよい症例の評価基準をより客観性のあるものにしていく必要がある。

  • ~災害拠点病院における災害訓練の一環として~
    織田 順, 山下 勝之, 井上 卓也, 上尾 光弘, 大出 靖将, 青木 良記, 上山 昌史
    原稿種別: 実践報告
    2005 年 7 巻 2 号 p. 81-87
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     災害や事故が多発し、多数傷病者発生への対応が重要視されている。初療体制立ち上げのためには救急専従医以外のマンパワーが不可欠であるが、外傷診療になじみのあるスタッフは少数であるのが現状である。そこで非救急専従医による外傷患者対応の垣根を低くするために外傷初期診療ガイドラインJATECTM(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)を参考に集団災害時外来診療パスを作成した。JATECTMでは負傷部位局所に目を奪われるあまり致死的な徴候を見落とさない系統的診療を最も重要視している。当パスではガイドラインに準じてまず生理学的徴候を優先したprimay ABC(Airway気道,Breathing呼吸,Circulation循環)アプローチを見落としなく行った上で異常があれば直ちに重症エリアに再トリアージし、異常がなければ解剖学的異常の検索(secondary survey)に移る簡素化したチェックリスト形式とした。当院開催の災害訓練時に1次トリアージされた後の各救護エリアで実際に使用してパスの検証を行った。訓練に先立って全職員に講義形式で教育する際にも使用した。救急専従医の人数は限られ軽症、中等症エリアには配置する余裕がない設定とした。非救急専従医によっても軽症~中等症エリアにアンダートリアージされた重症者の拾い上げが行えた。集団災害時外来診療パスの作成とこれを用いた教育は限られた人的リソースの有効利用に極めて有用であった。

  • 堀米 政利, 守屋 修二, 網野 益美, 伊從 敬二, 松村 国佳, 中里 稔, 大野 雅晴, 吉岡 典子, 矢崎 寿仁, 中島 孝, 藤原 ...
    原稿種別: 実践報告
    2005 年 7 巻 2 号 p. 89-94
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     山梨厚生病院ではクリニカルパス(以下CPと略す)委員会発足2年目を機に、CPの更なる普及を図ること、文献的に言われているCPの功罪を検証することなどを目的に全職員(パスの使用経験に関係なく)およびCP使用患者に対してアンケート調査を行った。回収率は平均88%。この集計結果を分析、その中で否定的意見に対してはその改善点につき検討した。

     その結果、医療サイドでCPは概ね建設的、肯定的に受け入れられていることが示されたが、一方で医師のCPに対する根強い抵抗、看護師における業務の効率化などに対する疑問、またコメディカルおいてはCPそのものに対する意識の低さ等も認識させられた。このことからCPを更に普及させるためには、職種を越えた多くの参加者によるパス大会を開催するなど、なお一層努力が必要であると考えられた。

     また患者サイドにおけるアンケート結果からは、患者は自分の受ける医療に対し我々医療者が予想する以上に強い関心を持っており、CPを利用することにより治療への理解度や安心度が明らかに高まるなど、CPは患者満足度からみても大いに好ましいツールであると考えられた。

  • 佐藤 三七, 須江 歌子, 鈴木 政道, 込堂 るみ子, 朴澤 孝治
    原稿種別: 実践報告
    2005 年 7 巻 2 号 p. 95-99
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     当院では、オーダリングシステムが導入されていないため、クリニカルパス(CP)は、関連部署へ複写式のパス伝票を配布するか、パスの指示を処方箋等に転記する形で運用されていた。複写式は、印刷コストがかさむ上、パスの改変が行いにくい。また、複写が不明瞭な際は、指示を誤って受ける危険があった。複写以外のCPでは、転記作業があるため、医師・看護師の作業負荷が増加する上、転記ミスの危険があり、医療安全上の問題があった。以上の問題を解決するため、Microsoft Accessを活用してCPデータを電子化した。既存の院内LANを利用して、各部門の連携を強化し、CPの指示がペーパーレスで各部門に伝達されるシステムを構築した。

     2004年3月から、12月までの10ヶ月間に、6診療科・10種類のCPを作成し、358例に適用した。転記作業が無くなり、医療安全の面で改善が得られた他、医事システムの患者属性とパスの内容を利用し、退院時要約等の書類作成を容易にしたので、業務の効率化も得られた。IT化の進んでいない病院において、今回開発したシステムは、オーダリングシステム・電子カルテシステムの導入前段階として有用であると考えるので報告する。

  • ―患者教育の有用性について―
    久保田 千景, 黒田 イツ子, 吉田 謙, 原田 稔, 岡本 誉, 小室 普嗣, 樋口 孝次, 繁浦 洋子
    原稿種別: 実践報告
    2005 年 7 巻 2 号 p. 101-108
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     乳房温存療法を受ける外来患者の多くは、放射線治療の効果や副作用に対し、不安や恐怖心を抱いている。放射線治療に伴う不安を軽減するためには、経時的かつ標準化された患者教育の施行が必要である。患者用クリニカルパスと放射線治療医師、診療放射線技師、看護師の各職種による説明用紙I~IIを作成し、患者教育に使用した。放射線療法への理解と不安の程度については診療の各段階において、またクリニカルパスと説明用紙の必要性については治療終了後に、患者アンケートにより評価した。放射線治療への理解は経時的に改善し不安も解消されたが、外来通院が不安と評価する人の頻度は治療期間中に増加した。患者用クリニカルパスおよび説明用紙は理解度の向上に役立つことが示唆されたが、不安を表出し解消する点に関しては十分ではなかった。

     クリニカルパスと説明用紙の導入は、説明業務を標準化し、職種間の業務を明らかにし、乳房温存術後の放射線治療を受ける患者の患者教育に有用であるが、患者不安を改善するためには更なる工夫が必要である。

  • ―感染対策委員会の取り組み―
    今泉 洋子, 渡部 憲昭, 赤間 尚子, 長南 謙一, 長谷部 誠, 今田 隆一
    原稿種別: 実践報告
    2005 年 7 巻 2 号 p. 109-112
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     当院では、2002年8月電子カルテの全面稼動以降、電子カルテによるクリニカルパス(以下CP)の運用を開始し、現在病院全体のCP利用率は約90%に達している。2003年12月より誤嚥性肺炎に対するCPを導入した。CPの作成には、感染対策委員会と連携し、抗菌薬開始前の喀痰培養の徹底、抗菌薬の適正使用を目標とした。

     誤嚥性肺炎CP導入前(2002年12月~2003年11月)の40例とCP導入後(2003年12月~2005年3月)の63例について比較検討した。抗菌薬開始前の喀疾培養実施率は、CP導入前は30%であったが、CP導入後は100%で徹底された。抗菌薬投与期間はCP導入前の平均8.2日(4~18日)に比し、CP導入後は平均5.3日(3~15日)と短縮した。14日以内の入院患者比率は、CP導入前は27.5%であったがCP導入後は39.7%に増加し、在院日数の短縮傾向も認められた。

     感染対策委員会の視点を基に、誤嚥性肺炎CPを作成・導入することにより、誤嚥性肺炎の医療の標準化のみならず、抗菌薬の適正使用など感染対策面での効果が認められた。

  • 電子カルテ「バリアンス・フリー」パスの有用性
    渡部 憲昭, 長谷部 誠, 赤間 尚子, 今泉 洋子, 長南 謙一, 今田 隆一
    原稿種別: 実践報告
    2005 年 7 巻 2 号 p. 113-117
    発行日: 2005/09/30
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

     当院では2002年8月の電子カルテ全面稼動を機に、脳神経疾患とくに脳血管障害急性期クリニカルパス(以下CP)を作成・運用してきた。当院の電子カルテCPの特徴は、①脳血管障害急性期の各CPの基本メニューは過去の経験症例の最大公約数的な内容、②バリアンスにはこだわらない(院内では「バリアンス・フリーパス」と呼んでいる)、③電子カルテ機能により症例毎の個別性に対応していることである。

     現在20種類のCPを運用し、病院全体のCP利用率は90%前後を維持している。過去1年間の全CP使用件数は1078件であり、脳血管障害急性期各疾患別のCP適用率は、脳梗塞94%、心原性脳塞栓症90%、脳出血(保存的治療)96%、脳出血術後90%、くも膜下出血術後60%であった。

     電子カルテCP運用開始後、これまでバリアンス分析は行っていないが問題は生じていない。CPの利用率・適用率の増加により院内における医療の標準化、効率化が進み、チーム医療推進の原動力となってきている。

     電子カルテ機能を活かし、バリアンスにこだわらないCPの運用は、CPの適応疾患を拡大し、医療の標準化を進めていくには有用であろうと思われる。

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