都市計画論文集
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57 巻, 3 号
都市計画論文集
選択された号の論文の131件中51~100を表示しています
  • 歩道ネットワークと行政指定ウォーキングコースに着目して
    崔 文竹, 松橋 啓介, 石河 正寛, 金 炅敏, 有賀 敏典
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 887-894
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、健康増進のためのウォーキングに適した空間に着目し、近隣の人口を推計することで、ウォーキング空間の行政区域間の差を分析した。本研究では、幅員2.5m以上の歩道を確保できる歩道ネットワーク、および自治体の保健部局が主導して作成したウォーキングコースをウォーキング空間とした。その結果、ウォーキング空間に近隣する人口に行政区域の間で違いが存在することが明らかになった。具体的には、歩道ネットワークとウォーキングコースの双方にアクセスしやすい人口の割合が75%を超える区が5区、25%を下回る区が7区存在することがわかった。ウォーキング空間の拡充のためには、保健部局と建設部局の連携を深めることの重要性を指摘した。

  • スケートボードをケーススタディとした公共空間利活用
    笹尾 和宏, 大庭 哲治
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 895-901
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、公共空間における特定の利用形態に対する目撃者の寛容性を高めるためには、どのような対応方策が有効かを展望し、どのような点に留意すべきかを明らかにすることを目的としている。スケートボードをケーススタディとして新聞記事を用いた文献調査、社会実験の目撃者へのアンケート調査を行い以下の知見を得た。1点目は、スペースの美観や他スペースへの波及可能性に関連する対応方策がスケートボードの目撃者の寛容性を高めるために有効である可能性が示されたことである。2点目は、特定の利用形態に対する目撃者の寛容性を高める上では、社会一般的な課題とは異なる課題を見出し改善することが有効であることである。3点目に、公共空間における特定の利用形態が持続可能であるためには、好意的に捉えられるための対応策だけでなく、寛容度を高めるための対応策も別途重要であることである。

  • 黒澤 一輝, 松川 寿也, 中出 文平
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 902-909
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、時間・空間が多様な同程度の密度の地区を複数比較して、その密度を形成している地区の実態を明らかにすることに加え、過去の人口密度、市街地状況を比較して、市街地の変容の要因について検討し、人口密度を計画指標・評価指標とすることの意味を再考することが目的である。 37地区の昭和45年と平成2年、平成27年の宅地率や住宅用地率などを比較した結果、密度変化をもたらした要因について、密度増加では、宅地化の進展や、共同住宅の棟数の増加、高層化、大規模化が挙げられ、密度減少では住宅用地の用途変化、世帯分離などによる人口流出、自然減が挙げられた。 自治体が人口密度を計画指標・評価指標とすることは将来の都市像を示すことである。この内容は、本研究の分析結果を踏まえた上での指標値であることが望ましい。

  • 青木 公隆, 出口 敦
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 910-917
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は、街並み誘導型地区計画(以下、街並み誘導型)の適用における市街地への効果や影響の課題に基づき、長年、「谷中らしさ」の継承に向けた取組みが進められている谷中地域の街並み誘導型の策定プロセスを対象とし、「谷中らしさ」の継承に向けた課題と、その課題への対応を明らかにすることを目的とする。また、谷中地域から得られた知見に基づき、密集市街地において、地域らしさの継承の観点からみた街並み誘導型の策定プロセスの留意点を示す。 まず、東京都区部の密集市街地の改善に向けた街並み誘導型の適用実態を網羅的に整理し、傾向を把握するとともに、谷中地域の街並み誘導型の特徴を示した。次に、谷中地区における街並み誘導型の形成の背景や経緯、都市計画審議会における形態規制の決定要因を分析することで、谷中らしさの継承における課題と対応を整理した。街並み誘導型策定プロセスにおける「谷中らしさ」の継承を実現するため、制度の適用範囲の縮小や形態規制の強化が行われた。また、密集市街地における街並み誘導型の策定における留意すべき点として、地域らしさの要素を各主体による早期の共有及び街並み誘導型の適用範囲の検証が示された。

  • 米国・シアトル市の2地区を事例として
    内田 奈芳美
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 918-925
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は「ジェントリフィケーションはパンデミックによって加速したのではないか」との仮説をアメリカ合衆国シアトル市を事例として検証するものである。シアトル市の中で新築型ジェントリフィケーションとして1.サウス・レイク・ユニオン、商業型ジェントリフィケーションとして2.キャピトルヒルを研究対象地域として選んだ。地元紙における報道を時系列で整理し、開発状況とその担い手、パンデミック期間中の商業の変化、かつ不動産評価の変動を分析することで「投資の流入」としてのジェントリフィケーションへのパンデミックの影響を明らかにし、仮説を検証した。 パンデミック中、不動産評価は低下したが、商業型では店舗閉鎖と新規の流入が促進され、新築型の地域では投資の流入が継続していたことが分かった。

  • 「居場所」の特性および心理的側面に着目して
    鈴木 茜, 矢吹 剣一, 後藤 智香子, 新 雄太, 吉村 有司, 小泉 秀樹
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 926-932
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    今日、人々の「居場所」は、フィジカル空間のみならずサイバー空間にも存在すると言えるが、サイバー空間を含め人々がどのような「居場所」を持っているのかは、明らかになっていない。本研究では、サイバー空間およびフィジカル空間に形成される人々の「居場所」の様相を、「居場所」の特性と心理的側面に着目して明らかにすることを目的とする。本研究では、サイバー空間/フィジカル空間、個人的/社会的で4つに分類した「居場所」のタイプおよび空間・場の種類によって、「居場所」の心理的機能が異なることがわかった。さらに、調査結果に基づき、サイバー空間とフィジカル空間で「居場所」における違いをもたらす8つの視点を提案している。

  • 富山県高岡市に居住する高校生を対象として
    森 豪大, 籔谷 祐介, 宋 俊煥
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 933-940
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、高岡市に居住する高校生を対象にアンケート調査を実施し、どのような源泉がシビックプライドを醸成し、将来の定住意識を高めるかという一連の流れを明らかにした。源泉は「地域環境」、「文化・産業」、「食・自然」、「歴史」の4つの因子で構成され、シビックプライドの構成要素は「参画」、「アイデンティティ」、「愛着」、「持続願望」の4つであることを提示した。また、共分散構造分析の結果、高校生における将来の定住意識は、シビックプライドの構成要素の一つである「愛着」によって形成され、その「愛着」は「地域環境」と「文化・歴史」の源泉によって醸成されることが明らかになった。高校生にとっては、身近に利用できる公園・緑地環境や、祭でのコミュニケーション、小中学校において伝統文化や産業に触れる地域教育が将来の定住意識に寄与することを推察した。

  • 一都六県の道の駅駐車場に着目して
    須永 大介
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 941-948
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、一都六県の道の駅駐車場を太陽光発電に利用した場合の発電ポテンシャルと周辺地域の電力需要、太陽光発電のフィージビリティを検証した。分析からは、1)年間7,600万kWhの電力が発電されること、2)世帯当たりの電力消費量を勘案すると月別に供給可能世帯数は変動するものの、おおむね1~2万世帯分の電力に相当し、非常に大きな発電ポテンシャルを有すること、3)費用と売上の概算からは過去の固定価格買取制度の買取価格であれば費用が回収できていたが、買取価格下落に伴い電力会社への売電によって太陽光発電施設の整備費用を回収することは困難となっていること、4)発電者と各世帯が直接電力を売買し、売買の単価を上げることができれば費用と売上のバランス改善が期待できることを明らかにした。

  • 名古屋市中区錦二丁目地区に着目して
    山崎 潤也, 増渕 正博, 若月 泰孝, 飯塚 悟, 吉田 崇紘, 似内 遼一, 真鍋 陸太郎, 村山 顕人
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 949-956
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    昨今の地区スケールのまちづくりにおいては、将来的な気候変動の影響を考慮した中長期的な計画を持つことが求められる。本論文は都心市街地の対象地区におけるSSP・RCPに基づく将来の市街地形態と気象条件を予測し、それらの3Dモデルを対象とした温熱環境シミュレーションを実施した。ケーススタディ対象地として愛知県名古屋市中区錦二丁目地区を選定し、2021年、2030年、2050年、2090年の夏季日中の屋外空間を対象とした複数のシナリオ下における温熱環境をCFD解析により再現した。対象地のSSP別の市街地形態については同地区のまちづくりに関わる専門家を中心としたエキスパートジャッジメントによって将来変容を予測し、RCP別の気象条件については全球気候モデル(GCM)の将来気候データを参照して導出した。SSP1-2.6(持続可能シナリオ)と比較してSSP5-8.5(化石燃料依存シナリオ)では21世紀末に高層建築物が乱立する将来像を想定した結果、気温上昇と建築側面からの日射反射等が相まって市街地の温熱環境が悪化する状態が解析により確認された。

  • 新井 拓朗, 村木 美貴
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 957-963
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    日本政府は、2050年までに脱炭素社会を実現することを宣言した。これに向けては、外壁断熱化や太陽光発電などの環境施策を、建替えの機会にあわせて導入する必要があることから、既成市街地における脱炭素化は困難と言える。そこで、本研究の目的は、防災性向上に向けた取組が必要な東京の木造密集市街地における脱炭素化のあり方を明らかにすることとする。本稿では、まず、対象地における密集市街地整備の現況を整理し、次に、将来の市街地更新を考慮したエネルギー需要の削減効果を評価する。その結果、こうした密集市街地の脱炭素化に向けては、老朽化した木造住宅の建替え促進と、高層の集合住宅の開発規制の検討が重要であることを明らかにした。

  • 村尾 修, 北澤 岳
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 964-971
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,白鬚東地区防災拠点における40年間の経過を整理し,防災拠点は,周辺市街地の変化など,環境に合わせて防災機能が変更されてきたが,現在も重要な防災拠点として位置づけられていることが分かった.防災団地では防災意識の高い住民が多く,現在も様々な防災活動に取り組んでいるが,団地の高齢化が進む現在,災害時に団地住民のみで避難者を支援することは困難であり,災害時に防災拠点の機能を十分に発揮できるかは定かではない.今後は,新たに入居した住民や近隣住民などに,建設当初から住む団地住民の防災意識をどのように継承してくかが課題となっている.白鬚東地区防災拠点という地域の財産を活かし,地域の災害対応力を向上させるためには,周辺地区の現状を把握したうえで周辺地区との連携を強化し,地域住民とともに防災拠点を支えていくことが重要であると考える.

  • 岩手県内11地区を対象にした被災10年後の実態把握
    萩原 拓也
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 972-979
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、東日本大震災後の復興事業として実施された土地区画整理事業区域を対象に、被災10年程度が経過した時点での非本設利用(=非本設再建地における仮設的利用や空地的利用)の実態を明らかにすることを目的としたものである。岩手県内11地区の区画整理事業区域での目視調査により、低未利用区画のうち、平均二割程度で非本設利用がなされていることが確認された。駐車場利用や緑地系利用といった非本設利用の内容は、地区の状況によって異なることを確認し、それが地区内の再建状況や利便施設立地状況によって影響を受けることや同一区画整理事業区域内でも非本設利用の発生分布に偏りが見られることを明らかにした。震災前の市街地状況等によって、都市的な非本設利用が発現する場合と、緑地系利用が卓越する場合があることを明らかにし、震災前の市街地の状況を踏まえて区画整理事業の実施や事業区域の妥当性を検討する必要があることを指摘した。

  • 久司 駿三, 室町 泰徳
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 980-986
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,東京都市圏を対象としたWebアンケート調査データを用いて,都市環境と結婚・出生行動の関係性を分析した.分析の際には,個人の選好によるセルフセレクションを考慮するため,統計的コントロールと縦断デザインを用いた.統計的コントロールの分析から,車利用と結婚行動の関係性については,車利用に対する個人の選好が影響している可能性があるが,一戸建て居住との関係性については,一戸建て居住に対する個人の選好の影響は認められなかった.一方,一戸建て居住と出生行動の関係性については,一戸建て居住に対する個人の選好が影響している可能性があるが,車利用や駅への近接性との関係性については,個人の選好の影響は認められなかった.縦断デザインの分析から, 結婚行動に関しては,居住環境,交通手段と結婚行動の関係性が認められた.出生行動に関しては,都市環境と出生行動と関係性が認められた.また,社会経済性と結婚・出生行動の関係性も有意であった.

  • 塩野 直志, 鵜飼 孝盛
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 987-994
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    日常生活において,渋滞すると予想する場所を意図的に避けて目的地へ移動することがある.本研究では,このような移動時の方針が道路や交差点の交通量に及ぼす影響を分析する.分析にあたり,正方格子状ネットワークにおいて起終点が一様かつ独立である前提のもと,移動方針に応じた道路および交差点の交通量を算出する.その結果,右左折数を増やすほど中心部がより混雑すること,交通集中が予想される場所を回避して移動すると別の場所で交通集中が発生すること,道路交通量を極力減らすためには周辺の交通量を意識せず,最短距離かつ最短右左折数で移動すること,道路の交通量を平準化するよう交通が制御されている状況下において,交差点の最大交通量は平均的な交通量の7%増におさえられること,さらにその状況下で迂回による移動も認めると,総交通量が3.5%増える一方交差点の最大交通量を2.5%減らす効果があることなどを明らかにした.

  • 山形県の位置情報データとそのトラベルコストに着目した分析例
    羽佐田 紘之, 本間 裕大, 長橋 陽介, 岩瀬 義和
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 995-1002
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    観光周遊行動において嗜好は大きく異なるため,異質性を前提とすることが求められる.そこで,Inverse shortest paths problem(ISP)により,立ち寄り回数が0となるようなトラベルコストの閾値を表す観光地の効用を推定する手法を提案する.本研究では,嗜好の同質性と異質性をそれぞれ仮定したモデルを構築し,観光客全体に共通する効用と各個人の効用をそれぞれ推定する.そして,モバイル位置情報データから構築した山形県の観光周遊データへ適用することで,"万人受け"している観光地や"ニッチ"な観光地が明らかになる.提案手法は,トラベルコスト法の観点からISPにより周遊施設の価値を求める新手法であり,個人の嗜好に即した観光プロモーションの立案に貢献する.

  • 渡部 大輔, アウン ソー
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1003-1009
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    近年,トラック輸送の省人化や環境負荷低減等を目的にして,幹線輸送におけるダブル連結トラックの導入による大容量化やトラック隊列走行,自動運転トラックなど大型貨物車の自動化に向けた取り組みが急速に進められている.本研究では,拠点(ハブ)間の幹線輸送におけるトラック隊列走行の実現に伴う大容量化と自動化によるコスト削減を考慮した幹線輸送における物流拠点の最適配置について,ハブ立地問題を用いて定式化を行い,日本における大容量化と自動化に関するシナリオに応じた最適配置に関する考察を行った.その結果,自動化に関するシナリオに共通して,施設数が増加するにつれて,太平洋・瀬戸内海側の交通需要の多い地点に立地が進むことが分かった.また,隊列(後続無人)から自動運転(レベル4)へと技術進化が進んだとしても,隊列(後続有人)向け拠点で配置が大きく違わず,拠点への割当についても単一割当とほぼ同じ結果となることが分かった.

  • 田中 健一
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1010-1017
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    中京圏の鉄道網を利用する通勤・通学フローを対象として,フローの空間特性の分析ならびに立寄り型の施設の配置場所を求めることを目的とする.大都市交通センサスの中京圏の調査対象地域の鉄道路線をもとに鉄道網データを作成し,経路情報が再現可能な通勤・通学フローをデータ化する.そして,通勤・通学フローのうち,途中通過する鉄道駅のどこかに施設が存在するようなフローの流量に着目し,流量を最大化するように,指定個数の施設を配置する問題を解く.対象フローの数は約15,000種類でフローの総流量は約725,000であるが,オープンソースの数理最適化ソルバを用いて,平均的には数秒程度で問題を解くことができた.特に,施設を3か所に設定する場合の最適解である,名古屋駅,金山駅,大曽根駅の組み合わせは,多くのフローの経由駅でありかつ3つの駅のフローパターンが異なるために優れた選択肢であり,中京圏の全フロー量の6割近くをカバーしていることが判明した.本項の成果は,商業店舗の配置や,保育や医療サービスの提供場所,種々の公共施設の配置などを検討する上で,重要な基礎資料となるものと考える.

  • 民意と最適の施設配置齟齬に着目して
    小林 隆史, 堀 龍一, 大澤 義明
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1018-1024
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,フロー需要を想定する「ついで型施設」に対し,投票による判断が公共施設の供給数や配置場所決定にどのように影響するかを,コンドルセの2段階投票モデルを用いて分析する.住民は施設が生み出す利益を享受するが,維持管理費の負担のために一律の税金が課せられているとする. その上で居住地とフロー需要の起点と終点に基づく,2種類の投票方式を想定し分析したことで以下の知見を得た.第一に,社会費用最小となる施設配置と比べたとき,投票による施設配置は2種類の投票方式の違いにより,過剰供給と過少供給の真逆の状況となること.第二に,社会費用の乖離度合は,上述の投票方式の違いよりも,施設を「ついで型」と想定するか,居住地との往復で交通費が求まる「わざわざ型」と想定するかの影響の方が大きいこと.よって,計画段階での施設の利用方法の想定が重要であることを数量的に確認できた.

  • ミクロ土地利用分析への適用
    藤條 嵩大, 大山 雄己
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1025-1032
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    市街地の形成と今後の発展・計画を考える上で、建築単位のミクロな土地利用の変遷とその波及効果を分析することが重要である。本研究では、そうした分析に必要不可欠な建築用途データを建物名称から推定する機械学習モデルの構築を目的とする。教師データでは用途の混在しやすい中心市街地を対象とし、用途を5つに分類するものとした。調査対象地域と適用地域の距離が近いほど正答率が高くなる。学習データは適用地域の近くで収集した方が良いが、全国一律に収集した場合でも、人間の正答率より良い結果が得られている。

  • 奥貫 圭一, 草野 邦明
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1033-1040
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本論文では,局所的に人口増減が顕著な地区を見出す方法を論じた上で,東京23区西部の練馬,杉並,世田谷の3区を含む240の1kmメッシュについて,その方法を適用して有効性を検討した。従来しばしば採用されてきた人口増減率とその階級区分図には,それぞれ課題があり,とくに空間スケールの違いに応じて人口増減をとらえるためには従来法とは別の方法が求められる。これに対して本論文では,1kmメッシュを利用して,あるメッシュがその周辺メッシュに対して占める人口比率がどう変化するかを見る方法をとりあげた。西部3区の適用例の結果を踏まえると,今後の人口減少社会における都市計画を考えていく上で,ここで検討した方法が有効であると期待できる。

  • 2000年から2020年までの都市間の差異を探る
    張 玉琦, 落合 知帆
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1041-1048
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    現在、中国では都市の急速な発展に伴い、都市の縮小化が進み課題となっている。本研究は中国全ての地級市を研究対象として、人口とGDPなどのデータにより、2000年から2020年にかけて縮小都市の空間分布の変化を整理した。パネルデータの回帰分析を通じて、縮小都市への影響要因を分析した。さらに、地理空間加重回帰分析を用いて、各要因が異なる空間に与える影響を明らかにした。結論は1)中国の縮小都市数が著しく増加した。2)都市縮小に関する重要な要因は人の移動、高齢化、産業構造の変換及び地方財政収入であった。3)各要因は時代と地域によって与える影響が異なっている。中西部都市縮小に関する要因は人の移動であり、西南部都市の縮小要因は高齢化であった。北部都市の縮小要因は産業構造の変化が大きく影響におり、東北地方は、地方財政収入が重要な影響を及ぼしていた。

  • 住宅・周辺環境の特性に着目して
    岡澤 由季, 樋野 公宏, 浅見 泰司
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1049-1055
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    掛川市の住宅団地を対象に、住宅用太陽光発電の導入要因を明らかにした。先行研究では住民、住宅、周辺環境の特性が導入要因とされるが、相互に関連しており、どの要因が真に影響しているかが不明であった。そこで、これらの特性の同質性が高い住宅団地をあえて選び、この点を明らかにする。また、近隣町丁目との比較により、結果の頑健性も検証した。屋根に関する建築協定のある戸建住宅団地内の全住宅1,327軒を分析した結果、建物が低いほど、建替、新築といった建物形状の変化がある場合に住宅用太陽光発電が導入され、特に面積の広い新築住宅に導入されている傾向がみられた。次に、住宅団地外の住宅を追加した1,971軒を分析した結果、建物の高さが低い場合、建替、新築の場合、建築協定の対象外の場合、面積の狭い新築住宅で住宅用太陽光発電が導入されていた。団地内外で共通して、建物の高さが低くとも、建物形状の大きな変化が太陽光発電の導入につながっていた。住宅団地内の住宅用太陽光発電の導入要因は、周辺環境の特性は有意な関係性が見られず、建物形状の変化(建替、新築)や建物の高さ、面積といった住宅の特性と判明した。

  • 菊地 穂澄, 矢吹 剣一, 小泉 秀樹
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1056-1062
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、全国の市区町村を対象として、土地所有、取引に関するデータを複合的に用いた分析を行い、土地取引が停滞している地域の偏在と、その流動に影響を与える要因を推定した。その結果として、土地取引の流動の沈滞は、既存ストック量などによる調整を行ったうえでも、特に山間部などの条件不利地域において顕著にみられることが分かった。また、同じ既存戸建て住宅でも持ち家と借家とでは取引の傾向が異なることなど、ストックの所有、利用の形態による流動の違いも明らかとなった。土地取引に限らない、不動産の流動の実態をより詳細に分析、解明することで、人口減少時代における戦略的な空き家対策の立案に貢献することが期待される。

  • 栗田 治
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1063-1070
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    この論文では都市のトリップパターンを記述するための発生制約型重力モデル,すなわちハフモデルが,エントロピー最大化の枠組みで定式化される.エントロピーモデルの解析学的な側面を精細に観察することにより,ハフモデルの構造を理解するために役立つ性質を発見することができる.さらに,ハフモデルのパラメタを推定するための新しい方法も提案される:ハフモデルの距離抵抗パラメタが,制約付きエントロピーモデルがもたらす1本の非線形方程式を数値的に解くだけで推定されるのである.そして,この推定値が一意であることが数学的に証明される.

  • 菊地 晃平, 鈴木 聡士
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1071-1078
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    近年,日本は人口減少と東京圏への一極集中が深刻である.特に,大学進学によって大都市に転出することが多い傾向にある.そのため,地方都市においては地元定住に関わる要因を把握して,大学進学時に移住した住民のUターンによる地元定住を促進する施策が地方創生において重要であると考えられる.そこで,本研究では大学進学時に移住経験のある地方都市(三大都市圏以外)出身者を対象として意識調査を行い,出身地域に対する評価と進学地域に対する評価を比較した.さらに,出身地域に対する評価と定住意向の関係を分析した.その結果,地元定住の促進には出身地域に対する「総合的な生活のしやすさ」と「地域愛着」が最も重要な要因である可能性が示唆された.

  • 高木 麟太朗, 新井 崇俊, 今井 公太郎
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1079-1085
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、都市経済学の居住地選択モデルを基盤に、テレワークによる影響を考慮した場合の居住地選択のモデル化を試みる。既往の居住地選択モデルでは、条件付き最大化問題を用いて世帯の均衡配置を示している。しかし、世帯の居住地選択は確率的な行為と考えられるため、本研究ではロジットモデルを用いる。また、世帯の価値観に関して複数のタイプを設定し、それぞれのタイプごとにテレワーク頻度に応じた居住地分布の変化を示す。 その結果、テレワーク頻度が大きくなるに応じて居住地選択の多様性が増えること、価値観のタイプによって世帯数最大点の動きに違いが生じることがわかった。さらに、テレワーク普及後の余暇時間に対する価値観の変化を想定することで、出勤頻度がテレワーク普及以前の状態に戻った際に、都心の世帯数が以前よりも多くなる可能性を示した。

  • 汪 佳宜, 松中 亮治, 大庭 哲治, 田中 皓介
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1086-1093
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    日本の地方都市において大規模小売店舗の立地と都市の人口分布が互いにどのように影響しているかを定量的に明らかにすることを目的に,都市を人口規模で分類し,DID,DID内外駅勢圏とバス停勢圏,都市中心部からの到達圏を用いて都市の人口分布と大規模小売店舗の立地が相互に及ぼす影響を分析した.その結果,都市規模によらず,大規模小売店舗が郊外に立地すれば,人口も郊外化に進み,逆に,郊外に居住している人口が多ければ,大規模小売店舗も郊外部に進出するという悪循環が発生しているとみられる.

  • 谷本 真佑, 南 正昭
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1094-1101
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、歴史的な住宅地である盛岡市大慈寺地区を対象に、住民意識調査をもとに、生活環境満足度とソーシャルキャピタルの関係について分析を行った。その結果、ソーシャルキャピタルは、地区全体の満足度と生活環境との関連性に影響を及ぼしていることが明らかになった。また、住民のソーシャルキャピタルの違いにより、生活環境への満足度の評価構造にも影響を及ぼしていることがわかった。さらに、地区全体の満足度と有意な関連性が見られない生活環境項目であっても、他の生活環境項目を介して間接的な影響を及ぼしている可能性を指摘した。

  • デンマーク計画法における位置づけとSkive市コムーネプランの分析
    鶴田 佳子, 野口 佑芽
    原稿種別: 論説・報告
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1102-1109
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、自治体による包括的な空間計画を持ち、再生可能エネルギーへの転換が急速に進むデンマークにおける再生可能エネルギー関連施設の立地コントロールについて調査したものである。調査の結果、デンマークでは空間計画の基礎となるデンマーク計画法に基づく自治体計画(コムーネプラン)において、再生可能エネルギー関連施設の計画を含まれていることがわかった。この計画では、風力発電施設は主に農村地域に、地域暖房施設は既存の建物に近接して、小型風力発電施設はビルトアップエリアに立地誘導される。また、主に農村地域に立地誘導される風力発電施設や太陽光発電施設には、自然や景観等に配慮するとした多くのガイドラインや立地規制が設けられており、また、風力発電施設や太陽光発電施設については撤去のルールも示されていることが分かった。

  • 大阪府安威川流域を対象としたケーススタディ
    山田 拓実, 大津山 堅介, 廣井 悠, 加藤 孝明
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1110-1117
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    都市計画と河川整備が連携した流域治水の観点より、本稿では河川整備の効果と将来の世帯増減の変化を踏まえ、即地的かつ流域全体を見据えた都市側の治水対策を検討することを通じて都市計画分野において生じる課題を抽出することを目的とする。河川整備前後の浸水リスクの比較から流域自治体により河川整備の効果が異なることが明らかになった。将来の世帯増減と合わせて検討したところ、長期的な都市の状況を考慮する必要性や周辺区域の治水対策・自治体が主導する都市計画制度との整合性が求められることが明らかとなった。

  • 藤森 蓮, 松中 亮治, 大庭 哲治, 田中 皓介
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1118-1124
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    居住誘導区域内における生活サービス施設への徒歩アクセス性に着目し,自治体単位で比較したところ,居住誘導区域内の人口密度が大きい自治体ほど徒歩アクセス性が高いことを明らかにした.特に,人口密度が低い自治体では,居住誘導区域内において医療機関や金融機関への徒歩アクセス性は高い一方,コンビニやスーパーなどの購買機能を持つ施設への徒歩アクセス性は低いことを示した.次に,500mメッシュ単位で生活サービス施設への徒歩アクセス性を算出し,人口密度との関連を分析したところ,メッシュ人口密度が高いほど生活サービス施設への徒歩アクセス性が高い傾向があることを明らかにした.しかし,居住誘導区域内の人口密度が高い自治体でも,人口が集約していない場所では生活サービス施設への徒歩アクセス性が低い傾向にあることを示した.また,メッシュ人口密度が同程度のメッシュにおいて,生活サービス施設への徒歩アクセス性が高いほど土砂災害の危険性が低い傾向が見られることを示した.一方,生活サービス施設への徒歩アクセス性が高いほど洪水災害の危険性は高く,居住誘導区域内の人口密度が高い自治体ほどその傾向が強まることを明らかにした.

  • 福井市をケーススタディとして
    稲本 隆治, 横式 玲央, 浅野 周平, 渋川 剛史, 松本 隼宜
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1125-1131
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    現在,多くの自治体が都市の評価を行う上で用いる指標は居住人口をベースにしたものであるため,昼間の賑わいを評価するには不十分であると考える. そこで本研究は携帯電話基地局データを用いて昼間における賑わいを時間帯別に把握し,鉄道駅の評価を行った.得られた知見は以下の3点である。第一に、モラン散布図を用いて,時間帯別の交流人口の特徴を明らかにした。第二に,モラン散布図によって算出された4つの象限(集積タイプ)は時間帯による変化は少ないことを明らかにした.最後に,集積タイプ別の累積回数による継続的な賑わいに着目することで,鉄道駅の評価を行い,今後の鉄道駅周辺の整備方針について提案した.

  • 転居者の属性と転居先選択志向の変化に着目して
    武田 陸, 久米山 幹太, 谷口 守
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1132-1139
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    COVID-19流行下では東京都で転入超過数が減少する一方で,東京都周辺の県では転入超過数が増加している.このような居住地の郊外への分散の発生には転居者の属性や転居先への志向の変化が影響していると考えられる.そこで本研究では,独自アンケートをもとに,「郊外への分散」のもととなったCOVID-19流行の影響を反映させた転居を行った人の特徴を捉え,転居者の属性や転居先選択志向の変化の観点から「郊外への分散」の発生要因を分析した.その結果,1)COVID-19流行の影響を反映させた転居の実施には職業,世帯年収,在宅勤務実施頻度などの要因が影響を与えていること,2)個人の転居先選択志向の変化には感染不安,通勤の変化,在宅時間の増加の3要素すべてが影響するわけではないことが明らかとなった.

  • 織田澤 利守, 嘉祥寺 巧真
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1140-1147
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,人々による地域間移住パターンを明らかにするために,人口移動の決定要因を特定することを目的とする.部分的最小二乗回帰を用いた新たな方法を提案し,従来手法の課題であった多重共線性や主成分の抽出の際に重要な情報が捨象される問題を回避できることを示した.京阪神都市圏の122市区間の移住データを用いた推定の結果,移住先地域を選択する主な要因は,(1) 近接する地域であること,(2) 都市的サービスの水準がより高い地域であること,(3) 大学が多く立地する地域であること,(4) 密集度の高い既成市街地であることが明らかとなった.さらに,若年世代(20-24歳)を対象とした推定から,全世代と共有の要因の他に,大学進学や就職が若年世代の人口移動に大きく影響することが明らかとなった.以上は,地方政府による人口政策・都市政策における「証拠に基づく政策立案(Evidence-Based Policy Making; EBPM)に資する成果である.

  • ハノイ都市圏マスタープランへの適用
    細谷 祥吾, 松島 格也
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1148-1155
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    都市計画マスタープランは計画期間が長期にわたり,また事業の不確実性が高いため,進捗を管理するためのPDCAサイクルマネジメントが重要となる.マスタープランにおいて計画された事業の効果を定量的に把握するためには,可能な限り行動原理と整合的な客観的な政策効果予測モデルの活用が不可欠である.本研究では人流や産業毎の詳細な分析が可能な構造をもった,CUE(応用都市経済)モデルを構築し,都市計画マスタープランを対象としたPDCAサイクルマネジメントのためのツールとして提案する.またハノイ都市圏のMPを対象にしたケーススタディを行い,本研究で提案するCUEモデルの妥当性やその意義を検証し,モデルを実務に利用する際の課題を確認する.

  • 富山県小矢部市を事例として
    籔谷 祐介, 阿久井 康平
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1156-1163
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、地方自治体の総合計画に記されている各都市政策への市民満足度が、シビックプライドの醸成に与える影響を小矢部市をケーススタディとして実証的に検証した。満18歳以上の小矢部市民を対象に1250部アンケートを配布し、有効回答は437(有効回答率 35.0%)であった。調査の結果、官民協働による自治体経営、魅力ある都市空間形成と観光振興、教育推進に関する政策満足度を向上させることで、シビックプライドを構成する地域愛着が醸成され、その結果としてアイデンティティと参画、持続願望が醸成されるという因果関係を統計的に明らかにした。また、市民の社会参画の機会を創出し当事者意識を育むことが、シビックプライドを醸成する上で最も有効な政策であることを指摘した。さらに、男性、高齢者、居住年数が長い市民ほどシビックプライドが高いことを明らかにし、女性の地域社会における活躍の場や機会の創出、居住年数の短い若者のシビックプライドの醸成が課題であることを示した。

  • 愛知県の政令市・中核市での調査の結果より
    鈴木 雄, 山崎 基浩, 三村 泰広
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1164-1171
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、新型コロナウィルス影響下における活動とストレスや生きがいとの関係について分析を行った。その結果、新型コロナウィルスによる施設利用や交通利用の不安が、活動の減少に繋がっていることが示された。また、活動減少がストレスに繋がり、ストレスが生きがいの低下に繋がることも示された。また、コロナ禍における活動減少や活動減少からの回復は地域特性により異なることが明らかとなった。活動減少と生きがい低下との関係が示されたことから、地域特性に応じた活動機会の創出の検討が必要となる。

  • 中心市街地における施設複合化を契機とした集合知の拠点形成の観点から
    篠原 周太郎, 瀬田 史彦, 城所 哲夫
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1172-1179
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、公共施設の再編や中心市街地活性化の必要性が高まる中、地方都市において図書館を中心とする複合施設を中心市街地に整備する取り組みがみられる。本研究ではこうした施設整備と、図書館サービスの今後の方向性及び都市的な政策からの期待の両面に関する整合について考察し、施設整備のあり方を検討した。図書館サービスの方向性として、地域の集合知の拠点として付加的都市的なサービスを取り入れようとする動きがみられる。本研究では、図書館立地の変化と施設形態を分析して中心市街地への複合化の傾向が見られることを示し、さらに、中心市街地への複合化を行った図書館の事例調査と特徴的な取り組みの考察を通じ、図書館サービス及び都市的な政策の双方のニーズに合致する施設整備のあり方として、地域の集合知の拠点となりうる中心市街地での施設複合化が位置付けられると結論付けた。一方で、施設整備の際には図書館の特徴を踏まえた計画が望まれることや、施設だけでない中心市街地全体での面的な活性化が必要であること、文化的な活性化の観点も踏まえた図書館の役割の整理・評価が必要であることが示唆された。

  • 海野 遥香, 増本 太郎, 寺部 慎太郎, 栁沼 秀樹, 田中 皓介
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1180-1185
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    我が国の若年人口が減少し続け,東京一極集中が続く中,UIJターンが注目されている. UIJターンを推進するために省庁によって様々な努力がなされているが,若者が故郷に戻るきっかけとなる可能性のある地域愛着の形成に影響を与える要因について詳細に把握されていない.そこで本研究では,20代の若者に着目し,地域愛着を形成する要因となり得る街のシンボルとUJターン行動との関連性を把握した.アンケートによる意識調査から,UJターン意思・行動と地域愛着度との間に関連性がみられた. また,お祭りや伝統的な行事など,住民が積極的に関わっている街のシンボルが,地域の愛着の形成やUJターンの意思・行動につながる可能性があることも示された.

  • 宮城県石巻市と気仙沼市の中心市街地における既存商店街の集積地を対象として
    土井 杏奈, 真野 洋介
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1186-1193
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    東日本大震災の被災地では、商店街の再生が必要とされた。震災復興では、多様な主体が新しい挑戦に取り組んだ。震災以前から全国で商店街の衰退が進んでいることから、今後、被災地だけでなく、地方都市の商店街において、変化が求められる。本研究では、震災によって浸水被害を受けたものの既存商店街の集積地が残り、そこで新たな担い手による商店街の活用が生まれた被災地の事例として宮城県石巻市と気仙沼市を取り上げ、文献調査、現地調査、ヒアリング調査に基づき、中心市街地における既存商店街の集積地における復興過程で生じた商店街の変化を把握する。また、新たな役割を担う場所について分析することで、地方都市の中心市街地における商店街の新しい役割を考察することを目的とする。

  • 居住利便性の高さ別に着目して
    安 思奕, 青木 俊明
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1194-1201
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では、居住利便性に着目し、潜在的限界地区における地域愛着の形成構造について検証した。宮城県内の高齢人口の割合が50%以上の地区を対象に質問紙調査を行った結果、潜在的限界地区では、物理的要因は社会的要因に近い愛着形成効果を持つ傾向が示された。居住年数と年齢について、有意な愛着形成効果が認められなかった。さらに居住利便性を考慮して愛着とその形成構造を比較した結果、居住利便性を高く認知する住民(高利便性群)は居住利便性を低く認知する住民(低利便性群)に比べて高い地域愛着を示す傾向が示された。また、低利便性群では、愛着形成の際に社会凝集力がやや重視される可能性もうかがえた。これらの結果から、潜在的限界地区で愛着醸成を図る際には、地域資産の魅力向上と、地域内の信頼関係を高める活動の活発化が有効であることが示唆された。利便性を低く認知する住民に対し、社会凝集力の向上が重要な可能性が示唆された。

  • 交通ネットワークとの同時最適化モデルによる検討
    須ヶ間 淳, 奥村 誠
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1202-1209
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    人口減少が進む中,拠点の集約や交通ネットワークの再編に注目が集まっている.本研究ではコンパクト・プラス・ネットワークを念頭に置いた2階層の包含階層構造を持つ拠点を考え,両拠点とネットワークの運営費用及び拠点への移動費用を同時に最小化する数理モデルを構築する.近年,ビデオ通話等の普及を受け,上位の拠点に赴かなくとも居住地近隣の下位拠点で高次のサービスを受けられるようになると考えられる.そこで,構築したモデルを用いて需要規模が減少した場合及び下位拠点の需要捕捉率が上昇した場合の最適な拠点配置とネットワーク構造を計算し,今後の社会的変化に合わせて拠点配置とネットワーク構造を適切に変更させることが重要であることを明らかにした.

  • 福田 崚
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1210-1217
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    2020年に始まった社会・経済の様々な側面に影響を与えている新型コロナウイルス禍は、国土計画の観点から大きな関心のある広域的な人口移動にも影響を与えることが想定され、実際に大都市圏から地方圏への移動の拡大が観測されている。本稿では、住民基本台帳人口移動報告を通じて把握した都道府県間人口移動のデータに基づき、修正重力モデルを利用して新型コロナウイルス禍の下での人口移動の特徴を把握することを試みる。結果、所得が低い地域へ、あるいは一人当たり居室面積が大きい地域への移動が相対的に生じやすくなる傾向が確認された。また、短期的な変化を見ると、発地の場合は感染拡大時に一度人口移動が抑制された後、回復し従前を上回る移動が生じるのに対し、着地で感染拡大が生じた場合は人口移動の回復が確認できないことが明らかになった。

  • 広域的な視点から
    室岡 太一, 小林 泰輝, 谷口 守
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1218-1225
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    立地適正化計画を通じ,多くの自治体が都市機能誘導区域(拠点)を階層的に設定している.拠点へどのような施設を誘導するかという検討は数多いが,拠点への実際の”人の動き”は体系的に把握されていない.そこで本研究では人の動きに基づく拠点の類型化を通じ,現在の都市機能誘導区域の設定に関する妥当性について言及を行った.東京パーソントリップ調査を用いた分析の結果,1)自治体が中心拠点として設定していながら,それにふさわしいトリップ集中が見られないケースがあること,2)その逆に地域拠点であっても集中トリップの観点からは階層性が高いと判断されるケースがあることも示され,都市圏全体を面的にカバーした広域的調整に基づく拠点設定の重要性が示唆された.

  • 福岡市中央区の街区公園を対象として
    重永 鑑, 黒瀬 武史
    原稿種別: 論説・報告
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1226-1232
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    人口回帰により人口増加・用途混在が進む都心部の商業用途地域を対象に、小規模公園(幼児・街区公園)の管理の実態を求めた。都心部の公園管理の課題として、①公園管理の担い手不足、②不特定多数の利用者による利用マナーの低下にともなう地域住民のみによる管理の限界、③利用用途が限られる面積の小さい公園では、地縁組織による管理が起きにくいことがわかった。公園管理の担い手は①地縁組織、②非地縁組織、③単一公園利用者の3つに大別できた。用途混在度との関連をみると、周辺で住宅以外の用途混在が進む公園では非地縁組織による公園管理が行われ、住宅用途が優位で、かつ、規模の小さい公園では、単一の利用者による管理が行われていることが明らかになった。非地縁組織と単一利用者による公園管理・活用では、現状は長期的かつ定期的な公園管理の実績から公園管理者及び地縁組織との関係構築を行っているが、地域の合意を明示的に得るプロセス作りが課題であることがわかった。

  • 新潟市信濃川本川大橋下流沿岸地区を対象として
    高橋 俊弥, 松井 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1233-1240
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    高さ制限の策定後に、景観保全のために制限を維持または強化すべきという意見がある一方で、経済性を重視して制限を緩和すべきという意見も見られる。本研究は、高さ制限に関わる意見の変容の経緯とその内容を明らかにすること目的とする。結果は以下の通りである。(1) 高さ制限策定後、市民組織による建物の高さに関する議論が停止した。(2)争点は6つあり、緩和に関する争点のみが継続している。(3)議論の停止により、市民組織と行政間の意見の相違が拡大した。(4)高さ制限策定後も、景観に関する議論を継続する必要がある。

  • 文化的継承性とマンション開発における景観の回帰現象に着目して
    山口 秀文, 瀬戸口 由佳
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1241-1248
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、住吉・御影地区を対象に、まちづくりや景観形成・保全に資するため、地場産業と住宅地の形成と変容の実態を明らかにすることを目的とする。御影自然石を利用しているマンションは、地域の歴史や文化を活かし周囲と調和した景観を形成するために御影石が利用されていた。景観維持の仕組みとして、現在維持されている邸宅やその外構の御影石積みを起点として御影石の景観が波及している実態があった。

  • 江ノ島電鉄線を対象として
    應武 遥香, 中島 直人, 永野 真義, 宮城 俊作
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1249-1256
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では江ノ島電鉄線沿線地域を対象に、生活景形成と安全確保の両立を念頭に、鉄道の線路脇空間における観光客・非観光客の行動の実態を、その背景にある意識や行動の場の特徴も含めて、ヒアリング調査や現地観察調査を基に考察した。<br />その結果、線路脇空間での行動の種類・行動目的・安全意識と、これらの行為が場の特徴を読み解いて行われており、対象者の意識の違いが行動に表れていることが明らかになった。鉄道の景観的・利便的価値を享受する「享受」と享受の質を高める・新たな価値を提供する「提供」、対鉄道行動時の安全を確保して享受・提供機能の発揮を維持する「維持」の機能が働き、生活景形成につながっていると考えられる。

  • ニュージーランド・クライストチャーチにおけるオタカロ・エイボン川回廊再生計画を対象として
    上林 就, 福島 秀哉
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1257-1264
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    近年頻発化・激甚化する洪水に備え、洪水リスクの高い河川周辺では住居移転を伴う土地利用規制が検討されており、移転後の移転元地の活用方法に関する議論は重要な課題である。活用方法の一つに、都市開発以前の在来の自然環境を取り戻す自然再生が挙げられるが、広域空間計画策定における河川環境再生の価値の市民との共有には課題が多い。本研究は、クライストチャーチでのオタカロ・エイボン川回廊再生計画の市民参加型検討プロセスに着目した広域空間計画策定過程の分析を通して、河川環境再生の価値を計画主体と市民で共有することができた検討プロセスの特徴を明らかにすることを目的とする。成果として、計画主体であるRCが河川環境再生の価値を市民と共有することができた検討プロセスの特徴を明らかにした上で、河川環境再生に向けた広域空間計画の形成にとって、検討初期に計画主体と市民の間で土地条件のような合意形成基盤の共有、そして洪水リスクの高い堤外地のように多くの市民が価値を共有しやすい場所から段階的に自然再生の範囲を広げていく空間計画の検討・提示のプロセスの有効性を指摘した。

  • 埋蔵文化財と街路の保全を対象として
    金 榮俊, 鄭 一止, 大澤 昭彦, 饗庭 伸, 金 基虎
    原稿種別: 論説・報告
    2022 年 57 巻 3 号 p. 1265-1272
    発行日: 2022/10/25
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    ソウル旧都心では、2000年代より都市組織を受け継ぐための大規模建築物の規制・誘導に取り組んできた。その結果、現在旧都心のメインストリートである鍾路沿いにはかつての街路や埋蔵文化財が再現・展示されるようになった。本研究では、その取り組みの実態について明らかにした。具体的には、その根拠となった法制度を整理しつつ、具体的なプロジェクトを取り上げ、関係主体の前後関係についてまとめることができた。以上の結果をもとに、歴史的建造物がほとんど残っていない各地の大都市において都市組織を受け継ぎながら都市づくりをしていく際、点的や非可視的な保全だけでなく、可視化及び線的につながりもたせることによって、市民の意識向上を高め、さらなる誘導につながる好循環を生み出す仕組みが考えられる。

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