本解説では,重質油成分を燃料や化成品原料に変換するための新しい戦略を提案する。シリカモノレイヤー固体酸触媒はアルキル多環芳香族炭化水素を長鎖アルカンと多環芳香族炭化水素に選択的に変換することが可能である。減圧軽油(VGO)のような実重質油の脱アルキル化に適用するために,固体酸触媒の失活の原因となる塩基性化合物を除去した。さらに,脱アルキル化された多環芳香族炭化水素は,部分水素化によりテトラリン誘導体を生成した後,開環することで化成品原料に利用されるベンゼン誘導体へ変換できる。触媒成分の寄与を検討することでベンゼン誘導体を選択的に生成する反応系を開発した。脱アルキル化によるもう一つの生成物の長鎖アルカンはディーゼル車や航空燃料として利用することができ,アルカンのクラッキングにより鎖長のばらつきが生じる従来の流動接触分解とは異なる。これらの戦略を実験結果とともに示す。
フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR MS)から得られるデータの信頼性と定量性を向上するため,分子式帰属を自動的に行う一連のデータ処理法を開発した。本技術を常圧残油の分画物の分析へ適用し,2万弱に及ぶ重質油成分の分子式が開発したアルゴリズムによって自動的に帰属された。分子式の平均質量誤差は0.15〜0.23 ppmに達しており,分子式帰属の信頼性の高さが示された。本技術は帰属した成分の定量性改善のため,GC蒸留結果を用いた感度補正機能を持つ。この補正法では分子式から分子の沸点を推算し,FT-ICR MSデータから推定した蒸留性状を各沸点で1 wt%以内に一致させる補正を行う。補正に必要となった倍率は低沸点の成分ほど大きな倍率を必要とする傾向を示しており,本研究で用いた装置のイオン輸送効率が低分子量の領域で低くなっている可能性が示唆された。
規制緩和により厳しい競争状態に陥った石油業界は,2010年代以降,石油各社の戦略転換により,マージンや利益等の指標が規制緩和前の状態にまで回復した。ところが,なぜかガソリンスタンド数は減少し続けている。本稿は,これをガソリンスタンドの閉鎖数と新規参入数の変化,および閉鎖要因に焦点を当てて考察した。規制緩和後の閉鎖要因は,「不採算」が約60 %を占めたが,その後,約20 %にまで低下し,それに代わって2010年を境に「運営問題」が約40~60 %になり逆転した。この変化により,閉鎖数はピーク時の2006年以降減少傾向となり,10年後の2016年以降は1000軒未満の推移となった。それと同時に新規参入数もピーク時の2006年以降減少し,2016年以降は200軒未満の推移となった。閉鎖数と新規参入数が同時に減少傾向となったことで,結果としてガソリンスタンド数全体が減少し続けていることが明らかになった。
カルシウムの水酸化物,炭酸塩,シュウ酸塩およびギ酸塩をそれぞれ出発物質として大気下で熱分解を行い,酸化カルシウムを調製した。それぞれの試料の塩基触媒活性は逆アルドール反応により比較した。その結果,それぞれの出発物質を熱分解したCaOでの塩基触媒活性は,シュウ酸塩,炭酸塩,水酸化物,ギ酸塩の順で高かった。その中でもシュウ酸塩を1123 Kで熱分解した酸化カルシウムが最も高活性であった。シュウ酸塩とギ酸塩はどちらも炭酸塩を経て酸化物になっていることが明らかとなった。そのため,熱分解温度に対する触媒活性の傾向は炭酸塩,シュウ酸塩,ギ酸塩で非常に似ていた。炭酸塩,シュウ酸塩,ギ酸塩を1023 K以上の高温で処理した活性CaOでは特に表面積が増加していた。高温で処理した活性CaO表面ではワームホール状のメソポアサイズの裂け目が観察された。この裂け目の形成により活性サイトを含む新たな表面が形成され,活性が向上したものと考えられる。
原油には重質なワックスやアスファルテンが含まれており,これらは最終的にスラッジとして原油タンクの底に蓄積される。そのため,原油タンクの本来の貯蔵能力を回復させる,あるいはタンクの点検やオーバーホールを行うためには,定期的にタンク内のスラッジを除去する必要がある。従来,原油を用いた共油洗浄(COW工法)によって産廃として処理しており,そのために多額のコストがかかっていた。この問題を解決するために,新しい技術であるSludge Volume Reduction(SVR)を開発した。本技術のポイントは,スラッジから遠心分離機で再利用可能な油を回収し,回収した油(以下,回収油)を再スラッジ化することなく原油と混合することである。回収油の化学組成,特にアスファルテンとワックスを分析した。分析結果に基づき,回収油を原油に混合する際には,回収油を加温しつつ原油と乱流状態で混合することで,再スラッジの発生を抑制できることを見出した。さらに,UAE国内にて本技術の実証試験を行い,原油タンクに堆積したスラッジ約9000 kLから約5200 kLの回収油を得たことで,50 %以上のスラッジ削減効果があったことを確認した。
主生成物だけでなく副生成物の生成機構の理解は、触媒性能向上のための有益な情報を与える。本研究ではメタクロレイン(MAL)酸化反応において13C標識メチル基を有するメタクロレイン(MAL)を基質に用いて、その13Cがどのように生成物に移行するかGC-MSを使って詳細に分析し、MAL酸化反応における副生成物の生成経路を調べた。その結果を基に、次のような生成経路を提案した。はじめにMALのC=C二重結合が酸化的に開裂してピルブアルデヒドが生成し、ピルブアルデヒドはさらに加水分解されて酢酸となる。