色素増感太陽電池は,ルテニウム色素に代表される有機色素で増感されたTiO
2ナノ粒子電極,白金対極およびヨウ素レドックス電解質からなる光電気化学セルである。色素増感太陽電池が今後大規模に上市されるためには,耐久性の改善と変換効率の向上が重要課題となる。そこでまず,耐久性改善のために,ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるPVDF-HFPをマトリックス・ポリマーとしたゲルタイプ高分子固体電解質の開発を行った。この高分子固体電解質でセルを擬固体化することにより,耐久性低下の主要因である電解液の漏洩を防ぐことができる。ただ,高分子固体電解質を用いたセルでは,短絡電流の低下が起こる。そこで,その原因を明らかにするため,高分子固体電解質および液体電解質を用いて作製したセルの電気化学特性を調べた。その結果,ヨウ素イオン拡散係数とセル・ギャップ(電極間距離)が短絡電流密度を決定する重要因子であることが分かった。つまり,高分子固体電解質とセル構造の最適化が,擬固体型色素増感太陽電池の高効率化に重要であることが分かった。続いて,変換効率の向上を目的として,アスペクト比の非常に大きいTiO
2ナノチューブを用いたセル作製を行った。用いたナノチューブは,チタン金属を希釈過塩素酸水溶液中で陽極酸化することにより合成した。TiO
2ナノチューブはナノ粒子と異なり,電荷分離のための高比表面積を保持しつつ光散乱体として機能する。そのため,高アスペクト比のTiO
2ナノチューブを光散乱体としてナノ粒子上に形成することで,色素増感太陽電池の高効率化を達成することができた。さらに,チタン金属を基板とした対極照射型のフレキシブル太陽電池を作製することも可能であった。本総説では,筆者等が行ったゲルタイプ高分子固体電解質とTiO
2ナノチューブを用いた色素増感太陽電池のこれまでの研究開発状況を報告する。
抄録全体を表示