陸水学雑誌
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71 巻, 2 号
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原著
  • 大高 明史, 神山 智行, 長尾 文孝, 工藤 貴史, 小笠原 嵩輝, 井上 栄壮
    2010 年 71 巻 2 号 p. 113-127
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     湧水で涵養される湖列である津軽十二湖湖沼群・越口の池湖群(北緯40°)で,湖水循環のパターンと底生動物の深度分布を調べた。秋から春までの連続観測により,越口の池湖群には,通年成層しない湖沼(青池,沸壺の池),冬季一回循環湖(落口の池),二回の完全循環が起こる湖沼(越口の池),春の循環が部分循環で終わる湖沼(王池)という,複数の循環型の湖沼が混在していることが示唆された。これには,水温が一定の多量の湧水の流入や,冬期間の結氷の厚さや持続期間,有機物の分解に伴う底層での塩類の蓄積が関連していると推測された.落口の池と王池の底生動物群集の構成や現存量は,溶存酸素濃度に応じて深度とともに明瞭に変化した。酸素が欠乏する深底部上部にまで見られる種類は,イトミミズとユリミミズの2種の貧毛類とユスリカ属の一種など4分類群のユスリカ類で,他の山間の富栄養湖と共通していた。源頭に位置する青池と沸壺の池のふたつを除く7湖沼は,循環型が異なるにもかかわらず,いずれも成層期には深水層で溶存酸素が欠乏し,深底部下部に底生動物は見られなかった。自生的,他生的な有機物の負荷が高いため,成層期に湖底で速やかな酸素消費が起こるためと推測される。
  • 田中 吉輝, 長久保 麻子, 東城 幸治
    2010 年 71 巻 2 号 p. 129-146
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     北米・フロリダ地方原産のフロリダマミズヨコエビは,1989年に日本(千葉-茨城県境の古利根沼:利根川の河跡湖)で初見された外来ヨコエビである。様々な環境への適応性や繁殖力が強く,現在まで,急激に分布を拡大し,日本広域に棲息している。在来の淡水ヨコエビ類が棲息しないような新しいハビタットにも侵入・定着し,また在来ヨコエビ類の棲息ハビタットへも侵入している。本研究では,在来種のオオエゾヨコエビが棲息するハビタットに外来種フロリダマミズヨコエビが侵入・定着した,長野県安曇野市の蓼川を調査地として,年間を通したそれぞれの個体群動態を調査した。同所的に棲息してはいるものの,棲み場所として利用する沈水植物種レベルでの違いが認められるなど,マイクロハビタット・レベルでのニッチ分割が認められた。また,両種が同所的に棲息することで,それぞれの繁殖時季に若干の相互作用が生じている可能性も示唆された。種間における強い排他性のある競争関係は認められなかったが,これは互いの体サイズに大きな相違があることや,蓼川においては,充分な棲み場環境や餌条件が揃っているためであると考えられる。
  • 小林 草平, 中西 哲, 尾嶋 百合香, 天野 邦彦
    2010 年 71 巻 2 号 p. 147-164
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     河川における瀬の物理特性と底生動物現存量の関係を理解するため,愛知県豊川において流程間(下流から平野部,峡谷部,山間部,山地部)で瀬の物理特性と底生動物群集の比較を行った。河床礫は山間部や山地部の地点で大きかったが,年最大流量で動きうる礫径に対する実際の河床礫径の比は平野部の地点で大きかった。一方,平水時の平均流速は峡谷部と山間部の地点で大きい傾向にあった。年間平均の全底生動物現存量は平野部で最も大きく,次いで山間部で大きかった。摂食機能群別に現存量をみると,付着物食者は平野部,濾過食者は平野部と山間部で大きい一方,捕食者は山間部と山地部で大きかった。底生動物を河床中の生息拠点と移動・固着性を基に河床生息型区分を行うと,平野部で多いのは礫面-固着巣型や礫下砂-固着巣型などいずれも安定した環境を好むグループ,一方,山間部と山地部で多いのは礫間-固着巣型,礫間-自由型など礫間の空隙を利用するグループであった。これらに基づき,底生動物現存量に貢献し群集を特徴づけている瀬の物理特性は,平野部では河床安定性,山間部では礫の大きさに伴う礫間空隙量と考えられた。
総説
  • 早川 和秀, 藤井 滋穂
    2010 年 71 巻 2 号 p. 165-183
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     琵琶湖における塩化物イオン濃度の増加について文献をレビューするとともに,過去の水質定期観測データを収集して統合的な検討を行った。定期調査には,1920年頃からの大阪市と京都市調査による水道水源定期調査データと1960年代からの京都大学や滋賀県の定期観測データがあった。それらの分析方法や誤差,琵琶湖における濃度分布などを検討したところ,大阪市や京都市の観測データは,南湖の平均的な値として読み取ってもよいことが分かった。また,ある程度の精度範囲をとることで有意な増加傾向を見ることができた。琵琶湖水における塩化物イオン濃度の増加は,1920~1930年代と1960年代前半以降で確認された。1920~1930年代は工業排水に由来する増加であると推察され,1960年代前半以降については様々な議論があったが,文献を整理した結果,琵琶湖水における塩化物イオン濃度の増加は集水域からの人為的負荷の増加によるところが大きいと結論された。
短報
  • 阿部 信一郎, 井口 恵一朗, 玉置 泰司
    2010 年 71 巻 2 号 p. 185-191
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     奄美大島を流れる河川には絶滅が危惧されるリュウキュウアユ(Plecoglossus altivelis ryukyuensis)が生息している。本研究では,島内外の住民を対象にアンケート調査を行い,仮想評価法を用いてリュウキュウアユに対して人々が持つ価値を評価した。リュウキュウアユに対する価値は,絶滅を防ぐための費用として支払ってもよいと考える寄付金額により評価し,評価価値と関連する個人の属性をステップワイズ回帰分析により抽出した。その結果,島内では,リュウキュウアユのいる自然環境が子どもの教育に役立っていると考えている人ほど高い価値を感じ,水害を経験した人は価値を低く感じることが分かった。また,島外(鹿児島県および東京都)では,自然保護に関心を持ち,自然の中で余暇を過ごすことを楽しみに感じ,奄美大島を訪れたことのある人がリュウキュウアユの価値を高く評価していた。島内においてリュウキュウアユを保護する機運を高めるためには,水害対策を講ずると共に,奄美大島の自然を生かした教育活動を実施することが重要と考えられる。
  • 水戸 鼓, 荒西 太士
    2010 年 71 巻 2 号 p. 193-199
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/08/25
    ジャーナル フリー
     Corbiculaシジミ属は,貝殻の形態や色彩の個体差が大きく,種分類が混乱している。日本を除くアジアの大陸在来種であるタイワンシジミC. flumineaは,異なる2形態型-殻内面が白色で側歯が紫色の形態型および殻内面が濃紫色の形態型-を呈し,後者は日本の在来種であるマシジミC. leanaとの形態識別が困難である。1987年には国内では初めて岡山県倉敷市内で前者の形態型のC. flumineaが報告されたが,同地域では最近C. leanaと形態的に酷似した個体が増加している。本研究では,2008年9月に倉敷市内の高梁川下流域からC. leana様個体や殻内面が白色のC. fluminea形態型を含む淡水性シジミを採集し,それらの種を分子分類法により遺伝的に同定した。ミトコンドリアDNAの16SリボゾームRNA遺伝子の塩基配列を解読した結果,多様な貝殻形態であるにも拘わらず2種類のハプロタイプしか得られなかった。さらに,多重整列解析および近隣結合系統樹から,両ハプロタイプはC. flumineaであると同定された。以上の結果より,少なくとも1987年以降にはC. flumineaの異なる2形態型が倉敷市内の高梁川水系に移入していることが明らかとなった。
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