従来のN-ヘテロ環状カルベン(NHC)-金属固定化触媒は,窒素上置換基を担体との固定化部位に利用しており,NHC配位子の特徴である窒素上置換基のかさ高さが十分生かせない点に課題があった。我々は,NHCのバックボーン炭素(4位炭素)に着目し,この部位を担体との結合点とする新たな触媒設計を考案した。まず,代表的なNHC配位子であるIPr(1,3-bis(2,6-diisopropylphenyl)imidazol-2-ylidene)のバックボーン炭素に各種シリル基を導入し,これを配位子としたSi–IPr–Pd錯体触媒を合成した。導入したシリル基の電子特性を調査したところ,電子供与性シリル基の場合,C–Nカップリング反応の触媒活性が向上することを見出した。次に,この知見を展開し,ポリスチレン樹脂にクロロシリル基を有したSi–IPr–Pd錯体触媒を固定化させることで,電子供与性シリル基を担体との結合点とし,かつ窒素上置換基のかさ高さを維持したSi–IPr–Pd錯体固定化触媒の創出に成功した。本固定化触媒はC–Nカップリング反応においてSi–IPr–Pd錯体触媒並みの高活性を発現し,かつ反応後ろ液中における残留Pd量は検出限界以下(<1 ppm)であった。
石油化学製品に多く含まれるC–H結合等の不活性結合の切断変換による高選択的なC–C結合の生成は,天然物や医薬品など複雑な炭素骨格を一気に効率よく構築できる魅力的な手段である。一方,遷移金属の中でもルテニウムは潜在的に高いC–H結合活性化能を有することが知られている。本論文では,ルテニウムを酸化セリウムあるいは酸化ジルコニウムに担持した触媒(Ru/CeO2あるいはRu/ZrO2)の優れた触媒性能について紹介する。本触媒は安定なC–H結合の切断を経るC–C結合生成反応など種々の分子変換反応に対し,均一系触媒を上回る,あるいはそれに匹敵する活性を示し,かつ反応後は再生利用可能,金属の生成物への混入がほとんどないなどの優れた環境調和性能を示す。さらに,均一系のルテニウム錯体触媒による芳香族カルボン酸や芳香族アミドに含まれる不活性なC(sp2)–H結合のアルキン,アルデヒド,ケトン,イミンなどへの付加環化反応を利用した複素環化合物の一段階構築手法についても併せて紹介する。
我が国の製油所における重質油の分解は,残油流動接触分解(RFCC)装置が中心に行われている。また,国際海事機関による規制により,船舶用燃料(LSFO)の硫黄濃度を0.5 wt%以下に低減しなければならない。そのため,残油脱硫(RDS)装置は過酷な運転が強いられる。本研究では,溶剤脱れき(SDA)装置から得られた脱れき油(DAO)を処理するRDS触媒システムを開発した。本技術は,減圧残査油(VR)からRFCC原料とLSFOを同時に製造でき,製油所のフレキシブルな運転に寄与できる。VRはバナジウムやニッケルを多く含んでいる。SDAは触媒劣化を引き起こすバナジウム,ニッケル等の重質金属の低減が可能である。しかし,DAO中の金属化合物は反応性が高いがゆえ脱メタルされて触媒に堆積しやすく,常圧残査油の場合よりも触媒劣化が速い。これに対処するため,DAO処理に特化したRDS触媒システムを開発した。その結果,RDSでのメタル劣化を抑制し,かつ窒素分の低減によるRFCC転化率の向上が可能となった。
N-ヘテロ環状カルベン(NHC)骨格の4位に電子供与性の高いMe3Si-基を導入した配位子を用いて,ルテニウムカルベン錯体[Cl2(Cy3P)(4-Me3Si-IPr) Ru=CHPh] (錯体触媒1, IPr = 1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン)を新規に合成し,NMRを用いて分光学的に化合物を同定した。この錯体触媒1について,ジエチルジアリールマロネートの閉環メタセシス反応で触媒性能の評価を行った。錯体触媒1の触媒性能は市販の第一世代グラブス触媒 [Cl2(Cy3P)2Ru=CHPh] を大きく上回るとともに,文献既知のMe3Si-基を持たない無置換NHCを配位子とする第二世代グラブス触媒 [Cl2(Cy3P)(IPr)Ru=CHPh] と同等以上の触媒活性を示した。
CeO2を担体とした一連のPt系二元金属触媒 (Pt3M/CeO2, M = Bi, Ga, Ge, In, Sn) を調製し,電場下でのメタン非酸化カップリングにおいて300℃という比較的低温領域にてその触媒性能を試験した。単金属Pt(Pt/CeO2)およびPtをGeまたはInで修飾した触媒(Pt3Ge/CeO2,Pt3In/CeO2)では反応はほとんど進行しなかったが,PtをSnまたはBiで修飾した触媒(Pt3Sn/CeO2,Pt3Bi/CeO2)では,エタンおよびエチレンの収率が大きく向上し,Ptのみの場合に比べそれぞれ100倍,70倍に向上した。またこれらの触媒ではプロパンとプロピレンの生成も少量確認された。単位電力当たりの触媒活性で比較すると,Pt3Bi/CeO2はPt3Sn/CeO2に比べ2.4倍の活性を示しただけでなく,オレフィン含有量も高かった。