Cu/ZnO触媒上での二酸化炭素の水素化によるメタノール合成における活性種,ZnOの役割および反応機構を触媒化学および表面科学的手法を駆使して研究を行った。Cu/SiO2およびZnO/SiO2の物理的混合触媒を用いた研究から,Cu表面に金属状態のZnがマイグレートして活性点を形成するモデルを提案した。この活性点モデルを表面科学的手法により検証した。Cu(111)単結晶にZnを蒸着することでCu/ZnO触媒のモデル触媒表面を作製し,活性点構造,Znの役割および反応機構について詳細に検討した。その結果,Cu/ZnO系触媒上でのメタノール合成における活性点はCu–Zn表面合金であり,Znの役割は反応中間体のフォルメート種の水素化の促進であることを明らかにした。さらに,これらの発見に基づいて,触媒性能の改善と触媒プロセスの開発を検討した結果についても説明する。
不飽和アルデヒドから不飽和アルコールへの選択水素化における触媒性能のさらなる向上には,不均一触媒における活性点構造を深く理解する必要がある。SnPt二元系触媒では,合金を形成するSn金属が選択性に強く影響を及ぼす重要な要因の一つと考えられている。本稿では,Sn/Pt原子比が異なる担持および非担持のSnPt二元系触媒上でのクロトンアルデヒドの水素化反応におけるSnxPty合金構造と触媒性能の関係について解説する。SnPt二元系触媒調製時のSn/Pt原子比が同じでも,調製方法の違いにより異なる合金相が形成した。本研究では,Sn1Pt3,Sn1Pt1,およびSn2Pt1合金の形成を確認し,いずれの合金もPt金属より高いクロチルアルコール選択性を示した。共含浸および逐次含浸で調製した担持触媒およびポリアルコール還元法で調製した非担持触媒のいずれにおいても,Sn1Pt3合金構造からSn1Pt1合金構造に相変化するに従ってクロチルアルコールの選択率が向上した。また,さらにSn含有量が多いSn2Pt1合金構造が触媒上に形成するとクロチルアルコールの選択率が低下した。不飽和アルデヒドの水素化反応においてSn1Pt1合金構造が不飽和アルコールの形成に最も有効な合金構造であった。
燃料をガス化させて合成ガスに変換し,発電や水素など広範に利用できるガス化技術が注目されている。二塔式流動層ガス化炉では,燃料を水蒸気によりガス化させる。ただし,1073~1173 Kで運転するため,合成ガス中にタールが生成し,触媒改質塔のようなタール処理塔が必要となる。その最適な設計にはタールの成分を明らかにすることが重要である。本研究では,実験室規模の流動層ガス化装置により,埋蔵量が豊富な褐炭を1123 Kでガス化させ,供給する水蒸気量を広範に変化させた場合のタールの成分を明らかにすることを目的とした。結果として,水蒸気供給量が増加するにつれ,改質効果によりタール濃度は減少した。また,運転中の水素や一酸化炭素のガス分析結果から,ガス化炉へ供給する水蒸気量により得られる合成ガス中のタール濃度をリアルタイムに予測する手法を提示した。タール成分においては,ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)や電界脱離質量分析(FD-MS)など複数の分析装置を組み合わせて解析した結果,主成分は置換基のない多環芳香族炭化水素からなることが分かった。水蒸気を化学量論的ガス化に要する量の3倍まで過剰に与えても,その成分に大きな変化はないことを明らかにした。
固体酸触媒を用いて,クロチルアルコール(2-ブテン-1-オール)の脱水による1,3-ブタジエン製造を検討した。市販のシリカアルミナにより,クロチルアルコール転化率とブタジエン選択率がともに95 %に達したものの,急激な触媒活性低下が観測された。活性低下した触媒は150~200 ℃という低温処理で再生できることから,触媒劣化の原因はコーク生成というより反応中に生成した水の吸着によると思われる。活性低下した触媒の分析から,Al–O–Alの加水分解でのA–OH形成により,触媒表面の親水性が高まり,水吸着が促進され,結果としてクロチルアルコールの吸着が阻害されたと考察した。触媒のキャラクタリゼーションから,この反応にはシラノール基およびアルミナ領域が少なく,Si/Al比の低いシリカアルミナが好ましいことが分かった。
近年,高温高圧水技術(以下,水熱分解法)が様々な分野で利用されており,アスファルトの回収技術への応用も提案されている。本研究では,物理的性状,化学的性状および動的粘弾性状から,劣化したアスファルトに対する水熱分解の回復効果を確認した。その結果,まず反応温度350~360 ℃,反応時間15分程度の水熱分解後のアスファルトは,針入度,軟化点,伸度の物理的性状において,大きな回復効果を示した。また,異なる構成成分比率のアスファルトにおいても,水熱分解法により物理的性状が同程度の回復傾向を示した。次に,化学的性状において水熱分解後のアスファルトは,水熱分解法の有する溶媒,熱分解,加水分解の相互作用により,劣化により蓄積した高分子が低分子化し,従来の再生方法では減少しなかった酸化度合いの減少が確認された。さらに,動的粘弾性状において,水熱分解後のアスファルトは,疲労ひび割れ抵抗性および耐流動性が新規アスファルトと比較して向上しており,再生加熱アスファルト混合物への利用の可能性を示唆した。
メタン水蒸気改質(SMR)反応を0.1~2.0 wt% Pt/α-Al2O3触媒を用いて10 ppmのジメチルスルフィド(DMS)を含む条件と含まない条件で行った。DMSを含む場合は初期に劣化が生じるが失活には至らなかった。DMSの供給を停止すると活性は完全に元に戻った。DMSを含むガスの場合は1.0~2.0 wt% Pt/α-Al2O3触媒上のPtはシンタリングして炭素析出を促進した。このシンタリングと炭素生成挙動はSMR反応と無関係であった。一方,Pt担持量が0.1 wt%だと炭素析出は起こらなかった。これらの結果からPt/α-Al2O3触媒上には三つの活性サイトが形成されたと考えた。一つ目はDMSの影響を受けない活性点,二つ目はDMSにより活性を失うがDMSの供給を停止すると完全に再生する活性点,三つ目はSMRの活性点ではなくシンタリングしたPtがメタン分解を促進して炭素を生成する活性点である。
修飾Pd/MOFを触媒としてトランス-1-フェニル-1,3-ブタジエンの位置選択的な水素化を65 ℃,5.0 MPaの水素圧力(ゲージ圧)下の液相で検討した。MIL-101構造の金属-有機構造体MOF–CrはCr3+をコーナーのカチオンとし,カチオンをつなぐリンカーにテレフタル酸を用いて調製した。MOF–Crと基本的に同じ構造を有するNO2–MOF–Crにはリンカーとしてニトロテレフタル酸を用いた。コア-シェル構造のMOFは,NO2–MOF–CrをコアのMOFとし,これをシェルのMOF–Crで覆った。コアのMOF中のニトロテレフタル酸のニトロ基を還元して得られたアミノ基は,Pdを担持するために不可欠であった。PdはコアのMOFにのみイオン交換で担持された。MOF–Cr,あるいはコア-シェル型MOF–Crに担持されたPd触媒では,基質の二つの脂肪族C=C二重結合のうち,内部の二重結合が選択的に水素化された。一方,コア-シェル構造,かつt-ブトキシカルボニル(t-Boc)で修飾したMOFに担持されたPd触媒では,立体的効果のため末端のC=C二重結合が選択的に水素化された。
異なるアニオンを有するピリジニウム系およびイミダゾリウム系のイオン液体を合成し,アカマツからのリグニンの抽出を行った。各イオン液体中での抽出リグニンの解重合反応性と回収率に基づき,N-アリル-ピリジニウムクロリド([Apy]Cl)をアカマツからのリグニン抽出に用いた。セルロースはアカマツのイオン液体溶液からメタノールを用いて回収し,リグニンは水とアセトニトリルを用いて回収した。アカマツからリグニンの最大回収率は98.7 wt% に達した。
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