アロイス・アルツハイマーが1906年に報告したオーギュスト・データーは40代に嫉妬妄想をはじめとした精神症状から発症し,その後,記憶障害,失語,視空間障害といった認知機能障害を呈した。現代においてアルツハイマー病における精神病症状はある程度認知機能障害が進行した後に出現し,認知機能障害の周辺症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)と考えられている。これまでのアルツハイマー病における精神病症状に関する研究は,認知機能障害が進行した例を主として対象にしてきていた。一方で,近年のコホート研究では老年期初発の精神病症状が認知症発症のリスクとして報告され,死後脳研究においてもタウオパチーやシヌクレオパチーが老年期精神疾患でみられるという報告がある。本稿ではこれらの先行研究についてレビューするとともに,筆者らのグループで行っている老年期精神疾患患者を対象としたアミロイド・タウPET研究の試みについても触れる。