序論:脊髄動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)はまれに血管の神経圧迫による神経根症を呈するが非外科的疼痛治療に関する報告は少ない.今回脊髄AVMによる下肢痛に対してカルバマゼピンが奏功した症例を報告する.症例:20歳女性.右下肢後面痛を契機に脊髄AVMと診断された.ナイダスはTh12/L1高位にあり,導出静脈は脊柱管内を下降し右S1仙骨孔を通過した.AVM部分塞栓術後も導出静脈は残存し,右下肢後面に電撃痛が出現するようになった.プレガバリンやトラマドール塩酸塩,デュロキセチンは奏功せず発作痛は増強した.痛みで歩行困難になり緊急入院したが,カルバマゼピン300 mg/日を導入すると翌日より発作痛は大幅に軽減し歩行も可能になった.結論:導出静脈の右S1神経根圧迫による発作性の神経障害性疼痛が疑われ,血管の神経圧迫という病態が三叉神経痛と類似する点からカルバマゼピンを選択したところ著効した.脊髄AVMの神経根圧迫による電撃痛に対しては,カルバマゼピンが有効な可能性がある.
Genicular nerveに対する高周波熱凝固(genicular nerve-radiofrequency ablation:GN-RFA)は慢性膝関節痛に対して有効である一方,人工膝関節置換術後の遷延性術後痛(chronic post-surgical pain:CPSP)に対しても鎮痛効果が期待できる.われわれは人工膝関節置換術後にCPSPを発症した2症例に対しGN-RFAを実施し,良好な鎮痛を得たので報告する.2症例ともに,人工膝関節置換術後のCPSPに対し,複数回の超音波ガイド下GN-RFAを実施した.伏在神経RFAまたはX線透視下GN-RFAを併用することで,超音波ガイド下GN-RFA単独よりも良好な鎮痛効果を得た.手術に伴う解剖構造の変化や新生血管により,超音波による穿刺部位の同定が困難な場合は,X線透視や伏在神経RFAを併用するなどの工夫が必要かもしれない.
水痘–帯状疱疹ウィルス(varicella-zoster virus:VZV)感染の合併症に帯状疱疹後神経痛,脊髄炎,髄膜炎などがある.脊髄炎の典型的な症状は痙性対麻痺であり片麻痺を生じることはまれである.今回,左三叉神経領域の帯状疱疹に続発した同側片麻痺に伴う上肢痛の原因として,脊髄炎が疑われた症例の治療を経験した.症例は帯状疱疹発症より約1週間後に左上下肢のしびれ,筋力低下が出現し,約9カ月後には左上肢全体に灼熱痛,アロディニアを伴った.髄液VZVポリメラーゼ連鎖反応,脳脊髄磁気共鳴画像で有意所見が得られず,VZV脊髄炎の確定診断には至らなかったが,臨床経過・所見よりVZVは三叉神経節から三叉神経脊髄路核へ伝播し頚髄後角,前角,前根に波及し一連の症状が生じたと考えられた.中枢性神経障害性疼痛は治療抵抗性を示すことが多いが,本症例においては硬膜外ブロックと薬物治療が奏効し良好な経過を得た.
48歳男性.6カ月前からの腰痛を契機に診断に至った血管肉腫の右第6肋骨・右腸骨・脊椎を含む多発骨転移に対する疼痛コントロール目的に入院した.第1病日よりタペンタドール200 mg分2/日の投与を開始し,第2病日には疼痛緩和し良好な睡眠が得られた.第6病日より体動時痛の増悪を認めたためヒドロモルフォン速放性製剤2 mg/回を併用した.右臀部痛に対してレスキュー薬を2回/日使用しており,第7病日よりタペンタドール300 mg分2/日へ増量した.第8病日には疼痛緩和が得られ,病棟内歩行可能となった.疼痛緩和は得られたものの痛みが残存したためタペンタドール400 mg分2/日,ヒドロモルフォン速放性製剤4 mg/回へ増量し,第10病日,自宅退院した.近年,骨転移性疼痛に対するタペンタドールの有効性が蓄積されてきている.まれな疾患である血管肉腫に伴う骨転移性疼痛に対してもタペンタドールが有効であった.