統合失調症関連遺伝子の多くがグルタミン酸伝達に関与することより,グルタミン酸作動性シナプスは,本症における重要なシグナル伝達経路の1つと考えられている。われわれは,統合失調症関連遺伝子として有力な遺伝子の1つである DISC1(Disrupted-In-Schizophrenia-1)のグルタミン酸シナプスにおける機能を解析し,DISC1ノックダウンは短期的にはhyper-glutamatergic 状態を惹起する一方で,その後にグルタミン酸作動性シナプスの著明な減少およびhypo-glutamatergic 状態になることを見出した。これらの所見は,ヒトサンプルを用いた臨床医学的所見とも一致し,すなわち,脳画像検査による本症患者の縦断的な追跡によっても,疾患前駆期/病相早期における hyper-glutamatergic 状態が,その後のhypo-glutamatergic状態へ推移する病態の変化と良く符合する。統合失調症の前頭前野シナプス密度の減少は度々追試されており,前頭前野のシナプスを保護することが発症防止および症状の軽減に関与するというシミュレーションも報告されている。そこで,われわれは,初代大脳皮質神経細胞へのDISC1ノックダウンを病相初期の病態生理(hyper-glutamatergic 状態)の 1つの細胞モデルとして使用し,シナプス保護作用のある低分子化合物をスクリーニングし,グルタミン酸シグナルの下流分子として機能するキナーゼ阻害剤のいくつかが,有意にシナプス保護作用を有することを見出した。本稿では,病因としてのグルタミン酸シナプスについて概説し,グルタミン酸伝達上の druggableな因子を標的とした新たな治療戦略の可能性について考察する。
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