日本生物学的精神医学会誌
Online ISSN : 2186-6465
Print ISSN : 2186-6619
24 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 岸本 年史
    2013 年 24 巻 2 号 p. 79
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
  • 田中 沙織
    2013 年 24 巻 2 号 p. 80-88
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    脳の複雑な機能の解明には,物質や回路の働きについての数理モデルを仮定し,それを実験的手法で検証する「計算論的神経科学」のアプローチが有効であることは近年神経科学のみならず,臨床や経済学といった様々な分野に広く浸透してきた。その中でも,ドーパミン,セロトニンなどの神経修飾物質の役割を記述する数理モデルは,予測と意思決定の脳の機能解明には不可欠であり,数理モデルに関する検証実験が盛んに行われている。予測と意思決定に関するドーパミンの代表的な数理モデルとして,強化学習理論における「予測誤差」が挙げられる。また予測と意思決定に関するセロトニンが関与する機能の1つとして,「衝動的選択」が挙げられる。これは,将来的に大きな報酬が得られる行動よりも,即時的に少ない報酬を得られる行動を選んでしまうことであり,ラットのセロトニン経路の破壊で,衝動的選択が生じたことが報告されている。これらの実験から,セロトニンが遅延報酬に対する価値の割引(時間割引率)に対応するというモデルが提唱されている。本稿は,強化学習理論をもとに,ドーパミンおよびセロトニンの機能モデルの紹介と,それを検証した一連の研究のレビューである。
  • 榎本 一紀, 松本 直幸, 木村 實
    2013 年 24 巻 2 号 p. 89-94
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    絶え間なく変化する自然環境のなかで,雑多な情報から必要なものを判別し,過去の経験や現在の状況に照らし合わせて,将来の目標を見据えた最善手を打つことは,人間やその他の動物にとって,配偶者や食料,金銭などの報酬を効率よく得るために,また,危険や損失を回避するために必須である。ドパミン細胞は中脳の黒質緻密部,腹側被蓋野などに集中して存在し,線条体や前頭葉,大脳辺縁系などの広範な脳領域に投射しており,報酬を得るための意思決定や行動選択に関わる神経システムにおいて,重要な役割を担っている。過去の研究から,ドパミン細胞の活動は,刺激の新規性や,動機づけレベルなどと同時に,報酬価値情報を反映することが報告されている。ドパミン細胞は条件刺激に対して放電応答を示して,期待される報酬の価値を表現し,また,強化因子に対する応答は報酬の予測誤差を表現する。最近,筆者らはニホンザルを用いた研究によって,ドパミン細胞の活動が,学習によって,長期的な将来報酬の価値を表現することを明らかにした。この研究では,サルに複数回の報酬獲得試行を経てゴールに到達することを目標とする行動課題を学習させ,課題遂行中のドパミン細胞の活動を電極記録した。ドパミン細胞は,条件刺激(各試行の開始の合図となる視覚刺激)と,正または負の強化因子(報酬獲得の有無を指示する音刺激)に対して応答し,その応答の大きさは,目前の1試行だけの報酬価値ではなく,目標到達までの,複数回の報酬価値を表現していた。これらの活動は,強化学習理論に基づく一般的な学習モデルによって推定した報酬予測誤差(TD誤差)によってよく説明できた。また,このような報酬価値の表現は課題の学習初期には見られず,課題の構造に習熟してはじめて観測できることが確かめられた。以上のことから,ドパミン細胞は長期的な将来報酬の情報を線条体や前頭前野などに送ることで,意思決定や行動選択を制御していると考えられる。この結果は,目先の利益にとらわれず,目標に向かって意志決定や行動選択を行う脳の作動原理解明につながることが期待される。
  • 宮崎 勝彦, 宮崎 佳代子, 銅谷 賢治
    2013 年 24 巻 2 号 p. 95-100
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    セロトニン神経系による予測と意思決定の制御機能の1つとして衝動性との関わりが考えられる。これまでの研究から,中枢セロトニン神経系は将来起こりうる罰・嫌悪の予測に基づいて動物の行動を抑制することに関与することが示されている。行動抑制の障害は衝動性の亢進を引き起こすと考えられる。しかしながら,これまでの研究からセロトニンの関与が示された衝動性の中には,セロトニンの嫌悪刺激に基づく行動抑制としての働きで説明が困難なものも存在する。我々のグループはラットを用いた実験から,遅延報酬を獲得するための待機行動にはセロトニン神経活動の活性化が必要であることを見出した。我々は報酬獲得の目的のために辛抱強く待つことを「報酬予期に基づく待機行動」と定義し,セロトニン神経は「報酬予期に基づく待機行動」と「嫌悪予測に基づく行動抑制」の両方に関与しているという仮説を提案する。
  • 酒井 雄希
    2013 年 24 巻 2 号 p. 101-105
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    小さな即時報酬と大きな遅延報酬の選択(異時点間の選択問題)において,前者を過度に頻繁に選ぶ「衝動的選択」は衝動性をとらえる指標の1つとされ,前頭葉や線条体といった脳領域の障害やセロトニン機能低下で引き起こされることが知られている。近年,計算モデルを用いた機能的MRI解析によって,線条体・島皮質において,腹側が衝動的な短期報酬予測に関与し背側が長期報酬予測に関与すること,セロトニン濃度が低いときは短期報酬予測に関連した腹側の活動が優位となることが明らかとなり,衝動的選択の神経基盤として注目されてきた。 一方で,様々な精神疾患において前頭葉─線条体回路の障害・セロトニン機能障害の関与を示唆する知見が集積してきているが,その包括的理解は進んでいない。本稿ではセロトニン機能障害を背景とした前頭葉─線条体回路の機能変化と衝動的行動選択といった観点から,様々な精神疾患の理解が深まる可能性を示す。
  • 池中 一裕
    2013 年 24 巻 2 号 p. 107-110
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    従来,白質は神経軸索の通り道でしかなく,神経細胞体で生じた情報を正確に伝える機能を担 っているに過ぎないと考えられてきた。しかし,①軸索の髄鞘形成後もオリゴデンドロサイトが活動依存的に神経情報伝導速度を調節し,②統合失調症等,精神疾患の病態に白質の障害が関与する証左が得られ,現在,白質の機能を根本的に再考すべき時期に至っている。これまで,白質変性疾患は脱髄疾患が主たるもので,治療法も開発されているが,その知見は精神疾患の病態解明に活かされていない。本総説では,脳領域各部の情報を統合する場として白質の機能を軸索・グリア相互作用を介して明らかにし,その破綻としての病態を学際的に検討したい。
  • 牧之段 学, 岸本 年史
    2013 年 24 巻 2 号 p. 111-116
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    脳の発達には遺伝と経験が関わっている。経験が脳機能へ与える効果についての多くの研究は,脳の主役であるニューロンに焦点があてられている。しかしながら最近の研究によれば,これまで脇役であると考えられてきたグリア細胞も重要な役割を果たしていることが示されている。我々はグリア細胞の中でも特にミエリンを形成するオリゴデンドロサイトが,①社会的経験に応答し,②その反応が脳機能に大きな影響を与える,ことを明らかにした。そしてそれらの反応は前頭前野に特異的であった。これらの結果と他グループが報告した知見を踏まえ,昨今患者数が増加している,前頭前野機能が障害される注意欠如・多動性障害や広汎性発達障害の病態につき論じた。
  • 溝口 義人, 門司 晃
    2013 年 24 巻 2 号 p. 117-122
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/02/16
    ジャーナル オープンアクセス
    ミクログリアは中胚葉由来の免疫担当細胞で,感染や組織損傷などに応答し活性化すると,貪食能を獲得し,炎症性サイトカイン等の細胞障害因子やBDNFを含む神経栄養因子を産生放出する。最近は,ミクログリアが細胞外環境を積極的に監視して,神経炎症のみではなく,神経回路形成や神経可塑性など脳機能の恒常性維持にも関与すると報告されている。またミクログリア活性化はうつ病や統合失調症など様々な精神疾患,とくに急性期における関与が指摘されており,向精神薬によるミクログリア活性化抑制作用の細胞内機序としては,細胞内Ca2 +シグナリングが重要な役割を担う可能性が高い。また種々の精神疾患への関与が指摘されるBDNFもミクログリア活性化において重要な役割を担っており,今後BDNFの前駆体であるproBDNFによるミクログリア活性化の制御機序を,とくに細胞内Ca2+シグナリングに着目して解明することが重要である。
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