陸水学雑誌
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84 巻, 3 号
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原著
  • 芳賀 裕樹, 芦谷 美奈子, 酒井 陽一郎, 石川 可奈子
    2023 年 84 巻 3 号 p. 175-185
    発行日: 2023/09/25
    公開日: 2023/11/20
    ジャーナル フリー

     2022年8月末に琵琶湖南湖の沈水植物の現存量 (乾燥重量) の分布を調査した。沈水植物は52地点中38地点に出現し,平均現存量は37.5 g m-2だった。これらの結果から沈水植物の分布範囲の面積は37.7 km2,総現存量は1936 t と推定された。15種および2属の沈水植物が出現した。クロモHydrilla verticillata が現存量714 tで優占種となり,ササバモPotamogeton wrightii が現存量360 tで第二位となった。2002年から2014年まで優占したセンニンモPotamogeton maackianus は著しく衰退し,最盛期の2014年と比較して現存量は1/100に,出現地点数は半分以下になった。コカナダモElodea nuttallii, オオカナダモEgeria densa, ホザキノフサモMyriophyllum spicatum は減少が著しく,クロモとササバモの減少は軽微で,イバラモNajas marina は増加した。2022年の南湖の沈水植物相は2010年代とは明らかに異なった。

  • 占部 城太郎, 丸岡 奈津美, 榎本 めぐみ, 髙野 (竹中) 宏平, 一柳 英隆, 小黒 芳生, 石郷岡 康史, 中静 透
    2023 年 84 巻 3 号 p. 187-201
    発行日: 2023/09/25
    公開日: 2023/11/20
    ジャーナル フリー

     藻類現存量の指標であるクロロフィルa量は重要な水質要因である。そこで,1990年から2010年にかけて水辺の国勢調査で測定された日本各地に点在する91ダム湖のクロロフィルa量(以下chl-a量)を解析した。その結果,chl-a量は北から南のダム湖に向かって増加し,温量指数との間に有意な正の相関が見られた。この結果をもとに,MRI-CGCM3.0気候モデルを用い,温室効果ガス高排出シナリオRCP8.5下での各ダム湖における将来予測を行ったところ,世紀末までにchl-a量は最大2.2倍,平均で1.5倍増加すると推定された。そこで,chl-a量に対する温度上昇の直接的な影響と集水域の土地利用・被覆の変化を介した間接的な影響を調べた。その結果,間接効果を加味すると,chl-a量に対する温量指数の直接効果は有意とならなかった。この結果は,ダム湖への温暖化影響は,温度上昇による直接的なものではなく,集水域の土地利用や被覆の変化に起因することを示唆している。これら知見から,温暖化に際しては,集水域の土地利用・被覆政策がダム湖の水質保全に特に重要となることを指摘した。

総説
  • 高巣 裕之
    2023 年 84 巻 3 号 p. 203-217
    発行日: 2023/09/25
    公開日: 2023/11/20
    ジャーナル フリー

     有明海の奥西部に位置する諫早湾は,1997年の潮受け堤防の閉め切りにより,湾奥部の約3分の1の面積が海域から分断され,干潟があった湾奥には淡水の調整池が造成された。調整池の窒素・リンや有機物濃度は農業用水の基準値を常に超えており,富栄養化した池水が堤防に設けられた排水門から日常的に諫早湾へと排水されている。本総説では,調整池排水が諫早湾に排出されることで,湾内の物質循環過程にどのような影響が生じ,頻発する赤潮や貧酸素水塊の発生にどのように寄与しているのかを議論する。本総説では特に,赤潮や貧酸素水塊の発生に深く関連していると考えられる,排水によって湾内に負荷される有機物とそれを利用する微生物との相互作用に着目して議論を行った。

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