C4留分を含む低級アルカンの酸化的脱水素反応(ODH)に対して,VあるいはV–Mg系複合酸化物触媒が高い活性を示すことが既に報告されている。そこで本稿では,V–Mg系複合酸化物触媒へのAl2O3,Fe2O3やCo2O3などの金属酸化物の添加を試み,気相酸素存在下ならびに非存在下での1-ブテン(1-C4H8)のODHに対する効果についてまとめた。Co2O3を添加したV–Mg–Co触媒が気相酸素非存在下で最も高いブタ-1,3-ジエン(BD)収率22.5 %を与えた。また,気相酸素存在下での反応においても,600分間比較的高いBD収率17.5 %を維持した。さらに,1-C4H8と18O2を用いたパルス反応により,触媒の格子酸素の高い反応性が気相酸素存在下においてもODHに影響を与えることが示唆された。
水素化反応に対する金属間化合物の触媒作用について,純金属との選択性の違いを中心に検討した。金属間化合物そのものの触媒特性を明らかにするため,目的化合物の単一相からなる触媒を調製した。水素分子の活性化に対しPt3TiはPtより高活性を示した。アルキンの部分水素化に対しては,多くの金属間化合物が金属単体より高いアルケン選択性をもつことが明らかとなった。1,4-ヘキサジエンの水素化においてRhBiは,内部C=Cと比べ末端C=Cを優先的に水素化する高い位置選択性を示した。ジフェニルアセチレンの水素化において,部分水素化能をもつPd3Biと異性化能をもつRhSbを組み合わせることにより,trans-スチルベンを高収率で得た。さらに,p-ニトロスチレンの水素化においては,RhPb2が高い官能基選択性を示し,ニトロ基のみが水素化されたp-アミノスチレンを高収率で与えた。単金属との選択性の差について金属間化合物表面の規則的原子配列を基に考察した。
世界の廃プラスチック排出量は増加の一途をたどっており,リサイクルに対する期待や需要が大きな高まりを見せている。その背景では,Sustainable Development Goals(SDGs),欧州のサーキュラーエコノミー,プラスチックによる海洋汚染問題,中国を始めとするアジア各国の廃棄物輸入規制本格化などが大きな影響を及ぼしている。国内では,2019年5月より国家戦略としてプラスチック資源循環戦略が掲げられ,マイルストーンとして2030年までにワンウェイプラスチックを累積25 %排出抑制すること,2030年までに容器包装プラスチックの6割をリユース · リサイクルすること,2035年までに使用済プラスチックを100 %リユース · リサイクル等により有効利用することの達成を目指している。よって,プラスチックリサイクルを促進するための研究 · 技術開発およびそのための社会システムの基盤整備が極めて重要となっている。今後プラスチックのリサイクル量を大きく増大する上で,著者らは,熱分解法により廃プラスチックを化学原料に戻すケミカルリサイクル(フィードストックリサイクル)が,有力な技術になると期待している。本総説では,まず国内外のプラスチックリサイクルを取り巻く状況について整理した。続いて,ポリオレフィンの熱分解法によるケミカルリサイクル,特に熱分解装置開発および触媒を用いた熱分解生成物の高付加価値化に関する研究に焦点を当て研究開発動向を整理した。併せて,著者らが現在進めているケミカルリサイクルのプロジェクトを一例として紹介する。最後に,マテリアルフロー分析により,日本国内における廃プラスチックの樹脂別および産業別の排出源を調査した結果を紹介し,本総説で対象としたポリオレフィンの発生源について考察する。
含浸法により調製したNiO/γ-Al2O3触媒を用いたジメチルスルフィド(以下DMS)の分解反応プロセスにおけるNi種の微細構造変化の検討を行った。調製触媒の焼成および硫化条件が触媒性能に影響を及ぼした。反応前に行う硫化処理として,H2Sで硫化した場合の方がDMSで硫化した場合と比較して分解性能が高くなった。XRD,XPS分析から活性点はNiSであることが類推された。さらに,硫化処理前後のNi種の微細構造変化をin-situ XASにより分析した結果,500 ℃焼成触媒ではNi種がNiOとNiAl2O4として約4 : 6の比で存在しており,硫化処理によって主にNiOがNiSへと硫化され,DMS分解反応の活性点となることが明らかとなった。一方,800 ℃焼成触媒ではNi種がほぼすべてNiAl2O4として存在していた。そのため,硫化後に活性点であるNiS成分の生成量は少なく,800 ℃焼成触媒のDMS分解性能は低かった。
近年,石油生産および精製のプロセスにおいて,マイクロ波照射による解乳化が,水相のみの選択的加熱と界面での局所加熱の両方の特性から提案されている。ただし,そのメカニズムは完全には理解されていない。本研究では,異なる界面活性剤濃度の条件で,マイクロ波照射中および照射後の液液界面の張力を測定した。界面張力の経時変化によると,界面でのマイクロ波吸収によるエネルギー集中のため,張力の急激な増加が見られた。その界面改質のレベルがエネルギー集中に関する我々が提案の無次元数から議論され,水分子と界面活性剤の極性置換基の両方の回転によって,界面活性剤の脱着が引き起こされたと考察した。今後,マイクロ波はエマルジョンの新たな解乳化手法として期待できる。
近年,水素化プロセスにおいて,Pd系触媒に代わり,NiZn金属間化合物が注目されている。結晶性の良いNiZn金属間化合物の取得には,前駆体ZnOの難還元性のため,高温処理(500~750 ℃)が必要となる。しかしながら,高温処理を行ってもNiZn金属間化合物の単一相を得るのは困難であり,NiZnとNiが共存する結果を示す報告が多い。本研究では,より低温でNiZn金属間化合物の単一相を得ることを目的に,LiCl–KCl混合溶融塩中でCaH2還元剤を用いた合成手法を検討した。溶融塩中で合成するメリットは,難還元性酸化物の還元を阻害する酸素 · 水分がない最適な合成条件を生み出せることにある。得られた粉末のXRD測定の結果より,不純物相は観測されずNiZn金属間化合物の単一相のみが観測された。水素流通下あるいはアルゴン流通下の両合成条件において単一相のNiZnが得られたことから,CaH2が還元剤として作用していることが示唆された。算出した結晶子サイズは26.9 nm,BET表面積は6.6 m2/gであった。SEM観察から,ナノサイズの粒子の存在が明確に示された。EDSとXPS測定の結果より,サンプルに含まれるCaやLi,Kの割合は微々たるものであり,NH4Cl水溶液によるポスト洗浄処理によって不純物が適切に除去されることが示唆された。結論として,ZnOの熱力学的安定性のために通常の水素還元処理では不可能な360 ℃(LiCl–KCl溶融温度近傍)という低温条件下において,単一相のNiZn金属間化合物ナノ粒子を得ることに成功した。低温溶融塩中でCaH2が優れた還元剤として作用することが示された。
CO2とH2の混合ガスから一段でのジメチルエーテル(DME)合成を目的として,Cu系触媒とゼオライトの混合触媒の触媒性能を評価した。非晶質ジルコニアを担体とした担持銅触媒(Cu/a-ZrO2)とFER型ゼオライトの混合触媒は,CO2水素化に用いられるCu/ZnO/Al2O3とFER型ゼオライトの混合触媒よりも高いDME収率を示した。非晶質ジルコニアを担体とすることで,副反応であるCO生成が抑制されるため,高いDME収率を示したと考えられる。また,FER型ゼオライトはメタノール脱水に有効な酸点を有しており,これらの混合がCO2から一段でのDME合成に有効であることが示された。反応圧力1.0 MPa,反応温度230 ℃の条件でのDME選択率は,その条件での平衡組成である40 %に近い値を示しており,Cu/ZnO/Al2O3との混合触媒よりも約2倍のDME生成量を達成した。
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