陸水学雑誌
Online ISSN : 1882-4897
Print ISSN : 0021-5104
ISSN-L : 0021-5104
58 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 河合 幸一郎, 粕谷 志郎, 村上 哲生, 今林 博道
    1997 年 58 巻 2 号 p. 145-156
    発行日: 1997/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    底質から羽化する雄成虫及び灯火に集まる雄成虫を採集して同定する方法により,長良川下流域のユスリカ相を調べた。その結果,計72種547個体の雄成虫が得られた。底質羽化法の場合,5月から6月にかけて明らかな出現ピークが見られた。また,河口から遠い定点ほど多くの種が記録された。灯火サンプルの場合,6月と9―11月の2回の出現ピークが見られた。幼虫の分布する範囲は種間で明らかに異なっていた。すなわち,Cryptochironomus albofasciatusは全ての定点で採集された。底質採集の主要18種のうち14種は河口から20km以上上流の定点からのみ採集され,河床環境においては15-20kmの間に淡水種にとっての塩分バリアーが存在することが示唆された。また,幼虫の季節的な出現についても種間で明らかな違いがみられた。例えば,Polypedilum masudaiとP. cultellatumは,それぞれ春から夏と夏から秋のみ出現した。また,Paratendipes albimanusは底質採集によってのみ,Smittia aterrimaは灯火採集によってのみ記録され,これは,前者の雄成虫の走光性が弱いこと及び後者が陸生種であることに起因すると考えられた。
  • 下田 路子
    1997 年 58 巻 2 号 p. 157-172
    発行日: 1997/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    広島県東広島市西条盆地のため池において,水草群落の種組成や種の分布と池の環境との関係を検討した。典型的な農村のため池の事例として,水草群落の発達が良好で環境が異なる複数の池が隣接している3ヶ所(地点A,B,C)を選び,計21個の池で植生を調査し,表水のpHと電気伝導度を測定した。また,池の環境の極端な変化に伴う植生変化の事例として,小池(地点D)と呼ばれる池の植生変化を示した。
    伝統的な管理により水田の潅漑に利用されている3ヶ所,21個の池では,集水域が山林の池にはジュンサイーヒッジグサ群落,集水域が山林と水田の池にはヒシージュンサイ群落,集水域が水田や住宅地である池にはヒシ群落が見られた。池に生育する水草の種数は1-8種であった。種数が多い池(5~8種)は,山間や山麓にある面積が狭く伝導度が17.1-50.6μScm-1の池であった。21個の池で生育を確認した16種の水草のうち,ジュンサイ,ヒシ,ベニオグラコウホネは,伝導度が低い水域から高い水域まで分布し,また優占種となるのはこれら3種であった。その他の種は,伝導度が50μScm-1以下の水域に生育するものが多かった。これらの種は優占することはまれであるが,池の水草相を豊かにしている。
    環境変化に伴い植生が変化した小池は,かつては山裾にありジュンサイーヒツジグサ群落が発達する農村の典型的なため池の一つであった。池と接する舗装道路の建設と周囲の土地開発に伴い,水草群落の種数の減少と構成種の変化が生じた。水草群落はジュンサイーヒツジグサ群落からヒシージュンサイ群落を経て,構成種が完全に入れ替わったヒシ群落となった。
    小池の環境変化に伴う時間的な植生変化は,上記のA―C地点における山間・山麓の池から水田地帯の池への空間的な植生配分と極めて類似している。両者の類似性は,水草の分布が水質に影響されることを示している。水草群落の種組成は,隣接する池や環境条件が似た池でも異なることから,それぞれの種の分布は,水質の他に,偶然による散布,種間競争,アレロパシー,水生動物,底質,池の歴史などの様々な要因にも影響されるものと考えられる。
    農村地帯のため池は,水生・湿生の動植物の生息地として貴重な存在である。池の生物相を保全するには,集水域を含めた保全により,水質を維持することが必要である。
  • 琵琶湖の沈水植物群落に関する研究(3)
    浜端 悦治
    1997 年 58 巻 2 号 p. 173-190
    発行日: 1997/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    1961年以来琵琶湖に侵入し繁茂を続けているコカナダモについて,現存量が大きく異なった1988年と1989年に,塩津湾の水深3mと5mとに調査区を設け,刈り取り調査を行った。さらに1990年にはソナーを用い,群落の分布域を調べた.1989年と1990年はコカナダモの大発生が見られた年であった。1989年の最大現存量と茎密度はそれぞれ723gdry wt.m-2と4,960本m-2となり,特に浅い3m区で前年に比べ大きな増加が見られた。
    1990年の琵琶湖全域でのコカナダモ群落の推定面積は895haにのぼった。暖冬でしかも春に十分な日射がある年に,コカナダモの大発生が起こると考えた。
  • 土谷 岳令, 田中 亘, 生嶋 功
    1997 年 58 巻 2 号 p. 191-196
    発行日: 1997/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    マコモの光飽和純光合成速度は,抽水植物にしては比較的は小さい値を示した。光強度が強く光合成を律速しない場合,大気一葉内飽差はリーフコンダクタンスの制限要因となったが,非常に高い光合成能をもつ他の抽水植物とは違って純光合成速度を律速するまでには至らなかった。
  • 角野 康郎, 中村 俊之, 鈴木 武
    1997 年 58 巻 2 号 p. 197-203
    発行日: 1997/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    南米原産のオオカナダモと北米原産のコカナダモは,現在までに北海道をのぞく日本各地に分布を広げている。両者の侵入や分布拡大の経路を明らかにする研究の一環として両種の遺伝的変異を酵素多型を用いて解析した。その結果,オオカナダモ44集団,コカナダモ26集団について調査した5酵素7遺伝子座における変異は認められなかった。これは日本各地に広がっている両種の集団がそれぞれひとつのクローンであることを示唆しており,単一の系統が栄養繁殖によって分布を拡大した可能性が高いと結論した。また,このような遺伝的変異の欠如は菌類などの感染に対する抵抗力の低下をもたらすため,各地で観察される群落衰退の要因のひとつとして今後の研究が必要であることにも言及した。
  • 山崎 史織
    1997 年 58 巻 2 号 p. 205-214
    発行日: 1997/06/01
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    マコモの水の深い側の分布限界で,酸素が地上部から地下部へ送られる,という仮定に基いて1つのモデルが作られた。そのモデルから推定される最も大きな地下茎の芽が出芽して,春にこの分布限界の水深が40cmになる時に,それが抽水できるかどうかが検討された。前年の秋に植えつけられたいろいろな大きさの地下茎の芽が,春に40cm水深の水底から抽水できるかどうかの実験も行われた。その結果,大きな地下茎群ほど高い抽水率を示し,地下茎の体積が40cm3以上の最も大きな地下茎群の芽の抽水率は76%だった。1つの地下茎から抽水するすべての地上部と最長の地上部の乾物重は,始めの地下茎の推定乾物重の,各々8.1%と2.1%であり,約24%は,冬の間に失われた。
    これらの結果は,夏にマコモが水の深い分布限界,水深83cmで,マコモの根際茎内の酸素濃度がかなり低く8。2%になった時でも,そのマコモに生ずる地下茎の芽が春に40cmの水深で,充分抽水しうる大きさの地下茎を,生じることができることを示した。
feedback
Top